もしも、織斑一夏がバケモノだったら   作:σみるくてぃーσ

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セシリアさん登場回。
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1-3

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 2限目。

 教壇に立っているのは、山田先生ではなく姉さんだった。

 織斑千冬。

 それが、俺の姉の名前だ。

 元日本代表にして、刀一本で世界の頂点に上り詰めた初代ブリュンヒルデ。一線こそ退いたものの、未だに世界最強のIS操縦者の肩書きを持つ伝説の世代と呼ばれた片割れでもある。

 

 と、世間一般ではそう呼ばれてるのだけれども、家族としての一面を知っている俺からすればそんなものは対外的なものに過ぎない。

 意外と私生活面で終わっていることは置いておくとして、絶対に逆らっちゃいけない人というのが姉さんに対する俺の評価。

 

―――この人、たまに人なんかなって疑いたくなるんだよなぁ…

 

 そう思うようになったきっかけは、一度だけあった姉弟喧嘩。もう、どんな事が原因でそうなったのかは忘れたけど、それをきっかけに仲が深まったことだけは覚えている。

 本当にあの時ばかりは姉の存在が恐ろしくてたまらなくなったものだ。

 この人には絶対に逆らっちゃいけない。それこそ、魂のレベルにまで刻みつけられたくらいで、今でもたまに思い出すと恐怖で体が震えてしまう。

 

 一応なんだかんだ言って俺は対IS用に改造された『異能者』である。それはもう、並みの人間なら即死するような怪我でも、擦り傷くらいで済む程度には丈夫だし、異能を使わなくても大人百人斬りくらいは片手間にこなせる実力はあるわけで。

 勿論生身の人間に本気になることは絶対にあり得ないとはいっても、その他有象無象の人間とは桁違いの実力はあるはずなのだが。

 

―――まさか手も足も出ないくらい、文字通り徹底的にメッタメタのギッチョンギッチョンのボッコボコのグッチャグチャのコテンパンのフルボッコにされるとは思いもしなかった。

 

 もう、姉さんは人の皮を被った何か、人という次元を卓越した何かなんだろうと思う。

 何故『異能者』と生身で真っ向から喧嘩できるのか、そもそもなんで一方的に蹂躙できるというのか。

 いつだか、日本が核を持たない理由に姉さんがいるからというネタ記事を見た事がある。

 最初それを知った時はただの冗談にしか思っていなかったのだけれども、その一件を経験してからは色んな意味で冗談では済まされないと思うようになった。

 『異能者』がバケモノなのはいうまでもないけど、姉さんも姉さんで充分バケモノ…

 

「織斑どうした?言いたい事があるならはっきり言うといい」

「いえ、お手を煩わせてしまい申し訳ございません。どうぞ授業の続きを」

 

 …きっちり心の内はバレていたようである。

 にっこりと。でも目だけは全く笑っていない笑みに、冷や汗が止まらない。

 この姉、人の心を読むのもやけに上手い。最早エスパーの類に達しつつある、姉さんの前で隠し事は出来ないと考えていい。

 本当に恐ろしいものである。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ハリボテの笑顔をどうにか顔面に貼り付けてどうにかやり過ごす。気分はまるで蛇に睨まれたカエルのよう。

 お前の考えなどお見通しだと言わんばかりの視線を向けていた姉は、すぐに興味を無くしたのか目線を外すとそう口にする。

 

(た、助かった…)

 

 クラス対抗戦に代表者。

 どれも聞き覚えのない単語に疑問符が浮かぶ。

 多分名前から察するに、クラス間対抗競技会のようなものと、その出場選手という事なのだろう。

 

「代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席等、まぁ、わかりやすく言うならクラス委員長のようなものだ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るために行われる。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

 ざわざわとクラス全体が色めき立つ。何と面倒な仕事の多そうな役職だろうか。その分やりがいはあるんだろうけれど、進んでやりたいかと言われれば答えはNO。

 こういうのは姉さんのようなカリスマ性を持ち合わせた人がやるべきであって、指示する側を不得手とする俺のような奴がやるような仕事じゃない。

 どうせこういうものは、クラスに1人はいるであろうやりたがりに任せればいいのだ。

 

「はい!私は織斑君を推薦します!」

 

―――おい待て、今俺を推薦したバカはどこのどいつだ。

 ぶっ飛ばしてやる。

 

「私もそれがいいと思いまーす」

 

 頭が痛いとはこの事を言うんだろう。クラスメイトが口々に俺をクラス代表にする意見に賛同しているせいでそういう雰囲気に。このままだと、俺がクラス代表になるのはほとんど決定事項のようなものだろう。

 今更やりたくないとは、到底言えない状況に陥りつつある。

 

 一縷の望みをかけて篠ノ之箒の方を見る。そういえば、屋上で会話した時に、何か頼れる事があったら遠慮なく言ってくれと口にしていた筈だ。まさしくこの時が手を借りたい瞬間である。

 

―――っておい、目を逸らすな。ついさっき口にした言葉も忘れたのか薄情者。

 

「……他にはいないか?このままだと、無投票推薦で織斑がクラス代表になるが。自他推薦は問わないぞ」

「はい」

 

 凛とした少女の声が響いた。その一言だけで、俺をクラス代表に推薦する流れが出来ていたクラスの空気が一気に塗り替えてしまう。

 自然と誰もが口を閉じ、その声の持ち主に注目していた。

 

「わたくしが、このセシリア・オルコットがクラス代表に立候補致します」

「織斑先生、やりたい人がいるならその人に任せましょう。俺は辞退…いでっ」

 

 渡りに船とはまさしくこの事を言うんだろう。やりたい人がいるならその人にやらせればいい。無理やり押し付けられたのと、自ら立候補したのとでは、そもそもの取り組み姿勢に差が出る。

 それなら是非名前もよく知らないけど、立候補してくれたやつに押し付けてしまおうと思ったのだけれど、最後まで言い切る前に姉さんには叩かれてしまう。

 出席簿の角で叩かれたせいでかなり頭が痛い。あまりの痛みに涙が出てしまいそうだ。

 

「織斑。気持ちはわからんでもないが露骨過ぎだ。やりたくないから他人に押し付けてしまえ、そんな魂胆が丸見えだ」

「…はい、すみません」

 

 やっぱり、俺の魂胆はお見通しだったらしい。

 

「して、オルコット。理由を聞こうじゃないか」

「はい。クラス代表はその名の通りクラスの顔そのもの。であるならば、クラス代表はそのクラスの中で1番の実力者がなるべき、そう考えております」

「ほぅ。よっぽど自分の実力に自信があるようだな」

「一応入試主席であり、イギリス代表候補生を務めさせていただいております。最低限の実力はあるかと」

 

 入試主席に代表候補生。

 IS学園の門を叩くもの達は例外なくエリートであることは知っていたけど、この生徒はそのエリート集団のトップという事らしい。学校にロクに通っておらず、勉強が得意じゃない俺とは程遠い話である。

 これだけで、十分クラス代表を務める資格はあるだろう。代表候補生を務めているのだから、並の操縦者とは比べ物にならない実力者という証でもある。

 聞けば聞くほどこの生徒さんに任せておくのが適任な気がしてならない。

 いや、俺がやりたくないからとか、決してそんなチンケな理由ではなくて。

 

「勿論その地位に甘える事なく、これからも研鑽に努めていくつもりではあります。現に、彼は専用機持ちです。その点ではわたくしごときに大したアドバンテージがあるとは思えません」

 

(いやいやいや、主席さまが大した事ないって言っちゃったら、他のみんなはどうなるのさ。ゴミクズ以下になっちゃうけど)

 

 随分と謙遜するものである。若くして実力を認められそれなりの立場があるとなれば、天狗になってもおかしくないのだが。

 おそらく本人の性格も一つの要因ではあるのだろうけど、1番は世間の考え方が変わってきているからだろう。

 世論というものは、時に人の性格すらも左右しかねないほど影響力は絶大だ。

 こちらとしても、とっつきやすくはあるんでありがたい限りである。少なくとも一年間は同じクラスで過ごすため、棘のある人物は極力いないに越した事はない。

 

「…ねぇ、おりむーって専用機持ちなの?」

「ん?あ、あぁ、そうだけど」

 

(おりむーって何?)

 

 ちらりと視線を横に向ければ、のほほーんとした様子の生徒の姿。

 おりむーとは、俺の渾名だろうか。

 

「へー、おりむー優秀なんだねぇ〜」

「事情が事情だから、優秀かと言われるとそう言うわけじゃないんだけどね…」

 

 そう。一応俺ももう1人の立候補した生徒、セリシア?セリア?とりあえずセ何とかさんと同じ専用気持ちだ。

 ただし、俺の場合は実力を認められたというよりかは、男だからというためのデータ収集が理由ではあるのだが。

 とは言え、そんな事情を知らない一般生徒からすれば、同じ専用機持ちとしてそう見えてしまうのだろう。真実を知る側としてはなんとも難儀な話である。

 

「へー?よく分かんないけど、おりむーもフクザツなんだねぇ」

 

(複雑じゃなかったら、そもそもIS学園に居ないしな)

 

 女性にか動かせないはずのISを何故か男である俺が動かしてしまった。世界唯一の例外事例を起こしてしまった事が全ての原因なのだが。

 とは言え、それが理由で生き永らえてる部分もあるため、一概に最悪と言われればそうでもないのが実情だ。勿論、まさか、IS学園に通うことになるとは露程も思っていなかったが。

 それを伝えにきた政府役人に中指を突き立てたのは記憶に新しい。俺も何も感じないと思っているのならそれは大間違いである。

 

「そういえば、そんな話聞いたことあるかも」

「いいなー、私も専用機欲しいなぁー」

「政府の支援が出てるの羨ましいなぁ」

 

 ISはコアがなければ、いくらガワがあったとしても動かない。

 そして、ISの核となるコアをこれ以上製作者が作成しない事を公言している。

 故にISの絶対数は、463と数が決まっている。

 IS事変で4つものコアが破損修復不可能となってしまた。以前よりも数を減らした結果、より一層専用機持ちと言う肩書きはIS操縦者の絶対的なステータスになり得る。

 羨ましがるのも、仕方ない部分なのだろう。だからその分、特例措置とはいえ、専用機持ちという立場になってしまい申し訳なさが募る。

 

「では、織斑とオルコットの2名のどちらかに任せようと思うのだが、どうやって決めようか。ここは無難に投票でと言う方法もあるが…」

 

 絶対にそれだけはやめて欲しい。間違いなくロクな結果にならないはずだ。

 

「まぁ、それは私から却下させて貰おう。別の方法でいい案があるものは述べるように」

「お、織斑先生?何故投票ではダメなんでしょうか?」

 

 この生徒はそれなりに肝が据わっているようだ。姉さんが却下したものに意見するなんて中々出来ることではない。

 

「貴様らの事だから、大方客寄せパンダになるそこの馬鹿を使わないではない等と考えているんだろう?故にその方法は認められない」

 

 俺自身が考えていることを代弁してもらえるのは素直に嬉しく思う部分ではある。

 しかし、いくら気の知れた弟とはいえ、容赦なくパンダ呼ばわりするのはいかがなものかと思わざるを得ない。もう少し、オブラートに包むなどはできなかったのだろうか。

 

「では、織斑先生。わたくしと彼で試合を行い、勝者がクラス代表を務めるのは如何でしょう?」

「…ふむ。その理由は」

「簡単ですわ。彼はシミュレーションの科目だけはわたくし以上の成績を残したと伺っていますので。それであれば極端な実力差はないかと」

「確かに言いたいことは分かった。それにしてもこいつの実力を分かっているようだな」

「それは当然のことだと思いますわ。IS操縦歴がたった数ヶ月でシミュレーション成績満点を叩き出すなんてまずあり得ません。ようやく一通り操縦できるようになっていれば良い、それが当たり前なのですから」

 

 クラス中のあちこちから驚愕の声が上がり、色めき立っていく。

 確かにシミュレーションは、IS学園の入試を受ける者達に求める物としては、かなり高い難度であった事は確かだ。

 でも、あくまでそれは『そういう段階』であればの話である。

 確かに、俺自身はIS操縦者として見た場合は、ズブの素人である事は否定のしようがない事実ではある。

 

―――しかし、『受験者』の中では唯一『実戦』を経験している圧倒的なアドバンテージがあるのだ。

 

 百聞は一見にしかず。

 ここ日本にはそんな諺があるが、まさしくその通りだろう。

 一度のミスが命取りになる戦場を経験した俺と、机の上の話の中でしか戦いを知らない者とでは、全てにおいて比べ物にならない程の開きがある。

 少なくとも俺の記憶は地獄の戦場にいた時のものばかり。平和だった日常など、せいぜいここ一年程くらいしか存在しない。

 常に戦場に身を置いてきた側からすれば、たかがシミュレーション程度の、『だだのデータでしかない仮想敵』を相手にするという事は余りにも緩いと言わざるを得ないだろう。むしろ、この程度で他の生徒に遅れを取るようでは『異能者』としての存在理由がないのと同じだ。

 

「…織斑。お前はオルコットの意見をどう思う?」

「いや。まぁ、良いんじゃないですかね…」

 

 『大丈夫なのか?』そう言いたげな、姉の目を視線が重なる。この姉にしては珍しく、俺を心配してくれている声色だ。

 

「実力者がなるべきって意見は賛成なんで。その方が白黒はっきりと着くでしょう?」

 

 当然懸念事項が無いわけではない。寧ろ懸念事項ばかりだ。

 きっと姉さんはそのことについて言いたいのだろう。

 しかし、客寄せとして俺を推薦したいと考えているクラスメイトと、実力者が務めるべきというオルコットの両方を納得させ、落とし所をつけるためにはこれ以外の方法はないと、そう思う。

 

「…いいんだな?」

 

 再三の確認の念が込められた視線に頷き返す。

 

「そりゃクラス代表なんてやりたくないのは否定しませんけどね。でもそこで手を抜いてわざと負けるようなことは相手に失礼なので、やるからには全力で頑張りますけど」

 

 当然のことだろう。

 死神が釜を掲げて今か今かと笑う戦場とは違い、ここで行われる決闘においては死ぬ事は絶対に有り得ない。

 敗北したとしても次がある、平和な世界なのだ。

 だからこそ、全ての決闘において全力で挑む事が求められる。

 見方を変えれば温いのかもしれないのだけれども、むしろこんな平和な世界だからこそ許される娯楽なのだから。

 そこに八百長やイカサマなんて存在して良いわけがないのだ。

 

「オルコット。お前も構わんな?」

「当然ですわ」

「では、話はまとまったな。試合は一週間後の月曜、放課後、第三アリーナで行うこととする。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように」

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