一目散に老婆から離れたい一心で、人を次々と追い抜きながら駆け抜けた先に私に待っていたのは、王宮と呼ぶにふさわしい大きな大きな建造物だった。
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王宮内へ続くであろう正門には本当に多くの人が行列を成して居て、彼等はゆっくりと中に向かって前進しているところだった。
「流石にコレは……」
あまりの長さに気後れしていると、先程まで正門で見守っていた鎧を着た兵士の1人が私の近くに来ていた。
「どうした。そんなところで」
「あっ!? えっと……」
本当に驚いてしまい、言葉が出ない。
「あの道から慌てて出てきたんだ、他所から来たんだろう? 王に用があるのかお嬢ちゃん?」
すごい。気づかれた。
「はい。その通りで……」
「分かった。待ってろ」
その兵士はそう言うと列へと振り返って声を張り上げる。
「この中で急ぎの要件ではなくこの少女に順番を譲れる者は居ないか! 明日の拝謁の際には優先される様に配慮を約束する! どうだ? 誰か居ないか!?」
その声の主に顔を向け言葉に耳を傾けた列の人々の中から手を挙げる者、声を出して応える者など数人が見つかる。私は兵士に促されながら、共にその中で1番先頭に居た者の所へ向かう。その方から「本当に急ぎではないから気にしないでいい」と声を掛けられ、入れ替わる形で私は列の中に入ることが出来た。
「ありがとうございます」
心の中がなんとも不思議な状態になりながらも、兵士と順番を替わってくれた壮年の男性にお礼を言う。兵士はハンドジェスチャーで返事をして先ほど順番を替わる意思を示してくれた他の人達の方へと向かいに行く。壮年の男性は笑顔で返事をして去って行った。
ゆっくりと進む列の中で今の出来事について思考を巡らす。
こんな事は〝目的〟の為に旅をしてきた中で無かった事だ。人の数の多さは何度か経験はある、あったけれど往々にしてコミュニケーションは淡白だ。世界で出会う人の数と比例する様な感覚。多ければ多い程私もその一部であるかの様に、少なければ少ないほど異分子であるかの様に。そもそも人と出会う事すら無い場合も多い。此処の住人は私が経験した事の無い反応や姿を見せてくれる。
一旦思考に目処が経ち、周りの景色を観ると既に王宮内に居た。中は外観の印象通りの広さ。装飾類は質素だと直感した。王宮ではある、相応しく輝きがある、のだが其れは飾ってあるからではなく磨かれているからだ。物で溢れず、希少な素材である印象もない、清潔で丁寧に磨かれた王宮だった。これにも人々の存在を意識せざるを得ない。この王はなんと〝愛されて〟いるのだろう。
赤い絨毯の道を列と共に歩き玉座の間へと辿り着いた。順番に1人ずつ扉の中に吸い込まれ、同時にその前に入った人が出てくる。その様子を眺めながら私は静かに順番を待つ。
しばらくして、私の番が来た。緊張を感じつつ開いた扉の先へゆっくりと進む。
そこには訝しげに頬杖を突きながらこちらを見下ろす若い男が居た。側にはウサギの耳をした獣人が寄り添う様に側に佇んでいる。王の側に近寄り、私の前に謁見していた者の所作を真似た。
「少女よもっと前へどうぞ」
敵対的に見られると困ると思い自然と距離を取っていた事に内心気づき、深呼吸をして言われた通りより前に進み顔を上げてこの世界の王の顔を確認する。王様と呼ばれるには若い、という第一印象。服装も隣の側近と見られる獣人の様なこの王宮に即した中世的な格好より圧倒的に時代が進んだ格好だった。カジュアルという単語がまさにふさわしい。汚れる事を前提とした様なデザインの衣服を上下に身に纏いながら背筋を伸ばす事なく多少気怠さを見せながら私を見つめている。故に私は彼から王様と呼ばれている事に違和感がない風格も感じていてた。態度に相反する様な包容力も同時に。
「で、どうした?」
見つめながら彼はそう一言を発する。私は〝素直に〟答える。
「私はこの世界とは異なる世界から、ある目的を達成する為にやってきました。本当につい先ほどこちらに辿り着いたばかりでまだ手がかりも無くて。此処の住人の方々に話を伺うと親切に貴方様の事を教えて下さり、失礼ながらこちらにやって参りました」
一呼吸置いて、
「是非お力を頂けないでしょうか?」
あまりこうやって畏まる事に慣れていないから、大丈夫かな……? 怒らないだろうか……と本音が心の中で響く。
「そうか。通りで観ない顔なわけだ。そうだな……どうする?」
そういうと側にいる側近に声を掛けた。が、言葉なく私には判断が出来かねますといった態度を見せた。
「う──ん」
唸られた。
「訳ありでどうにも怪しい。が、まあ様子を見てやるかぁ。じゃあ俺は何をすればいいんだ?」
「力を貸してさえ頂ければ。あっ。えっと。具体的には身の安全の保証さえして下されば。本当に危害を与えるとかそんな事は無いんです。絶対にです!」
「力を貸せっていうより手を出すな、そう言いたいワケ?」
「あっいや……」
「動揺したな? 何なんだお前は。目的も意志もハッキリしているみたいだが、怯える様な謙遜する様な態度ばかり見せる。本当に見た目から中身まで子山羊そのものだな」
何も言い返せない。返しちゃいけない。その通りだから。
「……ならお前が出来る事はそんな多くは無いだろうな。好きにしろ。裏でこそこそと企まない姿勢を見せたのは買ってやる」
「はい。ありがとうございます」
そう答え、心の中で「よかった」と呟く。
「で、もう一度聞くが本当に何か力を貸す必要はないのか?」
「こうやって貴方と話す機会さえあれば。今はそれだけで」
それを聞くとまた怪訝そうな表情を見せながら、
「……わかった。それならこの城の一室をお前に貸す。対価は要らない。目的が果たせるまでの
間だ。食事、洗濯、必要になる物は全てお前が頼めば手配もしてやる。話す機会が欲しい時はこの時間の間以外に来い」
「は、はい!」
「もういいだろ。誰かこいつを案内しろ。次だ、呼んでこい」
私は現れた案内人に連れられて王を後にする。横目に王の姿を確認すると、彼は何事もなかった様に次の相手を始めていた。
怖かった。何か見透かされ続けていた様な気分でいた。でも見透かされた事で否定されたりはしなかった。責められはしたけれど、なんというか私という存在の確認をされたというべきなんだろうか。そんな風に振り返りながら指摘された事を私自身でも自虐していると部屋へ辿り着いた。案内をしてくれたメイド姿の女性が挨拶をして去って行き、私は扉が無くて広くはないが、でも清潔感がある部屋に入る。
荷物いっぱいのリュックを下ろして、清潔なふかふかのベッドについ飛び込んでしまった。久しぶりだったから。
「ん〜!」
声も漏れてしまう。気持ちいい……。
ベッドを充分に堪能し終わって、端に座りリュックを整理しながらこれからの事を考える。
うん。以前の経験を活かしてかなりトントン拍子に此処まで来た。間違いなくこの世界はあの王様の世界だ。あの人が私の目的。この直感は間違いない。でもどうやって彼から色々と引き出していくべきか、そこが悩みどころの1つだよね。ちょっと理解してもらうのが早すぎたくらい。きっと私の目的にだって薄々気づいてそう。あのサングラスとタトゥー? も相まってやっぱり恐い。もしも彼がこの旅で最初の相手だったらと思うとますます恐くなる……。……なんて想像しても意味無いや。兎も角、最悪何百年も経つかも知れないけどやるしかない。その為に準備していくしか。
本当に普通に当たり前に考える事を意識して思考を巡らせた。それだけで身体は動き出せる準備が出来た。これでやっと寝る準備、寝る事が出来る……。
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翌朝、気配を感じて目が覚めた。ゆっくりと目を開けるとウサギ耳の従者がこの狭い部屋の入り口に向かう為のスペースを封鎖する様にソコに立ってこちらを見つめていた。
「──ー」
内心の強烈な感情を表情に出さないように殺しながら、しかし声色は隠せずに声を掛ける。
「な、なんで……いやどうしたんですか? あ、おはようございます?」
「はい。おはようございます。風子様」
「(むぅ……)おはようございます……」
「私はハイクと申します。以後、お見知り置きを。城内の案内にやって参りました」
「はぁ……」
だからっていつから居たんですか……。ハイクは目を瞑ったまま私が準備を終えるまで、結局その場に立ったままだった。
私は彼と共に宮殿を巡っていった。彼の端的な説明に耳を傾けつつ宮殿内を見て回る。外朝も内庭も多くを飾らずに清潔、整理、整頓され手入れがされていた。こうあるべきという様な誠実な仕事が為される居住世界。外の街の賑やかなで雑多な活気溢れる姿とは印象が相違する。王が漂わせる高圧かつ包容あるオーラともあまり噛み合わない、しいて言えば包容感がこの誠実感と繋がるのだろうか。
「では。案内はここまで、とさせて頂きます風子様」
「はい。ありがとうございました」
一礼し、ハイクとお別れをする。この後はどの様にしても自由だとか。それならばと、私は街に向かう事にした。
基本的に登場する人物は全てモチーフ元の方々がいます。
あくまでモチーフですのでオリジナル設定やオリジナル設定のタグを付けています。
ご了承下さい。