【悲報】ワイら、呪術界に異世界転移する。   作:なんか変な色の翼

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アンケート拮抗しまくってて書いてて焦ったわね。



【断章-2-】天才はかく語れり

 

.....とある喫茶店にて。

 

貸し切りどころか、店員を含めて人払いの済まされた店。その中のテーブル席にて。誰から見ても、如何にも対照的な二人が相対していた。

 

 

一人は黒髪の青年。

 

椅子の上に体育座りをするような独特な佇まいをしており、目の下には深いクマを幾重にも作っている。服装はダボっとした白のTシャツに、デニム生地のジーンズ。まるで着る物に困った受験生の様だ。

 

それでも、そのハイライトの無い目はギョロリとテーブルの向こう側に向けられている。そこに一部の隙も無く、まるで幾つもの監視カメラを突き付けられているような圧を感じさせている。

 

彼は───本名は避けるが、「L」と呼ばれる者。

屈指の天才で3500件にも上る事件をその手で解決し、デスノートという怪事件でも大立ち回りを奮い、主犯を追い込んだ名探偵である。

 

 

もう一人は、銀髪の少年。

 

Lとは対照的に感情豊かで、穏やかな微笑みを浮かべている。透き通った白い肌に、宝石の様な真っ赤な目はアルビノにも似た神秘性を帯びており、ただ座っているだけで宗教画になれそうな風格だ。

 

学生服を着ているが.....その振る舞いは、どうにも幼さを感じさせない。彼の穏やかさは大人しい性格などという所以ではない。人間で形容するなら、年老いた老人の静けさのような達観に近いだろう。

 

彼の名は「渚カヲル」

細かい説明は割愛するが.....人の器を持っているものの、魂は人間を超えた何か。人以上に人を理解し、人という存在を愛した男である。何処ぞの世界線では前歯全部折られかけたが、そこは気にしてはいけない。

 

 

その二人が相見えているのは"勧誘"のためだった。

転移者達は全員が協力的な訳ではない。

 

昔、伏黒甚爾が予感していたように敵対とはいかずとも.....己の身の安全の為に表には出ない者や、不干渉を決めている者も存在する。そういった者達も庇護下には置かれているが.....こうして、気が変わらないかと勧誘を受ける事も有る。

 

 

「.....知恵を貸して欲しいって話、考えてくれたかな」

「ええ、考えました。考えた上で.....NOです」

 

 

手元のコーヒーにジャバジャバと角砂糖をぶち込むL。頭を回すのには糖分が必要と言うが、明らかにその量を逸脱している。機関車の炉に石炭を放り込むが如く、次から次へと入れていく。

 

 

「.....そもそも、前にお話しした通りです。私がダメだと言ったのには理由がある。それを解決しない事には───」

「────力になれないから、だろう。覚えてるよ」

 

 

分かってるじゃないか、と。椅子の上に"座った"まま肩をすくめ、首を傾げるL。お互いに相入れないと分かっていても、決して侮りはしていない。Lは、この銀髪の使者が手ぶら(無策)で来るほど礼儀知らず(愚か者)ではないと確信していた。

 

 

「その通りです。私の前世での活躍はご存知でしょうが、アレはデスノートという超常的な"道具"であったからこそ成り立った推理であって....個人の能力が超越している舞台では役に立てません」

「....."ノックスの十戒"かい?」

「ええ。中国人を登場させるな(チートを犯人にするな)、です」

 

 

ノックスの十戒。

推理物の創作物における、禁忌とされる戒律。

 

超越的な存在を相手に推理が通じるものか。

それに通用する推理は、もはや人間のソレではない。

 

予知能力でも第六感でも、勝手にやっていてくれ。

それに反しているから、自分は力にはなれないと。

自分の手に負える内を超えているのだと、彼は言った。

 

 

「ですので、この件には関わりません。貴方達に必要なのは"探偵"ではなく"軍師"の筈でしょう。それは貴方もご存知では?」

「.....大丈夫さ、そっちは適任がいるからね」

「ええ、既に知っています(・・・・・・)。話はお終いですね」

 

 

カップを持ち上げ、砂糖で飽和したコーヒーを胃袋に流し込んだ。これにて幕引き、意味の無い時間だったと、後味の悪さを水に流すように。そのまま足を床へと下ろし、店を後にしようとし────

 

 

「嘘だね、L。君はそういうので折れる人間じゃない」

「......まだ言いますか。その根拠は───」

「ノックスの十戒にはこうも書かれているだろう。未発見の毒薬を使ってはならない(未知の殺人手段は許されない)と。でも君は、デスノートを使った相手に犯人を追い詰めた。そんなに簡単に折れる人間じゃない」

 

 

.....興味深そうに、Lの視線がカヲルへと向いた。

よもや、こう易々と言い返されるとまでは思っていなかったのだろう。決して尊敬や畏敬ではないが、好奇心の類が彼へと向けられ。それに伴って足が止まる。

 

 

「それとも負けを認めるのかな。理不尽を前に、救いなんて無かったと。人間は無力で、必然の前には何も変えられやしないと」

「────結構です。その先は言わずとも」

 

 

渋々ながら、もう一度席に座った。

ここで彼を無視してしまえば、それは"敗走"だ。君子危きに近付かずとのみ主張すれば良かったものの、片足を引き摺り込まれてしまった。無理に抜けば、Lという名に泥沼の残滓を付けられる。

 

それだけは避けたかった。幾ら老獪で叡智に溢れた存在であっても、Lの芯には幼稚さと負けず嫌い(抑えられない好奇心)が有る。言い負かされて逃げ帰った、などと噂されるのは彼の誇りが許さない。

 

 

「良いでしょう。見解を述べる程度ですがね」

「ああ。珈琲のお代わりは要るかい?」

「.....いえ。直ぐに終わりますから」

 

 

片手でカップを取り上げようとするカヲルを静止し、近くのナプキンを折り紙のようにして様々な模型を作り出す。人、方舟、呪霊、そして鯨。ありきたりな喫茶店の卓上が、戦場を示す碁盤のように移り変わっていく。

 

.....乙骨憂太の住む街に"幻影の呪霊"が墜落し、折本里香が生霊となった話は既に聞き及んだ話だ。運命が変わったと声高らかに叫ぶ事も、起きるべき事象は変わらないと嘆く事もない。ただ冷静に現状を俯瞰する。

 

 

「『幻影の呪霊』の墜落は今までで二件、それらしいモノが確認されています。乙骨憂太の街に墜落したモノと.....」

「....."福岡分校"。派遣中の衛宮士郎を狙ったモノ」

「その通りです。なら、何故そこに堕ちたのでしょう?」

 

 

トントン、と。鯨の駒を呪霊と共に移動させる。

 

羂索の入れ知恵か、はたまた別の要因か。本来回遊するだけの存在が地面に落ちるなど有ってはならない。それこそ銃で撃ち落とされたか、はたまた意思を持たされたかの二択だろう。

 

.....しかし、それは重要ではない。

"呪霊に行動を縛る力が有る"と分かれば十分だ。

 

問題は、何故その二箇所に墜落したのかという事。

宿儺の指が保管されている訳でも、霊山の基点でもない。

力の示威ではあるまい。ここに落としたのは何かの意味が.....

 

 

「逆に、そこにしか落とせなかった?」

「その通りです。幻影の呪霊の性質を考えれば有り得ます」

 

 

呪力は感情より出でるモノ。

そして、感情には記憶が宿る。

その記憶を形取るのが幻影の呪霊だ。

 

ならば───より鮮明な記憶に惹かれるのは、当たり前だろう。誘導に必要な触媒を用意すれば、オキアミを掻っ攫う巨大魚のように餌場に喰らい付きに来る。呪術廻戦(正史世界)での残り香を追い掛け、勢い余って地面に衝突する訳だ。

 

問題は、そのオキアミが人間であり。尾鰭で一飛沫を起こされるだけで、波の中で藻屑となって粉々になってしまう事なのだが。

 

 

「.....幻影の呪霊の集めた記憶に、時間による隔たりは有りません。(過去)後ろ(未来)も、高次元(IF)でさえも。全て等しく収集していると考えて良いでしょう」

 

 

鯨の駒を進め、卓上に有った駒を全て倒していく。

 

今の幻影の呪霊は正しく爆弾だ。古来より呪力を溜め込み続けただけあり、直撃すればコテハン上位勢でもタダでは済むまい。現に、福岡で被害に遭った衛宮士郎は意識不明の重体になったのだ。

 

 

「良い仮説(知らせ)と、悪い仮説(知らせ)。どちらから聞きます?」

「.....良い知らせから聞こうかな」

「福岡での墜落と、宮城での墜落。あの二つの規模を比べれば.....圧倒的に宮城での汚染が酷いです。爆発力は、より正史(本編)に近い程に跳ね上がるのでしょう」

 

 

福岡分校での爆発は、ただ校舎が一つ全焼しただけで済んだ。それに対して宮城での爆発は街一つを呑み込み、多くの死傷者を出している。逆に言えば、強い起爆剤が無ければ真価は発揮出来ない、という訳か。

 

 

「....でも、それは」

「ええ。悪い知らせは、高専に落とされた時の被害です」

 

 

.....星漿体の攻防。乙骨憂太と夏油傑の決戦。虎杖悠仁の捕縛。羂索と天元、九十九や脹相による防衛戦。あの場には数多くの記憶が眠り過ぎている。もし高専に堕とされれば、どれ程の被害が広がるかは検討も付かない。

 

里香が怨霊として生まれ変わった記憶の眠る宮城ですら、宿儺の領域にも匹敵する大災となったのだ。少なく見積もれど、天元の眠る空性結界すら確実に撃ち破る。地上の被害など考えるまでも無い。

 

 

「......これが、私が協力出来ないと言った理由です。個人単独の力が強すぎる上に、勝負は確実に後手に回る。"推理"で解決できる範疇を超えている、と最初に言った通りですよ」

 

 

.....手を顔の前で組み、暫くの沈黙が流れた。

不可解も不思議も無い、有意義な時間だった。

この考察を基にすれば、新たな戦略を立てられる。

 

.....しかし。何か、違和感が有る。

Lは今、嘘を一言も吐いてなどいないが。

確実に、真実を全て話している訳では無い。

 

渚カヲルは思案する。

人間を理解出来ているのなら、天才もまた同じ。

読み込み、共感し、分析し、分解する。

 

心の底、その奥深くに。

彼が隠し通そうとしている事は──────?

 

 

「───なら、今は何をしているんだい?」

「......今は、ですか」

「そうさ。その考察は"今"の情報が無ければ組み立てられない.....だから、初めから協力しない事は決めていた筈だ。違うかい?」

 

 

.....再び、沈黙が走る。

結論が出た故の沈黙では無い。緊張感が故のモノだ。

 

雷鳴の後に聴覚が狂い、雨音が透き通って聞こえるかのように。場の空気は黒い雲のように重く、唇を動かすのも億劫になる程だった。

 

その沈黙を先に破ったのは.....

 

 

「貴方は。"管理人"について何を知っていますか」

 

 

Lの口が動く。必要最低限の情報だけを伝えるように。

敵視ではない。侮蔑や軽蔑でもない。

ただ、得体の知れない存在として見ている。

 

 

「500年前に生誕した、最初の転移者」

「それで」

「.....転移者のネットワーク、2チャンネルの創設者」

「ええ、それで?」

「......何が言いたいんだい、L」

 

 

睨み合う二人。互いの腹を探り合う応酬が続く。

.....しかし、Lは目を瞑る。ここで打ち止めのようだ。

 

彼の目的は元より真実の探求。そして彼等は同胞であり、犯人(キラ)では無い。それ故に食指は動かなかったが.....大きな謎を前にして、協力すらかなぐり捨てて追求せざるを得ない(・・・・・・・)事が生まれたのだ。

 

 

「────ここは、"二つ目"です」

 

 

たった一言。それだけを告げて、今度こそ彼は席を立った。これ以上の問答は不要と考えたのだろう。

 

敵意は無い。宣戦布告の類でも、挑発でも無いと分かる。ただ、このままだと泥舟だと警告するような.....氷山を前にして、喧しく鳴り響く警鐘のように。その言葉は、静寂に包まれていた部屋の中に反響する。

 

やがて、扉が開かれる音と共に。

......遠雷のような語り合いは、幕を引いた。

 

 

 


 

残されたのは、ただ一人だけ。

成果はあった。知恵を借りるという目的は果たされた。

.....銀髪の青年は、自身のカップを手に取って口に付ける。

 

 

「.......やられた」

 

 

舌を貫くような甘味が、ヒリヒリと感じられた。どうやら話に夢中になっていた間に、角砂糖を一山ほど放り込まれていたらしい。用意したのはレモンティーだというのに、酸味を殆ど打ち消されている。

 

.....Lは恐らく、勘付いている。運営は"管理人"や"偽物の先生"のみではない。それ以外にも存在する。恐らく既にアタリは付け、そこから仄めかされた事から推測したのだろう。あの者の人格を考えれば、読み取られるどころかヒントを自ら与えた可能性すら有る。

 

それを、わざわざ宣言したのだ。何年も前に名を伏せられている、運営の一人である(・・・・・・・・)自分に。隠し事はするな、と警告をするのも兼ねてだ。

 

 

「......言われてるよ、天元。君のせいだからね?」

 

 

......最後に呟いた、"転移の元凶"への独り言。

そこに乗せられたのは、怒りか。はたまた同情か。

 

吐き出し切れず、形容もし難い感情を胸に宿しつつ。

使者は───渚カヲルは、誰もいない席を後にした。

 






*運営の情報は「28話」の前書きを参照

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