【悲報】ワイら、呪術界に異世界転移する。 作:なんか変な色の翼
書き溜めてたオマケです。
数年前の企画の応募アリガトナァッ!
長野の山奥に位置する存在しない高校。
それが、国際信州学院大学付属高等学校である。
2チャンネルの本部は上空を旋回している方舟だが、通う方法がまるっきり限られている以上不満の声も多かった。その為、地上に完成した当校は比較的気軽に集まれる、転移者達の憩いの場としても機能していたのである。
然し、そこに乙骨憂太が通うという一大ニュースが流れた訳だ。身内ノリで散らかしまくった部室に、数年来の新入生が来ると知らされたが如く。人前に出さない私物を取りに帰る者や、清掃の手伝いに来る者などで近頃は往来が激しくなっていた。
だが......それとは別の用の人間もいるようで。
「ぜぇ......ぜぇ.....まだ着かねぇのか......」
一人の男が、山の中腹で肩で息をしていた。
化け物らとは違い、体力は人並みなのだろう。長旅によって痛みつつある脇腹を抑えつつ、万が一に備えて持ってきた傘を杖代わりにしながら登山をしている。
この男の名は、"伊藤カイジ"。生粋の博徒であり、その精神力は正しく呪術師にも引けを取らぬイカれっぷりを見せる者である。そんな彼が疲弊し、弱音を吐いているのには理由があった。
「"交通費".....クソッ、アレがそんなに早く振り込まれてるとは思わないだろっての。まさか、清掃のバイトに応募したその日の内に.....」
.....そう、この男。
生粋の博徒であるが、同時にギャンブル中毒者だった。
山間部までのレンタカー代として交通費を頼んだは良いものの、振り込まれている事に気付かずに預金を下ろし。その口座残高の変化に気づきもせず、全てをパチンコに注ぎ込んだのである。
「だって.....仕方ねぇだろ!賭博で一番頭を使わないのは.....賭博に行くまでだ!理性とか自制心とかが有ったら、また別の事に使ってるだろ.....!」
ここに来て、カイジ。"正当化"を選ぶ。
自分の不甲斐なさを前提とし、これは避けられなかった事だと。自分の過ちを仕方のない事だと認めようとする。浅ましい事と言えばそこまでだが、僅かに心に平穏は戻ってきた。
「はぁ.....今何処ら辺だ?せめて、夕方には着いておかなきゃだ。バイトは明日からとはいえ、夜の登山は流石に.....」
ピタリ、と。彼の足が止まった。
前方に人影が見える。同じように交通費をスッてしまった転移者だろうか。もしくは、迷い込んでしまった一般人か。どちらにせよ異質な存在だろうと、カイジの勘は告げていた。
「な、なあ。そこのアンタ────?」
しかし、不思議な事に。その人影は座っていた。
もしや怪我でもしているのか、と声を掛けてしまう。
だが、よく見れば何か段ボール的なのに収まって......
「─────」
「─────同情するなら、酒をくれ」
そこにいたのは、
いつぞやの補助監督として、スーツを着てタクシーを運転していたのは昔の話。彼もカイジ同様、徒歩で長野の山々を渡り歩くトライアスロンに挑戦していた模様である。
これには流石のカイジも絶句した。地下施設で働いていた経験こそ有れど、最低限の衣食住の整った環境に身を置いていたからだろう。彼も一応であるが、貧しさによる辛苦は知っているつもりだった。
しかし、
そこに出来るのはただ、"その不条理って自業自得だろ"という事実陳列による傷害致死が精々であろう。カイジの頭にも一瞬その言葉はよぎったが、口にした瞬間に自分もブッ刺されてしまうので心にしまう事にした。
「アンタ.....そうして、何年になる」
「───十五年半、かな」
「そんなにも.......」
思わず驚嘆の声が漏れる。誰の哀れみを招くでもなく、何の意義が有る訳もなく、ただ落ちに落ちた奈落の底。そこで十数年もの時を過ごしたのか、という驚きだ。感心はせずとも関心は湧く。
人は環境に適応する生き物だが、裏返せば周りを自身の環境に適応させようともする。森を切り開き、鉄道を敷き。そうやって地球が温暖化するまで世界を変容させて来た歴史を持っているのだ。逃避だろうと邁進だろうと、一定の場所に留まるのは"有り得ない"。
だからこそ、異常性が際立つのである。
それはこの男が底なしの精神の持ち主だからか。
はたまた、飛び抜けた不幸に苛まれているのか。
「人間が不幸に直面したら.....出来る事は耐える事だけ。それが続けば、段々と受け入れるようになる。その果てが負け犬さ」
「アンタ.....すげぇ価値観してんな.....」
何にせよ、碌な男ではあるまい。だが、カイジもまた碌な男では無いし、何ならその自覚も有った。何処か共感出来るとでも思ったのか、奇妙な友情が二人の間に芽生えつつあった。
「ところで.....アンタも登山してるって事は、交通費を使っちまったのか?その.....」
「いや、免停中でな。そもそも交通費の意味が無いんだ」
「ああ、それは.....大変だったな」
ホームレス同然の姿は、それを支える資格が失ったからだったのかと納得したカイジ。禍福は糾える縄の如しというが、不幸の後に不幸が続いているのかと同情してしまう。
タクシーを呼べば良いと思うかもしれないが、世間には教えられない存在なのだ。レンタカーか、はたまた瞬間移動やら高速移動の出来る転移者に連れて行って貰うしか無いのである。そこに免停はキツかろう。
「それで、アンタ.....確か伊藤だっけ?そっちは何で登山してんだ、崖底に車落としたとか?」
「いや、普通に.....ちょっとギャンブルでな?」
「......使い込んだのか?」
たはは、と恥ずかしげに頭を掻いて答えたカイジ。普通に話せば人格を疑われる発言だが、ダメな者同士なら笑い話に出来ると考えたのだろう。
IQが20も離れれば会話が成立しないという俗説がある通り、彼らは一般人のようで"そこ"から離れた存在なのだ。だからこそ自虐的なネタも取り扱えるというもの。
それに長谷川も、笑って答え─────
「いや、それは引くぞ。賭け事に使い込むのは」
「うん?」
「オッサンが言うのもアレだけどさ、そういう悪癖持ったまま成熟したら大変な事になるよ?ギャンブルは程々に.....」
────笑って答える事はなく。
むしろ助走をつけて、正論で殴って来た。
二人とも不幸が呼び水となって落ちぶれ、その精神性で戦って来た善性の人間だと言うのに。やはり何処か似て非なる存在だったのだろう。マダオとギャンブル中毒者は別物なのである。
「明日食べていく金とか言えるのは贅沢なんだ、そもそも、生活に余裕を.....って、聞いてる?」
「そうか。なら俺が追い剥ぎをしようと恨むなよ」
「なにその急な羅生門!?」
怒りに任せ、長谷川の最後の財産である段ボールを引っ剥がそうとするカイジ。それを止めようと引き摺られていく長谷川。近所迷惑だとかは知った事ではない、これは戦争なのだ。二人のギャーギャーと騒ぐ声が、連なる山々の間に汚く反響する。
この後、カイジはバイトに無事に遅刻し。
"沼"を打てない程に給金を天引きされるのは、また別の話である。
一言付き高評価、励みになります......
面白い文とか書いてくれてる人もありがとなぁ....!