産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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やがて、質問コーナーは視聴者から質問を集めるものへと変わっていき……、

:マナトさんの貯金はどれくらいありますか?

「シキ……どれだけあるんだ?」

「少なくとも個人で国家に喧嘩売れるぐらいにはありますね」

「……とのことです」

:許嫁はいますか?

「……、その話はしないでくれ。旅行中に思い出したくもない」

「数ヶ月前までは、四宮のご令嬢が許嫁候補に上がっておりました。現在は四条のご令嬢と……ですね」

「…………」

:四宮って、あの娘さんですか? かなり美人で気立ても良い人だと思うんですけど……実は、そんなに性格がヤバイ?

「本人達の気質は一般人よりだが、背後が蛆虫が集る死体ぐらい論外。視聴者にもわかるように言えば、『あんなのと結婚するぐらいなら、性格が醜くハゲ太っている中卒ニートでバツ5の浮気をしてできた子供を虐待している60代のババアっていう物体Xと結婚しろ』と言われているもんだ」

:うちの会社のご令嬢酷い言われようで草なんだが

「ご愁傷様です」

:EDEN症候群は治りますか?

「……さぁ? 上手くいけば治るんじゃない?」

:カミシロがEDEN症候群を生み出してると聞きました!? その話は本当なのでしょうかっ!?

「論文読め、論文」

「父さん……、末堂アケミがEDEN症候群の第一人者だ。あの人以上に詳しい人間なんざいないよ。俺が答えられないことを俺に聞かれても困るから……そーいうのやめろ」

:やっぱりカミシロの陰謀論は当たっていたのですねっ! 国に訴えてやるっ!!!

「……あのさぁ、バカなのこいつ? 論文を読めって言ってるだろ? 自分のわからないことぐらい自分で調べろよ。最新の研究だって、病院の公式サイトに公表しているんだ。ほんっとさぁ、自分で調べてくれよ」

「アカウントはどういたしますか?」

「垢BANよろしく……、次に同じようにやるようなバカがいたら、開示請求を頼んだ」

:末堂アケミさんの息子になる前は何をやっていましたか?

「とある国で暮らしていた。詳細は言えないが、2番目の彼女とはそこで出会った」

:先程、『味見ができない』、『第二次性徴が来ない』という発言はどういう意味なのですか?

「人体実験の結果、精神病になった」

「ーーーーマナトさまっ!?」

「1番目に出会った彼女の国で友人がスラムのガキにイジメ殺された。4歳ぐらいの時だったか……、自分より歳上の小学生から中学生ぐらいの複数人に囲まれて暴力を受け続けた。それが原因で力を求めた結果、……こんなふうに」

指で鉄球を潰す。

「人体実験によって肉体的な力はバケモノレベルに昇華されている。その代わり自分が安心して食べられる物はほとんどないがな」

:人体実験をされて人間不信にはならなかったんですか?

「研究所の人間は理性的だったからな。躾のなってないガキより、知識と道徳の授業を受けたマッドサイエンティストの方がまだまともだったって話だ」

:イジメ殺したってひどいっ!?

「俺がいたのはガキの教育機関もない発展途上国未満の碌でもない国だ。ガキがつけあがるような隙を見せて、殺される方が間抜けなだったってだけなんだ……、そう思わないとやってられない場所だったんだ」

:なんでそんな国に4歳の頃にいたんですか?

「両親がそういった系統の仕事だったからだよ。今の父さんに引き取られた理由も末堂アケミが俺の実の両親と友人だったから。両親は俺を連れてその国へ行ってすぐ……、3歳の頃に殺されて、俺は1番目の国のスラム行き、中学にあがるくらいの歳の頃に、2番目の国でたまたま父さんに……末堂さんに会わなければ、その国で暮らしていたかな」

:詳しく言えないとはなんだったのか

「テキトーだよテキトー……、嘘かもしれない話にそんな乗るなよバカバカしい」

:なんか思った以上に悲しい過去が出てきて辛い件について

「聞いた奴が悪い」

:ルビーたそとはどういう関係なのですか!?

「ただの友人。それ以上でもそれ以下でもないよ……、なんでルビーは凹んでるんだ?」

:人を殺したことはある?

「人を殺したことはない」

:今まで生きてきて1番楽しかったのはいつですか?

「スラムにいた頃、友人達と一緒に家を作ってた頃かな? 海辺の綺麗な砂浜付近、ヤシの木の下にみんなで住めるぐらいの小さな小屋を作ったんだよ……、今思えばあの頃が1番幸せだった」

「……私達は……必要ですか?」

「ムーチョモン博士やシキやシルズがいるから楽しいんだよ。今はそれ以上は求めないかな?」

:お前らっ、俺達を誘わずに3人で旅行楽しみやがってっ!

:今度は僕達も連れていってくださいっ!!!

「身バレするようなことはするな、バカども……、時間があったら、どこか楽しいところでも行きたいなぁ」




第三話 人助けをする理由

 

 2016/12/31 PM17:26

 

 

 視聴者との質問コーナーは1時間ほど続き、窓から差し込む陽の光が暮れ始める。

 

 

 :性癖に刺さる好きな男の子のタイプはいますか? 

 

 

 コメント欄の中でも突拍子もない質問も飛び交い始める。

 

「いない……ってか、なんだよ。この質問」

 

「マナト様が余計なことをたくさん言うからです……、見てください周囲のみなさまを」

 

「……ん?」

 

 彼は呆れるようにシキさんに聞いているが、彼自身の身の上話も突拍子もないものであった為……、

 

 

「「「…………」」」

 

 

 沈痛そうな面持ちの星野家の面々や胃が痛いと悩む大人達、……そして、

 

「……流石に嘘ですよね?」

 

「うそ、でしょ?」

 

「……うそ、もしかしてうちの上司って……メディアリテラシーがなさすぎ?」

 

 目を見開くあかねちゃんやかなさん、胃の痛みを通り越して血反吐を吐きそうになっているMEMがそこにいた。

 

(……にしても)

 

 マナトさんの表情が一切変わっていないことから、……たぶん、

 

 

「いや、別に隠してないし問題ないだろ?」

 

 

 この言葉は本心なんだと思う。

 

 

「次の質問にいこうか?」

 

 

 とはいえ、本人としても質問コーナーを続けたいみたいだけど、コメント欄を見れば……、

 

 

 :…………

 

 :…………

 

 :…………

 

 :…………

 

 :…………

 

 

「……あのコメント欄も黙ってしまっているみたいなのですが?」

 

 コメント欄すらも絶句していた。

 そもそも最初は質問のコメントでコメント欄は溢れきっていたのだ。しかし、コメント欄の視聴者達がマナトさんへと質問をするたびに、質問した視聴者が次々と無言に変わっていった。最後にはさっきみたいな変な質問しか残らなくなっていった。それはなぜなのか……といえば、

 

 

「質問したいことがないだけだろ? 『好きな男の子趣味はなんですか?』とか聞くようなこいつらが、そんな気にするような連中なわけ……?」

 

 

 :えっ、あー……いや

 

 :確かにそんな質問をしたけどさ

 

 :うーん、この

 

 :流石の視聴者もそんな話をされたら気を使うって

 

 :現代で人体実験するような国があるとか流石に嘘だと信じたい件について

 

 

「……とみなさまはもうしておられるようですが?」

 

 視聴者自体が好奇心で踏み込めない程の闇を感じ取った結果だと言える。

 

(おじいちゃんから聞いてた話とはちょっと違うけど……?)

 

 本当のことは話してるけど誤魔化してるところもあるってことだと思った。デジモンの世界で暮らしてましたなんて話すことはできないし……ん? 

 

 

「これで質問コーナーも終わりにしようか」

 

 

 コメント欄からの質問コメントが無くなったので、そう言ってマナトさんは質問コーナーを切り上げようとした時だった。

 

 

 :あっ、待って……質問ありますっ!!! 

 

 

 1人の視聴者が声をそうコメントを書き残した。

 

 :えっ、なになに? 

 

 :まだ質問したいって奴が居たのかよ? 

 

 :空気読めよ。これ以上辛い過去とか話されても困るって

 

 :パンドラの箱を開けようとすんなよ

 

 そんなコメントが次々に流れていく。

 

(……むぅっ!?)

 

 正直、こういう雰囲気は好きじゃない。

 1人の視聴者が最後になってようやく勇気を出したというのに、民意で押さえつけようとする雰囲気は私は好きじゃなかった。

 

「……では最後の質問にしましょうか」

 

 マナトさんがその視聴者へとそう声をかける……すると、

 

 

 :なんでボランティアとか、人助けとかするんですか? 

 

 

 30秒くらい経った後、そんな質問が流れてきたのだった。

 

「……へ?」

 

 私の口から漏れ出した驚き、そして戸惑い……、よくわからない質問が流れてきたからだった。

 

「あっ、私もそれ気になってましたっ!?」

 

「MEMちょさん?」

 

 ……あれ? 

 

「仕事をしてる間にスポンサーやマナトさんのことを調べてると、ネットに写真や動画が上がってるのを見つけて……、駅の掃除やボランティアの写真がこんな感じに……」

 

 もしかして、有名な話だったりするのだろうか? 

 

 

『某駅前で美少女達がボランティアやってるのを隠し撮り!?』

 

『美少女、男の子2人とボランティア中!?』

 

『噂の美少女、区役所に出没か?』

 

 

 写真を見ると、ルビーちゃんや寿ちゃん、金髪に近い茶髪と坊主頭の少年とボランティアをしてるマナトさんの写真がSNSにあげられていた。

 

「……えっ、うそっ!?」

 

「……あ゛ー、あいつらと一緒に写真にでも撮られてたか?」

 

「訴えますか?」

 

「やめろ、めんどくさい」

 

 ルビーちゃん達の『あちゃー』という顔から、彼らは本当にボランティアをしていたのだろう。

 

(……あれ?)

 

 頭の中で疑問符が並んでいく。

 

(でも、どーして?)

 

 どーして、どーしてと頭の中でぐるぐると叫んでいる。

 

 

「……てか、なんでそんなことを聞くんだよ?」

 

 

 なんでこの人は『人助け』なんてやってるんだ? 

 

 

 :だって、なぁ? 

 

 :クソガキにそんな目に遭って、なんで人を助けようとか思えるのか理解できないし

 

 :てか、この人『あの学校』の『あの事件』当事者って噂もあるけど……? 

 

 :あー、某◯◯◯事件のっ!? 

 

 :やめろ、余計なことをコメント欄に書くな

 

 

 なんか他にもおもしろそうな話が流れてきた気がする。その話にツッコミたいけど……、

 

「……マナト様?」

 

「シキ、やめろ」

 

「いちいち腹を立てるな。めんどくさいって言ってるだろ?」

 

「…………」

 

「にらまない、にらまない」

 

 シキさんがとんでもない表情でコメントを睨んでいたので、流石に……自重しよっと。それに今の私には……、

 

 

「……てな、わけで私達も気になってるんですよ。そこんところどーなんですか?」

 

 

 他に質問したいことがあるのだから。

 

 

「俺は心の底から誰かを助けたいなんて思ったことはないよ」

 

 

「「「────ハアッ!?」」」

 

「「…………」」

 

 驚いたのはアクアさん、かなさん、MEMの3人……、驚いてないのはルビーちゃんと寿ちゃん。

 

(てことは、あの2人は事情を知ってるってこと?)

 

 おじいちゃん達と旅をしたらしいあの2人はマナトさんの事情をおじいちゃんよりも詳しく知ってて、その上で理解している。その事実を横目で感じながら、進行を進める。

 

「……まあ、そーですよねぇ……、あんな話をされちゃったら、そうも思いますよねぇ……でも、なんでボランティアなんてやってるんですか?」

 

「正確には『やってた』……かな? 最近は忙しくてなかなか休みが取れてないし……、……うん、そうだね。これは言い訳だ」

 

 驚きながら話すMEM。そして、『やってた』という言葉を話したマナトさん。

 

(…………ん?)

 

 その発言からデジヴァイスでSNSの投稿を確認すると、去年……、もう少しで一昨年になる7月あたりから、噂の出どころの写真の更新がされてないことがわかった。

 

 

「俺は人を助けたいなんて思ったことはない……でもさ、……でも、憧れたんだ」

 

 

 マナトさんが遠い目を天井に向けて話す。

 

「……憧れた?」

 

『憧れた』……それは、誰のことを言っているのだろう? そう思いながら、マナトさんへと聞いてみる。

 

 

「人を助けるあの人の背中に俺は憧れたんだ」

 

 

 彼のその一言一言尊ぶような言葉は、その優しげな視線は明確に誰かへと向いていた。

 

(あの人?)

 

(……人を助けるあの人?)

 

 それは誰のことだろうと、ここにいる全員が身を乗り出し、聞き始める。

 

「困った人を見過ごせない人でさ……、初めて会った俺をすぐに信じてくれるようなそんな人だったんだ」

 

 マナトさんは懐かしむように話し出した。

 

「あの人は困ってる誰かがいると、『ほっとけない』って大きな声をはりあげて、走って助けにいくような人でさ……、そんな人の背中を見て周りの人も困ったようなうれしいような顔をしながらその人の背を追っていく……、そんな人達に俺は助けられたんだ」

 

 彼の『人助け』の始まり、そして、その行動を始めるに至ったここにはいない『誰か』。

 

「その影響がどんどん周りの人に伝播していって、気づいたら俺もその輪の中に入ってたんだよ」

 

 夢のような、物語の主人公のような、そんな人。

 

「その人とはもう会えなくなってしまったけれど、……俺もその人のように行動すれば、その人の周りの人のように『ほっとけない』人達が増えると信じていたんだ」

 

 幼い少年の、人の優しさに触れた少年の幼く眩しすぎる『憧れ』。そして、その見本となった『誰か』への強い想いと……、

 

 

「……『信じていた』?」

 

 

 寂しそうな……哀しそうな表情に、つい、ついそんな言葉が出てしまった。

 

「現実はそうは上手くいかなくてさ。たくさん、たくさん裏切られたよ」

 

 寂しげに笑って、哀しそうに俯いて、……その両手は強く強く握りしめられていて、悔しさに打ち震えてるのがわかった。

 

「自分から進んで行動すれば、少しでも……、きっと世界が変わるって信じていた。けど、そんなことはなかった」

 

(きっと、きっと……彼は気づいちゃったんだ)

 

『現実はそうはうまくいかない』ってことに気づいて、気づいて、気づかされて……、その先で、手を伸ばすことさえ諦めて……、変わらない現実に諦めてしまったことに気がついた。

 

「「…………」」

 

 目を逸らしたシキさん。

 俯いた部下の人達……、マナトさんへとシキさんは一歩ずつ近づいていく。

 

「もうここでやめましょうか?」

 

 それは『何』について話してるだろう? 

 

 おじいちゃん達へと話した世界の危機についてだろうか? 

 

 それともマナトさんが苦しんだ『人助け』についてだろうか? 

 

 ……それとも、

 

「……もう、他人なんか助けるなんて嫌だ……だけど、裏切られて、裏切られて、裏切られた先にようやく掴めるものがあるとわかったんだ」

 

 マナトさんは力なく笑った。

 力なく笑っていたけれど、その表情には決意が残っていて……、それに部下の人達も頷きあって、

 

「……だから」

 

 ……だから? 

 

「だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ッ、()()()()()()()()ッッ!!! 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「えっ、なになにっ!?」

 

「────っ!?」

 

「────ちゃんっ!」

 

「アイッ!?」

 

「壱護はアクアとルビーをっ!?」

 

「────アクアくんッ!?」

 

「MEMッ!!!」

 

「────クソッ!?」

 

「みなさま、こちらへっ!!!」

 

 

 慌てふためく中、黒い影が揺らめいた。

 しかし、その影の正体がわからないまま、鳴り響く銃声と、学生服とセーラー服の少年少女、オールバックの男、やけに盗撮の取れた男達が壊れた自動ドアから侵入してくる。

 

 

()()()()()()()()!!!」

 

 

 オールバックの男が叫んだ。手には拳銃らしきものが……っ!? 

 

 

 

 

 

 

「……だから、嫌いなんだよ」

 





鳴り響いたのは炸裂音。
マナトくんと犯人達との会話の中、日本にあっちゃいけない。日本で起こっちゃいけない大きな音が鳴り響いた。


ーーーーガチャンッ!


大きな音が鳴って、カメラが倒れる……すると、

(……マナトくんっ!?)

カメラが倒れた先に椅子に座ったマナトくんの姿が見えた。

(……あれ?)


カメラにノイズが入る。

『ー、……、はぁ』

画面が灰色に、白に、黒に……色を変えながら明滅し始める。

『う  い、おれ  は  違 ていな  だ !!!』

学生服を着た少年が銃を向けたそのときだった。


『俺は歌が歌いたいんだ』


ーーーーブツンッ!

私は画面が暗くなり、動画が止まった瞬間、初めてカメラが壊れたのだと気がついた。

(マナトくん?)

最後に、ノイズの中で立ち上がる彼の背中がとても寂しそうに見えた……気がした。
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