歴史の立会人に   作:キューマル式

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ツィマッド魔改造。
ジオニックの汚い陰謀さえなければ、ヅダはザクに勝っていたのだ!!

とりあえずドムが欲しい……。


第02話 ツィマッド社

「ふん……このデータならば目標値の達成は確実だな」

 

「す、凄い。

 この改善ならエンジンの安全性もばっちりだ!」

 

 私の試作した図面とシミュレート結果に、研究員が驚きの声を上げるが私にはここから先の時代の技術理論もある。この程度は出来なければ困るのだが、そんなことを言う訳にもいかず、謙虚なように返す。

 

「何、驚くようなことではない。

 君たちの基礎設計が優秀だっただけのこと。 私は少々手を加えたにすぎんよ」

 

「……君のような天才が『あの時』にいてくれたら、こいつは今頃主力MSだったろうに……」

 

 そう言って悔しそうに研究員が見上げる先には一機のMSが鎮座している。

 『EMS-04 ヅダ』だ。

そう、今私がいるここは『ツィマッド社』の研究施設である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 シャアと同じく除隊処分となった私はガルマにしたためてもらった紹介状で、『ツィマッド社』に技術者として潜り込んでいた。

 何故そうしたのかと言われればそれは単純、連邦に勝つためにである。

 すでにジオンは私の故郷も同然、敬愛する母の1人であるアストライア・トア・ダイクンの故郷でもあるし、それを既得権益にしがみ付いた連邦上層部に巣食う俗物どもに蹂躙されるのは耐え難い。

 それに私の実の両親を巻き込んだテロも、裏には連邦軍があったことは知っている。そう言う意味では連邦も私の復讐の対象だ。憎きザビ家に加担しているような形になるが、負けてしまってはどうしようもない。

勝つためには技術力を高めねばならないため、私は技術者という立場で『ツィマッド社』へとやってきたが、これが曲者である。

私の頭の中にはすでに愛機とも言える『ジ=O』の設計が出来上がっている。造れと言われれば、資材と時間を潤沢に与えてくれるなら造ることは出来ようし、もっと時間さえあればさらに研究を進め、それこそ『タイタニア』や『サザビー』にも至ってみせよう。だがジ=O……もっと言えばその技術すべてをすぐに公開することは危険であるとも考えている。

この世界は前世の私(一般人の学生)の知る『初代ガンダム』の世界と酷似しているが、私の存在という異物によってどう変わるか分からない。さらに技術を公開したことでそれが漏れ、私の知らないような敵が現れてしまっても困る。

そこで私は技術者という身分で、少しずつ技術を開放、MS技術の成長を後押しし、加速させることにしたのだ。

 

 

 では何故、私はその技術の提供先に『ツィマッド社』を選んだのか……これはガルマも頭を捻っていた。『ジオニック社』の方がザクを正式採用しておりMSのノウハウは多いのでそちらの方が良いのではと勧めてくれたが、私はあくまで『ツィマッド社』で頼んだのだ。

 『ツィマッド社』と言えば一年戦争での名機である『ドム』を作ったメーカーである。その他にも『ヅダ』に『ゴッグ』と中々に面白いものを造っているし、それらに装備するジャイアントバズや135mm対艦ライフル、ゴッグの腹部メガ粒子砲など武器も優良だ。そして極めつけは『ゲルググ』と時期主力量産機の座をかけて争った『ギャン』だ。ゲルググとのコンペに敗北したギャンだが、そのコンセプトは『ガルバルディα』、その発展機である『ガルバルディβ』、そしてアクシズの『Rジャジャ』と続く優秀な機体だ。特にギャンに搭載された『流体パルスアクセラレーター』のシステムはMSの運動性を大きく向上させる優れたシステムである。それらの技術の早期導入が私の目的だ。

 つまり、まとめるとこうなる。

 

 

1、ドムの早期開発によるジオン軍の戦力増強

 

2、有用な武装の開発

 

3、MSの運動性向上のための技術の促進

 

 

 こんなところか。

 ドムは私の知る一年戦争でも優秀な戦果を上げた傑作MSだ。これが早期に投入できれば数で劣るジオン軍にも勝ち目はある。少なくとも、その後の高性能MSの投入までの時間稼ぎにはなるだろう。とにかくドムの開発は最優先の課題だ。

 次にMS用の武装の開発。MSの武装はビームが中心になっていくし、私の中にはそのために必要なエネルギーCAP技術の理論はある。しかしそれをすぐに公開するのも考えものだ。ビームライフルに代表されるビーム兵器はその整備に高い技術が必要となるが、今後の劣悪な環境下で補給も細々とした地上侵攻作戦を考えるとビーム兵器の維持は難しいし、大気中でのビーム兵器は威力が減じられる。無論、ビーム兵器は今後絶対に必要になるため開発はするが、まずは現行のザクでも使用可能な実弾兵器の開発に力を入れるべきだろう。さしあたっての目標はジャイアントバズの開発と改良だ。

 その次は流体パルスアクセラレーターに代表されるMSの運動性向上の技術開発だ。これは私がいつかMSに乗ることになった場合、通常のカスタム機では不満すぎるための、いわば個人的な趣味としてだ。これはマグネットコーティングなどの技術の導入を考えている。

 

 とにもかくにも、まずはドムだ。

 ドムの基礎開発は0078年の段階ですでに始まっている。地上での運用を前提としたMSの行動範囲の拡大のため、ホバー推進のMSの開発がそれだ。その最大のネックとなる大出力エンジンのために、私は『ヅダ』の木星エンジンの改良を行っていたわけだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「この想定値を大幅に超える大出力に安定性……これならすぐにでもホバー推進MSの開発に行けますね」

 

「なに、このくらいどうということではないよ」

 

 上機嫌で話しかけてくる技術者に私も上機嫌で答えながら冷たくなったコーヒーをすする。私としても『木星』の名を冠するエンジンが不良品呼ばわりされるのはいささか思うところがあったので少しばかり本気で改良に勤しんでしまった。これなら今すぐドムに搭載しろと言われても十分すぎるだろう。

 

「んっ?」

 

 その時、この工房に1人の少女がいることに気付いた。私もかなり若いが、その少女は若いというより幼い。恐らく歳は15にすら届いていないだろう。その少女が軍人らしき者と共に工房内を歩いている。その2人、私には見覚えがあった。

 やがて2人はこちらにやってきた。

 

「これが『EMS-04 ヅダ』……ザクと性能差を見せつけながら、事故で採用されなかったMS……」

 

「それは過去の情報だな。 このヅダの木星エンジンには私が手を加えた。

 もはやあのような爆発事故はないよ。

 どれ、データを見るかね?」

 

 そう言って手元の端末のデータを見せると少女はまるで子供のように……いや実際彼女は子供なのだが……目を輝かせる。

 

「すごいすごい! この最大出力値なのに凄く安定してる。

 これ、あなたがやったの?」

 

「もちろんだ。

 こんなことなど私にとっては造作もないよ」

 

 そう言って微笑みかけると、少女は何かに気付いたようにハッとして私に向き直った。

 

「ごめんなさい。

 アタシ、メイ・カーウィン!」

 

「ほう……あのメイ嬢だったか」

 

 そう元気よく自己紹介をする彼女に私は目を細める。

 『メイ・カーウィン』のことは私も知っている。あのザクの開発にも関わった天才少女である。だが、それ以上に彼女を知っている理由はある。それは、彼女は『ダイクン派』の家系であることだ。

 いずれ、シャアと私はザビ家とことを構えることになるとすると、『ダイクン派』は絶対に味方にしたい相手である。そのため、『ダイクン派』の主だった人物には目星を付けていた。もっとも、未だ時期尚早として『ダイクン派』との接触は持っていない。今不用意な行動を行ってもザビ家に気付かれ、謀殺されるのがオチだからだ。

 

「噂は聞いているよ。

 私は……」

 

「知ってるよ。

 パプティマス・シロッコでしょ。あの『暁の蜂起』の」

 

 ガルマと共に引き起こした『暁の蜂起事件』、あれの中心人物であったガルマ同様、私やシャアも相応の賞賛を受けている。メイの私を見る目は有名人を見る子供のそれだった。

 

「名前を知ってもらっているとは光栄だな」

 

「他にも論文読みました。

 シロッコさんって、MSの開発まで出来るんだね!」

 

「何、機械いじりが趣味でね。

 その趣味がこうじてといったところだ」

 

 そうメイと挨拶を交わすと、今度はその隣にいた軍人が声を掛けてくる。

 

「私はダグラス・ローデン。 彼女と共に視察に来たものだ。

 君のような優秀な技術者と会えて光栄だよ」

 

「こちらこそお会いできて光栄です、大佐殿」

 

 そう言って差し出された手に握手を返すと、ダグラス大佐は目を細めながら言う。

 

「失礼だが……君とはどこかで会ったことがなかったかね?」

 

「大佐の記憶違いでは?

 私には記憶はありませんが……」

 

 無論、嘘である。ダグラス・ローデン大佐も『ダイクン派』の人物だ。その昔、私がキャスバルたちと暮らしていた頃、ジオン・ズム・ダイクンと会話しているダグラス・ローデン大佐を見かけたことがある。だが、あの時の子供が私だということはまだもらすべきではない。

 

「そうか……いや、すまない。おかしなことを言った」

 

「いえ」

 

 それ以降はダグラス・ローデン大佐は無言であった。

 その変わりとばかりにしきりにメイ・カーウィン嬢が技術的な話をしてくる。その会話の中で、私はメイ嬢の優秀さを知る。

 

(なるほど……『天才』ということか)

 

 彼女は間違いなく、『天才』と称される人種であろう。出来ることなら味方に引き入れたいものだ。

 何、ものは試しだ。

 

「こんなに楽しく話せたのは久しぶり。

 ありがとう、シロッコさん!」

 

「何、私も非常に有意義な時間だった。

 またいつでも来るといい」

 

「本当!?

 それじゃまた来るね!

 絶対だよ」

 

 そう言って何度も手を振りながら工房から去っていくメイ嬢。私も、なんとも裏表のない心地よくも純粋なしぐさに思わず笑顔で手を振り返す。

 すると、それまで何も言わなかった技術者からの冷たい視線を感じた。ニュータイプの直感で不愉快なことを考えているのが分かる。

 

「何か?」

 

「いや……君、ロリコンだったんだね」

 

 失礼な、私をどこかの赤い男と同列にしないでもらいたいものだ。

 彼女は間違いなく『天才』であり、しかも『女』……これからの時代に無くてはならない者だと確信している。

そんな未来ある者を導き、愛でることは歴史の立会人としての私の責務である。断じて低俗な理由などない。

 ……ただ、少し欲をいえばアルテイシアのように兄のように懐いてくれれば言うこと無しだが。

 

「いや、今の君の顔、間違いなくマズイから。

 明らかにヤバい人の顔だから」

 

 未だ失礼なことを言う技術者を無視して、私は端末に視線を戻し、次なる図面を引く作業に入るのだった……。

 

 

 


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