「……ひぇえっ!?」
たった一言そう言っただけで、背後から這い出るような気配に身の毛がよだつ感覚が襲いかかる。
視線の先は襲撃者ではなく、背後の『少年』。
いや、もはや少年とは言い難いその気配にその場にいたものは瞬時に振り返った。
『
チクタク、チクタクと時計の針が揺れ動く。時間は18:00を過ぎ、時計の鐘がゴーンゴーンと鳴り響く。
「おうおうおうっ、ここが誰の縄張りかわかってんのかてめえ────」
「シルズ」
「────ッ!?」
「静かにしなさい」
シルズさんが侵入者達に声をかけようとしていたが、シキさんに声をかけられたことにより、背後の気配を感じとりすぐにシキさんよりも後ろに引き下がった。
(……わかる気がする)
シルズさんは感じ取れなかったみたいだけど、彼の近くにいた私達はすぐ気づいた。
──ーカコン、と氷が揺れる音がした。
テーブルの上のグラスの中に入っていた氷がゆっくりと溶け始め、ぴちゃんと水滴がグラスの底に落ちて音をたてる。
(…………やっば)
そのグラスの正面にさっきまでとはうってかわった無表情の少年が座っている。
「……おかしいな」
その一言を、私達の先……いいや、壊された自動ドアの前に立つ学ランを着た少年達へと視線を投げかける。
「
「「「────ッ!?」」」
その表情はあまりにも『無』。
睨みつけているわけでもない。怒っているわけでもない……ただ、ただ目の前にいる存在を、睨みつけている存在を……まるで『虫』のように思ってるような視線。
「そこの学生服……秀知院学院の物かな? 『あの』秀知院学院の学生がここに何のようだ?」
怒っているような口調ではなく、気持ち悪い物を扱うような……、少女が毛虫に触らなくちゃいけないような声で
(ひぇえ、もしテレビで出てくるようなお金持ちの人にあんな声をだされたら、私だったら緊張しちゃうよっ!?)
その瞳には優しさなどはなく、あくまでもあるのは嫌悪感だけ……、そして、シルズさんもシキさんもマナトさんを心配そうに見るだけで動くことすらしていなかった。
「────ッ、俺達は、貴様の、貴様ら『カミシロ』の圧政を止め、真実を知らしめる為にきたんだっ!!!」
学帽を被った少年がマナトさんを指差して弾劾する。
(……圧政?)
マナトさんが圧政?
確かに『カミシロ』は政府とも繋がりのある大企業だけど、少年が言うように圧政をしてるなんて話は聞いたことがない。むしろ、国益になるように頑張って働いてるとしか思えない。
「……圧政、とは?」
マナトさんもわからないのか少年に向かって見えるように首を傾げた。
「覚えてないなんて言わせねぇっ、お前達が私のオヤジやコイツの父親を捕まえただろうがっ!!!」
今度は隣にいたベレー帽の少女が怒鳴りだす。
(捕まえた?)
あの2人は怒っている。
マナトさん達『カミシロ』によって父親を捕まえられて怒っている? ……でも、それはおかしい。秀知院学院の……たぶん偉い人の息子娘であろう2人の父親が捕まったのはいったい……、あっ!?
「……ああ、道理で見たことのある顔だと思った」
マナトさんが納得したというような顔で2人を────、
「
瞬間、嘲るような表情へと変わっていた。
「黙れぇっ!!!」
少女がマナトさんに向けて銃を発砲。
「────ひぃっ!?」
結構離れた位置に立ってた私だけど、思わずそんな声が出てしまう程激しい音が鳴り響いた。
「ちょっとマナトさん、あの人達を刺激するようなことを言わないでくださいっ!?」
あかねが大きな声でマナトさんにそう言った。見れば横にいたかなちゃんを抱きしめて守るように立ってる。
(ありがとうあかね)
マナトさんは一瞥しただけで、すぐに少年達を睨みつけた。
「……で、『元』警視総監の息子とヤクザの娘がこの場所に何のようかな? 邪魔だから帰ってほしいんだけど?」
だけど、マナトさんの態度は変わらない。『元』警視総監の息子とヤクザの娘がやってきたにも関わらず、うっとうしい物を見るような目、で?
(警視総監っ!?)
(ヤクザってっ!?)
あの子達がっ!?
(……うそでしょ?)
『元』とはいえ警察のトップとヤクザの娘が、『カミシロ』の関係者の別荘をLIVE中に襲撃したっ!?
(バカじゃないのっ!?)
バカがいる……本物のバカが目の前にいるっ!?
私みたいな一般人でもわかるような大事を、目の前の少年達はやらかしてしまっている。マナトさんもそりゃあ帰ってほしいって思うよっ!?
「邪魔、だとぉっ!!!」
怒ってるけど、当然の反応っ!?
元とは言っても『警視総監』の息子がこんなことしていいはずがないっ!? しかもよく見れば背後にいる人達警官っぽい格好してるっ!? 公的機関の私的利用すぎるっ!?
「邪魔だろう? お前達みたいな身の程知らずは? ……にしても、何か」
カランカランとグラスの氷が揺れて────、
「今、ここで、殺してやろうか?」
「「「────ッ!?」」」
ものすっごく怖い感じが背筋に襲いかかった。
「……冗談だ。一般人の目の前でそんなことはしないさ……お前達と俺達は違うからな」
冗談じゃない。
間違いなくヤル気だった。この人私達がいなかったら本気で、マジで本気で目の前の襲ってきた人達を殺すつもりだったっ!?
「…………っ!?」
それがわかってるのかベレー帽の少女の腕が震えていた。
「やっぱりやめましょうよ。こんなバケモノ相手に割に合わないことをするべきじゃなかったんですって」
「うるせぇっ、今更ひけるかっ!? 黙って俺について来いっつってんだよっ!!!」
マナトさんの殺意を感じたのか、少年と少女の後ろの人達が騒ぎ出した。
(あっちの人達の見た目からして……)
警察官に、ヤクザ、警備員っぽい格好をしてるけど、どう見てもチンピラふうの男達が並んでる。その中に一際異彩を放つ1人の男性が立っている。
(明らかにカタギじゃないオールバックの男の人がうしろにいるよぉっ!?)
さっきからマナトさんが視線すら合わせようとしないオールバックの男がいらだちはじめた。コンコンと貧乏ゆすりをしながら、タバコに火を灯している。
それにあの少年達だ。
あかねより大人びた少年達……いや、青年と言っても過言ではない彼らが、マナトさんを鬼の形相で睨みつけている。
(マナトさんはいったいこの子達の親に何をしたって言うのっ!?)
きっとマナトさんは悪いことをしていない。していないはず……だけど、たぶん相手の方が悪いことをやってる……んだけど、それでも、この状況で聞く勇気は私にはない。
「俺は助けて『やった』と思ったんだけどなぁ?」
『やった』ってっ!?
『やった』って言ったよこの人っ!?
「なんだとっ、ふざけてんのか、てめえっ!?」
ほら、やっぱり怒ったじゃん。少しは空気を読もうとしてよっ!?
「警視総監とヤクザとの繋がりをリークしてやっただけで、そんなに言われることか?」
リークしたの?
リークしたのっ!?
警視総監とヤクザもりそりゃ怒るよっ!?
「親父はそれで警視総監を退職に追いやられたどころか、逮捕までされたんだぞっ!? 俺と仲良くしてくれた幹部の人達もだっ!!! それを、『そんなに』、そんなにだとぉっ!? ふざけるなっ!!!」
ほら怒ってんじゃんッ!?
「いや、普通に犯罪だろ?」
犯罪だけどもっ、犯罪だけどもっ!?
「現警視総監は政府が信用している『カミシロ』が推薦した人間だ。お前達みたいな金に物を言わせる犯罪者じゃない。むしろ法に真摯な人間だ。それが何か悪いことなのか?」
うん、それを聞いて安心した。ヤクザと繋がってる警視総監なんて信用できないよね……って、違うわっ!!!
(明らかに地雷踏んでる……、もしかして、わざと? わざとなの!?)
一般人からすればものすっごくありがたいけど、『カミシロ』の……ううん、政府の内部事情に私達パンピーを巻き込まないでくれるかなっ!?
「『悪いことなのか』だってぇ……、そんなことで、そんなことで私のオヤジまで捕まえやがってっ! 今すぐてめえをぶっ殺してやるっ!!!」
だから、あれだけ怒らせる、よーなことを────、
(って、撃たれたっ!?)
銃口はマナトさんに向かって照準が定まっていて、マナトさんの背後のロビーにあるガラス窓が割れ、割れ割れ……割れてるっ!?
「────マナトっ!?」
マナトさんはいつのまにか首を横に傾けてる。ルビーの声が響いた……と思ったら、
(もしかして、銃の弾を避けた?)
撃たれた時には首はまっすぐ彼らの方に向いていた。しかし、いつのまにか首が右に倒れている。
(なんでシルズさん達も動いてない?)
さっきも聞いたとんでも身体能力が発揮されている……から、動く必要がなかった?
(それが本当なら、……あの一瞬で弾を避けたっていうの?)
「「…………」」
私が見ていたことに気がついたのか、シルズさんとシキさんが黙って目を逸らしてる。疑念が確信に変わった。とんでもない人だよこの人っ!?
「……発砲、ね。殺意もあった……これで、『殺人未遂』は確定かな?」
そして、撃たれたマナトさんはあまりにも冷静であった。
「「────っ!?」」
そして、あまりにも『冷徹』だった。
(この人銃に撃たれたのに、意外と冷静すぎるぅっ!?)
冷静な声の裏側に、とんでもないほどの『失望』を感じ取れる。
「俺は『君達』にできる限りの『配慮』をしたつもりなんだけどなぁ?」
そう言いながらグラスを掴んだ。
「『カミシロ』の炎上覚悟の一手。デジモンカイザーの一部始終の録画データが何故ノーカットで投稿されたと思う?」
グラス越しの視線、私達からはマナトさんの顔が歪んで見えるが、マナトさんの視線からは少年達の顔が歪んで見えたことだろう。
「そんなものは貴様らのミスに決まっているだろうっ!!!」
そして、その疑念の答えは明らかに間違ってるのがわかってしまった。
「……ははは、秀知院の学生はこんなに馬鹿なのか?」
『失望』が積み上がる。
「
そして、あの記者会見の意図を教えられた。
「警視総監がヤクザと仲が良かったなんてニュースになったら、警察の信用はガタ落ちだ。そんなことをされちゃ全国で働いている『正義』の警察官に迷惑なんだよ」
「だからわざとルビーのところまでノーカットで投稿したんだ」
こともなげにそんなことを言うマナト……だけど、
(それはせめて私達には教えてほしかったなぁっ!?)
あの記者会見、めっちゃ大変だったんだからっ!?
「『現』警視総監からのお願いだった」
カランと氷が揺れた。
「『私的に警察を利用する『元』警視総監とその周囲をなんとかするのはいいが、警察の信用を失墜させるわけにはいかない』」
マナトさんの声が渋い男の人に変わった。
(この人、もしかして、声真似までできるのっ!?)
威厳のある声で、その実『カミシロ』に泥を塗ってまで、警察の信用を守ろうとする男の声。
「『お願い致します。我々の無力さを恥じるばかりですが、どうかお願い致します。全国の、日本全国にいる警察官の地位だけは守ってください』」
それはまさしく『警視総監』の名前を背負うに足る器の人物……それと引き換え……、
「そんなこと信じられるかっ!?」
「うるせえっ、お前なんかに私達の気持ちのなにがわかるッ!!!」
怒ったように感情を吐き出すことしかしない少年達。
(……これが、あの秀知院学院の子供達?)
数年前、事件が起こる前の秀知院学院は日本の未来を背負う人間を育てる場所だった。それなのに、彼らと言ったらなんだ?
(これが、『元』とはいえ警視総監の息子だったの?)
一般人がいる前で銃を撃って、証拠もないのに『カミシロ』のせいにして、
(……こんな人達が日本の未来に立つの?)
(それって本当にいいことなの?)
庶民の感性からしてみれば、すっごく、すっごく、日本の未来が心配になった。こんな子供しか育てられない学校が、日本でも有数と言われたお金持ちの学校だなんて信じたくなかった。
「……と、そう言った『現』警視総監のお願いが無駄になったなぁ」
なんて言おう? ……とでも言いたげに、マナトさんは困った顔で笑った。その微笑みには呆れすら感じさせないほど、少年達を憐んでいた。
「……あっ!?」
マナトさんの視線が何かを映した時、彼は失敗したような声を上げた。
(……いったいなにを?)
その視線の先、デジヴァイスの画面には、
:つまり、こいつらは警察の信用を地に落としにきたってこと?
:うっわ、『カミシロ』がうやむやにしてくれたのに、そんなことしてたって言うのっ!?
:……てか、これってもしかして隠蔽工作の話してるの?
:『カミシロ』も金をもらったのか?
:受け取ったとは思いたくはないけど……。
:『カミシロ』は賄賂を絶対に受け取ってるはずだっ!!!
:もしそんなことをしてたら、それこそヤクザとおんなじだろっ!!!
「…………」
マナトさんは失敗したとでも言いたげに頭に手を当てて……、そして、何か閃いたかのように「あー、あーっ」っと声色を変え始め、
「ちなみに賄賂は受け取ってないぞ♡」
女の子の声優さんがだすような萌え声で、カメラに向かって微笑んだ。
(えっ、え゛ぇぇえええええ────っ!?)
もちろん、さっきまでかわいげのない質問コーナーをやっていた人物が……である。
「マナト様キモイです」
「マナト、ちょっと気持ち悪い」
うん、ルビーやシキさんがすぐに気持ち悪いと言ってくれた。ああ、でもこれって……、
「ルビーもシキも酷いな……ん、でも、こういうのがウケるみたいだぞ?」
デジヴァイスのLIVEのコメント欄には……、
:マナト様、萌え〜〜っ!!!
そんな言葉で埋め尽くされていた。
「「……うげっ!?」」
ルビーとシキさんの声が重なった。うんうん、気持ちはわかるよ、わかるけど、さ。
「まあ、ネットの民なら常識だよね」
これもまた風流なのである。
「うんうん」
「得意げな推しもかわいい」
うんうん、キモイコメントが来るのもまたネット文化あるあるなのだから、いい感じ……今後もあのキャラで私達と一緒にアイドルでも────、
「…………っ、そんなことはどうでもいいんだっ!!!」
────そうだった、まだ悪い奴がいるんだったっ!?
「どうでもよくないだろ? 警視総監の苦労が水の泡になったんだよ……、お前達みたいなバカのせいでさ」
「────っ、黙れぇっ!!!」
今度は左に首を傾けるマナトさん。この人はやっぱアイドルなんかやらなくてもいいかな? ……むしろ出てもらったら困る。
「……マナトっ!?」
アクたん驚くのはいいけれど、状況見てくれないかな? あの人めっちゃ余裕そうだよ?
「あのさぁ、いい加減にしてくれないかな? こっちは犯罪者に付き合ってる暇はないんだよ」
銃を撃った少年に向かって、今度こそ辟易するように言う。
「うるさいっ、あの日オヤジが言ってたんだっ!!!」
「『『カミシロ』から白い顔のバケモノが来る』ってっ!!!」
「その日から全てが変わったっ! オヤジも組員も、近所のチンピラどももみんな変わったんだっ!!!」
「あのときお前は何かしたんだろっ!!!」
(……、なに、それ?)
(それってただの言いがかりじゃんっ!?)
あのベレー帽の女の子は怒ってる、怒ってるけど……、あまりにも理由がひどすぎる。そんな妄想でやつあたりなんてされたら、『カミシロ』どころかこの場にいる私達一般の人なんてたまったもんじゃない。むしろ、迷惑だと思っていない?
「……さあ、気のせいじゃないのか?」
マナトさんもあまりの言いがかりに不機嫌な様子を隠そうとしていない。
(なんなの、この人達?)
ネットに晒されているにも関わらず、迷惑ばっかりかけて……本当に、本当に同じ人間なのか理解できない。
「ふーっ、ふーっ」
少女の持つ拳銃が揺れている。極度の緊張からか、銃がいつ暴発するかわかんない。私達が一歩でも動いたら、銃を撃ってしまう気がした。
「……俺の方は無視かよ、クソガキ」
少年と少女の後ろにいたオールバックの男が動き出した。
(……あの人?)
肩ぐらいまであるロン毛のオールバック。派手なスーツを着たこの男……どこかで見たことのあるような気がした。
「……ああ、いたんですね。
マナトさんは心底嫌な顔をしながら、男の方を向い────、
(えっ、ごき、っ!?)
マナトさんの突然の罵倒。
「────てめえっ!!!」
その暴言に銃を構え────、
────バキンッ!?
大きな音が鳴って、オールバックの男が後ろから倒れる。
「「「────えっ!?」」」
私も、友人達も、壱護プロの上司も、襲撃してきた少年達も、その仲間達もなんでオールバックの男が倒れたかもわからなかった。
「動かない方がいいよ」
唯一、────ぴちゃん、と男の頭から水滴が落ちる音が響いている。マナトさんは一歩も動いていない。
「
「……おい、あれ見えたか?」
「見えるわけないだろっ!?」
「どうやって……、いや、なんで、雲鷹様はなんで倒れたっ!?」
わかるはずない。
わかるはずない……グラスの中にあったものが、
(……もしかして、氷?)
グラスの中身……、拳大程あった氷がグラスの中になくなっていた。マナトさんはきっと氷をあのオールバックの男に向けて投げて、男の顔面に当てたんだ。
「……はぁ」
マナトさんはため息をついて俯いた。
「くだらない……、くだらないんだよ。こんなこと」
マナトさんが見せたのは意外な表情。
(あれぇ?)
私は怒ってるかと思っていた。でもマナトさんはなぜか……、なぜだか悲しそうな顔をしている。
「そこの……学生服2人」
「「────っ!?」」
マナトさんは少年と少女を憐んだ表情で見て……首を振った。
「
そして、なんでそんな表情をしたのかがわかってしまった。
「────ッ!?」
驚いた表情をする少年。
「それはっ、被害者の奴から黙っててほしいって頼まれて……」
しどろもどろになって言い訳をする少女。
(ああ、もうこの2人は駄目だと思った)
この状況をまるで理解していない。
「被害者? 模倣犯が出た時点で別の被害者が出た時点でそいつは加害者の間違いだろ?」
この人は目の前にいる人間全てを終わらせるつもりなんだ。
「それは違うっ!? 加害者とは害を及ぼした人間っ! ……彼は被害者である彼女を守ろうとして────」
「そうだ私達は間違ってなんかいないっ! 全てを突き止めたあいつを、それでも大切な友人を守ろうと罪を被ったあいつを守ろうとしただけ────」
彼らが何を見たのかはわかんない。『彼』という人物がいて、その子が何をしたのかも私にはわかっていない。でも、その言い訳には1つだけ誤算があった。
「寿、お前はどう思う?」
「「────えっ!?」」
この場に
「なんでその女に聞くんだよっ!?」
「模倣犯は未遂で終わったはずだ。被害者なんて────」
マナトさんとルビーと寿さんの母校は水無瀬中学の出身。
あの事件の被害者であった少女はイジメを受けていて、エスカレートした結果加害者側の暴走によって事件が引き起こされていた。
あの事件の加害者は全員病院でも完治どころか障害が残るほどの怪我を負っている。
『カミシロ』が被害者に全面的な支援を行っている。
この事件を詳細に話すことはタブーになっている。
世間で公開されている情報がこれだけあって……それでいて、この瞬間、マナトさんと寿さんの反応を鑑みると……、
「マナトくん、ウチはどう答えればええ?」
寿さんが聞いた。
「好きなように答えればいいさ……、好きなように、な?」
マナトさんが応える。
「……、まさかっ!?」
その姿に少年はようやく気がついたような顔をするが、もう遅かった。
「
寿さんは昔の自分をなぞるようにそう言った。
「あの日、マナトくんが来るまで怖くて、怖くてしかたなかった。マナトくんが来たから安心できたんやっ! そして、その原因が目の前におる? あいつらが捕まえとったら、あいつらが黙っとらんかったら、あんな想いをせなくてすんだ?」
怖かったと、苦しかったと、安心できなかったと、不安だったと……その元凶は、その原因は……、
「許せるわけないやろ」
平和になった今でも、目の前で私達に向かって
(今は、今はマナトさんがいるから安心してるんだ)
マナトさんがここにいるから彼女が安心しているんだとわかってしまった。そして、
「……被害者はこう言っているが?」
「「…………」」
どうしようもない2人……、いや、人達だ。
「何が警視総監の息子だ? 何がヤクザの娘だ? お前らは自身が暮らす国の法も守らず好き勝手やってるただのガキだろ?」
その通りだ。
「話にならない。さっさと家に帰ってベッドで寝ろ……、今なら放送事故で許してやる」
マナトさんは近くにあるカメラを手に取って、……ただ『帰れ』というだけだった。銃で撃たれたことも、寿さんのことも許すと……違う。
(もう顔も合わせたくないんだ)
その顔も見たくない。
関わり合いたくない。
同じ場所にいるだけでも気持ち悪い。そう思えるほど、ここに来た目の前の人達が嫌になったんだ。
「……っさい」
少女が小声で……ああ、
「聞いてなかったようだから、もう一度言ってやる」
マナトさんはもう一度、わかりやすいように、
「2度とその
2人を否定した。
「「うるさいっ!!!」」
怒号と銃声が同時に響き渡る。
「俺達は、……俺達は間違ってなんかいないんだっ!!!」
バンバンとマナトさんに向けて撃ち始める。
「そうだ、間違ってるのは私達じゃないっ! お前達『カミシロ』だっ!!!」
マナトさんには弾は当たってすらいなかった。
────バキンッ!!!
銃の弾が当たって装飾が割れ、煙が巻き上がる。
「撃てっ、撃つんだっ!!!」
「やれっ、やっちまえっ!!!」
「殺せ、あの化け物を殺すんだっ!!!」
バンバンバンバンとなんどもなんどもマナトさんがいた場所に向かって、少年が、少女が、
「ははは、やったかっ!?」
「────マナトッッ!?」
少年が笑いながら弾を装填し始めた時だった。
「……俺は」
マナトさんの声が聞こえて、
「「「────っ!?」」」
マナトさんは煙の中から何もなかったみたいに歩き出した。
「俺は」
マナトさんが『俺は』と言って、銃声が止んで────、
「『俺は歌が歌いたいんだ』」
マナトさんは『歌が歌いたい』と言った。
「「「……は?」」」
銃の音が止まった。
「「俺」の好きな歌にこんな歌詞がある」
マナトさんは壊れたテーブルから割れたグラスを持ち上げた。
「『なんで戦わなきゃいけないんだろう?』『僕は誰も傷つけたくないよ』『ゲームじゃないなら止めたいんだよ』」
幼なげな男の子の声。
まるでそこにまだ酸いも甘いも知らぬ子供が、聞き分けのない子供が空に向かって疑問を投げかけるように、親に向かって聞くように、そこにいない誰かに向けて話すように歌った。
「『君はどう思う?』」
そして、その言葉を少年達に、少女達に投げかけた。
「────っ、そんなの知るかよ、てめえら、やっちまえっ!!!」
銃声が再び鳴り響いたと思った。
「俺は……、俺もそう思うよ」
グラスが砕けた音がした。
「
そんな哀しげな声が銃声よりも早く、遠く、私の耳に聞こえていた。
「ああ、あの歌詞の続きなんだけどさ」
「『理由なんて探してる暇はないの』『誰にも奪われたくないんでしょ』『戦わないまま逃げるのはイヤ』と少女が歌うんだよ。3人の少年少女が互いに問答をし合う歌なんだ」
「本当にそうだと思う」
「こうやって戦わないとなに1つ守れないんだからさ」
「あっ、そうだ。聞き忘れたことがあったんだ」
「そこの
「君達の嫌いなレイプ犯と同じことをやってるんだけど」
「『君はどう思う?』」