「ありがとうございますっ!!!」
「行くわよ、グレイモンちゃん!」
「グルァッ!」
ドスドスと歩いていく女性と角にピンクのリボンをつけたグレイモン。
(……これで、最後……か)
デジモンカイザーとの戦いが終わった後、デジモンを奪われたハッカー達がこのサーバに押し寄せてきた。洗脳されたデジモン達はパートナーへと帰り、その相手をしていたのだが……、
「大丈夫、アーちゃん?」
「ワームモン?」
「ハッカー達の相手1人でしてたよね? 疲れてないかなって思って……、ログアウトしよっ!」
「……そうしたいのも山々だが」
ワームモンが心配してきてくれた。
正直なところ、早くベッドで横になりたい気分だ……、しかし、
「「「…………」」」
俺を除いた他のメンバーは先程の戦いから復帰できていない。
(どう声をかけたものか……)
慕っていた仲間を奪われた2人。
手痛い反撃を喰らい、後悔する2人。
(どちらから声をかける?)
とは言え、もうやることもない。ここにいても意味がない。
「おい」
「……アクアくん?」/「アクア?」
「帰るぞ」
そう言って、あかね達の手を引く。他の2人も声をかけて……、
「……ルビー?」/「ブイモン?」
戦闘の跡地。
そこに立つ妹の背中は煤けていた。
『EDEN』に設けられた会議室にて、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
『カミシロ』へと帰った俺達は、沈黙に包まれていた。
「……ねえ、アクたん。ツチダルモン……ううん、ララモンはだいじょぶかな?」
まず最初に口を開いたのはMEMだった。
(ああ、そうか……、ユイに安否を聞いたのは俺だったか)
そう思いデジラインを開くと、ユイから資料とともに『大丈夫ですぞ』とスタンプが送られていた。資料の中には専門用語が多くて流石にわからない点もあったが……、
「命の危機はないらしい……ただ」
「ただ?」
「本来成熟期のデジモンが成長期に退化するぐらいのダメージを負ったことが問題らしい」
問題点として挙げられたのはそれぐらいだった。
「……どこが問題なの?」
MEMの疑問にユイの資料から読み取れる内容を声に出しながら確認していく。
「ツチダルモン自体、成熟期として安定していたらしい……、そして、体内のエネルギーを、命を守る為に退化しなければないらないほどのダメージを負った。つまりは、成熟期として活動できるエネルギーを成長期レベルまで縮小しなければならないぐらい大きなダメージを負ったことが問題らしい」
「…………?」
駄目だ。MEMには伝わってない……、と言うか俺にも詳細はわからない。だが、これだけはわかる。
「『カミシロ』のデータバンクに『前例』があったことが幸いだった。治療は滞りなく済んだみたいだが…………」
『成熟期に戻るのは難しい』
ただ一言。
たった一言その言葉が重くのしかかる。
「…………」
MEMが資料を除く。
その最後の一行に、そう一言書かれている内容を見てしまった。
「ふーん」
そして、MEMから出た言葉は……、
「なら…………よしっ!」
「えっ?」
思ったよりも元気にMEMはそう言った。
「MEM、本当にそれでいいのか?」
俺の口からそんな言葉が出てくる。
『成熟期に戻るのが難しい』……、つまりは、ツチダルモンになることはできなくなるかもしれないという意味をMEMは理解しているのかわからなかったからだ。
「それぐらいならだいじょーぶ。ツチダ……、あはは、まだ名前にはなれないけど、ララモン大丈夫なら私はそれでいいよ……、それより、あかねとかなちゃんはあんな感じだし、フリルちゃんはガブモンとどっかに行っちゃった……ルビーは」
思ったよりもMEMは落ち着いていて、他のメンバーにも目が向けられていたことに気がついた。そして、MEMの言う通り、
「「…………」」
ルビーとブイモンはドアを睨みつけながら、誰かが来るのを……、いや、ユイが来るのを待っている。
(あの2人の考えていることは……)
予想はつく。
だが、確証もない上、あの目はどこかおかしい。
(何かに執着している者の目だ)
前世の……、雨宮五郎だった頃。何度かあの目を見たことがある。
命に執着する老人。
赤子に縋る母。
糖分やアルコールを求める患者。
そのどれかに似ていて、そしてどれにも似ていないその表情に、俺はただルビー達を黙って見つめていることしかできなかった。
「ねえ、アクたん」
ふと、MEMが声をかけてくる。
「これから、どーなるんだろうね?」
「…………」
「……俺は、────」
その質問に俺は答えることができなかった。
「
この話全員が待っていたデジモンがやってきたからだ。
「「────ユイッ!!!」」
真っ先に動いたのは扉の前に立っていた2人だった。
「……ムーチョモン博士でありますぞ、ルビー殿、ブイモン」
「ユイッ、早くマナトを呼んでっ!!!」
「ミラクル肉をっ、ミラクル肉をよこせっ!!!」
ユイは2人の様子に大きく溜息をついた。
「……どうしてでありますか?」
明らかにユイの様子は疲れていた。
2人の考えはわかっているものの、呆れているのと同時に、分からず屋の子供を相手にするような苛立ちも感じ取れる。
「どうして……なんでそんなことが言えるのっ!!!」
「仲間がやられたんだよっ! 仲間が奪われたんだよっ! だったら取り戻さないといけないでしょっ!!!」
「力がいる。力がいるんだ。デュナスモンに、デュナスモンにさえ進化できればあんな奴、あんな奴には負けなかったんだっ!!!」
「究極体に進化させてよっ!
そうすれば、そうすることができれば……、あんなふうに、あんなふうにはならなかったんだから……」
矢継ぎ早に話す2人。
その言葉を耳にしながら、ただ、ユイが2人の会話を終わらせてくれるのを待っていると────
「「……究極体?」」
────あっ!?
特大の地雷原が動いたのを感じ取った。
(……このバカっ!?)
そう、ルビーの胸ぐらを掴みにかかろうと立ち上がったそのときだった、
「ルビーちゃん、それ、どういうこと?」
「ルビー、あんたブイモンを究極体に、究極体に進化させられたの?」
2人がハイライトの消えた瞳でルビーに詰め寄る。
「……っ、それは」
ああ、もう、言えないよな。異世界に行って、戦ってきた。その時は究極体に進化できて、今はできない。こっちに戻ってきたら、いつのまにか弱体化してたなんて言うことはできないよな。
わかる……わかるけど、さっきの発言は流石にフォローができないぞ。
「あのムゲンドラモンと同じぐらい強くなれたってことでしょ? なんでルナモンを助けてくれなかったの?」
あかねの詰問にルビーがたじろぐ。
(いいからお前は黙ってろ。ユイがなんとかしてくれる)
そう思いながら、嵐が過ぎ去るのを待っていると……、
「…………今は進化できないから」
やめろぉっ!!!
そう大声で叫びたくなるのと同時に、
「今?」
「……進化、できない?」
瞳孔の開いた2人がルビーにさらに詰め寄った。
「今ってどういうことよっ、説明しなさいよっ!!!」
今度は有馬がルビーの胸ぐらを掴みかかった。
(あちゃー)
頭が痛くなって、つい目を閉じ、顔に手を当てる。俺はもう知らない……と言いたくなってくるが────、
「かなちゃん、ちょっと待ってっ!!!」
MEMがルビーに掴みかかった有馬を引き剥がした。
「『ここ』に来てから、俺は進化できなくなったんだよ。エクスブイモンなんて進化じゃなくて、もっと、もっと本気になれる進化。本気で戦える力があったんだ……それが────」
相方も相方だ。そんな発言をしたら────、
「本気ってどういうことよっ! 今は本気じゃないってことっ! バカにしてるってわけっ!!!」
相手がヒートアップするに決まってるだろ。
「有馬落ち着けっ!!!」
俺も急いで有馬を羽交締めにして、ルビー達から引き剥がす。
「あいつはね、あいつは、私がいっつもめんどうなこと言っても笑って『大丈夫だっ!』って言ってくれるような、いい奴だったのっ! それを、『今』、『今』ですって、なんで昔できたことが出来なくなってんのよっ! 劣化してたの? 劣化してたんだっ! ふざけんじゃないわよっ!!!」
あかねや有馬の気持ちもわかるし、ルビー達のことも知っているからこそ、言えない理由も知っている。だから俺には何も言えない何も言えないんだが……、
「…………」
「答えろ、答えなさいよっ!!!」
ルビーお前が始めたんだから、なんとかしてくれ……、頼むよさりなちゃん。
「…………私は『ミラクル肉が欲しい』って言ったよ」
ルビーの口から出た言葉はそれだった。
「「────ッ!?」」
ルビーの目つきが……いや、あかねや有馬、俺へ向ける雰囲気が明らかに変わった。
(……なんだ、これ?)
気配が、ドロドロしてる……、いや、棘ついてる。嫌悪感とも悪意とも違う……まるで、そう、まるで、あのストーカーのような、
『殺意』
茹だるような怒気と粘つくような圧に気圧されながら、一歩、また一歩と後ろへと下がって、壁にぶつかる。
「
アレ、前、なんとかなった。
明らかに言ってはいけない言葉がルビーの口から漏れ出している。あかねや有馬、MEMのいる場所では言ってはいけない言葉が、ユイの耳に届いている。
焦りや不安、恐怖が入り混じり、俺達はルビーに気圧され────、
「
ユイのその一言で、この場の空気が変わった。
「「「────ッ!?」」」
ユイ……、いや、ムーチョモン博士がソファーに座っている。
「ルビー殿、それ以上は言わない方がいいでありますぞ」
ルビーに向けて笑顔でそう言ったが、明らかに『黙れ』と圧をかけているのがわかってしまう。
「…………わかった」
ルビーもしぶしぶながらその言葉に従い……、その言葉を聞いたムーチョモン博士はこの場にいる全員に聞こえるように周囲を見渡した。
「まず、最初の報告から」
表情が真剣なものに変わった。
「今回の件……『拙者』はもう戦闘に関われなくなったのであります」
「「「────ッ!?」」」
その一言は、あかねと有馬に絶望を叩きつけた。
「────っ、どうしてっ!? ムーチョモン博士の力があればあんな奴簡単に倒せるんじゃないのっ!?」
「スポンサーの意向でありますな」
MEMムーチョモン博士にそう聞いたが、いかにも番組らしい出禁理由だった。
「スポンサーですってっ!? コロナモン達が操られてるんだよ。いったいどこの誰がそんなこと────」
有馬の言葉に被せるように、
「『
「「「────ッ!?」」」
あの女の声がムーチョモン博士の口から飛び出した。
「そう、一言。笑って仰られておりました。
今回の失態。番組的には高評価……、むしろ、この逆境をどう解決するのかと手腕が期待されております」
呆れたように、そう言われたと笑っていたと……、それはなんと残酷な言葉だろうか?
あかねや有馬はパートナーを奪われたというのに、他人事のように言ったその一言は、
(いや、他人事なのか)
あの女にとっては些事でしかないのだろう。俺は諦観と怒りに体が震える。
「……ふざけないで」
俺が言おうとした言葉が予想外の人物から、ソファーに座ったムーチョモン博士に投げかけられた。
「……あかね?」
いつも冷静なあかねがいつもとは違う雰囲気でムーチョモン博士を睨む。
「ルナモンが、私の友達が操られてるのっ! 操られて、奪われて、悪事に加担させられてるかもしれない。それなのに、そんなの、そんなのあんまりだよっ!!!」
あかねはムーチョモン博士にそう言った。
((…………))
俺はなんと声をかければいいのだろう?
(いや、違うな)
俺はあかねを強く抱きしめた。
「アクアくん?」
あかねは戸惑っているが、俺はあかねを連れてソファーから離れる。そして────、
「ユイ、打開策あるよね?」
ここに俺の意図に気づいた奴が1人いる。
ムーチョモン博士が打開策なしにここに来るわけがないと確信してる者……、ルビーがソファーの前に立っていた。
「とーぜん、むしろ、この逆境こそ、ドラマチックでエキサイティングなのであります……まあ、しかし、後で編集やら何やら頑張らなければいけなくなったでありますからな」
「それで、何か策があるんだよね?」
ムーチョモン博士にルビーが詰め寄った。ムーチョモン博士はルビーとアクアを見つめ、
「アクア殿とルビー殿、それとそのパートナーだけ、別の部屋に来てくだされ」
俺とルビー、ワームモンとブイモンについてくるよう、特別な場所に繋がるゲートを開いた。
「私達は行かなくていいの?」
「彼らにしかできぬことであります。2人の選択が重要なのであります」
「「わかった」」
ムーチョモン博士の言葉に俺達は頷く。
「かな先輩、MEMちょ行ってくるよ」
「コロナモンのこと、頼んだわよ」
「アクアくん」
「ルナモンのことお願い」
「任せてくれ。必ず助ける」
それぞれがそれぞれの想いを受け取り、ゲートに入る。
そこにあったのは研究室だった。
電脳世界にあるまじき機械で覆い尽くされた部屋に、一台の機器が中心に置かれている。
ムーチョモン博士は機械の前にある椅子に座る。
「まずはアクア殿、ワームモン。貴殿らに感謝を」
「「────っ!?」」
俺とワームモンが感謝……、何かをした記憶はないの、だが……、
「ルビー殿が持つ『友情』と『希望』を除く全てのデジメンタルを集め、ワームモンのアーマー進化を手伝ったのであります」
「「……あっ!?」」
ムーチョモン博士の言葉に、感謝の内容が理解できた。
(デジモンカイザーとの戦いの後にポイントが加算されてたんだよね?)
(そのポイントで、デジメンタルを買ったはずだ)
デジモンカイザーとの決戦に向けて、デジメンタルを急いで買った記憶がある。コツコツと貯めていたポイント全てを使って購入したのだが……、
(あれで全部だったのか)
敗戦処理にしか目を向けてなかったせいか、あまり意識してなかったのかもしれない。
「アクア、そんなに集めてたの?」
ルビーが呆れながら聞いてくる。
「ポイントは余ってたし……何より、番組的にも、ワームモンの新しいアーマー進化を見せた方が映えただろ。新しいアーマー進化が出るたびに視聴率も上がるデータもあったからな。必然とデジメンタルを集める機会が……ルビーはポイントを何に使ってたんだ?」
「ブイモンも普通の進化ばっかり使ってたよね?」
俺達はデジメンタルの数を数えながらルビーに聞いてみるが……、
「「…………」」
おい、なんでそこで言い淀んだ。
(……もしかして)
最悪の想定を思い浮かべる。
「まだ、貯めてる」
「ミラクル肉の為だしな!」
元気にそう言った2人。
「「…………」」
……こいつらは、……ああ、もうっ!?
(ねえ、アーちゃん)
(ワームモン?)
(ルビーもブイモンも、こんなに自信があるなら、アイドルなんかやらずに、もっと戦って自力で完全体に進化できるようになった方が良かったんじゃないのかな?)
(……それは言うな)
頭が痛くなってきた。
「……ごっほん!」
────ビクゥっ!?
ムーチョモン博士が大きく咳払いをした。
「まず、お2人にとって見てもらいたいものがあるのですぞ」
そう言いながら機器の操作をし始める。
「「「「見てもらいたいもの?」」」」
パートナー全員でムーチョモンの背中越しに機器の映像を見ていくと……そこには、
「こちらであります」
「「────っ!?」」
シェイドラモンとライドラモン、……いや、デジメンタルを使用した戦闘データがそこに流れていた。
「これ、俺達のアーマー進化した姿だよな?」
「シェイドラモンにクアトルモン、トゲモグモン……、他のデジメンタルもっ!? いったいどういうことっ!?」
ブイモンとワームモンがムーチョモン博士に聞く。
「勇気、友情、愛情、知識、誠実、純真、希望、光、……そして、優しさ。この9つあるデジメンタルを全て手に入れたチームにのみ渡す予定のはずが……、緊急事態であるが故、それらを省くのであります」
ムーチョモン博士の口から怪しげな一言がままに入ってきた。
「おい、ちょっと待て。最初に勇気と友情のデジメンタルを俺達に渡したよな? まさか、チームで奪い合う予定だったのかっ!?」
「本来であればこれらのデジメンタルをチーム対抗戦などを行い、奪い合っていただく予定でありましたが……、そこの『ミラクル肉』好きどもに計画を断念させられたのであります」
本来ならって……、っておい、
「「……えへへ」」
「「……」」
こいつらのせいで『カミシロ』の計画が狂ってるじゃないかっ!?
((2人からの視線が痛い))
笑えない。笑えない話に……、どうしようもない話を説明され、疲れがどっと増した。
「……と言うわけで、こちらに全てのアーマー進化したデジモンのデータがあります。これが拙者の……、『カミシロ』の欲しかったデータなのでありますぞ!」
ムーチョモン博士が何か説明していたわけだが、俺達は全く話を聞いていなかったようで……ん、
(ムーチョモン博士が欲しかったデータ?)
気になる単語が聞こえてくる。
(アーマー進化にそんなに大事な意味があるのか?)
俺は首を傾げる。
ルビー曰く、『完全体』とようやく戦えるレベル。究極体相手だと話にすらならない。
ブイモン曰く、成熟期に進化したほうがマシ。話にならない。
一度でも究極体に進化した2人からの評価とは違い、ムーチョモン博士や『カミシロ』が欲していたデータ、その意味が気になる。
(『カミシロ』は何を────)
「……で、それが私達になんの関係があるって言うの? 究極体に早く進化させられるってこと?」
ルビーが失礼なことを聞いてしまった。
「おい、ルビーっ!!!」
思わず声を荒げるが、
「あいつに勝つには最低でも『完全体』レベルの力が必要なんだよっ!? アーマー進化のデータでどう勝つっていうの! 完全体に負けたばっかじゃんかっ! それを何、アクアはそれの力なんて信用できるっていうの!!! ふざけないでよっ!!!」
ルビーの言い分も確かだ。
「…………」
俺はあの時の戦闘を思い出す。
(確かに、アーマー進化だけでは力不足だ。ワームモンがアーマー進化して……)
『『トリニティゴスペル』ッ!!!』
『『マーベリック』ッ!!!』
強力なビームに、成熟期がくらったらひとたまりもないような一撃……、
(あいつらを倒せるのか?)
アーマー進化で戦えるのだろうか……、そう疑問に思えて仕方なかったのだ。
「……アーちゃん」
ワームモンが服の袖を引っ張る。
「大丈夫」
こんなことで心配をかけている暇はない……そして、
「究極体……、『これ』を使えば本来であれば『それ以上』のスペックが手に入るのであります」
ムーチョモン博士が機器を操作しながら見せた先には、
「……『これ』?」
「────ッ!?」
2つの物体が水の中を浮かんでいた。
(いや、これは……)
(間違いない、よね?)
「「……2つのデジメンタル?」」
影に覆われ、姿形がわからず、今も形状が不安定なそれは、機器から送られてくる9つのデジメンタルのデータを吸収し、今も色や形を変化させ続けている。
「でも、どんな形かわかんないんだけど」
俺達は2つの謎のデジメンタルを見て、疑念を抱かざえない。
「こちらの機器は9つ全てのデジメンタルを消費することで『1つ』のデジメンタルを作る機械でありました」
「全てのデジメンタルを……っ!?」
ムーチョモン博士がとんでもないことを言った。
(このデジメンタルを全部っ!?)
咄嗟に俺とルビーは自身のD-3からデジメンタルを確認し、それが消費されることについて考えた。
「今は、2つ分に分けた事で、本来のスペックからかなり弱くなっているのでありますが……、まあ、あの程度なら余裕で鎮圧できるのであります」
あの程度と断言したムーチョモン博士。
(ムーチョモン博士にとっては『あの程度』なのか)
そう思わざる得ないほど、2体と俺達とのレベルの差は大きい。そしてそれ以上の実力を持つムーチョモン博士……いや、タイトとユイ達も、か。
(遠いな)
実力差から、俺は遠くを見つめることしかできない……が、
「
ムーチョモン博士のその一言は俺を戸惑わせた。
(…………ごくり)
思わず息を呑む。
ここまでくるのに、ここまで集めるのに時間をかけ、手に入れた物が目の前の敵を倒す為に消えてなくなる。
(本当にそれでいいのか?)
思わず体が震える。
(もっと他に手はない────
「アクア」
ルビーから声をかけられる。
────ピロン!
そう、音が鳴ったその時だった。
「ルビー、お前……っ!?」
「そのポイントで、デジメンタル3つ買うからさっさとこの機械に置いてよ」
デジヴァイスの中には、俺が消費したポイントのうち、デジメンタル3つ分のポイントがルビーから送られていた。
「早く」
『友情』と『希望』のデジメンタルがいつのまにか消えてなくなっていた。
(やるしか、ないのか)
諦めにも似た、決意にも似た……最終的には、尻を叩かれたような気持ちで、役者チームで集めたデジメンタルを機器の台座へと設置していく。
「勇気」
オレンジ色に染まった。
「友情」
青色に染まった。
「愛情」
赤色に染まった。
「知識」
紫色に染まった。
「誠実」
灰色に染まった。
「純真」
緑色に染まった。
「希望」
黄色に染まった。
「光」
ピンク色に染まった。
「優しさ」
それらの色を包み込む白色。
「全てのデジメンタルが取り込まれたましたな」
『Are you ready?』
そうモニターに映像が映し出される。
「ボタンを押すのであります」
ムーチョモン博士がボタンを押すように指示をして、
(……いくぞ)
(うん)
俺とルビーは機器のボタンを押した……すると、
「本来であれば、どちらか選んでいただく予定でありますが……、2種類でいいでありますな?」
「……ルビー?」
「いいよ、私は」
「どちらの手に渡るかはランダム。いくのでありますぞっ!!!」
「「────ッ!?」」
「どうぞ」
豪華絢爛を超える程の贅を極めた内装のレストラン。緊張の中奥の個室に通される。
(……っ、緊張する)
椅子に座るように言われたけど、飾りに装飾、果ては模様に至るまで、この部屋にある物あらゆる物が煌びやかに見えて、触るのすら烏滸がましさを感じでしまった。
ーーーーどん!
テーブルの横に乱雑にバッグを置くお母さん。その眉間には皺が寄っている。
「お母さん?」
いつもの母の雰囲気でないことに気づき、少しだけ戸惑い、そんな声を出してしまったが……、
「……これを」
母が椅子に座って、マナトくんになんかの資料を渡した。母につられるように椅子に座り、マナトくんの様子を見る。
ーーーーぺら、ぺら
紙を捲る音が部屋の中に響き渡る。
「よく調べられていますね。それで、どうかしたのでしょうか?」
マナトくんがそう言った途端、母の目つきが更に鋭く変化した。
「娘から聞きました。貴方が娘と仲良くしている事、娘が貴方から『カミシロ』なことを聞いている事、娘が狙われる危険性がある事」
うん、それはお母さんに話した。
ケーキを持って帰った時も驚いてたし、マナトくんと遊んだって言った時も心配してたみたいだった……、何より、この間のことを話したときにはすっごく心配してくれたのを覚えてる。
(……でも、)
それが今、何に関係してるんだろう?
そんなふうに考えていると…………、
「……それで?」
マナトくんの目つきが鋭い物に変わった。母と友達の雰囲気の変化に更に気まずくなってしまう。
「娘を関わらないでください」
母が怒りを隠そうともせず、マナトくんにそう言った。
「ーーーーお母さんっ!!!」
急になんてことを言うんだこの母は。驚きのあまりそんな声でお母さんに聞いてしまった。
「お母さん、なんでそういうこと言うのっ!? マナトくんは私に優しくしてくれたんだよっ!? 友達なんだよっ!!! 守ってくれるって言ったんだよ……っ、なんでそんなこと言うのっ!?」
私はつい立ち上がってしまい、隣に座るお母さんにさっきの言葉の意味を聞く……しかし、
「半年後には娘を連れて海外に行く予定です。海外の学校にも留学させます。四宮にも四条にも、『カミシロ』にも手を出させるつもりはありません」
母は私の言葉を無視して、その次の言葉を紡いだ。
「ーーーー、かいがい? りゅう、学? それってどういうことっ!? 私そんなの聞いてないよっっ!!!」
聞いてないことだらけで頭がこんがらがる。留学、海外? そんな話今まで聞いてなかった。それなのに、お母さんがどうして、こんな場でそんなことを言ったのか理解できなかった。
「私の判断で数年は海外に仕事に行くことになった。アミ、貴方にもついて来てもらう」
お母さんは私の意見を無視して、海外の仕事に連れていくことを決めた。それがとにかく納得いかなかった。
「なんでいきなりそんなこと言うのっ!? 私にだって、学校の友達とか、行きたい学校とか、将来のこととかいろいろ考えて、進路も決めたのに……ひどいよっ!!!」
進路だって、この成績ならあの高校に行けばいいんじゃないのかと、リョウタやサクラと決めたのに、なんでいきなりそんなことーーーー
「ーーーーアミ」
お母さんは私の目をようやく見た。
「私にはこの少年が信用できないから」
「ーーーーっ!?」
私を鋭く睨んだその瞳は、小さい頃に駄々を捏ねた私に対して、有無を言わせないよう怒った母の表情そのものだ。
「いい、……『カミシロ』の暗部。それにつながる重要な情報を握ってる可能性が高い人物の1人がこの少年……、末堂アケミの息子である『末堂マナト』。真正面から四宮と四条に喧嘩を売り、勝利してきたバケモノ。本来では関わり合うことのない人種……、私は貴女が彼に巻き込まれているようにしか見えない。むしろーーーー、」
「
冷静に、ただたんたんとお母さんはマナトくんを睨みつける。
「ーーーーお母さんっ!!!」
私はお母さんが言ってる意味はわかんない。でも、マナトくんは、……私の友人のマナトくんはそんな人物じゃないってわかってるつもりだった。
「…………」
だから、黙り続けてる母に向かって、
「お母さん、謝ってっ!!!」
「嫌よ」
なんども、
「今すぐ、彼に謝ってっ!!!」
なんども、そう言った。
「ーーーーッ、だったら私も留学なんてしないからっ!!! お母さんの言うことなんて聞かないからっ!!!」
「ーーーーアミッ!!!」
「知らないっ!!!」
本当に知らない。
海外で仕事することを決めたのも、私の留学を決めたのも、マナトくんに会っちゃいけないって言ったのも、全部全部お母さんが勝手に決めたことだ。
(知らない、お母さんなんて知らないっ!)
そんなことを思いながら、マナトくんの方に視線を向ける。
(マナトくん怒ってないかな?)
そんな心配をしたときだった。
「2人とも」
「「ーーーーッ!?」」
優しい、ただ優しく諭すような声だった。
「静かにしてください。
ワンフロア丸々貸切とはいえ、ここはホテル。どこの誰に目があるかはわかりません。そんなに怒鳴られたら注目されてしまいます」
静かに、ただ『静かに』……と、マナトくんはそう、それだけ、それだけ伝えただけなのに、マナトくんの雰囲気がいつもと違うことに気がついた。
(……なんか、笑ってる?)
ただただ微笑ましそうに笑って、私達……、ううん、お母さんを見つめてる気がして、不安な気持ちに変わった。
「……それに、相羽さん落ち着いて聞いてください」
お母さんに『今までに見たことないような』笑顔で、マナトくんは話しかけた。
「何かしら?」
明らかに不自然なその表情に、笑顔とは違う何かを感じ取ったのかお母さんも戸惑って聞き返した。
「
「ーーーーマナトくんっ!?」
やっぱりマナトくんはわかってくれたんだ……と、思ったけど様子がおかしい。笑顔だけど、細い瞳でマナトくんはアニメに出てくるキャラクターのようにお母さんを見ていた。
「ーーーーっ、なんでそう言い切れるのかしら?」
お母さんも一瞬だけ言葉に詰まったみたいだったけど、さすが記者、すぐに聞き返した。
「ここは日本です。『カミシロ』の本社がある場所であり、俺が唯一四宮と四条から守れる限界でもあります」
「へえ、じゃあやっぱり海外にでさえすれば、貴方と娘との関係を終わらせることができると言うわけね」
「ーーーーお母さんっ!!!」
「ええ、関係を終わらせることができるでしょう」
「
「「ーーーーッ!?」」
死……、死を持ってっ!?
「……っ、へえ、そんな冗談で脅す気かしら? そんなこと言われても私達は行くーーーー」
「だから冗談ではありませんよ」
気丈に振る舞おうとするお母さんをマナトくんは睨みつける。
(……っ、この顔ってっ!?)
マナトくんは生徒会の、秀知院の生徒会の人達を睨みつけているときとおんなじような表情でいつのまにかお母さんを睨みつけていた。
「『カミシロ』は今でも、……いえ、これからも『EDEN』というオーバーテクノロジーを駆使し、発展していく予定です。ご存知のとおり海外からとーっても狙われている訳ですね」
『カミシロ』の……、お母さんが言うには中枢にいるような偉い人の口から出た『EDEN』に対しての……、『オーバーテクノロジー』と言う言葉でしか言いようのない認識に驚きが隠せなかった……そして、
「殺されますよ、彼女」
「ーーーーッ!?」
マナトくんはたんたんと事実を呟くように、私に向かって鋭い視線を向けてそう言ってしまった。
「『カミシロ』を狙う人間はたくさん居ます。そして、人の口には戸は立てられぬとも言います。『カミシロ』の……、特に中枢にいる人間と仲良くしていたと噂になれば、真っ先に貴女の娘さんは狙われることになるでしょう」
私は『あのとき』マナトくんの言った言葉を思い出した。
たぶんこの言葉は本当のことなんだと理解してしまった。
「……脅す気?」
お母さんはマナトくんを……ううん、さっきよりも弱々しく睨みつけた。
「今までどおりお互いWinWinな関係でいましょう? 私は何も貴女から娘さんを奪いたいわけじゃない」
マナトくんはテレビで出てくるような悪役のように手を広げて、
「
私にそう微笑みかけた。
「ーーーーッ!?」
ああ、そうだ。
この人はそう言うことを平然と笑って言える人間だ。テレビに出てくる美少女よりも遥かに可愛らしい笑顔で、中学生にも満たない子供のような背丈で、そんな甘い言葉を平然と笑って言って、私の顔を赤くさせる天才なのだと言うことを今思い出した。
「…………っ!?」
お母さんが何かに驚いたように、私とマナトくんの表情を見比べて……、
「……なんで、そこまでアミに執着するの? 正直に言えば、アミはどこにでもいる女の子でしかないわよ」
「お母さんっ!?」
驚いように、そして呆れるようにそうマナトくんに聞いた。
「事実じゃない。否定できるのかしら?」
「…………」
顔が赤い……恥ずかしい.どうやら今の表情を見て、お母さんに私の気持ちが知られてしまったみたいだ。
(…………でも)
目を逸らさずにはいられなかった。マナトくんが何を言うのか知りたかったからだ。
「救ってもらったからですよ」
マナトくんは私の顔を見た後、ただ何を恥ずかしがることもなく真剣にそう言った。
(……えっ?)
ただ、疑問が残る。
私は彼を救ったことはない。ただ、彼の友達を庇ったことがあるだけだ。それなのにマナトくんは何を言うのだろうと、ただ疑問符が頭の上を駆け巡った。
「『あの日』彼女は身を挺して俺の友人を救ってくれた。それ以上でもそれ以下でもありません」
そう、その通りだ。
私はあの日……、学校見学会があった9月の中旬、マナトくんの友達が痴漢犯人に仕立て上げられたのを見過ごせなかったそれだけだった。ただそれだけなのにーーーー、
「そのときの行動から、彼女と関わっていくうちにどんな人間か知り、この人を信頼できると思った俺を信じられた」
あのときのことをずっと彼は感謝してくれていたのだ。
「『あの日』、『あのとき』、『この世界で』俺は初めて他でもない『相羽アミ』その人に『逢えて良かった』と本気で思えた」
その言葉に再び鼓動が高鳴る。ああ、そうだ。この言葉にそんな気持ちを抱いてはいけない。抱いてはいけないのだけれどーーーー、
「単純に彼女に俺は『救われた』んですよ……、ただ、その恩を返しているそれだけです」
ずっと、ずっと真剣に私を思い続けてくれた……、そんな彼の笑顔に私はときめいてしまったのだ。
「…………」
私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。もはや私には彼の顔を見ることはできなかった。
「…………貴方、本気?」
「本気ですよ。俺のかつていた2人の友と同じぐらいに、彼女に『期待している』」
お母さんの呆気に取られたようなその言葉に、マナトくんの真剣だと言わんぱかりのその言葉が胸に突き刺さった。
「俺は彼女の友人になれてよかった……、本当に」
心の底から出たかのように呟いたそれに、
(ーーーーっ!?)
私は下唇を噛み締めて我慢することしかできなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
呆気に取られたような、それでいて笑っているような、はたまた安心しているような、そんな溜息がお母さんからこぼれ落ちた。
「……わかったわ。娘の留学はあきらめましょう」
「ーーーーお母さんっ!?」
お母さんの留学を諦めると言ったその言葉に、私は喜び、驚き、椅子から立ち上がった。
「こら、はしたないわよ」
「……ごめんなさい」
お母さんに怒られて、再び椅子に座る。
「ただ、私が海外への
「ええ、こちらでできる限りサポートしましょう。娘さんが安心して暮らせるよう、手を回しておきます」
「わかったわ」
とんとん拍子に話が進んでいくのも束の間ーーーー、
「……そして、取材の件についてなのですが、少しだけきな臭い話があるのです」
「「…………?」」
マナトくんが指を鳴らすと、マナトくんの後ろの戸から神の束が部屋の中に置かれた。
「行き先はドイツでしたよね?」
「そう、だけど……」
お母さんに紙の束……もとい、ドイツのとある研究施設の資料が渡されて……、
「……市にある『カミシロ』と敵対しているとある軍閥の研究所から嫌な噂がありまして……」
1/1の番外編のアンケートについて 〆切 12/26
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√カオスドラモン 星に寄り添う月世界
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√??? 失望の果て