歴史の立会人に   作:キューマル式

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今週で本作のUAが100万を超えていました。
ここまで読んで頂けるとは、読者の方には感謝の言葉もありません。
これからもよろしくお願いします。

今回から『オーストラリア 戦慄のブルー編』の開始です。
とはいえ、今回はまださわり程度ですが……。



第45話 コロニーの落ちた地

 

 月明かりに照らされた夜の砂漠に、銃声と怒号が響く。

 

「クソッ! クソッ!!」

 

 目の前の状況に悪態をつきながらそのパイロットは愛機であるドムを走らせる。

 彼はこのオーストラリア戦線の第427物資集積所の護衛であった。

 だが、その護衛ももう彼1人だ。2機の僚機がいたが、すでにあの敵によって撃墜されている。

 

「あれが噂の……!」

 

 このところ、このオーストラリア戦線では物資集積所などが連邦の攻撃を受けて全滅するという事態が多発していた。しかもその相手は決まって1機の蒼い色のモビルスーツだけだというのだ。

 彼はそんな噂を聞いて「強力な新型機とエースがいる」と、十分な警戒をしていたのだが……。

 

「何なんだ、あの化け物は!?」

 

 このドムを凌駕するほどの圧倒的な機動性。ドムの装甲を易々と、まるで飴細工のように貫いた光の剣……ビームサーベルの威力。それは十分に驚愕に値する内容だ。

 しかし、それ以上に彼は敵の異常性に悪態をつく。

 

「何で……何でこっちの攻撃がかすりもしないんだよ!?」

 

 彼らのドム3機の装備はメインウェポンがMMP80マシンガン、そしてパンツァーファウストを装備したいわゆる『ばら撒き』を前提として戦うタイプだ。

 これは拠点の警備のためにジャイアントバズのような一撃必殺より、マシンガンのような連射速度に優れた武装で弾幕を張って敵を牽制、その間に味方の援軍を待つという考えからだ。

 味方の援軍が無くとも3機のドムから放たれるマシンガンの制圧力は凄まじく、相手の足はどうしても鈍くなる。そこに一撃必殺のパンツァーファウストを叩き込むというのが常套戦術だ。

 しかしこの敵は3機のドムのマシンガンに怯みもせず正面から突っ込み、2機のドムを撃破したのだ。

 まるで『あらかじめそこに来ることが分かっていた』かのような、絶妙なタイミングでの回避と攻撃。それは『驚愕』を通り越してもはや『恐怖』である。

 

 

ビーッ! ビーッ!

 

 

「!?」

 

 ロックオンアラートに頭で考えるより早く身体が動き、ドムは屈むようにしながら横滑りをする。すると先ほどまでドムのいた空間をタタタッ、という軽快な音とともに弾丸が突き抜けていった。

 そしてその場での急ターンで切り返したドムのモニターには光の剣……ビームサーベルを振り上げながら迫り来る敵の姿が!

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 彼とて昨日今日パイロットになりたてのヒヨッコではない。

 彼は自分でも訳の分からない叫びとともに背中のヒートサーベルを引き抜くと迎撃の体勢をとった。

 ビームサーベルを形成する磁場と、ヒートサーベルの高過熱によって発生した磁場がぶつかり合い、干渉・反発を起こす。スパークを巻き起こしながら2機はつばぜり合いの様相で組み合った。

 だが次の瞬間、敵機は一歩飛び退きながら、胸からミサイルを撃ち出してきた。有線誘導式のそれは、誘導など無くとも真っ直ぐにドムに突き刺さる。

 

「くぅっ!?」

 

 ドムの分厚い正面装甲はその衝撃に耐えきった。しかし、残念だがそこまでだ。

 切り替えし、突き出すようにビームサーベルを構えながら敵機は突進する。ドムに避ける術はない。

 

「これが噂の……『蒼い死神』……ッ!?」

 

 そして彼の肉体はビームの刃の前に蒸発した。パイロットを失い、崩れ落ちるドム。

 静寂の戻った夜の砂漠に立つのはその蒼いモビルスーツのみ。そして、そのモビルスーツの中で男は嗤う。

 

「く、くくっ! あはははははは!!

 すげぇ、こいつはやっぱりすげぇマシーンとシステムだ!

 今までのクソマシーンとは訳が違うぜ!

 これでジオンの連中なんざ皆殺しだ!!」

 

 陶酔したかのように嗤う男の背後、もしもこの場に『ニュータイプ』と呼ばれる感性を持つ者がいたのならそこには悲しそうな顔をした女の姿を見ただろう。

 『EXAM』という呪いに魅入られたその機体は、月明かりの中で静かに輝いていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 コロニーの落ちた地、『オーストラリア』……ここはジオンと連邦がしのぎを削り合う最前線地域の一つだ。

 そこに到着した我々リザド隊は現地軍と合流し、補給と補充を行う手筈だ。

 砂漠に着陸したリザド隊の『ユーピテル』とファットアンクル、そして周囲にはオーストラリア方面軍所属のギャロップやサムソントレーラーが集まり、補給物資を待っていた。

 

「壮観だな……」

 

 私は空を眺めながら言う。

 補給物資は今、衛星軌道上から降下の真っ最中だ。遠くから見れば天体ショーとして見ごたえのあるものだろう。

 そんな風に思っていると、私は後ろから声をかけられ振り返る。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』のパプティマス=シロッコ中佐でありますか?」

 

 見れば敬礼をする眼帯の男の姿がある。しかしその片方しかない目からの眼光は鋭く、まさしく古参兵のそれだ。身体から滲み出る覇気は、間違いなくいくつもの試練を超えてきた強き漢の証左である。

 どうやらオーストラリア戦線の誇るエースの登場のようだ。

 

「その通りだ。 『荒野の迅雷』ヴィッシュ=ドナヒュー中尉。

 オーストラリアにその人ありと言われたエースに名を覚えてもらっているとは光栄だよ」

 

 敬礼を返してからそう言って握手を求めると、彼はどこか照れたように返す。

 

「いえ、自分などそんな大それたものではありません。

 逃げ遅れて生きもがいていたらいつの間にかそう呼ばれていただけですよ、中佐」

 

「それはまた大層な逃げ遅れだな」

 

 ヴィッシュ中尉の言葉に、私は苦笑した。

 ヴィッシュ=ドナヒューは進んで殿軍を務め、追撃してくる敵を逆に倒すことでスコアを叩き出したエースだ。

 古今の戦場においてもっとも被害が大きいのは撤退戦である。敵からすれば背中を見せる敵を追いまわしながら撃つだけの話なのだから当然だ。だからこそ撤退戦の殿軍というのは重要な上に危険が大きく、ある意味では時間稼ぎの捨て駒同然にされることもある。

 しかしヴィッシュ=ドナヒューはその殿軍で味方を守り、そして生きて帰る。

 ただパイロットとして腕がいいだけではない、戦況の変化を常に把握し大局を見通す戦術眼を持っていなければとてもできないものだ。

 正直、『中尉』という地位にいるのが惜しいくらいの人物である。

 

「貴官は補給隊の護衛かな?」

 

「ええ。 この天体ショーは連邦(むこうさん)からも丸見えですからな」

 

 そう言って苦笑する。

 こう言った衛星軌道からの物資投下は敵からもわかりやすく、しかも降下した物資を回収に行かなければならないという手間も多い。

 正直、緊急時以外は頼りたくない補給方法ではあるのだが……。

 

「オーストラリアは、特に物資が必要だからな」

 

「ええ……」

 

 含みのある私の言葉に、ヴィッシュ中尉は頷く。

 ここ、オーストラリア戦線は慢性的な物資不足だ。もっともジオンの地上最前線で物資潤沢な戦線などありはしないのだが、ここはほかの戦線とは事情が異なる。

 ジオンはオーストラリアの西部から中部にかけてを制圧しており、オーストラリアの豊富な地下資源を押さえている。同じく制圧しているアフリカからの船舶による補給路も確保されており、東アジア戦線のような低インフラのせいで補給が滞るというわけではない。

 オーストラリア戦線での物資不足はオーストラリア市民に対する援助が原因だった。

 

 オーストラリアはコロニー落としの直接的な被害にあった地であり、住民のジオンに対する憎悪は根深い。しかし、それ以上にオーストラリアの住民は困窮していた。

 コロニー落としによって巻き起こされた異常気象によって農業作物は壊滅的、工場の破壊によって日用必需品すら事欠き、食うや食わずの生活を強いられている。

 そこでジオンのオーストラリア方面軍は支配地域の住民に対して手厚い援助をおこなっている。住民もその援助が無ければ生きていけないため、内心はどうあれジオンに従っており占領体制はうまくいっている。

 しかし結局はそれは表面上のことだ。援助が滞ればその内面にあるジオンへの憎悪が表面化するだろう。それをさせないためには援助をし続けなければならない。まさに『金の切れ目が縁の切れ目』といったところだ。

 そのせいで肝心の戦争で消費する物資が圧迫されるという事態に陥っているのだ。

 そのため地上拠点からの補給だけでは間に合わず、こうして宇宙から一見して効率が悪そうな補給も定期的に行っているのである。

 そして、我々リザド隊もこれに紛れて補給と補充人員の受け入れのためにこの場で待機しているのだった。

 

「我々も前の戦場で多少なりとも消耗してな。

 おまけに我が隊には特殊なパーツも多いための補給というわけだ」

 

「東アジアでの中佐たちのご活躍は聞いております。

 あの『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』と『赤い彗星』が救援でやってきてくれたとなれば、前線の士気も上がるでしょう。

 このところ……前線の士気が落ち気味でしたので……」

 

「……それは例の『蒼い死神』のせいかな?」

 

 私の言葉に、ヴィッシュ中尉は静かに頷いた。

 オーストラリア戦線の物資集積所などを襲う連邦の新型機、通称『蒼い死神』はその強さから前線の兵に恐れられていた。

 『蒼い死神』に襲われた部隊はただの歩兵ですら20mmの斉射など、酷い時には踏み潰して丁寧に兵を殺していき、遭遇時の生存率が極端に低く、正確な情報が少ないこともその噂に拍車をかけている。

 

「私は遭遇したことはありませんが……数少ない生存者からの証言で、とんでもない手練れであることは間違いないでしょう」

 

 古参兵らしく、油断なく敵の脅威を受け止める。だが、私は笑って請け負った。

 

「何、心配することはない。

 『蒼い死神』は私とシャアが必ず打ち倒すよ」

 

 そのために少々無理を言ってこのオーストラリア戦線にやってきたのだ。EXAMマシーン3機とクルスト=モーゼス……これだけは確実に決着をつける。

 

「お願いします、中佐」

 

 ヴィッシュ中尉は敬礼をすると護衛のため、愛機であるグフに戻っていくと輸送隊とともに出撃していった。

 私はそのグフの背中を眺めながら再び空を見上げる。

 すると……。

 

「……来たか」

 

 そこには空に、他とは明らかに違う機影があった。

 他の補給物資を満載した投下ポッドは円形だがその機影は明らかな三角形、それが2機。これが私の待っていた、私の部隊への補給である。

 やがて、それはゆっくりと視認できる場所に降りてきた。

 1機はコムサイだ。積載量を強化した後期型でモビルスーツなら2機は搭載できるタイプである。

 そしてもう1機……これはとことんまで異質だ。

 それは後部にブースターを付けた明らかな飛行機械の形状だ。だが、機体前面には特徴的なスリットと、そこを滑らかに動くモノアイが見える。そしてその背中には1機のモビルスーツを乗せていた。

 そのモビルスーツを見て、私は思わず呟く。

 

「遂に『ゲルググ』のご登場というわけか……」

 

 そのモビルスーツはついに正式採用が決定した『ゲルググ』だ。未だ本格的な生産の目処は立っていないが、この先行試作型が地上での実戦テストの名目で私の部隊に配属になる。見ればコムサイからはもう1機、『ゲルググ』が運び出されていた。

 

 未だ問題のある先行試作型とはいえゲルググ2機……確かにこれは凄いが、やはり一番凄いのはそのゲルググを背中に乗せていた機体である。

 今、この状況でモビルスーツを背中に乗せている……これが意味するところは、この異質な機体……このモビルアーマーが『モビルスーツを乗せたまま大気圏に突入する能力を持っている』ということだ。

 これだけでこのモビルアーマーがどれだけ異質かがわかるだろう。

 

「中佐ぁ~~!!」

 

 するとコムサイから出てきたエレカに見知った顔が乗って、手を振りながら近付いてくる。彼は私のところまで来ると、車から降りて敬礼をした。

 

「お久しぶりです、中佐」

 

「メールでは頻繁にやり取りしているが、こうやって顔を合わせるのはサイド3以来だな。

 オリヴァー=マイ中尉」

 

 彼はあの技術士官、オリヴァー=マイ中尉だ。

 私は敬礼を返すと笑顔で握手をする。

 

「なるほど、私の部隊に新しく配属になる技術士官というのは君だったか」

 

「はい。 中佐とはそれなりに懇意にさせてもらってましたので、その縁で配属という運びになりました。

 それに、『アレ』の重力下での運用評価も任務に入っています」

 

 そう言ってマイ中尉が指差すのはゲルググと……あのモビルアーマーだ。

 

「ほう、あれが……」

 

「ええ、MIP社の新型モビルアーマーです。 御覧の通りもうすでに大気圏突入試験は成功しました。

 これだけでも凄いのに、あれで宇宙・大気圏内双方で運用可能なんですから凄いものですよ」

 

 モビルスーツ開発に向けていたリソースすべてをモビルアーマー開発につっこんだMIP社は『原作』とは違う独自の超進化をしているようだ。

 私も一技術者として大いに興味を惹かれ、詳しいスペック等を聞こうとした時だ。

 

「あんたがシロッコ中佐かい?」

 

 見れば、ノーマルスーツを着た人影が3つ、こちらにやってきていた。

 そして私の眼前でヘルメットを脱ぐ。

 3人のうち2人は大柄な男だ。パッと見た印象はこう言ってはなんだが、『ガラが良くない』である。1人はモリのようなペンダントをし、1人は迷彩柄のバンダナを巻いている。

 もう1人はそれよりは随分小柄で幼さを残す、『少年』といった方がしっくりくる人物である。

 

「本日付けで配属になったヴェルナー=ホルバイン少尉だ」

 

「同じく、ラナロウ=シェイド少尉だ」

 

「シェ……シェルド=フォーリー曹長であります!」

 

 3人のうち2人……ホルバイン少尉とラナロウ少尉はパッと見た印象はアレでもそのしっかりとした敬礼は流石である。一方のシェルド曹長は未だ堅さの抜けきらない、新兵のような動きがなんとも微笑ましい。

 

「ホルバイン少尉、シロッコ中佐は上官ですので……」

 

 横でそれを聞いていたマイ中尉がその口調をやんわりと諌めようとしたが、私はそれを手で制した。

 

「いや、私もこの歳に似合わぬ階級を貰ってしまっていて少々息苦しい時もある。

 言葉遣い程度でそれほど堅苦しいことは言わんよ」

 

 その言葉を聞いて、ホルバイン少尉とラナロウ少尉はどこか楽しそうに表情を崩す。シェルド曹長は……相変わらずガチガチだ。

 

「シーマ姐さんからくれぐれもよろしく伝えてくれって言付かってる。

 よろしく頼むぜ、大将!」

 

「私は中佐なのだがな……」

 

 豪快なホルバイン少尉に苦笑して敬礼を返すと、私は大仰に、芝居がかったように手を広げながら言った。

 

「ようこそ、海兵隊諸君。

 我がリザド隊への配属を心から歓迎する」

 

 彼らこそあの女傑、シーマ=ガラハウ中佐率いる『海兵隊』から派遣されてきたリザド隊の補充人員だった。

 

 




補充人員と補充の受け取りでした。
ホルバインさんの乗る新型機の話はまた次回以降に。

読者の方はみんな気付いていると思いますが、一応言っておきます。
今回出てきたブルーのパイロットは、当然ですがユウ=カジマではありません。
この『戦慄のブルー編』では3機のEXAMに別々のパイロットが乗っています。そして『それぞれ違った形でのEXAMとの関係』を書いていきますので……ユウはそのうちの1機に乗って登場となります。
今回のブルーの中の人は『EXAMとの関係』で『暴走』の担当と言ったところ……まぁ、中の人が誰かわかってもネタバレ無しの方向で。
とても特徴的な発言もしてるし、分かる人にはバレバレですから……。

次回はついにEXAMとの遭遇の予定。
次回もよろしくお願いします。

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