歴史の立会人に   作:キューマル式

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連邦の渾名持ちって、アムロ・レイの『白い悪魔』とユウ・カジマの『蒼い死神』くらいしか覚えが無い。
後はリド・ヴォルフかな?

カッコイイ渾名には憧れないんだろうか……?


第06話 ルウムに紫の鬼火は揺れる

 宇宙世紀0079、1月15日。ルウム宙域にて、ジオン軍と連邦軍が対峙する。

 先の『一週間戦争』と『コロニー落とし』によって戦争の早期講和を狙っていたジオン公国だが、南米の連邦軍本部ジャブローを狙ったコロニー落としは目標を外し、オーストラリアへと落下。ジオン公国の狙う早期講和のためには次なる戦いが必要になった。

 第二のコロニー落としを行うためにジオン軍はルウム宙域へと進出、その動きを察知した連邦軍の名将レビル率いる艦隊は残存するほとんどの戦力を集結させルウムへと向かう。

 戦力比1:3という圧倒的な連邦軍の数を前に指揮を執っていたジオンの名将ドズル・ザビはコロニー落とし作戦を中止、互いの全戦力が正面からぶつかり合う大会戦の火蓋が切られることになる。

 

 

 この第二次コロニー落とし作戦の指揮を執っていたのは先も述べた通りドズル・ザビであり、その麾下の宇宙攻撃軍がこの作戦の中心である。

 しかしジオンの命運を決するような大作戦だ、政治的野心が強く何かと他の兄弟と張り合うキシリア・ザビも日頃のことは棚に置いて戦力の一部をドズルの支援としてルウムに向かわせることになる。

 これに対し特に政治的な野心もなく、また優秀な軍人であったドズルは戦力が増えることを手放しで歓迎。ドズルと同じく、政治的野心もなく若いガルマは『ドズル兄さんを助けるのだ!』と意気揚々と出撃を志願し、名目上のキシリアの送った支援艦隊の長官としてこの戦いに派遣される。その派遣された戦力の中に、私は居た。

 

 

 この作戦における宇宙機動軍の役割は、正面からドズルの宇宙攻撃軍にぶつかっている連邦艦隊を横合いから攻撃し宇宙攻撃軍を支援するというものだ。すでに戦端は開いており、メガ粒子の光が飛び交い、爆発の閃光とともに幾多の命が散っていく。そんな戦場を、横合いから殴りつけるように宇宙機動軍のモビルスーツ隊は強襲した。

 

「そこぉ!!」

 

 連邦からの砲火を掻い潜り、懐に飛び込んだ私のザクⅡの対艦ライフルの弾丸がマゼラン級戦艦の艦橋に直撃する。しかし近すぎたのか、砲弾は爆発することなく艦橋を貫通してしまった。

 

「ちぃ!?」

 

 こちらに向けて放たれる機銃を避け、そのままリロードの完了した対艦ライフルを放つ。今度の狙いは船体前部の主砲塔と中央区画、2発・3発と直撃させていくと内部での爆発で重要区画をやられたらしい、内側から膨れ上がるように爆沈した。

 

「まるで相手にならん。

 モビルスーツ無しの連邦では当然かもしれんが……これではわざわざ死にに来ている連邦の兵が哀れだな」

 

 独りごちてから私は何かを感じ取り、そちらのほうにカメラを向ける。

 

「この感覚……君か、シャア!」

 

 見れば赤いザクⅡが艦艇を蹴りながら高速で跳躍を繰り返し、次々に連邦の艦艇を沈めている。世に言う『三倍のスピードで迫る赤いモビルスーツ』である。

 それを実際に目にすることになり、私はついつい笑いを洩らしてしまう。

 

「く……ははははは!!

 さすがはシャアだ! これはこちらももう少し活躍せねば友人として不釣り合いになってしまうな!!」

 

 そう言って私は再び連邦の艦隊へとカメラを向けた。

 幸いなことに、物量豊富な連邦軍はまだまだ掃いて捨てるほど残っている。

 

「連邦兵よ、こんなところで朽ち果てる己の不幸を呪うがいい!」

 

 私は弾の切れた対艦ライフルを放棄すると、右手にザクマシンガン、左手にパンツァーファウストを構えて連邦の艦艇へと向かっていく。

 私は、こちらの迎撃に出る宇宙戦闘機をザクマシンガンで撃ち落としながら、連邦の艦隊へと進んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 『ルウム戦役』と呼ばれるルウムでの攻防は、ジオン軍の勝利という結果に終わった。

 連邦艦隊はそのほとんどの戦力を消失し、旗艦『アナンケ』を撃沈され脱出したレビル将軍が拿捕されるという勝利である。

 とはいえ、ジオンのこうむった損害も決して軽いものではなかった。そもそも3倍近い敵戦力とのぶつかり合いである。そのため多数のムサイ級・チベ級の艦艇が戦没した。それでも勝利することができたのは『モビルスーツ』という革新的な新兵器を投入していたおかげである。

 そしてこれまでの戦いでそんなモビルスーツを操り、通常では考えられないほどの多大な戦果を生んだ、いわゆる『エースパイロット』と呼ばれるものたちが登場する。その存在は異名と共に味方からは尊敬と期待を、敵からは畏怖を向けられる。

 ジオン公国はプロパガンダを兼ね、エースパイロットは積極的に前面に押し出し国民からの人気取りとした。その一環として今日、授与式が行われることになった。

 

 

『赤い彗星』シャア・アズナブル。

 

『青い巨星』ランバ・ラル。

 

『黒い三連星』ガイア、マッシュ、オルテガ。

 

『深紅の稲妻』ジョニー・ライデン。

 

『白狼』シン・マツナガ。

 

 

 その他、多くのエースパイロットたちがこれまでの戦いで名を上げ、その報償を受けるためにそこに集まっていた。そしてその中には、私の姿もあった。

 

「やぁ、シャア。

 君の活躍、ルウムでの戦いで見せてもらったよ。

 流石だな、『赤い彗星』殿」

 

「その渾名、何やらこそばゆいな」

 

「なに、すぐに慣れるよ」

 

 一等礼服を着こんだ私とシャアは、授与式の待合室で顔を合わせるとしばしの間、談笑していた。私のからかいに、今度はこちらの番だとでもいうようにシャアは言う。

 

「だが、活躍というのでは君の方が凄いと思うがな。

 私もあの戦いで君の戦い、見せてもらったよ。

 凄まじい強さだった、『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』殿」

 

 

紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』パプティマス・シロッコ。

 

 

 いつの間にやら私はそのように渾名されていた。

 私としては自分の操縦技術、そしてニュータイプとしての先読みを駆使して最小の動きで敵の攻撃を避けながら攻撃していたのだが、その動きがゆらゆらと踊るようだったという。

 そして私のパーソナルカラーとして塗っていた頭部と右肩の紫色、これがその機動とスラスター炎と相まって紫色の炎が揺れているように見えたらしい。その様を誰かが「鬼火のようだ」と言い出し、いつの間にやら『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』などという渾名となってしまったようだ。

 

「何ともご大層な渾名だ。

 どうにも違和感が大きい」

 

「それこそ君の言った通り、すぐに慣れるさ」

 

 先ほどのお返しだとでも言わんばかりのシャアに、私は苦笑すると話題をすり替える。

 

「しかし……よもや私が勲章を授与されるとは思わなかった。

 私はその……『アレ』だからな、こういうものとは無縁だと思ったのだが」

 

 言葉を濁して『アレ』と指したものに気付き、シャアも同意するかのように頷く。

 『アレ』というのは、私が『ダイクン派と見られている』ということだ。

 ジオン国内における『ダイクン派』を、少なくともデギン、ギレン、キシリアと言ったザビ家の面々は危険視しておりその取り締まりはかなり厳しい。『ダイクン派』によるクーデター未遂やら暴動などもあるため、その警戒度は非常に高い。『ダイクン派』というだけで出世の芽が摘まれた軍人は数知れず、家を取り潰された名家も少なくは無い。

 だからこそ『ダイクン派』だと疑われている自分にこのような機会は無いと思ったのだが……。

 

(ガルマの坊やと、キシリアの抱え込みの一環といったところか……)

 

 私はそう推測する。事実、この推測はほとんど正しかった。

 

 始めはギレンも『ダイクン派』の疑いもあるため勲章授与や昇進に関しては渋っていたのだが、ガルマがシロッコの戦果を正当に評価すべきと強く主張、これにキシリアが乗った。

 ガルマとしては友人であるシロッコを高く買っているし、友人としての情もある。その彼が多大な戦果を上げながら評価されないのは我慢ができなかった。

 一方のキシリアは功績に見合う報償を与えることでシロッコの心変わりを防ぎ、自分の手駒としたいという思惑があった。それにシロッコは『ダイクン派』と疑われているからこそ取り立てるべきとも考えていた。『ダイクン派』であろうと、武勲を上げれば評価されることを示し、『ダイクン派』のザビ家への反発を防ぐ一助にしたかったのだ。無論、これは現状シロッコが『ダイクン派』との繋がりが無いからこそ安全だという判断の上での話なのだが。

 一つ推測が外れていたのは、自分の昇進の後押しにはドズル・ザビも加わっていたことだ。ドズルとしてはシロッコはキシリアの子飼いの上、『暁の蜂起事件』のせいでいい印象はあまりない。だがガルマの入れ込む友人だということ、そして政治的な野心もなく武人であるドズルは多大な戦功に見合った報償が与えられないことは、武人として許せなかったのである。

そういった事情で家族3人から言われては流石のギレンも頷かざるを得なかったのだ。

 

 

 

「貴様の戦果、聞き及んでいる。

 今後も我がジオンの理想のため、その力を発揮するがいい」

 

「はっ!」

 

 式典にて、手づからエースパイロット1人1人にジオン十字勲章を付けて行くギレン・ザビ。

 その姿を映像ではなく身近で見ることで納得する。

 

(なるほど……確かに時代を動かす『天才』の1人ではあるのだな)

 

 その戦略や先見性、政治的な手腕は確かに『天才』のそれだろう。しかし、私はこの男が歴史を動かす瞬間など見る気はない。

 

(精々、今のうちに権力に酔っているがいい。

 私とシャアが必ずその喉笛、噛み切ってやろう)

 

 心の中でほくそ笑みながら、私はその勲章を受ける。

 こうして私とシャアは『少佐』へと昇進した。今後の事を考えれば、地位は高い方がいい。

 渾名に関しては違和感があるのだが、これもすぐに慣れることになった。

 

 

 

 エースパイロットたちの活躍や華々しいジオン軍の戦果に、ジオン国民は色めき立っていた。そして、それは軍も同じだ。

これだけの多大な戦果を上げたのなら連邦政府とてもう戦争継続の意志はあるまい。これでジオン公国の悲願である独立を成し遂げられる……誰もがそのように思っていた。

 しかし、その予想は最悪の形で裏切られる。

 捕虜としていたレビル将軍が脱出、全世界に向けてジオンの困窮を知らせるいわゆる『ジオンに兵なし』の演説を行ったのである。これにより講和を考えていた連邦政府は戦争の継続を決定した。

 

 そして、戦争の舞台は地球へと拡大していくのである……。

 

 

 

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