歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回から地上編。
舞台を地球に移し、ついにドムがその真価を発揮することに。
ギレンの野望的に考えると、降下作戦時にドムとか凶悪すぎる。

ドム万歳! ツィマッド万歳!


第08話 重力の井戸の底へ

 

 

 宇宙世紀0079、3月1日。 第一次降下作戦、発動。

 黒海沿岸、オデッサへと降下した第一地上機動師団はオデッサ周辺を制圧、その周辺に広がる大規模な鉱山地帯から戦争継続のためのレアメタルなどの戦略物資を入手することに成功した。

 

 そして宇宙世紀0079、3月11日。第二次降下作戦発動。

 北米大陸制圧を目的にした、この第二次降下作戦の指揮官はガルマ・ザビ大佐。そしてその直属だった私の隊もそれに従い、地球へと降りたったのだった。

 

「各機、状況を知らせよ」

 

 夜闇の中、私はHLVからゆっくりと紫のドムを発進させながら状況を確認する。

 メインウェポンとしてジャイアント・バズと左右前面の腰アーマーにその予備弾装を2つ、右の腰にはザクマシンガン、左の腰にザクマシンガン用の予備弾装が1つ、そしてヒートソードを装備している。

 

『こちらマリオン。 ドム2番機、問題ありません』

 

『こちらクスコ。 ドム3番機、こちらも問題ありません』

 

 続けて出てきたのは通常の黒いドム。

 こちらは通常通りジャイアント・バズとヒートソードを装備し、ジャイアント・バズの予備弾装を前後の腰アーマーに4つ装備していた。

 

『こちらニキ。 ザク1番機、システムオールグリーン。 問題無しです』

 

『同じくレイチェル。 ザク2番機、問題無く起動しました』

 

 続けて出てきたのはザクⅡの地上戦型であるJ型である。脚部にミサイルポッドを装備し、手持ちの武器はザクマシンガンに予備弾装3、クラッカーが2つに、ヒートホークを装備している

 

「エリス機はどうした?」

 

『す、すみません。 エリス機、ドム4番機起動しました』

 

 一つ遅れて出てきたのはドムの最後の1機である。その装備はザクマシンガンにその予備弾装を前後腰アーマーに合わせて4、左右の腰アーマーにシュツルムファウストを1本ずつにヒートソードというものだ。未だ練度に不安のあるエリスはジャイアント・バズを取り回すのは不安が残るため、弾幕を張ることのできるマシンガン装備である。

 

『エリス、あんた1人だけ新型貰ってるんだから、もっとしっかりしなさいよ』

 

『ご、ごめんなさい』

 

 レイチェルの言葉に、恐縮したようにエリスが頭を下げる。

 

「仲の良いのはいいことだが、おしゃべりはそこまでだ。

 これより我が隊は、スコット航空基地の制圧作戦に移る!」

 

 これより先、ジオン軍が作戦行動をするにあたって制空権の確保は重要課題である。そのためキシリア直属の特殊部隊、『闇夜のフェンリル隊』は本隊に先行して降下、ニューヤークの航空基地の制圧に向かっている。その動きに連動するように我々は五大湖周辺に存在する連邦軍のスコット航空基地を占拠することが目的だった。

 このスコット航空基地、ミデア輸送機やガンペリー輸送機などによる各部隊への物資の空輸を目的とした航空輸送隊の重要拠点基地なのである。ここに集積された物資と、ミデアやガンペリーといった大量の輸送機を抑えることで北米地域全体の、ひいては連邦軍全体の補給を滞らせ、連邦軍の動きを鈍らせることができるという場所だ。

 無論、連邦もバカではない。スコット航空基地には多数の防衛隊が展開していることは予想された。しかし第二次降下作戦の本命とも言えるキャリフォルニアベースを攻略する関係上、大部隊を裂くことは出来ない。そこで白羽の矢がたったのが、新型機を開発し運用している私の部隊ということだ。

 

「後続の歩兵隊が到着するまでに、夜闇に紛れて接近し敵の機甲戦力を殲滅する。

 第一隊は基地南部の平野部分から直進、その間に第二隊は基地北側に回り込んで基地内部に突入。敵が混乱している間に第一隊も基地に突入し第二隊と合流、基地の残存戦力と司令部を叩く。

 今回の任務は今後の地球での戦い全体に関わる、重大な作戦である。初陣の者も多い中でこのような重要な作戦というのは緊張もするだろう。しかし、君たちならばできると私は確信している。

 クスコ中尉、第二隊を頼む」

 

「了解です、少佐」

 

「マリオンとエリスは私に続け!

 囮でもある危険な任務だ、ドムの性能があると言っても慢心せずに気を引き締めろ!

 では出撃!!」

 

 その言葉と共に私はペダルを踏み込むと、ドムはホバーの滑らかな動きで進み始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「急げ、すぐにでも宇宙人どもはやってくるぞ!」

 

 スコット航空基地司令であるR・F・エドワーズ准将は部下に向かって檄を飛ばしていた。オデッサ地域を占拠された段階で予想は出来ていたが、ついにこの北米大陸にもジオン軍が降下してきたのだ。

 

「ニューヤーク航空基地に連絡。

 すぐに航空部隊を要請しろ!!」

 

「そ、それがニューヤーク航空基地から入電。

 現在ジオン軍の攻撃を受けているとのことです!」

 

「チィ! 奴らめ、手が早い!?

 防衛の機甲部隊を出せ! 

 ここの物資が無くなれば、各戦線が飢えることになるんだ。出し惜しみは無しだ!

 稼働できる61式戦車、ホバークラフトはすべて出して防衛線を構築!!

 宇宙人を基地に近づけるな!」

 

 エドワーズ准将は舌打ちすると、防衛部隊の発進を指示する。

 

「61式戦車、51両。 ファンファン35機……奴らのザクの速度なら防衛線を構築し集中砲火を浴びせかければ撃破も可能のはずだ」

 

 エドワーズ准将は冷静に的確な指示をしていく。だが……。

 

『敵の人型を確認!!』

 

「なっ!? バカな、早すぎるぞ!?」

 

 機甲部隊からの報告に、エドワーズ准将は唖然とした。まだ機甲部隊の防衛線の構築は終わっていない。ザク(一つ目)の移動速度ならば十分に防衛線の構築の余裕はあったはずだ。

 

「どういうことだ! ザク(一つ目)の移動速度はそこまで速くは無いはずだぞ!!」

 

『そ、それが!

 敵はザク(一つ目)ではありません!!

 見たこともない人型……新型です!!』

 

「なにぃ!?」

 

 そして、指令室に機甲部隊のガンカメラからの映像が映し出される。その映像にエドワーズ准将は戦慄した。

 それはザクなどよりも数段早く駆け抜けて行くモビルスーツだ。ザクのように一つ目(モノアイ)だが、それがザクのように横だけでなく縦にも動いている。

 だがエドワーズ准将が真に戦慄したのは新型モビルスーツだからではない。先頭の1機は紫色に塗られていた。機甲部隊からの集中砲火を、まるでゆらゆらと踊るように避けて行くその様は間違いない。

 

「『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』、パプティマス・シロッコか!?」

 

 ジオンの誇るエースパイロットの1人がこの基地へと攻め込んできていることに、エドワーズ准将はつららを背に突き刺したかのような悪寒を感じていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「遅い!」

 

 私はジャイアント・バズをファンファンの集団の中に撃ち込んだ。ジャイアント・バズは直撃しなくてもその爆風だけでファンファンをなぎ倒し行動不能にする。

 

「よし!」

 

 足の速いファンファンを潰したことで敵の戦線に大きな穴が開いた。そこを全速力で駆け抜け、足の遅い戦車部隊の後方に回り込むとザクマシンガンとジャイアント・バズを両手で乱射する。

 混乱した戦車部隊が砲撃を浴びせかけてくるが、そんなものは当たりはしない。

 そうしているうちに、今度は私を狙った61式戦車がマリオンからのジャイアント・バズの直撃を受けて跡形もなく吹き飛び、その隣の61式戦車はエリスからのザクマシンガンの直撃を受け爆発する。

 私とマリオン・エリスに挟まれる形になった61式戦車部隊はまともに狙いをつけることもできずに次々に破壊されていく。

 

「まさに蚊トンボだな。

 可哀相だが、このままご退場願おうか!」

 

 次々と、面白いように破壊されていく機甲部隊。これならば私が居なくても大丈夫か。

 

「ムッ!?」

 

 そのとき、私は基地から何かを感じ取る。

 カメラを最大望遠にしてみると、大型格納庫のシャッターが開き、ミデア輸送機が出てこようとしていた。

 輸送機だけでも逃がそうというのだろう。

 

「中々いい判断だが、もう遅い!

 マリオン、エリス! ここは任せた!

 敵は慎重に一台ずつ潰していけ!」

 

 それだけ指示すると、ドムをトップスピードで滑走路へと走らせる。

 基地からの迎撃の砲撃を避けながら加速し、離陸体制に入っていたミデア輸送機のコックピットに、ジャイアント・バズを向けた。

 

「墜ちろ!!」

 

 放たれたジャイアント・バズの360mmの炸薬は狙い違わずミデア輸送機のコックピットに直撃、コックピットを失ったミデア輸送機が失速し、滑走路中ほどで爆発炎上する。

 

「そこだ!!」

 

 私は駆け回りながら格納庫の入り口を潰して、後続の輸送機を発進できないようにしていった。

 私に向かって基地の機銃からの火線やミサイルトレーラーが集まってくるが、それを上空から打ち下ろすように降ってきたミサイルが吹き飛ばした。ザクⅡJ型の脚部三連ミサイルである。どうやら第二隊が突入を開始したようだ。

 

『少佐、無事ですか?』

 

「もちろんだ、クスコ中尉。

 司令部の破壊と、各種銃座の破壊は任せる。

 私はマリオンとエリスたちのもとに戻って、機甲戦力の撃滅を……」

 

 そう呟いた瞬間だが、私はマリオンたちのほうから感じるものがあり、言葉を切る。

 そして、そのタイミングでマリオンから通信が入った。

 

『敵機甲部隊の排除が完了しました』

 

「ほぅ、想定よりも早いな。 2人ともよくやってくれた。

 では2人とも私に続き基地に突入、敵の抵抗を排除し、第二隊を支援せよ!」

 

『『了解!』』

 

 その答えを聞くのと同時に、私は未だ動きまわるミサイルトレーラーにザクマシンガンを撃ち放つ。

 未だ抵抗はあるが、機甲部隊が全滅した以上長くは保つまい。

 

 その5分後、スコット航空基地司令部は破壊され、後続から追いついた歩兵部隊によって施設が完全に占拠されたのはそれから1時間後のことだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「素晴らしい戦果! さすがはシロッコだ!」

 

 地球に降下したばかりのガルマは、シロッコによるスコット航空基地占拠の報告を受け、その内容に手放しで賞賛の声を上げる。

 連邦軍の航空補給路の要となるスコット航空基地の占拠によって、北米戦線だけではなく欧州戦線も連邦の抵抗力は弱まったはずである。それにそこから手に入れた物資は膨大なもので現在のジオン軍にはありがたい。それになにより嬉しいのはスコット航空基地の大量のミデア輸送機やガンペリー輸送機を無傷で鹵獲できたことである。

 陸戦兵器であるモビルスーツは、歩行によって移動するためその行動半径は思ったよりも小さい。当然ジオンでもモビルスーツの輸送を考えたガウ攻撃空母やファットアンクル輸送機などは設計されているが、今現在はそういったものがないのだ。だが、連邦のミデア輸送機やガンペリー輸送機はその大積載量によってモビルスーツの輸送も可能である。モビルスーツ隊の機動力を大幅に上げる輸送機の奪取に、ガルマは小躍りして喜んだ。

 

「それにしても……凄いな、シロッコの手掛けた『ドム』の性能は」

 

 ガルマは添付されるデータに、今日何度目かの驚きを隠せない。

 『ドム』の性能に関しては資料として見せてもらっていたが、実戦での結果は驚きのものだ。

 投入されたのは先行試作された4機、うち1機はシロッコの専用機なのでどのような戦果でも納得できる。

 しかし、4機のうち2機には今回が初陣となる新兵が搭乗していたのだ。そんな新兵も今回の出撃で目覚ましい戦果を打ち立てている。しかも、損害は新兵のドムが小破というものだ。これは新兵のドムの肩に、戦車の砲弾が当たったということだが肩の稼働にほとんど問題なく、装甲で止まっている。恐るべき重装甲だ。

さらにメイン武装となっているジャイアント・バズの威力も、既存のザクバズーカとは比べ物にならない。機動力・装甲・攻撃力と、ザクとは一線を画す性能だ。

 『ドム』の存在を知ったジオニック社が、第一次降下作戦の際に新型陸戦モビルスーツである『先行量産型グフ』を投入し活躍したという報告があったが、地上での主力モビルスーツの座は、恐らくドムのものとなるだろう。

 また、既存のザクが使うバズーカも、ザクバズーカもより強力なジャイアント・バズへと更新すべきだとガルマは考える。

 そこまで考えて、今は目の前のことに集中すべきだと頭を振ってそのことを一度隅に押しのけると、全軍に向けて指示を出す。

 

「栄光あるジオン公国の勇士たちよ、進め!

 目標は北米最大の連邦軍基地、キャリフォルニアベースだ!!」

 

 ガルマの指揮の元、モビルスーツ隊がキャリフォルニアベースへと進んで行く。

 その戦列は、連邦軍からすれば圧倒的な『死神の列』である。

 そして、それに抗う術は、連邦には無かった……。

 

 

 

 宇宙世紀0079、3月12日。

 全軍の先陣を切り、キャリフォルニアベースの防衛部隊に特殊部隊『闇夜のフェンリル隊』とシロッコ率いる部隊が襲い掛かり、その戦線をかき回し、本隊と合流後これを壊滅させる。

 翌、3月13日。

 キャリフォルニアベースは無血開城に近い形でジオン軍によって制圧され、ここに第二次降下作戦は終了を見た。

 

 この戦いによりジオン軍は、キャリフォルニアベースの連邦軍次期主力潜水艦U型を含む潜水艦群と、工廠を無傷で手中にする。

 この潜水艦群は海洋地域にまでジオンの行動範囲を広め、工廠は改装され地上でのモビルスーツ生産の一大拠点となっていくのだった。

 

 

 


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