歴史の立会人に   作:キューマル式

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フェニックス大会戦、決着編です。
序盤の総決算となりますので、お楽しみに。

注意:連邦派の人は今回は読まない方がいいかもですよ。



第17話 フェニックス大会戦(その4)

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 左膝を撃ち抜かれ、レイチェルのドワッジはその勢いのまま地面へと倒れ込んだ。

 

「う、うぅ……」

 

 散々にシェイクされた頭を振りながら、レイチェルは状況を確認しようとする。すると、倒れ込み格好の的となった自分のドワッジを狙う61式戦車の砲口を見た。そして、その主砲が一斉に咆哮する。

 

(あ、死んだ……)

 

 まるでスローモーションのようにまわりが見える中、レイチェルはそんなことを思った。しかし……。

 

『『レイチェルッッ!!?』』

 

 動けないレイチェル機の盾になるように、ニキとエリスのドワッジが割り込んできた。

 61式戦車の砲弾が2機に襲い掛かり、炸裂音が響く。

 

「バカ! 2人とも!?」

 

 思わずレイチェルが怒号のように叫ぶが、それに答えたのは同じく怒号だった。

 

『うるさい、どっちがバカよ!

 いつもいつもこっちの気も考えないで突っ込んで!

 私がフォローしてなきゃあんた10回はもう死んでるわよ!

 11回目……今回も助けるから感謝しなさい!!』

 

『ドワッジの装甲なら、このくらい!!』

 

 しかし、その強力な砲撃はニキのドワッジの構えた盾を撃ち砕き、エリスのドワッジの右腕を肩口から吹き飛ばす。

 

『『きゃぁぁぁぁぁ!!』』

 

 その爆発に煽られ、完全に体勢が崩れた。

 

『死ねよや!!』

 

 連邦のザクがヒートホークを構えて飛びかかってくる。明らかな直撃コースだ。

 そして……そこに黄色い閃光が、通り抜けた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あんっ?」

 

 必中のヒートホークを振りかぶり、動けないドワッジに飛びかかるモンシアは、モニターがいやに明るいことに気付いて、どこか間の抜けた声を上げた。

 そしてその正体を探ろうと視線をはわせようとした瞬間、ザクのコックピットを黄色い光が満たす。

 

「……!?」

 

 モンシアは声を上げる間もなく、その光の中に溶けて行った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……当たった」

 

 マリオンは銃身の冷却とエネルギーチャージを行いながら、短くそう呟く。

 マリオンの乗機、それはドワッジではない。目立つ黄色に塗装されたザク……『ビームザク』である。ビームザクは岩場の上で片膝をつき、長大なライフル……『試作ビームスナイパーライフル』を構えていた。

 マリオンは、シロッコの指示で今回の作戦において別行動を取っていた。それは遠距離からのビッグトレーの狙撃である。

 宇宙戦艦の主砲並の威力と、超長射程を誇る『試作ビームスナイパーライフル』ならばビッグトレーすら当たりどころ次第では一撃だ。それを見越して、マリオンは1人狙撃ポイントに別行動で来ていたのである。

 ビーム兵器の欠点は、その光によって居場所がばれやすいということだ。だからこそ、ギリギリまで射撃はしないように指示されていたが、仲間の危機に思わず引き金を引いていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 戦いを好まないマリオンは、今しがた撃ち抜いたザクに懺悔の言葉を呟く。

 しかしそれも一瞬、その視線はすぐに鋭いものに変わりスコープを覗いた。

 

「戦いは好きじゃない。

 でも……戦わなければみんなが、兄さんが傷ついてしまうから。

 だから……あなたたちを撃ちます!」

 

 そしてマリオンは意識を集中させる。

 遠距離からの狙撃を当てることは至難の業だ。それが大きなビッグトレーであっても、カメラには米粒程度の大きさにしか映らず、射撃管制もまだ完全に調整されたとは言い難いこの機体ではその難易度は跳ね上がる。

 しかし、今マリオンは、ビッグトレーよりもずっと難易度の高い、動き回るザクに直撃をさせた。それはシロッコの言葉のお陰だ。

狙撃に対してシロッコはマリオンの才能を認めて、一つのアドバイスをしていたのだ。

 

「相手の気配を、その存在を感じ取り、その見えた動く先に置いてくる……」

 

 シロッコの言葉を反芻しながら、先ほどと同じように心を落ち着ける。

 心を周りの空間に溶かすかのように、自らの身体が拡散していくイメージを抱く。そして……。

 

「!!?」

 

 ……来た!

 先ほどのザクの時と同じように電流にも似た『何か』が突き抜ける。カメラには見えていない、その向こうにある『存在』を確かに感じた。

 

「行って!!」

 

 その『存在』に向けて、マリオンはトリガーを引いた。

 黄色い閃光が空間を切り裂く。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「やってくれたな、マリオン」

 

 ビームスナイパーライフルによってザクが貫かれるのを見て、私は呟く。

 その光景は連邦を混乱に陥れるには十分だった。

 

『バニング隊長! モンシアが!!』

 

『今の光……メガ粒子砲なのか!! どこかにそんな大型艦が潜んでいるのか!!』

 

 再び黄色の閃光が通り過ぎて行く。

 

『ビ、ビッグトレーが!!?』

 

 その閃光はビッグトレーの1隻に直撃した。船体ブロックのほぼ中央を貫かれ、ビッグトレーが停止する。

 

『どこからです!?』

 

 ザクは構えた180mmキャノンでその光の伸びてきた彼方を見やる。

 しかし……。

 

「私を前にして、よそ見はいかんな」

 

 私を前に、そのような悠長なことを許す気は無い。私はその180mmキャノンを構えるザクへと急速接近すると、ヒートサーベルを抜いた。

 

『しまっ……』

 

「遅い!!」

 

 慌ててかわそうとするが、踏み込んだドムの一撃でザクの両腕が180mmキャノンごと宙を舞う。

 

『アデル、退避しろぉ!!』

 

 隊長機が100mmマシンガンを乱射し、援護に入った。仕方なく、私は接近を諦めるが……。

 

『私のことを忘れてもらっては困るわ』

 

 クスコのドワッジのジャイアント・バズが放たれた。それは両腕を失ったザクの胴体に直撃、モビルスーツを一撃で撃破する威力のジャイアント・バズによってザクの上半身は砕け散り、残った下半身がゆっくりと倒れ込んだ。

 

『アデル!! よくも!!』

 

「ふん!」

 

 ザク隊長機は激昂しながらも隙のない動きで私のほうに向かってくるが、そこにクスコのドワッジのジャイアント・バズが放たれた。

 

『くっ!?』

 

 たまらず横に飛んでザク隊長機がそれを避ける。

 

『シロッコ少佐、ここはお任せ下さい。

 少佐はあのビッグトレーにトドメを』

 

「クスコ、任せる!」

 

 それだけ言うと、私はマリオンの狙撃で船体に穴のあいたビッグトレーへと向かっていく。私を止めようと、生き残った61式戦車がその砲口を向けてくる。

 

「そんなもの当たるものか!!」

 

 ドムを激しく左右に揺らし、その攻撃を避けながらも速度を緩めず、ついに私はビッグトレーへと肉薄した。

 

「プレゼントだ」

 

 私はドムの後ろの腰にマウントしていたジャイアント・バズの予備弾装を手にすると、それをマリオンのビームスナイパーライフルによって穿たれた穴へと放り込む。そして間髪入れずに、そこにジャイアント・バズを叩きこみ、スラスターを全開にして全速離脱。

 一撃でモビルスーツを吹き飛ばす形成炸薬弾10発分の炸薬がビッグトレーの内部で炸裂、その爆発はビッグトレーを内側から膨れ上がるようにして吹き飛ばした。

 

「これで1つ!  あと1つは!?」

 

 その時、すでにもう1隻のビッグトレーはその護衛の61式戦車と共に撤退を進めていた。今から追えば、まだ残っている61式戦車部隊に背を向けることになり危険なところだ。

 

「ふん、未だ奮戦中の味方を置いて逃げるか。

 その判断は確かに悪くは無い、頭を潰されればどんな軍でも烏合の衆と化すからな。

 しかし……戦いとは一手二手先を読んでするものだよ」

 

 その時、逃げるビッグトレーの一団の左翼から突然の爆発が巻き起こる。

 どうやら、来てくれたらしい。

 私の元に通信が入った。

 

『こちら『外人部隊』所属、ケン=ビーダーシュタット少尉以下3名。

 これよりパプティマス=シロッコ少佐の部隊を援護し、ビッグトレーを攻撃します』

 

「時間通りだな。 助かる」

 

『ダグラス大佐からの伝言です。

 「ドムの時の恩に報いらせてもらうよ、シロッコ少佐殿」

 以上です。

 ……ドムを3機も廻して頂き、我々も感謝しています』

 

「なに、君たちのような優秀な者たちに使ってもらえるのだ。

 ドムも喜ぶだろう」

 

 モニターでは外人部隊のケン少尉の率いるドム3機が縦横無尽に動き回り、撹乱しながら敵を切り崩す。特にケン少尉の働きは凄まじく、鬼神の如き良い腕だ。

 彼らにドムをいち早く回したことは間違いではなかった。

 同時に、今度はビッグトレーの一団の右翼から爆発が起こった。

 見れば『外人部隊』とは別のドム3機が、右翼から猛然と襲い掛かっている

 そして再びの通信。

 

『こちらは闇夜のフェンリル隊所属、ソフィ=フラン少尉以下3名ですわ。

 これよりパプティマス=シロッコ少佐を援護し、ビッグトレーを破壊します』

 

「そちらも時間通りだな」

 

『降下地点からの移動、このドムのスピードだからこそ間に合ったのですわ。

 ゲラート少佐よりの伝言ですが、

 「今度はこちらが恩に報いる番だ、シロッコ少佐殿」

 とのことです。

 このような強力な新型、廻して頂きありがとうございます』

 

『こちら闇夜のフェンリル隊所属、シャルロッテ=ヘープナー少尉です。

 こんな凄い新型貰えて……ありがとうございました、シロッコ少佐!』

 

「なに、ドムも君たちのような美しく強い女性に扱ってもらえて喜んでいることだろう。

 私は相応しい者のところに、相応しいものを贈ったにすぎんよ」

 

『まぁ、少佐ったらお上手ですわね』

 

 私の言葉に、ソフィ少尉はコロコロと笑った。

 

『あのー、闇夜のフェンリル隊所属、ニッキ=ロベルト少尉ですが……。

 俺、男なんですけど……』

 

「……さて、では外人部隊と闇夜のフェンリル隊にはビッグトレーとその部隊を頼む。

 私はこちらの残存部隊を叩くのでな」

 

『って、無視ですか少佐殿――!?』

 

「フッ。 冗談だ、ニッキ=ロベルト少尉。

 君にも戦果を期待する」

 

 私はそれだけ言って、未だ戦闘を続けているリザド隊の部下たちの元に急ぐ。

 

 

 『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』……この2隊の作戦参加こそ、ガルマに頼み込んだ案件だった。

 ビッグトレー2隻の撃沈のための作戦……その内容はこうである。

 まずキャリフォルニアベースに存在するザンジバル級は3隻、これらに攻撃隊を搭載。

 1隻目のザンジバル級の部隊が、ビッグトレーを強襲する。その間に残り2隻のザンジバル級の部隊はビッグトレー2隻を含む連邦部隊の後方に移動しモビルスーツを投下、そこからビッグトレーを狙うという手だ。ミノフスキー粒子によってレーダーがほとんど使い物にならず、対空監視網が穴だらけだからこそできる作戦である。

 1隻目のザンジバル級の部隊はビッグトレーを撃沈出来ればそれでよし。それができなくても囮として敵の眼をそらし、残り2隻のザンジバル級の部隊の攻撃でビッグトレーを叩く、というものだ。

 

 だが、この作戦は敵の後方に単独降下をすることになる。もしも作戦が失敗すれば、敵陣の奥深くで包囲され、殲滅されてしまうだろう。そのため、この作戦に参加する部隊には高い練度が要求された。

 1隻目のザンジバル級の部隊は私のリザド隊で決まりだとして、残りの2隊をどうするか……そこで白羽の矢を立てたのが『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』である。

 以前ドムをいち早く廻した恩もあるし、あの2隊なら練度に関して間違いない。そこでこの2隊を作戦に参加させるようにガルマに根回しを頼んだのだ。

 

 今回は私が1隻のビッグトレーを仕留めたが、残り1隻の退路を塞ぐ形で強襲できたということだ。こうも上手くいくと、ついつい笑いが漏れてしまう。

 私の背後で、ひと際大きな爆発が巻き起こる。

 それは『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』の攻撃でビッグトレーが撃沈された音だ。

 

 

「……勝ったな」

 

 私はそれだけ呟くと、ガルマにもこのことを知らせるために、紫の信号弾を撃ち上げたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 自分たちに襲いかかろうとしていたザクがビームスナイパーライフルに貫かれ、パイロットを失ったザクはそのまま倒れ込む。

 

『モンシア!? クソっ!!』

 

 仲間を失った連邦のザクがロケットランチャーを向けるが、ニキとエリスとレイチェルはすでに行動に移っていた。

 

『いけぇぇぇ!!』

 

 レイチェルのドワッジは倒れたままの体勢で腰からクラッカーを手にすると、それを敵に向かって投げつけた。

 

『おおぅ!?』

 

 ザクが怯み、周辺の61式戦車がその爆風に煽られ停止する。

 

『今よ!!』

 

 ニキはジャイアント・バズを右手で、そしてレイチェル機の持っていたMMP80マシンガンを左手に持つと、それを周辺の61式戦車に向けて乱射する。

 次々に破壊されていく61式戦車。その中をエリスのドワッジはスラスターを全開にしてザクに向かって走り出す。

 

「わぁぁぁぁぁ!」

 

 左手に持ったMMP80マシンガンを乱射するが、すぐに弾切れになってしまった。左手一本ではリロードも出来ない。それを投げ捨てると、エリスは背中からヒートサーベルを抜き放つ。

 真っ直ぐな鉄の棒を構え、エリスのドワッジはザクへと接近する。

 だが……。

 

『真っ直ぐ来るとは!

 バカが、死にやがれ!!』

 

 クラッカーの衝撃から回復した連邦のザクが、ロケットランチャーを構えて発射する。

 ドムの機動は直線だ。その機動では、自分からロケットランチャーに突っ込んで行くことになる。

 ザクに乗るベイトは勝利を確信してほくそ笑む。

 だが、死と隣り合わせのその瞬間、エリスは電光のように何かが駆け抜けて行くのを感じた。

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 瞬間、ドワッジが手首の関節を回すと、ヒートサーベルをそのまま地面に突き刺した。

 その瞬間、ドワッジがあり得ない機動……『直角』に曲がった。

 ターンピック、とでも言うのか。

 ヒートサーベルを地面に突き刺しそれを支点にすることで、迫り来るロケットの目の前で直角に曲がり、エリスはそれを紙一重で避けたのだ。

 

『なにぃぃ!!?』

 

 必中の一撃を避けられたベイトは大きく動揺する。

 エリスは曲がったその瞬間、ヒートサーベルから手を放し、腰からパンツァーファウストを引きぬいて、その引き金を引く。

 至近距離から放たれたパンツァーファウスト、しかも一瞬でも動揺したベイトにそれを避ける術はなかった。

 

『う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!?』

 

 断末魔の雄たけびと共にパンツァーファウストは着弾、ザクを木端微塵に吹き飛ばした。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 急速な機動から開放され、エリスは大きく息をつくが、そこにニキからの怒号が飛んだ。

 

『何してるの!

 レイチェルを連れて下がるわよ!

 急いで!!』

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 言われてエリスはレイチェルのドワッジの右手を掴む。

 同時に、61式戦車に乱射していたニキがジャイアント・バズを投げ捨て、空いた右手でレイチェルのドワッジの左手を掴む。

 そのまま、ニキとエリスのドワッジはスラスターを全開にして、レイチェルのドワッジを引きずりながらその場から高速離脱していく。

 そんな中、3人は空に紫色の煙を放つ信号弾が上がったのを見た。

 

「少佐が、やってくれたんだ!」

 

 作戦は成功、あとは生き残るだけだ。

 それだけを思いながら、3人は後方へと退避していった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 連邦軍はビッグトレー2隻とその指揮系統の中枢を破壊され、壊乱が始まっていた。

 統制も何もあったものではなく、撤退を開始していく。

 そんな中追撃戦で連邦へとさらに出血を強いろうとしたのだが……。

 

「ほぅ……」

 

 あの隊長機のザクⅡが殿を務め、援護を続けている。見ればあのクスコが押され気味だ。

 強いとは思っていたが想像以上のパイロットだったようだ。

 

「クスコ、手こずっているな。

 私がやろう。

 かわりに、後方に下がった3人の援護に廻ってくれ」

 

『少佐……了解しました』

 

 そう言ってクスコはその場を離脱していく。

 

「さて……では始めるか!」

 

 私はジャイアント・バズを発射しながら、連邦のザクへと接近を試みる。

 すると、ザクは左手に持った連邦のシールドでジャイアント・バズを受けながらも100mmマシンガンを乱射してきたのだ。

 

「ぬっ!?」

 

 100mmマシンガンの弾がジャイアント・バズに当たる。ジャイアント・バズを投げ捨てると、装填された炸薬に引火し、ジャイアント・バズが吹き飛んだ。

 私がジャイアント・バズを失ったのを好機と見たのだろう。100mmマシンガンをこちらに向けてくるが、私は一歩も引かずにヒートサーベルを抜きながら接近していた。

 

 

ザンッ!!

 

 

 赤熱化したヒートサーベルが、ザクの右腕を溶断する。

 

「墜ちろ!!」

 

 私はそのままヒートサーベルを振り下ろすが、ザクはとっさにシールドを投げ捨てると、左手でヒートホークを抜き放ち、ヒートサーベルを防いだ。

 

「良い反応だ。 だが、しかし!!」

 

 ドムのパワーに負け、ヒートホークが弾き飛ばされて宙を舞う。

 

「このドム、ザクとはパワーが違うのだよ! ザクとは!!」

 

 今度こそ倒すべく、私はヒートサーベル構える。

 しかし。

 

「何!?」

 

 瞬間、モニターが閃光によって白く塗りつぶされた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これでどうだ!!」

 

 ザクの中で、バニング大尉は必死の操縦を繰り返していた。

 モンシア・ベイト・アデル……部下は皆戦死し、護衛対象であるビッグトレーも撃沈されてしまった。

 この戦いは連邦の負けだ。

 だが、せめて部下たちの仇は取る。そして味方の撤退を援護するのだと、バニングは敵の圧倒的な技量の前にチャンスを待った。

 そして、その唯一のチャンスが到来した。近接戦闘時に、閃光弾を撃ち上げることで相手の視界を奪ったのだ。

 千載一遇、唯一のチャンス。

 バニングはザクを地面を転がるように動かす。そしてその転がる先には……さきほど切り落とされたザクの右手と、それの握っていた100mmマシンガンがある。

 バニングのザクは地面を転がりながら残された左手で100mmマシンガンを掴むと、その銃口を紫のドムへと向ける。

 その瞬間……。

 

「!!?」

 

 モニターには、赤熱したヒートサーベルが画面いっぱいに映っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 投げつけた赤熱したヒートサーベルが、ザクの頭部を貫通する。

 

「すまないな」

 

 私はそう言ってそのままザクへと接近すると、投げつけたヒートサーベルを掴みそのまま下へと振り下ろした。

 縦に割られたザクが倒れ込み、そのまま爆発する。

 

「いいパイロットだった」

 

 私はそう言ってザクのパイロットに敬礼をすると辺りを見渡す。すでに勝敗は決していた。撤退していく連邦部隊には、未だ余裕のある『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』が攻撃をしてくれている。

 

「こちらシロッコだ。

 リザド隊各機、状況知らせよ」

 

『こちらクスコです。

 機体の損傷は軽微ですが、ジャイアントバズが弾切れ寸前です。

 これ以上の作戦行動は難しいですね』

 

『こちらニキ、こちらも弾切れ寸前です』

 

『エリスです、右腕損壊によりもう戦闘は……』

 

『レイチェル、左脚部損壊により移動不能です』

 

 どう考えても追撃戦に移れる状況ではない。

 

「では全機、ザンジバルとの合流ポイントまで速やかに移動。 撤収する。

 追撃戦はガルマや、他の余力のあるものに任せることにするぞ」

 

 

 

 こうして、この戦争の序盤戦の天王山とものちに言われる『フェニックス大会戦』はジオンの勝利で終わった。

 連邦はこの戦いで投入したザクⅡは全機未帰還、戦車も無事に撤退ができた数は80にも届かない数であり、連邦の北米奪還は完全に頓挫。各地の連邦勢力も攻勢を終了させ、北米地域のジオンの勢力基盤は盤石なものになっていく。

 しかし、この戦いで連邦はザクⅡとはいえモビルスーツの量産体制が整ったことを意味していた。

 

 モビルスーツを手に入れた連邦……これからの苦しい戦いを誰もが感じていたのだった……。

 

 

 




次回は土曜日に更新します。
フェニックス大会戦の後始末と大事件発生。
次回で第一部完となります。

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