歴史の立会人に   作:キューマル式

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なんとこの作品が、月間ランキング1位になれました!
こんなにうれしいことはない……!
読者のみなさんには感謝です。
これからもがんばっていこうと思います。

今回は開発話、強力水泳部員の誕生です。


第10話 躍進するメカニズム

 宇宙世紀0079、4月。

 ジオンの北米戦線は支配地域を盤石とするために動いていた。

 

 ガルマは各地の晩餐会などに精力的に出向き北米大陸の有力者たちと接触、そのパイプを使ってジオン軍に敵対しないようにロビー活動を行っている。流石はザビ家の男、そういった行動は上手い。

 同時に、この忙しい中に一部部隊を裂いてまで戦禍に巻き込まれた民間人への救援などもガルマは積極的に行い、同時に民間人に対する非道は厳罰に処すると全軍に徹底した。

 ザビ家はどうか知らないが、ガルマ本人のジオン国民を思う心は本物だ。そして占領下でも紳士的に、本国のジオン国民に接するように占領下の民間人に接することを心がけたのである。ザビ家という政治中枢の人間であることで培われた『国民感情に対する配慮』を、意識せずに発揮した形だろう。

 おかげで北米でのジオン軍の評判は悪くない。むしろそれなりに受け入れているといった風潮すらある。

 ただ、その中でガルマはニューヤーク有力者の娘、イセリナ・エッシェンバッハという娘と出会ったそうで、その娘に心奪われてしまったようだ。相手もまんざらではないらしい。

 

「君やシャアの言った通り、地球では良い出会いがあったよ。

 この間もイセリナは……」

 

 仕事も終わり、夜に突然指令室に呼ばれたと思えば、酒盛りと称したのろけ話を聞かされるハメになった。何とも歯が浮くようなのろけ話を友人ということで黙って聞いてやれた私の精神力は、さすがニュータイプと自分を褒めてやりたいところだ。

 

 一方、ジオン軍としては北米に残存していた連邦の残党部隊を掃討していたが、これが中々上手くいかなかった。

 北米は未だ一部地域が連邦の制空権であり、その場所に南米から空輸などによって補給が行われていて連邦残党が抵抗を続けている。また海に面した部分でも一部連邦の勢力は残っており、南米から船舶や輸送機による補給が届いているらしく、未だ頑強な抵抗をする地域もある。その戦力には未だに機甲戦力が多数残存しており、決して甘く見れる戦力ではなかった。

 

 戦場は膠着状態の様相を呈しているが、この間にも広がる戦線に対応するため兵器の生産と配備は急ピッチに進んでいる。ドムは第三次生産と合わせてキャリフォルニアベースだけで70機ほどがすでに戦線に投入された。オデッサなどを足せば、すでに100機以上のドムが前線に投入されたことになる。これを多いと見るか少ないと見るかは考えどころだ。

また制空権確保のための戦闘機『ドップ』。行動範囲を広める『ガウ攻撃空母』や『ファットアンクル輸送機』といった航空機も充実させている。

 陸上戦力も主力戦闘車両である『マゼラアタック』に、小規模移動基地とも言える陸戦艇『ギャロップ』の生産も開始した。

 また軍の眼となる偵察機……ミノフスキー粒子下ではレーダーの使用には制限がつくので高度な情報収集力を持つ偵察機の有無は死活問題に成りえる。これは従来の偵察航空機の『ルッグン』、そして一部のザクを改修し『ザク強行偵察型』として投入している。

 これらジオン軍は兵器生産に余念がない。

 そして、私も新型のモビルスーツの開発に忙しい日々を送っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙世紀0079、4月28日。

 

「よし、ではテストを始めてくれ」

 

『了解。 マリオン・ウェルチ准尉、テスト開始します』

 

 私の言葉と同時に、マリオンの操るドム改修型、『ドワッジ』が走行を始める。

 ドワッジは外見はほとんどドムとは変わらない。しかし、内部的には防塵フィルターの強化や追加プロペラントの増設にジェネレーター出力の上昇、冷却機能の強化に各関節の反応強化という総合的な強化が為されている。

 

「調子はどうか?」

 

『良好です。 ドムとあまり変わらないはずなのに、そのくせ動きに癖がない』

 

 マリオンの驚きの声に、私は満足げに頷く。

 ドワッジは一年戦争期のドムの最終量産タイプである。その性能は陸戦においてなら最優秀であったとすら称され、後年でもジオン残党軍によって運用が続けられているくらいだ。

 その後も一しきりのテストを行ったが結果は良好、これをもって現在のドムの生産ラインに手が加えられ、少しずつ生産はドワッジに変わり、すでに生産を終えたドムも順次ドワッジへの改修作業を行っていくことになる。

 

「ドワッジは問題無さそうだな。

 では、次のテストに移る」

 

 その言葉に、私の隣でメイ嬢が頷いた。

 

「ハイゴッグ試作1号機から3号機まで、テストを開始してください」

 

『了解、ハイゴッグ試作1号機、エリス・クロード准尉、テストを開始します』

 

『同じくハイゴッグ試作2号機、ニキ・テイラー准尉、テストを開始』

 

『ハイゴッグ試作3号機、レイチェル・ランサム准尉、テスト開始します』

 

 メイ嬢の指示と共に、今回の本命とも言える青い機体が立ち上がった。全体的に丸みを帯びたその形状は水陸両用モビルスーツのそれである。

 このモビルスーツは『ハイゴッグ』、ツィマッド社の水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』を再設計したものである。

 そもそも、ツィマッド社の水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』はジオン軍が初めて正式採用した水陸両用モビルスーツである。

 早期から地球侵攻の可能性を考えていたジオン公国はジオニック・ツィマッド・MIPの各社に水陸両用モビルスーツの開発を依頼していた。

 そのうちジオニック社はザクをベースとして『ザクマリンタイプ』を作成するが、その性能は軍の要求を満たすことが出来なかった。

 一方のツィマッド社はこの『ザクマリンタイプ』のデータから、新規に水陸両用モビルスーツである『ゴッグ』を完成させるに到り、これをジオン軍は正式採用することになる。

 ちなみに、この水陸両用モビルスーツの開発に一歩出遅れたMIP社だが、MIP社はその後も研究を続け、水陸両用モビルスーツの傑作機『ズゴック』の完成に至るが、それはまだ先の話だ。

 閑話休題。

 

 とにかくこのゴッグ、地球降下作戦にも投入されサイド3で造られた実機がこのキャリフォルニアベースにもあるのだが、これを水陸両用モビルスーツの主力にするのは些か問題だ。

 水圧に耐えることを中心にしたために厚くなった装甲と、水冷式を取り入れたためメガ粒子砲を撃てるまでに至った高出力ジェネレーターと見るべきものは多いが、ゴッグは陸戦能力と機動性が劣悪という欠点があった。そこでそのゴッグを、まるで別物と言えるほどに全面的に改修したのがこの『ハイゴッグ』である。

 

 このハイゴッグが完成すれば、ジオン公国の海洋支配は問題ないところになるだろう。ある意味ではジオン公国にとって何より重要なモビルスーツかもしれない。

 

「よし。

 水中は地上とは勝手が違う。 ある意味では宇宙よりも人類の侵入を拒む世界だ。

 眼に見える計器すべてに気を配り、目に見えぬもの、気配にも気を配れ。

 機体を押し潰そうとする水圧の気配すら、感じ取れ。

 細心の注意を払い、テストを続けろ」

 

『『『はい!』』』

 

 私の言葉に3人は答え、ハイゴッグが水中へとその機体を沈める。

 そこからの各種テストは良好なものだった。

 ゴッグの重装甲をオミットしたために得られた軽量ボディによる機動性と、それによる格闘性能の向上。武装の見直しによる攻撃力の上昇。

 そして……。

 

「それではビームカノンの射撃実験を開始して下さい」

 

 ハイゴッグの腕部には、メインウェポンとしてゴッグの腹部メガ粒子砲を小型化したビームカノンが装備されていた。

 ゴッグにはジオン軍初となるメガ粒子砲が搭載されていた。これは水冷式の大出力ジェネレーターの採用によって有り余るほどの出力を得られたためである。しかしこのメガ粒子砲は収束率が低く、射程が短い上に威力・連射性に乏しくおまけに異常に重かった。ゴッグの本体重量が80tほどなのに、このメガ粒子砲だけの重量が30t以上である。その収束率を高め、小型化したものがこのハイゴッグのビームカノンだ。

 

『エリス機、射撃します!』

 

 ハイゴッグ試作1号機が放ったビームカノンは、敵に見立てた鋼板に風穴を開けた。この鋼板はザクⅡの装甲を想定しており、その威力の高さを窺える。

 

「凄い……これがビーム兵器の威力……」

 

「これでも大気圏内ゆえに威力は軽減されているのだ。

 これが宇宙でならどうなるか……」

 

 私の言葉に、メイ嬢がブルリと身体を震わせる。ビーム兵器の恐ろしさというものを思い知ったのだろう。

 

「……何故私がビーム兵器にこだわるか、分かるだろう?」

 

「うん……。

 お兄さんが今手掛けてるモビルスーツ用の手持ちビーム兵器って……出来そうなの?」

 

「何、目処はついた。

 そうかからずに……そうだな、来月にはお披露目できるだろう」

 

「そんなに早く!?」

 

 メイ嬢は驚きの声の後に、眼をキラキラと輝かせる。その表情は早く見せて欲しいと言うのがありありと分かる。私はそれに苦笑すると顎でモニターを指した。

 

「気になるのは分かるが、今は目の前のテストとハイゴッグの実用化が先だよ」

 

 言われて、ハッと気づいたようにメイ嬢はモニターへと視線を戻す。そんな中でも、ハイゴッグは次々にテスト内容をこなしていた。

 結果は良好、細かい手直しは必要になるが実用に耐えるだけの結果が出ている。その結果にメイ嬢を含めたスタッフたちが湧き立つ中、私はしばし考えていた。

 ハイゴッグは間違いなく優秀なモビルスーツだ。これで水中と水辺の戦いでジオン軍が連邦軍に押されることはないだろう。

 しかし、果たしてそんな優秀なモビルスーツをいくら開発したところで連邦に勝つことができるのか?

 連邦の生産力は絶大である。その圧倒的物量でモビルスーツの量産をされれば果たして押し返せるのか……?

 

「……」

 

 いや、私の知る原作では連邦でモビルスーツの量産体制が確立されるのは10月~11月といったところ、まだ時間はある。

 それまでにハイゴッグによって南米の調査を行い、ジャブローの位置を特定する。そこを攻めて連邦の息の根を止めるのが良いだろうか?

 

(幸いまだ時間はある。 今は地盤を固める時期だ。

 今のうちに功績を上げ、人脈を増やしながら開発を行い、好機を待つしかない……)

 

 そう思う。 まだ時間はある。

 だが……私の勘というか、何かが囁くのだ。

 

『そう上手くは行かんぞ』、と。

 

(このザラつくような、肌にまとわりつく嫌な予感……。

 何かが起こるというのか?)

 

 不吉な予感を感じて、未だ喜び合うスタッフを尻目に私は手元の端末でファイルを開く。

 そこに映し出されているのは、今の時代では存在できるはずのない私の愛機だ。

 

「……お前の力、案外早めに必要になるかもしれん」

 

 私は押し寄せる不安にそれだけ呟いた。

 

 

 

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