鏡の中の真実~13RIDERS Battle Story~ 作:キューマル式
どういうことなの?
リィィィィィィン……
「戦え、そのデッキを使って。
最後まで生き残れば、どんな願いでも叶えられる。
だが……お前と同じ運命にある人間が数名存在する。
戦え! 最後の一人になるまで!」
……あの奇妙な『音』と共にその正体不明の男が、鏡の中から呼びかけてきたのはいつのことだっただろう……?
そうだ、あれは2月の中頃のことだった。忘れもしない、あの日……。
……時を少し、遡る。
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「松永はん、バレンタインのチョコの買出し、一緒にいかへん?」
「これから私たち、チョコの買出しに行くんですけど……。
もしよかったら一緒にいきませんか?」
「ごめん……私ちょっと用事があるから……」
「そら残念やわ……」
「ごめんね……」
「あ、いいんです、気にしないで下さい。
また今度行きましょう」
そう言ってクラスメート達が去っていく。私はその様子を、どこか遠い風景のように眺めていた。
そして……ため息を一つつく。
私はクラスでは明るい子だと思われているようだが、本当は違う。
本当は……家に帰ると言うだけで沈んでしまう、暗い女なのだ……。
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学校の誰にも言っていないことだったが、私、松永沙羅は養子だった。
物心ついたとき私は既に施設にいて、そこで育った。
実の両親については……何も分からない。
私が肌身はなさず持っているペンダントと、わずかに記憶の中にある母のぬくもりだけが私の実の両親のくれたものだ。
そんな私でも……唯一の肉親であった兄と共に暮らせた、施設にいた頃はまだ幸せだったと思う。
だが……幸せなんて長くは続かなかった。
原因を作ったのは私だった……。
4歳の時、何気なく触った施設のコンピューター。
記号を並べると、私の思ったとおりに動いてくれる魔法の箱……幼い私にはそう映った。
それが特殊なことだとわかったのはずっと後のことだ。
誰かが私を『プログラミングの天才少女』と呼び、いろんな人が私を知ることになり……そして、私はある夫婦に引き取られた。
施設を去る日、私は兄と離れたくないと言って泣きじゃくった。
そんな私の頭を撫でながら兄は、『幸せになるんだぞ』って言って笑っていたっけ……。
でも……新しい生活に幸せなんてなかった。
私を引き取った人たちは、私のことを娘として扱ってはくれなかった……。
他人に自慢できる、『天才少女』として私を扱った。
それはまるで『毛並みの綺麗なペット』のように他人に自慢できるもの……それが新しい生活での私の役どころだ。
そこには私の渇望していたもの……『愛』なんてものはなかった。
でも……私はそれでも渇望した……私を愛してくれることを。
だから私はどんどん演技がうまくなっていった。
私はいつの頃からか、どんなときでも明るく笑っていられるようになった。
それと同時に才能を伸ばすようにいつも努力した。
誰にでも好かれ、誰にでも誉められるようになれば、私のことを愛してくれる。
そんな風に思って、私は『いい子』であるように努力した。
我ながらなんとも幼稚な考え方だ。
でも……どんなに努力しても私の望んだものは手に入らなかった。
そして私は仮面の被り方だけがどんどんうまくなっていく……。
「ふぅ……」
ため息と共に私はベットに横になる。途端、睡魔が襲ってきた。
私は抗うこともなく、睡魔にその身をゆだねた……。
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夢……。
夢を見ている……。
そこは夕焼けの草原。 私は誰かに膝枕をされ、頭を撫でられている……。
ああ……この膝のぬくもりは分かる。これは私のママだ。
そして私の頭を優しく撫でてくれているのは……私のパパ。
そして……お兄ちゃんが優しく私を見つめている。
暖かなぬくもりに身を丸め、誰かに愛されているという安心感の中でまどろむ……。
ああ、これだ……。
これが……これこそが私の渇望したもの……!
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目が覚めて、自分が泣いていたことに気付いた。
ちょっとストレスが溜まってるのかもしれない。あんな夢を見るなんて……。
「望んでも手に入らないものはもう望まないって……決めたのに……」
私は自嘲ぎみに呟く。
その時だった……。
リィィィィィィン……
「お前の望みを叶える方法はある……」
「ッ! 誰!?」
私一人のはずの部屋に男の声が響き、私は慌てて辺りを見る。
すると……。
「お前の望み、叶える方法がある……」
その男は……鏡の中に立っていた。
思わず振り向くが、そこには誰もいない。男は鏡の中にだけ存在している。あまりに非現実的な光景に私はあっけにとられた。
そんな私に、その男は何かを投げてよこす。それは数枚のカードの入った、カードケースのようなものだった。
ケースにはこうもりをかたどったようなエンブレムがついている。
「これは……?」
「お前の望みをかなえるものだ」
「私の望みを……叶える?」
そして……その男はいろいろなことを私に語った。
鏡の中にもう一つの世界、ミラーワールドがあること。
ミラーワールドには『ミラーモンスター』という怪物が生息していて、この世界の人を襲っていること。
このデッキを使えばその怪物たちを退治できる力を得られるということ。
そして……同じようにデッキを持つものは全部で13人おり、最後まで生き残った者はどんな願いでもかなえられるということ。
「戦え! 最後の一人になるまで!」
長い説明を終え、最後にそう言って男は去ろうとする。
「ま、待って! あなたは一体、何者なの……!?」
「最後の一人になれば分かる……」
男はそう言って消えていった……。
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翌日、私は公園で昨日の不思議な出来事について考えていた。
「……」
すべてが夢だったのではないかと思えるような不思議な出来事。
でも視線を落とすと、それを否定するカードデッキは私の手の中にあった。
「最後の一人になれば願いが叶う……か……」
あの男の言葉を考えてみる。
私以外に、このカードデッキを持っている人が12人いる。
その人たちを倒せば私の願い、離散した家族と共に暮らすことが……。
……ダメだ。私は首を振る。
倒すというのは人を殺すということだ。私には出来るとは思えない。
でもこのカードデッキを持っているということは、12人の誰かに狙われる。
私は……どうすればいいんだろう……?
その時だった。
リィィィィィィン……
「?」
聞きなれない音だった。
でも……ここ最近聞いたことがあるような……?
その正体を探ろうと、辺りを見渡したその瞬間だった。
シュッ!
「!!?」
突然、私の身体に蜘蛛の糸のようなものが絡まる。
そして声をあげるまもなく、私は鏡の中へと引きずり込まれた……。
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そこは今まで見たことのない異様な世界だった。
今まで私のいた場所と同じなのに、左右の反転した世界……鏡の中の世界だ。
私は両手と両足を縛られ、まったく身動きが出来ない状態で床に転がされている。
そんな私にゆっくりと近付く巨大な影……。
『Shaaaaaaaaaaaa!!』
「!!?」
それは巨大な蜘蛛の怪物だった。
その蜘蛛から強烈な意思が伝わる……それは食欲だ。
『Shaaaaaaaaaaaa!!』
蜘蛛はその巨大な口を開き、私に飛びかかってくる。びっしりと並んだ鋭い牙は、私の身体など容易く引き裂くだろう。
私はただ恐怖で目をつぶった。
その時。
ズガン!!
『Shaaaaaaaaaaaa!?』
鈍い衝撃音と蜘蛛の苦悶の声に私はゆっくりと目を開ける。
そこには……。
「えっ?」
巨大な鋼鉄のサイと、それを従えた見覚えのある顔があった。
「風間……くん?」
それは同じクラスの男子生徒、風間恭介だった。
「よう、松永。
奇遇だな」
私の方に振り返り、彼はまるで朝学校で会ったような自然さで声をかけてくる。
「!? 後ろ!!」
その時、吹き飛ばされていた蜘蛛が起き上がり、後ろから彼に飛び掛った!
「ゲラス!!」
彼の鋭い声と共に、再び鋼鉄のサイが蜘蛛に飛び掛り、蜘蛛を吹き飛ばす。
「まったく……松永、少し待っててくれ。
あの化け蜘蛛始末してすぐに助けてやるからよ」
風間くんはサイのエンブレムのついたカードデッキを掲げる。
そして高らかに一言、叫んだ。
「変身!!」
その声とともに、光が風間くんの身体を包む。そして光が収まった時には、鈍い鋼鉄の輝きを纏った人影が立っていた。
初めて目にするデッキの力は凄かった。
仮面ライダーガイに変身を果たした彼は、ものの数分であの巨大な蜘蛛を退治し私を助け出してくれたのだった……。
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「ふぅん、松永もあの謎の男からデッキもらったのか……」
「……うん」
助け出されたあと私は、彼に自分もデッキをもらったと告白した。
「で、松永はこれからどうするんだ?」
「わかんないよ……どうするかなんて……」
「まあ、道は大きく二つだな」
「二つ?」
「そう、願いに向かって一直線、他のやつらにケンカ吹っかけまくるか。
それとも願いを諦めるか」
彼の言葉に、私は押し黙る。
そう、つまるところ道はその二つ。どちらかしかない。
そう考えた時、私は自然とその言葉を口にしていた。
「ねぇ、風間くんは何で戦ってるの?」
「俺か?
俺は……やることがないから戦ってるかな」
「やることがないから?」
「ああ。
俺は他の連中のように、どうしても叶えたい願いってものがないんだ。
ライダー同士の殺し合いにも興味はまったくねぇ。
だから身内を手伝って、戦ってる」
「身内?」
「まぁ、知り合い。
こいつが固いやつでな。ミラーモンスターのことを知ったら『モンスターから人を守るんだ』ってモンスターと戦ってる。
だから俺もそれを手伝ってる。
とどのつまり自分の目的なしで、他人の目的のために戦ってるんだ。
まぁ、半分ゲームみたいに楽しんでるんだけどな」
彼はそう言ってアハハと笑った。
「ゲーム……」
「で、お前はどうなんだ?」
「私は……私は!」
私はいつの間にか、昨日から考えていたことをすべてしゃべっていた。私のことも、私の望みも、そして私の葛藤も何もかも。
何故しゃべってしまったのかは、正直自分でも分からない。
あえて理由を挙げるなら、命を助けられこの短い間で私は彼を信頼してしまったからなのだろう。
一種の吊り橋効果的なものかもしれない。
「そっか……」
彼はすべてを聞き終わってから、そう呟く。
「私は……どうしたらいいのかな?」
「さぁな。
殺したくはない、殺されたくはない。でも願いは叶って欲しい。
そんな風に思うのは当然だからな、俺にはなんとも言えねぇよ。
でも……さ」
彼はそこで私の目を見ながら言う。
「お前さ、『楽しい』って思ったことないだろ?」
「えっ?」
「いろんなモンに縛られて、いろんなモンに悩まされて……楽しいと思ったことあるか?」
「……」
そう言われてみれば、私は楽しいと心から思ったことがあるんだろうか?
無いような……気がする。
「人間なんざ、今をいくつも重ねて未来を作るんだぜ。
今を楽しく出来なきゃ、重ねた先に楽しい未来なんかないよ」
「……風間くんは今、楽しいの?」
「ああ、楽しいよ。
大きな力を思いっきり使って、挙句モンスター退治は人助けにもなってる。
こりゃ気分いいさ」
「命、狙われるかもしれないのに?」
「それもちょっとしたスリルだ。
まぁライダーに襲われたら、そんときゃ全力で逃げるだろうけどな」
「ふふっ、なにそれ」
「難しく考える必要はないさ。
楽しい方に、笑顔でいれる方に……それでいいんじゃねぇの?」
「……うん、そうだね」
なんだろう?
喉の辺りに刺さっていた棘が抜けていくようなこの感じは……?
「今いい顔で笑ってるぜ、松永」
「えっ?」
自分が笑ってたことに言われて初めて気付いた。
仮面じゃない、こんなに自然に笑えたのはいつ以来だろう?
「で、どうするよ?
ライダーとして俺と戦うかい?」
「まさか、そんな気まるでないわよ。
それより……」
「ん?」
「それより色々教えてよ。
デッキの使い方・戦い方、それに……風間くんのいう楽しいこと」
このとき私は多分ごく自然に笑ってた。
「いいぜ。
よろしくな、松永」
「沙羅でいいよ」
「んじゃ、俺のことも恭介でいい」
「それじゃよろしくね、恭介」
この日この時、私と恭介はパートナーになったのだ。
この信じられないほど非日常的で、信じられないほど楽しい日々の……。
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それから……恭介は私に色々なことを教えて、与えてくれた。
ライダーとしての戦い方、デッキの使い方、それにたくさんの楽しい時間。
彼はまるでアリスを導く、白兎のように私に今まで知らなかった、新しい世界を教えてくれた。
そして……それを素直に楽しんでいる自分がいた。
彼と一緒にいると、必ず新しい何かが始まる。そして、彼と一緒にいて不安に思ったことは無い。
だから……。
「……何か……もう疲れて何にも考えたくねぇ……」
「同感。
いろいろ考えるのは後にしようよ」
血みどろの教室。
本来なら卒倒しかねないこの状況でも、私は大丈夫だ。
隣では椅子に座り込んで目を閉じた恭介。
大丈夫、隣に恭介がいるなら不安に思うことは無い。
そして……この時また新しい何かが始まった。
ただ……それが悲劇への道か、はたまた暖かな未来への道かは今はまったく分からないけれど……。