(つまらない)
贅を尽くした料理も、豪奢を極めたような会場も、美男美女を揃えた人脈も、全部が全部無駄でしかない。
「だからこそ、えー……」
無駄な時間だ。
今日は『予定』があるというのに、台にの上に登った『
(抜けるか)
「駄目や」
覚悟を決めた瞬間、隣にいるピンク頭に止められる。
「……まだ何も言ってないんだけど」
「どーせ、会場から抜け出そうとでも考えてたんですよね。わかっとりますよ」
(……ちっ)
隣にいる友人兼、監視兼、秘書は既に奴の手の者になっている。信じることなど出来ない。
「挨拶回りやってすぐ終わるんやから、もう少し落ち着いてください」
「知るか」
「……ハァ」
溜め息を吐く寿。
「溜め息を出したいのはこっちなんだが」
「仕事抜け出そうとするどーしようもない人を監視するウチの身にもなってくださいよ」
「こんなくだらん演目に付き合ってられるか」
付き合ってなんかいられない。
現在の時刻はAM10:30、約束の時間なんてとうに過ぎているのだから、早く出られないかと焦っているぐらいだ。
「そんなことを言うとるとーーーー」
不穏な言葉が聞こえてきた……そのとき、
「ねえ、あんたッ!!!」
「俺、ちょっとお手洗いに行ってくる。寿、あとは頼んだ」
「待ちぃ」
「ぐえっ」
すぐさま逃走をはかろうとするが、首元を掴まれ、止められてしまった。
「許嫁ほっぽってどこいくねん」
寿から聞きたくない言葉が聞こえてくる。
「許嫁ぇ、あのチャバネゴキブリのことか?」
「ーーーーうっ!?」
チャバネゴキブリが一歩下がる。
「女の子に殺気むけんな」
頭を軽く叩かれる……が、そんなもので動揺するつもりはない。
「向けられるようなことをした奴らが悪いだろ?」
第一、お前だってそう思ってるくせに……、と視線を送る。
「…………」
「…………」
俺を諌めるような寿の視線と俺の視線が交わる。信用も信頼もする必要がないのに、なぜ怒るのか理解できない。だいたい、こいつらはーーーー、
「ねえ、貴方達」
げっ、今度はゴキブリかよ。
「じゃあ、お手洗いに行ってくる」
「どこいくねん」
ーーーーさっ、と寿の腕から避けて逃げる。
「トイレだっ!!!」
ただでさえ、チャバネゴキブリと対峙してるのに、ゴキブリと金髪に関わってたらストレスが溜まる。逃げるのが吉だ。
「……逃げられた」
「逃げられたわね」
「逃げられましたね」
「うっさいわ、ぼけぇっ!!!」
4人の声が聞こえてくるが、すぐさま『逃走経路』のは確認を行った。
「……監視員、ちゃんと戻ってきとるか?」
『彼』につけた監視へ連絡。
『戻ってきてますね、服装も見た目も全く同じです』
その返答に内心ホッと胸を撫で下ろした。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
原因の黒髪と茶髪のお嬢様にそう声をかけられる。
「うっさいわ、ボケ」
原因が何言っとるんやとしか思えない。むしろ、このまま逃走しないか不安しかない。
「他所の使用人がかぐや様と眞妃様になんて口を聞いているのですかっ!?」
「いいのよ、早坂」/「別にいいわよ、これぐらい」
金髪に諌められるが、四宮と四条のお嬢様は食いつかない。四宮はともかく四条は食いついてくると……、
(……むっ!?)
雰囲気が変わったのに気がついた。
「随分と表情が変わったんやな、……なんや、恋でもしたんか?」
ウチは軽くジャブでも……と思っていたんやが、
「ーーーーふぇっ!?」
「ーーーーっ!?」
思った以上に反応が返ってきおった。
(……へえ)
その姿にいらだちを感じる。
「四宮と四条の
ただでさえムカつく相手やというのに、タイトくんのことを思うと、さらにムカついてくる。
「……浮気」
「浮気なんてしてないわよ」
『そういう』ところがむかつくんだよ。
「そっちが強引に取り付けた『許嫁』やろ? やったらそう言われて当然やないか?」
四宮と四条が『まだ』許嫁であるのには、末堂マナトとしての立場が関係しとる。でも、それ以上に、ウチの好きな相手に嫌われているくせに『家の格』しかないこの女がいまだに『許嫁』であることは納得してない。なんだとかいかないんや……本当に、
「……、そう、ですね」
「…………」
沈痛な面持ちをしとるとこ悪いんやけどな、
「やったら、もう少し自分の行動を顧みたらどうなんや? マナト『くん』はあんたらのこと毛嫌っとるで……、ウチもやけどな」
「ーーーーッ!?」
『ウチ』もあんたらみたいな『ゴキブリ』は嫌いなんや。ほんまにな。
「それ以上は主君への侮辱にあたります。いくら『カミシロ』でも、今は四宮と四条を同時に敵対できるほど、余裕はないはずです。撤回を求めます」
……はっ、なにも、なんにも解っとらんなこの金髪は、
「撤回? ふざけてんのか? ……ぶち殺したるで」
『今すぐ』、この会場ごとぶち壊してもええんやからな?
「「「ーーーーッ!?」」」
左手元をスーツのポケットに入れ、『デジヴァイス』を握りしめる。
「
本気のホンマの殺意で睨みつける。
「……どうやら本気のようですね」
取り出したのはカミシロ製どころか、2から3世代前のスマートフォン。警備員でも呼ぶ予定か、はたまたそのスマホに何かハッキング機能でもついとるのかはわからん……わからんが、
「そんな旧式ひっぱり出してどうするんや? 何かしてみぃ、あんたらの日常1時間も立たず更地にしてやるからな」
不穏な動きを少しでも見せたらどうなるのか、動きを見せた時に目にものを見せるように『ーーーー』に秘密の指示を出す。
「…………」/「…………」
金髪と私の視線が重なった。
(かぐや)/(マキさん)
会場に緊張が走る。
以前、いや、この許嫁連中が集まったら毎度やっていることなので、またか……と思う反面、もうやらないでくれ、というのが参加者……いや、プロジェクトに加わりたい『小判鮫』どもの本音だろう。
(…………)
いらだちと怒り、そして99%の嫉妬が混じった内心の嫌悪感が引き金を引こうとした、その時、
「
「ーーーーあいたっ!?」
「「「ーーーーッ!?」」」
頭に衝撃が走った。
(誰や、こんなこ……と、)
誰がこんなことをしたのかと振り返ると、……そこにいたのは、ウチらの黒髪のお姉様やった。
「駄目ですよ。そんなことを言ったら」
お姉様……いや、神城悠子はプンプンと怒りながらウチを見る。
「……やけど、お姉様」
「『やけど』じゃないです。謝りなさい」
「………つーん」
「……貴女って人は」
それだけは聞けない。それだけは聞けないのである。ウチが欲してやまないその地位を、『ただそこに産まれただけ』という理由で手にしているこの泥棒猫達だけは許せないのである。
「……『悠子』様」
「おひさしぶりです。四条さん、四宮さん、早坂さん……で、あってますよね?」
「はい、早坂愛と言います」
お姉様が金髪に声をかけとる。
わざわざ声なんかかけんくっても別にいいのに……、ホンマにこの人は、と思わなくもないが、この人の危険も考えすぐに金髪との間にいつでも入れるように、姿勢を変える。
「それで、……なしてこんなとこにおるんですか。お姉様は」
十数分前にお姉様の挨拶は終わって、すぐにこの会場を出る手筈になっとった。しかし、目の前にお姉様がおる……これはいったいどういうことや?
「弟の顔を見に来たんですけど……、寿さん、マナトくんはどちらに行きましたか?」
……そういえば最近、マナトくんとお姉様が会っていないことを思い出した。
「マナトくんなら、トイレに……ん?」
「あっ、マナーーーー、ッ!?」
視界の端に、見覚えのある、顔……、ーーーーッ!?
「来たようね」
「来たようですね」
(……2人の様子がおかしい)
「
どーやら、お姉様も気がついたらしい。
「えっ、何するんですかっ!? 姉さんっ!?」
「早くっ!!!」
お姉様とウチは『ソレ』の腕を掴んで、無理矢理『カミシロ』の控え室へと連れていった。
「……ここ、ですか」
彼女らを追って5分……、主催者用の控え室まで辿り着いたのはいいものの……、
「早坂、中はどうなってるのかしら?」
「早く教えなさいよっ!
背後の2人がうるさい。
(ここからじゃ中はわかりません。ハッキングして、部屋の中を調べようにも……)
スマホを使ってハッキングしようにも、なかなか進入ができず四苦八苦してしまう。
「セキュリティは侵入できないみたいね」
「慌ただしくなってきたわねっ!?」
御二方はなかなか声を抑えてはくれません。
(小声でお願いします!!!)
そんなことを思いながら、控え室のドアの方を遠目に見てみると……、
「あっ、部屋のドアが空いて隙間が見えます!?」
ドアを開け忘れたのか、少しの隙間から中の様子が見えて……アレ?
「……顔を腫らした白塗りの男?」
真っ白に顔を塗った男が、『末堂マナト』の服を着て正座してるのが見えた。
「なんで、あの男の服を着てるの?」
「まさかっ!?」
お嬢様2人も気がついたらしい。
(しぃー)
お2人に声を出さないように指示を出して、中の様子を聞いていく。
『また、変装していやがったなっ!!!』
『ああ、もうっ、……あの子はどうしてっ!?』
『なにぃっ!? ……末堂マナトが東京中に現れたやとっ!?』
『……へへっ!? 今回も逃げさせていただきますよ』
『……ちっ、探し出すんやっ!!!」
『顔は女顔、茶髪で髪を結んどる。肉つきは細めやが、身体能力は高い! あと、映像に送ったスーツは着とらんから注意するんやっ!!!』
『草の根分けても探し出せっ、いいなっ!!!』
どうやら、中は戦場になっているみたいで……?
(((もしかして、逃げられてるっ!!!)))
末堂マナト、脱走に成功していた。
2016/8/3 AM9:30
「開始まで、3、2、1……、スタート!」
カミシロのとあるサーバ。
そこに、赤い鳥の声が響き、撮影開始の合図が告げられ、それと同時に私の声とアクアの声が交互に響き、ナレーションとして流れ始める。
『その日私達は、『EDEN』にあるとある存在に出会った』
『その日俺達は、『EDEN』の未来に関わる仕事を請け負った』
『『デジタルモンスター、通称『デジモン』』』
『私達の生活に欠かせなくなった『EDEN』』
『その中に生まれた新たな
『私達は知るべきだろう『デジモン』のことを』
『俺達は知るべきだろう『デジモンと関わる人々』のことを』
『『……だから、今』』
『『私達/俺達は『
そのナレーションと共に、暗い部屋にスポットライトが当てられる。
「……で、私達はなんでここにいるわけ?」
有馬かな/アイドルグループ『B小町』の2代目リーダー。
「かなちゃんもここに来たんだ」
黒川あかね/舞台役者。劇団ララライ所属。
「ふーん、あんたも来たのね」
「かなちゃんこそ、役者の仕事がなくなって、次はアイドル……仕事がないからって節操がないんじゃない? 暇なの?」
「なんですってっ!?」
2人は役者時代からのライバル関係にある。
「まあまあ落ち着いて」
「黒川さんも落ち着いて」
MEMちょ/現役のDegiTUber兼、『B小町』のアイドル。年齢は……18歳、らしい?
不知火フリル/女優兼、歌手兼、タレント……、マルチタレント。事務所やカミシロに仕事を回すよう強引に取引をした。
「なんでパイセン怒ってんの? もうすぐ時間だよ?」
「あかね……、ルビーの言うとおり時間が近づいている。少しぐらい静かにしたらどうだ」
星野ルビー・星野アクア/アイドルと役者の兄妹。このバラエティの主役の2人……、
「だって、こいつがっ!」/「だって、かなちゃんがっ!」
「「はいはい、こっちにいくぞ(いくよ)〜〜」」
2人のストッパー的役割もある。
「……てか」/「……というか」
「「なに、このモノローグっ!?」」
……バレたのでありますな。
「失敬っ!」
────ドロンッ!
「自己紹介をいたしますぞ」
赤い鳥がナレーションをやめて撮影に参加する。
「拙者の名は『ムーチョモン博士』……ですぞっ!」
メガネをくいっとあげ、だぼだぼの白衣を着流す赤い鳥、ユ……ムーチョモン博士が目の前に現れた。
「知ってるわよ」
空気を読まずにかな先輩がそう言ってしまった。
「もちろん! ……ですが、テレビでご覧のみなさま方はご存知ないのでは?」
「……まあ、そーね」
先輩とムーチョモン博士との会話、その中に含まれる意味。そして、撮影はリハーサルどおりに進み始める。
「だったら、自己紹介は必須であると思うのですぞっ!」
誰かを魅了するように
「では、自己紹介の続きを」
演劇の役者のように大袈裟に身振り手振りを彼は始める。
「拙者の名は『ムーチョモン博士』……、画面の前のみなさまに伝わるように言えば、モノローグに出てきた『デジモン』の一種なのであります!」
そして、私のセリフだけ。
「『デジモン』?」
たった一言、それだけのセリフでデジモンとは何かと、『デジモン』本人に聞くという動きを行った。
「我ら種の名は『デジタルモンスター』、通称『デジモン』。まっ、『EDEN』から生まれた『電脳世界』の存在って考えていただければ、問題ないのですぞ!」
「……で、そのデジモンを『カミシロ』はどうしたいっての?」
次にアクアのセリフ。
初めてのバラエティにセリフのひとつひとつが緊張してしまう。アクアの様子が慣れているぶん、同じ役目である私は自然体でなければいけないのである!
「『カミシロ』の生放送をご覧になった方ならわかると思われますが、『カミシロ』は今、とぉ────っても、困っているのであります!」
そしてここからムーチョモン博士の独壇場が始まるのだ。
「『デジモン』が現れた。人間の精神データから生まれた存在だっ! しかも、『EDEN』の至る所に生まれて、ハッキングだって好き放題できる!」
「世間からの評価はどうでありますか? 『ハッキングして、データやアカウントを奪うウィルスだ!』。『とても危険? 危ない?』。『ハッカー達のウィルスらしい』。……そんな、疑念に満ちていると思われます」
「日頃の行いのせいじゃない?」
「『ハッカー』のデジモン『の』日頃の行いのせいではありますが、『EDEN』で普通に暮らしてる拙者みたいなデジモンには迷惑千万なのであります!」
(……すごい)
身振り手振りだけじゃない。
かな先輩はムーチョに合わせてバラエティにも慣れている。やけに誇張した動きはムーチョモンの過剰な演出の雰囲気にぴったりだった。
「……で、私達は何をすればいいわけ?」
かな先輩が本題に入った!?
「そんなの決まっているのであります!!!」
ここで、あのセリフが来る!?
「『デジモン達を守ってほしい』のであります!!!」
『EDEN』の空間に大きく浮かび上がったその言葉は、視聴者どころか何度も見た私達にもなんども強い印象を与えた。
「デジモン達を守る?」
「そうであります!」
フリルちゃんが顎に手を当て、ムーチョモンがその質問に答える。
「デジモン達の評判は悪い……、でありますが、『カミシロ』としては、人権があやふやな存在には手を出しにくいし、手を出したくない。ただのデジモン達からしてみれば、『ハッカー』なんて迷惑そのもの……、これ以上目の敵にされたくないのであります!!!」
「……つまり?」
「貴殿らには拙者達の『イメージアップ』を行なっていただくのであります!!!」
ムーチョモン博士が独壇場ではあるけど、その場その場で話が進んでいき、ムーチョモン博士の後ろにホワイトボードが現れる。
「このホワイトボードに貼られた依頼書の山。ここには『EDEN』で発生したデジモンに関するトラブルがたくさん依頼として舞い込んできてるのであります!!!」
ブワッと現れる紙の束。
「それらを貴殿らのパートナーデジモン達と一緒にクリアして、世間のイメージアップに努めてもらうのでありますぞ!!!」
「……で、デジモンはどうすればいいの?」
「そ、れ、はっ!」
────デデンッ!!!
「「「────ッ!?」」」
私達の足下、白の床から現れたのは私の変化した初代デジヴァイス……が、6つッ!?
(いや、アクアと教授……、フリルちゃんのも合わせて、3つ。たしかにカミシロに一時的に預けてたけど……預けたの今日の朝なんだけどっ!?)
いや、ここは心を落ち着かせるべき……アクアもフリルちゃんも落ち着いてるし、まず私が落ち着かないと、
「こちらを触っていただくのでありますっ!!!」
そう促され、私は目の前の初代デジヴァイスを手に取る。白と赤色のデジヴァイスが私の手の中に収まった。
「これは、なに?」
フリルちゃんは彼女が持つ白と黄緑色の初代デジヴァイスを手に取って、『まるで初めて触る』かのようにツンツンとフレームを叩いた。
「これの名前は『DIGIMON』『DETECT』&『DISCOVER』を略して、『D-3デジヴァイス』、通称『D-3』なのであります」
(……って、解析が済んだのっ!?)
だめ、だめ……目を見開かない。まだ、まだ撮影中だ。落ち着かないと……うん、ここでの私の役割は、
「『デジモン』、『でてくと……?」
さっきの言葉の復唱……だけど、英語の意味がわかんないよぉ〜〜っ!?
「『DIGIMON』『DETECT』&『DISCOVER』だ」
ナイス、アクア!
さすが元産科医っ、あったまがいいっ!!!
「『デジモン』を『検出する、見つける、発見する』と『見出す、発見する』? 意味が被ってるわよ、頭悪いんじゃないの?」
……アレ?
「うーむ、これに関しては、『デジモン』を『検出し』、『見出す』が正しいんじゃないのかな? ……でも、それでも意味は被ってるけど」
……おかしい。
「『
アクアやあかねちゃんはともかく、なんで先輩やMEMちょが話についていけてるの〜〜っ!?
「……なるほど」
とりあえず、話を進めて1人だけついていけてないことを隠さなくちゃ……、
「そんなのはどうでもいいから、……ねえ、ムーチョモン博士。その『D-3』はデジヴァイスと何が違うの?」
「通常のデジヴァイスとは違い、『D-3』はデジモンを進化させることができるのであります!」
「……進化?」
あれ、それって初代デジヴァイスと変わんなくない?
「デジモンにはいくつかの形態があるのであります」
ムーチョモン博士がホワイトボードを叩くと、ホワイトボードが一回転して、ホワイトボードの内容が変わっていた。
「幼年期Iと幼年期II、成長期、成熟期、完全体、究極体の順に強くなるのであります」
絵に描かれているのは、黄色の液体? みたいなデジモン、鋼のヘルメットを被ったデジモン、歯車が集まったデジモンに、茶色いロボットのデジモン、THE サイボーグみたいなデジモンに、大きな2本の大砲を背負った機械のドラゴンみたいなデジモンが、幼年期I〜究極体までの順に描かれている。
「えっと、なんてった?」
MEMちょが聞き取れず、再確認する……けど、
「幼年期Iと幼年期II、成長期、成熟期、完全体、究極体の順に強くなるのであります」
「……多いんだけど」
(ついていけてない気持ちはしょーじきわかる)
3回聞いても理解はできなかったから、その気持ちは痛いほどわかってしまった。
「わかりやすくドラゴンボールで例えるのであります」
「幼年期IやIIが子供時代の悟空、成長期がラディッツと戦った頃、成熟期がスーパーサイヤ人で完全体がスーパーサイヤ人2、究極体がスーパーサイヤ人3……と、言えばなんとなくわかるでありますか?」
ムーチョモン博士は各デジモン達をポインターで叩きながら説明していく。
「うーむ、なんとなくだけど」
「うん、わかりやすかった」
男子と女子ではわかりやすさに違いはあるけど、……って、パイセン。うんうんって頷いてるっ!? 本当にわかってるのっ!!!
「……で、私達はその究極体? スーパーサイヤ人3を目指して強くなればいいってわけね」
「そうでありますな」
ドラゴンボール知ってたんだパイセン。私アクアに紹介されるまで読んだことなかったのに……、
「でも、どうやって強くなるの?」
「それが結構難しいのであります」
「……難しい?」
かな先輩とムーチョモン博士の言葉に疑問を感じる。
(戦い続ければ強くなるって、タイトが言ってた気がする)
何か忘れてるよーな気がするけど、タイトに言われたとおりに、実際に戦って強くなってきた私からすれば、その言葉には矛盾が存在した。
「デジモン達が進化するには『強くなった
ムーチョモン博士の言葉の意味がわからない。
「強くなったデータ?」
データって、データってなに?
「そう、……強くなった
ホワイトボードを再び叩く。すると、そこに表示されたのは、さまざまな動物の絵だった……って、
(人間の絵が真ん中にある、けど)
世界地図の中に、日本と黄色人種、イギリスと白人、アフリカと黒人と色で分けられた絵が描かれている。
ホワイトボードの絵が変わった。
黄色人種には四季が、白人には氷と冬が、黒人には砂漠と太陽が……それぞれの住んでいる場所の特色と、ひとつの種類の猿に線で繋がれていく。
「このように住処の環境や天敵の有無、自然災害や食糧の違い等、さまざまな
あっ、人間の進化の絵だったんだ。ようやくその流れで意味が掴めた……なら、次の言葉は、
「
デジモンの進化の意味の違い、だよね。
「データを自己解析し、必要な手段を考案、ネットワーク上で構成している
…………。
「普通のハッカーならば、『進化するまでがんばる!』っていうのがデフォルトなのであります……ですが」
るびー難しい話がわかんない。
「『
(……D-3)
ムーチョモン博士が強く推す『D-3』を見て、変わらないんじゃないかと思ってしまう。
「(試作機ではありますが)D-3の力は無限大っ! デジモンが影響される
(……言ってる意味がわかんないんだけど)
(つまりは、日常でデジモンと過ごした時間や思いの数でエネルギーを生み出して、戦闘時に進化できる程のエネルギーをデジモンに与えるということ、か?)
(────理解してるのっ!?)
(……というか、なんか今、不穏なことを言った気がするんですけどっ!?)
よかった話についていけてない人(先輩)が……って、アクアが理解してるっ!?
「……『擬似的』とは、いったいどのような意味を持つのでしょうか?」
「素晴らしい質問でありますなっ、あかね殿っ!!!
D-3は未来に辿り着くであろうデジモンの可能性を『一時的に』引っ張ってくることができるのであります!!!」
あかねちゃんがなにか聞いてるけど……進化って、デジヴァイスが生み出すものなんじゃないの?
私は『そういう』進化しか見たことないから、わかんないけど……あれ、あかねちゃんはデジモンの話を今聞いたばかりだよね?
あれ、あれぇ〜〜?
「未来で辿り着く?」
「デジモンの可能性?」
話についていけない。
「……簡単に言いますと、進化の前借りをするということであります」
ムーチョモン博士がわけがわからないという私達の顔を見て呆れたように補足を始める。
「進化の前借り……ですか?」
「進化したいデジモンになるかはわかりませぬが、今の自身の力量とそれに合わせたパートナーの意思の強さ、継続してきた戦闘データ……それらに、周囲の環境下の影響をプラスして、限界を超えた力を引き出すのが、D-3なのでありますっ!!!」
へえー、なんかすごい話してるぅ。話についていけないので、私はリタイアしよう。
「……副作用がありそうな話だな」
副作用っ!?
「副作用については実験済みであるので問題ありませぬ。しかし、自身の限界の一歩その先までしか力は出せないので、……それについてはあしからず……といったところなのですぞ!」
……よかった、ブイモンをなんども進化させてるから、アクアの言葉に焦っちゃった。ないならいいんだ、ないなら……でも、
「一歩先……か」
限界を超えるって言ったって、今のブイモンでデュナスモンぐらい強くなれるのかな?
なんとなくそう思ってしまった。
(その一歩がどれぐらいの力を生み出すかは、パートナーとデジモンの力量次第ってわけね)
(……うん、そーだね)
かなパイセンの明るい言葉にとりあえず頷いとく。
「それでは、事前に配られたデジモン達を出してくだされッ!!!」
ムーチョモン博士の声に合わせて、カミシロ製のデジヴァイスからデジモン達が現れたっ!?
「俺の名は『ブイモン』! ルビーのパートナーのデジモンだぜっ!!!」
蒼の竜のデジモン。額のVマークがチャームポイント!
「僕の名前は『ワームモン』。アーちゃんこと、星野アクアのデジモンだよっ!」
緑色の幼虫デジモン。口から糸を吐いて戦うデジモンだ!
「俺、『コロナモン』っ! カナと一緒によろしくなっ!!!」
炎のケモノデジモン。燃え上がる太陽。かつての有馬かなみたいだ!
「私、『ルナモン』。あかねのパートナーだよ」
きらりと光るうさぎデジモン。月に変わってお仕置きだ!
「……俺もやるのか」
やる気のなさそうなガブモンが現れる。
「俺の名前は『ガブモン』。フリルのお守りをやってる」
フリルちゃんのお守り役。実はフリルちゃんのデジモンではないという噂が……?
「…………」
愛想もなく黙っているツチダルモン。バラエティ向きじゃないんじゃないかな?
「この子は『ツチダルモン』。私のパートナーなんだけど……、ちょっと無口だから、よろしくねぇ〜〜、あはは」
彼の名はツチダルモン。相棒のMEMちょ、頑張ってくれっ!!!
「ちょっと、今のナレーションっなんなのよ! 今の私は燃えかすってわけ!?」
「知りませぬ、知りませぬぞ。拙者はただ台本読んだだけであります」
「じゃあ責任者呼んできなさいよっ!!!」
逆鱗に触れられ、パイセンが激怒する。ムーチョモン博士は焦っているみたいだけど……、
(あれ、たぶん運営がわざとやってるきがするんだよなぁ)
取れ高の為、そんな気がする。
「そして、リーダーとそのデジモンは一歩前へっ!!!」
「「────ッ、はいっ!!!」
パイセンをどうにか落ち着かせ、ムーチョモン博士が私達を急に呼んだ。
(あれ、こんな台本なかった気がするんだけど?)
台本にない流れに一瞬戸惑いながらも、私達は前に出る。
「リーダーのデジモンであるブイモンとワームモンは『特殊』なデジモンであります」
「……特殊な」
「デジモン?」
ムーチョモン博士からの発表……、これは、なにかサプライズがあるのかもしれない。少し胸が高鳴る。
「デジモンにはいくつかの種族があり」
ムーチョモン博士がホワイトボードを叩いて、見たことのある絵が浮かび上がった。
「コロナモンなら『ワクチン種』」
「ガブモンなら『データ種』」
「あと、オーソドックスなものは『ウィルス種』という種族があるのであります」
タイトに随分前に説明された『アレ』だ。
結局相性うんぬんはよくわからなかったけど、デジモンの種族に関する話だよね。
「この3つの種族以外にも『ごく稀に』違う種族が生まれることがあるのですぞ……たとえば」
「
「……フリー種?」
アクアが首を傾げる。
そうだよ、そーだよね! わけわかんないよね! ……私もわけわかんなかったし、アクアも存分に悩んでほしい。
「簡単に言えば、デジモン達の
うんうん……あれ?
(ブイモンとワームモンがプロトタイプ?)
(なにそれ、私聞いてない)
相性の話をするんじゃないのっ!?
「他のデジモンより『ただ』珍しいってだけですな」
「それで、ブイモン達とそれがなんの関係があるっていうの? わざわざ言うことじゃないじゃんっ!!!」
相性の話をしてよっ!
そっち、私の本命はそっちなんだよ!!!
「
「……ん?」
アレ、これは……、
「フリー種のデジモン。特に、とある一部のデジモンには『特殊なアイテム』で進化することができるのであります」
私の思い違いだった?
しかも私の知らないブイモンの情報が出てくるっ!?
「特殊なアイテム?」
「それがこの」
「『
「「デジメンタルッ!?」」
ムーチョモン博士の懐から現れたのは『赤色の角の生えた球』……って、アレがアイテム?
「人間やデジモンの『とある』感情データを圧縮してできた『デジモンを一時的に進化させるアイテム』なのですぞっ!!!」
自信満々に掲げられるソレは、なんというか、ものすっごく……、
(……なんか)
(すっごいダサい)
かっこ悪い形をしていた。
「そこっ、ダサいとか思わないっ!!!」
────ひえっ、また感情を読まれたっ!?
「……てか、それ、D-3でよくない?」
「D-3でも進化できるんだよね?」
かな先輩とあかねちゃんの方からそう聞こえる。
(……それもそうだ)
D-3でわざわざ進化できるのに、デジメンタルで進化する必要なんてない。むしろ、変なアイテム2つ(1つは自分のもの)を持ってても邪魔なだけじゃない?
そんな気がしてきた。
「残念ながら、そうとも限りませぬ」
……えっ?
「D-3の進化には人間側がなんらかの強い感情が発生しないと進化できないのであります」
「感情?」
……あっ!
「デジモンが進化するには、ものすごいエネルギーが必要なのであります。D-3はそれを日常的に集積することはできるのでありますが……」
「……そのエネルギーをすぐに作り出すことはできない、ですか?」
「そうなのであります」
ガジモンやファングモン、メガシードラモン、バイフーモンの時もそうだった。強い思いがデジモンを進化させる。なんで大事なこと忘れちゃってたんだ!?
「使えないじゃないっ!?」
「有馬殿、投げないでくだされっ!?」
先輩がD-3を放り投げる。それを見て叫ぶムーチョモン博士。
「でも、ハッカー達と変わらないんじゃないの?」
しぶしぶ自分のD-3を拾うかな先輩……変わらない。そんな気がするけど、……ううん、これは言っちゃいけない。私が言っちゃいけない言葉だ。
「それは違うのであります。カミシロ調べのハッカー達よりかは、かなり早く進化することはできているのであります……まあ、お互いを尊重できるようになり、信頼しあわなければ、進化の壁は突破できないのでありますが……」
「信頼ぃ?」
かな先輩はそう言って、コロナモンを見る。
「どうしたんだよ、カナ?」
(こいつと、……できるの?)
その目は疑心に満ちている。
「あかねっ!」
「がんばろうね、ルナモンっ!」
「うん!」
ライバルは良好な関係で、
「…………」
「がんばるよ、ツチダルモン!」
「…………」
(うまくいくのかな?)
チームメイトも案外相性が良さそうだ。
(…………)
それを見て、ムーチョモン博士が再びホワイトボードを叩いた。
「……ですが、デジメンタルは違うのですぞ!」
「そこのおふたり、この8つの中からデジメンタルをひとつ、選んでほしいのであります」
ムーチョモン博士は白衣の懐から、8つのデジメンタルを取り出した……ん?
「どこにそんなモノを入れるスペースがあるのよっ!?」
「それは企業秘密であります」
子供の頭1つぶんぐらいのアイテムを、データとしてではなく実体として持ち歩くムーチョモン博士。その白衣の謎は多い。
そんなナレーションが聞こえつつも、目の前に現れた8つのデジメンタルに頭を悩ませる。
「8つって……言っても」
赤に黒に黄色に、白色、猫っぽいやつもあるし、忍者っぽいのも……うーん、悩む、悩むけど……うーん。
「ルビー、これにしようぜっ!!!」
ブイモンが黒い長細い奴を持ち上げた。
「────あっ、何勝手に選んでるのっ!?」
もっと悩みたかったのにっ!?
「あっちは決まったようだな」
「俺達は……、これにするか」
「赤いのだねっ!」
「これがオーソドックスみたいだしな」
アクア達はどうやらムーチョモン博士が持っていた赤色の球体を選んだみたいだ。
「────ほう」
ムーチョモン博士の目が怪しく光る。
「────ッ、なにっ、ユ……、ムーチョモン博士?」
つい、ほんみ……ううん、博士の名前を呼びかけた……かけたけど、咄嗟のところで踏みとどまれた。
「お2人はそれでいいのでありますな?」
最終確認が入る。
「……触っちゃったし」
「俺達はこれに決めた」
私は不本意だけど、アクア達は決まっちゃったししょうがないよね。
(無意識か、……はたまた偶然か……、そんなことはどうでもいいのでありますな)
ムーチョモン博士が小声で何か言った気がしたけど、
「では、これを掲げてこう言うのであります」
ムーチョモン博士は黄色のドリルのようなデジメンタルを持って、
「『デジメンタル、アップ』ッ!!! ……と」
すっごい、ダサいセリフを言ってしまった。
「……えっと」/「…………」
私達はそれを見て……、
「さあ、早くっ!!!」
(……叫べよ)
(アクアこそ)
(あんなダサい言葉叫べるかっ!?)
(ヒーローぽくっていいじゃんっ!?)
(でも、ダサいんだよっ!?)
押し付け合いを始める。
仮にも、仮にもアイドルだよっ!
アイドルがあんなもの持って、『デジメンタルアップ』なんて、だっさいセリフ言えるわけないじゃんっ!!!
「こそこそしゃべってないで早くするのであります」
あっ、これは無理だ。
ムーチョモン博士の目が、ピエモン戦前のタイトに向ける視線ぐらい冷たかった。全力でやらねば、首が切られるどころか、彼に何をされるかわからなかった。
「……っ、うっ」
「…………、一緒にいくぞ」
「……うん」
その視線を受けて、2人で覚悟を決める。
(あー、言いたくない。言いたくないっ!!!)
「デジメンタル」/「……デジメンタル」
ええいもう、やけだ!!!
「「アップッ!!!」」
「ワームモン」/「ブイモン」
……すると、デジメンタルが輝いて、
「「
ブイモン達に吸い込まれていく。
ワームモンが炎に燃える。
燃えて、燃えて、燃え上がり……ひとつの太陽が降り注ぐ。
ワームモンの腕、足、頭に燃える炎が形となり、鎧兜が姿を合わす……まさに、その姿は、
「
勇気の太陽であった。
ブイモンの体に蒼の雷鳴が降り注ぐ。
稲妻は周囲を降り注ぎ、地面に雷、対極の印を刻み込む。
ブイモンの体は黒く焼けこげ、雷鳴とともに真の姿を表す……その姿は、まさに、
「
雷の権化であった。
「…………」
(これって、あのときのっ!?)
アクアは思い出していた。
小さな頃に一度だけ見た黒い竜のその背中を、
「やっぱり」
ただ、私には────、
「デジモンの姿が……」
「変わった?」
周囲が驚いている。
「アクアッ、すごいよっ!?」
「ワーム……、いや、シェイドラモンだったか?」
「そうだよっ、すごいんだよっ!!!」
「空だって飛べるし、こんなことだってできるっ!!!」
シェアドラモンは喜びながら空を飛び、
「『フレアバスター』ッ!!!」
空間内に炎の球を叩き落とした。
「────おおっ!?」
アクアは目に見える変化に驚いている。
「すっごく強くなってるんだよ、アクアっ!!!」
「……そうだな」
……ただ、
(ひさしぶりに進化した気分はどうかな、ライドラモン?)
私は確認の為にライドラモンに聞く。
(駄目だ、よくてブイドラモンとおんなじぐらいだ。今の俺じゃ、メガシードラモンにだって勝てない)
(……そっか)
ライドラモンの分析、それは事実として重くのしかかった。
(この世界にも究極体はいる。もっと、もっと強くなんなきゃいけない)
そんなことを決意せざる得ないぐらい……、私達は弱くなっていた。
「えっと、これって進化したんだよね?」
あかねちゃんがムーチョモン博士に聞いた。
「これは『アーマー進化』。デジメンタルに記憶されたデータがブイモンとワームモンをアーマー進化させたのであります」
「どんなデータなんですか?」
「アクア殿は『勇気のデジメンタル』を、ルビー殿は『友情のデジメンタル』を使用したのであります」
2つのデジメンタルを見比べる。
「……勇気」/「友情?」
アクアはジュードのことを思い出して、秘密がバレるのを恐れた自分に、
ルビーは仲違いした友人を思い出して、あんなふうに戦った自分達に、
((似合わないな(ね)))
そんなことを思ってしまった。
「それでは、我々から貴殿らへのプレゼントは終わりましたので、本題を始めるのであります」
その言葉に背筋を伸ばす。この撮影の終わりが近づいてきたからだ。
「貴殿らには『EDEN』にあるさまざまな問題を解決していただくのであります」
私達はムーチョモン博士から聞いた目標、そして目の前にある依頼を思い出し、撮影に臨む覚悟を決める。
「その問題は依頼として、デジヴァイスで詳細を受け取ってくだされ。依頼受注版は、貴殿らに送ったD-3と接続していただければ、カミシロのデータベースにアクセスすることができるのですぞ」
D-3とデジヴァイスを接続して、データベースを開く。そこにはさっきムーチョモン博士が出したホワイトボードと同じものが、そこにあった。
「依頼を解決したらどんないいことがあるんですか?」
「依頼を解決数に応じて、各陣営にポイントが割り振られるのであります」
「ポイント?」
先日聞いた話を繰り返す。
あとは、私達がそれを繰り返して、撮影を終わらせるだけだ。
「そう、ポイントなのであります。アイドルチームと役者チームに分かれて、ポイントを集めていただくのであります」
……あっ、結局アイドルチームと役者チームの名前のままなんだ。
「それって、どっちが勝ってるとか発表されるわけ?」
「発表されますな」
……ん?
「じゃあポイントを集める為には、依頼をたくさん解決すればいいってことね」
それは、なんか違うような?
「そうではありませぬ」
「────あれっ!?」
あっ、パイセンがずっこけた。
「ポイントは依頼のランクによって変化するのであります」
「ランク?」
「いわゆる、難しさ……でありますな。たとえば」
ホワイトボードを叩くと、そこに絵が映される。
「ただのおつかいであれば1ポイント。戦闘が発生するのであれば2ポイント。同格の相手と戦うのであれば3ポイント……というように、依頼のランクによって割り振られるポイントが違うのであります」
おつかいの絵や戦ってる絵、ムーチョモン博士が膝をついている絵など、依頼の内容がわかりやすいように絵で表されている。
「わざわざ難しいランクを選ぶ利点はあるの?」
「あるのであります」
もう一度叩くと、ホワイトボードになにやら文字が……あれ?
(まるでゲームで買い物をするような画面が表示されてるんだけど……まさか?)
前回言ってたアレ、カミシロの会社の人から買うんじゃないのっ!?
「ポイントは依頼で集められるのでありますが、カミシロのデータベースで買い物をすることで減らすこともできるのであります」
「……買い物?」
「たとえば、この『デジメンタル』。ブイモンとワームモンしか進化できないのでありますが……」
『メニューに『デジメンタル』が追加されました』
「「────ッ!?」」
売店のメニューに選ばれなかったデジメンタルが追加されてるっ!?
「売店で売られるということ、でしょうか?」
「正解なのでありますっ!!!」
あかねちゃんがムーチョモン博士から言質をとった……でも、
「……これは」
(デジメンタルの争奪戦になるな)
アクア達は興味を惹かれてるみたいだけど、
(……でも)
(これは、いるのか?)
私達には興味が湧かない。
もっと、もっと、すごいアイテムじゃないと私達には惹かれないのだ……そう、たとえば、
「他にもデジモンの嗜好品や強くなると噂のアイテムも売られてあるのであります」
「「────っ!?」」
(────、ブイモンッ!?)
(ミラクル肉を、ポイントを集めてミラクル肉を買うんだよっ!!!)
ムーチョモン博士の話を聞き、ミラクル肉の追加を予感させる。
ミラクル肉……、それはデジモンを強くするアイテム。
ミラクル肉……、それはデジモンの進化には必須のアイテム。
ミラクル肉……、それは、
((再びデュナスモンへと返り咲くチャンスッ!!!))
「ねえ、かなちゃん」
「…………」
「ルビー達の目の色が……」
「MEM、見ちゃいけない。見ては駄目なのよ、あの目は」
「なにすんだよ、カ〜〜ナ〜〜ッ!!!」
あれ、パイセン……なんで、コロナモンの目を……ううん、そうじゃなかったっ!!!
「ムーチョモン博士っ!!!」
「なんなのですぞ、ルビー殿?」
「依頼を早くっ、依頼を早く受けさせてくださいっ!!!」
私達は早くデュナスモンに進化した(させた)いのだ。
「……………………、まあ、やる気に満ちてるのは、良いでありますな」
すっごい苦虫を噛み潰したようような顔をされたけど、そんなことはどーでもいい。
「「早く、早く、早くっ!!!」」
「「「……うわぁ」」」
周りにドン引きされてるようだけど関係ない。早く、早く過去の栄光を取り戻すのだっ!!!
「若干2名が焦っているので、チームに分かれるのであります!!!」
────よしっ!!!
「星野ルビー、有馬かな、MEMちょの3人はアイドルチームっ!!!」
私達3人とデジモン達に赤いスポットライトが当たる。
「星野アクア、黒川あかね、不知火フリルの3人は役者チームっ!!!」
アクア達3人とデジモン達に青いスポットライトが当たる。
「3人組同士、パートナーデジモンとチームで協力して依頼をクリアしてくだされ!!!」
「「「はいっ!!!」」」
ムーチョモン博士からの指令が出た。
「それでは、開始の宣言をするのでありますっ!!!」
そして、私達のデュナスモン進化育成計画が始まったのだった。
“勇気のデジメンタル”のパワーによって進化したアーマー体の昆虫型デジモン。正確には昆虫人間型の姿をしているが、その姿は凶々しく“勇気のデジメンタル”が逆作用してしまい凶悪になってしまった。フレイドラモンのように炎を操り、格闘能力もほぼ互角だが、光と闇のように正反対の邪悪な存在である。必殺技は両腕から放射する灼熱の火炎『フレアバスター』。
“友情のデジメンタル”のパワーによって進化したアーマー体の獣型デジモン。“友情のデジメンタル”は“雷”の属性を持っており、このデジメンタルを身に着けたものは大地を貫く稲妻のような素早い動きで敵に立ち向かい、電撃を利用した技で敵を倒す。必殺技は稲妻を宿した頭のブレードから電撃の刃を放つ『ライトニングブレード』と、背中の3本の突起から強烈な電撃を放つ『ブルーサンダー』。
2016/8/2 PM2:00
「よしっ! 決勝戦に出場!!!」
「まだ、あと一試合あるのぉ〜〜」
「もう疲れたよ〜〜」
「ほらそこ、弱音吐かないっ! あと一試合勝ったら日本一なんだから、頑張るよっ!!!」
「「……おっ、おおーー」」
部長達の声が聞こえる。
決勝戦へと出場が決まり、全員で次の試合へとモチベーションを高めないといけないのはわかってる。
「…………」
だけど、私の心の中は暗かった。
「……ねえ、さっきからどうしたのよ。そんな暗い顔をして、さ」
「そんな顔してない」
部長にそう聞かれ、思わず強がってしまった。手に握るデジヴァイスに汗がつくのにも関わらず、それでも握る手は強まるだけ。
「部長、こいつさぁ……彼氏が『全国行けたら大会観に来る』って言われてたくせに、いまだに来てなくて怒ってんだよ」
「彼氏ぃ、……確か、男が来るって話をしてたよな?」
2人の会話に少しだけ腹が立った。
「まだ、彼氏じゃないです。友人です」
『まだ』友人でしかない。
「「『まだ』?」」
他に聞いていた部活のメンバーに揶揄われる。
「揶揄わないでください」
こっちは『彼』に早く来てほしいっていうのに……、焦燥といらだち、不安が胸に広がっていく。
「まだだって」
「かわいいね」
「…………」
揶揄われたことで頭に青筋が入る。
ーーー無限大な夢の跡の、何もない世の中じゃ、
「ーーーーッ!?」
デジヴァイスに着信が入った。
「着メロ?」
「誰のケータイっ……って、待ちなさいっ!!!」
部長の声を振り切って、アリーナから外に出る。私は会場の入り口まで全力疾走していった。
「ハァ、ハァッ、……ハァ、ハァ……」
走って、走って、走って……そうして、
「……まだ、」
デジヴァイスを見ながら、アリーナの入り口で待つ彼を見てスピードを上げて近づく。
「ねえっ!」
「ーーーーッ!?」
びっくりした様子の彼。
待って、待って、待ち望んだだけに、少しだけ胸が空いたような気分になる。
「……よかった、間に合ったんだ」
でも、間に合ったとでも言いたげな、そんな表情を見てしまったら、そんな気分も吹っ飛んでしまった……あっ、
「……っはぁ」
その場で思いっきり膝に手を置いた。
(マズイ、全力で走りすぎた)
後先考えずに走りすぎてしまったせいで、呼吸が荒くなる。みっともない姿を見せてしまって、思わず恥ずかしくなった。
「……大丈、」
彼は心配そうにこちらを見る。
「ゼー、ハー、ゼー、ハー」
でも、体に酸素が足らず言葉にできない。
「ぶじゃないみたいだね。ごめん、来るのが遅れた」
ううん、違う、違うんだ。
「ゼー、ハー……、っ、ううん、間に合ってるよ」
あなたは間に合ってくれたんだ。私の試合、私達の決勝戦に、
「今は……、決勝戦の時間だったかな?」
彼のそんな質問に息を整える。
「まだ、準決勝の途中だよ……、私達は決勝戦に出場が決まったから、対戦相手の試合の途中かな」
膝に手を当てた中腰の姿勢を直しながら、背を伸ばしていくと……ん、
「ーーーーっ!?」
彼が私から視線を外した。
「……、どうしたの?」
私は疑問に思って彼に聞くと、彼は私の服装に指を差した。
「いや、目のやりどころに困るなって」
…………あっ、ユニフォームのまま来たんだった!?
「ーーーーッ!?」
急いで体のラインを隠す。
生地が厚いからそこまではっきりと……は、見えないけど、身体のラインが見えている。正直言って恥ずかしい。
「とりあえずこれを着てくれ」
「……ありがとう」
彼が差し出した水色のアウターを借りる。
(へぇー、あんな女顔が好みなんだ)
(うっわ、マジで美人……、てか、美少女!?)
(あの子、どっかで見たことあるような……?)
背後の草むらからそんな声が聞こえてくる。
(うるさい!)
たぶん、部長達だ。
「あれはお友達かな?」
彼は同じユニフォームを着ている部長達をみつけ、私にそれを聞いてきた。あのユニフォームで出歩くのはやめてほしいけど……、
「…………うんっ、部長と副部長、それに同じ部活のメンバーだよ」
デバガメに来た部長達なんて知らないので、そのまま紹介してあげた。
「そっか、仲が良さそうでうらやましいね」
友人のことを思い出してるのかな? 彼は少し懐かしいような表情で部長達と私を見る。でも、
「マナトにはあの2人がいるじゃん!」
駅で困ってた2人がいるのに、なんでそんな表情をしたんだろ?
「あの2人はなぁ……、ちょっとなぁ」
「……むぅ」
なんか、かわいそうだ。あの2人だって、彼の友達だっていうのに……、
『準決勝、第二試合が終了しました。決勝戦まで休憩の為インターバルを挟みますが、選手のみなさんはアリーナの方で待機してください』
そんなアナウンスが会場に流れる。
「……あっ!?」
決勝が始まるみたいだ。
「準決勝が終わったみたいだな」
「……うん」
準決勝前のアップを始めないといけない。でも、
「…………」
彼が見てくれないと、ちょっと……ほんのちょっとだけ寂しい。
「決勝戦は見ていくから、がんばって」
ーーーー、
「うんっ!」
彼からのその言葉で元気が出る。
「それじゃあ、観客席の方に行ってくる」
彼から名残惜しいけど、手を離して、観客席へと向かう大きく彼に向けて手を振った。
「勝つよっ、絶対に勝つからねっ!!!」
その日、私達は優勝を果たした。