少女は木刀で失った青春を取り戻す   作:いかるおにおこ

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エピソード3 ゲーム大会開催。裏に渦巻く悪事を斬り裂け!(前)

 ――おい! あいつの銃ぶっ壊してこいよ!

 ――やらなかったら、てめえの姉貴痛めつけんぞ!

 ――聞こえてんのかこら! なんとか言えよクソが!

 

 わかった。だから、姉さんに手を出さないで。おねがい。

 暗い曇り空。道路の少し先に白い服の女の子がいる。黄色い二重の輪、小さな羽根を思わせる形のヘイロー。

 彼女は大切なものを扱うように白い拳銃を握りしめて笑っていた。

 近づいてよく見ればそれはキャラクターものの拳銃だった。銃身とグリップにプリントされたそれを、強引に奪う。

 

 ――なにするの!

 

 女の子の不機嫌そうな訴えを無視して、トリガーを引く。そうしなければ、銃を壊さなければ、姉がもっとひどい目にあうのだから、女の子の声に心を痛めて手を止めるわけにはいかなかった。

 すぐに拳銃は壊れた。内側からの爆発で、拳銃は黒く壊れ、プリントされたキャラクターは無残な姿になった。

 女の子を見れば、強くにらんでいる。にらまれている。壊した拳銃を手渡すと、目に浮かべた涙があふれ、悲痛な叫び声をあげてこの場から離れていった。

 

 ――お前やるじゃねえか!

 ――あーあー! いけないんだ!

 ――クソみたいな妹をもってスイはかわいそうだぜ!

 

 お前らがやれって言ったんじゃないか。お前らが、やれって、言ったんじゃないか! 従わなかったら姉さんをもっと傷つけるって、だから!

 

 

 

 うわあああっ!!

 メイは毛布を蹴っ飛ばして飛び起きた。

 しばらく喉が痛くなるほど叫び続けて、ようやく自分が眠りから目覚めたのだと自覚した。幼かったころの苦い記憶のフラッシュバックだった。

 パジャマが寝汗でべちょべちょで、息苦しいと感じるようになったのは、叫びおわってカーテンを勢いよくあけはなったあとのことだ。

 熱いシャワーを浴びて、簡単な朝食をとろう。それから遊びに出かけよう。今日は休日。ゲームセンターでゲーム開発部のみんなと遊ぶ約束にはまにあいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 すこし肌寒い晴れ、ミレニアムの自治区。

 ミレニアム学園に近い場所に建てられている大きめなゲームセンターの日陰になっているところにメイは立っていた。

 紺色の軽装な着物に袴の姿で、腰には鞘のついた木刀を佩いている、いつものスタイルだった。

 

 やや早めに到着したメイはカバンからスマートフォンを取り出す。モモトークに新着があることに気づき、中身を確認する。モモイからのメッセージだった。

 

〈いま近くの地下鉄の駅に着いたところ! もうすこし待ってて!〉

 

 わかった。私ももう少しで着くところだから。楽しみだね!

 絵文字なんかも使ったりしてメイは返信を終えて、道路の向こう側のビルを眺める。ビルの壁には広告が貼ってあり、どうやらモモフレンズの映画の宣伝らしい。

 目がイってる奇妙な白い鳥――ペロロを前面に押し出したインパクトのあるイラストだ。ペロロを中心に背がめちゃくちゃ伸びている猫やピンクのアルパカがかわいいポーズをとっている。

 ゲーム開発部のみんなは興味をもたなそうだな、なんて考えていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「おーいメイ! 待った?」

「少し前に来たところだよ。みんなに会えてよかった!」

 

 モモイの声だった。彼女の後ろにミドリとアリス、ユズが続いている。

 

「大げさだなあ! それじゃ遊ぼう!」

「うん! 今日のお目当ては?」

「もちろんモモファイターズ3だよ! 新作ゲームはチェックしておかないと、だからね!」

 

 モモファイターズ。確か、モモフレンズのキャラクターたちを題材にした対戦格闘ゲームのシリーズだ。

 キャラクターたちのアニメーションに定評があり、かわいく動くスカルマンや賛否両論の動きを見せるペロロなど、キャラクターたちの動きにメーカーのこだわりを感じさせる――というレビューをメイは思い出した。

 シリーズを重ねるごとにゲームとしての面白さも増していき、モモフレンズ好きの層やゲーマーの層を取り込むことに成功している。らしい。

 

 

 

 

 

 

 ゲームセンターに入り、モモファイターズ3が置かれている階へと移動する。すぐに目当てのゲームは見つかった。多くの数の筐体が用意されていて、練習用と対戦用で別れているらしかった。

 

「沢山のゲームが置いてあります! ここに来てよかったです!」

「すごい人気だね。どこもちょっとした列になってる。アリスちゃん、離れないようにね」

 

 ミドリとアリスは練習用の筐体へとふたりで向かっていく。仲良く手をつないで順番待ちの列に加わって、後ろから楽しそうにモニターを見ていた。

 モモイは対戦用の方に並び、メイとユズが後ろで様子を見守る。短い順番待ちの列で待っているなか、モモイはふふんと自信ありげに息をついた。

 

「いちおう予習はしてきたんだ! 持ちキャラはウェーブキャットにするつもり!」

「あのうにゃうにゃ伸びる猫?」

「だってリーチが長いってすごい有利じゃない? だよね、ユズ!」

 

 そうとも限らないけど、なんて言いたそうな顔をして、話を振られたユズは頷く。きっと格ゲーの心得があるのだ、とメイは感じながら、前の席が空いたのを認めた。

 

「くっそー! あいつ強すぎだろ!」

 

 席を立った猫の客が悔しそうにこぼして去っていく。そんなにうまいプレイヤーが対戦台の向こう側にいるらしい。

 モモイのプレイが終わったら顔を見てみようか。そんなことを考えながらメイは筐体のモニターに視線をむける。ユズもそうしているようだった。

 

「うわっ! ここ割り込まれるの!? 壁際強すぎるってスカルマン! ヤバい!」

「頑張ってモモイ!」

「暴れちゃダメ! しっかりガードしないと…」

 

 後ろでわいわいするのも楽しい。モモイが「ああ~っ」っと壁際で追い詰められて苦戦しているのを応援する。隣のユズも楽しそうに声を出していた。

 

〈スカル~パンチ!!〉

〈にゃー にゃー にゃー〉

「なぁーっ!! 負けたーっ悔しい~!」

 

 スカルマンの超必殺技を受けたウェーブキャットがノックアウトされる。残念そうにモモイがうめいて席を立つ。

 

「ユズ! あとはまかせた…」

 

 バトンタッチしてユズがコインいっこいれる。そのまま乱入対戦となり、ユズはキャラクター選択画面ですこし考えていたようだった。

 ペロロは妙にキャラのバリエーションがあり、ペロロ博士やアイスクリームペロロ、他にも変なペロロが充実しているらしい。

 残り時間が迫るなか、普通のペロロをユズは選んでいた。着ぐるみのバイトでよく目にするからだろうか? そんなことを考えていると、メイが見ていた画面が切り替わって対戦画面になった。

 

「いい勝負してるね」

「ユズとほとんど対等にやるじゃん…相手の人強いよ」

 

 やはりユズは格ゲーが得意らしい。差し合いもうまくやっているし、投げ抜けだってしっかりしている。

 

「うまいね。相手の人も、ユズも」

「なんたってUZQweenだからね…すごいんだよユズは!」

 

 ゆずくいーん――ってあの!?

 大声が出そうになってメイは口を押えた。その名前はゲーマーの間では有名なものだ。格ゲーとリズムゲーでは右に出る者がいないとまで言われる、凄腕のゲーマー。

 そんな有名プレイヤーがユズだったなんて。ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃にくらっとしながら、メイはユズの操るペロロがスカルマンをべろんべろんになめまわすのを見た。スカルマンの体力ゲージが一気に削れていく!

 なめまわし攻撃でダウンをとったペロロは起き攻めにかかってステップ。スカルマンがリバーサルで無敵技を振るが、すんでのところでペロロがガード! 硬直にペロロの超必殺技が刺さる!

 

「おー!」

「やったじゃーん! ユズすごい!」

 

 ペロロにさんざんなめまわされた挙句どつかれてスカルマンがノックアウト。そのままユズがゲームを続けて遊ぶが、向こう側の対戦台に座っていた人物がこちらにやってきた。

 

「あっ…」

「さっきのペロロ、マジで強かった! グッドゲーム!」

「あなたは…?」

 

 どこかで見たことがあった。

 セミロングの金髪の、かわいらしい悪魔の子だった。紺色の小さなヘイロー。後頭部に黒く短いツノがはえていて、人が好さそうに笑っている。

 ややつり目の、黒い半袖に薄い上着。ホットパンツといった出で立ちの、それでいて穏やかそうな少女は、ユズの隣に座って邪魔にならないように話しかけた。

 

「私はハカナ。海田ハカナ。ゲヘナの1年生でストリーマーなんだ」

「あっ、見たことがあるかも、です。ロボットアクションのゲームの、とてもゲームが上手かった…ですよね?」

「ありがとう! UZQweenに知られているなんて嬉しいな。ね?」

 

 なんで知ってるんですか!? ユズは動揺しているがCPU戦での動きにはまるで反映されていない。パンチ、キック、なめまわしのコンボを的確に決めている。

 

「そこの金髪の子が言ってたじゃない。私、耳は良い方なんだ」

 

 ここはあたりががやがやしていて、隣にいるモモイに声を届かせるのにやや大声でなければならなかった。だから向こう側に座っていたハカナにさっきの話が聞こえるはずがないのに。

 

「改めて自己紹介、させてください。わたしはユズ。花岡ユズ、です」

「ユズちゃん! 嬉しいな、あこがれの人とお話しできるなんて!」

「そ、そうですか? …えへへ…」

「思ってたよりもとってもかわいいし! そうだ、この大会で改めてバトルしたいな! 君たちユズちゃんのお友達でしょ? 渡しておくね!」

 

 ハカナはささっとモモイとメイに紙を渡した。

 見れば、モモファイターズ3の大会開催告知のチラシだった。1週間後に開催する予定で、場所はここの近くの体育館を借りるらしい。

 

「配信の予定があるし、これで失礼するね。よかったら見てくれると嬉しいな。じゃあまた!」

 

 嬉しそうに手を振ってハカナはこの場を去っていった。なんだか騒がしい子だな、モモイに似ているところがあるかもしれない…メイは笑い、モモイとユズに話しかけた。

 

「せっかくだから出てみたらいいんじゃないかな。4人1組の勝ち抜き戦のトーナメントだって。ゲーム開発部のみんなでちょうどいいでしょ。私は観戦しにいくから」

「ふーん…面白そうじゃん! ユズはどう?」

 

 私もやってみたい。ユズの積極的な返事にモモイはどこか驚いていたようにも、喜んでいるようにも見えて、メイは口を開いた。

 

「ならミドリとアリスにもこれ、見せてくるね」

 

 

 

 

 

 

 あっという間に楽しい時間は過ぎて夕方になった。もう帰らなければならない時間だ。

 ミドリもアリスも大会の参加には前向きな様子だった。これなら来週の楽しみがひとつ増えそうだ。

 

「じゃあねメイ! またね!」

 

 ゲームセンターの出入り口の前でゲーム開発部の面々と別れるメイ。元気よく手を振るモモイに、はにかんで小さく手を振るユズ。アリスと一緒にミドリも笑ってメイを送り出してくれた。

 次に会うのは1週間後のモモファイターズ3の大会だ。彼女たちはきっといいところまでいくのだろう。ユズはとんでもなくゲームが上手いみたいだし、簡単なアドバイスだってできるかもしれない。

 

 そんなことを考えながらメイは地下鉄の階段を下りていく。小脇にクレーンゲームで手に入れた小さなペロロぬいぐるみを抱えて、メイは視線を感じていた。

 横を見れば視線の主がいた。2人組の少女たちだ。

 少し背の低い、メイと同じくらいの背丈の子。白いロングヘアと黒いセーラー服、腰からのびる白い羽根が目立っていた。

 もうひとりは少し背が高いベージュのロングヘア。白いセーラー服に紺色のスカート、黒タイツ。背負っている白いカバンはペロロのキャラクターグッズらしい。

 より視線が強いのは、ペロロカバンの方だった。もしかするとメイが抱えているペロロのぬいぐるみに興味があるのかもしれない。

 メイは示すようにぬいぐるみを軽くゆすって、それから近づいてみる。ペロロカバンの少女の目がもっと輝いた。

 

「アズサちゃん! ペロロ様のぬいぐるみです!」

「うん。ちいさくて魅力たっぷりだ、ヒフミ」

 

 背の低い方がアズサ、高い方がヒフミというらしい。どちらかといえばヒフミの方がペロロを好きなようだ。

 

「これに興味が?」

「はい! あ、ごめんなさい。私、阿慈谷ヒフミといいます」

「私はアズサ。白洲アズサ。ミレニアム限定のモモフレンズのぬいぐるみを買いに来たのだけど、もしかして、それが?」

 

 メイはかぶりを振って、なんと答えるか少し考えてみた。

 

「えっと、そこのゲームセンターのクレーンゲームでとったの。あ、私は山紫メイ。メイって呼んでください」

「メイちゃんですね。メイちゃんもモモフレンズが好きなんですか?」

「ああ、まあ――」

 

 言葉を選ばずに答えると、ヒフミを傷つけるかもしれない。もしかしたらアズサも。ふたりともモモフレンズをとても好きらしいのだ。

 

「――名前は知ってるし、キャラクターもかわいくて好き、かな。このぬいぐるみ、ちょっと驚くような見た目しているけど、だんだんかわいく見えてきて」

「ペロロ様、とってもいいですよね!」

「うん。メイは見る目がある」

 

 嬉しそうに頷いているヒフミ。もしかすると、これを見せたらもっと喜ぶかもしれない――メイはカバンから丸めたチラシを取り出した。

 

「もしよかったらこれをどうぞ」

「それは…?」

「来週開催予定のゲーム大会のチラシなんだ。モモファイターズ3っていうゲームの大会で、知ってる?」

「知っています! ふだんゲームはしないんですが、モモフレンズの皆さんがかわいくて!」

 

 楽しそうにヒフミが話し、同調するようにアズサが頷く。

 

「なるほど。この大会、観戦料はほとんどかからないのか。この予定日なら私もヒフミも遊びにいけそうだ」

「そうですね。いいことを教えてくださってありがとうございます!」

 

 いえいえ。私も観にいく予定だから、また会ったらよろしくお願いします。

 メイはお辞儀をして目的の地下鉄へと向かう。

 

 

 

 歩みを進めながらメイはどこか引っ掛かりを覚えていた。

 ヒフミのヘイロー。黄色い二重の輪。小さな羽根を思わせる形。

 思い出した。

 あれは、あの日、幼かったころに強制された、あの苦い記憶の。

 銃を壊して泣かせてしまったあの子も、同じヘイローを持っていた。

 内臓が裏返ってそこから液体がこぼれるような気がして口元を抑える。メイの呼吸は次第に荒くなっていた。

 

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