……これは、本編より数年前のとある日に遡る。
燦々と照らす太陽。
雲一つない透き通る空。
一面に綺麗な緑色に染まり、芝生でできた訓練場……そこでは、
「『ホーンインパルス』っ!!!」
「ひょえぇええっ!?」
「『獣王拳』!!!」
「なんですとぉっ!?」
「ほらほらっ、『メガフレイム』!!!」
「あっづぅううううっ!!!」
「獅子王丸……からの、模倣『打首獄門』っす!!!」
「危ないのでありますっ!?」
竜の角で突かれ、気合いでできた拳に殴られ、炎に燃やされ、剣で切り裂かれる赤く太ったペンギンがそこにいた。
「タイト氏ぃ〜〜、疲れたのですぞ〜〜」
修行の休憩時間、ペンギン……ムーチョモンは、俺の元へとやってきて、開口一番に泣き言を漏らしてきた。
「強くなるためだ……仕方ないだろ?」
泣き言を漏らすムーチョモンに、できる限り優しげに言ってみる。
「もう、やめにするでござるぅ」
……また、泣き言を言いやがった。
「寝言を言うなら、目の前にいるテトとシンを見てから言ってみろ」
「…………」
俺の指差す先を見たムーチョモン……そこには、
[クロアグモン ワープ進化]
「ダークドラモンっ!!!」
[レオモン ワープ進化]
「バンチョーレオモンっ!!!」
「……あれを見ても泣き言が言えるのか?」
究極体に進化してから、たった3週間で『自力』での『進化』と『退化』をモノにした2体……それに比べ、未だクロスローダーの補助がなければ進化できないムーチョモン。
(いくら修行時間があの2体より少ないとは言え、ムーチョモンには泣き言を言っている暇なんてないって思うんだけどな)
「へえ、へえ……どうせ拙者は『あの2体』みたいにはなれませんよ」
(……あっ、いじけた)
俺の視線に気付いたのか、不貞腐れるムーチョモン。
「拙者はあの2体みたいに、かっこいい進化にはなれませんし、あの2体みたいに強くないですぞーだ」
いじけた視線と文句を言って、俺に対して抗議をしてくるムーチョモン
(……めんどくせえ)
そんなことを思いつつも、修行に目を向かさなきゃいけないのが、パートナーの辛いところだ。
「そんなこと言う暇があるんだったら、修行でもーーーー
「
突如、背後から思いもよらないキラーパスが飛んできた
「……テト、おまえ……っ!?」
やけに澄んだ瞳で、こちらを見てくるテト。
「オイラもいいと思うっすよ。タイトっちも、多少なりとも休みをあげればいいじゃないっすか」
テトの後ろで同意してくるシン。
(……いったい何を考えてるんだ?)
2体の思惑がわからず、少し混乱してると。
「僕もシンもやることがあるし、ねっ!!!」
「『
「……えっ!?」
「……は?」
明後日の方向に向かって飛んでいくテトの『ダークロアー』。
ーーーー
……飛んで行った方向は、
「……あっ……ああっ……!?」
「ああ、あああああっ!?」
「……ふんっ!」
俺に目を向けて、自慢げに胸を張ったテト。
「ーーーー何やってんだ、おまえぇっ!!!」
テトに向かって怒鳴り、胸ぐらを掴み上げるシン。
(あっ、シンが驚きのあまり、『〜〜っす』の口調を忘れてる)
頭が混乱しすぎて、逆に冷静になってしまった俺。
「はわっ、はわわわわっ!?」
焦りのあまり、右往左往するムーチョモン。
…………そして、
「ーーーーてめえらっ、いったいなにしやがるっ!!!」
突如、城の方から聞き覚えのある怒鳴り声が、この訓練場に響き渡った……上空を見上げれば、頭に青筋を立てたビクトリーグレイモンとツルギさんがそこにいた。
(ヤバイ、ビクトリーグレイモンが来たっ!?)
ヤバイヤバイと頭の中が混乱してくる。
(次はユウさんがズィードガルルモンを連れてやってきて、三魔将ザンバモンにホーリーエンジェモン……しまいには、ノルンがやってくるぞ!?)
テトがなにを考えてるのかわからなくて、頭が
「……なにって、『宣戦布告』だよ」
ヘラヘラと笑いながら、ビクトリーグレイモンに向かってそう言ったテト。
「宣戦布告だと?」
ツルギさんの驚く声が聞こえてくる。
「……そう、宣戦布告だ」
「僕は常々思っていた……『あのときお前らに負けたのは、納得いかない』って」
今度はテトが頭に青筋を立てながら、笑っている……って、
(テトの奴、まだ根に持ってやがった!?)
かつて、この世界にやってきた時に、ミレニアモンとして戦った。
ミレニアモンとビクトリーグレイモン達の戦いは、少しずつビクトリーグレイモン側の優勢へと傾く中、テトは逆転の秘策……ズィードミレニアモンに進化することで立ち向かう決意し、実行した。
しかし、ビクトリーグレイモン達がテトがズィードミレニアモンに進化する途中にした不意打ちによって、意識を失いテトは負けたのだった。
その戦い以降、『僕はあいつらに負けてない』って、毎日言うぐらい不満を募らせていたのだが……
クロスウォーズの世界から帰ってきてから、黙々と修行を続けていた。文句も言わず、俺に力を見せて褒めて貰いに来ず……ずっと、ずっと修行を続けていた。
(ずっと不満げだったのに、最近なんにも言ってこないなって思ってたら、そんなこと考えてやがったのか!?)
気にしなくなったと思っていた。
しかしテトは、『やり返す手段がようやく手に入った』と、様子を伺っていただけだったらしい。
「本当の力を禁じられて、ずっとずっと『ふざけるな』って思ってた。でも、究極体には進化できなかったから、抗う力さえ残ってなかった」
ノルンによって封じられた『ズィードミレニアモンへの進化』。それは『怒り』へと変わり、テトの中でずっと燻っていた。
「
だから、力を蓄え、辛酸を舐めるような日常にも文句を言いながらも、許容していた。
「究極体になったら、必ず『リベンジ』するって考えてたんだ」
納得がいかず、理解ができず……それでも、臥薪嘗胆の思いで、日々『憎い相手』から命じられた修行を受け入れていたのだ。
「
ダークドラモンに『自力』で、進化できるようになったテト。ついにその時がやってきていた。
「だから、お前に『宣戦布告』だ」
かつての勝利者に向かって、中指を立てながらテトは宣言する。
「
矢継ぎ早に、そう言った……って、もしかして俺の為、か?
(いやいや、そんなことを証明しなくたっていいだろ!?)
俺の為に戦うと言ったテト。
怒っていた理由も、納得できなかった理由も……俺の考えとは違っていた。
(そんなどうでもいいです理由で、世界に喧嘩を売らないでほしい!?)
俺は別に『最強』じゃなくてもーーーー
「……
(……って、えっ!?)
突然、テトと反対の方向から笑い声が聞こえてくる。
「ーーーー
ビクトリーグレイモンだ。
「……ビクトリーグレイモン?」
ツルギさんも戸惑ってる。ビクトリーグレイモンが笑っていることが理解できないようだった。
でも、いったいなんでビクトリーグレイモンは笑ってーーーー
「
そう言って、突撃してくるビクトリーグレイモン。その言葉に驚くものの、内心納得してしまった.
(……そう言えばツルギさんのビクトリーグレイモンは、元は『脳筋』よりの思考のデジモンだったな)
ビクトリーグレイモンは、ヤンキー思考型のアグモンが、究極体に進化した姿だ。
戦う理由はわかりやすく、シンプルであればあるほど、気持ちのいい戦いを求め続ける『バトルジャンキー』的側面を持っている彼は、『テトの戦う理由』に『納得』ができたのだろう。
「それはこっちのセリフだっ!!!」
テトもビクトリーグレイモンに向かって、腕の大砲を使って狙いを……
「ーーーーあっ!?」
ーーーーズドォオオンッ!!!
「……くそっ」
「いったい誰だよ、俺達の喧嘩を邪魔したの……は?」
「ーーーーひぇっ!?」
今度は別の方からやってきた『とある人物』に寒気を覚える。
「
『美樹原ノルン』である。
「……ノルン?」
「イグドラシルぅ!!!」
戦々恐々とするビクトリーグレイモンと、喧嘩の邪魔をされて怒りに震えるテト。
「……そうですか」
その様子を見て、『美樹原ノルンは青筋を立てた』。
パリン、パリパリ……バギィン!!!
上空に数え切れないほど作り出される、巨大な水晶の槍。
(あっ、これヤバくね?)
ダークドラモンに進化した『程度』のテトでは、あの水晶を壊すのは不可能だと、長年の戦闘経験から発生した『勘』によって理解できてしまった……そして、
ーーーーズドォオオンッ!!!
「ーーーーうぐえっ!?」
「ーーーーどごあっ!?」
テトとビクトリーグレイモンに上に、水晶の槍が叩き込まれた……って、
「……あ」
「ーーーーなんで俺までぇええっ!?」
ビクトリーグレイモンの肩に乗っていたツルギさんが、ノルンの攻撃によって巻き込まれた。
「喧嘩なら、よそでやりなさい」
母親の言うように諭してくるノルン。
「……と言いたいところですが、そんな問題ではなくなってしまいました。ダークドラモンによって、私の城の城門が既に壊されてしまいました」
最近わかったことだが、この神結構ずうずうしい。『儚げ』だとか、『清楚』だとか……漫画を読んでいて思っていたんだけど、全然違った。
(……なにを狙ってやがる)
3年前は、俺のクロスローダー(変化前のデジヴァイスic)を調べる為の研究施設を作った。
2年前は、グラスガンマモンの言う、二千年後の脅威の為の準備として、いろいろと設備に軍備、武器開発、研究に金を投資した。
1年前は、度重なるデジモン達の修練や試合や反逆者との戦闘行為によってできた破壊痕や老朽化の修繕に金を掛けた。
上記の事は、『ある程度』金をかけるなら問題はなかった。ただ、『ある程度』では済まない量の資金を、彼女は投資していた。
上記、三つにはそれぞれ日本円で『五兆円』ずつ投資され、現在も更なる量の資金と時間、人材が投じられている。
1週間前、金遣いの荒さから、とうとうホーリーエンジェモンに『
「ハア、改修工事を行う『お金』をどこから出しましょうか」
わざとらしく溜息をつきながら、そんなことを言うノルン。しかし、ここにいる俺達……いや、この国の城内に住む者なら誰しもが、ノルンの考えを理解していた。
(ていのいい金ズルが手に入ったと思ってる癖によぉ!!!)
「ーーーー
笑顔でそう言ったノルン。
「1週間後、場所はこの間、城に新設した『コロシアム』。そこで、『テト&シンVSビクトリーグレイモン&ズィードガルルモン』の試合を行います。一般公開をして、お客様から入場料をいただき、それを改修工事に充てる『費用』にしましょう!!!」
ようやっと『お金を投資できる』と笑う彼女。
「……と、言うことでどうでしょうか……タ・イ・ト?」
「ーーーーはっ、ハイっ!!!」
笑顔で圧をかけられて、水晶の槍を突きつけられた俺には選択権など存在しなかった。
「うふふ、次はどこを改修しましょうか? それとも、新しい施設をつくって……うふ、うふふふふ」
そう本当に喜ばしいことのように、浮かれて城の方へと飛んでいくノルン。
(……あの、ノルン様、心の声を言葉に出すのはどうなのでしょうか?)
そんなことを思いながら、後ろを振り返る……すると、
「ーーーーふざけ、んな」
怒りのあまり、怒髪天に達しているテト。
「……はへぇ、アグモン……まだ、飯の時間じゃないぞぉ?」
「ツルギぃ、めがまわるよぉ?」
目を回しているツルギさんとビクトリーグレイモン。
「……うっわ、これを片付けるのはオイラ達っすか!?」
水晶によって破壊された訓練場に戸惑うシン。
「あはは、拙者は……」
呆然としているムーチョモン。
「いったい、どう収集をつければいいんだ?」
そんなことを言いながら、この場所の周辺の片付けや修理などをはじめた俺達。
……そして、1週間の月日が経った。
[1週間後、コロシアムにて]
うぉおおおおっ!!!
あそこにいるのって!?
テトとシンだ!?
英雄ビクトリーグレイモンだ!!!
ズィードガルルモンもいる!!!
すげぇぇええっ!!!
どっちが勝つんだろう?
ビクトリーグレイモンだっ!!!
いいや、テトだ!!!
うぉおおおおおおっ!!!
そんな歓声が響く中、
────ジリリリリリィン!!!
そんな大きな音が鳴った。
『さあ、始まりました『テト&シンVSビクトリーグレイモン&ズィードガルルモン』』
マイクから発せられる大きな声と共に、
『実況はこの私、ホーリーエンジェモンと』
『解説のザンバモンだ』
大きな羽を持つ天使と巨大な刀を持つ侍が、実況席に座っている。
「……なんで、こんなことになったんでしょうか?」
「そんなん俺も知らねえよ」
対岸にいる2人の話が、実況の声よりも大きく聞こえた……気がする。気がするだけなのだが、それでもあの2人に言わなきゃいけないことがあった。
「ツルギさん、ユウさん……俺達は勝ちます」
あの2人に向かって大きな声で言う。
『おおっと、ここでテトとシンのパートナーであるタイトが、相手のパートナー2人に向かって勝利宣言ッ!!!』
実況のチャチャが入るが、それでも2人は俺を見てくれている。
「……まあ、そうだな」
ツルギさんが頭を掻いた。
「そうですね」
呆れるようにユウさんはこっちに向かって笑って見せる。
「今度も俺達が勝つ……なあ、ビクトリーグレイモン」
「もう一回、のしてやるから、かかって来い!!!」
「勝とう、ズィードガルルモン」
「ユウの望みなら……俺も全力で行く!!!」
相手方の気合いを入れる形になってしまったらしい……俺は、隣にいる2体に声をかけた。
「ああ言ってるけど、どう思う?」
「あれは不意打ちだったから負けただけ、本当の最強はタイトのパートナーである『僕達』だ」
「……へっ、隣に先輩がいるんすから負ける通りはないっすよ!!!」
2体の自信に満ちたその言葉は、俺に勇気をくれた。
「…………そっか」
『それでは、主催者であり、スポンサーでもある我が世界の主、『美樹原ノルン』様にゲストに来ていただきました』
そんなことをやっているうちに、ノルンが実況席にやってきたようだ。
『なにか一言お願いします』
『双方、とても修羅場と修練を重ねてきました。彼等の経験は、双方比べることもできないぐらい辛く苦しいものが多かったでしょう。ただその結果が今、目の前で行われるのは私にとって、とても幸運でなことだと思います』
『双方応援しています。頑張ってください』
ノルンの透き通るような声により、コロシアム内に響き渡ったその言葉は、今までの俺達の苦労が────
「うるさいっ!!!」
そんなことを考えていると、隣にいるテトがノルンへ向かって叫んだ。
「この勝負に勝ったら、次はお前だっ……絶対にその顔をぶん殴ってやるっ!!!」
指を差し、かつて牢屋に閉じ込めた元凶のノルンへと、宣戦布告を行う。
(……テト、おまえ)
その一言で会場が静まり返る。
この世界の実力者として名高いテトが、この世界の主人であるノルンへと反逆したと捉えられない発言。俺達にとっては日常だけど、一般デジモン達には衝撃的だったのだろう。
『……と、言われてしまいましたが、言われた本人であるノルン様はどうなのでしょうか?』
ホーリーエンジェモンが、コロシアム内の盛り下がった空気を変える為に、ノルンへとテトの宣戦布告について聞いた。
『勝てたら、考えてあげます……勝てたらね』
自身ありげに、宣戦布告を受け入れるノルン。
(……本当にいいのかよ?)
あんたこの世界のトップだからな。
『おおっと、ここで煽りを入れた────ッ!!!』
うぉおおおおっ!!!
さすが我等のイグドラシルッ!!!
器が違えぜっ!!!
それも、コロシアムでやるのかな?
やるんだったら楽しみだよなぁ。
しかし、その発言によってコロシアム内の活気が戻ってくる。
『ツルギ、ユウ……わかっていますね』
「────ハイッ!!!」
「────わかりましたっ!!!」
圧を込められたノルンの言葉は、ツルギさんとユウさんに『勝て』と言わんばかりの並々ならない思いが込められている。
「……と言うわけだ。一応、俺達はこの世界の守護者みたいな立ち位置だからな」
「勝たせてもらうよ、タイトくん」
────ゾクリ、と冷や汗が滲み出る。一瞬で、気配が変わったのが理解できた。
(……あのときと同等……いや、それ以上の気配だ)
かつて、次元の狭間でテトと一緒に戦った時と同じぐらいの気配を、実感してしまう。あのときの敗北を思い出して、寒気を感じる……だけど、
「やるよ、テト」
「────わかった」
こっちも成長してきたんだ。負けるつもりは一切ない。
[クロアグモン ワープ進化]
「ダークドラモンッ!!!」
俺の言葉の意味を理解し、究極体まで進化するテト。
「……シン」
「今度は一緒っすよ」
前はデジヴァイスicの中にいたシン。
[レオモン ワープ進化]
「バンチョーレオモンッ!!!」
今は隣にいてくれる。
この2体が隣にいるだけで、俺はここに立っていてもいいのだと勇気づけられてしまう。
「タイト、準備はできてるっぴか?」
(……よしっ)
「審判、準備はできている」
「わかったっぴ!」
準備が完了したことをピッコロモンへと伝える。
「ツルギ、ユウ……そちらはどうだっぴ?」
ピッコロモンは2人へと、それを聞いた2人は顔を見合わせて頷いた。
「俺達はできてる」
「…………わかったっぴ」
その言葉にピッコロモンは深く頷いて、俺達と遠く離れている審判の台まで飛んで行った。
「東、テトことダークドラモン」
「……ああ」
ドオンッ、と背中のジェットをふかせるテト。
「シンことバンチョーレオモン」
「うっす」
頭の帽子のつばを掴んで、顔を隠すシン。
「西、ビクトリーグレイモン」
「おう!」
ズバンっと、ビクトリーグレイモンは空を切り裂いた。
「ズィードガルルモン」
「グルァ!!!」
だんっ、とズィードガルルモンは右前足で地面を叩いた。
「……双方、戦闘準備」
ピッコロモンのその言葉に、
キュオン、ギュルルルルッ!!!
テトは駆動音をけたたましく鳴らし、
────カチャリ
シンは脇に差した短剣『男魂』を掴み、
────スゥッ
ビクトリーグレイモンは破砕剣『ドラモンブレイカー』構え、
ブルォオオオオオッ!!!
ズィードガルルモンは前後両足のスラスターをふかせる。
「…………」
東西の様子を見たピッコロモン。
「それではっ」
ピッコロモンの愛用の槍『フェアリーテイル』が振り上げられ、
「
────ドオンッ!!!
シンとビクトリーグレイモンが走り出す。
「────『ドラモンブレイカー』ッ!!!」
「男魂────模倣『十文字斬り』」
二つの剣がぶつかり合う。
『おおーっと、シンが見せたあの攻撃は!?』
『俺の必殺技、『十文字斬り』だな……最近、奴は俺が運営している剣術道場の免許皆伝になった。いい踏み込みだ』
実況が進む中、
「おいおい、いいのかよ……俺はあいつを一度倒してるんだぜ?」
「倒す、倒されたかなんてどうでもいいっす。妖力の代わりに気で模倣した『十文字斬り』……これの試し切りにあんたは、十分な相手ってだけっすよ!!!」
両者の鍔迫り合いは続いている……そんなとき、
「『フルメタルブレイズ』!!!」
銃弾の雨がシンに向かって放たれる。
────ズドォオオン!!!
大きな煙が舞い、シンとビクトリーグレイモンの姿が見えなくなったのだが……
「
煙を払ったのはテトだった……そして、脇に持たれているのは……シンだった。
『フルメタルブレイズ』が命中する直前、ズィードガルルモンを警戒していたテトが高速でスラスターを吹かせ、シンを救出したのだった。
「先輩、助かったっす」
「まだ、序盤だ。もう少し様子をみよう」
感謝を言うシンと冷静な返しをするテト。
(少し前では考えられない……感じだったけど)
その良好な関係に、安心感を覚えた。
……一方、
「────ちっ、聞いてねえじゃねえか!!!」
「そちらこそ、相手に近づきすぎだ。ビクトリーグレイモン……おまえのせいで牽制程度の技しか使えなかったんだ!!!」
「何をっ!?」
「なんだとっ!?」
「待て、まだ試合は終わってないぞ!!!」
「ズィードガルルモン、相手をよく見て!!!」
喧嘩する2体を止めるパートナー達。
「タイトっち、このまま隙をつけば……」
シンとテトが俺の隣まで戻ってくる。
「まだだ、体制を立て直せ」
なんだかんだ言って、あんな様子を続けたまま世界を救ったのが、ツルギさん達だ。警戒しないわけにはいかない。
「テト、行け」
「────今度はこっちからだ!!!」
俺の命令と共に、勢いよく接近するテト。その右手には仕込み槍『ギガスティックランス』が剥き出しになっている。ズィードガルルモンに接近、ズィードガルルモンの大砲『ズィード砲』に向けて、振り下ろされるギガスティックランス。
「舐めるなっ!」
────ガギィン!!!
「────くっ!?」
ズィードガルルモンがズィード砲を大きく振り、ギガスティックランスを弾き飛ばす。
「まだだっ!」
ギガスティックランスをしまい、テトは右手に力を込める。
「『ダークロアー』ッ!!!」
右手の大砲から生産される『ダークマター』……それをさらに拘縮させ、弾丸として放つテトの必殺技、『ダークロアー』。
至近距離で放たれたその一撃は、ズィードガルルモンに命中する『はずだった』。
「俺もここにいることを忘れられたら困るぜ」
ズィードガルルモンの目の前に立つビクトリーグレイモン。
「『ビクトリーチャージ』!!!」
────ズガァンッ!!!
ビクトリーグレイモンの防御形態……そこから、発せられる光のエネルギーと特殊剣技『ビクトリーチャージ』によって、『ダークロアー』は完全に防がれてしまう。
「今度はこっちっす、『フラッシュバンチョーパンチ』!!!」
「それはこちらのセリフだ! 『ブローバックブレス』!!!」
獅子の渾身の気合いが入った光る拳『フラッシュバンチョーパンチ』と、機械の獣の口から放たれる強力な光線『ブローバックブレス』。
────ドガァン!!!
二つがぶつかり合い、火花をちらす。
「……互角か」
「────ちっ!!!」
「おいおい、弱えんじゃねえの?」
「そっちこそ本気で戦ってるのか?」
両者再び後退し、
「「なら、本気で戦っやる(っす」」
「「パートナーとの絆で決着をつけてやる」」
両者のパートナー達のところまで、互いを警戒し合いながら、下がっていく。
「「タイト(タイトっち)!!!」」
「「ツルギ(ユウ)!!!」」
両者共に、パートナーの力を借りて勝負を決することに決めた。
「……なあ、タイト」
「なんですか、ツルギさん?」
ツルギさんに声をかけられる。
「俺は正直言って、今のお前と本気で戦いたくない」
「……なぜですか?」
「お前はまだ病み上がりだからだ」
「…………」
「戦って、死にかけて……ようやく治ったのに、またこうやって戦っている」
「未だ、リハビリもままならない体で戦って、一生に残る傷ができたら────
「
ツルギさんがかけてくれた心配を、俺は鼻で笑った。
「
テトが望み、産まれて初めてやり直す『機会』をくれた。こんな幸運な機会、逃すわけないだろ?
「俺は怪我なんて負わないし、テトとシンはあんたらを下して、勝利する……今の俺はそれしか考えていない」
今までの俺のように傲慢に、
「だって、『先達』を倒すのも『後進』役目だから」
尊敬するあなた達を越えるために、
「かかってこいよ、『老害』……今ここで決着をつけてやる」
俺は堂々とそう言った。
「「はは……ハハハハハハハッ!!!」」
隣にいる2体が笑った。
「よく言った、タイト!!!」
「それでこそ、オイラたちのパートナーっす!!!」
ああ、そうだ……俺達は負けたくないんだ。だから、戦い、成長し続けるんだ。
「行くぞ、テトっ!!!」
大きくクロスローダーを掲げて、テトを指名する。
[ダークドラモン]
「わかってる!!!」
テトの了承の声と共に、クロスローダーが光り始める。
「────シンっ!!!」
今度はシンを指定する。
[バンチョーレオモン]
「準備はできてるっす!!!」
夜空色の光が青空を塗り潰し、宇宙のような空間に生まれ変わる。俺はさらにコマンドを入力して、大きく叫ぶ。
「『デジクロス』!!!」
俺達が失った代わりに、手に入れた新たな『境地』。それが今ここに招来する。
「「デジクロスッ!!!」」
2体が混じり、姿を変える……そして、これはただの『デジクロス』ではない。
[
世界を塗り潰した光を全て『テトとシン』に集約し、大いなる力がそこに降り立った。
「我が名は『カオスモン』」
かつて、遠い異世界にて黒き騎士を打ち破り、一つの国の闇を払った白き騎士がここに顕現した。
「我が主の命により、絶対の勝利をここに誓う」
「……だって、ツルギ兄さん」
目の前に降り立った白き騎士『カオスモン』……そして、その隣にいるタイト。
「先輩として、意地を見せてやらねえとなぁ」
啖呵を切られたのは久しぶりだった。
世界を救ってからと言うもの
多くの命を救い、世界を救い、未来を書き換えた。その先にあったのは、少し物足りない
……
タイトがやってきて、世界が変わった。
俺の『
目の前に立つカオスモンとタイト。
明らかな脅威が目の前にいる。
「ビクトリーグレイモン」
「おう」
「勝つぞ」
久しぶりに勝ちたい……負けてたまるかって思った。
「へっ、言われっぱなしじゃねえってところを見せてやるぜ」
ビクトリーグレイモンが同意してくれる。
「ズィードガルルモンもいいよね?」
「ユウのことを『老害』呼ばわりしたあのガキを、躾けなければいけないからな」
ユウもズィードガルルモンも準備はできたようだ。
「行くぞ、ビクトリーグレイモン!!!」
「やるよ、ズィードガルルモン!!!」
「「デジソウル・チャージ」」
2人のデジソウルが光を放ち、2体のパートナーへと力を与えた。
「足を引っ張るなよ」
「お前のほうこそ、引っ張るなよ?」
「────あ゛?」
「────はっ」
「カオスモン!!!」
「ビクトリーグレイモン」
「ズィードガルルモン」
パートナー達の掛け声と共に、3体のデジモンが、敵に向かって動き出す。
「俺から行くぜっ!!!」
ビクトリーグレイモンが『ドラモンブレイカー』でカオスモンを袈裟斬りにしようと振りかぶる。
────ガギィン!!!
「────なっ!?」
「……だあっ!!!」
カオスモンの右腕『BAN-TYOブレイド』が、それを阻止ビクトリーグレイモンを『ドラモンブレイカー』ごと押し飛ばした。
────ガチャン
カオスモンの左腕そう音が鳴った。
「『ダークプロミネンス』」
────ズガァン!!!
ビクトリーグレイモンへと狙いを定めた放たれた『デジタルワールドにすら否定された一撃』。
「こっちだ、『フルメタルブレイズ』!!!」
しかし、その射線上には、ズィードガルルモンが立っていた。
バギバキバキバギィンッ!!!
全てを燃やし尽くす弾丸の雨、それが『ダークプロミネンス』によって生まれた弾丸を全て滅却する。
滅却した炎によって生まれる煙。その中から突進してくる影がある。
「ウォオオオッ、『トライデントガイア』!!!」
剣の先から集中した熱エネルギーが、光線としてカオスモンに狙いを定める。
「BAN-TYOブレイド起動、『
カオスモンは『トライデントガイア』を『獅子羅王漸』で上空へと弾き飛ばす。
「背後をとった!!!」
その隙に、背後へと突然現れるズィードガルルモン。
「とられたのはお前のほうだ!!!」
瞬時に、左腕『ダグドラアーム』を後ろに向かって、狙いを定める。
「『ズィード────
「『ダークロアー』!!!
────ズガァン!!!
超至近距離から放たれた2つの……いや、ズィードガルルモンに命中した『ダークロアー』。
────ヒュルルル、ズドォオオン!!!
「ズィードガルルモン!?」
「……うっ、ぐぅぐ」
地面へと倒れ伏したズィードガルルモン。
「終わりだ、『フラッシュバンチョーパンチ』!!!」
『バンチョーアーム』に込められた気合いが、倒れたズィードガルルモンを襲う。
「まだだっ、『ビクトリーシールド』ッ!!!」
戦線復帰したビクトリーグレイモンが、自身の盾で『フラッシュバンチョーパンチ』を防ぎ切った。
「寝てんじゃねえ、立てっ!!!」
「……ぐっ、わかってる!!!」
シールドを構えながら、後ろのズィードガルルモンに気をかけるビクトリーグレイモン。
「いや、ここで終わらせる!!!」
だが、ビクトリーグレイモンの横に移動したカオスモン。
「『覇王両断剣』」
「『ドラモンブレイカー』!!!」
大きく振りかぶったその一撃は、ビクトリーグレイモンの大剣によって弾かれる。
「『ブローバックブレス』!!!」
「────くっ!?」
ズィードガルルモンの口から放たれる巨大な光線。それに飲み込まれるカオスモン。
大きな煙が立ち上り、カオスモンの姿が見えなくなった。
「……やったか?」
ビクトリーグレイモンのその一言を発した。
……次の瞬間、
「
煙を突き抜けてくるカオスモン。
「『ドラモンブレイカー』!!!」
振り下ろされる大剣。
────ガギィン!!!
「……なっ!?」
しかし、それを防いだのは、
「『
ダグドラアームから突き出された『ギガスティックランス』……そして、
「────『覇王両断剣』ッ!!!」
「ガハッ!?」
切り裂かれるビクトリーグレイモン。
「……はっ!? ────くそがっ!?」
────ズドォオオン!!!
「ビクトリーグレイモン!?」
「ズィードガルルモン!?」
ビクトリーグレイモンがズィードガルルモンの上に落ちていく。
「今度こそ終わりだ」
倒れた2体に向けて二つの腕を向けるカオスモン。
「まだだ、……俺達は負けてねぇ」
「そうだ、ユウの為に俺は勝つ」
倒れた体を無理に起こしながら、カオスモンへと狙いを定めるビクトリーグレイモンとズィードガルルモン。
「そうだ、今度こそ勝て!!!」
「まだだ、俺達は負けない!!!」
「倒せっ、ズィードガルルモン!!!」
お互いのパートナー達の声が、試合会場の中に響き渡る。
「『バンチョーアーム』・『ダグドラアーム』起動」
終わりをもたらすカオスモン。
「力を溜めろ」
「狙いを定めろ」
お互いの力を合わせ、立ち上がる2体。
「終わりだっ、『フラッシュバンチョーパンチ』、『ダークプロミネンス』ッ!!!」
「倒れろっ、『トライデントガイア』ァ!!!」
「『ズィード砲』ッ!!!」
3体の攻撃がぶつかり合う。
「行け、負けるなっ!!!」
「勝て、倒せっ!!!」
2体のパートナーの声が響く。
「
それ以上に、タイトの声が響き渡った。
「うぉおおおおっ!!!」
両方の腕から連続して放たれる必殺技の連撃。
「くそっ、まだだ!!!」
ぶつかり合い、押さえ込まれ、それでも前に進んでいく。
「行けっ、行けぇっ!!!」
……そして、
────ズドォオオン!!!
煙が晴れ、倒れている2体のデジモン。
「…………勝った?」
起き上がる様子のない、ビクトリーグレイモンとズィードガルルモン。
『ビクトリーグレイモン、ズィードガルルモン戦闘不能』
『勝者、テト&シン!!!』
実況席から流れるその声によって、現実へと2体は戻ってくる。
「やったんすか?」
「……勝ったのか?」
2体とも成長期に戻り、その場に立ち尽くした。
「やったな、お前ら」
俺は近づいて、声をかけた。
「ビクトリーグレイモン!?」
「ズィードガルルモン!?」
倒れた2体へと目を向ける先輩がた……そう、俺達は勝ったのだ。
「……そうか」
「そうっすか」
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「よっしゃああああああああっ!!!」
喜びを噛み締める2体の声。
その声が、コロシアム内に響き渡った。
[コロシアムの戦いから、三日後]
ーーーーガギィン!!!
ーーーーガギィ、ガギィン!!!
ガギ、ガギ、ガキ、ガギィン!!!
白く染まった玉座の前にて、
「くそっ、こなくそっ!!!」
ガギィン!!!
1体のデジモンが『神』に挑んでいた。
「くらえっ、『ダークロアー』!!!」
ーーーードゴォオオン!!!
ダークドラモンに進化したテトの必殺技は、
「けほっ、けほ……煙を上げるのはやめてもらえませんか?」
ノルンの水晶の盾を一切傷つけることはできない。
(まだ、やってるのか)
……あれから3日。
ビクトリーグレイモン達を倒したことにより、増長したテトはすぐにノルンに喧嘩を売りにいった。
だが、3日たった今でも、傷つけることすらできなかった。
「……ううう、シン!!!」
涙目でシンに訴える。
どうやら、カオスモンなら突破できると考えたようだ。
「いや先輩……オイラは別にノルンに恨みなんてないっすから、手伝わないっすよ」
シンに裏切られたテト。
「……タイトぉ?」
今度はこっちか。
「……なに?」
「無敵のズィードミレニアモンで、あいつを一発殴らせてよっ!!!」
泣きながらそう言われるのだが……
「無理だな」
「ーーーーええっ!?」
現状では一番難しいお願いが来てしまった。
「言っただろ? 俺の『デジヴァイスic』は『クロスローダー』に変わったって」
ダークナイトモン戦で、俺のデジヴァイスはクロスローダーへと姿を変えた。そのおかげで『デジクロス』はできるようになったんだけど……
「『
デジソウルを介した進化ができなくなったのである。
「お前に暗黒進化の為の『闇のデジソウル』を送ることもできないんだ。無理言わないでくれ」
「……ええ〜、でもぉ」
それでもなにかできないかと、追い縋ってくるテト。
「でもも、情けもない。無理なものはムリ!!!」
一刀両断してやる。
「…………」
あっ、落ち込んじゃった。
「……また、修行して『ズィードミレニアモン』になってからリベンジすりゃいいじゃないっすか」
シンがフォローに入った。
「……うん、そうだね」
「じゃあ、タイト……僕もう少し頑張ってくる」
……もう機嫌が戻りやがった。めっちゃちょろいな。
「……あと、そこのおまえっ!!!」
ノルンに向けて指を指すテト。
「ズィードミレニアモンになった絶対にぶん殴ってやるから、覚悟しろっ!!!」
そうノルンに向かって宣言した。
「はい、楽しみにしてますね」
そう笑顔で返すノルン。
「……まあ、無理でしょうが」
笑顔で煽りやがった!?
「……くそがっ、覚えてろよっ!!!」
そう言って、修練場まで走っていくテト……。
「大変ですね」
ノルンにそう言われてしまう。
……そこから、テトの過密な修行の日々が始まった。それに付き合わされ、嘆いたのは、シンとムーチョモンであった。