歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回は短めで、メイちゃんの整備士苦労話。
宇宙世紀の戦争において整備士って、おそらく一番重要な職じゃなかろうか?


第30話 整備士の苦悩

 

「ふぅむ……やはりキャリフォルニアベースとは勝手が違うか」

 

 戦闘から一夜明け、私はメイ嬢からの整備の報告を聞いていた。基本的に問題はないが、この湿気や泥でデリケートなビーム兵器の整備に手間どっているとのことだ。

 

「うん、分かってはいたけど信頼性と稼働率の面でビーム兵器はまだまだ考えることがあるよ。

 その部分だと、やっぱり実弾兵器の方が上だから」

 

 メイ嬢はポリポリと頬を掻きながら報告書を読み上げてくる。

 

「あと心配してたビームライフルの件だけど……計算上、15発だね」

 

「3発も減ったな……1.2倍の消費ということか」

 

 私はメイ嬢の言葉に頷く。

 今私が話をしているのはビームライフルの弾数の話だ。実を言うと、ビームライフルの弾数というものは実弾兵器と違って一定していないのである。

 

 ビームというのは膨大なジェネレーター出力によりメガ粒子を生成・縮退させて、収束し相手に放つ兵器だ。だが、これを行うためには膨大なエネルギーが必要となり、モビルスーツのサイズで携行するには難しい。

 それを可能としたのがエネルギーCAPという技術だ。これはメガ粒子を縮退寸前の状態で保存しておくものである。つまりこの技術によって『生成』の過程をとばすことができるようになり、本体からのエネルギーによって縮退寸前のメガ粒子を反応させて射出することが可能となったのである。

 これによって生まれたのが『ビームライフル』という兵器である。

 仕組みとしては『水鉄砲』を想像すれば分かりやすい。水の変わりにメガ粒子が入っており、それを相手に飛ばすのだ。

 

 さて、ビームライフルはそうして生まれた画期的兵器だが、もちろん問題が無いわけではない。ビームは環境変化に非常に敏感なのだ。

 宇宙でなら何の問題も無いが、大気中ではもちろんその威力が減退してしまう。この東アジア地域は多湿な環境下だから、その減退率はもっと高い。そこで必要なのが、『ビームライフルの調整』だった。

 減退して弱くなるのなら、減退を計算の上でそれでも有効打になるように『1発に使用するメガ粒子の量を増やせばいい』のである。だからこそ、環境に合わせた『1発でどれだけの量のメガ粒子を反応させるか?』という調整が必要になるのだ。

 

 以上の理由でメイ嬢に『この多湿な地域での有効打を放てるように』ビームライフルの調整を依頼していたが、その結果1発の消費が1.2倍となってしまったというわけである。これは中々に問題だ。

 

 まずは純粋に弾数が少なくなる。ビームライフルの仕組みは先に説明した通り、水鉄砲のようなものだ。貯蔵されているメガ粒子は一定なのに消費量を増やせば、弾数が減るのは当たり前の話である。しかも一年戦争期のビームライフルは本体にメガ粒子を貯蔵する方式だ。この方式だと弾の補給は専用の設備を備えた母艦や基地でしかできない。

 いかに強力な武器でも継戦能力が無いのは困る。一応ビームライフルを複数マウントしていくというのもアリではあるが、当然ながら重量がかさんでしまうことになる。補給しにくいビームライフルの弾数が減るというのは大きな問題なのだ。

 

 次に、機体のジェネレーターを酷使する。

 ビームライフルは貯蔵されたメガ粒子に、それに見合ったエネルギーを本体から供給し反応させることで放てる。使用するメガ粒子を増やせば、反応に必要な要求エネルギーも当然増えるのだ。そのため、本体ジェネレーターを圧迫することになる。戦闘中にジェネレーターのパワーダウンなどいきなり起こってはたまったものではないから、この消費エネルギー増加というのは結構に痛い。

 

 さらに内部部品の寿命が速くなる。

 理論上、調整を行えば貯蔵されたすべてのメガ粒子を使用した強力な一撃を繰り出すというのは計算上は可能だが、現実的ではない。それをやろうとすればビームライフルそのものが持たないからだ。同じように壊れるほどに出力を上げなくても、確実に内部部品にダメージは蓄積され頻繁なパーツ交換が必要になってしまい運用のコストが跳ね上がる。

 

 これらの理由により、ことは単純なものではなかった。

 ……こう考えると、『原作』のユニコーンガンダムとビームマグナムは実に規格外だ。

 複数の(エネルギー)パックによる継戦能力の確保、使用出力調整をコックピットのボタン一つで行えるオート機能、そして大量のメガ粒子を反応させるのに足るユニコーンガンダムのジェネレーター出力と、それだけの攻撃を連続して行えるタフな砲身とシステム……なるほど、ガンダムの極致の一つというだけのことはある。

 

(少なくとも、(エネルギー)パックくらいは早めに開発して投入すべきだな……)

 

 私は次の開発方針を心の中でひそかに固める。

 

「状況は分かった。

 だが、ビーム兵器の威力はその欠点を補って有り余る。

 苦労をかけると思うが整備の皆の頑張りに期待させて欲しい」

 

「うん、分かった!」

 

 そう言って元気に頷くメイ嬢に私は笑って先を促す。

 

「次に各機体の状況だけど……お兄さんやクスコさん、それにエリスさんの『ギャン』は問題なし。

 相変わらずお兄さんの専用ギャンの動きは凄いから膝を中心にストレスはあるけど、一応は許容の範囲内だね。

 同じようにニキさんとレイチェルさんの『ドワッジ』にも問題ないよ」

 

 全員、昨夜の戦闘では目立った損傷は無かったのでその辺りは問題はなさそうだ。

 

「次にマリーのザクだけど……」

 

 その言葉に、私は思わず奥に視線を巡らせた。

 そこには1機の茶色のザクが整備を受けている。

 それはマリオン専用の『ビームザク・スナイパー』である。ビーム兵器実験機だったビームザクを狙撃型にカスタムしたものだ。

 頭部を通常のザクタイプから強行偵察型ザクに使用されるカメラ強化されたタイプに換装し、背中のランドセルから円盤……複合レーダーレドームが左の肩の位置に来るようアームで取り付けられている。ビームスナイパーライフルによる狙撃を念頭に入れたカスタム機だが、狙撃だけの機体ではない。

 接近戦用にビームサーベルを装備し、機動性も悪くは無い。当然ながらビームライフルも扱えるので、狙撃の必要が無いような場合には他のモビルスーツとともに通常戦闘が可能だ。この『ビームザク・スナイパー』、『原作』での『ジムスナイパーカスタム』に相当するような『狙撃にも対応させた全体性能向上機』として仕上がっているのである。

 

「結構急造のカスタムだからどこか不具合が出るかと思ったけど、特に不具合は確認できないよ。

 流石お兄さんの設計だね」

 

「当然だ。

 マリオンを欠陥のある機体などには乗せられんからな」

 

「ただ機体自体は問題ないけど、マリーが射撃システムがちょっと甘いから調整して欲しいって」

 

「ふむ……」

 

 

 ビームは重力・磁場・地球の自転・湿気……あらゆる環境すべての影響をうける。遠距離狙撃ではその影響も大きいだろう。この湿気のせいで、また細かな調整が必要なようだ。

 

「わかった。

 それに関しては私も後で作業に加わろう」

 

「最後にシャアさんのイフリート改なんだけど……お兄さん、これ見てよ」

 

「……凄いな、色々な意味で」

 

 ため息をつきながらメイ嬢が見せる手元の端末を覗き込み、私は思わずそう呟いた。

 そこに出ていた戦闘中のデータは凄いものだ。そして……それに比例するように機体のストレスも凄い。どうやらこの地形のぬかるみなどの中を動き回ったため、脚部関節を中心にストレスが溜まったらしい。キャリフォルニアベースでのテストの時には無かったストレス値だ。

 私としてもこれには驚きだ。あるいはこの機動こそ、シャアの実戦での本気ということなのだろう。

 

「凄いのは分かるけど……これじゃ早速足周りをオーバーホールしないと……」

 

 これからの作業を考え頭を抱えるメイ嬢に苦笑し、私は小さな声で囁くように言った。

 

「頑張ってくれたら、後で秘密で持ってきたケーキをあげよう。

 マリオンやハマーン嬢たちと仲良く食べるといい」

 

「ホント! やったぁ!

 絶対だよ、お兄さん!」

 

 そう言ってやる気を取り戻し元気に整備に戻っていくメイ嬢を見送る。

 

「ふっ、やはりまだ子供なのだな」

 

 その歳相応な反応に、思わず笑みが漏れた。

 

「……中佐、だらしない顔してますよ」

 

 するとそんな私に後ろからクスコが、呆れたような顔で言ってきた。

 

「そうか?」

 

「ええ。

 メイちゃんに甘くて毎回そんな顔をしてるから、兵たちに『ロリコン』とか陰口を叩かれるんですよ」

 

「むぅ……しかし、私は皆に同様に接しているつもりだが?」

 

「では、私にもケーキはあるんでしょうか?」

 

「……大人には我慢も必要だよ、クスコ大尉」

 

「だろうと思いましたよ、中佐」

 

 そう言ってクスコは肩をすくめながら大仰にため息をつく。随分な言われようだが、事実メイ嬢たちに甘い部分があることを自覚しているので言い返せない。

 私はクスコの視線に居心地の悪いものを感じ、椅子から立ち上がって辺りを見渡した。

 そこには『ユーピテル』の他にファットアンクル輸送機2機が着陸し、そこかしこであわただしく人が動きまわっている。

 

「どうしました、中佐?」

 

「いや……私の部下の多さに少し自分で驚いただけだ」

 

 この人数がすべて部下、そのことに少しだけ気が重くなる。

 

「今さら何をいいますか。

 それに……中佐ならこの程度の人数、わけなく指揮してくれるものと確信してますよ」

 

「それはプレッシャーかな? それともお世辞かな?」

 

「いいえ、純然たる事実です」

 

 その言い草に私は苦笑して、着込んでいた軍服の襟元を正すと歩き出す。

 

「そろそろかな?」

 

「ええ、むこうでシャア少佐がすでに待っています」

 

 やがて、開けた場所では同じく軍服を正したシャアがそこで待っていた。

 

「来たか……」

 

「ああ、先方をお待たせするわけにもいかんからな」

 

 そう言って空を見上げればそれは時間通り、1機のルッグンが飛んでくるとゆっくりと降下してくる。

 やがてゆっくりとした足取りで降りてきた者、それは巌のような男だった。

 『実直な武人』という言葉が服を着て歩き出せばこういうものと言うイメージがそのままの人物である。顔に刻まれた皺一つ一つすら、経験とそれから培った自信の表れであるかのように見えるから不思議だ。

 階級は大佐、私とシャアは即座に敬礼すると、向こうも敬礼を返す。

 

「よもやガルマ様の切り札と名高い『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』を援軍として送っていただけるとは……」

 

「友軍の救援は当然のこと、ガルマ少将からも東アジア戦線の友軍を必ず助けるように命じられております」

 

「私もシャア少佐も最善を尽くしましょう」

 

「これで兵たちの士気も上がろう。 感謝する」

 

 そう言ってこの男……ノリス・パッカード大佐は頭を下げたのだった……。

 

 




メイちゃんとシロッコのビーム兵器講座と、みんな大好き漢の中の漢、グフカスを一躍最高に格好いい機体にした男、ノリスさんの登場でした。
こういう人がいるからジオニストはやめられない。

次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。
   ウイニングガンダムが他の二体に合体するサポートメカなのは知ってたけどあの変形は面白い。
   あと敵のEz-8改造機3機は本当にいい戦い方をしてた。
   ギャン子、シールドで殴り潰さなくても(笑)
   相変わらず面白い戦いの見れる楽しい時間でした。
   次回はディスティニーガンダムの登場のようで楽しみです。

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