産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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「ははは」

少女が笑う。

「ははは」

少女が笑う。

「ははははは」

少女が笑った。


「突然現れたあからさまな悪役(敵キャラ)


灰色に照らされた機材が置かれた地下の部屋。


「仲間が奪われ、そら大変」


モニターに映るのは蒼色の少年。


「頑張って、戦って……取り戻したと思ったら大ピンチ」


灰の色の機械(ぼうし)を脱いだら、ピンク色の長い髪が……、いや、白のメッシュが混ざった髪がたなびいた。


「仲間と必死に頑張って」


金髪の少年が、双子の少女が、そのパートナー達が、仲間達が、ハッピーエンドを喜んでいる。


「最後はきっと大団円」


悪いハッカーが捕まってハッピーエンドが見えてきた。


「……でもな」


少女は背後の『キメラモン』に向けて笑ってみせる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


キメラモンの背には、『ムゲンの竜』が座っていた。



After story √ルビー 試合に勝って……

 

 

「離せっ、僕を誰だと思っているっ!!!」

 

 

「うごくなっ!!!」

 

「そーだ、いうことをきけっ!!!」

 

「おまえはただのはんざいしゃだろっ!!!」

 

 デジモンカイザーに群がる幼年期デジモン達。

 

「くらえぇっ!!!」

 

「ふごっ!?」

 

(……うっわ)

 

 チコモンが逃げようとしているデジモンカイザーに向かって、飛び乗って踏んづけたり、叩いたりとやりたい放題している。

 

「あーちゃんの仇っ!!!」

 

「お前、よくも────、ふごばっ!?」

 

(今大きい音が鳴ったよね。絶対に痛いよね?)

 

 デジモンカイザーの頭がリーフモン*1に突撃され、背中から思いっきり倒れる。手錠をかけているせいか、咄嗟の攻撃に身動きが取れなかったのか、倒れた瞬間大きな音が鳴り響いた。

 

「これは、コロナモンのっ! これはルナモンのっ!」

 

「デジモンをあやつろうとしたバツだっ!!!」

 

 MEMちょと不知火ちゃんの退化したデジモン達。バブモン*2とチョロモン*3にも体の上で弄ばれていた。

 

「やめろっ、僕はデジモン……、『カミシロ』すら欺いた。っ、ぼくになひもする、ぼくのはい、ごっ、にはっ、彼の方が、いるんだぞっ!」

 

「しるか──ーっ!」

 

「やれ────っ!」

 

「いままでくるしんだパートナーたちのうらみっ!!!」

 

「あやつられたデジモンのくるしみっ!!!」

 

 体の上で跳ねられ、踏みつけられ、今目つけられる様子にスカッとした。

 

 

「……もう、大丈夫だな」

 

 

 こそこそとおじさんがやってくる。

 

(…………だれ?)

 

 緑のコートを着たおじさんは周囲を警戒しながら、私達の……ううん、アクアの方へと走ってきた。

 

 

「よくやったな、お前ら」

 

 

 よく見れば、腰に手錠が……あっ、そういえば、キメラモンが出てくる前にデジモンカイザーに手錠をはめていた……あれ、もしかして……? 

 

「────ッ、又吉さん?」

 

 ぼーっとチコモン達の様子を見ていたアクアがおじさんの方に向かって急いで首を……って、やっぱり知り合いみたいだ。

 

「アクアの知り合い?」

 

「…………」

 

 アクアに聞くけど、アクアの目が少しだけ開いているのが見えた。

 

(緊張してる?)

 

 さっきこのおじさんがデジモンカイザーを捕まえた時はこんなふうじゃなかったのに、どうしてとそんなふうに感じる。

 

「これで事件解決。ハッカーで存在の危険性も世間に知れ渡ったんじゃあねぇのか?」

 

 アクアはおじさんの言葉に大きく肩を揺らした。

 

「…………っ、そうですね」

 

 何か気になることでもあったのだろうか。

 

(『ハッカーの危険性』って言葉が気になったのかな?)

 

 アクアが暗い顔で俯いていると、おじさんがガッハッハと笑っている。

 

「おい、アクア、何沈んだ顔してんだよっ! ハッカーって奴は本来、世間様の影で細々とやるのが昔っからの決まりだろうがっ! そんな顔してっとあの坊ちゃん達になんか言われるぞっ!!!」

 

「そうですね、又吉さん」

 

 背中をバンバン叩かれているアクア。

 

(……変なの)

 

 又吉と呼ばれたおじさんは私に向かって、ちらりと黒い手帳を────、

 

 

「本当に警察の人だったのっ!?」

 

 

 警察手帳には警察っぽくなさそうな不真面目なおじさんの写真と『又吉五郎』と名前が載っている。

 

「ハッハッハッ……、知らねえのも無理はない。嬢ちゃんはあの時いなかったからな」

 

「あのとき?」

 

「こいつの隣で……、って、今はそんな状況じゃねえな」

 

「えっと、又吉さん?」

 

 あのときというのはいつのことなのか……と聞こうとした時だった。又吉、さん? は、デジモンカイザーとチコモン達に近づいて行く。

 

「おい、ちょっとどいてろ」

 

「えっ、誰だよ。おっさ────」

 

「────っ! ほらほら、チコモンどくよ」

 

 しっしっ! と腕を振る又吉さんに、怒るチコモン、リーフモンが無理矢理チコモン達をどかせて……あっ!? 

 

「……おい、立て」

 

 デジモンカイザーの手錠を引っ張って無理矢理立たせる。

 

「何をするっ!?」

 

「警察に連れて行くんだよ」

 

 又吉さんは警察手帳を見せて、デジモンカイザーの手錠のついた腕を掴んで引っ張ら始める。

 

「遅かったな警察官。早く僕を解放しろっ! 僕の後ろに誰がついているか知らないのかっ!?」

 

(デジモンカイザーの後ろ?)

 

 デジモンカイザーの後ろには誰もいない。それなのに又吉さんが来た時に、大きな声で笑い始めた。

 

(……もしかして)

 

 デジモンカイザーの言う『後ろ』、『背後』って言葉は────、

 

「うるせぇっ!!!」

 

「何をするっ!?」

 

「てめえは現行犯逮捕だ。今からそのアカウントを解析して────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「『♾️キャノン』」」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……は?」

 

 収束された光はちょうど『人1人』を飲み込むような大きさで……、そうじゃないっ!!! 

 

「「────ッ!?」」

 

 悲鳴も出さずに私の目の前から消えてなくなった。

 そして、その光が……『見たことのある』その攻撃の発射先は…………、

 

 

「────ルビーッ!?」

 

「────アーちゃんッ!?」

 

 

 チコモンが私の肩に乗った。

 

「……デジモンカイザーが……、デジモンカイザーが消え、貫かれた?」

 

(アクアはまだ状況を理解していないっ!?)

 

 アクアは人が完全に消えてなくなるのを間近で見たのに動揺してるみたい。

 

「嬢ちゃん気をつけろっ!!!」

 

 又吉さんの言葉に頷き、私は発射した敵を探しながら、身を隠せる場所を、場所を……そこしかないっ!? 

 

「アクアくんっ!?」/「アクアッ!?」

 

 先輩やあかねさんがこっちに来る。

 

(しょうがない)

 

 

「アクアごめんッ!!!」

 

「────え?」

 

「「「ルビーっ!?」」」

 

 

 アクアの手を引っ張って、キメラモンが開けたクレーターに身を隠す。

 

「いいから、こっちだっ!!!」

 

 又吉さんが走ってくる2人に声をかけて、2人にこっちにくるように指示を出す。

 

(どこだ、どこにいる?)

 

 発射先はどこ? 

 

 敵は? 

 

 まさか、あの光は? 

 

 ……でも、あれは間違いなく、あの光は……、

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

予想していた(あってほしくなかった)』。

 

「「……ユーゴ」」

 

 良い人だったのに、こんな形で会いたくなかった。

 

(……なんで)

 

 その言葉は────、

 

 

「ユーゴはんっ!!!」

 

 

 ユーゴに向かって、石が投げられる。

 

(……えっ)

 

「有馬っ!?」/「かなちゃんっ!?」

 

「なんで、なんで……、今さら出てきてっ! 

 デジモンカイザーはもう捕まえて、後は警察に任せるだけだったのに、コロナモンを助けてくれなかったのに……どうして、今さらあんた達がでしゃばってきてんのよっ!!!」

 

 

(……先輩?)

 

 デジモンカイザーを消したユーゴ。

 

 デジモンカイザーを倒してくれなかったユーゴ。

 

 そのユーゴに先輩は『なんでいまさら』と言った。私の中に燻っていたその言葉を言ってくれた。

 

「ああ゛っ! ……ウチの大将になんて口聞いてるん、この小娘っ!」

 

 ユーゴの隣にいる変な髪型の女が怒る。

 その隣には黄色の蜂のようなデジモンが剣を構えて────、

 

 

「フェイ」

 

 

 ユーゴが女を……フェイを止めた。

 

「……ユーゴはん?」

 

 ユーゴのその一言で、フェイのデジモンは剣を下ろした。

 

「仕方ないさ。こちらにも出てこれない事情があったんだ」

 

 事情……、何か事情があった。それよりも……、

 

 

 ユーゴとムゲンドラモン。

 

 フェイと蜂デジモン。

 

 黒いフードを被った仮面の男と割れたタマゴのようなものから、ギルモンの耳みたいなものが出てるデジモン。

 

 

(……チコモン)

 

(……だめだ、ルビー)

 

(あいつらには勝てない)

 

 

 パイルドラモンで勝てるかと……わかってはいたけど、どうやら勝てないのは明白。予想通りなら全員究極────

 

 

「君達は『彼』から何も聞いていないのかい?」

 

 

(……彼?)

 

 ユーゴは『彼』と言った。

 

「彼って、何も聞いてないってどーいうこと?」

 

 彼って、彼ってまさか、

 

「……そうか、聞いていないのか……、仕方ないな」

 

 いや、いや、いや、聞きたくない。まさか、『彼』って

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 聞きたくない言葉が聞こえてきた。

 

「「「────ッ!?」」」

 

 関わってるのは『カミシロ』? 

 

 なら、タイトが全部やったってこと? 

 

 デジモンカイザーを消したのもタイト? 

 

 知りたい。

 

 知りたい。

 

 知りたい。

 

 今、すぐにでも聞き出して、私は、……すぐに聞ける相手がいるじゃん。

 

 

「「────ユイ/ムーチョモン博士ッ!?」」

 

 

 私とチコモンの声が重なった。

 

「…………」

 

 私は黙っているユイの胸ぐらを掴んだ。

 

「ねえ、ユイ黙ってたの?」

 

 電脳世界だからか、力が思った以上に出てて……、私の目線に合うように持ち上げた。

 

「それは、……言うのは憚られると言うのでありますか……」

 

 ユイは目線を逸らした。これは言ってるのも同然だ。だけど、言葉として聞くべきだ。

 

 ユーゴを止めていたのはタイト? 

 

 その疑問の答えを聞かせてもらわないと、聞かないと、私はどうなるかわかんない。

 

 

「ユイッ!!!」

 

 

 大声で叫ぶ。

 ユイは相変わらず顔を背けたままで、

 

 

「待ってくれ、ルビー」

 

 

 …………ユーゴ? 

 

 ユーゴが私に待てと言ったの? 

 

「彼に聞いても詳しいことは聞けないはずだよ。僕への依頼者は『彼』の主人じゃない……カミシロの現トップ『岸辺リエ』だ」

 

 彼……タイトじゃない? 

 

 岸辺リエ? 

 

 それってテレビでやってるあのケバケバしい厚化粧のおばさん? 

 

 なんか力が抜け────

 

 

「岸辺、だとっ!?」

 

 ────びっくぅっ!? 

 

「あいたぁっ!?」

 

 ぼたんと、ユイを落としてしまった。

 

「あく、あ?」

 

「アクア?」

 

「アクアくん?」

 

 怒鳴り声の正体はアクア。

 私もパイセンもあかねちゃんもびっくりして、アクアの方を見てる。アクアはユーゴの方を睨んでいて、

 

「僕としても不用意に『EDEN』を荒らす存在は容認できなくてね。僕直々に処理しようとしたのは本当だ。……しかし、『カミシロ』の依頼で君達がなんとかするまでは動かないでほしいと言われていたんだ」

 

「……それは何故だ」

 

 今度は又吉さんがユーゴを睨んでいる。『岸辺リエ』って人はアクアに何か関係してるの? 

 

「『番組としておもしろいから』……と言っていたけど、これは表向きの理由かな?」

 

 表向きの理由……っ、ユイの方を見れば、ユイが目を逸らしてるのが見えた。やっぱり、嘘をついていたのがバレたみたいで、私が見た途端、ユイは目を逸らした。

 

「わざわざ僕に依頼してきた理由は1つ、彼が持つ機密情報の隠蔽。

 君のお兄さんも知っている通り、『EDENアカウントの破壊』は中々に精神にくるものがあるからね」

 

 私に向けて言った言葉。

 

 

『EDENアカウントの破壊』

 

 

 その言葉がアクアに関係している? 

 

「────てめえっ!!!」

 

 アクアが怒ってデジヴァイスを取り出した。

 

(……どーしてっ!?)

 

「アクアくんっ!?」/「アクたんっ!?」

 

「リーフモンっ!!!」

 

 気になることはいっぱいだ。だけど、それ以上に気になることがある。

 

「わかってるよ、アーちゃ……、ルビー、ぃいいいぃ────っ!?」

 

 私はリーフモンの体をキメラモンの作ったクレーターの外側まで掴んで放り投げる。

 

「ルビーっ、何やってるのっ!?」 

 

「パイセン、MEMちょ、……アクアを抑えといて」

 

「おい、ふざけるなっ! あいつは────」

 

「はいはい、あんたは黙ってましょうね」

 

「アクたん、ルビーが話すって言ってるでしょ」

 

 ありがとう2人とも、あかねさんも止めてくれるみたいだ。又吉さんがどこかに行ったけど、……でも、

 

「ユーゴさん」

 

 それ以上に私には、

 

 

「あいつは、マナトは全部知ってるの?」

 

 

 私には知りたいことがある。

 

「僕からは何にも……でも」

 

 首を振るユーゴさん。そして、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 アクアのポケットに何かあると伝えられる。

 

「あかねさん」

 

(うん)

 

 私はユーゴを睨んで、目を離さない。

 

「────っ、ん────っ!?」

 

「はいはい、動かないのっ!」

 

「ちょっと暴れないでね」

 

 アクアの暴れる音が止まった。そして視線の先には────、

 

 

「黒い、D-3?」

 

 

 デジモンカイザーが持っていた黒いD-3がそこにあった。

 

「それを置いて離れてもらおうかな?」

 

「────ッ、わかった」

 

 ユーゴが腕を振り下ろす。

 

 

「ムゲンドラモン」

 

「『♾️キャノン』」

 

 

 帰って行く3人の声が聞こえてくる。

 

「うん、これで、僕らへの依頼は終了したかな?」

 

「ご苦労……、終了したことを確認した」

 

「……あんさんなぁ? いくら、あの男の使いやからってユーゴはんに失礼なんとちゃいますか?」

 

「…………」

 

「まあっ、無視だなんて失礼な対応とちゃいますか? お話、あんまり耳に入らへんような耳なら……いらんのとちゃいますか?」

 

「────やめろ、フェイっ!!!」

 

「…………」

 

「────ユーゴはん?」

 

「この人は彼の部下だ。失礼なことをしないでくれ」

 

「ユーゴはん、そ、そない怒らんと……申し訳ありませんでした、堪忍どすえ」

 

「…………」

 

「……すまないことをした。僕からも謝罪させてもらおう」

 

「いや、別に問題ない」

 

「私は別の仕事がある。今回のことは野良犬に噛まれたとでも思っておくさ」

 

「ああ゛っっ!?」

 

「フェイっ! ……いつもすまない」

 

「……それでは、私は離れよう」

 

「フェイ、僕らも行こう」

 

「了解です、ユーゴはん」

 

「…………ああ、そうそう。星野ルビーさん……だったよね?」

 

「……何?」

 

「ありがとう。君達のおかげで『EDEN』の治安が比較的に良くなった。今後も期待してる」

 

 

 最後の最後に見せ場を奪われた。

 

 デジモンカイザーは倒したのに、デジモンカイザーを捕まえられなかった。

 

 そして、私は思うのだ。

 

 

(試合に勝って、勝負に負けた)

 

 

 そう私は実感した。

 

 

 

 

 

「────なんっ、なのよ、あいつらっ!!!」

 

『EDEN』の会議室。

 

「勝手に出てきて、勝手に暴れて、挙げ句の果てに何も言わずに勝手に帰るっ!!! 私達の番組をなんだと思ってるのよっ!!!」

 

 帰ってきて、パイセンの罵声が響いてくる。

 

「まあまあ、こっちのアカウントが壊されなかっただけマシだと思おうよ、かなちゃん」

 

「メムは怒れないのっ!? あんなことやられて、さぁっ!!!」

 

「うーん、怒りたい……けど」

 

「…………」

 

「アクアくん」

 

 みんなの視線がこっちにきた。

 

(理知的なアクたんやデジモン関係じゃなきゃ笑顔の多いルビーが、あの騒動からずっと仏頂面なので、あの2人以上に怒れない……というか、怒りたくないというか)

 

 なんというか、少しだけ、ほんっの少しだけ申し訳ないけど、私は立ち上がって、

 

「ユイ」

 

 ユイに向かって歩き出す。

 

「なんですかな、ルビー殿?」

 

 映像をいじってるユイはこちらに視線を向けずに、私の声に反応する。

 

「……すぅ」

 

 少しだけ深呼吸。

 緊張が解けて、言う覚悟が決まった。

 

 

 

「マナトに言っといて、クリスマスは空けといてって」

 

 

 私は常々思ってたんだ。

 

(報酬ぐらいもらって良いよね?)

 

 …………って。

 

「……へ?」

 

「「「え」」」

 

「……は?」

 

 私は『EDEN』のログアウトへと向かう。

 

 

「「「えぇぇええええええ────っっ!?」」」

 

 

 部屋の中から大きな声が聞こえてきた。

 

 

「クリスマスってっ!? 一ヶ月もないではありませぬかっ!?」

 

 

 ユイがそう叫んだ声が聞こえたので、部屋の外からチコモンを抱えた腕とは客の手で少しだけドアを開けて、

 

「いーじゃんっ! それとご褒美ちょーだいっって連絡も入れといてねっ!!!」

 

 そう言って、今度こそログアウトをしたのだった。

 

 

 

 

「そんな無茶、どーすればいいのでありますかぁ────っっ!?」

 

 

 

 

*1
レベル:幼年期I タイプ:スライム型 属性:ー 必殺技:『酸の泡』

 尻尾部に新緑の息吹(小さな葉っぱ)を持ったスライム型デジモン。植物の要素を多く持ち体成分には葉緑素を含んでいて、光合成をして成長している。葉っぱ状の尻尾を持ち、日差しが強いときや雨の時はその葉っぱでしのいでいる。純真無垢な性格で相手が怖いとか、疑うことなどはしない。しかし、ちょっぴり恥ずかしがり屋だ。生まれたてで戦うことはできないが、生命力あふれる初々しい心は忘れかけていた純粋な気持ちを思い出させ、周りの人々を穏やかな空気で包み込む。しかし、ちょっかいを出しすぎると、酸性の泡を吐いて威嚇してくるぞ。

*2
レベル:幼年期I タイプ:スライム型 属性:ー 必殺技:『粘着性の泡』

 一見、ただの薄緑色の泡のようだが、自由に行動し豊かな表情を見せる泡型のデジモン。表面はまだ固まっていないため、防御力は無いに等しく戦闘には向いていない。口にくわえたおしゃぶりのように見える部分から、小型の泡を発生させ、無限に増殖していく。その増殖性は、かつてコンピュータウィルス開発に使用されかかったが、あまりに生命力が弱いため幸い実行されなかった。はかない命だが、懸命に生きる愛すべきデジモンベビー。体の中から発生させる粘着性の泡で外敵の動きを封じ、その間に逃げるのが得意。

*3
レベル:幼年期I タイプ:マシーン型 属性:ー 必殺技:『ジャミングパウダー』

 光センサーになっている赤い目を持つ超小型のマシーンデジモン。ちょこまかと動き回る姿はとても可愛らしいが、明るい光に反応して動き回る単純なプログラムしか持ち合わせていないため、周りが暗くなると動くことが出来なくなってしまう。なぜか分からないが機嫌の良いときは尻尾の先から電気を放電させている。持ち技は鉄の粒子を放出して敵のAI(人工知能)を一時的に混乱させる『ジャミングパウダー』。この技で敵が混乱している間に逃げ出してしまう。






「制圧完了いたしました」

場所は官邸。
その椅子は黒の皮で作られており、国家の責を負う者が座るべき椅子……、そこには、本来の主ではない『子供』が座っている。

「…………」

子供は黒ずくめの服装で、顔も姿も見えず、どんな容姿をしているのか判断がつかない。

「どうですかな、総理の椅子は?」

笑いかける男の様相は……、テレビで連日流れる国の将来を憂う話をする初老の男が……男が、………男……、おと、こ? 

顔以外の部位が着ぐるみのように何かに覆い被され、唯一剥き出しになっている顔は化粧で白塗りの猫顔の不細工な青年であった。

「くだらないさ。彼女の責に比べたら、この椅子なんてものは、な」

「彼女、ですか」

「顔を伺うしか脳のない男と比べるなよ」

「……それもそうでありますな」

彼女とは誰なのか?
耳に入る不当な会話に怒りを覚えるが、この者達の怪しげな会話に耳を傾けることを優先する。


「……いや、しかし、関連機関を含め、全ての省庁の上層部から、職員、果てはボディガードに至るまで、『ベツモン』に変えたのはやりすぎではないのでしょうか?」


(ーーーーっ!?)

塞がれている口を動かし、目を見開く。
白塗りの男の名は『ベツモン』と言うらしい。しかし、それ以上に驚くべき点が1つあった。

(官邸が既に占領されているだとっ!?)

この男の話によれば、既に日本の政府機関はこの子供の手中に収まったと言っても過言ではない。

(今すぐ、ここから逃げーーーー)


ーーーーどんっ!

瞬間頭が明滅する。

「そんなことはないさ」

腹が焼けるように痛い。

「腐敗しているとはいえ、この国の才を集めた国家機関だ。勘のいい人間や記憶力の無駄に高い人間はたくさんいる……たとえば、足の歩き方や呼吸の回数の違い、話す内容から別人だと判断する人間だとか」

次に腰が叩きつけられ、最新の薬で悩まされることも無くなった腰痛が、今までにない痛みで私の全身を駆け巡った。

「いるかもしれないどころか、いた人間ですよ……それ。制圧するのにどれだけ時間かけたと思ったんですか? 一ヶ月ですよ、一ヶ月。力任せに動けばどれだけ楽だったか……」

耳から聞こえてくる言葉に疑問を感じる暇もなく、全身を叩きつけられた痛みでもがき苦しむ。


「終わったよ、タイトッ!!!」

「終わったで、タイトく、ーーーーぶっ!?」


大きな音が鳴り、関西弁の女と子供らしい声が聞こえた。
子供へと駆け寄る少女が壁にぶつかった音だ。子供は少女の横を通り過ぎるのを確認。その2人の顔が見て、正体を知らねば、

(……たい、と? それがこの子供のなまーーーーっ!?)


()()()()()()()()()()


「テト、早かったね」

「うん、タイトにものすっごく会いたかったから、早く戻ってきたんだ!!!」


……なん、で?


「おい、性悪デジモンっ! そこは、ウチが、ウチが抱きしめられるところやろうがっ!!!」

「ぎゅーっ、えへへ」

「マナトくんから離れろっ!!!」


……なんで、貴方方がそこにいるっ!?


「ンー、ンーッ!」


私は叫ぶ。
女らしい顔つきの少年に向かって、叫び続ける。


「おっと失礼、1人を残して……でしたね。『総理』」


少年が笑いかけた時、抱きしめられていた黒色のバケモノが私を睨みつけた。


()()


バケモノの腕が巨大な鉤爪へと変わる。


「貴方の代わりはもうここにいます。だから安心して」


ベツモンと呼ばれた私の偽物を示し、彼のお方は指を鳴らし……、

        世界が歪み、

            床が捩れ、

     机がまだらに染まり、


天井が割れ、


                銀色のバケモノが




「この世界から消えてください」
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