【悲報】ワイら、呪術界に異世界転移する。   作:なんか変な色の翼

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ホロウ士郎「ドキドキした」
プリヤ士郎「兄としての務めだ」
ウチの士郎「お兄ちゃんだぞ」

解 釈 一 致

HF士郎は浜で死にました。



【凱玉】正義を超えて

 

 

 

 

走馬灯。死を悟った者が見る、自らの人生の様々な情景が脳裏に次々と現れては過ぎ去っていく様の事。一説によれば、今までの経験の中から迫り来る"死"への対処法を脳が探す事で起きる現象だという。

 

 

そう。衛宮士郎は今、死に瀕している。

 

 

僅か数秒直撃しただけで特級(九十九)を瀕死に追い込みかけた領域を数十秒に渡って喰らい続け、自らの臓腑を守るために為した内側からの領域展開。この自傷行為も加わり、士郎の肉体は既に活動限界に至っている。

 

先ほどの動きも、領域の形を変えて肉体を人形のように動かしただけに過ぎない。動くたびに皮膚は内側から破れ、骨は自分自身に断たれていく。もはや、この肉体は魂と術式を押し留めるだけの殻としか意味を持っていない。

 

 

 

「───なんだよ、結構動けるじゃないか」

 

 

 

それを、だからなんだ(・・・・・・)と突っぱねる。動かせる事実に変わりはないのだから。むしろ、記憶が鮮明であればあるほど士郎の術式は覚醒する。彼にとって、正にこの状態こそが最高潮(ベストコンディション)

 

 

「無駄だよ。君の術式は十二分に把握している」

「ハアッ─────!!」

「君の術式は事象や伝承を設計図とした呪具の創造。言うなれば、生得領域が緩い事を逆手に取った構築術式だろう?」

 

 

がむしゃらに殴りかかる士郎をいなして、顔面に黒縄を巻いた拳を叩き込む羂索。領域展開を使用すれば、どんなに優れた術師だろうと術式が焼き切れ、解除後には呪力操作が緩慢になるという制約を受ける。そして黒縄の効果は術式効果の相殺。満身創痍の士郎は殴られれば殴られるほど、領域展開の制限時間(タイムリミット)を文字通り削り取られてしまう。

 

 

「でも逆に、生得領域が不完全という事は領域も不安定だという事を指す。そっちの五条君と喧嘩した時は部分的に開放していたみたいだけど、完全に展開させる為には何か条件が有るんだろうね。そうでなくちゃ、私の領域に対抗しなかった理由が説明できない」

 

 

顔面を狙ったアッパーがヒットする直前に"剣"を皮膚の下から伸ばし、六本目の指を作って脳を狙う士郎。しかし、縫い目の糸を背後へと引かれてそれすらも躱される。

 

 

「させないよ、場が整ってるからね。領域展開をするには時間が足りなさすぎるし、攻撃するにはダメージを受け過ぎているだろう?もう詰んでるんだよ、君は」

 

 

手の甲から剣を露出させ切りかかるが、またしても避けられて距離を取られる。ヒット&アウェイを繰り返される度に皮膚が裂け、人ならざる容姿へと近づいていく。

 

 

「少々退屈だけど、のらりくらりと勝たせて貰おうかな」

「─────────」

 

 

 

何を言っている?

 

何も聞こえない。いや、聞こえたところで聞きたくもない。

 

身体の芯から羂索の言葉を拒絶しているのか、もう既に聴覚を為す器官が領域に浸食され破壊されたのか。もはや衛宮士郎に、彼の言葉は届いてなどいない。しかし、半ば本能と化した知性で死の気配を察知する。千年に渡り積み上げた戦闘経験、呪術センス。それを特別な訓練も積んでいない一般人(逸脱人)が相手にするには、余りにも無謀というもの。

 

 

 

「──────────」

「ん?なんだって?」

 

 

 

死を間近にして、衛宮士郎の出力(ギア)が上がる。

 

羂索と自分の実力差。管理人の到着時刻。自分の持つ手札。羂索の術式。

天内との思い出。"衛宮"との約束。五条や夏油からの信頼。その全てが脳裏をよぎる。

 

シナプスが高速で神経を巡り、鉄を打つかのように視界に火花を散らす。

過去、現在、予測可能な未来を全て考慮し、燃え滾る脳が弾き出した結論は───

 

 

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

 

 

 

無制限の(命を懸けた)術式発動(完全詠唱)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は、それでいいのか。正義の味方になりたいのではなかったのか

 

 

───ああ、それでいいとも。

 

 

正義の味方にならなくてはいけないのではなかったのか

それがお前の持つ唯一の感情ではなかったのか

 

 

───知った上でだ。

 

 

切嗣はどうなる。あの日の約束を忘れるのか

ヤツから受け取った教え(呪い)は、お前の芯だったはずだ

それすらも見て見ぬフリをするのか

 

 

───うるせぇな

 

───そんな事はどうだっていい

 

 

───偽善では、いつまで走り続ければいいのか知り得なかった。

 

───偽善では、ただ綺麗なだけの願いの価値が分からなかった。

 

───偽善では、何を救えばいいのかすら定まらなかった

 

 

───でも、そんな事。ずっと昔から知っていただろうが。

 

 

 

奮起しろ。己を鼓舞しろ。死んでいないなら立ち上がれ。

自分だけには負けない、だなんて言ってる場合か。

 

届く。必ず届く。壊れているなら壊れていない所を使え。

有るモノ全てが壊れているなら、無い部分を総動員しろ。

 

 

生涯(肉体)記憶(精神)思い(呪い)、全てのありとあらゆる"衛宮士郎"の部品をぶつけろ。

是が非でも、ここでアイツをブッ殺す(否定する)。それが俺の役割であり、使命。

 

 

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

 

 

今この瞬間、衛宮士郎は正義の味方じゃなくてもいい。

 

ただ、一人の少女の味方で在れるのなら、それだけでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───雰囲気が変わったな)

 

 

衛宮士郎から溢れる呪力の質が変異する。領域から漏れる呪力とはベクトルが違う何か、先ほどまでの生きた鉄のような印象とは大きく異なるモノ。背筋に銃口を押し付けられたような、危機感が羂索の体を走る。

 

 

(呪術師のみならず、人間にとって"死"は最高の呪術的なスパイスだ。呪力に縁のない外国人ですら、僅かだが脳が変異する程の負荷を齎す。そして先ほどの祓詞、まさか領域展開の補助機関(アシスト)?)

 

 

千年に渡る竜戦虎争、合従連衡の呪いの世界を歩んできた羂索にとって"死"は身近なモノである。常に与え続け、誰かによって与えられる瞬間も何千度も目撃してきた。故に、その性質について誰よりも理解している。

 

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

(最悪、術式の覚醒という線も有るが.....どちらにせよ、掌印を潰す事が第一か)

 

 

羂索の領域展開終了より、約2分が経過。未来の五条悟のように連続して領域を展開することは出来ないが、反転術式を活用すれば一定の使用負荷までなら耐えられる程度に術式は回復してある。

 

 

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades)

 

 

地を蹴り、僅か二呼吸で士郎へと肉薄する羂索。ここは空性結界、士郎は領域を既に内部に展開してしまっており、結界の管理権は羂索がキープしている。それは領域展開の副次効果を受け続けていると同義だ。

 

 

 

ただ一度の敗走もなく(Unaware of loss)ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)

「色々考えてるみたいだけど、意味無いよ!」

 

 

能力を底上げされた状態で士郎の左手首を取り、外側に120度回してへし折る。左手は潰した、掌印は結べない。勝利を確信した羂索は笑みを浮かべ────

 

 

担い手はここに独り、(Withstood pain to create weapons,)剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival)

「......まだ続けるかッ!!」

 

 

その笑みは一瞬で崩れ去った。領域展開に必要なのは掌印ではなく、正確には"印"。そのため、手間をかけて特定の呪印を描く、術式に大きく関係する動作を反復する、などの動作でも代用は可能。

 

 

千年に渡り積み上がった呪術センス(固定観念)が、ここに来て裏目に出た。

 

 

 

ならば、我が生涯に意味は不要ず、(I have no regrets.This is the only path.)この体は(My whole life was)─────」

「ガラクタだろう、この贋作者!!」

 

 

 

─────だが、そんな子供騙しが何になる。

 

 

 

黒縄を巻いた拳で、士郎の胴体、頸部、頭部に次々に殴打を加える羂索。一分の隙も無い拳術が一撃、二撃と加わり、確実に身体を粉砕していく。

 

 

「君は所詮、過去の遺物に縋りつくだけのコピーライターだ!他人の力を掲げて綺麗事を嘯いてる世間知らずの童だ!!善悪も分かっていない癖に正義を謳う、正に混沌にも成り損ねた生き恥!!」

 

 

せめてもの抵抗として右手を振り抜けど、虚しく空を切り二倍の拳を喰らう。羂索の拳が鉄の肉を打つ度に視界に閃光が走り、少しずつ意識が薄れてゆく。

 

 

「今有るモノに妥協し、旧態依然なまでに固執し、依存する!犠牲を受け入れられない弱さを口八丁で言い逃れし、己の信念を偽善と吐き捨てて肯定する!!そんな偽善で何が出来る!?」

 

 

痛覚は無い。内側と外側からの信号の供給過多で脳がパンクしている。それでも、全身が限界を迎えて泣き叫んでいるのをリアルタイムで感じる。

 

 

 

「二番煎じを擦り続ける紛い物は必要無い、ご退場願おうか!!!」

 

 

 

 

羂索の渾身の肘打ちが鳩尾に入る。もはや特筆すべき事ではない。致命傷であれば、もう既に何度も受けている。肉体も、領域展開を喰らった時点で既に限界を迎えている。

 

ただ、死刑の執行猶予が切れただけの事だ。

 

 

 

「......終わり?派手な前座だったね」

「─────────」

 

 

 

至極単純な話だ。強い奴が弱い奴に勝っただけ。

十を持った人間が、一しか持ちえなかった人間を上回ったという順当な結論。

 

操り人形の糸が切れるように、呪力が引っ込んでいく。

銅線をペンチで切断したように、筋肉に入った力が抜けていく。

 

 

 

そして、為す術もなく、当然のように。

衛宮士郎の旅は幕引きを迎え─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"うん、今だって怖いよ。後悔はある。"

 

 

 

思い出す。あの時に見た、走馬灯。

もう一人の、自分とは程遠い、それでも自分だった男の結末。

 

 

 

"呪術師にできるのは他人の不幸を背負う事だけだって"

 

 

 

ただの善人でしかなかった。それでも、善人だった。

信念が無くとも、誰かの痛みを背負える覚悟の有る人間だった。

 

 

 

"アイツの不幸を背負っていった方が格好いいかもってさ"

 

 

 

───いや、違う。これは、俺に向けた言葉じゃない。

そうだ。気付かなかった。気付けなかった。

 

彼は、天内の事を────────

 

 

 

 

 

 

"お前ならどうすんだろうな"

 

 

 

 

そうだ。だからこそ、守らなければ。

 

 

もしも生きる事が罪とするなら。犯した罪から守らなければ。

 

もしも彼女が断罪されるなら。責める罪から守らなければ。

 

もしも彼女が生を悔いるのなら。思い返す罪から守らなければ。

 

もう二度と、彼女自身でさえも、彼女を否定しないように。

 

 

 

 

"精々足掻いてくれよ、正義の味方"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────ああ、任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────どうなってんだい、君は」

 

 

あまりにも突然の出来事に、対処を忘れ呆然とする羂索。もはや勝敗は決した。決した筈だった。完膚なきまでに叩きのめし、再起は不可能な筈だった。

 

だが、まだ灯火は消えない。

その目に宿った誰かの意志(呪い)が、彼を支え続けている。

 

 

この体は(My whole life was)──────」

「─────"簡易領域"ッ!!!!」

 

 

領域展開を警戒し、簡易領域を展開する羂索。彼の結界術の才は天元を除いた呪術師の中で、頭一つ抜けている。純粋な結界術の才能であれば、五条悟すら上回るだろう。

 

そのため、簡易領域の精度も並大抵では無い。天元からは九十九の領域にすら対抗し得るとすら批評された程。逆立ちしても、衛宮士郎の届き得る域ではない。

 

しかし──────

 

 

 

「い、つから、錯覚して、た?」

「..........は?」

「俺の剣製(領域)は、もう死んでいる」

 

 

─────無限の剣製、使用不可。

 

無限の剣製は、正義の味方を目指した衛宮士郎の物。たった一人の人間の味方に成ろうとする半端者には使えない。心の形(生得領域)があまりにも違いすぎるのだ。

 

ならば、今の彼に奥の手は無いのか?

愚問。当然、有るに決まっている。

 

 

真髄、解明。完成理念、収束。鍛造技法、擬似臨界

 

 

死因宝具。それは生前、英霊の死因となった伝承が宝具として昇華されたモノ。自らの生命を奪ったソレの再現度は凄まじく、宝具への理解の精度は使い手を超えることも有るという。

 

 

特級呪具───釈魂刀

 

 

創り出したのは、誰かの死因。もう此処にはいない自分を葬った悪夢。設計図なら有る。その痛み、喪失感、絶望。その全てを、士郎は記憶している。

 

故に、その刀は真似事の域に留まらない。絶命の経験と引き換えに投影された釈魂刀は、正しく"衛宮"の人生を示す宝具と化した。

 

 

「見てるか、もう一人の俺.....!!」

「待っ──────」

 

 

簡易領域を使用する為に両足を地に付けてしまった羂索に、もはや逃げ場は無い。術式を強化する祓詞を完全詠唱した事により、釈魂刀の存在強度は黒縄を遥かに上回っており、受け流す事すら許さない。

 

 

 

「仇討ちいきまぁす!!」

 

 

 

彼の手で振るわれた刀は麗華な軌跡を描き出し、その過程に在る異物の全てを薙ぎ払う。そして羂索の頭部、術式の刻まれた前頭葉前半部が、完全に切断された。

 

 

 





士郎が予想以上にお兄ちゃんと化した。
次回、一部最終回です。


次回、「【廻玉】運命の終わり」

懐玉編、いかがでしたか?

  • 原作二巻を五十話とか長すぎるわ!
  • 丁度良いボリュームだったぜ!
  • もっと日常回欲しかった!
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