「……あっつ」
夏服のポケットからハンカチを出して汗を拭う。
人通りの少ない駅の改札の中、冷房が効いてない『ーーー』駅のホームで、二人の少年と待ち合わせを俺はしていた。
「…………遅いな」
眉間に皺がよる。
待ち合わせの時間から、10分も時間が過ぎている。
(普段のあいつらならこんなことはないのに)
あの二人は仲良く友人をやってはいるものの、基本的に『末堂マナト』に媚を売りたい側の人間である。
(20分前には『もうすぐ着きます』……と、デジラインで連絡がきていた)
二人の両親は中小企業の……しかも、カミシロに少しだけ関わっている企業の社長である。
(それが、二十分も何の連絡もない?)
両親の仕事の関係上、俺に媚を売る=仕事につながりやすい立場で、俺に不都合なことをするのだろうか?
(おかしい)
答えは否だ。
(何かに巻き込まれ……ん? 向こうに人だかりができてる?)
そんなことを考えて歩き出す。
「ーーーーッ!!!」
「ーーーーッ!?」
大きな『聞き覚えのある二人』の声と、……女の声? 男もいるのか? 少女の声も聞こえる。
遠巻きに眺める人の群れの中心、その中心にいるのは……、
「ーーーーだからっ!!!」
「待ってくださいって、言ってるでしょうっ!!!」
駅員に捕まっている
「さっさと捕まえてよっ! 警備員さんっ!!!」
「そいつら、痴漢でしょっ!!!」
「早く、早くしなさいよっ!!!」
それを遠巻きに眺めながら、『
「君達もっ、ちょっと、事務所で話を聞くだけだからっ!!!」
「そう言って、俺達を警察に売り渡すつもりなんだろっ!? こっちは知ってんだぞっ!!!」
「僕達は痴漢なんてやってませんっ!!!」
「そうかもしれんが……、それでも話はっ!」
「そいつら、私の……っ、触ったのよっ!!! 駅員さん、早く捕まえてよっ!!!」
視界が灰色に染まっていく。
(……わかってた)
嵌められたということはすぐにわかった。
あの『事件』があった後に、あの二人はそんなことは絶対にしないと俺は信じている。
そして、女が嘲笑っているのが見てとれる。
「……痴漢だって」
「しかも、あの制服って」
「一年前に、『レイプ未遂』があった」
「ええっ、じゃあ……あの子達って、『あの』っ!?」
あいつらはやってない。でも、
「待ってください! 友人が待ってるんですっ!!!」
「あいつさえっ、あいつさえ来てくれれば、俺達がやってないって証明してくれるんだっ!!!」
「すまないが、そんな時間はないっ!!!」
俺を信じて待ってくれている友人達が、駅員に組み伏せられた。
「駅員さん、早く連れてってよっ!!!」
「示談にしたかったら金を払いなさい!!!」
「私達の心は傷ついたのよっ!!!」
ドス黒い欲望が滲み出す
灰色だった景色が黒く、黒く、黒く、灰色の世界に墨汁の一滴がこぼれ落ちるように、俺の心が染め上げられていく。
ーーーー待ってください!!!
あげられていくはずだった。
「
『朱い髪の少女』が駅員の目の前に立つ。
「君はっ、証拠が出せないなら、黙っていてくれっ!!!」
「……ううっ、私はあいつに触られたのに」
「そーよっ、この子はこいつらに傷つけられたのよっ!!!」
「勝手なことを言ってんじゃないわよっ!!!」
……しかし、
「
「
この世界で
「ーーーー待ってください」
俺の足が一歩進んだ。
「「マナトッ!!!」」
二人の泣き顔が笑顔に変わった。
「ごめん、待たせた」
ただ、ボーッとして見てた時間があっただけに申し訳ない……、そう思った。
「「「ーーーーッ!?」」」
何がおかしい?
こいつらの友人の顔に何がついているというのか……なあ、教えてくれよ?
「…………」
「……えっ、あっ、……その」
「ありがとう」
しどろもどろになる少女を見て、笑う。
世界に色彩が戻る。
世界が煌めいていく。
世界が変わったのを肌で感じ取った。
「そいつらはやってません」
その日俺は『運命』に出会った。
第一話 2016年 夏
2016/7/10
「ハイ、チーズッ!」
────パシャッ!
デジヴァイスからカメラの音が鳴る。
「こんな感じでいいかな?」
「いいんじゃないか?」
目の前にいる『彼女』……黒川あかねが、笑ってこちらを見ている。デジヴァイスのアルバム機能に、先程撮られた写真が映し出される……が、SNSというもの自体苦手分野である為、写真映えというものがよくわからず、そっけない態度になってしまった。
「……むー、そんなつまらなさそうに見ないでよ」
「別に『アリバイ』作りの為に写真撮ってるだけだしな」
『つまらない』……、確かにそうだ。
『俺』はこんなことをする為に目の前にいるこの少女と恋人になったわけではない。あくまでも『利用』できると思ったからこそ、こんな『
『違うでしょ、アーちゃん!』
そう、……一瞬だけ身近にいる緑色の虫が頭をよぎってしまうが、これは目的のための手段でしかないのだ。
「…………」
決して、彼女に見惚れているわけではない。
「……で、どうして『今日』だったの?」
思案するような表情から一転、俺を問い詰めるように聞いてくる彼女。
「…………」
俺はその答えを考える。
彼女には『まだ』なにも伝えていない。その上で、俺は彼女に話せるのだろうか?
『『ジュード』を解散する』
あの日、『
「デートはいつでもできたよね?」
「ああ、そうだな」
彼女の言葉を肯定する。
「昨日、突然決まってた仕事……、『東京ブレイド』の仕事を事務所が蹴ってきた。『大きな仕事が入った』って」
ああ、知ってる。
「アクアくん、それは『今』関係あるの?」
関係はある。
「…………」
ある。
俺達の事務所にも手紙が届いた。
「…………」
あるのだが、話していいのか?
こんなところで、……しかも、
『うふふ、オ・イ・タしちゃったおバカさん♡』
『リアルで剣を向けられたことのない生き物が、デジタルで剣に突き殺されるって、どんな感覚なのかしらね♡』
『『あの子』みたいに、ね? わかるでしょ、『星野アクア』ちゃん♡』
……『アレ』を相手に、軽々しく話せるのか?
(いいや、無理だ)
即座に首を振った。
『星野タイト』のことが岸辺リエに知られてる以上、俺は既に岸辺に監視されていると言っても過言じゃない。そんな状況で、世間で言うところの『恋人関係』になっているあかねに、ヘイトが集まるようなことはできない。
(あと少し、あと少し『人』が集まれば、……集まるだけで、話は変わるんだ)
岸辺が現状何をするかわからない以上、軽率な行動は取れない……取ったらいけない。
「……ある、が……まだ話せない」
「……なんで?」
『
「他に二人……、来た」
待ち人が来た。
「おーい、アクア────って、黒川あかねっ!?」
「────かなちゃんっ!?」
……、有馬とあかねが立ち止まった。
(……知り合いだったのか?)
2人が知り合いだとは思ってなかった……ん?
「ひさしぶりじゃない、黒川あかね。私生活切り売りしてたの見たわよ。そんなに売れたいんだぁ?」
「かなちゃんこそ……、役者を辞めたら次はアイドル? 仕事が減ってきたからって、アイドルに転向するなんて、マルチタレント気取りなのかな?」
……あれ?
「私は、『アクアに頼まれた』からアイドルやってんの。そうじゃなきゃアイドルなんてやってないっ──ーっうのっ!」
「そもそも、『私』と『アクアくん』デートに入ってこないでもらえますか? ……『元』コンビの負け組の癖に」
もしかして?
「私は『アクア』に呼ばれたの! あんたにそんなこと言われる筋合いはないわよっ!!!」
「「────アクア(くん)っ!!!」」
(────やっべっ!?)
「「なんでこいつ(この人)を呼んだのっ!!!」」
ミスった!?
「……それはだな」
険悪そうな2人。
理由を聞かなければ、テコでも動かないというように……、彼女達は俺の方を睨んでいる。
(……どうする? まだあと1人)
『あと1人』待ち人が来ていない。
(この状況で勝手に話していいのか?)
場所を移すべきか?
そうでないのか?
悩む、悩む、悩む……そして、
「……まあ、いいか」
その考えを放棄した。
「「…………っ」」
互いを睨み合い、そしてこちらを睨む2人の
(『あの人』には全部伝えてあるし)
あの人はそれを全部伝えてある。なら、今は……、
「これからあと1人来る予定だったんだけど、説明する……────
「
学ランの『少女』が目の前に現れ……っ!?
「────ッ!?」
(アクア?)/(アクアくんっ!?)
なんで、なんでここにいる!?
「ひさしぶりだな」
「やっぱり、アクアであってたんだ」
頭にはバグが発生してるが、表面上はなんとか取り繕えた。
(……すごい『美人』)/(……こいつって!?)
あかねの様子を見れば、『彼』のことは知らないらしいが……、おい、有馬……お前、その顔は知っているなっ!?
「マナト様」
少年の後ろから長い黒髪の女性が現れた。
(後ろにいる人もすごい美人だっ!?)
はわわっ!? ……とあかねが反応するが、百歩譲って、そんなことはどうでもいい。美人であることも、だ。どこから現れた!?
「シキも、……悪いけどさ」
「待ち合わせの時間が迫ってます」
タイトの言葉をすげなく打ち切る……、ここで俺達に会ったことは本当に偶然のようだ。
「先方には遅れるって伝えといてくれよ」
「それでは、彼の方との時間に遅れますよッ!?」
仕事の関係者との会合の話か?
しかし、『彼の方』? ……こいつが会うことを重要視する相手?
「……大丈夫。少し話すだけだから」
「……ですがっ!?」
「先方には俺が連絡しました……、それでいいですよね。我が────」
「ありがとう、ベツ」
────また、別の奴が現れたっ!?
今度はひょうきんなおっさん顔でやけに色白のスーツの男。頭にはカツラを被っているのか、不自然なほど七三分けが似合っておらず、広がった額が禿頭であることを察せられる。
(今度の人はあんまりかっこよくないね)
(……それも、そうだけどっ!?)
あかねの方は誰だかわかってないから、あっさりと地雷原に突っ込んでいるが、有馬の方は少なくとも『
「何をしてるんですか、お前はっ!?」
「……いや」
「『彼』を甘やかしすぎだと何度も何度も言ってるでしょうっ!!!」
「だけど、マナト様が望んでいることをやるのが俺達の役目」
「それでは『彼』の得にならないから言ってるんだっ! ────っ、ちょっとこっちに来いっ!!!」
あっ、男が女性に連れて行かれた。
(……『彼』?)/(やっぱりっ!?)
あかねは『彼』という言葉がわからず、有馬はやはりと完全にこの状況を理解したようだ。
「さて、あいつらも行ったことだし……」
……そして、俺は、
「話をしようか、『マリン』くん?」
「────っ、ああ」
あの2人の言い争いを目にしたおかげか、はたまたこの状況についていけないのかはわからないが……、頭だけは冷えている。
(大丈夫だ)
(……アクアくん?)
そう自分を奮い立たせる。
彼女達の前で、『マリン』とあえて呼ばれたのも理解している。だが、今は目の前の男に集中する。
「聞きたいことがあるんじゃないかな?」
「……ここで、話せることだけ……だろ?」
「その通り」
ルビーの聞いていたとおりの反応、……俺が今引き出せる情報を精査しろ。自慢げなこの
「この人、知り合いなの?」
「────っ、バカっ!?」
「いたっ、……かなちゃん、何するのっ!?」
「こいつ、『カミシロ』の幹部よっ!?」
「……あっ、一般人に知られてるのは珍しいな」
「2人とも、黙っててくれ……で、話ってなんだよ?」
「『
その言葉に『アレ』を思い出した。
((……プレゼント?))
『アレ』は優秀だ。
性格はともかく、仕事は完璧にこなしていく……、少しドジなところはあるが、問題はない。
「正直、助かった……、性格は別として、『アレ』のおかげで、あかねを見つけられたって過言じゃない」
「それならよかったよ。こっちも急ピッチに用意した甲斐があった」
12月に季節外れの大雨の日。『アレ』のおかげで、吹雪になる前にあかねを見つけ出すことができた。自分のハッキング能力は大っぴらに出せなかったので、本当に助かったんだ。
「「…………」」
2人は話についていけていない。
(……『私を見つけられた』、あの夜の日のこと?)
(……知り合い、知り合いなのこいつらっ!?)
それでも、少しでも情報を手に入れないといけない……っ、覚悟は決まった。踏み込むぞ!!!
「『本命』が自ら来てくれるって、いったいどういうことなんだ?」
「偶然だよ、ぐーぜん。渋谷に立ち寄ったのだって……、うん」
それはわかっている……が、
(あかねの方に意識が向いた!?)
「────っ、私っ!?」
あかねの方を見て、タイトが笑った。
「そっちの少女は俺のことを知らないみたいだし、自己紹介といこうか」
…………あっ!?
「俺の名前は『末堂マナト』。君達の『次』の仕事の依頼者さ」
「「ええ────っ!?」」
「「…………」」
頭が痛い。
「……やっば、話しすぎた。それじゃあな」
「……っ、相変わらず、嵐みたいな奴だよ」
あんな会話をしといて、仲良さげな2人を恨めしく思う。さっきの会話はそれぐらい衝撃的だった。
「ねえ、黒川あかね。話についていけた?」
「……ううん」
私は隣にいる『
「「……なに、あれ?」」
先程のことを思い出していた。
挨拶と名刺配り、喫茶店のコーヒーを奢られたのはいい……問題はアクアのとある発言だった。
『『東京ブレイド』の仕事を蹴らせるのにいくら金を使ったんだ?』
────へ?
当時の私達の感想はそれだけだった。そして、その質問に答えたマナトさんの言葉が……、
『だいたい、『5億』……YENぐらいかなぁ? それほど使ってないと思うけど?』
『庶民』の口からは出ないとんでもない言葉であった。
『……それは、使ってるんだよ』
『蹴るように仕向けるのに、一つの事務所に1億使って、『東京ブレイド』の監督とか関係者には
呆れるアクアをよそに、明らかに公共の場で聞いていいセリフではない。こんな公衆の面前が歩く渋谷のテラス席で、こんな会話を聞いてはいけない。
『金は大事だぞ』
『使えなければ意味がない……けどな?』
お互いが笑顔だけど、なんか圧が違うっ!?
『そもそも、『自分の口座』の金なんざ腐るほどあるんだ。好きに使わせてくれ。使っても使っても勝手に増えてくんだよ』
『それは自慢か?』
『自慢だったら、こんなに苦労してないよ』
ただの自慢話だったらどれだけ良かっただろう……そう思えたのは次のマナトさんの言葉を聞いた時だった。
『……それと、その『腐るほどある金が入った口座』を君達を雇うのに『一つ』潰したんだ……頑張って働いてくれよ?』
「事務所に、……どれくらい『賄賂』が入ったのか聞かないと」
たぶん、目が飛び出るほど……ううん、心臓が飛び出る程のお金が動いている……、しかも、それは私達に仕事をやらせる為?
(たった1人の演者の為に何億も支払うって……、絶対に正気じゃないっ!?)
しかも、それがあの天下の『カミシロ』……特に、『末堂
「ねえ、アクア……もしかして、かなり危険な話に突っ込んだんじゃ……ない、わよね?」
アクアがあいつとどんな関係か知るよりも……、それほどお金を使うプロジェクトに、身の危険を感じている。
「……その予想の数十倍は危険だと見積もっていいと思うぞ」
一瞬、自分の名前が書かれた『赤い紙』のイメージが頭をよぎった。
「────なんでよっ!?」
死刑、死刑宣告なのっ!?
私、次の仕事で死ぬのっ!?
こんなことなら、アクアの依頼なんて簡単に受けるんじゃなかったっ!!!
「…………」
あかねは何か考えてるみたい、だけど?
「……ねえ、アクアくん」
「なんだ、あかね?」
「アクアくんが相手にしようとしてるのって…………」
「……まあ、待て」
あかねが何かを聞こうとした途端、アクアが背後のテーブルに視線を移す。
「出てきてください。そこにいるんでしょう?」
背後のテーブルに座ってるのは、ハンチング帽を被ったおじさん……、あれ、立ち上がって────
「
「「────ッ!?」」
アクアの声に反応するようにそう言ったっ!?
「あんた、誰よっ!?」
「────貴方はっ!?」
ハンチング帽に緑色のコート、タバコの匂いが染みついたスーツ……、まるでドラマに出てくる刑事のような……、
「おっと、そっちの嬢ちゃんはひさしぶりだな……、そちらのお嬢さんは……アクアの『これ』か、2人目とはモテるねぇ」
小指を立てながら、私を見て笑うおじさん。
(……確か、『小指』の意味は)
古臭い仕草から、昔ドラマの資料で見た『小指』の意味を理解する。
「────えっ、あっ!?」
「────チッ」
理解してしまったが故に頭が真っ赤に染め上げられる……が、隣で舌打ちが……おい、黒川あかね。お前がビジネスで恋人をやってるのを私は知ってるんだぞ。
あいつは『私』のだ。
絶対に寝とって────、
「下世話な話は辞めてください。そんなわけないでしょう」
────ガーンっ!!!
「ふふん!」
アクアにすげなく振られた。
振られた。
ふられた。
…………ふられた、……。
「あかね、有馬、……この人が最後の待ち人だ」
アクアがこちらを見る。
おじさんがハンチング帽の先を摘む……そして、
「はじめまして」
「『警視庁電脳捜査課』所属、『又吉五郎』。よろしくな、嬢ちゃん達」
そう言って、私達に向けて笑ったのだった。
ここは渋谷にある喫茶店。
人が来ないのに、『なにか』いる……そんな感じの異質な喫茶店。私はそんな喫茶店でとある友人と待ち合わせをしている。
(…………)
ゴーグル型のデジヴァイスを見ると、既に待ち合わせの時間である14時を過ぎている。連絡もなければ、電話もない。いつもなら時間通りにやってくる彼にしては珍しいと思ってしまった。
「……冷たい」
砂糖とミルクを入れたドバドバと入れて、黒から肌色になったアイスコーヒーをストローで飲む。店内は冷房で冷えているものの、コーヒーはさらに冷たく、口の中でキーンと冷たい刺激が下に広がった。
(……むぅ)
初夏が過ぎ、私達受験生にとって最大の山場である夏休み……、から一週間前の日曜日。部活は今日は休みで、彼も休みで……少しだけ、ほんの少しだけ浮かれていて、……彼から誘われて喫茶店に来たんだけど、やっぱり遊ばれていただけだったのかな……と少しだけ、暗くなってしまう。
(彼はそんな人じゃない)
首を振って、彼を待つ……すると、
カラン、コロンと音が鳴った。
「いらっしゃいませぇ〜〜」
閑散とした店内にハンバーガー帽子の店長の気だるげな挨拶が聞こえてくる。この店に新しく客が……、
(
男の子らしくない少し長めのショートカットに、仕事終わりなのか学生服で走ってきた『少年』。
赤みががった焦茶色の髪を揺らしながら、待ち人は私のテーブルへと手に持った『ケーキ箱』を大事そうに抱えながら、少し早足で歩いてくる。
「ーーーーごめん、遅れたっ!!!」
少し焦った表情に少しだけ、ほんの少しだけ胸が高鳴りを感じる。
(ずるい)
きめ細やかな肌に吸い寄せられるような瞳、艶やかな髪に私を見つけた時の、『煌めくような笑顔』。……、それが本当にずるいと思ってしまった。
だって、許してあげたくなるんだもん。
「遅いよ」
「ごめんって」
そう笑顔で言いながら、どんな少女よりもずっと可愛い『少年』が、私にだけ向ける『笑顔』で謝ってくる。そういうところが、本当にずる過ぎる。
「……で、今日はどこを勉強する?」
「第3章のここがわからないんだけど……教えてくれるかな?」
「うんうん、そこだね……うん、大丈夫。教えられる」
「そっか、よかった!」
「報酬は?」
「ここに試作品のケーキが」
「うむ、よろしいっ!!!」
「家に帰ったら、お母さんと一緒に食べてね」
たわいもない会話に、『変なところで』勉強のできない彼。いつも集まる喫茶店に、甘く美味しいケーキ。
私はこの日常が大好きだ。
彼と話せる日常が、大好きなのだ。
今日も日が暮れるまで勉強しよう。
二人だけの秘密の勉強会なのだから……。
8/1に向けた番外編のif√再アンケート (if√ハッピーエンドに、if√ネタバレ含む情報開示あり)
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『√アポカリモン その手で掴む為』
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『√カオスドラモン 星に寄り添う月世界』
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『√??? 失望の果て』