【悲報】ワイら、呪術界に異世界転移する。   作:なんか変な色の翼

64 / 67

ショートストーリーを2本まとめて。




【断章-3-】揺籠/鎮魂歌

 

「もー疲れた!!私帰る!!!」

 

 

極地、アフリカの某砂漠地帯にて。

草の根どころか生命の痕跡一つない極地に、何処ぞの真祖の叫び声が寂しく響き渡る。疲れたと口にする割には汗一つも流さず顔色も平然としているが、単調な歩くだけ(・・・・)の作業に飽きたのだろう。

 

 

「そう言ってもな。漸く折り返し地点だ.....あー、正確には11回目の折り返しだな。あと16往復で終わりだぞ」

「帰る!!!!」

 

 

それを窘めるのは、ビニール傘を片手にした黒の男。

そう。転移者の中でも最上位に位置する彼等は今、日本ではなく海外にいた。無論彼等にのみならず、他の面々も世界各地に飛んでいる。宿儺の指の捜索が終わった途端に更なる出張とは、不満も溜まるというものだろう。

 

その目的は旅行、ではない。研修だとか留学とかはもっとない。本来の呪術廻戦で五条悟封印に用いられていた特級呪具、"獄門疆"の捜索をする為であった。

 

羂索がどのような手法を使って捜索したのかが不明な上、海外に有るとしか情報は分からない。加えて天元が"裏門"を隠匿しているが故に、気配を探すのは宿儺の指より骨が折れる。長期任務による精神的疲弊に、気まぐれなお姫様が一番先に悲鳴を上げたというわけだ。

 

 

「なに、一つの目標に熱中するのは慣れているだろう。私と同じくらい忍耐の有る姫君と思っていたがね」

「それとこれとは別!意味の無い事と意義のない事は別物だし.....それに、獄門疆なんて、探さなくても良いんじゃない?今の五条悟には効かないのは明白だと思うけど」

 

 

.....それもそうだ。

 

五条悟に獄門疆が通じたのは、羂索が夏油傑(亡き親友)の肉体を用いた奇策を用いたが故。しかし夏油傑は高専に拘留され生存しており、羂索は死去しているのだ。警戒する理由も無いだろう。

 

その上、今の五条悟は高専の教師という責務を負っていない。自由奔放に旅をするような、九十九のようなスタンスを取っているのだ。渋谷事変規模の惨劇でも無い限り上層部から動かされる事は有り得ない。

 

 

「それでもだ。禪院家は直毘人による安定した時代となり、五条家は相変わらずワンマンチーム。加茂家はニ家に比べて勢力として劣り、求心力に欠ける。この意味が分かるか?」

「......どういう事よ。なんで御三家の話になるの?」

「"平定する"総監部から発言力を奪い、今や表の呪術界は"統治する"御三家の時代だ。その結果、今や五条悟の存在感は元々より強大になった」

 

 

語りながら、砂漠の砂に傘の先で絵を描いていく。

元よりトークが得意なだけあり、滑らかに物語を綴っている。くたびれた具合の彼女の興味を引くことには成功したようだ。

 

 

「故に、今の世の中は平和になっているが。五条悟を失った代償はより酷いモノとなるだろうな」

「それって.....私達のせいで起きる、揺り戻しって事?」

「そうなるな。元ですら呪詛師を渋谷に連れ込む程の騒ぎを起こしたんだ、"此方"の世界では何が起こるか分からん」

 

 

紙袋の男然り、伏黒甚爾然り。

呪詛師が動くのは信念ではなく物質的な利益だ。

 

夏油一派のように大義や一個人に心酔しているならまだしも、そうでない者らにとって五条悟の存在は災害にも等しい。生を豊かにするが為に法を犯す存在が、わざわざ命を捨てるような事をする筈もない。

 

故に、今の呪術界は平穏を保っている。呪霊のような存在するだけで被害を齎す案件はあれど、知恵有る者らは身を潜めているのだ。それは.....危険因子の抜根がほぼ不可能となり、問題を先送りにしているとも言えるのだが。

 

 

「だから、五条悟に届き得る存在を消していくのさ。見つからないなら見つからないに越したことは無い」

「良いの?見つからないって事は、誰かの手に有るって事でしょ。それ、目的と矛盾してない?」

「相手の手の内に有る、という事は"使って来る"と知らせているようなモノだ。それに合わせて私達も対処出来るからな」

 

 

獄門疆を探すのは尋常ではない手間が要る。

 

それだけの時間が有れば、別の手法など幾らでも取れる。そのため、"次善の策"として使うにはリスクとリターンが噛み合っていないのだ。拾った以上は使わなければ意味の無くなる究極の札、逆エリクサー症候群とでも語るべきだろうか。

 

 

「でも、今の五条悟に対して使う札なら宿儺の復活が.....って、そこ!なに置いて行こうとしてるの!?」

「すまない、私も早く帰りたいんだ。絶版になった本を取り揃えておいても、虫に食われると困るからな───行こうか、姫様。"黒縄"の調査も同時に終わらせたいと言い出したいのは、果たして何処の誰だったか」

 

 

煽るように鼓舞し、ビニール傘を杖のようにして砂漠を渡るルシフェル。地平線の彼方、砂漠の向こうへと沈み行く太陽の光が、黒い翼のように彼の影を伸ばしていた。

 

 


 

 

「五条様、どうか落ち着いて下さい。面会謝絶の期間は明けましたが、まだ衛宮特級術師は─────」

「──────退けよ」

 

 

一睨みし、目の前を彷徨く看護師らを散らす悟。

場所は変わり、高専の管轄する病院にて。

 

2チャンネル(転移者達)によって回収された士郎だが、彼は呪術界で特級術師という名を冠してしまった身。失踪するには知名度が高過ぎる。簡易的な応急処置のみ施され、呪術高専に潜ませた者らの手引きによって送り返す他なかったのだ。

 

仮にも高専の入院施設とだけあり、呪傷への対処は可能。高濃度の呪傷であれど、反転術式のアウトプットが可能である家入硝子であれば後遺症も残さずに治癒できる。幻影の呪霊による爆発の被害を受けたとはいえ、規模は山の尾根が全焼する程度(・・)に過ぎない。

 

故に、本来なら完治している筈だった。

転移者達も、高専に一任して構わないと考えていた。

 

 

「.......士郎?」

 

 

扉を開け、五条悟は絶句する。

 

そこにあったのは、全身を包帯で巻かれ。未だ点滴に繋がれていた衛宮士郎の痛々しい姿だった。呼吸は浅く、まるで先ほど事故に遭ったかのような状態だ。六眼を持っている故に、身体に呪いが残っている事も分かる。

 

 

「.....医者は何してんだ。重体が重傷になっただけだろ」

 

 

彼が此処に来たのは。硝子より、衛宮士郎の治療に充てられなかったと報告を受けたからだった。

 

当の彼女は快方に向かっていたのだと考えていたが───回復しても連絡を寄越さなかった士郎に、不審を覚え。五条悟は周囲の反対を押し切って、院内に乗り込んだのである。

 

夏油傑に続き、恩師であった夜蛾正道の勾留。それによって蓄積していた総監部への不信感による予兆とでも言うべきか。五条の中で連鎖反応のように、積み上がってきた不快(呪い)が爆発しそうになっていた。

 

 

「誰に言われたんだ。いや───」

「ひっ、それは......」

「"それ"はどうせ縛りだろ。なら、何を吹き込まれた」

 

 

コイツらは道に落ちたナイフだ、責めた所で意味も無い。実に総監部のやりそうな手口だ。縛りによって自分達が命令したという事を伏せさせる事で、余計な漏洩を防いでいたのだろう。

 

これでは、仮に尻尾を掴まれようと.....発信元である総監部を問い詰めるのは不可能だ。揉み消されるか、文字通り蜥蜴のように逃げられるのみ。元々、五条悟自身に露見する事をも予定に入れていたのだろう。

 

 

「ただ、私達は術式の保全の為に動けと命じられて───」

御託は良い

「......ッ、術式の保全と共に、保管のため。衛宮術師が復帰するまで、最低でも半年は伸ばせと、命令を......」

 

 

......何よりも先に呆れが出た。

何故、こんなにも愚かなのか。理解に苦しむ連中だ。

 

高専にも家にも縛られず、様々な世界を渡り歩いた。

海の外を知り、日本各地で才有る存在を見定めた。

九十九由基が呪霊のいない世界を目指すように。

衛宮士郎が正義の味方という目標を掲げたように。

 

自分も、最強以外の何かで在りたいと思ったのだ。

 

 

「───そろそろダルいな、ホント」

 

 

───だと言うのに、お前達は何だ。その気になれば、その我欲に塗れたちっぽけな秩序なんて蟻のように踏み潰してやれるのに。積み上げた誇りも、賽の河原に積み上げた石クズのように蹴散らせるのに。ならば精々怯えて縮こまっているのが道理だろう。

 

なら、何故そうしない───理由は簡単だ、追い詰められているからだ。御三家に時代が移り変わり、権力の衰えを察知したからだ。これで御三家に痛手を与えたと、手傷を加えたと勝ち誇っているのだろう。

 

考えるだけで、ああ、吐き気が────

 

 

 

人の友人(花壇)傷付けて(踏み荒らして)楽しいかよ

 

 

 

五条悟の思考回路が。

僅か一瞬、ほんの一瞬。

友を守る為に、最強(怪物)へと戻る。

 

 

「───五条様?」

「お前らはもう良い。代わりに.....死亡診断書、書いとけ。容体急変してポックリ逝きましたってな。前にも一回死んでたし、その時の通りに書けば良いだろ」

 

 

そうなってからの、行動は早かった。

 

士郎の体から伸びた、意味の無い管の類を外していき。淡々と看護師らに淡々と指示を出して行く。不可解な事に、言葉に反して声色は楽しげですらあった。子供が長年夢見た玩具を買い与えられたような、高揚感すら根付いている。

 

 

「必要なのは.....あー、そうだな。若い世代だ。時代ごとひっくり返す必要が有ったんだな。そうなりゃ、嫌でも全部変わる」

「な、何を言って.....?」

「邪魔すんなよ。今良いとこなんだから」

 

 

出された結論は一つ。旧体制に存在意義はない。

文字通り掃いて捨てるほどってやつだ。

腐った蜜柑のバーゲンセール(どいつもこいつも使えやしねぇ)

 

だから......新しい時代を作るのだ。

古い時代を淘汰できる、強く、聡い奴らを育てる。

傑も、硝子も、士郎も、天内も、灰原も、七海も。

親友達が、もう何も奪われなくても良いように。

 

 

「────衛宮。()は、これで良いよな」

 

 

そして、もう誰もいなくならないように。

そんな世界を、若人が享受できるように。

 

それこそが────彼の掲げた、理想だった。

 

 

 





五条「お前はもう家族だ.....」
妨げようとするとゴジョパンが飛んで来ます。

新規世界観説明はもう終わり。
そろそろネタに戻します(病気)

次回、「【断章-終-】(自主規制)、生霊と化した彼女」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。