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高い評価をいただけてびっくりする反面モチベーションに繋がり嬉しく思います。
私事の都合により投稿頻度は落ちますが、頑張っていこうと思います。
―――お、おにぃ、ちゃん?
「……………」
はっきり言おう。ドン引きである。
頭がおかしいやつに遭遇した時、選択肢は主に二つあると思っている。
一つは、そいつの存在を完全に無視して相手にしないこと。そんな連中は、大抵周りが反応することに喜んでしまうので効果的。
そして、もう一つがその場から離れてしまう事。物理的に同じ空間にいなければ、巻き込まれることはない。最も確実で安全な方法でもある。
「……あ、えっと。失礼しましたー」
「あっ!ち、ちょっと待って!」
そして俺が取った選択は当然後者。
逃げるが勝ちというわけである。というかそもそも、そこに地雷カマあると分かっていて踏み抜きに行くような馬鹿ではない。馬鹿なことだけは自信がないけど。
ビデオの逆再生の如く教室から出るとすぐさま回れ右。
(やばいやばいやばいやばいやばい!)
そしてそのままダッシュで教室から1秒でも早く走り去る。その素早さはまるで脱兎の如く。
自慢ではないが今の俺ならば世界を狙えるのではないか、そう自信を持って言えるくらいの全力疾走。
フラッシュバックの後遺症で妙に体がだるいとか、頭痛がするとかそんなものはこの際気にしていられない。
というよりも、そんなこと気にしている場合じゃない。とにかく目の前の脅威から逃げることが先決である。
(馬鹿か、馬鹿なのか、馬鹿だろ!?)
初対面の奴に対しての第一声が「おにいちゃん」などと口にする奴は関わらないが吉。そんなの満場一致の反論の余地もなく、頭のネジがまとめて10本近くぶっ飛んでる以外のなんでもない。
「こんなのあんまりすぎるだろぉぉぉ!!」
織斑一夏15歳。心の底から全力で叫んだ。
もしかしたら、これは大人しく保健室で休めと、姉さんの言いつけを素直に守らなかった罰なのかもしれない。
こうなることが分かっていたのなら、暇だからなんて理由で保健室から抜け出す馬鹿な真似なんてしなかった。人の言うことはやっぱり大人しく聞いておくべきだったと少し後悔。
後悔したところで遅いのだけども。
―――ごめんなさい姉さん。説教はいくらでも受けるから、今はこのやばい状況から俺を助けてほしい。
正直なところ、あまりの恐怖に軽く泣いてしまいそうだ。まさしく気分はホラー映画で逃げ惑う登場人物のよう。
下手な怪奇に追いかけ回される方がよっぽどマシだ。中途半端にわけがわからない奴よりも、得体の知れない人間の方がよっぽど怖いと思う。
反撃したくても一歩間違えれば大怪我をさせかねないのが厄介だ。そもそもそんなのに近づきたいとすら思わないけども。
「見つけたっ!」
「どぅわっ!?」
―――何でこいつ全力で逃げる俺に追いつけるんだろう?俺、一応異能者なんだけど。
頭の中にそんな疑問符が浮かぶところではあるのだが、今はそんなことを悠長に考えている場合ではない。
ほぼトップスピードに近い状態で駆け抜けているところへ突然何かが飛び出してきた場合、止まることは不可能である。
「え?あ、あっ!と止まってぇぇ!!?」
「無茶言うんじゃねぇぇ!!」
どうやら相手の生徒もこれからどんな大惨事が起こるのかようやく気がついたのだろうけれど、時すでに遅し。
「うぉらぁっ!!」
そのままぶつかってしまえば大怪我するのは間違いないのだが、自分を庇うようにして身を固めてしまっている相手に回避してもらうことも期待出来ない。
でも、予定調和のまま素直に怪我をしたいわけでもないのであって。てか、これ以上何かやらかして姉さんにバレようものなら本気の折檻が待っているのは確実なので、それだけは本当に避けなければならない訳で。
幸いすぐ側にあった壁に思いっきり手をついて強引に進路変更。当然無茶した上のことなので、完全にバランスを崩して、廊下を転がり回る羽目に。でも脇をすり抜ける形で衝突を回避できたのは御の字だろう。
この間僅か0.3秒。我ながら素早い判断だと思われる。
「さらばだ!」
「あっ、ちょっと!?」
そして脇をすり抜けたと言うことは、それすなわち逃げ道を確保できていることであり。それなら、またここから逃走しない理由はどこにも存在しないわけで。
早々にこの場所から離れたい。そもそも、こんなやばいやつとは一生関わりたくないので顔も見たくない。
俺はもうその一心しかないのである。
状況を飲み込めず動けずにいる女子生徒を尻目に置きながら態勢を立て直して再度駆け出し、非常口階段につながるドアをほぼタックルするかのように押し開けると、踊り場から『一切躊躇うことなく飛び降りた』
「え”っ!?ここ、4階!?」
本来なら自殺行為にも程がある高さではあるのだが、生憎俺は『異能者』として常人とは比べ物にならない程身体能力が強化されているので何も問題ない。
勿論かなり高いので怖いものは怖いけれども、5点接地などの適切な着地を取れば良いだけなので、あとは度胸あるのみ。
4階から降りる時間がどれだけかかるかは未知数だけれど、相当時間を稼げたんじゃないかと思う。それこそ、俺や姉さんのように似たような無茶な逃走追跡方法を平然とこなすやばい奴じゃない限りは。
まぁ、そんなことする奴が他にゴロゴロいたら、それはそれで怖いけれど。
「待ってってば!」
「馬鹿め!待てと言われて素直に待つ馬鹿は居ないんだよ!」
取り敢えず。
後方から聞こえてくる叫び声を尻目に寮への道のりを急ぐ。寮の自室に逃げ込んでしまえば、流石にそこまでは追いかけてこないだろう。
逃走中、夜のIS学園編が開幕されーーー
「清々しいまでの良い夜だな織斑?そんなに慌ててどうした?」
―――ませんでした。
「馬鹿どもが。よくもここまで騒いでくれたな?え?」
「「………」」
―――やっべ、めっちゃブチギレてる。
額に青筋を浮かべ般若の如く怒りを露わにしている姉さんと、頭に大きなたんこぶを拵えて正座をする馬鹿2人の構図。
残っていた仕事を終わらせると言って姉さんは保健室を離れたのだから、当然校舎内にいる訳で。そんな最中大声上げながらドタバタと学園内を駆けずり回るようなことをしてれば、見つかるのは当然の結末だった。
「特に織斑。お前は何故保健室から抜け出している?大人しく休むようにと言いつけたはずだが?」
「……」
全くもってその通りなので、反論する余地は存在しない。
気まずさに耐えられなくなりサッと視線を逸らせば、その瞬間怒りのボルテージが強まったのは気のせいであって欲しかった。
「ア、エット、ゴ、ゴメン、ナサイ」
姉さんが俺が思う世界で1番怖い存在である訳で、しかもブチギレているともなればもう生きた心地は当然するはずもなく。ガタガタと震えながら両手を着いて頭を下げる、所謂土下座をしてどうにか許してもらえることを願うしかないのだ。
土下座をするのは恥ずかしいとか、プライドが許さなとか。
そんなクソのほどにも役に立たないものなんて、掃いてゴミ箱に捨ててしまえばいい。
今はこの場を乗り切ることが最優先事項である。
「そして更識。お前も何をやっている?」
そして、怒りの矛先は隣の生徒の方へ。どうやらこいつは更識という名前らしい。
まぁ、2度と関わろうとは思わないので、名前を覚えようなんて気はさらさらないんだけれども。
「…え、えっと」
どうやら姉さんの殺気立つ怒りに当てられたらしく、ガタガタと涙目で震えているらしい。数年一緒に暮らしている俺でさえ、姉さんに怒られるのは体の底から震え上がるほどに恐ろしいのである。ただでさえ今日の姉さんは過去1番にブチギレていると言っても過言ではないので、更識とかいう生徒には生きた心地がしない筈だ。
因みに初めてブチギレさせた時にはあまりの怖さに気絶したのは秘密。
「お前は代表候補生だろう。他の生徒よりも自覚ある行動を求められる立場であるのにも関わらず何をしている」
「………」
「場合によっては私とて擁護できんぞ」
「……職権濫用してまで俺のことは庇うくせに」
「織斑何か言ったか?」
「いえ!なんでもありません!」
ポロッと口を滑らせてしまう癖を何とかしないと命がいくつあっても足りないかもしれない。
というか更識のやつが代表候補生だったとは。
俺の知る代表候補生―――オルコットしか知らないけれど―――は、しっかり者のイメージがある。
オルコット自身も自分の立場に驕ることは決してすることはなく、求められる立場の者としての責務を全うする気概を見せていた。筆記実技含めて色々とアドバイスをしている姿を見るし、クラスメイトからの信頼も極めて高い。
「…織斑、凄い何か言いたげな顔をしているがどうした?」
「いや、こんな奴が代表候補生とか世も末だなって」
「ち、ちょっと!?」
「お前は容赦というものを知らんのか…」
同じ代表候補生のオルコットと比べるとどうしても、まともな評価が出てくるとはどうしても言えない。
確かに代表候補生になるのに相当な努力が必要で、一握りの天才しかなれないことは知っているけど、更識に対しては微塵も前向きな感想は出てこない。
これこそ、馬鹿と天才は紙一重という言葉がぴったりなのだろう。
「…そもそもだ。お前たちは何故学園内を走り回っていた?クラスも違うお前たちに接点はないだろう?」
おっしゃる通りで。
「いや、こいつがいきなりモゴモゴ…」
「絶対に言っちゃダメ…!」
言い切るよりも前に更識に押し倒されたかと思えば口元を押さえつけられてしゃべれなくされてしまう。
よくよく見てみれば更識の顔はゆでだこのように真っ赤になっていた。どうやら、自分でもとんでもないことを口走った自覚はあるらしい。
とは言え。
俺はヤバい奴から逃げていただけなので自分の潔白は証明させてもらうことにする。こいつが恥ずかしがろうがなんだろうが俺に知ったこっちゃない話なのである。
という訳で離してもらおう…
―――ってこいつ力強っ!びくともしないんだけど!?
本当にこいつの細い腕の何処にこんな力があるのかが全くわからない。これ以上無理やり引き剥がそうとすると、下手すれば骨を折りかねないから難しい。
でも、このままやられっぱなしでいるのも、それはそれで癪なのだが。
「馬鹿どもが。いきなり何をやってる」
風切り音が二つ。
それの正体が姉さんの振り下ろした出席簿の音だと気づいた時は、頭部に走った激痛がある程度治ってからだった。
………本当に姉さんってこういう時容赦ない。
「何があったか知らんが、喧嘩なら外でやれ。これ以上ふざけるというなら、私にも考えはあるぞ」
更識の方も痛みに悶えているのは同じらしい。
だけどいつ取り押さえられるか分からないので、ここぞと言わんばかりに叫ぶ。
「だってこいつが開口一番に『おにぃちゃん』とかいうんだって!そら、逃げるでしょ!?絶対こんなヤバい奴関わりたくないって!」
「………ゑ?」
「あっ!?」
ポカンと宇宙猫の如く、目を丸くするのは姉さん。
やりやがったなこいつと激情に顔を染めるのは、更識。
そして、ドヤ顔をしてるのが当然俺。
この勝負俺の勝ちである。
「……更識お前。そんな趣味があったのか?」
「あっ、いや、その……」
その反応は当然だろう。
初対面にいきなり「おにぃちゃん」呼びをかます奴が居たら誰だってこうなる。当然姉さんも数歩更識から距離をとっているんだから。
「まぁ、うん。その、なんだ?趣味嗜好は人それぞれだから否定はしない。しかし、流石に表に出すのはやめておいた方が今後のためだと私は思うぞ?」
「ち、違うんです…」
「いい。大丈夫だ更識。私はお前の味方とは言わんが、敵にはならんから安心してほしい」
「誤解なんです…!」
何をどうしたら「おにぃちゃん」呼びが誤解になるのかわからないから、是非教えてほしいところ。どうせ言われてもこいつの事だから分からないんだろうけれど。
あたふたと言葉にならない声を発する更識と、ドン引きする姉さんを眺めつつ、足の感覚が無くなりつつある足をさする。
そろそろ正座は勘弁してほしいところではあるんだけど、多分この調子ではしばらく続きそうで気分が沈む。
意味深な表情を浮かべながら黙りこくる姉さんがちょっとばかり気になるところではあるんだけど、ここは大人しく待っている他ない。
これ以上姉さんを刺激して怒らせたくなんてないからだ。
「……なんかもう面倒になってきたな」
「姉さん?」
それでいいのか教師。
「お前たちには罰として1週間の間、サブグラウンドの清掃を言いつける。意義は認めないのでさっさと帰れ」
……なんで?