もしも、織斑一夏がバケモノだったら   作:σみるくてぃーσ

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筆が進んだので。
2、3日に1回投稿できればと思っています。

お気に入り登録してくれた方に心からの感謝を


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今日は高校の入学式。とある事情で、入学する高校がちょっと、寧ろかなり特殊なことを除けば、ただのショートホームルーム。妙な緊張感に包まれているのも、まぁクラスメイトが距離感を図りかねていると思えばそう言うものだろう。

 しかも、初日となれば自己紹介から入るのもごく自然なことだろうし、それに意を唱えるつもりは全くない。

 

(……でも、なかなかどうして、これは。)

 

 だけどそれはごく一般的な高校で、と言う文言が頭に付いた場合の話で。少なくとも俺が今いる、IS学園というこの場所においては、そんな常識は通用しないのだ。

 視界全体に映る総勢30名近くにもなるクラスメイト全員の姿。その全員からもれなく注目をされるなんて流石に居心地が悪いと言う他のなんでもない。

 クラスメイト全員、と言うよりかは、俺以外を除いてこの高校、IS学園の生徒はみんな女子だ。男は俺だけ。

 出来ることなら今すぐにでも、この場所から逃げ出したいくらいだ。

 いくら女性に苦手意識がない、と言うよりかはそもそもとして他人に興味がないとよく言われる俺であったとしても、この状況はきついと言わざるを得ない。

 いくらなんでも限度というものがある。胃に穴が開きそうとまでは言わないけれど、これからのことを思うと気が滅入りそうだ。

 

「えっと、織斑君?」

 

 どうやら後ろを振り向いたっきり微動だにしなくなった俺が心配になったのか、副担任の山田先生が遠慮がちに声を掛けてくる。どうやら思った以上に時間を食っていたらしい。あまりスケジュール的に時間の余裕はなかった筈だから申し訳なく思う。

 ごめんなさい、大丈夫です。そう答えて、ひとつ深呼吸。

 

……どうしてこうなったんだろうな。

 

 少なくともここに望んで来たわけではない。ただ、そうせざるを得なかったから、収まるとこに収まっただけだ。そこに俺の意見なんて存在しない。

 俺はただ政府の命令に従っているだけだ。政府の気分次第で俺の人生なんてものは一瞬で変わり果ててしまうほどに、不安定で脆いもの。

 それは未来永劫何も変わらない。きっと、死ぬまで俺は政府に飼い殺しにされるのだろう。

 首輪付きのバケモノ。飼い慣らされた俺を、政府との連絡役の担当者はそう呼ぶ。まるでゴミを見るかのように、人扱いすらされず一方的に用件を伝えるだけ。

 でも、それに意を唱えるつもりはないし、そう言うものだと受け入れている。

 俺はそう言う運命の元に生まれた。

 本来なら殺されて当然のところを、温情で生きながらえているに過ぎない。

 死ぬことも許されず、かといって自由に生きることすらも許されない。

 それが俺。

 自分が生きるため。ただそれだけのために数え切れない程の人間を殺した、殺人鬼なのだ。

 

「えっと、織斑…一夏です。よろしく…」

 

 きっと、ハリボテでも愛想笑いを浮かべることができた俺は、十分頑張った方だと思う。

 そう思わないとやって行けそうにもない。

 俺は全てを諦めた。

 

 

 

 

「と、このようにして、ISは国家防衛の要として運用されるに至ったわけです」

 

 IS学園。

 通称インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツの操縦者を育成するここでは、入学式初日からカリキュラムが組み込まれている。

 なので当然ホームルームが終われば授業がある。

 

(…分かんね)

 

 IS中心の世の中になった今、IS操縦者の実力は国家防衛に直結するほど重要になっている。そしてここIS学園はそのIS操縦者、その中でも上澄みのエリートを育成するための専門機関な訳であり。

 要するに、山田先生の言っていることがこれっぽっちも理解できていないのだ。まぁ、日本語ではあるので聞き取れないと言うわけではないんだけれども、肝心の言葉の意味が全く分からない。

 一応俺もIS操縦者となったわけなのでそれなりに勉強したので、ちんぷんかんぷんとは言わない。だけど、きちんと理解しているかと言われれば別な話なわけで。

 例えるならそう、そこら辺の車の運転手に、エンジンの構造について理解しろと言っているようなものだろうか。

 

 ちらりと横を盗みみれば、時々うなづきながらノートを取るクラスメイトの姿が。

 やっぱりとてつもない倍率の入学試験を突破しただけのことはある。きっちりと理解しているらしい。

 必読と書かれた電話帳並みの分厚さの参考書を早々に読むことを諦めた俺とは大きな違いだ。ていうかあんなの覚えきれるわけが無いと思う。

 裏が透けるくらいに薄い紙にビッシリと書かれた文字は、見ているだけで頭が痛くなる程。

 あんなもん覚えなくたってISは動かせる。

 あれだ、車にガソリン入れて、ハンドル切れば運転できることを理解してれば十分なのと同じ。姉に知られようものならしこたま怒られるのは間違いないので、絶対に口に出すことはしないけども。

 

「…そしてIS事変と呼ばれる事件が発生したのです。これはISが実践投入された唯一の事例です」

 

 IS事変。

 山田先生がその言葉を口にした瞬間、ひと回り締め付けられるような重苦しい雰囲気にクラスが包まれた。

 それはそうだろう。事変とは名前がついているとはいえ、その実情は立派な戦争だ。しかも、過去の戦争とは比べ物にならない規模の。

 それが起きたのはわずか3年前。誰もの記憶に新しいそれは、数え切れない爪痕を世界に残し、そしていまだに癒えていない。

 

「始まりはIS操縦者が女性しか動かせないことを理由を発端とする、各国が施行した女性優遇制度でした。行き過ぎた女尊男卑社会、理不尽に虐げられる男性達。そのような歪みがこの事件を引き起こしたのは決して忘れては行けません」

 

 当時少なくとも3年前までの世界はあまりにも極端だったらしい。男だからという理由だけで、理不尽な目に遭わされ、当たり前の権利すら奪われ、ゴミ以下の扱いだったと言われている。

 曰く、男だからという理由だけで責任のある立場を追われた。

 曰く、生きているだけで犯罪と言われ、逮捕された。

 挙げればきりがないほど、到底常識とは思えない有り得ない事態が罷り通っていた、通ってしまっていた。

 当然そんな無理が通ってしまう世の中であれば、反発を生むのは必然で。

 強大な権力はいずれ崩壊する。

 それは長い歴史の中で繰り返されてきた事なんだろう。

 ただ、それが倫理観が欠如してしまった連中が引き起こしてしまったのが、最悪の事態を引き起こしたというだけで。

 

「反乱を起こした彼らが、正しいとは言いません。でも、だからといって罪なき人々の命を奪っていい理由にもなり得ません」

 

 山田先生は静かに、だけど力強く語っていく。

 あの戦争では双方に多すぎる犠牲者が生まれた。正確に統計が取れているわけではないからかはっきりとは分かっていないけど、現状でも8000から9000万人は軽く超えると言われている。もしかしたら1億人は超えてしまうのかもしれない。

 あまりにも現実的な数字ではないから実感が湧かない。でも世界大戦と呼ばれる過去に起きた大きな2度の戦争でさえここまで犠牲者は居なかったのだから、改めてとてつもない事が起きてしまったのだと思う。

 

 きっと山田先生もあのIS事変で家族か、親友かまでは分からないけれど、親しい人を失ったのだろう。ここにいる生徒達も少なからず戦火の影響を受けているに違いない。

 だからこそなのか、先生の言葉には自然と重みを感じてしまう。

 

「ましてや、非合法な人体実験をして良い理由にはなりません」

 

 その言葉にドクンと心臓が強く脈を打つ。

 

『異能者』

 

 その単語が頭の中をぐるぐる回る。

 6ヶ月という、圧倒的な短期間で終わったIS事変において、有り得ないくらいの犠牲者を生み出したのがかの『異能者』という存在だった。

 倫理観のない非合法な人体実験の末に生み出された彼らの存在理由はただ一つ。

 生身の人間でありながら、ISに対抗しうる力を有する事。

 兵器の頂点に君臨するISに対し、たかが強化骨格を施し戦車砲を片手で放てるような程度では到底敵わない。

 なら、どうするのか。

 理を超えた超常現象を人為的に引き起こす化け物を生み出せば良い。

 現代化学の推をを集めて作り上げられたISに対抗するため、生み出された『異能者』はそういう存在だった。

 結果的にいうとその考えは間違っていなかったんだろう。実際に犠牲者の数からしてもそう言わざるを得ない。

 戦車や戦闘機のように目立つわけでもない、生身の人間が突如として街中で能力を行使するのだ。しかも、街の一角をたやすく吹き飛ばしかね無いデタラメな力を。

 故に、IS側はまともな対策を講じる事ができず、加速度的に犠牲者の数は増えていった。

 当然だろう。街中に紛れてしまえばただの一般人でしかない敵をどうやって対策するというのか。刃物を持ち歩いているわけでもない、爆弾を持ち合わせているわけでもないから、検問をしたところで無意味。

 文字通り何も無い無から異能を生み出し行使するのだから。

 とは言え結局は生身の人間。ISの攻撃を受ければひとたまりもないこともあって、長引くにつれ、元々『異能者』の成功例が少なかったこともあって、反乱側の勢力は著しく削がれた。

 最後の作戦により、多大な犠牲者を生み出しながらも、反乱側の全滅という形で幕を閉じた。

 …というのが、表向きのストーリー。

 正確にいうなら、唯一『異能者』としての生き残りの、俺を除いて、だが。

 

(…まぁ、だからなんだという話ではあるんだけど)

 

 IS操縦者としてのあり方を、過去の誤りを踏まえた上で今求められる姿を熱く口にする山田先生を眺めながらそんなことを思う。

 

 別にこの世界に復讐しようとも思わない。そもそも、俺が本当に復習したい連中は3年前のIS事変で全員死んでいる。

 俺だって生きるため、ただそれだけの理由で数多の人を殺したのだから、そんなことをできる立場でもない。

 簡単にいうなら、もうそんなことはどうでも良いのだ。

 残り少ない余生を無事に終える事ができるのなら、もう他に何も望まない。

 もう、面倒ごとは懲り懲りだ。

 

「以上が一連の出来事です。何度も言いますが、これは反論のしようがないほど、私たちIS操縦者が間違えてしまったために引き起こされたことです。決して同じような事件を引き起こしてはなりません。それを第一に自分がどう振る舞えば良いのか、よく考えてください」

 

 でも、まぁ。

 山田先生のような考えを持ってくれる人が1人でも増えてくれるのなら、少しでも前向きに社会が変わってくれていくのなら。

 このクソッタレみたいな人生にも少しくらいは意味が生まれるんだろう、そう思えた。

 

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