鏡の中の真実~13RIDERS Battle Story~ 作:キューマル式
「……」
……階下からドカドカという足音を聞きながら、俺は事態を冷静に考えられる余裕が出来てきた。
起こった事自体は単純だ。
『モンスターがいきなり現れて暴れ出した』
文字にするとたったそれだけの、俺たちにとっては良くあることだ。
ただ問題なのは……その暴れまわった場所がミラーワールドではなく現実世界だったことだ。
まるで、できの悪いオブジェみたいに、死人が何体も周りに転がっている。
しかもそれは見知った顔で、あげく普通ではない無惨な姿で、だ。
……我ながら、この状況でよくもまぁ平気でいられるものだと思う。
あまりにすべてが急に駆け足で過ぎていった事だから、実感が全然わかない。
このぼやけたような感覚に、『人が殺される』というのはこういう事なのだろうか、とぼんやりと俺は思った。
沙羅の方を見ると、顔色が戻っている。それなりに落ち着いてきたらしい……。
「……なぁ、俺たちこの状況じゃ犯人扱いかな?」
「パッと見なら、どう考えても私たちが犯人だと思うよ」
沙羅が情けない声で、自分の血塗れの制服の臭いを嗅ぎながら言う。
なるほど、確かにそうだ。
この濃厚な血の臭い……何日かかっても取れないような気がしてならない。
「……動くなっ!!!」
最初の警官が、拳銃を持って教室に飛び込んできた。
「……う、うわあーっ!!!??」
一瞬後、教室の惨状と先生の壮絶な死体を見て、驚愕と嫌悪と恐怖の入り交じった悲鳴を上げる。
「おいおい、警官のくせに意気地がないなぁ」
「……これが普通の反応だと思うけど?」
沙羅が呆れたように言う。
……なるほど、確かにフツーは叫ぶな。
となれば、そうしない俺と沙羅は普通じゃないってことか……。
俺は苦笑しながら、腰を抜かしている警官に声をかけた。
「……腰抜かしてないで、とっととけが人運んでくれよ。
重傷のやつが多いんだからよ」
そうこうしている内に、警官が5~6人なだれ込んでくる。
教室の中を見るたびに、口々に悲鳴やら「おえっ」やら「ひでぇな、こりゃ…」とか言っている。
俺と沙羅はというと、拳銃を突きつけられているというのに涼しい顔で座っているだけ。
怪しさ大爆発だな、と我ながら思ったりする。
この格好な上にこの落ちつきじゃ犯人扱いされても文句は言えないかもしれない。
「……何だ、変質者が進入して暴れまわった、って聞いたのに話が違うじゃないか。
喧嘩か?」
ただ、一人だけ制服を来ていない刑事らしい若い男が苦虫を噛みつぶしたみたいな顔をして、寝ぼけた事をぬかしやがったので即座に言い放つ。
「違うわぁ!!」
「……こんな死体、私たちにどうやって作れっていうんですか?」
沙羅もあきれ顔で俺を援護してくれる。
その刑事は、面白くなさそうな顔をすると、死体の一つに近づいた。
もう他の死体も、他の警官が既に調べに入っている。
悲鳴の一つも上げない所を見るとこの刑事、殺人やらを扱う課にでもいて死体には慣れてるのだろう。
「……何だ、こりゃぁ?」
しばらく調べた後、間の抜けた声を出した。だがその気持ちは良く解る。
「な?
こんな頭吹き飛んだような死体、どうやって俺たちで作れるってんだよ?」
さっきのモンスターの光弾に頭をぶち抜かれただろう死体を指して言う。
ライダーの状態であれだけの衝撃を受ける一撃だ。そんなもの生身で受ければ、ご覧の通りザクロ頭の出来上がり、ということである。
一つお利口になった訳だが、そんなこと俺は出来れば一生知りたくなかった。
刑事は嘆息すると、頷いた。
「頭部損傷……とかいうレベルじゃないな、こりゃ。
……おい、君らの名前は?」
「俺か?
俺は風間恭介。 で、こっちが松永沙羅。
これでOKか?」
俺は面倒なので、先回りして沙羅を刑事に紹介してやる。
「……まったく訳が分からないな。
ともかく、君たちの身柄は一時的に拘束させてもらおう。
心配するな、逮捕じゃない。
……今の所はな」
「俺たちは犯人じゃねぇっての。 あんた信じてねぇな?」
「そんな血塗れの恰好で、信じろという方に無理があるぞ。
もっとも、この死体を君達が如何にして“作った”かと聞かれたら返答に困るのも確かだ。
だから、今の所は任意同行という事にするさ」
……まぁ、この状況じゃ仕方がない事か。問答無用で手錠をかけられないだけまだマシだろう。
俺は沙羅に目配せをすると、さっきまで座っていた椅子に、再び座る。
お互い、気まずい沈黙が降りた。
「おい、この2人を署に連れて行け。 学校側には僕が説明する。
見つからないように……生徒に見られると後が面倒だ。
そろそろマスコミも嗅ぎつけてくるぞ。さっさと幕をひいとけ!」
「わかりました。 柳川警部補」
『柳川』、と呼ばれた刑事は指示を出し終わり俺たちの方に振り向く。
「おい、君達。 僕について来い。
その格好でTVカメラに映りたくはないだろ?」
「冗談じゃねぇ。 こんな姿で全国ネットは勘弁だ」
素直に警察署に同行するべきだろうな。これは。
沙羅が俺の背中を突っつく。
「あんまり口答えしないほうがいいよ」
「わかってるって」
~~~~~~~~~~~~~~~
俺達は柳川刑事に案内され、生徒達が排除された区画からパトカーに乗せられた。ものの数分で、警察署に到着する。
その後、俺たちはたっぷりと何時間も尋問を受けるハメになった。
刑事達は、その時の俺達の行動全てを、根ほり葉ほり聞いてきた。一分一秒、全てを知りたがっているようだった。
俺たちは事前に打ち合わせをした通り、うまく口裏を合わせた。
当然だがモンスターのことやライダーのことは話せない。
しゃべったところで信じちゃもらえないし、俺たちの立場が悪くなるだけだ。
刑事達は、最初は俺達の言う事に半信半疑だったが、学校側……事件時刻に俺たちが教室へ走っていくのを目撃した生徒の証言で、やっと俺たちがシロだとわかったようだ。
一旦、尋問をうち切ると、俺と沙羅は一室に閉じこめられた。
彼らの話では、今警察署と学校には事件を聞きつけた大量の報道陣がいて、俺たちを今外に出すことはできないそうだ。
その部屋は俺と沙羅だけで使うには広く、テレビが一つ、テーブル、椅子その他の倉庫みたいな部屋だった。入れる部屋がないからどこでもいいからぶちこんでおけ……そんな意図がみえみえである。
俺と沙羅は、散らかっている部屋から椅子を抜き出して座ると、備え付けられたテレビをつけた。
「「うわ……」」
テレビを見た俺たちの第一声はそれだった。
『これが今回の事件が起きた鳩鳴館学園の現場の写真です。
ヘリコプターで低空からズームで撮影したものですが……』
あの惨状が夕日に照らされて、まるでデキの悪いホラー映画のセットのようになった教室の写真。
警官達と、シートにくるまれた何体もの死体がくっきりと映っていた。
そして雲霞のような、もの凄いマスコミの数。
やっかましくがなり立てるアナウンサーの後ろを、カメラを担いだ男が通り過ぎる。
「……こりゃ帰れないはずだ」
俺たちの格好はまだ、血だらけの制服のまんまである。
こんな格好で外に出ようもんなら……結果を想像するだけで恐ろしい。
「……すごい騒ぎだね」
「当然だな。
突然変質者が乱入して何人もの人間を殺した……マスコミには最高の話題だろ?」
事件は変質者が乱入して暴れまわった、ということになっているようだ。
「……確かに。
……あのまま私たちが止められなきゃどうなってたんだろ?」
「被害者がもっと出てたのだけは間違いないな」
俺の言ったその言葉は、沙羅を青ざめさせるには十分だった。
俺たちがもしあのモンスターを止めなければ、死者はきっと凄い数になっていただろう。
もの凄い事件だ。
俺には規模が大きすぎて、そんな陳腐な言葉しか出てこない。
『こちら現場の鳩鳴館学園です!
周囲には多くの報道陣がつめかけ、この事件に対する世間の感心の高さを……』
レポーターが連呼するお馴染みの言葉を聞き流しながら、俺たちは顔を見合わせた。
「この分じゃ、学校はしばらく休校だろうね……」
「正直それで済むのか疑問だぞ?」
「願わくば、私たちの名前が出ない事を……だね。
ふざけた週刊誌で顔写真出されるのだけは勘弁だよ、ほんと」
日本に限らず『ネガティブな事件でマスコミに顔写真が載る』というのはその人物の社会生活がムチャクチャになる事に直結する。それだけに、警察は神経をとがらせ、俺達を誰にも見られないように連行し、疑いが晴れても未だに外に出せないそうだ。
アナウンサーが『まだ警察からの公式な発表がありません』と愚痴っている。
……ニュースを見ながら、俺はようやくこの事件を客観的に考えられるようになってきた。
そして冷静になると、あのモンスターの行動は明らかにおかしい。
モンスターが人を襲うのは伊達や酔狂からではない。『喰わなければ死ぬから』という酷く単純な理由からだ。
モンスターにとって『人を襲う』ことは、生きるための絶対条件なのである。
だからモンスターたちは通常、ミラーワールドに人間を引きずり込んでから捕食する。そのほうが狩りの成功率が高いからだ。
だが……あのモンスターはそうせず、こっちの世界にやってきて人を襲っていた。
しかも、だ。せっかく仕留めた獲物を喰うこともせず、俺たちに襲い掛かってきた。
これは明らかにおかしい……。
「「……」」
俺たちに沈黙が降りる。この沈黙は柳川刑事に呼ばれるまで続いた……。
~~~~~~~~~~~~~~~
俺たちが連れてこられた先は、驚いた事に地下駐車場だった。
こんな所で一体何をしようっていうんだ?
「いいか……」
柳川刑事は俺たちを見る。
「……これから君たちを、ウィークリーマンションに送っていく」
出し抜けに、そんな事を言った。
「はぁ?」
「あの……わけがわからないんですけど……?」
当然だ。やっと面倒な尋問が終わって、さて帰ろうって場面だろ、これは。
それのドコに『ウィークリーマンション』なんて単語が出てくる余地があるんだ?
「今回の事件、マスコミの関心がどれほど高いかはわかるな?」
「そりゃぁ、アレだけの事件だ。騒ぐなって方が無理だろ?」
「そう、今回の事件のマスコミの騒ぎ方は近年類を見ないほどだ。
無論、やり方の方もかなりエスカレートしている。事件の起こった君たちクラスの生徒の家に、マスコミが大量に張り込んでいるくらいにな」
「うわぁ……」
マスコミが羽虫の如く家に集まっている光景を想像して頭を抱える。
……シャレにならんぞ。
「それに加え、君らは一応、警察の捜査状況を知ってしまっている。
犯人が捕まっていない今、迂闊なことを洩らしてもらっては困るんだ。
わかるか?」
「「……」」
なるほど、ここにきてやっと言わんとしていることがわかった。
情報の漏洩を防ぐための体のいい監視ってわけだ。
だが、俺と沙羅に拒否権は無いだろう。
それ以前に、羽虫のように報道陣の群がる家に帰るのは抵抗がある。
……正直、家族には悪いんだが。
「このことは学校や、君たちの親御さんも了承済みだ。
そういうわけで、君らにはほとぼりが冷めるまでしばらくウィークリーマンションで生活してもらう。
ついでに服も買ってやろう。その格好じゃアレだからな」
「そりゃ太っ腹なことで」
「マスコミもいつ引くかわからんが取り合えず学校と君らの親御さんとの協議の結果、一週間ウィークリーマンションで生活してもらい、様子を見る。
あと学校は今回の事件のあおりで一週間ほど閉鎖さるそうだ。
……言っておくが近付かないように。
マスコミが二十四時間体制で張り付いているんだ。下手に写真を撮られて、警察に疑われてたなんて知れたら大スクープ、一躍時の人だぞ」
「人生壊れるな、それ」
「まあ、そういうわけだ。
この車は僕の私物でね、これなら怪しまれる事もないだろう。
窓はカーテンが掛けれるが、一応伏せておいてくれよ」
俺たちは柳川刑事の4WDに押し込められるように乗った。
この車が、平和へのキップなのか、それとも地獄への特急便なのか…予測すらできない。
だがどちらにしろ……何かトンデモナイ事件の中心にいるという認識は俺も、そして沙羅にとっても、共通している事だった……。