・ご家族でのドーム公演おめでとうございます。
[斉藤夫妻]
・ありがとうございます。
[インタビュー]
・今回の意気込みはなんですか?
[斉藤夫妻]
・私はアクアやルビーがこれからの活動がより良くなるように、アイがそれを支え、より大きな経験になるような公演にしたいと思っています。
・俺はあの弟がようやく帰って来たんだから、あいつがこの世界に興味を持てるような素晴らしいものにしようと思ってます。
・……ちょっと、社長!?
・いいだろ、別に……俺はあいつには何か光るもんがあるって思ってんだから。
[インタビュー]
・あいつ……と言うのは?
「……だーかーらー、この子がスマホから出てきたんだって!!!」
「んなわけねえだろうがっ!? どうしたらこんな大きな黒饅頭がスマホの画面から出てくるんだよ」
斉藤さん*1と星野アイ*2は画面から『黒饅頭』のような変な生き物が現れたことを話し合っている……というか、現実味がなさすぎる話は、はじめてから10分を過ぎたぐらいから、怒鳴り合いまで発展していた。
……あの後、アイは事務所の斉藤さんにすぐに連絡を入れたことで、斉藤さんが俺達四人家族の家に突入してきて現在の討論につながっている。
そもそもの元凶である黒饅頭……こと『ボタモン』*3は『デジヴァイスIC』*4を俺の腕の中でじっと見つめている。
まあ、アイは俺たちが触ってたことよりも、
……当面の問題は、
こいつはそもそもどのデジタルワールドからやってきた。デジタルワールドはデジモンのシリーズごとに存在するが、デジヴァイスICが出てるゲームは多い。しかも、どの世界が滅ぶ可能性があるときたものだ。怖い、本当にどうしたらいいんだ。
「そんなことないもん……実際にスマホのから出てきたんだもん」
じっと見つめていると、頭? 、体? (1等身)を揺らすボタモン。のんきそうでなによりだ……はあ、赤ん坊のくせに口からため息が出そうだ。なんで俺がやらなきゃいけない
ルビーとアクアはなんか知らんけど、向こうで話してるし、ただ調べてたのにどうしてこうなった!?
……って、おいっ!? 腕の中で飛び跳ねるなっって、アイだけじゃなくて斉藤さんがいるんだぞっ!?
「夜中だからって、変な夢見ただけだろっ、どっかで、買った ぬいぐるみじゃ…………!?」
(頼む、ちょっとでいいから、大人しくしてくれ)
小声でボタモンにだけ聞こえるようにそう言った。そうしたら、俺の腕の中で跳ねるのをやめてくれた……が、なんか怒鳴り声がやんでる? 一体どうしたんだ。
「……おい、その黒饅頭動いてなかったか?」
………… えっ!?
「うん、動いてた。ずっとタイトが抱っこしてたから気づかなかったけど、生き物みたいだね」
うわ、気づかれた。デジモンがまだ発見されていないであろう世界で、世間に情報が漏れるのダメだ。なんとかして連れてかないとって、俺まだハイハイしかできない……お前は気づかれたことを喜んでんじゃねえよ。隠れるぞ、おいはやく。
「おい、タイト……お前、そこを動くなよ」
飛び跳ねんな、はよ逃げるぞ。そう首を動かし、ハイハイする……って、ふわっとする、持ち上げられたぁっ!!!
「ター、イー、トー、……つっかまーえたーっ!!!」
うげっ、捕まった。抱きしめられたっ、やわらかっ、いつも思うけど胸大きいっ!? ……じゃない、この体はまだ性欲ないんだから、あっちに集中しろ。あいつだけでも、逃さないとっ!?
「むきゃー、むきゃー!?」
「おい、こっちも捕まえたぞ」
……って、捕まっとるぅ!?
「にしても、こいつはいったいなんなんだ? 犬でも猫でもネズミでもねえぞ……」
「……そうだね、スマホから出てきたからおかしな物だと思っていたけど、生き物だとは思わなかった」
斉藤さんとアイに捕まった。これで逃げることはできない。
「なあ、アイ……こいつをネタにすればかなり面白いんじゃねえか?」
ヤバッ、アイの抱きしめる力強すぎっ、興奮してやがる。
「うん、こんなオモシロカワイイ生き物、ウけないはずがないって!!!」
どうする? どうする?
人のいる場所で、デジヴァイスの不可思議な機能なんて使えない。そんなもの使ったら、この黒饅頭はさらに変な生き物になるだろう。母が目立つのはいいが、こいつを今世間に知られるのはマズイ。
「アイっ、カメラOKだ! 息子どかしてこいつ持て、真ん中映れ!!!」
行動が早え!? このおっさん、もうカメラの準備始めやがった。こっちが考えてるっていうのに、どうすればいいんだ!?
「ごめんね、タイト……えっ、何この子めっちゃもふもふしてる。しかも、むきゅむきゅ言ってて、なんかカワイイ!? ……佐藤社長こっちもOK!!!」
「むきゃー、むきゃー!?」
ええい、降ろすなっ……撮るなっ……ヤバイ、アイの手にボタモンが移りやがった……もう考えてる暇なんかない!!!
ボタモンにデジヴァイスを向けて、たしかアニメで言ってたセリフは……
「……ボタモンっ 、『キャプチャー』!!!」
「むきゅ!?」
ボタモンが緑色の光になって、デジヴァイスに入っていく……はあ……はあ……間に合った。これで、なんとかやつはしまうことができた。
「「……し、……し、しゃ、しゃべった────っ!!!」」
……問題は、
……二週間後、十一月末
あの日の夜は、デジヴァイスのなかの設定欄の説明書を出して、『やってみたらできた』って言って誤魔化した。その時に、デジヴァイスを取られて色々と弄ってたみたいだけど、俺がいじらないと反応しないみたいで、斉藤さんも困ってた。
気まぐれで、ボタモンを出してた時に見つかったのは、流石に焦った。ボタモンがアイにまた写真を撮られそうになったときに、『嫌がってるから、ダメーっ!!!』って言って誤魔化すことができた……正直、ボタモンが乗り気だったら、やばかった。
ルビーとアクアはミヤコさんとようわからんことやってた。寝起きのところに『ボタモンを出してくれ』とか、ボタモンを『神の使い』扱いし始めたのは驚いたけど、後に聞いたら『アイの三つ子発覚大事件』につながるところだったとアクアが言っていた。寝てる間にバレたら流石に、対応できなかった。アクアとルビーにはそこではじめて感謝した。
ま、そんなことはどうでもよくて、今いる場所の方が問題だ。
「販促イベント! ミニライブ! 抽選でしか当たらないやつぅ!!!」
「ママのライブなんてはじめて!!!」
……俺は今、星野アイのライブに来ている。
正直に言おう。興味ない。血縁上の母親がしている仕事なんて興味ないし、やりたいことなら他にあるんだけど……あの事件以降、アイはスマホを俺たちが触れない場所に置くようになった。パソコンは大体高い机の上に置いてあるから触れない。他にネットに繋がりそうなものは見当たらないのである。なので、この世界がどのデジモン作品の世界なのか全くわからない。つまり、俺は今暇だ。ボタモンの世話ぐらいしかやることがないのである。
……そんな時に、『アイのことが心配だからって』ミヤコさんを
「どうしてもって言うから連れてきたんですよ。社長にバレたら怒られるのは私なんですからね……」
すみません、ミヤコさん。うちの兄姉がご迷惑を……と心の中では思っているつもりである。
「わかってるって、できる限り目立たないようにするよ!!!」
どう考えてもわかってないようなルビー……兄を見習え、兄を。おしゃぶり加えて静かにしてんぞ!!!
ライブが始まった。
……にしても、こんなアイドルのどこがいいんだか? 歌や踊りは上手いと思う。
特にアイは飛び抜けて上手い。
表情だって魅せられるものがある……でも、なんか作り物っぽい。
そんな表情を毎日見せられている。家だろうが、仕事場だろうが、嘘に塗れて、正直な言葉なんて一つもない。正直言って、前世の母を思い出す。嫌な気分になるし、顔を合わせれば気持ち悪いとさえ思える。
嘘つきの『好き』だとか『愛してる』……って言葉を簡単に信じんなよ。こんな作り物みたいな表情見せられて、何が楽しいんだかわかんねえよ……隣はさっきからうるさいけど、何やってんだ………………っておいっ!?
バブッバブ、バブバブ、バブッバブ、バブバブ!!!
なんでオタ芸なんてやってんだよ。ミヤコさん見ろめっちゃ顔真っ青になってんぞ。かわいそうだろいい加減やめたれよ。ミヤコさん泣いちゃうぞって……何撮ったんだよ、オタクども! 散れっ、散れキモオタどもがよぉ!!!
こんなモンネットに流されでもしたら、ミヤコさん残念なことに説教確定じゃん。兄姉のわがまま聞いて…………
──────その瞬間、
あれが、アイドル?
初めてだった。
なんであんな顔ができるんだろ?
わずか、一瞬で
自分の子供だったからあんな顔ができたのか?
今、
それとも、俺達を愛していたからこんな顔ができるのか?
おれもこいつらのように、母親をあんな顔をできるんだろうか?
力が足りない。究極を超える力が……
情報が足りない……
もし、俺の『
デジヴァイスを見る。この中にボタモンは暮らしている。こいつがいれば、今の世界はどうとでもなる。今の世界だけだと思う。
あの人の世界を守れるなら、他の全てを投げ出していい奴らが来たら、幼年期一匹じゃすぐに負けてしまう。俺の居場所が壊れるそんなのは絶対にダメだ!!!
……少し落ち着こう。
今は
……キレなんてないけど、見よう見まねでも、このライブを楽しむんだ。
生まれたばかりのデジタルモンスター。スライム状の体の表面には、黒い産毛がびっしり生えている。生まれたてなので戦うことはできないが、口から泡のようなものを出して敵を威嚇する。 注釈:デジモン図鑑
デジモンとは?
正式名称『デジタルモンスター』
第一話の脚注にあった通り、人工知能ウィルスである。もともとは男の子用のたまごっちとして、1997年に発売された携帯機器。アニメ化に伴い、人気が爆発し、約二十数年愛されるコンテンツとなった。
設定として、『デジタルワールド(デジモンワールド)』と呼ばれる擬似電脳空間に生息する架空の生命体。
基本的にデジタルワールドのなかの食べ物を食べて暮らしている。また、ネット内のデータならあらゆるものを食べることができる。
デジモンは繁殖能力が存在せず、卵から産まれ、死んだら卵へと戻る。また、生殖本能がない代わりに、『闘争本能』が強く、大人しい気性のものもいるが、基本的にはデジタルワールドは闘争で満ちている。そして、より強く、より賢くなるために『進化』して、姿を変えていく。