歴史の立会人に   作:キューマル式

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ずいぶんと久しぶりの更新になってしまった……作者のキューマル式です。
家族サービスって、自由な時間が一気に消し飛びますね。ちょっと舐めてました。

今回はついに元凶とご対面という話。
なんかどこぞのクルーゼさんかブルコスのような話になっちゃったなぁ……。



第60話 裁かれし者(その1)

 

 大量の端末の居並ぶ研究室、その端末の前で2人の男が話をしていた。1人はメガネの神経質そうな男、そしてもう1人は老人の域に差し掛かろうかという男だ。

 このメガネの男の名はアルフ=カムラ、そしてこの老人こそジオン公国から亡命しこのトリントン基地にて『EXAMシステム』の研究を続けるクルスト=モーゼス博士である。

 

「博士、考え直してはいただけませんか?」

 

 アルフよりもクルストの方が『EXAMシステム』の研究に関しては立場が上なのだろう、アルフはなるべく丁寧な言葉を選んでいるようだ。しかしその裏には隠せない非難を含んでいるのが分かる。そんな様子でアルフはクルストに詰め寄っていた。

 

「アルフ君、3号機は君の提案通り『EXAMシステム』にリミッターを取り付けたではないかね?」

 

「ですから、2号機の方にも同様に『EXAMシステム』にリミッターを取り付けることを許可していただきたいのです!」

 

 飄々としたクルストの態度に、アルフがついに言葉を荒げた。

 今の2人の議題、それは『EXAMシステムにリミッターを取り付ける』ということであった。

 前回の戦いでブルーディスティニー3号機は『EXAMシステム』の全力稼働によりシステムダウンという事態を引き起こしていた。

 モビルスーツは戦闘兵器である。当然、それが運用されるのは過酷な戦場のど真ん中だ。そんな中でのマシントラブルなど比喩でも何でもなく命にかかわる大事だ。パイロットともどもブルーディスティニー3号機が無事に帰還してきたことは『奇跡』に近いとアルフは思っている。だからこそ技術屋であるアルフは二度とこんな事態を引き起こさないように『EXAMシステムにリミッターを取り付ける』という改善策を即座に実行に移したのだが……3号機のほうはリミッターを取り付けられたものの、2号機に関してはクルストの反対によってリミッターが取り付けられなかったのだ。

 

「制御しきれないシステムなど、欠陥品としか言えません。

 何より、前回のブルー3号機のシステムダウンの原因は完全には特定しきれていないんですよ。何が原因で突如『EXAMシステム』があんな高稼働率に跳ね上がったのか分かっていない。 

 この状態で『EXAMシステム』にリミッターをかけないなど……そんなことでは機体もパイロットも次こそ失ってしまうことになりますよ!!」

 

 兵器として重要なものは『信頼性』だ。『EXAMシステム』は高性能ではあるが、その『信頼性』の部分がすっぽりと抜け落ちている、非常に不安定なものである。試作段階のものなので不安定なことは仕方がないが、その改善をしないというのは技術屋としてあり得ないとアルフは思っている。

 同時に、アルフはこの不安定さにどこか作為的な臭いを感じてもいた。それらのものが合わさり、アルフのクルストへの不信はどうしようもなく高まっていたのだ。

 しかしそれに対するクルストはどこの吹く風といった風だ。

 

「アルフ君、『EXAMシステム』は未だ完成とは言えない状態だ。その完成のためには限界性能を把握することも必要だよ。リミッターを付けた状態ではそれも測れないではないかね」

 

「しかし……!」

 

「上層部はこのオーストラリアでの『EXAMシステム』の戦果に大変満足している。

この間、あの高性能なガンダムというタイプのモビルスーツをもう1機届けてくれたことからもその期待度が分かるだろう?」

 

「……」

 

 その事実に、アルフは押し黙る。

 ブルー1号機が『蒼い死神』としてあげ続けた戦果は上層部の期待以上のものだった。そのため『EXAMシステム』の研究のために追加でガンダムタイプのモビルスーツを1機補給してくれていたのである。クルストとしては『EXAMシステム』をコピーし、ブルーディスティニー4号機として運用しようと考えている。

 

「これだけの期待をかけられている以上、我々技術者は結果を出さなくてはならない。

 君の意見も懸念も理解できるが、これは致し方ないことなのだよ」

 

「……」

 

 アルフは一理あるクルストの言葉に押し黙るものの、納得はできていないという様子だ。

 

(まったく……EXAMに余計なもの(リミッター)などつけおって……)

 

 アルフの様子に、クルストはそんな風に内心でため息をつく。

 誰も知らないクルストの真の目的はただ一つ、すなわち『ニュータイプの殲滅』である。

 『ニュータイプ』……あまりに優れた戦闘能力を持つ、人類とは違う『ナニカ』。それによってニュータイプ以外の自分たち旧人類(オールドタイプ)が駆逐され絶滅すると考えたクルストが造り上げた対ニュータイプ用システムが『EXAMシステム』なのだ。

『ニュータイプの殲滅』というその目的さえ達成できるのなら、クルストにとってパイロットの安全などというものは考慮のうちに入らない。逆にリミッターなどを付けたことによってニュータイプに敗北するのでは本末転倒な話であり、クルストは何よりもそれを恐れていた。だからこそ、クルストにとって『EXAMシステム』にリミッターを取り付けて性能低下を引き起こすのはどうあっても防ぎたいのである。

 しかし、その胸の内を正直にアルフに言うわけにもいかない。クルスト以外にとってはあくまでも『EXAMシステム』とは高性能なモビルスーツ制御用OSでしかないのだ。『ニュータイプの殲滅』というクルストの思想に共感してもらえるとは思えないし、それを言ったら最後、クルストは『EXAMシステム』の開発から外されるだろう。

 『ニュータイプの殲滅』のためには『EXAMシステム』をさらに高性能化し量産、連邦の大量のモビルスーツに搭載する必要がある。そのために連邦の技術者の協力は必要不可欠だ。いまここで悪い印象や、自分への懸念を抱かせるのは得策ではない……クルストはそう考え、目の前のアルフに向き合う。

 

(さて……何と言ったものか……?)

 

 クルストは何と言ってアルフの追及を逃れようかと思案を始める。そして喉を湿らせるために机に置いてあったコーヒーを一口、口に含んだ。

 その時だ……衝撃と閃光が、研究室へと走った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「う、うぅ……」

 

 しばらく気絶していたらしい。クルストは自分のうめき声で意識を取り戻す。辺りを見渡してみれば舞い上がった粉塵によって視界はほぼゼロ、ところどころに大量のコンクリートの散乱する酷い光景だ。

 

「ぐぅ!?」

 

 身をよじろうとして、その時になってはじめてクルストは自らの足を押し潰している瓦礫に気付き、同時に思い出したかのように激痛が走る。この痛みによってクルストはやっと何らかの爆発に巻き込まれたのだと自身に降りかかった事態を把握した。

 

「誰か、誰かいないかぁ!」

 

 激痛で今にも悲鳴が上がりそうになるのをこらえ、クルストは大声で助けを求める。そしてその粉塵の中から自分に近付いてくる影を認めたとき、クルストは助かったと安堵のため息をついた。

 しかし、その顔はすぐに凍り付くことになる。

 

「ほぅ……生きていたかね。

 存外に運がいいものだ」

 

 そこにいたのは皮肉気な顔の男、その男をクルストは知っている。何故なら……その恐るべき戦果と戦闘データから、自分の『EXAM』で裁くべき『ニュータイプ』の1人だと目を付けていた人物だからだ。

 連邦軍の軍服に身を包んではいるもののその所属はジオン公国軍のエースパイロットの1人、その名は……。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス=シロッコ……!?」

 

「お目にかかれて光栄、とでも言っておこうか」

 

「私を殺しにきたのか?」

 

「君の亡命はジオンへの裏切りであるからな。刺客が送られてくることくらいは予想済みだろう?

 それに私が個人的に手を上げただけだよ」

 

 シロッコがニヤリと笑い、続けた。

 

「『我々(ニュータイプ)を裁く』などということを掲げられてはな、『ニュータイプ』の1人として黙っていられないのだよ」

 

 そう言ってシロッコは動けぬクルストに銃口を向ける。

 その銃口を前に逃れられぬ死を覚悟しながらも、クルストは目の前の自らが殲滅すべき『化け物(ニュータイプ)』を臆することなく見つめ返した。

 

「私は……間違ってなどいない!

 調べれば調べるほど、私はニュータイプの能力に恐怖した。我々(オールドタイプ)はいつかより優れたニュータイプによって危機に瀕する。

 ならばそうなる前にニュータイプと戦うための力を造りだし、数が少ないうちにニュータイプを殲滅する!

 我々(オールドタイプ)が生き延びるための、当然の選択だ!」

 

 これが最後と、感情のままに叫ぶクルスト。そんなクルストにシロッコは嘲笑するように、そして心底憐れむように言った。

 

「そもそもそれが間違いなのだよ、クルスト=モーゼス。

 『ニュータイプが優れている』という大前提、それが間違いなのだ」

 

「何が違うものか!

 反応速度の上昇、未来予知とも言える危機察知能力、空間把握能力の増大にモビルスーツを始めとしたマシーンへの適応力……ニュータイプの持つその能力、そのどこが優れていないというのか!?

 持たざる我々のようなものが聞けば、誰もが羨む!

 その結果は自らもその優れた力を望むか、それとも優れた力を恐れて排斥するかの2つだけだ!!」

 

 その言葉にゆっくりとシロッコは首を振った。

 

「それは分かりやすいメリットとなりえることだけだ。デメリットを考慮していない。

 クルスト=モーゼス……貴様は人の魂の砕ける音を聞いたことがあるかね?

 誰かの断末魔の思念を垣間見たことがあるかね?」

 

「何を……言っている?」

 

 シロッコの言葉がクルストにはまったく理解できない。何の話をしているのか分からない。それこそが答えだ。

 

「感じすぎることは、必ずしも幸せということではない。

 『過ぎたるは猶及ばざるが如し』……貴様はそんな簡単な理屈を見誤った」

 

 話は終わりだと言った風に、シロッコは銃のトリガーに指をかける。

 

「貴様の言うように我々ニュータイプが裁かれるものだというのなら、いつか『歴史』によって裁かれるだろう。裁くのは貴様ではない。

 そして……貴様への裏切りの裁きはここでくれてやろう」

 

「パプティマス・シロッコォォ……!」

 

 

 パァン!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふぅ……」

 

 仕事の一つが終わり、私は一つ息をついた。目の前ではクルスト=モーゼスはすでに物言わぬ屍となっている。

 

「他も予定通りにやっているようだな」

 

 遠くから聞こえる喧騒にそう呟く。これは一緒に潜入したサイクロプス隊の面々が各所での破壊工作に成功したものだろう。

 もっとも……。

 

「ブルーディスティニーとパイロットは仕留められていないだろうがな」

 

 それは確信にも似た予感だ。だが間違いはないだろう。そもそも、あのヤザン=ゲーブルとユウ=カジマが設置された爆弾で死ぬという光景が目に浮かばない。

 

「時間も押している。

 さっさと行き掛けの駄賃をもらうとしよう」

 

 そう呟いて私が動きだそうとしたその時だった。

 

「は、博士ぇ!?」

 

「っ!?」

 

 

 パァン!

 

 

 後ろからの言葉に驚いた私は、反射的に振り向きざまに銃のトリガーを引いていた。そこにいた男の頭を銃弾が貫き、脳漿があたりに飛び散る。

 

「ちぃ! 面倒になるまえに行かなくて……は……?」

 

 急ぎ移動しようとしていた私は今しがた撃った男が誰なのか分かり、驚きで言葉が詰まった。

 

「これは……アルフ=カムラか」

 

 それは原作においてユウ=カジマとともに行動していた連邦の技師、アルフ=カムラであった。銃弾が正確に額を貫き、即死であることは間違いない。

 予想外のことで少し驚いてしまったが、よく考えれば何一つ悪いことなどない。連邦の優秀な頭脳を一つ減らせたというのはこの上ない成果だし、それにアルフ=カムラは『HADES』というEXAMシステムの類似品とも言えるものにも関与していた。それを潰せたというのは思いがけない僥倖だ。私はそう考え、そのまま合流地点へと急ぐ。

 

「ちゅ……大尉、ご無事ですか」

 

「もう中佐でいいよ、ワイズマン伍長」

 

 バーニィに苦笑して、揃って走る。

 

「中佐、戦果は?」

 

「クルストは死んだ。そちらはどうか?」

 

「はい。

『EXAMシステム』に関するデータは、すべてソフト的にも物理的にも破壊しました」

 

 その回答に、私は満足げに頷く。

 クルストは死に、データも消えた。あとは現存する『EXAMシステム』を破壊すれば、EXAMという存在は闇へと葬られるだろう。

 

「シュタイナー大尉たちからもレーダーや格納庫などの破壊工作に成功したとのことです。

 あとはオーストラリア方面軍の奇襲に紛れて離脱するだけですね」

 

 今回の作戦の目的、これは『クルスト=モーゼスの暗殺』だけではなく、『オーストラリア方面軍の奇襲支援』というものがあった。

 戦線が硬直するオーストラリア戦線、ここで連邦の一大拠点であるトリントン基地が大きな被害を受ければ、連邦の動きはしばらく防げる。

 

 サイクロプス隊がトリントン基地へ侵入、基地の各部施設に破壊工作を行う。同時にクルスト=モーゼスを暗殺。あとは時間を合わせて奇襲攻撃を仕掛けてくるオーストラリア方面軍によって混乱しているところを脱出……これが今回の作戦の概要だ。

 そしてその作戦は概ね成功、私は逃走の足となる『行きがけの駄賃』のところへと向かっていた。そして……。

 

「これ、ですか?」

 

「ああ、これだ」

 

 輸送トレーラー上に横たわるそれを、私は感慨深く見つめる。蒼いその機体は色こそ違うが間違いなく、『ガンダム』と呼ばれる機体だったのだ。

 このオーストラリアで暴れまわり、『蒼い死神』とも言われたブルーディスティニー1号機の活躍、これによる上層部のEXAMシステムへの期待はかなり大きかったらしく、失われたブルーディスティニー1号機の変わりとして補給されたのがこの『ガンダム』である。そしてこの機体の補給を察知したことが、クルスト=モーゼスの発見へと繋がったのだった。

 恐らくはコピーか何かしたEXAMシステムを積んで、ブルーディスティニー4号機と呼ばれる予定だっただろうこの『ガンダム』は、塗装以外の手は加えられずここに鎮座している。

 そして、私はこの『ガンダム』を、『行きがけの駄賃』として頂く予定だ。

 

「!? 中佐!!」

 

「むっ!」

 

 少し感慨深くしていた私だが、バーニィの声ですぐに状況を思いだす。見れば連邦兵たちの姿も見え始めていた。長居は無用だ。

 私は躊躇うことなく『ガンダム』へ近付くとコックピットへと滑り込んだ。起動スイッチを押すと、低い音とともにジェネレータに火が灯る。

 即座に横になったガンダムの上体を起こし頭部の20mmバルカンを斉射、連邦兵たちが蜘蛛の子を散らすように退く。

 

「乗れ、ワイズマン伍長!」

 

「はい!」

 

 私の言葉に、私が乗り込むまで援護を続けていたバーニィがコックピットに滑り込むと、座席後方に廻る。それを確認してから私はコックピットハッチを閉じた。

 私はゆっくりとガンダムを立ち上げていく。奇しくも、その光景は私の知る『原作』のガンダムの初起動シーンと酷似しており、思わず笑みが漏れた。

 

「行くとしよう。

 ワイズマン伍長、準備はいいか?」

 

「はい。

 『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』の動かすモビルスーツに乗れるなんて、光栄です」

 

「嬉しいことを言ってくれる」

 

 私はガンダムに格納庫に備わっていた武器……ビームライフルを持たせると一つ息を吸い込んだ。そして、あの言葉を言う。

 

「パプティマス=シロッコ、ガンダム、出る!!」

 

 その言葉とともにペダルを踏み込む。ガンダムは私の求めに応じ、ブースターを吹かせ空中へと飛びあがった……。

 

 




というわけでクルストの暗殺成功、アルフさん巻き添えで殉職、ガンダム盗まれる、の三本でした。

一応ガンダムSSなんだし、やっぱり主人公は一度はガンダムに乗ってないとね!

次回は……なるべく早く更新したいなぁ
次回もよろしくお願いします。
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