歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回は戦闘の間のお話。
遂にあの機体とあのパイロットたちが登場します。


第50話 『伝説』の胎動

「ブルー1号機、撃墜されました……」

 

「そうか……」

 

 その報告に、このブルーの実験を担当していた指揮車両は静まり返る。

 

「……ブルーの残骸は回収できそうか?」

 

「駄目です、あの周辺に展開していた味方はもういません。

 回収は、不可能です」

 

「それをやったのが、ほかならぬブルーというのはな……」

 

 責任者であるアルフ=カムラのため息が、静かな指揮車両の中に意外に大きく響いた。

 だが、こうしていても仕方ないのが事実だ。

 

「……我々も早く下がるぞ。

 ブルーの今回での実験での起動から撃墜までのすべての詳細な記録は最優先で運び出せ!

 急げ!!」

 

「りょ、了解です!」

 

 アルフの指示に、それまで固まっていた技術者たちは動き出した。

 その撤収作業を横目で眺めながら、無性にタバコが吸いたい気分になったアルフはポケットをまさぐるが、ポケットからはタバコの空箱が出てくるだけだ。

 

「まったく……つくづくツイていないな」

 

 それをため息とともにクシャリと握りつぶすと、元のポケットの中にねじ込む。

 

「まだ連邦には2機のEXAMマシーンがある。それにクルスト博士がいればEXAMの研究は続けられる。

 あれだけの機動を可能にするOSだ、制御できればこれほど有用なシステムはない……」

 

 そうつぶやくものの、アルフは『EXAMシステム』という存在そのものに、言いようのない不気味なものを感じずにはいられなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙からの補給物資をめぐるジオンと連邦との戦いの結果は、一応のところジオンの勝利という形で終わった。ジオン側は最初から物資の降下ポイントをある程度決めており、待ち伏せに近い形で連邦と戦えたことがその理由としては大きいだろう。

とはいえジオンも無傷というわけではない。それ相応の被害を被っているあたり、連邦の底力の一端を見たというところだろうか。連邦の頑張りによって、補給物資にも被害は出ている。

 この補給物資は戦争継続に必要なのと同時に、オーストラリアの住民に反感を抱かせないための『貢ぎ物』でもある。それが少しとはいえ減ったのだ。多少なりとオーストラリア統治には影響は出るだろう。そう考えると、今回の会戦はジオンは戦闘では勝利できたかもしれないが、戦略的には『痛み分け』程度かもしれない。

 どうやらオーストラリア戦線はまだ静かにはなりそうもない。

 

 とはいえ、今のオーストラリア方面軍の士気は異様に高かった。

 何故なら今までオーストラリア方面軍の兵たちに恐れられていた『蒼い死神』が討ち取られたからだ。

 しかもそれをやったのがジオンのエースとして有名な『荒野の迅雷 ヴィッシュ=ドナヒュー』と『赤い彗星 シャア=アズナブル』の2人による撃破だ。盛り上がらないはずもない。

 シャアが到着するまでの間、しんがりを買って出て『蒼い死神』を抑え味方の被害を最小限にとどめたのは紛れもなくヴィッシュ中尉の功績だ。だからシャアもこれに関しては共同戦果だと話していたが、とうのヴィッシュ中尉はあまりいい気分ではないらしい。確かに『英雄に担ぎ上げられた』ような気になっているのかもしれないが、今は戦時、こういう状況では『英雄』というのも必要なのである。

 

「むっ、シロッコか……」

 

「おや、オーストラリアを救った英雄様ではないか」

 

「シロッコ……あまりそういう物言いはやめてくれ」

 

「ははは、ただの冗談だったが少々度が過ぎたか。 すまんな」

 

 ユーピテルの格納庫に向かう途中にシャアに会ったので、そのまま私たちは連れだって歩く。

 

「こんな朝早くからどうした、シャア?」

 

「昨日の戦いでは派手に動かしたのでな。

 イフリート改の整備と調整の手伝いといったところだ」

 

「ほぅ……殊勝な心がけだな」

 

「なに、こうやって気にかけておかないといつか整備の連中に背中から撃たれそうなのでな」

 

 おどけたようなその言葉に私は「違いない」と笑う。

 イフリート改はブルー1号機との『EXAMシステム』を発動させた全力戦闘を行い、現在オーバーホール中である。

 限界を超える『EXAMシステム』は強力な戦力だが、それは同時に後先を考えていないということでもあり、はっきりいって整備性に関しては最悪だ。

 クルストは最終的には量産した『EXAMシステム』搭載機軍団によるニュータイプ殲滅を夢見ていたようだが……整備のことなどの現実的なプランあってのことだったのだろうか?

 ……恐らくなかろう。科学者とはえてして、目標のために現実を置き去りにしてしまうものだ。

 

「そういえば……おめでとう、シャア。

 これでララァ嬢の目覚めに一歩近づいたな」

 

「ああ、ありがとうシロッコ」

 

 口ではそう言うがしかし、シャアは浮かない顔だ。

 

「どうした、シャア? 君らしくもない」

 

「……あの連邦のEXAMマシーンはパイロットが機体に振り回されていたが、その機体性能は君の改造してくれたイフリート改と互角かそれ以上だったのでね。

 残りの2機……双方難敵だ。確実に勝てるなどとは冗談でも言えんな」

 

「なるほど……整備の手伝いもそうだが、だからこその格納庫というわけか」

 

 私はさもありなんと頷く。

 そうこうしている間に、私たち2人は格納庫に到着していた。

 

 私の部隊は、さまざまな新武装を扱う、ある種の『実験部隊』の側面がある。そのため整備兵たちの負担は大きく、ユーピテルの格納庫は間違いなくこの部隊最大の激戦区だ。ここが静かだったことなど、ただの一度もない。今日も格納庫はいつもと同じく作業機械の音と誰かの怒号が混じり合い、独特のざわめきを持って私たちを迎える。しかし、今日の格納庫のざわめきの理由は、いつもとは違っていた。

 

「ゆっくり! そう、ゆっくり降ろして!!」

 

 格納庫の入り口近くでは、メイ嬢が力いっぱい叫びながら指示を出していた。

 

『オイオイ、こいつの初仕事は荷物運びかよ』

 

 メイ嬢が指示を出していたのはラナロウ=シェイド少尉の操るゲルググである。昨日の連邦との戦いでは結局戦闘はなかったゲルググは、初仕事として『荷物運び』を命じられていたのだ。

 そして、その荷物というのが……。

 

「連邦の新型機なんだから、壊さないようにゆっくり降ろしてよ!!」

 

『へいへい……壊すなっていっても、最初っからシャア少佐にぶっ壊されてるだろ』

 

 ブツクサと言いながらも、ラナロウ少尉はその言葉とは裏腹の丁寧な動きで、静かにゲルググが手にしていたそれを置いた。

 それはあのブルー1号機の残骸である。ジェネレーターの爆発で果てたブルーだが、その中でも比較的損傷の軽い部分を研究資料として回収してきたのだ。

 特にラナロウ少尉の持ってきた右腕のパーツは爆発前にすでに脱落していたので、爆発には巻き込まれず綺麗な形で残っている。

 

『ま、待ってください、ラナロウ少尉』

 

『シェルド、ノロノロすんな!』

 

 ラナロウ少尉のゲルググの後ろからもう一機、シェルド曹長のゲルググは左足のパーツを持ってくる。ラナロウ少尉との腕の差か、なんとも動きが危なっかしい。

 持ってきた左足のパーツは爆発の影響をもろに受けボロボロだ。外見ではスクラップよりマシ程度のものだが、これでもいくらでも新しい発見のある重要な資料である。

 

「ごくろう」

 

「あ、中佐!」

 

「おにーさん!」

 

 集まっていた整備兵をかき分けパーツの載せられた作業台にシャアと近付くと、すでにいたマイ中尉とメイ嬢が気付いて声をかけてきた。2人がひどく興奮していることは、その声だけでよく分かる。そんな2人に苦笑して、私も置かれたパーツを見上げた。

 

「2人から見てどう思う?」

 

「宝の山ですね」

 

「ざっと見ただけで、もう調べたいことがいっぱいあるよ、おにーさん!」

 

 とてもいい笑顔で即答である。しかし、私の頼みとする技術者なのだからこうでなくては困る。

 

「そういうものなのか?」

 

「こればかりは技術者にしか分からん感覚だよ、シャア。

 それに……こうやって貪欲に次々に新たな技術を手に入れていかなければ戦いには勝てんよ」

 

「なるほど、それは道理だ」

 

 私の言葉に、シャアは納得したように何度も頷いた。

 そしてそんな周りには聞こえないように、私はつぶやく。

 

「……それに、次の敵は少々マズいだろうからな」

 

 ……実は私には少しだけ危機感があった。

 それはひとえに私しか知りえないこと……『原作』を知っているが故の危機感だ。そしてその危機感の元というのが、この『ブルーディスティニー1号機』である。

 

 私の知る『原作』において、この『ブルーディスティニー1号機』は特異な経緯を持った機体だ。

 亡命したクルスト=モーゼス博士に、連邦は当初『EXAMシステム』の搭載実験機として『陸戦型ジム』を与えたのだが、陸戦型ジムでは『EXAMシステム』の動きに耐えられなかった。そこでさらに性能が上の『陸戦型ガンダム』が与えられたが、『EXAMシステム』を積んだ頭部は変えられず、その結果『ブルーディスティニー1号機』は陸戦型ジムの頭で、身体が陸戦型ガンダムという代物になった。

 続く『ブルーディスティニー2号機』と『ブルーディスティニー3号機』は最初から性能のいい陸戦型ガンダムを使用し、それでもクルスト博士としては不満の残る性能であったようだ。

 

 そのことを踏まえて、目の前のシャアと交戦した『ブルーディスティニー1号機』を考えてみる。

 分かりにくい話しかもしれないが私から見ると……この『ブルーディスティニー1号機』は『ブルーディスティニー2号機』なのである。

 つまり、『最初から陸戦型ガンダムを素体として使用した機体』なのだ。

 この機体が『ブルーディスティニー1号機』であることは間違いない。なんといっても肩に『01』のマーキングが入っていたのを確認している。

 そうなると、『原作』と同じく『1号機より強力な素体を使って2号機・3号機は造られた』という流れが同じなら……『ブルーディスティニー2号機』と『ブルーディスティニー3号機』の素体となるだろう存在に嫌でもたどり着く。そもそも、『陸戦型ガンダムが存在する』という事実を考えれば、その候補にたどり着かないほうがおかしいくらいだ。

 

 『陸戦型ガンダム』……それは『ある機体』の開発の際に規定ラインに到達しなかったり、余剰となったパーツで造られた、超高性能な『ツギハギだらけの寄せ集め』なのである。つまり『ある機体』が存在しなければ、そもそも『陸戦型ガンダム』などというモビルスーツは存在すらできないのだ。

 そして、その『ある機体』というのは……。

 

「次の相手は『伝説』か……いつかはとは思っていたが、これも避けては通れん道だな……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「くそっ!?」

 

 忌々しそうに彼―――マスター=P=レイヤーは地面を蹴った。

 あの戦いで機体を失った彼だが、その後味方の回収部隊に拾われこの『トリントン基地』へと帰還していた。

 そんな彼は部下たちとの再会を喜び合うのもそこそこに、司令部へと抗議と事情説明を求めた。内容は当然、あの『蒼いモビルスーツ』のことである。

 連邦の所属であるはずなのにデータはなく、しかも友軍を攻撃してくるという始末だ。レイヤー自身も、あの時『荒野の迅雷』と偶然に共同戦線が組めなければ確実に死んでいただろう。どういうことなのか説明を求めるのは当然の流れだ。

 しかしそんな彼の声も『機密』というたった一言の前に、何の説明もなく一蹴された。友軍が味方に攻撃され殺されるという、明らかな異常事態であるのに、である。

 

 部下であるレオン・リーフェイ少尉の、またもや出所不明の怪しげな噂話によるとジオンから亡命してきた博士が造ったモビルスーツ用OSの研究をこの基地で行っているらしくそれではないかとの話だ。

 脳みそがジオン製だから連邦まで襲ったんだろうともう1人の部下、マクシミリアン・バーガー少尉は笑っていたが、正直笑い話ではない。少なくともそんな怪しいものは、自分の命を預ける機体には絶対に入れてほしくない。

 

 そうやって気持ちを落ち着けるためにレイヤーは基地を特に目的もなく歩いているときだった。

 

「ん?」

 

 レイヤーの前方に、人影があった。そしてその人影を、レイヤーは知っている。

 

「ユウ? ユウ=カジマか!」

 

 その声に人影が振り返った。その姿は間違いなくレイヤーの知る男、ユウ=カジマ少尉であった。

 

「久しぶりだな、レイヤー……」

 

「お前も変わらないみたいじゃないか!」

 

 必要以上にはしゃべらない寡黙で有名だったこのユウという男にしては破格とも言えるほどに笑いながらユウはレイヤーに答え、レイヤーはうれしくなってバンバン背中を叩いてユウを歓迎する。

 レイヤーとユウ……彼らは元戦闘機訓練校からの仲だ。ちょうど2人とも故郷がこのオーストラリアだということもあってよく話をし、今に至る関係である。

 

「ルウムにも行ったんだって? あれを生き残ったんだ、たいしたもんだな」

 

「……運が良かった。

 開戦前に哨戒任務でザクと遭遇してな、そのとき散々遊ばれてモビルスーツの特性を多少なりとも掴んだから生き残れた……」

 

 2人は当たり障りのない話をしながら、再会を喜び合う。

 そしてレイヤーは切り出した。

 

「それで、ユウはこの基地のどこに配属なんだ?」

 

「それは……すまん」

 

 何やら歯切りの悪い言葉に、レイヤーも何か話せないようなことなのだろうと納得するとそれ以上の詮索はよそうとしたのだが……そのとき、チラリとユウの背後のミデアから運び出される荷物が見えてしまった。

 それは2機のモビルスーツだ。

 レイヤーとしては見たことのない、どこか神々しさにもにた強さを感じさせるそのモビルスーツは新型なのだろうというのはわかる。

 しかし……その機体は蒼く染め上げられていた。そう、あの『蒼い死神』と同じ色である。

 ただの偶然かもしれないはずのそれだが……どういうわけかレイヤーには、それからあの『蒼い死神』と同じ、『匂い』とでもいうものを嗅ぎ取っていた。

 

「なぁ、ユウ……」

 

 レイヤーは自分の勘に従って、ユウへと一言言おうとしたその時だ。

 

「お前がユウ=カジマか?」

 

 やってきたのは金髪の男だ。決して飼い慣らせない、まるで『野獣』のような雰囲気を醸し出している男である。

 その階級は大尉……上官だと気付いたレイヤーとユウは、揃って敬礼をする。

 すると、男は面倒そうに敬礼を返した。

 

「そんなに畏まるな。 俺と同じようにあの機体を預かるやつの顔を見に来ただけだ」

 

 そう言って男は、ミデアから運ばれている機体を指さす。

 その機体にはそれぞれ、肩に『02』・『03』の番号がマーキングされていた。

 

「ヤザン=ゲーブル大尉だ、あの『ブルーディスティニー2号機』とかいう機体を任された。

 よろしく頼む」

 

「『ブルーディスティニー3号機』を任されたユウ=カジマ少尉であります。

 よろしくお願いします、大尉」

 

 そんな彼らの後ろで、その2機のモビルスーツは運ばれていく。

 その機体はいたってシンプルだった。全体的なフォルムは『陸戦型ガンダム』に似ているが、よりシャープである。

 背中のランドセルから突き出した2本のビームサーベル、そしてコックピット周辺の形状が特徴的だ。

 この2機のモビルスーツの形式番号は『RX-78BD-2』と『RX-78BD-3』……『RX78 ガンダム』と呼ばれた機体に、『EXAMシステム』を搭載したものである。

 

 シロッコの知る『原作』において『白い悪魔』とも呼ばれた伝説のモビルスーツは今、本来とは形を変えてシロッコたちに牙をむく時を静かに待っていた……。

 

 




シロッコ+魔改造ギャン&シャア+魔改造イフリート改
VS
ヤザン+ガンダム(EXAM装備)&ユウ+ガンダム(EXAM装備)

いやぁ~、乱世乱世!
オーストラリア戦線は複雑怪奇、地獄絵図の様相です。
……もし自分が一般兵だったら出撃拒否したいレベルです。

次回も技術アップのお話になる予定。
次回もよろしくお願いします。

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