夢想少女探訪   作:九司空守

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赤茶けた王様④

 既に日は落ち、王宮の自室への帰路にあった私は夜になっても尚賑やかな中央街を避け、気持ち急ぐ様に最短の路地裏を選んで歩いていた。風もなく私の周りが本当に静かだから、私の蹄が鳴らす音と遥か遠くからの明るい声までもがよく響く。

 すると、一見石畳と石で積み上げた石壁しか見当たらない道に不釣り合いな、ガサッという音を耳にする。私は反射的に歩行を走行に切り替えた。自慢の蹄により一層信頼を込めて脚に力を入れ、音源から安全距離を取る。

「なっ!?」

 驚いた声が聴こえる。それも複数。即座に私を追いかける足音が迫って来る。これも複数聴こえた。

 だが、私は行き止まりの道を選んでしまい彼等に追いつかれてしまった。

「慣れた土地でもない癖に変に逃げようとするからだ! 馬鹿め!」むっ。

「危害を加えるつもりはない。大人しくついて来い」

「何言ってんだ。さっきのすばしっこさをもう忘れたのか? せめて此奴の足は痛めつけるべきだ」

「信用を落とす様な行為は慎め!」

「いまさら何が信用だぁ? 殺すわけじゃない、必要な警戒だ」

「……チッ。加減は絶対に間違えるなよ?」

 これは、無理だな。

「あ……」

 私は落胆の声を洩らすと、恐怖心で体を丸め震えながら怯える様な演技をした。それを見て顔を隠した男が私にナイフをちらつかせながら近づいて来た瞬間、私は私が持っている最強の武器を男に向けた。それと同時に強烈に圧縮していた下腿から下肢の全て筋肉を力を解放し、自慢の蹄で地面を蹴り上げ男の胸部に目がけて頭突きをかました。私の2本の角の1つは男の胸骨を捉え、折った。もう一本の角は男の手を粉砕し、持っていたナイフも完全に破壊する。彼がナイフを私に振り翳したタイミングが悪かった。

「グゥッ!?」

 男は突然の出来事にわけもわからず苦悶の声を吐いて、完全に意識を失った。

「!?」

 それを見た後ろの2人は驚きのあまりに、立ち竦む。私は着地と同時に倒れ込む1人目の男の身体を陰にしながら、横から回って右側に見えた男を目標に選ぶと、彼の左足の脛に狙いを定めて飛び蹴りを打ち込んだ。蹄が脛骨と腓骨を完璧に捉えて、2本は垂直に真っ二つに折れた。

「!!!!!!」

 2人目の男は声にもならない悲鳴を洩らし、力無く地面に身体をぶつける。私は残りの3人目の男を見上げると、彼は恐怖で身動きが取れなくなっていた。彼は危害を躊躇った男だ。私は大怪我にならない程度に痛めつけ、座り込んだ彼の口元に蹄を当てて質問する。

「これ以上何もされたくなければ、何故こんな事をしたのか全て洗いざらい説明してください」

「わかった!! わかったから!!! これ以上はやめて……やめて……」

 ……。ごめんなさい。“貴方達”を出来る限り傷つけるべきじゃない。“この世界”に於いて“私達”とは明確に『強度』が違ってしまっているから。分かっているのにこういう選択をした私が本当に悪いんです。ごめんなさい。

「では、説明を」

 心の中の言葉を押し殺して問う。

「俺たちは君が王の側に近づけた理由を知りたかっただけなんだ……! 君みたいな余所者が……。どうやったんだ……。不自然だ……不自然すぎる……」

 それは正しい。でも見え方はどうやら少し歪んでるんですね。

「あっ……! わ、私達はあの王にた、正しい要求をする為に手段が欲しいんだ……! 彼はあまりにも強権過ぎる……! きっとそれは彼を不幸にする……! 其れをただ……っ!」

「そうですか。私はその事に関しては興味はありません。だから関わって来ないで下さい。宜しくお願いします」

 改めて蹄で首元を軽くトントンと叩く。

「ヒィィィ!!! 分かった! 分かったからぁ!!」

 そういうと足を折った男だけを抱えて男は逃げて行った。私は荷物を置いて、残った男の呼吸を確認するとそれを背負いながら逃げていく男を追いかける。背負った男の怪我を気遣いながら、音なく跳び上がり石壁の隙間や建物で脚を掛けられそうな凹凸を利用し屋根へと着地した。逃げていく男の様子を眺めて、行先を探す。どうやらこの街の中で灯の光が1番少ない、暗い場所に向かっているのが分かった。あれが彼等の場所か。その中でも明るい場所にでも背負った彼を休ませてあげればまあ、大丈夫だよね。目的地が決まり、そこに向かって駆ける。残りの2人を追い越し先にその場所へと到着する。

 そこは一言でいえばスラム街。今まで見てきたこの街の景色からは想像出来ない場所だった。こういう場所もあるんだと素直に思った。場違いの私がここで目立つのは不味いし、王宮に帰ることが遅くなって変に探られるのも嫌なので休ませるのに相応しい場所を適当に見繕うと、陰に隠れながら背負った男を置いてスラム街を離れた。荷物を無事回収し、王宮へと急ぐ。

 王宮の裏口の見張りに挨拶をして入れてもらい、自室へと向かう。途中に遠くに見える謁見の間は暗く誰もいない事を確認できた。そして自室に帰ってくるとリュックをサッと置き、すぐにベッドに入る。湯浴みは明日起きてからでいい。先ずは寝よう。全ては起きてから。

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