歴史の立会人に   作:キューマル式

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フェニックス大会戦その2、今回は主人公不在のガルマたちの奮闘です。
戦車はやっぱ強いと思うんだけどなぁ……。


第15話 フェニックス大会戦(その2)

 宇宙世紀0079、6月6日。

 連邦軍は北米地域奪還を目的として、ビックトレー級陸上戦艦2隻を中核とする大軍を派遣。その陣容には連邦で極秘入手した設計図を基に生産されたザクⅡを投入、600両を超える戦車を揃えた大陸上部隊であった。

 これに対しガルマ・ザビ大佐はキャリフォルニアベースの稼働可能な部隊のほぼすべてを投入し、フェニックス近郊の砂漠地帯で迎え撃つことを決意する。

 ここに、歴史上初となる、モビルスーツ同士の集団戦闘が展開されることになったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「我が方の航空隊が頑張ってくれました。

 敵航空隊、大打撃を受け撤退していきます」

 

「よかった……」

 

 臨時指揮所としているダブデ艦橋でその報告を聞き、ガルマはホッと息をついた。

 北米の戦闘機が発進できる航空基地がまともに残っていなかったこと、そして先のハワイ攻略戦においてTINコッドやフライマンタ、デプロックなどかなりの量の航空機がパイロット込みで損失してしまったために、空での戦いはジオン側に軍配が上がったようだ。

 だが、そんなことで喜んではいられない。

 

「すぐにルッグン偵察機を出せ!

 敵の陸戦部隊が来る! その陣容と数、方位知らせよ!

 各戦闘部隊、いつでも戦闘可能な状態にスタンバイをしておけ。

 場合によっては、僕もドワッジで出る!」

 

「はい!」

 

 ダブデのブリッジオペレーターがその指示をすぐに全軍に知らせ、にわかに騒がしくなる。

 そんな艦内で、ガルマにだけ聞こえる声で隣に控えていたダロタ中尉は言った。

 

「……どうなると思いますか、ガルマ様?」

 

「……分からんよ。

 ただ、今は全力を尽くすのみだ」

 

 そう言って肩をすくめたガルマ。その時、ブリッジオペレーターからの鋭い声が飛んだ。

 

「ルッグン06号、敵を確認しました!

 数は……モビルスーツ24機! 戦車……約500両!?」

 

 その言葉は悲鳴に近い。

 

「最初からほぼ全軍……連邦はいきなりの力押しですね」

 

「いや、当然の判断だと思う。

 こうも戦力差があるのなら、力押しは有効な戦術だよ。逆に被害が出てからでは、単純な力押しはやりにくいからね。

 とはいえ……こちらとしては頭を抱えたくなってしまうな」

 

 そういってガルマは、一度大きく息を吸い込むと全軍へと攻撃命令を出した。

 

「全軍、攻撃開始!

 モビルスーツ隊は各機各隊相互に連携し攻撃を行え!

 決して安易な突撃はするな! こちらの被害を抑えつつ、少しずつでいいから相手に出血を強いるんだ!

 補給部隊はいつでも補給のできるように準備を!

 出し惜しみは無しだ! 予備のマシンガン、バズーカもいつでも使用できるように用意しておけ!

 ダブデはこの地点に固定、砲撃支援と指揮を執る。

 この戦いはジオンの命運を左右するものと心得ろ! 各員の努力と奮戦を期待する!

 ジオンの勇士たちよ、共に戦い、勝利を手にしよう!!

 ジオン公国に、栄光あれーーーー!!!」

 

『『『『『おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』』

 

 前線からの鬨の声が、通信機越しに聞こえてきた。

 

 宇宙世紀0079、6月6日10時26分。

 この戦争序盤の天王山とも言うべき戦い、『フェニックス大会戦』の幕が切って落とされたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 戦況は一進一退だった。

 連邦はその有り余る大戦力を持って、ジオン軍を包囲殲滅しようと目論む。連邦のザクはその61式戦車の動きを支援するように動いていた。

 これに対しジオン側の指揮官ガルマは、少ない戦力を効果的・集中的に投入することで連邦に対し出血を強いていた。

 ダブデからの長距離砲撃支援によって、連邦の61式戦車部隊の防衛陣に隙を造り出すと、そこにドムとドワッジが突入、混乱する連邦軍に対しマシンガンとバスーカによって損害を与える。

 それに気付いた連邦が混乱から脱し、そのドムとドワッジを包囲殲滅しようという動きを見せるとドムとドワッジは一転して逃げに転じ、包囲網完成前に離脱。自軍陣地へと戻るという機動戦術を繰り返す。

 連邦としては一方的に殴られ、殴り返そうとしたらその前に逃げられるという状態を繰り返されているのだ。たまったものではない。

 それを指揮するガルマの確かな才能を感じさせる見事な指揮だが、これもドムとドワッジというモビルスーツが無ければ為し得ないものだ。

 ドムシリーズの最大の特徴は何と言ってもその快速にある。ジャイアント・バズの攻撃力や重装甲も特徴ではあるが、ドムの最大の武器はその『足の速さ』だ。

 第二次世界大戦時、電撃戦を開発したグデーリアン上級大将も『厚い皮膚より早い足』と、足の速さが戦闘においていかに重要か言葉を残している。

 友であるシロッコの開発したドムとドワッジの特徴と利点をしっかりと理解していたガルマは、それを最大限に生かす戦術を駆使して連邦の大軍を前に奮戦を見せていた。

 

「ダブデ、艦砲射撃を右翼に集中!!

 右翼の敵を崩せ!!」

 

「モビルスーツこっちにも廻してくれ!」

 

「第3、第4モビルスーツ小隊補給中。

 補給完了まであと10分はかかります!」

 

「敵の山だ! 連中、後からあとから出てくるぞ!!

 きりが無い!!?」

 

 ダブデの艦橋である指揮所は怒号がひしめき合っている。

 

「……」

 

そんな中、ガルマは戦況図を見ながら深く思案していた。

 

(どうする?

 連邦もバカじゃない。 ダブデと火砲による射撃で隙を作るのはいい加減に限界だ。

 それに……61式戦車の護衛についているザクが厄介だ。

 ドムの突撃でもザクのせいで61式戦車を上手く叩けず、かといってザクを攻撃させようとすれば、その間に包囲網が完成されドムが脱出できなくなる……)

 

 モビルスーツを相手取るのがこんなに辛いとは……連邦にザクⅡの機密を漏らしただろうバカを八つ裂きにしてやりたい、と心の中で呟く。

 しかしそんなことで現状は変わる訳もなく、ガルマは苛立たしげに前髪をいじると現実を見ることにした。

 

(各モビルスーツは補給や応急修理で、動ける数が少なくなって来ている。

 このままでは……遠からず物量に押し切られる。

 そろそろ『手札』を切る必要があるが……もう少し、もう少し敵に混乱していてもらわねば迎撃されて失敗に終わる……)

 

 あと『一手』が欲しい……そうガルマが思ったその時だった。

 

「左翼、敵部隊に混乱! 陣形、崩れています!!」

 

「何! 今、左翼には支援射撃は向かっていないはずだが……」

 

「それが……第五戦車隊が敵側面から攻撃を仕掛け、敵に甚大な被害が出ています!

 そのため、敵左翼が混乱を……!」

 

 そのオペレーターの言葉に、ガルマはガバッと顔を上げた。

 

「第五戦車隊……シロッコの言っていた戦車隊か!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、お前ら始めるぞ!

 連邦の連中に……戦争を教えてやる!!」

 

『『『おう!!』』』

 

 通信機の向こうからの気合の入った声を聞き、デメジエール・ソンネン少佐はドロップを一つ口の中に投げ込むとモニターに目を移した。

 その先には連邦のザクⅡ3機と、それに護衛された大量の61式戦車の姿が見える。つくづくザクⅡと戦う縁があるものだと、ソンネンは苦笑した。

 

(だが……何であろうが俺たちは負けねぇ!)

 

 ソンネンは自身の生まれ変わった相棒に語りかける。

 『ヒルドルブⅡ』……それが改修された新たな相棒の名前だ。

 砂漠での戦いにおいて損傷したヒルドルブは、発見された問題点をシロッコ監修のもとで改修(魔改造?)され、さらに最強の戦車となっていた。

 その最大の特徴は、移動システムがキャタピラから熱核ホバーに変更したことだ。

 戦車に使われるキャタピラは、不整地などの踏破性能は高いが摩耗の多い整備士泣かせのシステムであり、細かな整備とその場所への運搬する車両を必要とする。

 普通の戦車ならまだしも、ヒルドルブのサイズでこれでは採用されなかったのも頷ける。

 そこで、その移動システムをドムによって完成し、ハイゴッグによって小型・応用化出来るようになったホバー推進システムに変更しようというのだ。それによって整備性の向上と速度の上昇、そして装甲の充実化が図られたのがこの『ヒルドルブⅡ』である。

 

 そして、その『ヒルドルブⅡ』の周りにいる戦車も、『マゼラ・アタック』とは少し異なっていた。

 マゼラ・アタックの不自然に高かった砲塔は、61式戦車並に低くなっていた。

 そしてトップ側の操縦席はガラスキャノピーではなく、金属の装甲で覆われたコックピットになっている。

 ベース側の側面には左右2基ずつ、対MS・対戦車有線ミサイルポッドが付けられていた。

 これぞシロッコから来たマゼラアタック改修計画の産物。ベテラン戦車兵たちの意見をふんだんに取り入れて完成した改修型マゼラアタック、『マゼラ・ストライカー』である。

 

 『ヒルドルブⅡ』1両に『マゼラ・ストライカー』12両……これがソンネン率いる第五戦車隊だ。

 

 

 

「初撃で先頭のザクを狙う。

 その後はヒルドルブは対戦車焼夷榴弾(HEAT/I弾)を撃ちながら接近、かき回しながらマシンガンの雨を喰らわせてやる。

 ストライカーはスモーク散布後に残ったザクをやれ!」

 

『了解! ケツから熱い一撃喰らわせてやりますよ!』

 

『175mmのぶっといやつをプレゼントだ!』

 

 そう言ってゲラゲラ笑う部下の言葉に、ソンネンは嬉しそうに頷く。

 ソンネンの部下、それは全員が歴戦の戦車兵だ。モビルスーツ主役の時代に、それでも戦車にしがみ付いていた、1人残らず生粋の大馬鹿野郎どもだ。

 

「ザクをやった後は目標自由。

 ただし、敵が混乱から抜け出したら離脱しながら撃ちまくれ。

 今日のここは、連邦の61式戦車のスクラップ場だ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 そして、ヒルドルブの30サンチ砲が吼える。

 発射された徹甲弾は、その威力を持ってその連邦ザクを上下に泣き分かれさせた。その爆発に、61式戦車と残りのザクはこちらへと視線を向けようとする。

 そんな中、ソンネンはヒルドルブを発進させた。キャタピラとは違う、ホバーの高速移動で駆けながら、ほぼ真上に突き立った30サンチ砲を撃ちまくる。それは地表寸前で爆発すると真っ赤な炎をまき散らした。その超高温によって範囲内の61式戦車が焼けていく。

 そんな中61式戦車を守ろうとザクがヒルドルブに100mmマシンガンを撃ちかけてくるが、その視界が突如ピンク色の煙で隠された。マゼラ・ストライカーからのスモークである。

 ザクはそのモノアイを激しく動かし周囲を探ろうとするが、その時ザクの脇を何かがすり抜けていった。

 次の瞬間、ザクが後ろからの衝撃に胸を貫かれてうつ伏せで倒れ込む。

 ザクの後ろには硝煙棚引くマゼラ・ストライカーの砲塔部、『マゼラトップ』が浮いていた。

 慌てて残った最後のザクがマゼラトップにマシンガンを構えるが、そのザクも複数のマゼラトップからの集中攻撃によって沈黙させられた。

 

 護衛のザクが全滅したことに驚く61式戦車だが、次の瞬間には空に浮かんだ12機のマゼラトップからの砲撃、地上に残った12両のマゼラベースからの機銃とミサイルの集中砲火によって爆発炎上していく。その敵戦車部隊が全滅するまで、攻撃開始から3分とかかっていない。

 強力な戦果ではある。しかし、疑問はあった。

 『マゼラ・アタック』は、車体部の『マゼラベース』とVTOL機能を持つ砲塔部『マゼラトップ』へと分離する機能を持つが、その機能は限定的だ。マゼラトップの飛行可能時間は5分程度だし、戦場での再接続ができないため、緊急脱出として使用し後方に撤退するのに使われるのみである。それを、全車がこのようないきなり分離する使い方をするのはあり得ないはずだ。

 しかし……。

 

『うしっ、それじゃ戻るぜ!』

 

『OK、優しく抱き止めてやるよ』

 

 戦車兵たちは言い合うと、分離したマゼラベースへとマゼラトップ戻っていく。そして、ガチャンという音と共に再びマゼラ・ストライカーの姿へと戻ったのだ。

 

 ソンネンがシロッコから言い渡されたマゼラアタックの改修計画、これは現役の戦車兵たちの意見がふんだんに取り入れられた。

 

 

1.キャノピーの装甲化による生存率の上昇。

 

2.車高低下による、被発見性の低下。

 

3.砲塔部の旋回。

 

4.攻撃力の上昇。

 

 

 現役の戦車兵たちからの意見によって提示されたのが以上の内容である。『マゼラ・ストライカー』は、これらの意見をクリアするために計画され、シロッコとメイの技術の産物として産まれた。

 その結果として、

 

 ガラスキャノピーを廃止し装甲化。

 車高低下。

 マゼラトップ砲塔部の旋回可能。

 マゼラベースへのミサイルの増設。

 

 という改装が為されている。

 だがそれと同時にもう一つ、野心的な機能が取り入れられた。それが『マゼラトップ分離後の戦場での再接続可能』である。これによってマゼラ・ストライカーは単体で地上と空との3次元攻撃が可能になったのだ。

 もっとも『航続距離5分』『整備性が悪い』などの解決していない問題はある。しかし、十分な火力を持ち、幅広い応用が利くマゼラ・ストライカーは、モビルスーツですら倒せる強力な戦車になったのである。

 

「よし! このまま戦果を拡大する!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 ヒルドルブと共にマゼラ・ストライカーが進む。

 この新たな武器を手に入れた古参戦車乗りたちの奮戦は、しだいに連邦の左翼に大きな混乱を招き寄せるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「よし、『手札』を切る!」

 

 ソンネンたち第五戦車隊を中心とした活躍で左翼部分の圧力が減った。動揺によって連邦軍の陣形に乱れが生じている。それを見て、ついにガルマは一つの『手札』を切ることにした。

 

「やれッ!!」

 

 ガルマの指示の元、ジェットエンジンの光を残しながら、その巨体が高速で戦場を進んで行く。

 その黄色の巨体の名は……『カーゴ』である。

 カーゴは『ギャロップ陸戦艇』がけん引する、物資運搬及び乗員の宿舎としても使用できる外付けユニットだ。ギャロップ陸戦艇と同じくホバー機能を持っている。それを改造し、ジェットエンジンを付けることで自走可能にしたのが今のカーゴだ。

 そして……その腹の中には今、爆薬を満載していた。

 これがガルマの『手札』の1つ、遠隔操作型の自爆特攻兵器『カーゴ爆弾』である。ガルマはこれを敵の只中で爆発させようという魂胆なのだ。

 カーゴに気付いた61式戦車が迎撃しようとしてくるが、もう遅い。ジェットエンジンによって砲弾の如く迫り来るその黄色の小山は、混乱した連邦軍では止められなかった。

 

 爆発と閃光が、連邦軍の只中で巻き起こる。凄まじい量の爆薬によって生じた衝撃と爆風はまるで核爆発の如くである。

 

「連邦軍に対し、多大なダメージを確認しました!」

 

「よし!」

 

 戦果の大きさに、思わずガルマは拳を握りしめる。

 その時、ダブデの艦橋から遠く彼方に、色つきの煙のようなものが上がるのを見た。その煙の色は……紫だ。

 

「シロッコ、やってくれたのか!!」

 

 ガルマがそう呟いた瞬間、ダブデのオペレーターからの声が響く。

 

「各戦線で連邦軍が撤退を開始しました!

 敵、酷く混乱しているようです!!」

 

 送られてきたカメラ映像には、隊列も組むことができず思い思いに逃げて行く連邦軍の姿があった。

 

「よし、このまま追撃戦に移行する!!

 みんな、苦しいだろうがあともう一歩、頑張ってくれ!

 奴らをこの北米から叩きだしてやるんだ!!」

 

 ガルマの声は即座に前線へと伝えられ、ジオン軍は逃げる連邦の背中へと襲い掛かっていくのだった……。

 

 

 

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