対EXAM戦を書いていて、ジムでブルーを撤退にまで追い込んだユウ=カジマが化け物すぎることがよくわかった。
……ジムが高性能なのか?
戦場から少し離れた岩場にて、そこには巧妙に偽装されたMS運搬トレーラーと指揮車両が停まっていた。
その指揮車両内では白衣を着た何人もの人員がモニターを見ていた。そしてその後ろでは神経質そうな技術者然とした男が苛立たしげに指示を飛ばしていた。
「ブルーはどうだ!?」
「駄目です! パイロット、こちらからの呼び掛けに反応しません!
要領を得ないことばかりで……」
「ブルー、ジオンだけでなく友軍にも攻撃を仕掛けています!
被害は甚大の様子!!」
「なんてことだ……」
技術者風の男……連邦軍の技術士官であるアルフ=カムラは天を仰ぐように頭を押さえる。
今日は大規模戦闘へあの機体……ブルーディスティニー1号機を投入する実験の予定だった。
今までの小規模な戦闘で十分な戦果を発揮していたので、この実験は何の問題もないと思われていたのだが……実際は、ジオンとの間で戦端が開いたすぐ後、パイロットがブルーを起動させて勝手に飛び出していってしまったのだ。
確かに今までもブルーでの戦闘の際にはパイロットは興奮状態になることが確認されていた。
だが戦場での興奮状態などよくある話ではあるし、テストパイロットであるファレル=イーハ中尉は、腕はいいものの粗暴で性格に難有りと最初から言われているので特に気にはしていなかった。
しかし、今回の動きは明らかにおかしい。まさしく『暴走』と言っても過言ではない動きである。
「……『EXAM』は?」
「今までにないほどの稼働率です」
「……」
その報告にアルフはしばし沈黙する。ということは、『EXAM』は今までにない最大のポテンシャルを発揮しているということだ。こんな『暴走』でそれが発揮できていることにどうしても違和感を覚える。しかし、考えるのは後だろう。
「……全員、全てのデータを余すところなく取れ!」
「了解しました!」
指示に合わせて動き出す研究員を尻目に、アルフは『EXAM』が自分たちが思っているような『高性能MS用OS』ではないのかもしれない……そんな風に考え始めていた……。
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『蒼い死神』は噂通りの……否、噂以上の化け物だ。ヴィッシュはそれを改めて認識する。
状況的に優先度か変わったため、ジオン・連邦双方からの攻撃に『蒼い死神』は晒された。だというのに、『蒼い死神』はその数の差を物ともせずに『殺戮』を行っていく。
そう、『戦闘』ではなく『殺戮』だ。
『蒼い死神』は『敵の戦闘力を奪う戦い方』ではなく、『敵を殺すための戦い方』をしているのである。
当然ながら、モビルスーツにとってもっとも保護すべきパイロットの乗ったコックピット周辺の装甲は厚く、有効打を与えるのはそれなりに骨が折れる。ならば同じ労力で足を狙うなりしたほうが速く相手の戦闘能力を奪えるだろう。少なくとも、『蒼い死神』のパイロットにその技量がないなどということはあり得ない。
だというのにこの『蒼い死神』のパイロットは執拗にコックピットを狙うのだ。しかもそれだけではない。
『も、もうやめ……』
最後まで言いきることができず、そのパイロットは蒸発した。倒れた連邦のザクのコックピットに『蒼い死神』がビームサーベルを突き刺したのである。そのザクは右腕が千切れ、両の足も溶断されていた。つまり、もはや動くことも出来ず戦闘力は皆無だった。なのに、いちいちコックピットを貫いたのである。
ヴィッシュとて軍人、敵を殺すことに迷いは無い。しかし、あくまで彼は『任務という目的のために殺す』のだ。決して、この『蒼い死神』のように『殺すために殺す』のではない。それは人を殺すことを生業とする軍人が、『人』としてあるためのルールだとヴィッシュは考えている。そのルールを明らかに逸脱する相手には怒りが湧いてくる。
一方、レイヤーも目的も分からず、目の前で殺戮を繰り返していく『蒼い死神』に言いようもない怒りを覚えていた。
今、この戦場に残っているのはヴィッシュのグフとレイヤーのザニーだけである。
ホワイトディンゴ隊は後退に成功したが、他の連邦の部隊はさっきのザクで全滅してしまっていた。
一方のジオンは、何とかドム1機は撤退に成功したが、他はすべて『蒼い死神』の餌食となっていた。
『蒼い死神』が次の獲物と、2人のグフとザニーを見つめる。そしてその手にした90mmライフルを放った。
「ッ!?」
『!?』
咄嗟に左右に飛び退くグフとザニー。そこに『蒼い死神』がスラスターを吹かしながら加速する。狙いは……ヴィッシュのグフだ。
「来るか!!」
ヴィッシュは75mmを連射しながら、正面から踏み込む。
スピードがあちらの方が上である以上、逃げに廻っては確実にやられる……そう判断したヴィッシュは踏み込むことを選んだのである。
『蒼い死神』が左手に持ったビームサーベルを上段から振り下ろし、それをヒートサーベルで受け止める。
磁場同士の干渉で激しいスパークが巻き起こるが、それは一瞬だ。
「もらった!!」
組み合ったような至近距離でヴィッシュは75mmを放つ。この至近距離だ、いくら威力の低い75mmでもそれなりのダメージにはなるはず。
しかし『蒼い死神』は飛び退いてそれを完全にかわし切っていた。まるで『あらかじめ来ることがわかっていた』かのような見事なまでの動きである。しかし、それだけではない。
『今度こそ!!』
飛び退いたその先には、レイヤーのザニーが100mmマシンガンを構えて待っていた。
至近距離、しかも背中からの攻撃ならば十分のはずである。レイヤーはトリガーを引こうとした。
だが……。
『何ぃ!?』
何と、『蒼い死神』は飛び退きながら半身を捻り、脇撃ちのようにして90mmライフルを撃ってきたのだ。それは今まさに撃とうとしていたザニーの100mmマシンガンに直撃したのである。
その攻撃で装填されていた100mmマシンガンの弾薬に引火、ザニーの右肘から先を巻き込んで爆発した。
その衝撃にたたらを踏むザニー、その隙をついて『蒼い死神』は再びビームサーベルを抜き放ち斬りかかってくる。
『やられる!?』
とてもではないが反応しきれない。レイヤーは直感的に死を覚悟した。
しかし……。
「うぉぉぉぉ!!」
振り下ろされるビームサーベルを、割り込んできたヴィッシュのグフが下から振り上げるようにしてヒートサーベルで寸前のところで受け止める。そしてその勢いのまま、グフは『蒼い死神』に左の肩口から体当たりをした。
さすがにその衝撃に吹き飛ばされるようにして後退する『蒼い死神』。即座に、レイヤーは動いた。
『ヴィッシュ=ドナヒュー!!』
「おう!!」
レイヤーはヴィッシュの名前を呼びながら、無事な左手でザニーの左腰に備え付けていた100mmマシンガンの予備マガジンを投げつけた。即座に意図を理解したヴィッシュが、その空中の100mmマシンガンの予備マガジンに75mmを叩き込む。
すると、その予備マガジンの弾薬に引火したことで爆発が巻き起こった。予備マガジンを使ってまるで
そして同時に、まるで示し合わせたかのようにヴィッシュのグフとレイヤーのザニーが駆ける。
互いにヒートサーベルとビームサーベルを手にし、『蒼い死神』の左右からはさみ込むように斬りつける。まるで長年付き添った
2人は勝利を確信する。
だが……『蒼い死神』は想像を絶するほどの怪物だった。
まず抜き放った左手のビームサーベルで、同じく左から切りかかったザニーのビームサーベルを防ぐ。
そして右からヒートサーベルを振り下ろそうとするグフには、なんとその刀身に90mmライフルを射撃したのだ。
「なにぃ!?」
ヒートサーベルは当然ながら実体を持つ剣だ。そしていかに加熱状態といっても飛んできた弾丸を命中までに溶かすような熱量ではない。
刀身への衝撃に、まるで巻き戻し映像のように振り下ろそうとしていたヒートサーベルが弾き上げられる。
同時に、左側では力で押し負けたザニーがつばぜり合いから弾き返された。
そして『蒼い死神』が動く。
ヒートサーベルを弾き上げられてがら空きのグフに、『蒼い死神』の鋭い蹴りが飛んだ。当然のように狙いはコックピットだ。
ヴィッシュはとっさに反応して、シールドを構えてその蹴りを防ぐが、衝撃で大きく吹き飛ばされてしまった。
その聞に『蒼い死神』は反転、ザニーに対して胸部ミサイルを撃つ。胸部の左右から同時に発射されたそれはやや下目、脚部を狙っていた。
体勢の崩れていたザニーはかわすこともできず、両の膝関節にミサイルの直撃を受ける。
『うおぉ!?』
その爆発で完全に膝の関節を吹き飛ばされ、ザニーは地面に仰向けで転がった。
その衝撃でビームサーベルの発振器も取り落としてしまい、もはやザニーの武器は頭部バルカンしかない。
バルカンのために首を向けようとしたが、そこに90mmライフルが叩き込まれ、ザニーの頭部が爆発した。
仰向けに倒れ、もはや抵抗どころか動くことすらできないレイヤーのザニーに『蒼い死神』 はゆっくりと近づく。その意図は今までの行動を見ていれば明らかだ。
「やめろぉぉ!!」
ヴィッシュは背を向けていた『蒼い死神』に、刀身の砕けたヒートサーベルを投げつけると同時に駆け出す。
死角のはずの背後から投げつけられたヒートサーベルを、まるで背中に目でもついているかのようにヴィッシュに相対するように反転しながらのサイドステップで完璧にかわし切ると、そのまま踏み込んでくる。
赤熱したヒートロッドがしなやかに蛇のように『蒼い死神』に迫るが、『蒼い死神』は大きく屈むとそれを紙一重でかわし、左手のビームサーベルを下から上に、振り上げるようにして振るった。
ヒートロッドを放ち、伸ばしていたグフの右手が斬り飛ばされる。
『蒼い死神』からの追撃のビームサーベル、それをヴィッシュのグフは地面を転がりながらギリギリのところでかわして見せた。
素早く立ち上がり、最後の武器である左手の75mmを構える。
しかし、標準的なモビルスーツの装甲すら撃ち抜くのが難しく、しかも今までの戦闘で残弾も心もとない75mmなど『蟷螂の斧』に等しい。ヴィッシュもこれでこの『蒼い死神』がどうにかなるとは思えなかった。
出来るとすればせいぜい、75mmで牽制しつつ離脱だろうか……?
そう考えてから、ヴィッシュは苦笑した。その程度でこの『蒼い死神』から逃げ切れるとはとても思えなかったからだ。
今までの戦場で感じた以上の濃密な『死』の予感を感じる。
「やれやれ、俺も年貢の納め時か。
だが……腕の一本、足の一本程度は貰うぞ、『蒼い死神』!」
ヴィッシュは、じりじりとグフを移動させながらそう覚悟を決める。だが、結局その覚悟は無駄になった。
『後ろへ飛べ!』
通信機からのその声を聞いたのと同時に、反射的にヴィッシュは機体を飛び退かせていた。
次の瞬間、降り注ぐのは昼間の光の中でもわかる黄色い光の奔流だ。その連続した打ち下ろされる光の奔流を『蒼い死神』も大きく後ろに飛び退きながらかわしていく。
そして、ヴィッシュの前に降り立つのは紫と赤の2体のモビルスーツだ。
『遅くなってすまない。 無事か、ヴィッシュ中尉?』
「パプティマス=シロッコ中佐……」
ジオンの誇る2大エース、『
その到着に、ヴィッシュは心の底からホッとする。
『その機体では後退も危険だろう。 私が送り届ける。
ホルバイン少尉!』
『了解 、大将!』
すると、巨大なモビルアーマー『ビグロ・フライヤー』が降下してくる。どうやらこれに飛び乗れということらしい。
意を決してスラスターを全開にしてビグロ・フライヤーの背に飛び乗ろうとジャンプをすると、当然のように 『蒼い死神』も90mmライフルの銃口を向けた。しかし、それが弾丸を吐き出すことはない。
地上からは『赤い彗星』の操るイフリート改が、そしてヴィッシュに追随するようにジャンプした『
さしもの『蒼い死神』もこれにはたまらず回避に専念するしかない。
その間にヴィッシュのグフとシロッコのギャンはビグロ・フライヤーの背に無事に飛び乗っていた。
『ではシャア……本当に任せていいのだな?』
『ああ、頼む……』
その言葉と同時に、イフリート改が猛然とダッシュを始める。
その纏う雰囲気に、何故か『蒼い死神』と同じ気配を感じたのは気のせいだろうか?
シロッコはそれを見届けると、ヴィッシュの方へと通信を送ってきた。
『すまないがヴィッシュ中尉も後方へ辿り着くまで警戒を頼むぞ』
「了解です、中佐」
言われるまま、ヴィッシュはグフのモノアイを動かして周辺警戒に入る。その時、モノアイが地上の様子を映し出した。
そこにはあの倒れたザニーから脱出し、岩場に身を隠そうと退避していく連邦のパイロット……レイヤーの姿があった。
こちらに気付いたのか、レイヤーは駆けながらヴィッシュに敬礼を送ってくる。それに対して、ヴィッシュもコックピットの中で敬礼を返していた。
この距離だ、普通ならば伝わることはないだろう互いの敬礼……しかしヴィッシュにはそれがお互いに伝わったと確信を持って言える。
それは供に背中を預けて戦った者同士だけが持てる、不思議な感覚だ。
(次にあいまみえるその日まで壮健でな、連邦の戦友よ……)
ヴィッシュはそれだけ心の中で呟くと、警戒に戻ったのだった……。
ヴィッシュ+レイヤーVSブルーというロマンたっぷりの戦いでした。
あと5分、あと5分終戦が早ければきっと原作でもヴィッシュとレイヤーはこんなコンビになれたんじゃないかなぁ?
次回はついにEXAM対EXAM。
次回もよろしくお願いします。