歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回から数回にわたってシロッコ・ガルマのジオン北米軍と連邦軍との決戦、『フェニックス大会戦』に突入します。
今までシロッコのやってきたことの総決算となる戦い、お楽しみに。

……何だが感想で深読みが多くて驚く。
みんなジオニックの陰謀大好きだなぁ。
どうやらツィマッド社精神が刷り込まれているようで実によし。



第14話 フェニックス大会戦(その1)

 宇宙世紀0079、6月。

 この月、歴史が一つ動き出そうとしていた……。

 

 

 

 北米と南米とを繋ぐ玄関口、メキシコ。

 ここは南米に本拠を持つ連邦と、北米にその勢力を持つジオンの境界に位置する最前線である。

 しかし、最前線とはいってもここ最近は平和なものだ。連邦軍は各戦線での敗北による戦力回復のため攻めてくることもなく、偵察機の哨戒と、それに向かっての散発的な対空砲火だけとなってしまっていた。

 

「ったく……地球ってのはホントに暑くていけねぇ」

 

 言いながら、そのジオン兵ははだけた軍服の胸元にパタパタと風を送る。気候が完全に調整されたコロニーで生まれ育った彼らにとって、地球の気候はそれだけで違和感と、いくばくかの不快感を彼らに与える。

 

「ホントそうだぜ。 さっさと終わらせて、冷たいビールで一杯やりたいもんだ」

 

「おお、いいなぁ! 俺も付き合うぜ」

 

「……言っとくが奢らないぞ」

 

 そんなだらけ切った会話を2人のジオン兵は、監視用トーチカの中で言い合う。見上げる空は青……コロニー落としの影響で天候不順が多い今では、こんな天気は非常に稀だ。

 だがそんな青い空に、奇妙な音が響いた。

 

 

 ヒューーーーー……

 

 

「おい。

 何だ、この音?」

 

「まさか……」

 

 

 ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 耳をつんざくような爆発音と衝撃に、ジオン兵たちは思わずひっくり返る。

 

「何だ! 連邦か!?」

 

「それ以外に何があるんだよ!

 さっさと探せ!!」

 

 慌てて、2人は周辺を双眼鏡で見渡す。

 高濃度のミノフスキー粒子下ではレーダーよりも肉眼の方が優秀だ。2人は高倍率の双眼鏡で索敵を行う。

 すると……。

 

「!? あれ、見ろ!!」

 

 言われるままにその方向を見れば、そこには無数の61式戦車、そしてその横にはまるで小山が動いているかのような巨大な物体がある。

 それは……。

 

「ビッグトレー級地上戦艦!?」

 

 それはホバーとキャタピラによって推進する連邦の陸上戦艦である。その巨大な船体には大艦巨砲の権化とも言うべき大口径実弾砲が取りつけられている。ビッグトレーは長距離誘導兵器が有効とされた時に設計されたもので、設計時にはその存在そのものを『時代遅れの金食い虫』と罵られた代物だ。

 しかし時代とはどこでどう転ぶのかわからないものである。ミノフスキー粒子下での戦闘で誘導兵器やレーダーが無力化されたことで大口径実弾砲の価値が一気に高まった。そのため、現在では強力な長距離砲撃能力を持つ連邦の移動要塞としてその力を存分に発揮しているのである。今しがたの砲撃音は、そのビッグトレーの巨砲の咆哮であった。

しかも……。

 

「ビックトレー級が2隻だと!!?」

 

 1隻で基地の砲撃一つ分とも言われるビッグトレーが2隻……それは基地が2つ攻めてくるのに等しい。その事実に、ジオン兵からサァっと血の気が引いた。

 

「連邦の大攻勢だ! すぐに連絡を!!」

 

「おい、待て!?」

 

 慌てて通信機を取る相方を止め、再びそのジオン兵はその方向を指差した。

 そこに見えたものは青い単眼の巨人……モビルスーツだ。

 手に持つ盾には連邦軍を示すマークがあるため、その所属が連邦軍だということが分かる。しかし、そんなものはどうでもいい。

 そのモビルスーツをこのジオン兵たちは知っている。いや、それは彼らにとってある意味では象徴的なものだった。

 

「ザクだと!?」

 

 その連邦のモビルスーツはまごうことなくザクⅡだったのである。

 

「鹵獲機か!?」

 

「あの数を見ろ!!」

 

 見ればざっと見でザクⅡは20機以上はいる。それぞれが連邦の100mmマシンガンやロケットランチャー、180mmキャノンを持ち、ビッグトレーや61式戦車を守るようにモノアイを激しく動かしている。

 

「どこのバカだよ! あんな数のザクを連邦にくれてやったのは!!」

 

「知るか!?

 それより映像は撮ったな? すぐに……」

 

 しかし、彼らはそれ以上の言葉が言えなくなった。

 見ればいつの間にか近付いたザクのモノアイが真っ直ぐにこちらを向いていた。その威圧感に金縛りにあったようにジオン兵たちは竦みあがる。それこそ、今まで連邦兵が感じていたものだった。

 

「あ、ああ……」

 

 口から洩れる恐怖の声。そしてザクから発射されるロケットランチャーの弾丸。

 しかし、最後の瞬間まで彼らはジオン兵だった。迫り来る最後の瞬間を前に、ジオン兵たちは送信のボタンを押す。

 仲間のための貴重な情報を送り出した後、そのジオン兵たちはトーチカごと爆炎に包まれた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私はその日、柄にもなく緊張気味にそのテストを行っていた。

 

「これより携行式ビーム兵器の検証実験に入る」

 

 今日はついに完成したビーム兵器のテストを行う日だ。

 そう言って私が立ち上がらせたのは目立つ黄色に塗装されたザクⅡS型である。このザクはモビルスーツ用ビーム兵器の検証のための機体『ビーム兵器試験ザク』……通称『ビームザク』である。

 本来の『原作』としての流れなら高機動型ザクR2を元に造られる機体だが、私のいる場所は地上な上、次期汎用機のテストヘッドとするためにザクⅡS型をベースにした改造だ。その外見はザクⅡS型そのままであるが、その内部には大幅な手が加えられている。

まずジェネレーターがドム以上のもの……私が次期汎用機用に設計していたものに換装され、エネルギー伝達バイパスなどが増設されている。他にも廃熱関係など、ビーム兵器を運用するにあたっての細かな改修がされているのだ。

 私はサムソントレーラー3台に積まれた武器を見た。

 

「まずは試作ビームサーベルのテストに移る」

 

 そう言って手に取ったのは筒状の物体。この筒からメガ粒子を刃状に固定し敵を切り裂くのがビームサーベルである。

 私はビームサーベルをザクに持たせると、エネルギーバイパスをビームサーベルとの間に繋げる。

 

「これより、ビームサーベルを起動する」

 

 そして発生したものは黄色い光の刃……ビームサーベルだ。

 

『お兄さん! ビームサーベル、起動したよ!』

 

「ああ、大丈夫のようだ。

 数値に問題はないか?」

 

『メガ粒子収束率、安定してるよ』

 

「よし。 ならば今度は威力検証に移る」

 

 そうして出てきたのは宇宙戦艦級の装甲板である。そのまま私はビームサーベルを振るった。

 次の瞬間には、何の抵抗もなく黄色の刃の一閃によって溶断された装甲板がゴトリと転がる。

 

『……すごい』

 

 その光景にメイ嬢が思わず呟く。それはビームサーベルの威力が、宇宙戦艦級の装甲を一瞬で貫けるということを意味していた。

 

「これで驚いていてはこれからもたんぞ。

 続けて、試作ビームライフルのテストに移る。」

 

 そう言って今度は試作したビームライフルを手に取った。形状は連邦のガンキャノン用のビームライフルに近い。ナックルガード付きのそのビームライフルを手に取ると、今度は遠距離に先ほどと同じ装甲板がせり上がる。

 私はそれに向かってライフルを向けると、トリガーを引いた。瞬間、発射された黄色い閃光は遠距離にあった装甲板に穴を開ける。

 

「……よし、結果は良好なようだ」

 

 銃身加熱・廃熱ともに問題無し。内部のメガ粒子も安定している。威力に関しても、大気によって威力を減じられていてもこれだ。遠距離から敵の艦艇クラスの装甲を貫き、モビルスーツなら一撃である。

 

「最後に……試作ビームスナイパーライフルのテストに移る」

 

 私はビームライフルをエネルギー切れの15発を撃ち終えてトレーラーに戻すと、最後に長大な長さの銃をとった。

 ビームスナイパーライフル……原作的にはザクⅠスナイパータイプの装備となるものである。

 長大な銃身をしっかりと両手でホールドすると、機体を海上へと向ける。カメラを最大望遠にしてみるとその先には標的となるブイが浮いていた。

 その標的に向けてトリガーを引くと、ビームライフルよりも明らかに高出力の黄色のビームが高速で飛んでいく。そして、ブイを貫いた。

 

「威力・射程ともに計算通りだが……」

 

『発生熱量が想定よりも多いね。

 あと照準システムについても、もう少し煮詰めた方がよさそう』

 

「とはいえ、大筋では成功だな」

 

『ビーム兵器……モビルスーツの武装に、確実に革命が起こる……』

 

 メイ嬢は今回の実験の成功が、間違いなくモビルスーツの歴史に記されるような革命だということに、今さらながら驚きを隠せないでいた。賢いメイ嬢だ、今回のことでビーム兵器の時代が来ることを気付いたのだろう。

 他のスタッフからも、実験の成功にどよめきと歓声が起こった。

 

『ビーム兵器の実用化検証実験は成功だよ。 戻ってきて、お兄さん。

 お祝いの準備は出来てるから、楽しみにしててね!

 主役なんだから遅れちゃダメだよ』

 

 ビーム兵器という画期的な新兵器の実用化成功を祝して、今日はこれからささやかなパーティの予定だ。

 

「そうだな、すぐに戻るとしよう。

 素敵なパーティを期待しているよ」

 

 そう言ってビームザクを戻すために動こうとしたときだった。

 

「ん?」

 

 通信機の向こう側がやけに騒がしい。その騒がしさは、ビーム兵器実用化の興奮とは違うものだ。

 やがて通信機から聞こえてきたのは、メイ嬢の声ではなかった。

 

『シロッコ少佐……』

 

「これはこれは、ガルマ大佐」

 

 それはガルマのものだった。その声は明らかに堅い。

 

『シロッコ少佐、新兵器の開発おめでとう。

 僕もそれを祝いたいが……至急、話したいことがある。

 今すぐ戻ってくれ』

 

「……了解した。 至急、帰還する」

 

 ガルマのその声からただならぬ事態を感じ取った私は、ビームザクのブースターに火を入れ、最大速度で工廠へと急いだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「連邦の大攻勢か……」

 

 急ぎ戻った私がガルマの執務室で聞かされた情報は、やはり緊急事態だった。

 南米からメキシコを通過し、このキャリフォルニアベースへと連邦軍の大部隊が侵攻しているというのだ。

 

「しかもこれは……」

 

 そう言って私は1枚の写真を手に取る。そこに写っているのは青い色の、単眼(モノアイ)の巨人。見間違うはずもない。それはザクⅡだった。

 私の原作的な知識で言うと、『連邦版ハイザックカラーのザクⅡ』である。そのザクの数は1体や2体ではない。その数は、おそらく20を超える。

 

「いったい連邦はどこでこれだけのザクⅡを手に入れたのだ……?」

 

「……ガルマ、それをまさか本気で言っているのではないだろうな?

 同胞を疑いたくない気持ちは分かるが……その感情は冷静な判断の妨げになる」

 

「……」

 

 私の言葉に、ガルマも黙った。

 常識的に考えてこれだけのザクが鹵獲されるほどジオン軍は馬鹿ではないと思いたいし、そうは考えにくい。

 となればこれらのザクⅡは連邦で『生産』されたものであるとしか考えられない。

 ザクの詳細な設計図という、最重要軍事機密が漏えいしたことになる。当然、軍内にも何かしらの内通者がいることは間違いないし、それを調べることは重要だ。

 だが、それは今すべきことではない。今すべきは、この大攻勢をどのように乗り切るかということだ。

 

「……ガルマ、こちらの戦力は?」

 

「正直に言うが……かなりマズイ」

 

 ガルマの話では、今回の南米からの侵攻と同時に北米の残存連邦勢力が一斉に攻勢を開始したらしい。そちらの対処があるため、下手に各地に展開中のモビルスーツを引きぬくことはできない。

 同時に、5月末のハワイ攻略が痛かった。ハワイの占拠と地上部隊の掃討のためにモビルスーツを投入しているが、そのモビルスーツはそのままハワイの防衛用になっている。

 そういう事情も重なり一時的ながらキャリフォルニアベースの総戦力は低下しており、連邦もその時期を狙ったのだろう。

 

「稼働可能なモビルスーツは44機。 戦車は150両程度か……。

 それで、連邦の戦力は?」

 

 その言葉に、ガルマは苦虫を噛み潰したような顔をすると一枚の資料を取り出した。

 そこには連邦の推定戦力が書き込まれている。

 

「モビルスーツは20~30機程度だが……。

 シロッコ……戦車600両にビックトレー級陸上戦艦2隻というのは何の冗談だろうか?」

 

「連邦め……いよいよその国力にものを言わせてきたな」

 

 連邦はついにその物量で押し潰す腹積もりのようだ。

 いかに一両一両では組し易い61式戦車でも、600両もの物量があれば話は別。脅威以外の何物でもない。

 

「幸いなことに、こちらのモビルスーツは高性能なドムとドワッジを中心としている。

 その機動力に物をいわせた機動戦術なら時間は稼げるが……問題はビッグトレーだ。

 ガルマ、わかっているとは思うがこの戦いはビッグトレーにキャリフォルニアベースに近付かれた時点で我らの、引いてはジオンの負けだ」

 

 キャリフォルニアベースはジオンの地球上における最大の兵器生産拠点だ。この施設にダメージを受けることはジオン全体にとっても致命傷になりえる。そのため、こちらはビッグトレーの超長距離砲撃の射程内にキャリフォルニアベースが入る前に連邦をどうにかしなければならない。

 

「分かっているよ、シロッコ。

 少しでもこちらのドムとドワッジの有利な地形を選ぶ。

 場所はここ……アリゾナのフェニックス近郊の砂漠地帯、ここで迎え撃つ!」

 

「だが……ガルマも分かっているだろうが、こちらは極力被害を最小限にしながら相手に出血を強いる必要がある」

 

 兵器生産力にジオンと連邦では大きな差がある。

 今回の敵を退けたとしても、全滅に近い状態になっては意味が無い。こちらが戦力の回復をさせる前に連邦が戦力を回復させる方が明らかに早いからだ。その先に待っているのは真綿で首を絞めるように物量で圧殺される未来である。

 

「しかし、そんなことどうやってやる?」

 

「……」

 

 私はしばし、目を瞑り額をトントンと叩く。

 そして、目を開いた。

 

「……ガルマ、いくつか頼めるか?」

 

「ああ!」

 

 こうしてこの戦争の行く末を決めるターニングポイントとなる大会戦、『フェニックス大会戦』の幕は上がるのだった……。

 

 

 


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