産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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2016/7/25 AM 11:00


「「「…………」」」


「ーーーーなに、これ?」

たまたま事務所の会議室に忘れ物を取りに来た私は、ドアを開いた先にある異様な雰囲気に呑まれてしまった。

(なんで、あくたんとかなちゃん、あかねが深刻そうな顔をしてるの? ルビーはなんでここにいないの? ……てか、)

アクたんとあかねは深刻そうな顔をしていて、かなちゃんは頭を悩ませている。アクたん達がそんな顔をしてるのに、ルビーはこの中に入れていないのかどこにも見当たらず、……一番気になったのは、


「ーーーーそこのおじさんだれっ!?」


ハンチング帽を被ったわけわかんないおじさんが、壱護プロの事務所に居座ってることだ。

「MEMちゃん、静かに」

「ーーーーえっ!?」

「MEM、こっちに座りなさい」

「えっ、えっ!?」

「ーーーーハァ、こっちに座れ」

「……はい」

深刻そうな顔をした3人から、質問を遮られた上に、無理矢理この陰鬱な空間から出る術を塞がれてしまった。


「「「…………」」」


深刻そうな顔をしてる3人と、映像を巻き戻してるおじさん……、おじさんの顔がやけに真剣で、どういう状況なのか誰にも聞けていない。むしろ、こんなわけわかんない状況に巻き込まれて、私が深刻な顔をしたいぐらいだ。

「あの〜、これっていったいーーーー」

あっ、録画の巻き戻しが終了した。

「流すぞ」

おじさんのその一言で、映像が流れ始める。



『み・な・さ・ま♡ お集まりいただきありがとうございます♡』


『カミシロエンタープライズ』現社長代行『岸辺リエ』が記者会見を行った映像が流れ始めた。

『今回ぃ、集まっていただいたのには、とーっても、とーっても、大事な発見があったからなのです♡』

『EDEN』内ではなく、現実の生放送で行われた記者会見(それ)は、妙に色気のある女と痩躯の胡散臭そうな男、黒髪の少女が記者達の前に立っていた。

『偉大な発見とはっ!?』

一番前に座っていた記者が、手を挙げて聞く。

『アケミちゃん♡』

『わかってますよぉ、リエさん』

女が男へと指示を出した、……そのとき、

『『『ーーーーこれはっ!?』』』

『EDEN』の様子が映され、そこにいる『奇妙奇天烈』な生き物達の映像が流れ始めた。


『これは巷で噂のコンピュータウィルス、正式名称『デジタルモンスター』、またの名を通称『デジモン』と呼ばれ『ている』ものです』


『デジタルモンスター』……、通称『デジモン』。
竜とも、獣とも、植物とも、虫とも、魚とも、機械とも、天使とも、悪魔とも、妖精とも、汚物とも取れる電脳世界に生きる奇妙な生き物の映像が記者達の前に流れ始めた。

『……これが、噂の?』

記者達は知っていた。

『ハッカー達が使ってるって言う?』

巷で噂の『最新のハッカー達が使うものすごいウィルス』の噂。

『危険なウィルスっ!?』

あらゆるデータに侵入し、あらゆる秘密を暴き、多くの『楽園(EDEN)』を壊していく……そのウィルス、


()()()()()()()()』を。


ざわめき出す記者達。

それもそうだ。
カミシロによって『公式』に、『デジモンウィルス』という『EDEN』を蝕むウィルスの発見を告げられたからだ。

『『カミシロ』今後どうするつもりですかっ!?』

『『デジモンウィルス』を野放しにするつもりなのですかっ!?』

『ハッカーのアカウント、アカウント狩りの復活、どのような対応を取るつもりなのでしょうかっ!?』

混乱するように次々と雨のように降る質問と怒号、彼らは自身の好奇心と承認欲求、『無駄な』正義感を満たす為に『自身の楽園(EDEN)』を管理する『カミシロ』に対し、大きな声で詰問し続ける。


ーーーーそんなときだった。


『ご静粛に』

『『『ーーーーッ!?』』』


()()()()()()()()()()()()()()()()


『……まだ、アケミちゃんの話が終わってないんだ、ぞ♡』

『『『…………』』』


岸辺リエがウィンクをして記者達を和ませようとするが、記者達は背筋を伸ばして、岸辺の話を聞いている。そう、この場にいる誰もが、岸辺へと歯向かうことの恐ろしさを、『直感』で理解していたのだ。
 

『ハッカー達御用達のこのウィルス、『デジモン』のことなのですが……、発生源がわかりました』


『『『ーーーーっ!?』』』

カミシロの最高幹部『末堂アケミ』の衝撃の一言に声をあげようとするも……、

『……うふふ』

その姿を笑って見ている岸辺の様子を見て、すぐに手を下げる。

『このウィルス……、いえ『デジモン』の発生源は』

末堂が溜めに溜め、


()()()()()()()()()()

『『『ーーーーッ!?』』』


さらなる衝撃の一言を、記者達の……いや、この生放送を見ているすべての『国民』の前でそう発してしまった。

『それはいったいどういうことなのですかっ!?』

とある記者は『あの』岸辺を前にして、とうとう好奇心が抑えきれずに末堂に聞いてしまった。

『はて? 我々『カミシロ』が精神のデータ化に成功し、『EDEN』を作り上げたのはみなさまもご存知のはず……何かおかしな話はあったのでしょうか?』

『アケミちゃん、『ア・レ』♡……、伝え忘れてるわ・よ♡』

『おおっ、それは申し訳ありません……、話がだいぶややこしくなるところでした』

末堂アケミには何が見えてるのだろう? 
岸辺は末堂が『惚けた』言葉に、『何か』を伝え忘れていると言った。瞬時に、末堂はそれを理解していたのだが、記者も画面の前にいる国民達も、……そして、ここにいる者達もそれは理解ができない。

『では、説明の続きを』

末堂は『EDEN』に接続した映像を動かし、次のような映像を流した出した。

『『精神のデータ化』に成功した我々は『EDEN』を開発し、この世の中に多くの『進歩』生み出しました』

流れ始める『カミシロ』の歴史。

カミシロ前社長と末堂アケミが協力して作り上げた『EDEN』。

国家による最大プロジェクトの影響で、経済がものすごい勢いで発展していく日本……そこから、膨大な情報を取り扱うようになった『超情報化社会』へと移り変わっていく。

日本から国を超えて、世界へと進出する『EDEN』。そこで、一度映像が止まってしまう。

『いやはや、本当に恐ろしいのは成功の裏の『想定外』というものでしてな』

『……想定外?』

『EDEN』の根幹を作り上げた『前人未到の天才』末堂アケミの誤算。それは、『EDEN』を使う者にとって、大きな衝撃を与えた。

『人間の精神データをAIが学習し、断片的な情報と共に統合……その結果、』

だが、末堂アケミはその言葉の節々に喜悦が滲ませている。想定外による興奮か、はたまた自分の知らない『EDEN』の未来を知ってしまったことへの喜びか、それすら一般(ただ)の人間にはわからない。……… ただ、


『『()()()()()A()I()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

『『『ーーーーっ!?』』』


ただ、そこには喜びがあった。

『困ったことに、そのAI達は自らの名を『デジタルモンスター』……、『デジモン』と名乗り、『EDEN』を闊歩し続けているのです』

『EDEN』で産まれた自我を持つ『AI』。その言葉に記者達は言葉一つすら忘れてしまっている。

『アケミちゃん、『カミシロ』はどうすればいいのかしら? その『デジモン』達を『delete』するべき?』

この場は岸辺と末堂の舞台へと変化した。

『残念ながら、『自我を持つAI』は人間社会では『人間』に近い存在でして……、人権はなくとも『人権を主張する』ことはできるので……』

『あら、それじゃあ困るわね』

自我を持つAI、『デジタルモンスター』。
その存在を理解した瞬間に『カミシロ』は真っ先に、人権のと法律の有無と人間の感情の行き先を計算……、先を見据え、用意周到に結論を出してからこの生放送を決行したのだ。

『困るのです。一斉に『撤去』してしまえば、人権侵害をした企業と呼ばれ、最悪『EDEN』がサービスできなくなってしまいます』

『それは困るわね』

『カミシロ』……、いや、『EDEN』のために、『デジモン』という不可思議な存在へと頭を悩ます2人。……きっと国民には、『EDEN』の未来のため奔走した『ように』見えているだろう。

『残念ながら『カミシロ(われわれ)』は既に後手に回っております』

『ーーーー後手、ですか?』

『そう、『後手』です』

『あら、どうしてなのかしら?』

2人の合いの手は、その場を完全に支配している。

『世間で有名な『デジモン』の評判を……、そこの記者さんお答えできますかな?』

『ーーーー私ですかっ!?』

『そう、貴女です』

『EDEN』のために動く2人は、問題の全てを理解しているのだと錯覚させる。

『えっと……、ハッカー達に使われる『ハッキングウィルス』……が、世間の印象に近いものだと思います』

記者の言葉に悲しそうに目を伏せる岸辺……、現場にいる記者達は、そんな岸辺の姿を見て、『EDEN』を本当に慮っているのだとそう思ってしまう。

『そのとおり、世間の印象は『デジモン』達に冷たい……その原因が『これ』』

そんな姿を横目に、記者達は末堂が流す次の映像を見てしまった。



『『()()()()()()()()()()』』


ハッカー達がデジモンを捕える様子。

ハッカー達がデジモンを作り出す様子。

ハッカー達がデジモンの姿を変えてしまう様子。

『ーーーーこれはっ!?』

それらの映像を見て、記者達は驚愕とともに1つの『感情』が胸に点っていた。

『デジモンを捕獲できるアプリ……とのこと、でして』

末堂は映像を流しながら簡単に理論を説明していく……ただ、


『デジモンを捕獲できるアプリだとっ!?』

『危険なウィルス……いや、AIか? まさかハッカー達がそんなものを使役してるだなんて……』

『危険だ、これでは『EDEN』全域が危険地帯になってしまうのでは……』


記者達の『危機感』という名の『警戒』はMAXへと近づき始めた……しかし、


『ーーーーおっほん!!!』

『『『ーーーーッ!?』』』


もう一度、岸辺がわざとらしく咳き込むことで、その反応は瞬時に口を閉じさせる。

『……で、アケミちゃん。『対策はうってるんでしょう?』』

『ええっ、もちろんっ!!!』

岸辺は笑って末堂に聞いた。

『この『デジモンキャプチャー』……実は未完成だということがわかりまして』

『未完成? 完成してないってことかしら』

『いかにもっ! これは『デジモンを捕まえる』機能はございますが、『デジモンを育てる』機能はございませんっ!!!』

『デジモンキャプチャー』のシステムを完全に解析した末堂、その言葉から、『不完全性』の意味が口から話される。

『……デジモンを育てる?』

『いったいどういうことだ?』

記者達の疑問の声が響き始めた。


『デジモンは成長することが、デジモンが発見されてから一年、この一年のデータで明らかになっております!!!』

『ふーん、じゃあその『デジモンを育てる』機能は作れたってことでいいのかしら?』

『試作品でありますが……、実験はまだ、理論上可能……でしかありません』

『……そう』

そんなことを気にせずに、2人は生放送を見ている視聴者に伝わるように、わざとらしく寸劇を始める。


『『カミシロ』から記者のみなさまに発表がございます!!!』

『『『ーーーー発表?』』』


末堂の場違いな言葉に首を傾げる記者達。

『デジモンへの対策、……今のハッカー達が猛威を振るう『EDEN』は正直言って怖いのではありませんか?』

『……たしかに』

『去年も防げたとはいえ、『カミシロ』がハッキングされた事例もありますし』

『ハッカー達の暴挙は噂として大々的に広まっていますから』

『不安です』

末堂のその言葉に不安を記者達は隠しきれない様子だ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

『『『ーーーーデジモンにっ!?』』』


末堂の言葉に記者達は目をひん剥いた。

『そうです。『目には目を、歯には歯を』というように、デジモンを使ってハッキングを行う『ハッカー』には、ハッキングに対抗できる『デジモン』を常備することで対抗しようということなのです!!!』

『でも、国民のみ・な・さ・ま♡ にとって、『デジモン』って怖いわよね? 安全かわからないわよね? アケミちゃん、どーするの♡』

『ええ、ええっ! そんなことは簡単です!!!』


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!』

『『『ーーーーッ!?』』』


『カミシロ』の強烈な解決策に、記者達は騒然とする。

『我々『カミシロ』はこの時の為に、とある『プロジェクト』を計画しました』

『プロジェクト? それはいったい何をするのかしら、アケミちゃん?』

今まで、ハッカー達が作り出したウィルスだと思われていた『デジモン』、……それを『カミシロ』は新たなプロジェクトにより、国民達のイメージを書き換える。


企画(プロジェクト)名 『World fit in DIGITALMONSTER』』


そして、その名と、


『デジモンを日常に『ありふれた』存在にする企画(プロジェクト)です!!!』


目的は全世界へと波及するのだった。

『……具体的には、これから配られる資料をお読みください』

頭をかく末堂の姿とともに、録画は停止された。



「……やられたな」

「……はい」

私以外の全員が鎮痛な面持ちになってる。

「アクたん、何かあったの?」

『カミシロ』の生放送の内容は、こないだ聞かされた『EDEN』での番組の時に聞かされた話とおんなじだ。なのに、ここにいるアクたんやおじさん、あかねやカナちゃんはとっても悲しそうな顔をしてる。どうしてか……は、わからないけど、3人のこないだの変な雰囲気が関わってるのかな……って、そう思った。

「俺達は『カミシロ』の広告塔にされたんだよ」

「……それになんの問題があるの?」

アクたんにそうやって聞くけど、

「…………」

アクたん達はなんにも答えてはくれない。私は訳もわからず、会議室から出るのだった。



5ー0.6章 第四話 プロジェクト『World fit in DIGITALMONSTER』

 

 2016/7/28 AM9:15

 

 

「…………」

 

 

 私達、新生『B小町』と星野アクア(お兄ちゃん)、黒川あかね、不知火フリルが、場所は『カミシロ』の会議室に集まって、専用の機械を使って『EDEN』にログインを始める。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 …………が、空気が重い。

 

 

(いったい、何があったの!?) 

 

 

 アクアにかな先輩、あかねちゃんが暗い顔をしていて、MEMちょはそれを知ってるみたいだけど、よくわかってない感じ……フリルちゃんは素知らぬ顔で『EDEN』に接続するデジヴァイスを弄ってるし、よくわかんない。

 

(……私がいない間に、何かあった?)

 

 そうとしか思えない……思えないんだけど、……うーん、よくわかんない。

 

(とりあえず、ログインしてみよっと)

 

 今日の仕事のことを考え、『EDEN』にログインすると……、

 

 

「……では、集まりましたな?」

 

 

()()()()()()()()()()1()()

 

「拙者の名は『ムーチョモン』。ムーチョモン博士と呼んでくだされ」

 

 白衣とメガネをかけて、『某マダオポーズ』で椅子に座っていた。

 

 

「……何やってるの、ユ、────ッ!?」

 

「────ムーチョ博士ですぞっ!!!」

 

 ────バチコーンッ! 

 

 指摘しようとしたら、翼で頭を叩かれ、

 

「むぐっ、むがむがっ!?」

 

 口を塞がれる。

 その様子を見ていた先輩達が驚いた。

 

(……あっ、これは言っちゃダメなやつだっ!?)

 

 ドラマとかアニメでよく流れるシーンを思い出した。

 

 

「いや、お前はユ────」

 

「ムーチョモン博士ですぞっ!!!」

 

 

 ブイモンもおんなじことをしようとして、ムーチョモンに口を塞がれる。

 

(……もしかして、知り合いなのかな?)

 

 MEMちょに聞かれ、口を押さえられながらも、急いで私は首を振った。知られたらたぶんマズイッ……あっ、

 

(…………)

 

(…………)

 

(…………)

 

 じぃーっ、とした視線を先輩やMEMちょ、あかねちゃんから向けられてしまった。……もしかして、バレた? 

 

「……ハァ」

 

 あれ、ちょっとだけ力が緩く……、なってないッ!? むしろ強くなってるっ!!! 

 

「……ムーチョモン博士」

 

 アクアがユ……、あっ、これ全力で絞め落としにかかってきたっ!? ムーチョモン博士っ!? ムーチョモン博士っ!!! 

 

「なんですかな、アクア殿?」

 

「もがもがっ!?」/「…………」

 

 翼で塞がれた口を必死になって動かしていく。息がっ、息ができないから、早くっ、早く助けてっ!? ……ん、やけに隣が静かだけど……あっ!? 

 

 

「ブイモン、気絶してるんだが?」

 

「問題ありませぬな」

 

 

「────問題しかないんですけどっ!!!」

 

「────|モゴ、モゴゴッ《問題しかないんだけどっ!?」

 

 

 くしくも、かな先輩とおんなじツッコミをしてしまっ……あっ、息がっ!? 

 

「今から打ち合わせするんでしょ? だったら、演者がっ、しかも『主役』が絞め落とされかけてるのは明らかにおかしいでしょうがぁっっ!!!」

 

「……ふむ」

 

「ルビー、まだ何にも言ってないですよねっ!? ……知り合いならもう少し手心というものを加えたほうがいいんじゃないんですかっ!?」

 

 かな先輩、と……MEM、ちょの声……聞こえ、る? 

 

 息が、……もう、もたな……、

 

 

「一理ありますな」

 

 

 ────ぶはっ! 

 

 

「ゼーッ! 、ハーッ! 、ゼーッ! 、ハーッ!」/「……るび〜?」

 

「問題ありませぬな」

 

 

 息が、ようやく息ができた。

 

「かなちゃんの言うとおりです。いくらお金を払ってもらっているとはいえ、ルビーちゃんの扱いがひどすぎます」

 

 先輩、あかねちゃん、MEMちょ、……ありがとう。そしてユ──ー、

 

 

「なんですかな?」

 

 

 いえ、なんでもないです。

 一瞬だけ、怖い時のタイトの声色を思い出した。これはこれ以上踏み込んじゃいけない奴だ。恨み節なんて考えてません。考えてたら命がないです……ハイ。

 

「あいにくでありますが、ここは『EDEN』……、気絶とはいってもすぐに回復するのであります。脳に影響がないように手加減もしてあります」

 

 いくらなんでもそれはあまりにもひど……いえ、なんでもないです。

 

「そして、……何より」

 

 ムーチョモン博士は一瞬だけこちらを見た後に、

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()』!!!」

 

 

 ────ずびしっ! 

 

 

「……私、?」

 

「……達?」

 

「────私も含まれるのっ!?」

 

 

 ……と、かな先輩とあかねちゃんとMEMちょに指? ……を差した。

 

「ええ、含まれるのであります」

 

 ────パン! 

 

(────っ!?)

 

 ────ささっ! 

 

 ムーチョモン博士が両手(翼)を叩くと、何かが私達を横に寝かした。何かに触れられた気がしたけど、何に触れられたかはわからない。そんな気色悪い感覚に襲われる。

 

 

(一瞬でブイモンの姿勢が変わった!?)

 

(アーちゃん、ルビーとブイモンを動かしたの……たぶん、デジモンだよ)

 

(……デジモン?)

 

(姿は見えなかったけど、気配を感じる……、気をつけてね)

 

(わかっている)

 

 

 こそこそとアクアとワームモンが話してるけど、よく聞こえなかった。何かわかったのかな? 

 

 

「では諸君、『WFID』について質問はありますかな?」

 

 

 息が整ってきたので、そう聞こうと思ったときに、……ムーチョモン博士から、そんな言葉が聞こえ……? 

 

(WFID……ってなに?)

 

 

 新しい国連の組織? 

 

 

「ニュースでやっていた奴ですね」

 

「『デジモンをありふれた存在にしよう』がコンセプトだっけ?」

 

「私、デジモンって、この間の説明と噂でしか知らないんだけど……」

 

「そのデジモンってのが……」

 

 

(アレぇ〜〜、なんかみんな知ってるみたい?)

 

 次々とみんなが話しはじめてるのを見て、微妙に焦り始めた。

 

 

「……やっば」/「……チョコレートぉ」

 

 

 最近ニュースを見てなかったから、わかんないけど、話の内容的に、たぶん『カミシロ』ニュースで話が出てたんだと思う。

 

(こんなことなら、エゴサなんかしてなきゃよかったっ!?)

 

 みんながニュースを見てる間に、私はエゴサをしていたのだった。

 

「あの2体と拙者がデジモンでありますな」

 

「……だよねぇ〜〜」

 

「知ってた」

 

 ……ん、私……じゃない。ブイモンを指差した? 

 

「……で、その『デジモン』って奴と私達にどういう関係があるってのよ?」

 

 ああ、仕事の話ね。

 話の内容についていけてないから、とりあえずしずかーに黙っておこう。ついていけてないのは、バレちゃいけない。

 

「簡単に言えば、諸君らがやる番組……『『僕らの』『私達の』『『EDEN探索記』』』は、我らデジモンと諸君ら人間がそれぞれ1人と1体ずつのペアになって、『EDEN』の謎を解き明かす……というのがコンセプトになっているのであります」

 

「1人ずつペアになるって、……アクアくんやルビーちゃんみたいに、私達にもデジモンの相棒ができるってことですか?」

 

「そうでありますな、……デジモン達と一緒に時に戦い、時に探索し、時に喧嘩して、時に遊ぶ……そんな関係性を世間に周知させるのがこの番組のコンセプトなのですぞ!」

 

 わはー、あかねちゃんとユ……ムーチョモン博士が、なんか難しい話してるぅ〜〜? 

 

「はいっ!」

 

 ────ッ!? 

 

「なんですかな、MEMちょ氏?」

 

 ちょ、MEMちょ!? ────まさかっ!? 

 

「デジモンとの相棒ってどんなのがいるんですかっ!?」

 

 ────ずこーん!? 

 

「いろんなのがおりますぞ。竜に獣に悪魔に天使、植物っぽいデジモンに機械……果ては、突然変異で変なモノモチーフに生まれた変な奴らもたくさんおりますぞ!」

 

 ……なんだ。

 MEMちょもなんか難しい話をするのかと思ってた。

 

「変なモノ代表がよくいうね、博士!」

 

「ルビー殿にだけは言われたくないのであります!」

 

 視線でバチバチ火花が飛び交う。

 こいつに絞め落とされかけたこと、絶対にタイトに言いつけてやるっ!!! 

 

「……アクアの時はデジモン……、ワームモンはどうやって捕まえたの?」

 

 あっ、アクアにかな先輩がずっと気になってたことを聞いてくれたっ!? 林間学校が終わってから、急にワームモンが家に住み着いたから、よくわかんなかったんだよねぇ。うん、また一つタイトのことが知れる! 

 

「俺も知らない。マナトから急に送られてきたからな」

 

 ……えっ!? 

 

「えっ、急に送られてきたのっ!?」

 

「アクアくん、それ大丈夫だったの!?」

 

 かな先輩とあかねちゃんがアクアに

 

「そんなメンタルじゃなかったからなぁ、あのときは」

 

「僕はアーちゃんのこと、ずっと前から知ってたけどねっ!」

 

 自暴自棄になってたらしい……ってのは、確かに聞いてたけど……、それかなり危なかったんじゃないっ!? 

 アクアのネットワークりてらしぃ? がもしかしたら、ウチの事務所で一番ヤバイかもしれないっ!? ミヤコさんに伝えないとっ!? 

 

 

「ワームモンが言うには、一番相性のいいデジモン……らしいぞ」

 

 アクアが棒読みでそんなことを言っている……あっ!? 

 

(ワームモンが?)

 

(この気持ち悪い虫が?)

 

 うん、それは私も同意だけど、タイトとムーチョモン博士の事例があるし……絶対に突っ込んではいけない危ないネタである。

 

「へへんっ、僕が一番なのだっ!」

 

 それは信用できない。

 胸? を張ってパートナー宣言するが、お前の存在が一番疑わしいのだ。

 

「ムーチョモン博士。デジモンとパートナーになるって、どうやってやるんだ?」

 

 あっ、アクアが話題を逸らした。

 

 

「そうですなぁ……具体的に言えば、これからマナト氏が秘密裏に運営している『デジモン育成施設』に来ていただくのであります」

 

 

 ────えっ!? 

 

「────ッ!?」

 

「……デジモン?」

 

「育成?」

 

「施設、だとっ!?」

 

 

 タイトそんなの作ってたのっ!? 

 

 

「……ここが育成施設、『蛇の御元』ですな」

 

『カミシロエンタープライズ』の秘密サーバーの一つ、そのセキュリティーの奥の奥、1時間ぐらいかけてたどり着いたのは、見渡す限り広がる草原のテクスチャが貼られた世界だった。

 

「蛇の御元?」

 

 ムーチョモン博士の言葉に疑問を感じる。

 

「『楽園』なのになんで蛇が関係してくるの?」

 

『EDEN』は英語で楽園を意味してるのは、タイトに耳にタコができるほど教えられた。だけど、なんで『楽園(EDEN)』に蛇? 訳がらない。

 

「『EDEN』の元ネタの旧約聖書のエデンの園、そこでアダムとイブを誘惑した『蛇』、もしくは蛇のいる禁断の実がなっている『木』をモチーフにしてるんじゃないか?」

 

 アクアの説明を聞いて、なんとなくだけどわかったような感じがする。

 

「ふーん」

 

 神話の元ネタがあるのね。

 歴史の授業は眠いからほとんど聞いてないし、テスト期間中に暗記できるとこだけ必死になって覚えてたから、よくわかんないや。

 

 

「……着きましたぞ」

 

 

 ムーチョモン博士が止まり、そんな声が聞こえてくる。私はアクアの方から視線を外して、目の前の『大きな建物』に目線があった。

 

「……ここは?」

 

 確か、授業で習ったギリシャの……世界遺産っぽいその建物は、『the 神殿』って感じの建物みたいだ。

 

 

「『蛇の御元』の主要施設『禁断、マッチングサービス!』……ですぞ」

 

 

 ……んっ!? 

 

 ムーチョモン博士から、変な言葉が聞こえてきた気がする。

 

 

「…………」/「…………」

 

「…………」/「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」/「…………」

 

 

 あっ、みんな固まってる。幻聴じゃなかったんだっ!? 

 

「禁断、マッチング……、サービス?」

 

 いちおう、ムーチョモン博士に名前をもう一度聞いてみよう。こんな荘厳……でいいのかな? 立派な建物がそんな名前だとは思わないし。

 

「『マッチングサービス!』ですぞっ!!!」

 

 幻聴じゃなかったっ!!! 

 

「ここにある機械に手で触れれば、『蛇の御元』内にいる相性のいいデジモンと『マッチング!』……、触れた人間に最も相性のいいデジモンのパートナーが見つかるのですぞ!」

 

 ムーチョモン博士が『……サービス』の施設の前に置いてある変な機械を叩いて笑う。

 

「…………、簡単に言えばマッチングアプリのようなものなのね」

 

 かな先輩が固まった笑顔でその機械を見る。

 

「失敬なっ! この『禁断、マッチングサービス!』は、相性のいい者しか現れませぬ! やれ、『パパ活』だの、やれ『ごにょごにょ……フレンド』だの、そんな汚泥よりも腐り果てた糞のゴミは現れませぬっ!!!」

 

 胡散臭さは変わらないんだけどもっ!? 

 

「あはは、糞のゴミ……ひどい言われようですね」

 

 MEMちょ、それはちょっとヤバイよっ!? 

 

「生きる価値がないことは事実ではありませぬか?」

 

「否定は、しない……のかな? でも実際に結婚したって言う人もいるし、芸能界にはそれで広告の仕事を受けてる人もいるし〜〜、うん、言及はしない。しちゃいけない」

 

 明らかな地雷を踏んでいき、自爆してる。ユ……、の気持ちはタイトの過去を知ってれば理解できなくもないけど……、睨まれたのでやめておこう。MEMちょ自身も言っていた。触れてはいけない問題なのだ。

 

 

「……で、ここに触ればいいわけね」

 

 そんな会話の中、かな先輩が何も聞かずに機械に触れようとする。

 

「はい、黒川殿に有馬殿、MEMちょ殿が触れることで自動的に『マッチング!』……、することができるのであります」

 

 へえー、そうなんだ。

 

(ん゛っ!?)

 

 だったら気になることができたっ!? 

 

「はい、はーいっ!」

 

「なんですかな、ルビー殿?」

 

 手を思いっきり振り上げて、ムーチョモン博士に聞こえるように声をかける。

 

「私みたいな既にデジモンをパートナーにしてる人間でも、『禁断、マッチングサービス!』を使うことができるんですかっ!!!」

 

 ブイモン以外に相性のいいデジモンがいるなら、仲間を増やしたい。できれば、タイトみたいに4体とか5体とか、たくさんデジモンを仲間にしたいっ!!! 

 

「────ッ!?」

 

「たしかに、それは私も気になってた」

 

 アクアとフリルちゃんが反応した。もうパートナーがいるからね、気になるってもんよっ!!! 

 

 

「アーちゃん!?」

 

「ルビーには俺がいるだろっ!?」

 

「俺は子守しなくていいから楽なんだけどな」

 

 

 なお、それぞれのパートナーの反応である。

 

「ルビーには俺がいるだろっ!!!」

 

「気になっただけだって」

 

 ブイモンに2回も言われてしまった。暑苦しい上にうざい。聞かなきゃよかった。

 

「……ふむ」

 

 アクアはワームモンを抱きしめることで黙らせてるし、フリルちゃんはガブモンの毛皮をわさわさしてる。うらやましい。

 

「可能は可能ですが、オススメはしませぬ」

 

 ムーチョモン博士は眼鏡をくいっとあげながら、そんなことを言った。

 

「……なんで?」

 

 私にはわからなかった。

 数の暴力の利便性は去年、あの戦いで嫌と言うほど理解している。相性のいいデジモンがたくさんいるのなら、たくさんのデジモンを仲間にして戦えば、強いんじゃないかって思っていたからだ。

 

「ルビー殿に相性がよくても、ブイモンに相性がいいとは限りませぬからな。仲間割れなんかしたら……、おっと、それは嫌というほどご存じでしたな貴殿は」

 

「…………なるほど」

 

 納得である。

 某ピンク色の巨乳に何度煮湯を飲まされたことか……うん、思い出すだけでも、辛い。

 

「それに仲間というものは、パートナーとともに探すものでありますから楽しいのであります。……、本来は、こういう『ガチャ』で決めるのはよくないと拙者達は思うのであります」

 

「────なるほどっ!」

 

 ムーチョモン博士、ここに来て初めていいことを言った。

 

「……緊張するなぁ」

 

 MEMちょが『EDEN』にいるのにお腹を抑えて、困り顔をしている。

 

「別に緊張なんかしなくていいわよ。相性のいい奴が出てくるんだから、私好みのかっこいいデジモンが出てくれると嬉しいわね」

 

 かな先輩はMEMちょに構ってるみたいだけど……、手が震えている。たぶん強がってるだけだ。

 

「いったい、どんなデジモンが現れるんだろう?」

 

 あかねちゃんのその言葉に、かな先輩やMEMちょがムーチョモンやブイモン、ガブモン……最後にワームモンを観察し始める。

 

 

「えっ、ちょっとなんだよ?」

 

「あんたは何をモチーフにしてるの?」

 

「俺は『子竜型』デジモン! ドラゴンだ!!!」

 

「見えないわね」

 

「なんだとぉっ!?」

 

 

 ブイモン、パイセンの洗礼を受ける。

 

 

「ガブモンはどんなデジモンなの?」

 

「俺は『データ種』のデジモンだな」

 

「データ種?」

 

「デジモンには種族があんだよ。ワクチンやウィルス、データって感じにな」

 

「……なんで、その3つなのかな?」

 

「わかんねえよ、神様にでも聞いてろ」

 

 

 あかねちゃんとガブモンが話していて、

 

 

「アクたんのみたいな『THE・虫』って感じは、流石に私も嫌だなぁ」

 

「虫!? この人虫って言ったっ!!! アーちゃん、この人ひどいよっ!?」

 

「────うぇっ、聞こえてたっ!?」

 

 

 MEMちょがワームモンを傷つけていた。

 

(それは俺も思った)

 

(……私も)

 

(私も嫌かな?)

 

(ブイモンでよかったぁ)

 

(……てか、なんでアクアのデジモンが幼虫なのよ)

 

 みんな思っていることは同じらしい。

 

(……でも)

 

 ケモノガミの世界で、もっと嫌なデジモンにあったような……、

 

(思い出すのはやめよう。思い出してはいけない。絶対にいけない気がする)

 

 

「はいはい、落ち着け」

 

「だって、アーちゃん!!!」

 

 アクアはワームモンを赤子のように抱いて慰めている。

 

「アーちゃん!」

 

「落ち着けって……そろそろ、始めまる」

 

 それでも、話は進んでいて、機械の前にかな先輩とあかねちゃん、MEMちょの3人が立っていた。

 

「…………」

 

 ……ごくり、と小さな音が聞こえてきた。誰かが唾を飲み込んだ音だと思う。それほど緊張してるのだ。

 

 

「……それでは触れてくだされ」

 

 

 ムーチョモンの指示に従い、3人は手を機械に当てる……、すると、

 

 

「────っ!?」

 

「────何っ!?」

 

「めっちゃ光ってるっ!!!」

 

 

 強烈な光が3人を襲った。

 

 

「ブイモンっ!」/「ワームモンっ!」/「ガブモンっ!」

 

「ルビーっ!」/「アーちゃん!」/「フリルっ!!!」

 

 

 急いで『デジヴァイス』を掲げ、戦闘態勢になるように指示。ブイモンもそれに従って、私に攻撃が当たらないように、私の前に出て目の前の光を警戒する。

 

 

「────っ」

 

「────うん!」

 

「…………」

 

 

 先輩達の目の前から、3つの影が現れ始めた。

 

 

()()()()()()()()()

 

(……えっ!?)

 

 

 ムーチョモン博士のその言葉と同時に、光が収まり始め……、3つの影は正体を表した。

 

 

「……あんたは?」

 

 かな先輩の前にいるのは、赤とオレンジの人型。

 

 頭に燃える炎は、先輩のように人を焦がすような輝きを感じる。

 

 先輩の腰より上の背丈の『それ』は大きくジャンプをして、アピールした。

 

 

「『コロナモン*1』ッ!!!」

 

 

 太陽のように照らす炎のデジモンが現れた。

 

 

「……あなたはっ!?」

 

 あかねちゃんの目の前にいるのは白と藍。

 

 額にある月の模様は、海を優しく照らしだす優しを感じるさ。

 

 あかねちゃんより小さな『それ』は、あかねちゃんに向かって小さな指でピースする。

 

 

「私、『ルナモン*2』ッ!!!」

 

 

 月のウサギのデジモンが現れるのであった。

 

 

「……えっ!?」

 

「…………」

 

 

 MEMちょの方を見ると……、そこには、

 

 

()()()()?」

 

「…………」

 

 

 なんの反応もしない土気色の人形……? 人型が立っている。

 

「いや、……これは泥だな」

 

 アクアが『それ』に触って感触を確かめると、『それ』は動かずその行為を受け入れている。

 

 そして、MEMちょの方をじっと見つめ、

 

 ……にこっ! 

 

 口のない顔で微笑んだ。

 

「えっ、えっ!?」

 

 MEMちょは他2人との違いに戸惑っている。

 

 

「『ツチダルモン』*3とは珍しいですな」

 

 

 そんな時に、ムーチョモン博士がそのデジモンの近くによって、珍しいと笑っていた。

 

「……珍しいのか?」

 

「この中で唯一の『成熟期』デジモンであります」

 

 ……成熟期? 

 MEMちょの背丈より二倍から三倍近いその姿を見て、納得した。確かにこの大きさは成熟期デジモンだ。

 

「成熟期デジモン?」

 

 あかねちゃんが反応する……けど、

 

「それはのちに説明するのであります……、そんなことより」

 

 ムーチョモン博士は別の方を見ている。……そこには、

 

 

「俺、コロナモン……よろしくなっ!!!」

 

「…………」

 

 元気に挨拶するコロナモンと頭を抱えるパイセンがそこにいた。

 

「よろしくなっ!!!」

 

「…………」

 

 何やらパイセンはコロナモンを見て、何かを感じたみたい。うん、それもまた、いいことだよね! 

 

「よろしくなっ!!!」

 

「……私、熱血系だっけ?」

 

「よろしくなっ!!!」

 

「…………よろしく」

 

 悩んでるみたいだけど、よしっ! ……あかねちゃんの方は、どうなってるかな? 

 

 

「私、ルナモンっ!」

 

「私は黒川あかね」

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくね、ルナモン!」

 

「はいっ! なのです!!!」

 

 

 案外あっさりと終わっていた。

 かな先輩に問題があるのか、それともあかねちゃんの適応能力が高いのか……両方だと、思いたい。

 

 

「……どうやら、あちらの自己紹介も終わったみたいですな」

 

「…………」

 

「……えっと、私はMEM。MEMちょって呼んでね」

 

「…………」

 

 ムーチョモン博士に催促されて、MEMちょは急いで挨拶をする。ツチダルモンもMEMちょの挨拶に頭を下げてにっこりと微笑んだ。

 

 

「それでは、これから『『『僕らの』『私達の』『『EDEN探索記』』』についての説明に入らせていただく」

 

「「「────ッ!?」」」

 

 

 役者が揃ったと思ったのか、ムーチョモン博士は全員に仕事の内容を説明し始める。

 

「諸君らは2つのチームに分かれ、張り出される『依頼(クエスト)』をそれぞれ指定し、解決した『ポイント』を競っていただく!!!」

 

 ……ドラマじゃなくて、バラエティ番組みたいな感じだね。

 

「そのクエストは様々、『問題ハッカーの捕縛』、『依頼の品を探す』、『悪さをする野良デジモンを討伐』……他にも多くの種類がある『依頼(クエスト)』を解決することで、ポイントを集めることができるのであります!!!」

 

 ……うんうん、戦ったり、探したり……あれ? 

 

「ポイントはデジモンの成長につながるアイテムやデジモン同士の戦いに関わる回復アイテム、娯楽やお金に変換でき、……多くのポイントを集めれば、集めるだけより凄いアイテムが手に入るのであります!!!」

 

 アイテム……、なんかあったような? 

 

 

「そして、諸君らには最終目的を、『カミシロエンタープライズ』からの依頼、『偉大な依頼(グランドクエスト)』を達成していただきたい!!!」

 

 

 いろいろと引っかかるところはあったけど、最後のインパクトで全て引っこ抜けたッ! 『偉大な依頼(グランドクエスト)』って、なに!? 

 

「……偉大な依頼(グランドクエスト)?」

 

 訳もわからず呟いたその言葉に、ムーチョモン博士が反応する。

 

 

「『カミシロ』からの依頼……、それは、『EDEN』最大の謎、『白い少年の幽霊』の調査と発見……、それが、『偉大な依頼(グランドクエスト)』であります!!!」

 

 

 ……『EDEN』最大の謎? 

 それを調べることが、『カミシロ』からの依頼で、それを調査することが、私達の最終目的……で、その依頼内容が、

 

「『白い少年の幽霊』?」

 

 やっばい、なんにもわかんない。

 

「『EDEN』の内の噂、電脳空間ではあり得ない挙動、報告例……、現実味のない話ではありますが、『EDEN』の中で、『白い少年の幽霊』を見たという問い合わせが『カミシロ』』に多数届けられたのですぞっ!!!」

 

 そんなバグがあるんだ、へぇー……、あるかもわからないバグを探しにいくの!? 

 

「デジモンのような『バグ』かも知れませぬ。本当は嘘かも知れませぬ……しかしっ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

「諸君らにはそれらの調査と解決を『カミシロ』から依頼するのであります!!!」

 

 みんな頷いている。でも、それって────

 

 

「放送は今秋、来週から撮影開始っ!」

 

 

 ────、んぴぃッ!? 

 

「────なっ、早過ぎるっ!?」

 

 あまりにも早すぎる放送に、驚きを隠せない。

 

「第一話はこちらで撮影を行うのでありますがっ、第二話以降は撮影機材を持って、チーム独自に動いていくのであります!!!」

 

 さらに恐ろしいことを言われてしまったっ!? 

 

「ちょっと、撮影はどうすんのよっ!?」

 

「そんなものはございませぬっ!!!」

 

「依頼に合わせ、自己を修練し、『EDEN』内を闊歩し、自然体に解決に取り組む……、それが、諸君らに『カミシロ』が求める『デジモンと人間とのあたりまえの姿』であります!!!」

 

 パイセンの質問にそんなものはいらないと怒鳴るムーチョモン博士。ブラック企業も真っ青な回答である。

 

「撮影した映像はどうするんですかっ!? 編集するのは誰が? まさか全部流すんじゃないですよねっ!?」

 

 あかねちゃんの質問に、

 

 ────ぱんっ! 

 

 大きく手(翼)を鳴らすムーチョモン博士。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その瞬間、ムーチョモン博士の周りにデジモン達が現れ始めた。

 

「……デジモン?」

 

 15年前にすら使われてない旧型のテレビのような2体デジモン達に、コウモリのような羽を持つ顔が一つ目しかないデジモンが3匹。

 

「こいつ、ルビーを寝かした奴らだよ、アーちゃん!!!」

 

「────ッ!?」

 

 私を寝かしたデジモン達らしいっ!? 

 

「サウンドバードモン達が撮影し、モニタモン達が編集……現在の『カミシロ』が手がけている動画の撮影と編集は彼らがやっているものであります」

 

 えっと、サウンドバードモンがあの黒いコウモリのようなデジモンで、旧型テレビのデジモンがモニタモン……だめだ、デジモンがたくさんいすぎて頭がこんが────、

 

「────なんですとぉっ!?」

 

 大きな声をあげて、驚愕で目を剥いたているMEMちょ。

 

「流石に、嘘ですよね?」

 

「嘘じゃないのであります」

 

 そうだね、撮影も編集も投稿も大変なのはわかってる。わかってるから、ね。そんなアイドルがしてはいけない顔をしないで、ね。

 

 

「いいでありますかっ!!!」

 

 

 大きな声をあげて、注目を集めるムーチョモン博士。

 

 

「諸君らがやるのは『国家プロジェクトの中核』、いわば『EDEN』のこの先の未来を決める最大プロジェクトなのであります!!!」

 

 

 ムーチョモン博士の言葉に身を固める。話の締めが始まったのを感じた。

 

 

「……『EDEN』の」

 

「今後の未来」

 

「あわわ、責任重大っ!?」

 

 

 その言葉を聞いて、ここにいる人もデジモンも緊張しはじめた。

 

 

「諸君らはこちらの2つのチームに分かれていただきます!!!」

 

 

 ムーチョモンの宣言のあと、さっきとは違う光が、足下から放たれる。

 

「────なっ!?」

 

「これはっ!?」

 

 私、かな先輩、MEMちょの色は『赤』。

 

 アクア、あかねちゃん、フリルちゃんの色は『青』。

 

 

「B小町と役者達でチームが分かれてるっ!?」

 

 

 明確に意図を持ったチームの分けられ方をしていた。

 

「アイドルチームと役者チームではおもしろくありませぬな……、名前は次回までに考えていくのであります」

 

「……そんなノリでいいの?」

 

「シャラップっ!!!」

 

 パイセン、余計なことは突っ込んじゃいけないよ。いい加減学ばないと、この先困ると思うよ? 

 

 

「これは『チーム戦』っ! お互いのデジモン、チームの仲間達とともに、作戦を練り、修練を重ねることを許すのであります!!!」

 

 

 それぞれが、それぞれのパートナーデジモンを見て考える。

 

(これからブイモンと2人で番組に出ることになる。がんばらないとっ!?)

 

 がんばって、タイトをもう一度ママに会わせるんだっ!!! 

 

 

「特にっ、リーダーである星野兄妹っ! 2人にはその責任が重くのしかかっているので、がんばっていくように……、であります!!!」

 

 

 目標を胸に、これからがんばっていこうと思ったところで、ムーチョモン博士にリーダーとして名指しでがんばるように伝えられる。

 

「……まじか」

 

「────うっ!?」

 

 電脳世界なのに胃が痛くなってきた。

 

(……でも)

 

 

「ワームモン、やるぞ」

 

「うん!」

 

 アクアもワームモンもがんばるみたいしだし、

 

「ブイモン、やろうっ!」

 

「OK、ルビーッ!」

 

 私も目標に向かってがんばらないといけないんだっ!!! 

 

 

「それでは、来週からよろしくお願いしますなのであります!!!」

 

「「「よろしくお願いします!!!」」」

 

 

 そうして、『『『僕らの』『私達の』『『EDEN探索記』』』は撮影を開始するのであった。

 

*1
レベル:成長期 タイプ:獣型 属性:ワクチン種 必殺技『コロナックル』『コロナフレイム』『プチプロミネンス』

 太陽の観測データと融合して生まれた獣型デジモン。正義感が強く純真で無邪気な性格をしている。必殺技は、炎の力で熱くなった拳で連続パンチを放つ『コロナックル』と、全身の体力を消耗しつつも、炎の力を額に集中させて敵に放つ火炎弾『コロナフレイム』。また、体全体に炎をまとい、防御または体当たりする『プチプロミネンス』。

*2
レベル:成長期 タイプ:哺乳類型 属性:データ種 必殺技:『ルナクロー』『ティアーシュート』『ロップイヤーリップル』

 月の観測データと融合して生まれた、うさぎのような姿をした哺乳類型デジモン。大きな耳でどんな遠くの音も聞き分ける事ができ、臆病だが、なつきやすく寂しがり屋。必殺技は、一見可愛らしいが、闇の力が込められた爪で引っかく『ルナクロー』と、力を額の触角に集中し、綺麗な水球を敵に放つ『ティアーシュート』。また、耳をくるくると回し、発生させたシャボンの渦で敵を巻き込む『ロップイヤーリップル』を持つ。

*3
レベル:成熟期 タイプ:突然変異型 属性:データ種 必殺技:『グレートウェイト』

 体のほとんどが土のデータでできたデジモン。ユキダルモンの突然変異で生まれた変種ではないかと言われている。やさしい性格の持ち主で戦いは好まないが、いざというときには普段見せないパワーを発揮する。必殺技は、全体重をズッシリと乗せたヘビー級パンチ『グレートウェイト』。





2016/7/30 PM2:00


「全国大会出場おめでとう」


白く輝く店内、煌びやかな灯り、喫茶店とは思えないほど、絢爛な作りの店に、閑散とした店の中、店のドアの張り紙には『臨時休業』と書かれた文字がでかでかと貼られている。
そんななか私は、彼と2人きりの店内で一番見栄えのいい席に座って、彼に『全国大会出場』を祝われていた。

「…………ありがとう」
 
反応が遅れた、……ううん、反応が遅れてしまったのは無理もない。こんなお店に来るのははじめてだったから、緊張……、うん緊張しているのだ。

「……どうかした、かな?」

私の緊張した様子を見て、心配そうに彼はこちらを見る。

「本当によかったの?」

「……何が?」

その言葉の意味に気づかず、彼は首を傾げた。

「ここ、……『EDEN』で有名になってた……あの、店だよね?」

店名『シャンバラ』。
この数年で、『最も』ケーキがおいしいケーキ屋として、『EDEN』でまず取り上げられる特別なお店。そんな特別なお店に毎日、たくさんの女性客で賑わい、列を成すこのお店に、私と彼は2人だけで座っている。

「ん、ああ、そうだね」

それをこともなげに貸し切った目の前の少年。

「今日って、休業日じゃないんじゃ……?」

臨時休業と書かれた紙には、平然と『オーナーの気分で休みます』と書かれていて……、

(オーナーの関係者?)

彼の関係を疑いたくはないけど、そんなことを訝しんでしまっていた。

「大丈夫、大丈夫……、大丈夫(もーまんたい)だよ」

「ーーーーなにがっ!?」

全然平気そうな彼。

「今日はオーナー権限で『貸し切り』だから」

「オーナーっ!?」

「うん、『オーナー』だよ。ここの」

……この店の『オーナー』だったんだ。
窓からこちらを見る影がちらほら……ううん、へばりついている『バケモノ』のような顔がこちらを睨んでいることに気がついた。

「……外の女の子達がこっちを睨んでるんだけど……?」

私よりも『少し』歳をとった女の子達が鬼の形相でこちらを睨んでいる。胃が痛くなってきた。

「ここ『撮影禁止』だし、SNSや『EDEN』に店内の写真を載せるのも禁止にしてるから問題ないから大丈夫(もーまんたい)……、以前に店内の写真を撮ってSNSに載せたバカがいたけど……、うん、『お話』したから、問題はない」

「問題はない……って、怖いんだけどっ!?」

怖い発言に、女性達を追い払う店員達……、そんな様子を笑って見ながら、メニューを開く彼。そんな彼の様子にさらに胃が痛くなってくる私……、

「そんなことより、……これ、見たことあるだろ?」

彼は笑ってメニューを指さした。

「『そんなこと』……って、あの人達そんなこと扱いされて……、ーーーーんっ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「この間食べたケーキ、売れてるみたいだね」

この間に試作品としてもらったあのケーキが、現在この店の三番目に人気の商品。

(アレを試作したのって……たしか、)

だめだ考えないようにしよう。……違う場所でも見ればーーーー、


「ケーキ一切れ3,000円っ!?」


ホールレベルの値段のケーキに目が飛び出てしまった。

「相場が相場だから……こんなもん、だよね。むしろ、赤字に近いのかな? 別にいいんだけどさ」

「あわっ、……あわわわわっ!?」

アレ、この間食べたマスカットのケーキ……、母さんも私もおいしいって言って食べてたけど……あわっ、あわわわっ!?

「それじゃあ、ケーキでも頼もうか?」

「いいっ、!?」

『いや、いい』と言おうと思ったのに、緊張でうまく喋ることができない.しかし、彼はそんな私の様子を気にすることなく、彼は店員を呼んでしまった。

「とりあえず、これとこれとこれ持ってきてくれ」

「ちょっと、マナトっ!?」

私は食べるなんて言ってないのに、勝手に注文するマナト。それに、かしこまりましたと笑ったピンクの髪の少女は、私たちを見て手を振って厨房へと戻っていく。

「これは全国大会へと出場した君へのご褒美だ。別に驚かなくったっていい」

「いや、こんなに高いケーキ、人の奢りだったとしても食べられないってっ!?」

ご褒美だって言われたって、流石に限度がある。
こんな高い値段のケーキだって知っていれば、あのときもっと大事に食べたのにっ、って気持ちとこんなに高いケーキを奢られるべきじゃないって理性が、頭の中を混乱させる。

「……別に高くないと思うけどなぁ?」

いや、高いって……というか、この人の金銭感覚がヤバイッ!?

「ご注文の品が届きました」

「ーーーー届いちゃったっ!?」

店員が目の前にいつのまにか立っていた。

「こちら、『ヘビーなイチゴショート』に、『ビリビリ! レモンタルト』、『カボチャとどんぐりのハロウィンケーキ』になります」

「ありがとう、リリーさん」

目に見えぬ速度でテーブルに置かれていく煌びやかなケーキ。明らかにさっきのマスカットレベルのヤバイケーキ達だ……、本当に私がこれを食べてよかったのだろうか?
この場にいない全国大会出場をともに決めた友人達に申し訳なく思ってしまう……ん?

「はい、じ……オーナーっ!」

いつのまにかドロドロの粘性のジュースがテーブル……、というより、彼の近くに置かれている。

「……ところで、これは?」

「特製ジュースです!」

店員が笑顔でそう言った。

「うん、そうだね。特製ジュースだね……誰が飲むの?」

「オーナーです!」

「注文したのは紅茶だったと思うんだけど?」

「注文、間違えちゃいましたっ!!!」

「…………毎回だよね?」

「ーーーーにこっ!」

笑顔で『飲め』と訴える店員さん。……なんだか、怖い感じがするのはなぜだろうか?

「……わかったよ、飲めばいいんだろ?」

彼はジュースを手に取った。

「失礼しますっ!!!」

後ろをチラチラと確認しながら、帰る店員。冷や汗をかくマナト……そして、

「……それ、飲むの?」

マナトの手の中にあるコップ。その中身は『どぷん!』っと音を鳴らし、コップ中でドロドロと揺れている。

「まあ、ケーキに合わないことも……うん、ないか、なぁ?」

首を捻りながら、『ソレ』を見るマナト。どうやら何度も飲んだことがあるらしい。

「どんな味がするの?」

味が気になる。

「…………甘いのか、しょっぱいのかわからない変な味が、ベタベタと口の中に残留して、ざらざらと塩のような小さな粒が口の中にへばりついている……そんな味だよ」

甘くて、しょっぱくて、ベタベタしてて、口の中にへばりついて、塩の結晶が口の中でぶつぶつと残っている……そんな、味…………、

「ーーーーひえっ!?」

想像しただけで気持ち悪くなってきた。
よくそんなものを何度も何度も飲めるなぁとマナトのほうを見ていると……、

「よくも、まあ……『アレ』をここまで再現できたな。逆に感心する……ん?」

「……子供?」

窓の外に女の子と母親がいるのが見えた。


『うわぁああああああんっ!!!』

『帰るわよ』

『だって、だって、ケーキがっ!!!』

『臨時休業ならしかたないじゃない』

『おたんじょうびだって、いってたのにっ!!!』

『ケーキなら別の店で食べれるでしょ? ほら、おうちの近くのケーキ屋さん、あそこで買いましょ!」

『やだっ、ここがいいのっ!!!』


店の前で大声で駄々をこねる女の子。

(…………)

さっきの女性達ではないけど、女の子もこの店を楽しみにして待ってたんだろう。でも、私がマナトに祝ってもらって『しまった』から、彼女はケーキを食べられなかったのだとわかってしまった。

(…………)

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
マナトは私に喜んでほしくて、この店を貸切にしたっていうのに、私のせいで他のお客さんがケーキを食べられなくなってしまった。そのことが本当に申し訳なかった。

「ーーーーっ」

マナトが立ち上がっていた。

「……あっ」


カラン、カランっ!


店のドアの音が鳴った。


「ほらっ、店の人に迷惑じゃない。家に帰るわよ……、えっ?」

「ねえ」

「ぇええええんっ!!!」

マナトが女の子に声をかける。でも女の子には聞こえなくてーーーー、

「ねえっ!!!」

「えええ、ーーーーっえ?」

もう一度今度は大きな声で声をかけた。すると、女の子に反応があった。

「うん、ちょっといいかな?」

マナトはしゃがんだままの姿勢で、女の子の目線に合うように、声をかけた。

「ケーキ食べたい?」

「……う、うん」

女の子は見知らぬ少年に声をかけられて、戸惑っているみたいだけど……、頷いていた。

「店に入ろっか」

マナトは女の子の手を取る。

「ーーーーお姉ちゃん、いいのっ!?」

「いいんですかっ!?」

マナトは女の子と母親に微笑んで、

「……行こう!」


そこからは一瞬だった。
マナトは女の子から食べたいケーキを選んでもらい、私のテーブルに並べられたケーキは、女の子と母親、私で食べておいてくれといい、厨房の中へと入っていく。
待つこと15分、……ケーキを食べ終わる頃には、マナトに呼ばれレジのカウンターへと呼ばれていた。

「3時間以内に冷蔵庫へ……、娘さんは今日で何歳ですか?」

「4歳です」

「では、蝋燭の方を四本、箱の中に入れておきますね」

笑顔で蝋燭を入れていくマナト。

「あっ、あのっ!?」

「なんですか?」

母親やそんなマナトを見て声をかける。

「本当によかったのでしょうか?」

それはきっと、臨時休業だったのに、無理矢理店を開かせてしまったことに対して、聞いてるんだろう。

「本来であればやってはいけない行為です。『店の前で子供が駄々をこねれば通用する店だ』……そう捉えられない危険性があります」

「……ならっ!?」

「今回だけ、今回だけですので、……絶対に今回の件を流布しないでいただきたい。『『俺』の気が変わった』ただそれだけの話ですから」

「ーーーーっ!?」

笑顔でケーキの入った箱を渡すマナト。

「おねえちゃん、ケーキ屋さんなのっ!?」

「うん、そうだね」

あっ、女の人と間違われてる。

「ケーキ、ありがとうっ!!!」

「おいしく食べてくれれば、それでいいよ」

「うんっ!」


「ありがとうっ、ありがとうございましたっ!!!」

「ありがとうおねーちゃんっ!」

感謝する親子。

「わたし、おねーちゃんみたいなケーキ屋さんにぜったいになるからねっ!!!」

こちらへと女の子が手を振っている。

「ぜったい、ぜぇーっったいなるからねっ!!!」

姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。



「……ありがとう」

日が暮れる中、私はマナトにそう言った。

「なにが?」

マナトはそう言ってるけど、顔は少し赤い……恥ずかしいのだろうか? でも、私は言うのだ。

「あの子にケーキをあげてくれたことに、だよ」

マナトはきっと私のためにケーキを作ってくれたのだと思ったからだ。

「別に、気が変わったっただけだよ」

マナトは私の言葉に『気が変わった』と、そう言った。

「気が変わった?」

「特別な日ぐらい『家族』と笑顔で過ごしたいだろ?」

ありふれた理由……だけど、マナトにとってはそれがとっても大事なことのように聞こえたんだ。

「……っ、そっか」

それが、そのことがとってもうれしかった。

「相変わらずお人好しですね」

「違う」

いつのまにか、店員さんが笑ってそう言って、マナトが恥ずかしそうにそれを否定する。

「お人好しだよね」

「違うってっ!!!」

私は店員さんに笑って同意した。


「あははっ!!!」/「うふふっ!」


「ーーーーっ、早く店の中に戻るよっ!!!」

マナトは笑う私達に背を向けて、店の中へと入っていったけど、

「やっぱり、お人好しです」

「そうだね」

やっぱり、マナトの顔は赤かったんだ。
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