歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回はあのヤザンさんの話。
書いててえらくテンションが上がりました。
ヤザンさんなら、このくらい本当にやってそうだなぁ……。


第59話 野獣

 

 アフリカ大陸……ジオンの第三次降下作戦の目標であり、黒海沿岸のオデッサに次ぐレベルの資源産出を誇るキリマンジャロを抱える、ジオンの地上での重要地域の一つである。

 この地域におけるミリタリーバランスは完全にジオン側に傾いていた。重要地域であるが故のジオン側が配置した戦力のせい……というのもあるが、この地域は旧世紀のころから地球連邦に対する反発が強い地域だった。そのため打倒連邦のためにと各地で武装勢力がジオンに味方しゲリラ活動を展開しているというのが、このミリタリーバランスの大きな要因である。

 そのためアフリカ大陸では連邦軍の支配地域はダカールを中心とした沿岸部周辺の一部地域だけにとどまっており、完全な劣勢だ。

 ジオン公国アフリカ大陸方面軍はそのためか意気揚々とその支配地域を安定、資源の確保、生産設備の拡張を行っていたのだが……。

 

 

「……」

 

 砂漠を疾走するドワッジが3機、この3機はジオン軍所属のモビルスーツ小隊である。ドワッジはその快速で今、ある任務のために移動の真っ最中だった。

 その任務とは……。

 

「廃墟地帯への強硬偵察……か……」

 

 砂漠の街……戦争の開始によって住民すべてがいなくなった無人の小さな廃墟だ。実は最近、その周辺で偵察部隊が襲撃を受けて撃破されるという事件が起こっていた。そのことから上層部はこの廃墟を拠点として連邦軍部隊が潜んでいるのではないかと推測、そのためこのモビルスーツ小隊はその偵察任務を受けたのである。

 

『隊長、まもなく目標地点付近です』

 

「そうか……いいか、俺たちの役目は敵の規模の確認だけだ。

 無駄な交戦は極力避け、任務後は即時撤退。

 絶対に深追いするな、情報を持ち帰ることを第一に考えろ」

 

『『了解!』』

 

 部下たちの返事を聞きながらも、隊長は今回の任務に何か嫌な予感がしてたまらなかった……。

 

 彼らのモビルスーツ小隊は予定通り、廃墟周辺までやってきていた。そしてまずは出来うる限り遠距離からの偵察を開始したのだが……いきなり異常を確認してしまう。

 

『隊長……まったく人の気配がありません!』

 

 そう、その廃墟にはまったく人の気配がない。今までの襲撃の被害から、連邦軍はそれなりの数がいると予想されている。それが潜んでいるのなら、何かしらの痕跡がなければおかしい。しかし、この廃墟にはそれらしい気配がまったく感じられないのだ。

 

『どうしますか、隊長?』

 

「……廃墟に接近を試みる。

 いいな、慎重に、だ」

 

 しばしの思案の後、隊長は廃墟への接近を決断した。ゆっくりと警戒しながら、ドワッジ3機が廃墟へと近付いていく。だが、接近してみたもののまったくそれらしい痕跡が見受けられない。

 

『隊長、場所が違うのでは?』

 

「それはありえない。 その証拠に撃破された友軍機もある」

 

 見れば以前にここで撃破されたものらしい、砂を被ったドワッジが仰向けで転がっていた。コックピットは完全に潰れておりパイロットの生存は絶望だろう。

 右の腰だめに持っていただろうジャイアントバズがそのまま地面に突き刺さるようにしてその砲口を斜めに向けている。

 

「いったい何があったんだ……」

 

 隊長がえもいわれぬ不気味さにうめいたその時だった。

 

 

 ドンッ!!

 

 

 ズガァァァァン!!

 

 

「な、なにぃぃぃ!!」

 

 突然、部下のドワッジが背中から何かの直撃を受けて大爆発を起こした。ドワッジの重厚な装甲で覆われているはずの上半身が吹き飛び、下半身がそのあとを追うようにドウッと倒れこむ。

 

「何だ、どこからだ!!」

 

 隊長と残った僚機が振り返ると、そこでは先ほどの倒れこんだドワッジの持っていたジャイアントバズから硝煙がたなびいていた。どうやら今味方をやったのはこれのようだ。

 この至近距離、しかも背中からモビルスーツを一撃で撃破できる威力のジャイアントバズの直撃を受けたのだ。これではひとたまりもない。

 

『う、うわぁぁぁぁ!!』

 

 部下がその倒れたドワッジに手にしたジャイアントバズを撃つ。動いていない倒れたドワッジに直撃し、そのままドワッジは粉々に砕けた。

 しかし混乱が収まらないのか、そのままジャイアントバズを連射する。

 

「エリック伍長、よせ! 冷静になれ!!」

 

 隊長は部下のジャイアントバズを無理矢理下げさせて射撃をやめさせ、部下に落ち着くように諭す。

 

『す、すみません隊長……』

 

「わかったらいい。 それより、だ……」

 

 部下が冷静さを取り戻しいったん落ち着いたところで隊長は考える。

 今のジャイアントバズ、これは不運な事故か?

 ……そんなはずはない。あれはきっとブービートラップだったのだ。ならば敵は次の手を打ってくるはず!

 

 

 ピピピッ!!

 

 

 その時、機体のセンサーが警戒音を鳴らした。

 

「なにぃ!!」

 

『うわぁぁ!?』

 

 慌てて振り向くよりも、何かが部下のドワッジにぶつかっていく方が早かった。その衝撃で部下のドワッジは手にしていたジャイアントバズを取り落としてしまう。

 ぶつかってきたもの、それは……。

 

「連邦のザク!? 砂の中に潜んでいたのか!?」

 

 ザクは丸腰ながらドワッジに組み付いて、その武器を使わせないようにしている。

 

『た、隊長!?』

 

「近すぎて援護ができん!

 エリック伍長、ザクを引き剥がせ!!」

 

 隊長は即座にジャイアントバズを構えるが、あまりに近すぎて何をやっても部下にまで被害が出てしまう。そのためザクを強引に引き剥がすように指示した。

 連邦のザクは確かにジオンのザクよりもパワーは上がっているのだが、ドワッジと力比べをしたら当然のように押し負ける。しかも連邦のザクは整備がまともに行き届いている様子はなく、徐々にザクがドワッジから引き剥がされていく。

 そして……。

 

 

 ドウッ!

 

 

「よし!」

 

 ザクがドワッジから引き剥がされ、衝撃で地面に倒れ込む。そのザクに隊長機は即座にジャイアントバズを発射した。ジャイアントバズは狙いたがわずザクの胴体に突き刺さり大爆発、ザクの上半身と下半身がその衝撃で両断される。

 

「やったか……」

 

 敵機の確実な撃破を確信した隊長はホッと息をつく。だが、その瞬間に氷の塊を背中に入れられたような悪寒が走り、ベテランとしての勘で機体を横に滑らせる。

 

 

 ザンッ!

 

 

 振り下ろされたヒートサーベルによって隊長機の右手が斬り飛ばされた。何かと思って見れば、それをやったのは部下のドワッジである。

 

「エリック伍長、血迷ったのか!?」

 

 しかし隊長はそのときに気付いた。部下の機体、そのコックピット部分から何かがポロリと落ちていく。それは……部下のエリック伍長だ。

 それを見た瞬間、隊長はすべてを悟った。

 ザクのパイロットは組み付いた瞬間、ドワッジに飛び移って外部からコックピットを開けて中にいた部下を射殺、ドワッジを乗っ取ったのである。

 だが戦闘中に機体から機体に飛び移るなど、狂っているとしか言えない暴挙である。普通の精神の持ち主なら、最初から選択肢にすら入らない。

 しかしその時、隊長はドワッジのハッチの閉じていないコックピットに座る敵パイロットの姿を見て、そんな常識的な思考が何の意味もないことを知る。

 獲物に喰らいつこうとする野獣のような眼光を持つ男だった。

『他の誰はやらなくてもこの男なら確実にやる』……それを確信する。

 ドワッジの追撃のヒートサーベルが胴を薙ぎ払う。隊長機はコックピットもろとも両断され、ここに偵察小隊は全滅したのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「フフフッ……」

 

 私は端末を見ながら、思わず笑ってしまった。

 私が見ていたのは、あのヤザン=ゲーブルの今までの戦果についての資料である。今のようにアフリカで暴れまわった結果、ヤザンは大尉にまで昇進したようだ。

 面白いのは手に入れた連邦側の資料である。

 もともとヤザンはモビルスーツ小隊に所属していたようだが……隊長はジャブローから来た高官の息子だったようだ。記録を見てみたが優秀な人物とは言い難い。頭はいいのだろうが部下を殺すタイプの上官である。

 それが戦死した後に残った部隊を味方勢力圏まで撤退させる時間稼ぎとしてヤザンは暴れまわっていたわけだが……どうにもこの上官の死がくさい。後ろ弾の匂いがプンプンする。

 それにしても……このヤザン=ゲーブルという男は本当にこの宇宙世紀の人間なんだろうか?

 知れば知るほど思うが、やっていることが『ガンダムX』のモビルスーツ狩りやら『アストラギウス銀河』の装甲猟兵のようである。

 ここまでくるとあの男、ニュータイプとは違った形の『ナニカ』ではないのかとすら思ってしまう。

 『ガンダムAGE』の『Xラウンダー』は、『野生の中で生きる人間が本能で世界を感じて理解し、生きていくための能力』であるし、これだと言われると納得がいく。『アストラギウス銀河』の『旧劣等種(ベルゼルガ)』だと言われても、私は納得するだろう。

 そんな風に思っていると、私は隣から声をかけられた。

 

「あの、中佐……何か?」

 

 何やら不安そうな顔をしている。

 実は私は今は1人ではない。車で移動している最中であり、車内には同乗者がいる。

 この中で一番階級が高いのは私であり、緊張しているのが分かる。それが突然笑い出したのだから不気味この上ないことだっただろう。少し悪いことをしてしまったと苦笑しながら、私は答えた。

 

「いや、なかなか面白い記録だったのでね。

 何でもないよ、ワイズマン伍長」

 

 隣から声をかけてきた兵士……あのバーナード=ワイズマン伍長に返す。そう、私が行動を共にしているのは、あのサイクロプス隊なのだ。

 今回私は、『あること』のために彼らの力を借りることにした。そのため、私は作戦に参加するために移動中なのである。

 隣に座る『バーニィ』ことバーナード=ワイズマン伍長は緊張のためか落ち着きがない。それは作戦前ということもあるが、私を前に緊張しているようだ。

 

「もっと楽にしたまえ。

 私も君とそれほど歳は変わらん。 こうも緊張されてはこちらも心苦しいよ」

 

「はぁ……あ、いえ、努力はしますがその……中佐を前に緊張するなと言うのはどうも……」

 

 何ともはっきりしない物言いに、私は『原作』を思い出して苦笑した。

 

「階級など死なぬように必死でもがいた結果にすぎん。

 君だって死なぬようにもがいていれば、階級など上がっていくさ。

 データを見させてもらったが、君はなかなかに優秀なようだからな」

 

「はぁ……恐縮です、中佐」

 

 またも煮え切らない言葉に、私は肩を竦める。『原作』を知る者としては誇張でもなんでもなく言ったのだが、いまだに新兵のような反応だ。だが、彼の戦果は私も十分に調査済みである。

 モビルスーツパイロットとしてここ一番というときの勝負強さ、そして初陣以降の実戦の日々でサイクロプス隊の一員として十分認められるだけの働きをしているらしい。隊長であるシュタイナー大尉も「当たりを引いた」と周りに漏らしているようだ。

 『原作』で各種奇策を用いてザクFz型でアレックスを単機で撃破という戦果を挙げたのは決してマグレではなかったのだ。将来が楽しみなことである。

 するとその様子を見てか、横合いからサイクロプス隊隊長のシュタイナー大尉が声をかけてきた。

 

「あまり新人をおだてないで下さい。

 まだまだヒヨッコでどんなミスをやらかすか分からんのです」

 

 そう言ってシュタイナー大尉は自分の襟のあたりをトントンと指で叩く。それを見てシュタイナー大尉の言わんとしていることがわかった。

 

「……まぁ確かに、現在進行形でミスをしているのはいただけんな」

 

「えっ!?」

 

 言われてバーニィは自分が何かミスをしたのかとキョロキョロと原因を探り出す。私は苦笑しながら、自分の襟をシュタイナー大尉と同じようにトントンと指で叩いた。そのジェスチャーで、私の言わんとしていることが伝わったようだ。

 

「あっ! し、失礼しました大尉(・・)!!」

 

「それでいい。 ここではいいが、任務中は間違えんでくれよ」

 

 そう言って私はバーニィの肩をポンと叩く。その隣からシュタイナー大尉が謝罪の言葉を述べる。

 

「申し訳ありません。

 中佐の服は用意できませんでした」

 

「これでも十分すぎる。 この歳で佐官など逆に疑われてしまうよ」

 

 そう言っている間にどうやら到着のようだ。車の速度が落ちていく。

 私はヘアバンドを外して、髪をオールバックにして後ろで髪をまとめた。分かりやすく言えばアナベル=ガトーの髪型である。髪型を変えるだけでも印象はずいぶんと変わるし、『これからのことにあやかって』の髪型だった。

 やがて完全に停止した車外から声が聞こえる。そして、車内を覗き込んできたのは連邦兵であった。

 しかし連邦兵はこちらの姿を認めても何も反応しない。それもそのはず……私たちが今着ているのは連邦軍の制服だからだ。

 

「身分証の提示をお願いします」

 

「これかね?」

 

 言われるままに私はそのカードを手渡した。

 

「リ……リ……リベ……?」

 

「『リベッチオ』という。 故郷の言葉で『南西から吹く風』のことでな、なかなかに縁起のいい名前なのだ。

 言いにくければ『リベ』でいい」

 

「はぁ……ではリベ大尉、しばしお待ちを」

 

 そしてその兵士は手渡したカードをリーダーに通す。

 しばしの後、何事もなくそのカードを兵士は返してきた。

 

「確認できました、リベ大尉」

 

「任務ご苦労」

 

「ようこそトリントン基地へ!

 大尉のご武運をお祈りします」

 

「そうだな、自分の任務に最善を尽くそう」

 

 兵士に敬礼を返して、車はゲートを抜ける。すると、先ほどの門兵とのやり取りを思い出したのか誰ともなくクツクツと笑いだした。

 

「武運を、だそうだ。

 では全員、さっそく仕事にとりかかろう」

 

「「「了解!!」」」

 

 私が彼らサイクロプス隊とともにこのトリントン基地に来た理由はたった一つ。

 

(クルスト=モーゼス……裁きをくれに来たぞ。

 首を洗って待っていろ)

 

 クルスト=モーゼスの抹殺……それが私の狙いだ。

 

 




リベッチオ「提督さん、今日はリベの妹が来るんだよ!」

提督「それは楽しみだ。
   (本音:リベッチオの妹なら、同じような褐色ロリ娘に違いない!
    ロリ姉妹丼おいしいれふ!)」

シロッコ「失礼する。 マエストラーレ級四番艦シロッコである。
     提督、貴様にこの天才が使いこなせるかな?」

提督「……えっ? いも……うと……? えっ、ギャグ?」

シロッコ「ところで提督、何やら姉上にセクハラまがいのことをしていると聞くが……?」

その後、当然のように提督は暗殺され鎮守府はシロッコに乗っ取られた……。
リベたんprprとか言ってるそこのあなたも気を付けよう。



というわけで今回はヤザンさんの経歴と、EXAMとの最終決戦への突入編でした。
ヤザンさんの戦いはホントもう、宇宙世紀の人じゃないと思うような内容にしましたがヤザンさんならやりそうで怖い。
そして後半はトリントン基地への潜入です。
Gジェネでサイクロプス隊がガトーさんとトリントン襲撃するのがありましたが、それのオマージュですね。
シロッコさんの偽名は艦これ小説も書いている私の一発ネタでした。

次回はクルストの暗殺編の予定。
次回もよろしくお願いします。

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