歴史の立会人に   作:キューマル式

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ギレンの野望的に、めんどくさいステージの攻略作戦開始。
連邦でやると、ここの攻略はめんどくさかったなぁ……。





第12話 パールハーバー、血に染めて

 

 宇宙世紀0079、5月21日。

 ジオン公国軍司令、ガルマ・ザビ大佐によって新たな命令が下った。

 

「これより我が軍は、連邦軍の太平洋の要所である『ハワイ』を攻略する!!」

 

 ハワイ……そこは太平洋における連邦軍の海洋艦隊の拠点である。

 現在、連邦軍の勢力下の地域はその本部のある南米、トリントン基地を中心とするオーストラリア東側地域、マドラス基地を中心としたアジア南方地域、そしてベルファスト基地を中心としたイギリス地域、そしてこのハワイである。

 これらの基地は海で繋がっており、船舶を利用した補給ラインが相互に整っている。その海上補給網の中心を担っているのがこのハワイだ。ここを手中に収めることで、ジオンは連邦の海上補給網を寸断することが出来るようになる。

 しかし、ハワイは四方を海という天然の要塞に囲まれた堅牢な要塞でもある。

モビルスーツは強力だが陸戦兵器、海を越えるには船舶なり輸送機なりによる運搬が必要になる。ならば、モビルスーツの出てこない輸送中の段階で叩けばいい……その連邦軍の戦術思想によって、ハワイは異常なまでの航空機と対空防衛網が敷かれ、旧世代の空母やミサイル艦による海上防衛網も幾重にも張り巡らされていた。

 

 無論、ガルマもそれは理解している。

 そのため上陸占拠用のモビルスーツを輸送するガウ攻撃空母やファットアンクル輸送機、鹵獲したミデア輸送機を大量のドップ戦闘機で防衛し、ルッグン航空偵察機で索敵を密にしてのハワイへの接近を試みることになった。

 そして、ガルマはこのハワイ攻略戦に虎の子とも言えるザンジバル機動巡洋艦の投入を決定。ガウやファットアンクルを大きく超えるその装甲と戦闘力は、被害に眼をつぶればモビルスーツ隊の降下を強行できると踏んだのだ。

 その情報を掴んだ連邦軍はそれをさせまいと大量のTINコッド戦闘機をハワイに配備、ハワイではジオン・連邦の戦力がぶつかる大空中戦が繰り広げられる……予定であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その日、連邦軍のハワイ基地は朝から殺気だった雰囲気に包まれていた。ジオン軍の次なる目標がハワイだと知らされ、それが近いからだ。

 ジオンのモビルスーツを相手に散々な惨敗を受け続けた連邦軍だが、今ここにいる戦闘機のパイロットたちの士気は異常に高かった。

 

「宇宙人どもに思い知らせてやるぞ。

 この青い空では俺たちが王様だってな!」

 

「おう!

 あのクソったれたジオン野郎どもに、たらふく海水を飲ませてやる!!」

 

 所々で殺気だったパイロットたちの声が聞こえる。

今回の戦いの主眼は海上での航空機による空中戦だと言われている。それならば今まで散々煮え湯を飲まされてきたジオンの人形(モビルスーツ)はいない。純粋な空中戦ならこちらの方が有利……モビルスーツの登場により辛酸なめ尽くした連邦軍のパイロットたち。彼らには自分の鍛え続けてきた空中戦なら負けないという自信と自負があり、そのホームグラウンドである純粋な空での戦いに『今までの借りを返してやる!』と息巻いていたのだ。

 パイロットの士気もそうだが、整備や基地の指揮官側の士気も同じような理由で高い。

 いつスクランブルがかかっても大丈夫なように、滑走路にはTINコッドが何十となく駐機し、整備兵がいつでも出せるようにスタンバイしている。

ここ、ハワイの航空基地は自分たちのハワイ防衛が成功することを微塵も疑ってはいなかったのである。

 しかし……。

 

 

ドゥン!!

 

 

「な、何だ!?」

 

「おい、あれ見ろ!?」

 

 突然の爆発音にうろたえる中、同僚の声に従いパイロットたちは滑走路の方を見る。そこには……。

 

「ジオンだと!?」

 

 駐機していたTINコッドが炎を上げ吹き飛び、その黒煙の中にジオンのモビルスーツ特有の、赤いモノアイを見る。

 ザクとは違い水色の丸い、手も鉤爪になっているものだが間違いなくそれはジオンのモビルスーツだ。

 

「チクショウ! 対空レーダーは昼寝でもしてたのかよ!!」

 

 モビルスーツが空から来たと思い、空を見上げて毒づくが青い空は雲一つない快晴。そこには敵の航空機の姿はない。

 

「おい、あれ見ろ!」

 

 同僚の指さす方向、それは水平線の彼方まで見渡せる青い海。その海が突如として爆発した。海面が盛り上がったと思うと、膨れ上がるように水柱が立つ。

 だが、それは爆発ではなかった。その水柱の中を、駆け昇るように空に昇るのはモビルスーツだ。先ほどの駐機場のものと同型、しかし紫に塗装されたものである。

 

「う、海からモビルスーツだと!?」

 

「ヤバい、こっちに!?」

 

 想定外の出来事にそのパイロットは呻くが、それ以上彼らに混乱する暇すらありはしなかった。その紫のモビルスーツが腕を向け、そこに装着されたハンドミサイルが発射されたからだ。

 

「あ、ああ……」

 

 かくして、青い空で燃え尽きることを望んだ連邦軍のパイロットたちは空へ上がることも出来ず、地上で赤い炎に焼き尽くされたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……今の感じ、どうやらパイロット宿舎だったようだな。

 可哀そうだがこれも戦争だ」

 

 私はハイゴッグの機体背部の強襲用ジェットパックを空中で切り離し、着地させる。周りを見れば、クスコ以下5人もジェットパックを使った強襲を成功させ、連邦軍の航空基地に降り立っていた。

 

 ハワイの攻略に置いて、ハワイが四方を海に囲まれた天然の要塞であることはこちらも分かっていた。

 正攻法でモビルスーツの空輸による占拠をしようとした場合、敵戦闘機と護衛戦闘機との戦いになり、確実に数機は輸送機が墜とされてしまう。いや、地球をホームグラウンドとする連邦との航空戦では最悪逃げ場のない海上で全滅させられる可能性すらありえた。

 そこで私は、ハワイの連邦軍航空基地への奇襲によるハワイ防空網の破壊を提案した。

 ガルマはドップを中心にした護衛戦闘機を集めており、ザンジバル機動巡洋艦を投入するという情報を意図的に流す。

 そして連邦の注意を空へと集中させ、そのうちにキャリフォルニアベース攻略戦時に鹵獲したユーコン級潜水艦3隻に各種テストを完了させたハイゴッグ先行量産型6機に搭乗した我々リザド隊が航空基地を強襲、ハワイの防空能力を奪うというのがこの作戦である。

 

「よし、全機攻撃開始! 基地施設を破壊する!!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 隊員たちの返事を聞き、私はハイゴッグを疾走させる。機体軽量化による機動性は良好、ブースターを使ったその動きはザクよりも上だ。

 

「墜ちろ!!」

 

 私は滑走路から緊急発進しようとするTINコッド戦闘機や戦闘ヘリに120mmマシンキャノンと、手のビームカノンを乱射した。離陸体勢にあって回避など出来ないそれらは面白いように撃墜されていく。

 

「クスコ! ニキとレイチェルを連れて基地東側のレーダーと対空防衛施設を破壊しろ!

 マリオンとエリスはこのまま私と共に基地施設を破壊しながら、司令本部を破壊する!!

 続け!!」

 

 格納庫・弾薬庫・兵舎……基地施設が抵抗もなく吹き飛んで行く。何とか起動した61式戦車もビームカノンの直撃によって飴のように溶け、次の瞬間には膨れ上がるように爆発した。やがて司令本部が見えようかというところで、クスコからの通信が入る。

 

『シロッコ少佐、申し訳ありません!

 デプロック6機、離陸を許しました! 

 気を付けて下さい。 そちらに向かっています!!』

 

「むっ!」

 

 空にカメラを向ければ、対モビルスーツ爆撃機であるデプロックが編隊を組んでこちらに向かっている。

 モビルスーツはどちらかといえば対空戦は苦手だ。広い空を飛びまわる航空機には中々攻撃を当てることができないからだ。

 ザクマシンガンなどの連射の利く武器ならまだしも、単発射撃兵器で航空機を墜とすのは至難の業と言ってもいい。だが、それは普通ならの話だ。

 

「そこだ!」

 

 私はハイゴッグの両手を空に向け、ビームカノンを撃つ。狙い通り、2本のビームはデプロックの2機を貫き、空中で爆発させた。

 

『凄い……』

 

『あんなに完璧に当てれるなんて……』

 

 マリオンとエリスが驚いたような声を上げるが、そんな2人に私は命じた。

 

「こんなことはお前たちもできる。

 私はこのまま進んで司令部を叩く。 お前たち2人はあの残った4機のデプロックを落とせ」

 

『そんな無茶な! 少佐じゃないんですから!』

 

「無理な話ではない。

 心を研ぎ澄ませて、相手の動きを感じるのだ。

 後はその場所に、置いてくるように射撃をすればいい。

 ……できるな?」

 

『……分かりました』

 

『りょ、了解。 やってみます!』

 

 私の言葉にマリオンとエリスも頷くと、生き残ったデプロックへ射撃を始める。

 私はそれに背を向けて、司令本部へとやってきていた。

 

「むっ!?」

 

 直前で何かを感じた私は急制動をかけて方向転換。私が進むはずだった場所をロケット弾が通り過ぎて行く。

 

「今のは……」

 

 ハイゴッグのカメラをそちらに向けるとザクⅡが2体、1体は連邦の100mmマシンガン、もう1体は連邦のロケットランチャーを構えており、今しがた私にはなったロケットランチャーから硝煙がたなびいている。

 私を仕留め損なったことで、100mmマシンガンを持った方が私に向かって射撃を始めた。

 

「こんなところにも鹵獲品か……。

 私を狙ったその奇襲、敵ながらよくやったと褒めてやりたいところだ。

 しかし!!」

 

 私はペダルを踏み込むと、ハイゴッグはスラスターを全開にしながら空へと飛び上がり、100mmマシンガンを避ける。100mmマシンガンの火線が私のハイゴッグを追うが、それを振り切るようにロケットランチャーを構えるザクⅡの背後に降り立つ。慌てて振り返るザクⅡのコックピットに、私はハイゴッグのバイス・クローを突き立てた。

 ビクリと痙攣するように一度跳ねると、ザクⅡの動きが停止する。

 その間に100mmマシンガンを持つ方のザクⅡが回り込み、側面から私に向かってマシンガンを連射する。しかし私はバイス・クローを突き立てたザクⅡをその銃弾の盾にした。そしてそのままスラスターを全開、ザクⅡを盾にしながら100mmマシンガンを持つ方のザクⅡに突進する。

 投げつけるように突き出したザクⅡにぶつかり、100mmマシンガンを持つ方のザクⅡが折り重なりようにして倒れる。

 すぐさま機体を起こそうとするがそれより早くハイゴッグのビームカノンがそのコックピットを貫いた。

 

「その機体と腕では私には勝てんよ。

 さて……」

 

 パイロットを失い大破したザクⅡ2機を尻目に、私は基地司令部に機体を向ける。両手のビームカノンと胴体の120mmマシンキャノンの一斉連射により、基地司令部は崩れ落ちた。

 

「こちらシロッコ。 目標は完全に破壊した。

 各員状況知らせ!」

 

『こちらマリオン、敵デプロック隊全機撃墜。

 周辺施設もあらかた破壊しました』

 

 その報告に思わずニヤリとする。最初は不安を口にしていたが、やはりその才能を開花させつつあるようだ。

 さらに驚いたことに4機中、2機はエリスが撃墜したそうだ。

 普通ならば彼女の腕ではまともに当てられないだろうことを考えると、こちらも成長著しい。

 

「ほぅ……やはりやればできるではないか」

 

『いえ、ただのまぐれですよ』

 

 エリスの言葉は謙遜なのか本気なのか判断しかねるが、良い傾向だ。

 

『こちらクスコ隊。

 対空ミサイル、対空砲設備およびレーダー施設破壊しました。

 途中、ザクⅡが出た時にはちょっとしたスリルでしたが……全員無事です』

 

「……そちらでも出たのか?」

 

『はい、ただこちらは1機だった上相手パイロットが素人だったので、3機での集中砲火でご退場願いましたわ』

 

「……」

 

 その言葉を聞いて、私は何か引っかかるものを感じた。

 鹵獲品がこんなにも多い……?

 

「……まぁいい。

 任務終了だ、すぐに合流地点にまで後退するぞ!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 

 こうして、私のリザド隊は連邦軍のハワイ航空基地の奇襲を成功させた。

 この奇襲によって航空戦力のほとんどと、目となるレーダー施設を失った連邦にジオンを止める力は無かった。

 やってきたモビルスーツ部隊はほとんど抵抗もなく降下、残存していた陸上戦力を殲滅し連邦軍は降伏、ハワイを占拠することに成功した。

 これにより『南米―オーストラリア』間の補給ルートはジオンによって封鎖されることになり、連邦のオーストラリア戦線は大きな痛手を負う。

 さらに今回の戦いでハイゴッグの有用性を確認したジオン軍は、ハイゴッグの量産配備を開始する。ハイゴッグはハワイ、北米東海岸に潜水艦艦隊と共に配備され、太平洋および大西洋の制海権を握り連邦の補給路を寸断。連邦兵からは『海の悪魔』として恐れられるのだった……。

 

 

 


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