歴史の立会人に   作:キューマル式

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お久しぶりです、キューマル式です。
異動やらなんやら、リアルで忙しかったため久しぶりの投稿になりました。

今回は、あの部隊の活躍です。
あの部隊の有用性はマンガや、ビルドファイターズでやっと証明されたと思う……。



第38話 連邦追撃頓挫作戦(後編)

 

 

 薄暗い森の中を、地響きのような足音を響かせながら巨人……連邦のザクが歩いている。

 本隊から離れ、哨戒任務を行っているこのモビルスーツ小隊……ザク3機が歩く様子は、どこか肩を落として見える。だが、それはおそらく見間違いではないだろう。

 彼ら連邦の将兵たちの胸中にあるのは、『こんなはずではなかった』という思いだからだ。

 

 ジオンの3度にわたる地球降下作戦によって打撃を受け、大幅に後退し主要拠点までの後退を強いられた連邦軍は、ついにジオンの強さの象徴であるモビルスーツの量産にまで漕ぎ着けた。

 徹底的に輸送線を叩くジオンの通商破壊作戦のせいで厳しい戦線は多いのだが、この東アジア戦線はすぐ近くに資源産出場があり、その効果は薄い。

 そのおかげもあって、連邦軍の中でもいの一番に戦力を回復させたこの東アジア戦線の将兵たちには、

 

「自分たちが最先鋒となってジオンを地球から叩きだしてやる!!」

 

という強い意気込みがあったのである。

 

 その勢いのまま、地球連邦東アジア方面軍はジオンの拠点となっていたペキンを奪還、追撃戦によって退却していくジオン軍にさらなる出血を強いていた。

 連邦軍は追う者でジオン軍は追われる者……それがペキン奪還以降のこの地域での認識である。

 しかし……連邦の将兵たちの、一体誰が考えただろうか?

 その構図が一瞬にして逆転するなどと……。

 

 連邦の拠点となったペキンが、ジオンの奇襲攻撃によって甚大な被害を受けたのだ。

 近代戦は当然、兵器を用いた戦いだ。しかし、兵器というのはしっかりとした補給と整備があってはじめて効果を発揮する。特に巨大な人型兵器である『モビルスーツ』が主兵装となった今回の戦争は、巨大な精密機械であるモビルスーツの整備をし続けなければならないが……モビルスーツは巨大ゆえに本格的な修理や整備のためには、それ相応の設備が必ず必要だ。

 この地に『遠征』をしている今の地球連邦東アジア方面軍にとって、奪還したペキン基地はそれを行うための重要拠点、それを失うことはこの『遠征』の失敗を意味する。そのため連邦はペキンの守備を固めるために追撃を即刻中止、ペキン基地までの即時後退の命令が出ていた。

 だが、そんな退却していく連邦軍に対し、今度はジオン軍が襲い掛かる。

 古今東西の戦いにおいて、一番難しいのは撤退戦だ。連邦軍は襲い掛かってくるジオン軍を退けながら、一路ペキンへの道を急いでいるのだが……。

 

「チクショウ、全然進まねぇ……」

 

 ザクの連邦パイロットは吐き捨てるように呟いた。

 追撃のときにはジオンの退却の足を鈍らせてくれた森が、今度は平等に連邦軍の退却の足を鈍らせていたのだ。

 結果、連邦軍はジオンの追撃によって大きな出血を強いられている。

 しかも、連邦軍の足を鈍らせているのは何も森だけではなかった。

 

「ん?」

 

 何かに気付いた1体のザクが森へと100mmマシンガンを向けた。

 

「何だ? ジオンのモビルスーツか!?」

 

 僚機もそれにならって100mmマシンガンを構えるが、そこにあるのは昼でも薄暗い、濃い森があるだけだ。

 

「何かいた気がしたんだが……」

 

「センサーには特に反応ないぞ」

 

 ミノフスキー粒子の影響によってほとんどのレーダーやセンサーは機能しなくなっているが、それでも完全に使えない訳ではない。短距離でのレーダーやセンサーでの探査は未だに可能だ。モビルスーツほどの大きな物体を、この距離で見逃すほどではない。

 そもそもモビルスーツなら、いかに薄暗くても影なり何なりが目視で分かるはずだ。

 

「……気のせいか」

 

「驚かせないでくれよ。 ったく……」

 

 彼は一気に膨れ上がった緊張感が霧散していくのを感じ、安堵の息をついた。

 だがその瞬間、ポンッという小気味のいい音とともにザクの目線……頭部モノアイの高さに何かが撃ち上がった。

 

「「「!!?」」」

 

 迫撃砲か何かかとコックピットの中で、思わずパイロットたちは身を固くする。だが、その弾が生んだ物は爆発の熱ではなく、目を焼く強力な閃光だった。

 

「これは!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「閃光弾!?」

 

 3人はもろに目をやられてうめき声を上げた。そんな中でただ1人、この偵察隊の隊長である1人だけは、反射的に盾にするようにコックピット前にザクの左手を持ってくる。

 すぐにモニターが自動で明度修正をしてその影響を最小限に抑えようとするが、それでもパイロットたちは一時的に目をやられていた。

 

「くそっ、ジオン野郎どもか!?」

 

「それ以外あるか!! さっさと構えろ!!」

 

 その時、何かが高速で近付いてくる。

 

「あれは……」

 

「ワッパ?」

 

 それはジオン軍で正式採用されている偵察用浮遊バイク『ワッパ』である。ジオン軍の特徴的な緑色のノーマルスーツを着た兵士の乗るワッパ数台がこちらに向かってきていた。

 その行動が、連邦のパイロットには訳が分からなかった。

 ワッパは確かに非常に機動力ある車両(?)だが、その分積める武装には限りがある。どうしても軽武装しか積めず、装甲目標と戦うには明らかに不利だ。

 それが、分厚い装甲を持つモビルスーツに一気に向かってくるとはどういうことなのか……?

 疑問は尽きないが、何であろうと敵であることは間違いない。

 連邦のザク3機はワッパに向かって100mmマシンガンを撃とうとするが、目をやられ反応が遅れたことで懐に入り込まれてしまう。

 

「しまった!?」

 

 何かしらが起こると身構える連邦のパイロット。しかし衝撃はなく、ワッパの集団はザクを通り過ぎていく。

 ザクをすぐに旋回させワッパの去った方向を向くが、そこではワッパの張った煙幕によってほとんどまわりが見えなくなっていた。

 

「何だったんだ、今のは?」

 

 構えた100mmマシンガンの銃口を上げ、そのパイロットは首を捻る。

 

「わからん……」

 

 その言葉に偵察隊隊長も首を捻ったが、その時モニターに映る僚機のザク、そのコックピットを守る胸部装甲板に奇妙なでっぱりがあることに気付いた。

 それが気になって目を凝らそうとしたその瞬間、爆発の衝撃が機体を襲い、ザクがバランスを崩して倒れ込む。

 

「なぁ!?」

 

 その衝撃に、したたかに身体を打ち付けた隊長は頭を二・三度振ると、すぐに部下の確認をとった。

 

「無事か!!」

 

「痛ぇ、痛ぇよぉ!

 め、目が! 目がぁ!!」

 

「……」

 

 1人からは悲鳴が返ってくるが、もう1人からは応答がない。

 

「な、何が起こった!?」

 

 混乱する隊長は、うつ伏せの状態に倒れたザクを立ち上がらせようとするが、それができない。

 大急ぎでダメージ状態を確認すると、ザクの左肘と右膝から先が無くなっていた。仕方なく残った右腕でザクの上体を起こし、周りを確認する。

 すると同じように僚機のザクが仰向けで倒れ込んでいた。双方とも、片足の膝関節から先が無く、コックピットの辺りの胸部装甲板から煙を上げている。

 

「な、何が起こったんだ……?」

 

 目の前の光景が信じられず、偵察隊隊長は呆然と呟く……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「デカイ音を3つ確認。

 連中、全員ぶっ倒れたみたいですよクワラン隊長」

 

「へっ、成功だな」

 

 部下からの報告に、ワッパを走らせながら隊長であるクワラン曹長は笑った。その手には何かのリモコンが握られている。それこそが、今しがた連邦のザクを倒したものの正体だった。

 クワランたちワッパ部隊は、すり抜けざまに吸着爆弾をザクの各所に仕掛けていたのである。それによって関節を壊されたり、コックピットのパイロットをやられ、ザクは倒されたというわけだ。

 

「それにしても、よくリモート装置なんてお高いモンがこんな辺鄙な戦線にありましたね?」

 

「ああ、それだったらちょいと、な」

 

 部下の言葉に、ニカリとクワランは笑う。その様子に、どういうことか思い当たった部下はまたかと肩を竦めた。

 クワラン曹長は通信機を無断拝借し、物資を都合することを多々行っていたのだ。この爆弾のリモート装置も、そうやって都合したものである。

 

「だってこの作戦やるなら、リモート装置はなきゃどうしようもないだろ。

 下手に時限装置にして、その間に解除でもされたら目も当てられねぇ」

 

「同じじゃないですか?

 戦場でいつ爆発するか分からない爆弾を解除しようなんて度胸の座ったヤツ、そうそう居ませんって」

 

「いやいや、いるかもしれないぞ。そういう度胸の座ったヤツ。

 まぁ、そんなヤツはそうはいないだろうが、本当にいたら称賛ものだな」

 

 部下の言葉に、クワランはそう冗談めかして返す。

 

「おい、後方にいる連中にあのモビルスーツのこと送っとけ」

 

「了解!」

 

 クワランの言葉に、通信兵が連邦のザクと遭遇したことを通信で伝えた。その様子を、部下の1人が口惜しそうに唇を噛む。それをワッパを走らせながらも気付いたクワランは、部下のワッパに並んだ。

 

「どうした、景気悪い顔して?」

 

「いえ、これだけやってるのにあまり手柄にならないのが少し悔しくて……」

 

「ああ」

 

 そういうことか、とクワランは頷く。

 このワッパによる吸着爆弾戦術は、一撃離脱が旨とされているため戦果確認がしにくい。しかも吸着爆弾ではモビルスーツを完全破壊できるわけではないのでまだ動き、後から来た部隊が撃破したということで手柄を持っていってしまうこともある。

 手柄を立てて、さっさと本国のサイド3に帰りたいと思っている彼らにとっては『労多くして功少なし』といったところだ。

 だが、そんな部下の肩をクワランは叩く。

 

「焦るな焦るな。

 最近じゃ着実に俺たちの手柄も増えてる。

 このまま続ければ、サイド3に帰るのだってもうすぐさ。

 それより……下手に焦って死んじまう方が問題だよ」

 

 そう言って、クワランはワッパのスピードを少し上げ、集団の先頭にたった。

 

「こんな戦争で死ぬのなんて割に合わねぇ。

 だからこの全員で、必ず生き残ってサイド3に帰るぞ!

 いいな!!」

 

 このクワランという男、物資を無断で都合するような不良下士官だが、仲間を思う気持ちは人一倍だ。だからこそ、部下たちは彼につき従う。

 

「「「了解!!」」」

 

 クワランはその返事に満足するように一度頷くとワッパを基地に向けて加速させる。

 薄暗い森の中を、勇敢な鉄の駻馬の群れが駆け抜けていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふふっ、どうやら順調そうではないか」

 

 私は開いた端末で、昨今の東アジア戦線での戦況の報告書を読み、その内容に満足して呟く。

 特殊部隊の活躍によるペキン基地施設の破壊、そしてそれに続く敵追撃部隊に対する逆追撃作戦……この2つによって連邦はペキン基地まで撤退し、しばらくは動き出すことができないだろう。それほどまでに、今回連邦の受けたダメージは大きいはずだ。

 

「それにしても……ワッパによる爆弾設置戦術がここまでいい結果をだすとはな」

 

 ワッパによる吸着爆弾設置戦術……これは『原作』を知る私としては強力な戦術ではあると知っていたが、今回はこの戦術が様々な効果を生んだのである。

 このワッパによる吸着爆弾設置戦術だが、実は攻撃力はそれほど高くはない。当たり前だがビームライフルのように敵を一発で爆散させるような破壊力はなく、コックピット前に仕掛けてパイロットに大ダメージ、または関節部に仕掛けて腕部や脚部の局部破壊が精々だ。この『派手に壊れない攻撃力の低さ』……これが今回、逆に撤退していく連邦軍に大出血を強いることになったのである。

 

 今回連邦が後退していくのは、『ペキン基地の防衛のため』である。特殊部隊の奇襲によって戦力の減退した基地を守るための戦力を集めるために、退却していくジオンの追撃を諦め、後退を選んだ。

 だがそれは当然、『戦力のある部隊が戻ってくる』ことを狙ってのことだ。誰も身一つで帰ってこいとは言わない。武器である車両やモビルスーツをペキンに持ち帰らなければ意味が無いのだ。そんな連邦に襲い掛かったのが、ジオンの追撃部隊、そしてその先鋒がワッパ部隊である。

 さて、ここで先述したとおりワッパの攻撃力は低い。ワッパによる吸着爆弾設置戦術では、派手にモビルスーツは壊れない。それは……『直せば使える』ことを意味するのである。

 機体を破棄する場合、機密保持も兼ねて完全に破壊しなければならないというのは両軍では共通だ。特に最近量産に成功したばかりの連邦にとっては、モビルスーツとは高価で数の少ない貴重な兵器である。

 高価な兵器であるモビルスーツ、しかもペキン防衛のためにも持ちかえることを強く義務付けられた連邦軍の各隊はワッパによってつけられた『直せば使えるが足は止まる』程度の損傷に、

 

『直せば十分使える高価な兵器を、自ら壊して急ぎ後退する』か、

『敵の追いすがる状況で、時間を浪費しても直して持ち帰る』か、

 

 という難しい選択を迫られたのである。そして、それがいくつもの悲劇を生んだ。

 修理の最中にジオン追撃部隊に追い付かれ、全滅する部隊がそこかしこで続出したのである。逆に傷ついた機体を自壊させ後退に成功した部隊も、強力な武器であるモビルスーツを無くし戦闘力は著しく低下した。

 結果としてペキン基地まで無事に戦闘能力を保持したまま後退できた部隊など、元の3分の1にも満たないだろう。

 ワッパの低い攻撃力が、逆に連邦に判断ミスを誘発させ、とてつもない大出血を強いたのである。

 

 こうしてジオンは、連邦をペキンにまで押し返すことに成功した。

 しかも、この戦いでジオンにはある嬉しい収入が入っていた。それは……大量の『連邦ザクの鹵獲』である。

 鹵獲というのは、敵の戦力が減りこちらの戦力は増すという、有効かつ正当な戦術である。だが、鹵獲兵器というものは普通自軍の兵器とは規格などが違っており、所詮使い捨てでしかない。

 しかし『連邦ザク』はその名の通り、ジオンから手に入れたザクの設計図から造られたものである。そのパーツは独自のものもあるが、基本的にジオンのザクと変わらないのだ。そしてそれは、鹵獲品でありながら補給・整備を行い長期的に運用できることを意味する。

 ジオンの各戦線は、どこも補給が潤沢などとは言えない。特にモビルスーツなどは数少なく、定数割れもよくある話だ。そこにこの『大量の連邦ザクの鹵獲』は天の恵みみたいなものである。しかも『連邦ザク』の方がジオンのザクより性能がいいのだから、好かれないはずはない。この連邦からのザクの逆輸入、前線では特に好評だったのである。

 

「お兄さん、随分楽しそうだけど何見てるの?」

 

「ん? ああ、昨今の戦況を少しな」

 

 自分でも気付かぬうちに、あまりに愉快な状況に笑ってしまっていたらしい。『敵から盗み出した設計図で造った兵器を敵に奪われ攻撃される』……舞台にでもしたら笑いで一週間は愉快な気分でいれる自信がある。

 隣に座っていたメイ嬢に言われ、私は手にした端末をパタンと閉じた。

 今、私のいる場所は輸送機の中である。

 隣にはメイ嬢が座っており、後ろを見れば部下であるリザド隊の面々やシャアたち、そしてハマーン嬢とレイラ嬢までが乗っていた。

 今、我々はある人物の招きによって移動中である。

 その人物というのは……。

 

「むっ、着いたようだな……」

 

 輸送機はゆっくりと着陸を始める。

 そして輸送機から下りた我々を、2人の人物が出迎えた。

 1人はノリス=パッカード大佐、そしてもう1人は……。

 

「やぁ、君に会えるのを楽しみにしていたよ。

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス=シロッコ中佐」

 

 そんな人物に、私は敬礼と供に返す。

 

「いえ、こちらこそ類稀な技術者でもある閣下にお会いできて光栄であります。

 ギニアス=サハリン少将閣下」

 

 その人物こそこの東アジア戦線の最高司令官にして、『アプサラス計画』を推し進める技術者、ギニアス=サハリン少将だ。

 私はついに、ギニアス少将との面会を実現させたのである……。

 

 

 




というわけでクワランのワッパ隊の話でした。
タイムストップ作戦を見ても思いましたが……モビルスーツも戦車と同じで随伴歩兵いないとダメじゃないか、と思ってしまいます。

次回はギニアス少将との会話の予定。
まだ忙しい日が続きますので時間はかかるかも知れませんが、気長に自壊を待って頂ければ幸いです。

次回もよろしくお願いします。

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