歴史の立会人に   作:キューマル式

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再び更新に2週間もかかってしまったキューマル式です。
誰かゆっくり小説を書く時間を下さい、マジで。

今回は連邦の追撃を頓挫させるための作戦です。
思いのほか長くなってしまったので前後編に分けました。
今回はその前半になります。
あの色々大人気なルーキーの登場です。

……『あの部隊』の登場までいかなかった……。



第37話 連邦追撃頓挫作戦(前編)

 

 薄暗いコックピットの中に表示されていく海図情報、それに従いながらレバーを操作する彼の表情には余裕というものはまるでない。それもそのはず、新兵である彼にとってこれは完全な初陣だからだ。

 何でこんなことに……彼は胸中でそう呟く。

 戦時下の特別措置によってジオン本国では今、学校の早期卒業措置がとられている。彼もつい数か月前まではハイスクールに通っていた学生であった。しかし、数年前から戦争のために国家総動員体制であるジオンでは、普通の高校でさえモビルスーツシミュレーターによる訓練を含む軍事訓練をカリキュラムに組み込んでいる。さらに戦争開始からは、『公国突撃隊』の後押しもありその辺りがかなり強化されていた。これは明らかに学徒出陣までを見据えた国家戦略である。

 とにかくその教育課程の中、ハイスクール時代からモビルスーツシミュレーターで高い適性を示していた彼はハイスクールの早期卒業と同時に訓練学校へ入れさせられ実戦へと配置となったのである。しかもその配置先というのが最前線である地球、しかも特殊部隊と来た。これで緊張するなと言う方が無理である。

 そんな彼の元に隊長からの通信が入った。

 

「ッ!?」

 

 急なことで軽いパニックになってしまい、通信の受信ボタンを押すだけでまごついてしまう。

 

『どうした、反応が遅いぞワイズマン伍長。

 何か問題があったか?』

 

「あ、は、はい!

 あ、いえ問題ありません、大尉!」

 

『……気持ちは分かるが、あまり固くなりすぎるなワイズマン伍長。

 そんなことでは戦場では生き残れんぞ。

 気楽に、とは言わん。 だが、肩の力は抜け。

 とにかく、死なないようにうまく立ち回れ。

 いいな?』

 

「りょ、了解です!」

 

 そう恐縮しながら彼……バーナード・ワイズマン伍長は頷いた。

 

『そうだぞ、新入り。

 俺より階級が下の奴がいなくなると困る。死ぬんじゃねぇぞ』

 

「りょ、了解です、ガルシア曹長」

 

『ふんっ』

 

 ガルシアなりの精一杯の励ましを受け、バーニィは覚悟を決めるように1つ息をつく。

 

『よし、予定ポイントに到達。

 深度20まで浮上』

 

 シュタイナーの指示のもと、ハイゴッグを水深20メートルにまで浮上させるサイクロプス隊。ここで潜水艦の潜望鏡のように有線センサーカメラだけを浮上させ海上を探り、作戦の開始までをはかるつもりだ。

 しかし……。

 

「うわっ!?」

 

『!?

 何をしている、ワイズマン伍長!?』

 

 海中で一定の深度を保つのは難易度の高い操縦技術を求められる。バーニィとて、その訓練はしっかりとした上でこの場にいたはずだ。しかし、初陣の緊張からか操縦のミスによってバーニィはハイゴッグを完全に浮上させてしまったのである。

 

 

 ゴンッ!

 

 

 さらに悪いことは続く。

 バーニィが浮上させてしまったのは警戒中の巡視船の真下だったのだ。船底への衝撃とともに巡視船がバーニィのハイゴッグの姿をはっきりと確認していた。巡視船からのサーチライトの光が、バーニィのハイゴッグの姿を闇夜の夜にはっきりと浮かび上がらせる。

 

「て、敵に発見されました!?」

 

『チィ!?』

 

 その報告にシュタイナーは舌打ちをすると、すぐに作戦の今後について考えを巡らせる。

 

『隊長、どうします?』

 

『この作戦に関わるのは我々だけではない、中止はできん。

 作戦変更、我々の方が『先』に仕掛ける!!』

 

『『『「了解!」』』』

 

 ミーシャの言葉に即決したシュタイナーの号令によって、サイクロプス隊は奇襲作戦から通常の強襲作戦へと切り替えて動き出した。背中のジェットパックとスラスターの推力を全開にして海から陸に上がると、そのまま全速で正面の基地……連邦の制圧した『ペキン基地』へと向かう。

 途端、彼らの5機のハイゴッグに向かって、基地から迎撃の弾幕が張られていた。

 

『クソッタレ!

 誰かさんのおかげで、熱烈な歓迎じゃねぇか!』

 

「す、すみません!」

 

『ガルシア、ヒヨッコに噛みつく暇があったら目の前の敵に弾を喰らわせろ!』

 

『わかってますよ!』

 

 シュタイナーの言葉に従って、ガルシアのハイゴッグが右手のハンドミサイルユニットを向けた。そこから発射されたのは4発のミサイルだ。それは飛行しながらさらに分裂すると地面に広範囲に渡って着弾する。これは対地攻撃用の多弾頭ミサイルであった。

 これによってペキン基地の砲座のいくつかが吹き飛び、迎撃の弾幕に穴が開く。

 

『よし、今のうちにスロットル全開で飛び込め!

 遅れたら蜂の巣だぞ!』

 

 言われるまでも無い。サイクロプス隊はそのまま、ペキン基地の敷地内に突入していた。

 

『よし、ここからは打ち合わせ通りだ。

 ミーシャとガルシアはこのまま東側の対空砲施設と飛行機用滑走路を、アンディとワイズマンは俺と一緒にこのまま北側の対空砲施設を破壊する。

 他の目標への攻撃は任意、だが我々の最大の攻撃目標は基地の対空砲の無力化だ、それを忘れるなよ!!』

 

 ミーシャとガルシアは早速と言った感じで、見つけた戦闘車両などに向かって弾をばら撒きながら移動を開始する。

 それを横目に確認しながら、シュタイナーもアンディとバーニィを連れて行動を開始した。建物の影から影へ、遮蔽物を利用しての移動を繰り返していく。

 その頃になって、ようやく連邦も足並みが整ってきたのか、起動に成功したザクが迎撃のために出撃してきた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 ザクが100mmマシンガンを乱射する中、バーニィのハイゴッグが突貫。数発の弾が当たるがそれは丸みを帯びたハイゴッグの傾斜装甲によってあらぬ方向に逸れて、装甲を貫通できずに終わる。そしてバーニィのハイゴッグがバイスクローをザクのコックピットへとねじ込んだ。ビクンと痙攣するように数度ザクが反応するが、モノアイの光が消えザクが倒れ込む。

 

『ほぅ……思いきりと腕はまずまずだな』

 

 その姿を見て、シュタイナーはバーニィの評価を少しだけ上方修正する。人手不足でシミュレーターで高得点をたたき出すだけの優等生、すぐ死ぬようなヒヨッコを押しつけられたかと思ったがなかなかどうして、モビルスーツパイロットとしての腕と度胸は悪くない。磨けば光る……中々の拾いものかもしれないと、シュタイナーはバーニィの評価を一段上げた。

 

『さすがに一筋縄ではいかんか……』

 

 ザクの1体をビームカノンの連射で蜂の巣にしながらシュタイナーはポツリと呟く。やはり急な作戦の変更で、思った以上に侵攻スピードが遅い。他の部隊との連携となるこの作戦には、明確に制限時間が存在する。時間がくれば作戦の成否に関わらず、サイクロプス隊は撤退しなければならない。しかし、集まりだしたザクによって進路を阻まれ、思うように進めないのだ。

 

『隊長、自分が囮になります。

 その間に、ここを突破し目標の破壊を!』

 

『待て、アンディ!!』

 

 シュタイナーの制止を振り切るようにアンディは建物の物陰から出ると、彼らに向かって100mmマシンガンを撃つザク2機へと突進していった。低く地面を滑るようにスラスターを使って移動すると、まずは右側のザクに向かってビームカノンを放つ。

 至近距離でのビームカノンによって蜂の巣にされたザクがアンディのハイゴッグに向かって倒れ込んできた。アンディはそのザクの頭を掴むと、ゴロリと素早く横になったままもう片方のザクへと振り向いた。

 寝転んだ状態のハイゴックに浴びせようとしていた100mmマシンガンは、先にハイゴッグによって仕留められたザクが盾となって、ハイゴッグまで届かない。友軍機を撃ってしまったことに、ザクの100mmマシンガンの連射が止まる。そしてそれこそ、アンディの望んでいた瞬間だ。

 倒れたザクを盾にしながら、ハイゴッグがビームキャノンを向ける。その閃光はザクのコックピットを焼き焦がし、ザクはそのままの勢いで倒れ込んだ。

 

『進路クリアです、隊長』

 

 アンディは盾にしていたザクを放り投げるようにして、ハイゴッグを立たせる。

しかし……。

 

『後ろだ、アンディ!?』

 

『なっ!?』

 

 入り組んだ建物の物陰に隠れていたザクが飛び出してきた。ザクはアンディのハイゴッグの背後をとると、100mmマシンガンを浴びせかける。

 

『う、うぉぉぉ!?』

 

『アンディ!!?』

 

 運動性を重視したハイゴッグの装甲はそれほど厚くは無い。至近距離、それも背後からの100mmマシンガンの徹鋼弾によってボロボロと砕かれ、ドウッとアンディのハイゴッグが倒れ込む。

 

『アンディィィィィィ!!?』

 

 シュタイナーの叫び。だが、その瞬間バーニィが動いていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!?」

 

 低く滑るように滑走するバーニィのハイゴッグ。それにアンディ機を撃破したザクが反応するが、ジグザグに滑るバーニィのハイゴッグをザクの100mmマシンガンは捉えきれない。そしてバーニィのハイゴッグのバイスクローが、ザクの頭部を貫いた。頭部から炎を上げ、座りこむようにしてザクが倒れ込む。

 

「はぁはぁ……」

 

『ワイズマン伍長、よくやった!!』

 

 バーニィとしてはただ無我夢中だったが、咄嗟のその反応にシュタイナーは掛け値なしの称賛を送る。そのとき、通信機から声が聞こえた。

 

『う、うぅ……』

 

『無事か、アンディ!?』

 

 それは撃破されたアンディからだ。

 

『状況知らせろ、アンディ!?』

 

『機体は……もう動きません。

 100mmがコックピットを掠ったせいで、その破片が腕と足に……』

 

『負傷したのか!?』

 

 その言葉にシュタイナーは考えを巡らせる。時間はかなり押している。アンディを回収するために時間をかけては、任務達成は難しい。

 その時、バーニィからシュタイナーに通信が入った。

 

「自分が助けに行きます!

 隊長は目標を!!」

 

『……わかった。

 だが、死ぬのは許さんぞワイズマン伍長!!』

 

 それだけ言葉を残して、シュタイナーのハイゴッグは先に進む。

 それを横目で見ながら、バーニィは倒れたアンディ機の傍に自分のハイゴッグをしゃがませるとコックピットハッチを開き、ワイヤーで地面に下りると一目散にアンディ機のコックピットハッチへと急ぐ。外部の手動レバーでコックピットを開くと、始めて嗅ぐ濃厚な血の匂いにバーニィは顔をしかめた。

 

「ご無事ですか、少尉!?」

 

「……喚くな、新兵(ルーキー)

 この程度じゃ、まだ死にはしない」

 

 砕けたコックピットの破片によって左手と左足から血を流しながら、それでもアンディは意識をしっかり持ち、自らの止血作業を行っている。

 

「肩を貸します!

 すぐに自分の機体へ!」

 

「ああ……」

 

 アンディは機密保持のための自爆コードを自機へ入力して、バーニィに肩を借りながら機体から這い出る。

 

「大丈夫ですか、少尉?」

 

「ああ……。

 まったく……新兵(ルーキー)に心配されるなんてな。

 ヤキが廻ったもんだ」

 

「……新兵(ルーキー)古参兵(ベテラン)を心配しちゃいけないなんてルールないでしょう」

 

「へっ、言いやがるじゃないか」

 

 アンディのもの言いにいくらかムッとしたバーニィが言い返すと、アンディはその言葉が気に入ったのか僅かに微笑む。

 そのとき。

 

「右だ、ワイズマン!!」

 

「なっ!?」

 

 突然の声に驚きながらも、バーニィは咄嗟に空いた右手で腰のホルスターから護身用のハンドガンを引き抜くと、そのトリガーを引いた。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 見ればそれは、連邦軍のパイロットスーツを着たバーニィほどの歳の若い男だ。恐らく先程のザクのパイロットなのだろう。バーニィの雄たけびとともに放たれたハンドガンの弾丸は、見事にその人影の頭を撃ち抜いていた。

 

「いい腕だ、ワイズマン」

 

「……」

 

 アンディの言葉に、しかしバーニィは無言だ。それもそのはず、これはバーニィにとって初めての『殺人』である。

 無論、今までのモビルスーツ戦での間でバーニィに殺された人間はいくらでもいるだろう。しかし、モビルスーツでの戦いは相手が見えない。だからその罪悪感を感じにくいのだ。しかし今はバーニィの目の前、互いの顔の見える位置で間違いなくバーニィの撃った弾丸で人が死んだ。脳漿が飛び散り濃厚な血の匂いが、言い訳しようのないほどに『殺人』を意識させる。

 ある意味新兵(ルーキー)の掛かりやすい病気であるが、それを感じたアンディはバーニィへと声を投げかけた。

 

「しっかりしろ、ワイズマン!

 お前がそんなことじゃ、自分だけじゃなく味方も殺すぞ!」

 

「わかって……います」

 

「いいや、わかっちゃいない。

 いいか、お前がそんなことじゃ今ここで俺が死ぬ。

 お前は俺を殺すつもりか?」

 

「そんなつもりは……」

 

「だったら撃て! 迷わず撃て!

 上官命令だ、俺のためにぶっ殺せ!」

 

 それは初めての『殺人』という行為の重みを、自分に向けようというアンディなりの優しさだ。上官の命令だからと言い訳ができるのなら、気も楽になるだろう……自分も新兵(ルーキー)だったころをアンディは思い出す。

 

「……了解です」

 

 バーニィはまだ感情の整理は付かないようだが、それだけ呟くとアンディを抱えたまま自分のハイゴッグへと戻る。

 

「少尉、鎮痛剤(モルヒネ)は……」

 

「いらん。 それより、集中しろ。

 俺の命はお前に預けてるんだからな」

 

 言われて、バーニィは機体を起こすとゆっくりと自分たちに向かって2機のザクが向かってくるのが見えた。

 

「不味い……2対1か……」

 

 バーニィが不利を悟って呻く。

 そのとき……。

 

 

 ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

 ペキン基地のそこらじゅうから、連続した爆発音が響いた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「どうやら時間らしいな……」

 

 混乱するバーニィ、だがアンディは納得するように頷く。そして、バーニィに接近してきていた2機のザクに黒い影が襲い掛かった。

 その影は背後からグレネードランチャーを射撃、その直撃にバックパックから炎を吹いて爆発するザク。僚機を失ったことに驚いた残りのザクが振り向くと、その瞬間鋭い爪がコックピットを突き破っていた。瞬時に2機のザクを屠った黒い影から通信が入る。

 

『こちら、特殊工作隊アカハナ』

 

 それは特殊工作部隊の工作員、アカハナと彼の愛機『アッガイⅢ』であった。

 

『作戦の段取りが違うぞ。

 どうしようかと思ったところだ』

 

「ああ……すまない。

 手違いで段取りを変えさせてもらった」

 

 どこか憮然とした感じのアカハナに、バーニィに変わってアンディが答える。

 

 実はこの作戦、当初の予定ではサイクロプス隊の突入はこの爆発の後だったのだ。

 ペキン基地はついこの間までジオンのものであった。そして基地を放棄するにあたって、ジオン軍は数多くの『嫌がらせ』を残していったのである。

 例えば施設の道を所々でコンクリートと硬化ベークライトを流し込んで物理的に塞いでみたり、本当は何の変哲もない部屋に『伝染病患者隔離施設』という看板を立てかけてみたりだ。この嫌がらせの絶妙なところは、『面倒だがやろうと思えば拠点として使えるように復旧できる』ことである。

 ジオンは施設の破壊を最小限にして撤退していったのだ。連邦は最低限しか施設を破壊する暇がなかったのだろうと判断したのだが……実はこれがジオンの狙いだったのである。

 連邦に拠点として安心して使ってもらい、そこを工作員の潜入によって打撃を与えようと言う、『基地を囮にした破壊工作作戦』だったのだ。

 当初の予定では工作員の仕掛けた爆弾で混乱しているところにサイクロプス隊が奇襲、アカハナの撤退を援護するとともに対空砲施設を無力化する手はずだったが……バーニィのミスにより順番が逆になってしまったのだ。

 

『こっちの仕事は終わりだ。

 そっちは……』

 

 アカハナがそこまで言うと、ひと際大きな爆発と同時にシュタイナーからの通信が入った。

 

『対空砲施設の無力化に成功した。

 ミーシャ、ガルシア、そちらの首尾はどうだ?』

 

『こちらも対空砲施設の無力化、それと飛行滑走路の破壊完了しています』

 

『ワイズマン、アンディは回収したか?』

 

「はい! 少尉ならここにいます!

 それに潜入していた工作員とも合流しました!!」

 

『よし、即座に撤退!

 遅れるな!!』

 

 シュタイナーの指示の元、サイクロプス隊とアカハナは一目散に海に向かってスラスターを吹かせる。それを追い連邦も砲火を浴びせかけるが、それよりも早くハイゴッグとアッガイⅢは海の中へと飛び込んで行った。

 すぐに追撃をしようとする連邦だったが、すぐにその考えは捨てることになる。何故なら、レーダーがペキン基地に迫る大航空隊を感知したからだ。

 アカハナによるモビルスーツハンガーや兵舎を狙った潜入爆破、サイクロプス隊による奇襲による対空砲施設の無力化、そしてガウ攻撃空母を中心とした対地爆撃部隊による爆撃……これこそがこのペキン基地打撃作戦の最終段階だ。

 

 ガウ攻撃空母、そしてドダイ爆撃機からの爆弾が、対空砲施設を失い滑走路を破壊され空に対して無防備になったペキン基地へと、文字通り雨あられと降り注いだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ドガ!!

 

 

「ぐっ!?」

 

 バーニィは殴られた頬の痛みに顔をしかめたが、すぐに姿勢を正して直立不動の姿勢をとる。シュタイナーは殴った右手を振るとほぐすように振った。

 

 ここはサイクロプス隊とアカハナを回収したユーコン級潜水艦のモビルスーツデッキである。

 回収後、アンディはすぐに医務室に運ばれることになった。幸いなことに命には別条は無く、その報告を聞いたサイクロプス隊一同は胸を撫で下ろす。その後、最初のミスを起こしたバーニィに対してシュタイナーが『修正』を行ったところだ。

 

「貴様1人が死ぬのは勝手だが、それに隊全体を巻き込むことは俺が許さん。

 貴様のミスが、どれだけ隊に危険を及ぼしたか分かっているか?」

 

「はい、理解しています……」

 

「……次は許さん。 肝に銘じておけ」

 

 話はそこまでという風にシュタイナーは煙草を取り出すと、火を付けて紫煙を燻らせた。バーニィはというと、さすがに気落ちしているのが見て取れる。それを見てシュタイナーは煙草を一本取り出すと、バーニィへとよこした。

 

「あの、これは……?」

 

「なんだ、煙草はやらんのか?

 くれてやる、少しぐらい吸ってみろ」

 

 そう言って火を付けてやると、バーニィはそれを吸い込み、そして慣れていないためすぐにむせ返る。そんなバーニィに苦笑しながら、シュタイナーは続けた。

 

「ワイズマン、最初のミスが無ければお前の今回の働きは中々だ。

 パイロットとしても、中々筋がいい」

 

「はぁ……」

 

「今回初陣だったようだが……『童貞』を卒業してどうだ?」

 

 『童貞』というのは、『初めての殺人行為』のことである。

 

「どう、と言われても……」

 

 その言葉に今だ心の整理がついていないのか、バーニィは顔をしかめる。シュタイナーはそんなバーニィの肩をポンと叩いた。

 

「酷かもしれんが、これが戦争だ。

 なるべく早く慣れろ、そして必要なら躊躇うな。

 戦場では躊躇った奴から死んでいく……俺は部下をそんなことで死なせるつもりは毛頭ないからな」

 

「隊長……」

 

「バーニィ、お前は俺の部下、サイクロプス隊のメンバーだ。

 隊長命令だ。勝手に死ぬな。

 死ぬくらいなら、敵を殺して生き残れ。

 わかったな? 返事は?」

 

「は、はい!!」

 

 不器用な敬礼をしながら答えるバーニィに、シュタイナーは苦笑する。そしてこれは、シュタイナーがバーニィをサイクロプス隊のメンバーとして心から認めた瞬間でもあった。

 それを待っていたかのようにミーシャとガルシアも寄ってくる。

 

「よろしくな、下っ端!」

 

 バーニィの肩に腕を廻しながらガルシアが言ってくる。ミーシャは手にしたスキットルを一口あおると、それをバーニィに投げ寄こした。

 

「ほれ、飲め」

 

「はっ、ですが自分は酒は……」

 

「なにぃ? 俺の酒が飲めねェってのか?

 上官命令だ、飲め!」

 

「は、はい!」

 

 言われて慌ててスキットルをあおり、度の強い酒にバーニィがむせ返るとその様子をミーシャはガハハと豪快に笑った。

 

 潜航中の潜水艦では、煙草もアルコールも厳禁だ。その様子を、ユーコン級潜水艦の乗組員が何か言いたげな顔で見ていくがサイクロプス隊のメンバーは気にもとめない。新しい戦友を迎え入れた時なのである、堅いことなど誰にも言わせはしない。

 サイクロプス隊の小さな新人歓迎会はそうしてしめやかに行われるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 対空砲施設を無力化されていたペキン基地は、その爆撃により拠点として致命的なまでのダメージを受けてしまう。施設はもとより、アカハナの仕掛けた爆弾によって兵舎やモビルスーツハンガーが集中的に爆発したため、人的にも大きなダメージを受けていた。そのため、ジオン追撃作戦の中止と追撃部隊の呼び戻しを行うことになる。

 ペキン基地へと後退していく連邦の追撃部隊。

 しかしその背後から、ジオンのさらなる追撃が迫っていた……。

 

 

 




サイクロプス隊とアカハナの共同戦線でした。
Gジェネではジャブローに一緒に潜入してきたこともあったなぁ……。

次回は『個人的にアムロinガンダムを最も追い詰めた部隊』の登場の予定です。
次回もよろしくお願いします。


追伸:今週のビルドファイターズトライ。
   
   フミナ先輩すげぇ!
   SDのリアルモードなんて懐かしすぎて涙が出そうだ。

   次回は同門対決みたいですが……仁義なき殴り合いなんだろうな。
   1期の時のVSフェリーニ戦のような戦いを期待したい。

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