歴史の立会人に   作:キューマル式

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ドム全機、ジャイアント・バス構え!
目標、『原作』! 撃てぇぇ!!

……残念、『原作』は崩壊してしまいました。

今回で物語の序盤、第一部完となります。



第18話 かくて歴史は砕け散る

 『フェニックス大会戦』……連邦の北米大陸奪還を狙う大部隊と、キャリフォルニアベース駐留軍との間で行われた大規模戦闘はジオン軍勝利に終わった。戦力の大損失をした連邦は南米ジャブローまで撤退を余儀なくされる。

 無論、ジオンも被害はある。しかし、戦車600両に量産されたザクⅡ約30機という驚異的な物量を投入されたことを考えれば、むしろ軽微な損害だったとも言える状態だ。

 

 

 この勝利の原因はいくつかある。

 まず一つがガルマの取り続けた戦術である。

 ガルマは無謀な正面突撃を決してさせず、迎撃戦のみに集中した。そして敵戦線の綻びをダブデや火砲での砲撃によって造り出し、そこに快速を誇るドムシリーズで切り込み出血を強いる機動戦術を取り続けた。そのため、こちらの戦力の低下を最小限に抑え、相手には最大限の出血を強いたのである。

 ドムシリーズの特徴をよく掴み、それを最大限に生かした見事な用兵であった。

 

 

 二つ目の勝因、それがモビルスーツ以外の通常兵器の活躍だ。

 ソンネン少佐率いる第五戦車隊は、その性能を駆使して相手側面から痛撃を与え、敵戦線に伝播するような混乱を生じさせる戦果を生みだした。

 この戦いで投入された新型戦車『マゼラ・ストライカー』の活躍は目覚ましく、即刻生産ラインが造られゆっくりとだが量産体制に入ることになる。

 そして戦果以外でも、彼ら第五戦車隊の活躍は大きな意味合いを持っていた。モビルスーツ以外の通常兵器の見直しと、それを扱う者への意識改革である。

 モビルスーツの登場で、戦場の主役はモビルスーツへとシフトした。それによってモビルスーツ以外の兵器を扱う者には「自分たちは所詮脇役」という、諦めのようなものが漂っていたのだ。

 しかし、戦いに主役も脇役もない。ソンネン少佐たちの活躍は、通常兵器を扱うどこか諦めた者たちに「自分たちもやればできる」ということを強く植え付けさせ、その意識を良い方に改革させたのだ。

 この働きによって、ソンネン少佐は中佐へと昇進。他の戦車兵たちも多くが賞与を与えられ、モビルスーツ以外の通常兵器を扱う者の希望であり、羨望の的となった。

 同時に、モビルスーツ開発を優先することで後廻しになっていた通常兵器の新型の開発も、それらの意識に後押しされ促されることになる。

 『フェニックス大会戦』の勝利の理由の一つは、敵に制空権を取られなかったことだ。

 これはドップ戦闘機隊の奮戦の結果もあるが、どちらかと言えば連邦の失策であったことのほうが大きい。

 先の『ハワイ攻略戦』において連邦は大量の航空機をパイロット込みで失ってしまい、その補充ができていない、航空戦力が回復しきれていないうちに『フェニックス大会戦』になったのだ。『フェニックス大会戦』が連邦が完全に航空戦力を回復してからだったら、戦いはどうなっていたか分からない。

 これは連邦の軍事行動に様々な政治的思惑が絡んだ結果、早期に北米奪還作戦が開始されてしまったためだ。

 次回もそんな敵の失策に期待するわけにもいかず、早急に制空権確保を目的としたドップに変わる高性能戦闘機の開発が進められることになる。

 

 

 そして三つめの勝因が、『強襲部隊によるビッグトレーの早期撃破』である。

 私率いる『リザド隊』、そして『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』というトップレベルの戦闘力を持つ強襲した3部隊が早期にビッグトレー2隻という、連邦司令部を潰したことで連邦軍の指揮系統が壊滅、自らの持つ大戦力を統率できなくなってしまった。

 その撃破のタイミングが遅ければ、的確な指揮の元で大軍に攻められたジオン軍はもっと大きな出血を強いられていただろう。

 

 

 他にも勝利のためになったものはたくさんあるが、大きな勝因を考えるとこの三つである。

 だが……この勝利に酔う訳にはいかないことを私は知っていた。

 

「……」

 

 私は無言で、ファイルをめくる。

 そこにはメイ嬢が纏めてくれた、あの連邦のザクについての調査結果が記されていた。

 

 あのザクⅡは『基本的に』はF型のようだ。

 何故ここで『基本的に』などという含みのある言葉を使ったのか、それは各所に連邦独自のものと思われるシステムが盛り込まれていたからだ。

 

 まず関節部、駆動系には本来のザクの流体パルスシステムの他に、別の駆動装置が組み込まれていたらしい。そのため運動性がオリジナルのF型よりもあきらかに上だ。

 このシステムを私は知識として知っている。連邦系モビルスーツの駆動系で使われているフィールドモーターシステムだ。

 さらにジェネレーター出力もF型よりも上だった。

 そして一番の脅威とも言える部分は制御を司るコンピューター部分だ。ジオンの機体管制コンピューターより性能は明らかに上であり、機体制御の精密さとパイロットの負担軽減能力を高めている。

 総合的な性能としてはザクⅡS型に近い性能があると言っていい……メイ嬢の調査レポートはそのように締めくくられているし、私も同意見だった。

 

「ふぅ……」

 

 私はファイルを閉じて机の上に投げ出すと、椅子に深々と腰掛け眼を瞑った。

 

「どこの誰かは知らんが……困ったことをしてくれる」

 

 思わずため息をつく。

 ザクⅡは拡張性溢れる、優秀な機体だ。そのため連邦は手に入れたデータから手を加え、スペックアップした形で量産してきたのだろう。

 そう、『量産』だ。

 連邦は6月のこの段階で、モビルスーツを量産するまでの体制に漕ぎ着けたのである。

 私の知る『原作』なら連邦の量産型モビルスーツのGMの量産体制が整うのが10月ごろ、4カ月も前倒しになっている。

 

「不味いぞ、これは」

 

 ザクⅡS型はエース専用にカスタム化されたザクⅡの高性能型である。それに準ずる性能の機体を量産されるとなるとかなりまずいことだ。パイロット次第とはいえ、ドムですら墜とされる可能性がある。

 このままでは『自分たちの造り出したモビルスーツの象徴であるザクによってジオン軍は敗北する』という、あまりに笑えない最悪のシナリオが現実味を帯びてくる。

 そうさせないためには、今以上の戦力拡充と戦略が必要になってくるだろう。

 

「……」

 

 幸いにして、戦力拡充に関してはいくらでも案はある。

 次期主力汎用モビルスーツの設計はほぼ完成している。これの性能はザクとは比べ物にならない。10月にあるだろう『オデッサ作戦』には纏まった数が投入できるように急ぐべきだろう。

 また、今回特筆すべき戦果を発揮した新型戦車『マゼラ・ストライカー』の増産と配備を急ぐ必要もある。

 制空権の確保用に新型航空機の開発も後押しすべきだろう。

 さらに、今回の連邦ザクで手に入った技術のフィードバックも重要だ。ガンダムにも搭載されていたという教育型コンピューターが代表的な例だが、コンピューター関連はジオンより連邦の方が上である。『原作』においても、アムロ=レイの膨大な戦闘データがあったとはいえ、モビルスーツの操縦に関しては訓練期間も短かった連邦パイロットがジオンのパイロットと渡り合えた理由は、このコンピューター性能の差がパイロット能力の差を埋めてしまったからだという説もあるし、それは恐らく正しい。

 今回のことで手に入った連邦コンピューター技術は、すぐにでも解析し既存の機体に載せるだけで戦力の大幅アップが見込めるだろう。

 自惚れではなく、技術的にはいくらでも何とかしようがある。だが現実には、戦争は技術だけでは勝ちようが無いのだ。

 

「……ガルマにでもいい、思い通り動かせる、直属の軍団が欲しい」

 

 そんな呟きが自然と漏れていた。

 ガルマは肩書は『地球方面軍司令』となっている。しかし、地球方面軍は突撃機動軍からの編成……つまりガルマは『キシリアから借りた兵を動かしている』に過ぎないのだ。

 そのため、ガルマが独断で好きに動かせる戦力は私のリザド隊を含め少数、実はそれほど多くない。それ以上を動かすには、命令関係でどうしても『お伺い』をたてなくてはいけない時があるのだ。

 今回の『フェニックス大会戦』でも、『外人部隊』と『闇夜のフェンリル隊』を動かすためにガルマに頼んでキシリアに『お伺い』をたてたうえで、やっとこの2隊を遺憾なく動かせるようになったのだ。これが無ければもう少しスムーズな用兵が可能で、とれる手段も増えるのだが……。

 もう一つ同じような理由で苦労しているのが『情報』である。ジオンにも優秀な諜報部が存在するが、それはギレン直属、キシリア直属といった感じでガルマはそこから『情報を廻してもらっている』状態なのである。そのため、情報の鮮度や信頼性には時に首を傾げるものもある。これも直属の諜報部でもあれば効果的に活用できるだろう。

 

「ままならんものだな……」

 

 こうなると、自分のできることの少なさを痛感する。

 だが、嘆いていても始まらない。

 いつかの日のために着実に自分の仲間を増やし、そして戦争には勝利させなければならない。そのための努力を続けねばならないだろう。

 

「人材が欲しいな……。

 少し、前倒しをすることが必要なのかもしれん」

 

 現在、地球上にはいくらか仲間に引き入れたい人材がいる。今は北米関係で私も忙しかったが、今回の『フェニックス大会戦』の勝利で、北米の連邦勢力はしばらくは大人しくなるだろう。

 余裕のある今のうちに、そういった人物とパイプを造っておきたい。

 

「……そうだな。

 各戦線への技術支援等の適当な名目を付けて、ガルマに少し地球全土を旅することを許可してもらうか」

 

 私はそんなことを考えながら、その案を現実にするための具体的な内容を考え始める。

 その時だった。

 

 

 コンコン……

 

 

「ん?」

 

 ノックの音がする。こんな夜更けに誰だろうか?

 

「開いている。

 入ってくれ」

 

「……すまない、上がらせてもらうよ」

 

「ガルマ?」

 

 入ってきたのはガルマだった。だが、何やら様子がおかしい。

 

「どうしたのだ、『フェニックス大会戦』を勝利に導いた名指揮官殿が、何を暗い顔をしている?」

 

「……」

 

 私は努めて明るく言うが、ガルマの表情は硬いままだ。ここに来て、何かただならぬ事態が起こっているのを私は確信する。

 そして、しばらくするとガルマは言った。

 

「シロッコ。

 すまないが僕と一緒に、一度サイド3に戻ってくれないか?」

 

 それは突然の、本国に戻るという話だった。

 

「地球戦線のこともあるから、向こうにいる期間はそう長くない。

 滞在期間は長くとも2週間といったところだ。

 急な話ですまないが、準備ができ次第すぐにでも出発したい。

 頼めないか?」

 

「君がそう言うなら私としては構わないが……いかんせん、あまりに急な話だ。

 それに連邦がしばらくは大人しいだろうとはいえ、『地球方面軍司令』の君が本国に帰る用事……一体何があったのだ?」

 

 私の質問にガルマはしばし遠い目で中空を見上げる。

 そして……ゆっくりと、その言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシリア姉さんが……死んだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……かくして歴史は、私の知る『原作』からは大きく道を外れ、混迷の道を進み始める。

 この歴史の先にある物の姿は……私にもまだ見えない。

 

 

 


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