もしも、織斑一夏がバケモノだったら   作:σみるくてぃーσ

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「来週に控えていたオルコットと織斑との試合についてだが、急遽中止する事となったので各自把握するように」

「お、織斑先生?何があったんですか?」

「織斑がIS適応障害を発症したからだ。当然治療に専念させる以上試合は認めるわけにはいかん」

 

(………えっ?)

 

 姉さんが発した言葉に、クラス全体が困惑する空気に包まれた。その中の声の一つは当然俺の物も含まれている。

 

(俺何も知らないんだけど…?)

 

 オルコットとの試合を中止にするためどうにかするとは聞いてたけど、ここまでやるなんて聞いてない。

 

 

 

「ねぇ、織斑君。IS適応障害になったって本当なの?」

 

 どうやら、姉さんが授業開始早々に口にした事が相当気になっていたようで、授業が終わった途端に女子生徒が詰め寄ってきた。どうやらクラスメイトたちが聞きたい事を代弁しているようで、皆んなが聞き耳を立ててこちらに集中している。

 

「あ、まぁ、タイミング悪くなっちゃったみたいで…」

 

 心配してくれるのは素直にありがたいことではあるんだけれども、実際のところ全くもってそんな事実はないので反応に困る。

 全部姉さんの嘘っぱちなんだよねと、喉元まで出掛かっていた言葉をどうにかして飲み込んだ。

 

 IS適性障害。

 それはIS操縦者には決して避けて通ることができず、操縦者である限り常に発症するリスクが存在する病気だ。

 ISは身に纏い身体とのリンクによって操縦する関係上、ISをどれだけ自在に動かせるかの指標となるIS適性が極めて重要となってくる。それは自分の手足のように違和感なく動かせるかが適性一つで大きく変化するため。

 そしてIS適応障害と呼ばれる病気は、自身とISとの間におけるリンクにトラブルが起きることで発症する、スリートなどにおけるスポーツ障害のようなものだと思えば分かりやすい。

 

「それって、IS操縦者として使い物にならなくなる奴だよね?大丈夫、なの…?」

「本当に最悪の場合は、だろ。幸い大したことないから安静にしていれば問題ないってさ」

 

 ISとのリンクのバグにより体の感覚のバランスが崩れてしまうため、思うように体が動かせなくなったりするのが主な症状が引き起こされる。

 最悪の場合は自分の感覚と現実が乖離しすぎて廃人になったりすることもあるけれど、それは極めて稀なことなのでそんなに恐るものでもない。

 

「大人しく薬飲んでればこれ以上悪化することもないし、全然治る範疇だし」

「でも、再発することだってあるって」

「大丈夫だって。第一再発する確率だって天文学的な数字だって話だったし」

「飛行機事故に巻き込まれるのと同じくらいの確率だっけ?」

「そ。そもそも発症するのすら稀なのに、再発までするなんてどんだけ運ないんだって話だからな。だから実際は大したことないんだって医者が言ってた」

 

 まぁ、IS適応障害の怖さばかりが一人歩きしてしまい、思った以上に恐れられているだけなのだろう。

 俺からすれば、発作を誤魔化すためとはいえ、IS適応障害を隠れ蓑にしている方が心が痛むというか。

 

(……姉さんやってくれやがったな)

 

 どちらにせよ、IS操縦者を目指すものたちからすれば、この手の話題は避けるべきという認識があるらしいので申し訳なく思う。

 気がつけばクラス全体の雰囲気もやや堅苦しいものになってしまっていた。

 

「それなら良いんだけど……」

 

 正直笑って誤魔化してはいるけれども、内心では冷や汗モノである。なんだか胃がキリキリと痛む気がするくらいだ。

 確かに誤魔化すために都合のいい理由が思いつかなかったし、姉さんに一任してしまったので俺にも原因はあるのだが。

 それでも、まぁ。

 流石に今回ばかりはやりすぎなんじゃないかと思う。

 

「織斑さん」

「ん?あぁ、オルコットさんか。悪いな試合できなくなっちゃって」

 

 いつの間にか近くにオルコットが来ていたらしい。

 

「いえ、それに関しては気にしないで下さい。IS適応障害なんて仕方ありませんもの」

「どうも。理解が早くて助かる」

「なので、今は治療に専念してください。万が一と言うことも考えられますから」

「……はは、そうさせてもらうよ」

 

 今はオルコットの優しさが胸に突き刺さる。内心を誤魔化すように笑うけど、ぎこちなくなっていないか不安だ。

 

「そうなりますと、クラス代表はいかがしましょう?元々試合の勝者が就任するという話でしたが」

「……あー、そう言えばそうだったっけ」

 

 完全に更識との一件があったせいで忘れてたけど、そもそものきっかけはそれだったっけと思い出した。

 最近面倒ごとばかり多くて嫌になりそうだ。大人しく静かに余生を過ごせればいいと思っているのに、今のところ真反対の日々なので悲しい。

 

「もしかしてとは思いますが…」

 

 ジトーとしたオルコットの視線から逃げるようにして視線を逸らした。

 ぶっちゃけクラス代表なんて全くもってやりたいとすら思ってなかったので、そんな記憶なんてものはいつの間にか空の彼方へ飛び去っていた。多分言われなかったら全く気が付かなかった自信がある。で、思い出した時にはあっという間にクラス代表に仕立て上げられててもおかしくない。

 

「いやそんなことあるわけないだろ?最近慌ただしくてちょっとばかり頭の中から抜け落ちていただけで」

「それを世間一般では忘れているというのでは?」

「……スミマセン」

「素直でよろしいですわね」

 

 正論の前にしょうもない言い訳など勝てるはずもなく。

 大人しく両手を上げて降参のポーズ。ここは大人しくしておくのが吉と相場が決まっているのだ。

 そんな俺のプライドもへったくれもない姿に「まぁ、いいですわ…」とため息を吐きつつオルコットは続ける。

 

「試合が出来なくなってしまったので、本来なら別の方法で決めたいところ、ですが」

「ですが?」

「治療に専念する都合上あまり時間も取れないでしょう。なので、一旦ここはわたくしがクラス代表を務めることにいたします」

「え?いいのか?」

「いいも何も、織斑さんは暫くISに乗れませんのよ?そんな状態で来月に控えているクラス対抗戦に出るつもりで?」

 

 クラス対抗戦。

 その単語に聞き覚えはあるんだけど、いまいち何のことだかはっきりと思い出させない。例えるならくしゃみが出そうで出ないみたいな、もどかしい感じか。

 

「……本当に何も覚えていないんですの?」

「おう」

「全く……逆にそこまで堂々とされると調子が狂いますわね。取り敢えず、織斑さん貴方は治療に専念してもらえれば結構ですので」

「そりゃあ助かるよ。悪いなそこまで気を遣ってもらっちゃって」

 

 出来ることならそのままオルコットをクラス代表に仕立て上げてしまいたい。そうすれば俺がクラス代表に就任する理由は無くなるのでぜひ頑張ってもらいたいところ。

 やるからには全力とは言ったけど、やらなくて済むなら俺は全力でそっちの選択を取るのがポリシーなのだ。

 

「た・だ・し!」

「お、おう?」

「わたくしがクラス代表を務めるのはあくまで仮である事をお忘れなきよう」

「えー」

「えーじゃありませんわよ、えーじゃ。兎に角仮ですので、貴方の治療が終わり次第、改めてクラス代表を決めるための試合は行わせていただきます。なので、甘い考えは捨ててくださいまし」

「……」

「この条件を飲んで頂けないのであればわたくし、貴方の治療が終わるまでの代理と言いふらして、逃げ道無くしますので」

「全力で治療に専念させてもらいますので、どうかそれだけはご勘弁を願えないでしょうか?」

 

 なんて恐ろしい事をしでかしてくれやがるんだろうかこいつは。てか、オルコットの掌の上で転がされている気がするのは俺だけか。

 やり口がまさしく姉さんそっくりなんだけども、まさか数日のやりとりを見て学んだとでも言うのか。

 だとしたらオルコットはこれから先かなり厄介な敵になりうる。

 姉さんのような手口で言いくるめてくるやつが2人もいるなんてたまったもんじゃない。

 

「最初からそう言っておけばよかったものを」

「うるせえ」

「面倒臭いだなんて理由で辞退などさせるつもりはありませんので、お間違い無いよう」

 

 こうなったらずっと治療中と言い張ってオルコットを実質的なクラス代表に仕立て上げるしか……

 

「ちなみに。治療の進捗程度はしっかりと織斑先生に確認いたしますので、ずっと治療中なんて言い訳はさせませんわ」

「……」

 

 ……どうしてバレたんだろう。

 

「貴方の考えていることはお見通しですので」

 

 そのオルコットの言葉に俺はもうガックリと項垂れるしかなかったのは言うまでもない。

 にっこりと笑顔を浮かべるオルコットが今は末恐ろしかった。

 

 

 

 

「ねぇ。IS適応障害になったって本当なの?」

「……お前もかよ」

 

 時間は過ぎて放課後。ここのところの日課になりつつあるサブグラウンドの掃除の最中更識がそんな事を聞いてきた。

 こいつ本当に掃除中だろうが構わず話しかけてくるけど、終わらせようという気持ちはないのだろうか。さっきから全く手を動かしておらず、箒が手持ち無沙汰になっているのに気づけと言いたい。

 こいつのせいで掃除が長引いていること分かってるのだろうか。

 

「なんでお前知ってんのさ。その話出たの今朝のことだぞ」

「なんでと言われても…噂が回ってきたとしか」

「流石に早過ぎないか」

「おしゃべりな人多いから。女子の噂話好きは舐めないほうがいいよ」

「嘘だろ」

 

 え…こわ…

 

「もしかして、昼飯の時になんか視線を感じたのって」

 

 脳裏に浮かぶのは今日の昼のこと。今思い返してみれば、同情的な視線を向けられていたような気がする。

 その時はあまり意識しないようにしていた、というよりかは何も考えないようにしていたのだが。

 

「多分その時には噂が広まってたんじゃない?私もお昼に聞いたし」

「やっぱりかぁ……」

 

 噂話の中心点が自分なのは、あまり気分の良いことではないのは確かだ。

 まぁ、それもそれで世界初の男性IS操縦者であり、IS学園に入学なんてやらかしてるので今更だけども。

 なんで本当に俺がISを動かせるのかが分からない。『異能者』の俺からすれば、対IS用に作られた兵器なのに、その兵器を動かせる唯一事例の男になるなんてただの皮肉だ。

 

(どういうことか説明してくれよ、束ねーさんよ……)

 

 ここにいないIS開発者に愚痴るものの、当然本人に届くことはない。

 そもそも、ずっと行方をくらましているので全く事情すら説明を受けられていなかったりする。 

 

「やっぱりって?」

 

 独り言のつもりだったが、どうやら聞こえていたらしい。

 

「いや、別に大したことじゃない。なんとなくそんなことだろうなって分かってたからさ」

「そういうものなの?」

「そりゃ、昨日今日で話題になるって言ったらIS適応障害くらいしかないしな」

 

 女子の噂好きが更識の言うとおり本当なら、俺のことはまさしく話題の宝庫そのものだろう。そんな中に朝の一件の話題が投下されたのなら、まぁ、こんなことにもなるんだろう。

 個人的にはこの広まる早さに恐ろしさを感じるが。

 

「まぁ、でも逆に良かったと思うけど」

「何が」

「だって、いちいち説明する手間が省けたでしょ?」

「それは、そうなんだけどさ」

「面倒臭いし」

「言わんとすることは分かるけど、ちょっと違うんじゃないかなぁ…?」

 

 ここ数日更識と関わるようになり、大分どんな性格なのか見えてきたとは思う。おとなしそうな見た目からは想像できないくらい意外と口が悪いし、物言いも時折容赦ないところがある。

 その酷さは赤の他人―――であると思いたい――の俺ですら、「こいつ、大丈夫か」と不安に思う程。

 

「本当のことでしょう?それに話題が話題だから、向こうから勝手に遠慮してくれるし楽だもん」

「流石にそれは言い過ぎじゃないか?下手すれば嫌われてもおかしくないと思うんだけど」

「安心して、貴方にしかこんなこと言わないから」

「そ、そうか」

 

 まぁ、ここまで酷い言動は周りから人が離れて行ってもおかしくないので、俺にだけならまだマシなのかもしれない。

 

(……ん?果たしてこれは安心して良いのか?)

 

 なんだかいまいち釈然としないけど、細かいことを気にしたら負けと言うことにしておこう。

 少なくとも俺がどうにかできる問題じゃないはずだし。

 

「それに私からすれば貴方をこき使える方が重要だからね。正直そのことは気にならない」

「そう言えばそうだったよチクショウが…!」

「本音には感謝してもしきれないね」

 

 そう。

 俺は何故かこいつの小間使いをしなきゃ行けなくなってしまったのだ。

 全ての原因は、クラスで俺の隣に座っているのほほーんとした雰囲気の生徒だ。

 名前を布仏本音とか言う奴でどんな偶然なのか、こいつとの知り合いだったのだ。しかも、IS適応障害の治療が投薬くらいだと知るやや否や、俺はそいつに更識のところに連れてこられたと言うわけである。

 

「いや、確かにお前のISの開発が遅れてるのは確かに俺なのかもしれないけど、流石に遠慮してくれないかね」

「……なんで?貴方が原因だからしっかりと責任とって貰わないとね」

「……クソがよ」

 

 どうやら、俺のISである白式の開発元の倉持技研は、元々こいつのISを開発していたらしい。だけど、俺がISを動かしてしまったばかりに、そっちの人員を全て俺のIS開発に回してしまったらしい。そのせいで更識のISは手付かずのまま放置されているとか。

 全部こいつのISをほったらかしにしてまで白式の開発を強行した倉持技研が原因なので、俺は全く悪くないと思いたい。

 なんで俺はこいつとの関わりが断ち切れないんだろうか。

 

「どうせ暇だろうしそれくらい良いと思うけど」

「なんで人のことを暇だと決めつけるんだ。俺にだって予定があるんだぞ」

「毎日性懲りも無くここに来るくらいだし、どうせ試合が無くなったから準備する必要もないでしょ?」

「お前なぁ……」

 

 確かに何も間違ってないので、何も言えないところではあるのだが。

 実際問題これから放課後どうやって過ごそうか悩んでいたけれども、こんなのあんまりだ。

 

「てか、俺ISの知識に関してはただの素人だから役に立つとはおもないんだけど?」

「大丈夫。雑用とか荷物持ちしてもらうから覚悟して」

「そこで安心してじゃないのがお前らしくて泣きたくなるよ……」

「だって散々私のこと馬鹿にしてきたからね。貴方に容赦する理由なんてないよ」

「……」

 

 俺が散々馬鹿にしたこと未だに根に持ってやがる。

 やっぱりこいつの性格は最悪だ。

 

「どうしたの。何か言いたげだけど」

「……なんでもねぇよ」

 

 もうやだ。

 IS開発さっさと終わらせて、本当にこいつとの縁を次こそ断ち切ってやる。

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