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見飽きる思いも湧かないくらいには、何度も開けて入った扉だけど、やっぱり慣れないのは潜り抜けた後の次の世界を認識するこの瞬間だ。
「わあ……」
そうそう。こういった世界に来た「私」はいつもこんな声で驚く。
そこにあったのは人! 店! 人! 建物! 人! ヒト!
そんな世界に急に訪れるのだから突然の喧騒に耳が完全にバグってしまう。当然自然の法則に従わない自我を持ったモノが眼前を左右に行き交えば目もバグりだす。匂いも複雑。鼻もバグる。私の周りの空気が常に乱される事によって肌の触覚も常に閾値が上がりっぱなし。五感の四つも奪われた事で、棒立ちのまま意識を取り戻すのに数分の時間が必要になった。
意識を取り戻す為の時間は、世界を認識していくと同時に“パターン”を思い出す時間にもなっていた。この世界に在る者は“満たしたモノ”である事だ。この世界には“満たせなかったナニカ”があって、その欠けた部分を取り戻す事が目的である事が殆どだ。
そんな想起に並行して景色の分析も行う。実際に観た事は無く知識だけだが、オスマン建築やイスラーム建築と呼ばれる様な建物が階段上に隙間なく存在している。丁度人が2人分通れる幅の通りを人々が物を持ちながら行き交う。本当に賑やかで活気に満ち満ちている。
ヨシ。冴えた。
兎にも角にも(私は羊だけど)まずは情報収集。聞き易そうな人を見つけて尋ねていかなければ。これだけ居るのだから焦らずいこう。体格を活かして人の壁の隙間を縫っていく。買う物がある訳では無いので商店街を探すのはパス。酒場も私ではいきなり入ってはまず誤解を招くだけだ。そうなるとまずは広場か。その中で観光をしていそうな人やカップルを除いて、移動中に足を運んだ人や休憩している様な人を狙おう。目的地を定めて、早速忙しそうではない近くにいた中年の男に声をかける。
「あの、すみません」
「ん? どうかしたかいお嬢ちゃん?」
「この街にある此処から1番近い広場までの道を教えて頂けますか?」
「ああ、いいよ? 今見えてるこの道を真っ直ぐ行くと王様の像がある。像を中心に十字路になっていて、広場は像の背中側にある道を選べば後は道なりだよ」
王様。王政なのか。
「わからなくなったらその辺の人にまた聞きなさい。この街の住人は気が利く人ばかりさ。遠慮する事はないよ」
「はい。ありがとうございます」
親切なおじさんに軽く手を振って別れ、言われた道へと向かう。
−−−−−−−−−−−−−−
さっきまであんなに賑わっていた事が嘘のような静かな道。薄暗いけれど不思議と恐怖感は湧かない。5分もしない間に例の王様の像が見えてきた。聞いていた通り像を中心にした十字路だ。
「この人が、王様」
短髪で、あれは眼鏡だろうか? 服飾は此処まで見かけた住人と比べても特別豪勢には見えない、像としてはなんとも物足りない感じ。ただ像自体には目立つほこりや汚れもなく手入れがされている事が窺える。
背中側に見えた道へ進むと、緩やかに右へと曲がっていく。その道を5〜10分程歩いて少し登った先から差してきた光の中に入っていくと中央広場と呼べる場所に辿り着いた。
そこは一言で言えば明るい広場だ。そこに居る人々も賑やかに広場で休みながらも歓談していた。分け隔てる様な様子も見られない。これなら安心して話を聞けそうだ。早速入り口のすぐ横で座って目をつぶって休憩している様な女性に声を掛ける。この広場の名前から聞き始め、この街の名前、その先の世界までを大まかに確認した。女性の名前や年齢を聞いてお礼を言ってまた別の、今度は食事中の男性に。彼からはこの街の仕組みを聞く。情報をまとめると、やはりあの王様に会ってみて良さそうだ。
そんな感じで聞いて回っていると、手招きをする不思議な老人が目に入った。さっきまで居なかった気がしたけど、いつの間に? 漠然とした不安をその老人から感じつつも、これは好機だと思って近づいてみる事にした。降ってきたピンチもチャンスも逃しては泥沼になるだけだから。
「どうしましたか?」
老人に尋ねる。
「かわいいお嬢さん。見ない顔だねぇ? 何処から来たんだい?」
さっき仕入れた情報を元に答える
「この街の3里先にある山村からです。初めて来たんですが、ここまで賑やかだとは思わなくてつい話しかけたくて……」
「フフ。そうだね。寂れない程度には人が居て、それも元気な働き盛りが多いからね。偉大な王もいて下さるし」
「そうなんですか」
「ところで」
なんだろう?
「泊まる所はもう決まっているかい? 決まってないなら是非家に——」
しまった。そういう。
「えっと……。あ、ありがとうございます。ただごめんなさいそろそろ用事を済ませに行きますので……」
「そうかい……?」
「では……! ありがとうおばあちゃん!」
ごめんね……!
慌ててその場を離れると、仕入れた情報通りに広場から王宮に向かう道に走っていった。
約1年ぶりになります。
何処まで続くか分かりませんが、続けられる世界観なので、続く限り書ければいいなと。
お楽しみ頂ければ幸いです。