産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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2017/4/29 PM02:30

カランコロン、とベルが揺れる。
ここは都内の喫茶店……、シックなドアから入ってきたのは白いベレー帽を被ったよく見慣れた少女。

「来てくれたんだ」

「……なんなのよ。こんなところに呼び出して」

「黒川あかね」

私の前に座る彼女は面倒そうに頬杖をしながら、私に要件を聞いた。

「アクアくんには頼れないと思ったから、かなちゃんに頼んだんだよ」

私は頼れなくなった彼氏を思い浮かべ、次の相方として彼女の性格上決して断らないであろうと踏んで、かなちゃんをメールで呼び出したのだ。

「……ん、何の話?」

アクアくんの名前を聞いたら表情が変わった。そういうところだよ……、と思わなくもないが、本題は違う。

(私の目的は)

数ヶ月前、アクアくんに頼まれたあの一件、


「星野タイトの捜索についてだよ」


アクアくんの弟の捜索についてだ。


第六章 ターゲット! 夜空色の真実を探して
第一話 ホームズ役とワトソン役


 

 

「星野タイトの捜索についてだよ」

 

 

 ルナモンがデジモンカイザーに捕まってから……ううん、アクアくんに星野タイトを探してくれと頼まれたあの時から、私は末堂マナトの動向について調べていた。

 

 アクアくんが推定『弟』であると認識している存在。これから家族になるかもしれない存在だからこそ、かなちゃんも頼まれていたからこそ、私が……、私自身の手で調べたかった。

 

「……あんた、まだそれやってたの?」

 

「アクアくんからは『調べるな』って言われちゃったけどね」

 

 アクアくんには末堂マナトが初めて壱護プロに来た日……、あの後に調べなくていい……って、言われちゃった。それでも、私は調べなくちゃいけないって思った。

 

(アクアくんのあの深刻そうな顔を見て、それだけで調べなくちゃって思っちゃったんだ)

 

 ギュッと、手を強く握りしめた。

 あの話し合いの後、……絶対に何かがあったことは間違いない。でも、アクアくんが調べてくれって頼まれたのに、すぐに意見を変えるなんて相当おかしなことが起こったのだと思った。だから、私はルナモンと一緒に調べているのだ。

 

 星野タイトと末堂マナトの動向を。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 しばらく、沈黙した時間が流れた。

 何を話し始めればいいのかわからなかった。たぶん、アクアくんに断られてからかなちゃんは調べなかったんだと思う。だからこそ、今まで調べていた私はかなちゃんに何を言ったらいいかわからなかった。

 

「……で、何かわかったの?」

 

 痺れを切らしたかなちゃんが切り出してくれた。

 

「いくつかあるけど……、やっぱり星野タイトと末堂マナトは同一人物なんじゃないかなって思ってる」

 

「……アクアが言ってた奴ね。アクアの妄言かもしれないじゃない。その確証はあるの、その確証は?」

 

 思ったよりも上手く話を持っていけてる気がする。

 

(かなちゃんが聞き上手でよかった)

 

 そんなことを考えながら、私は以前自身が作った資料をかなちゃんにに渡す。

 

「まず、1つ目は彼の容姿」

 

 末堂マナトの顔がアップになった写真と、若かりし頃の星野アイの写真集を切り取った物が貼り付けてある物だ。

 

「別人というには、あまりにも『星野アイ』に似過ぎている」

 

 髪の長さや纏う雰囲気はかなり違うが、骨格や耳や目といった各パーツは瓜二つといっても過言ではないほど似通っている。

 

「……それは、まあ、わかるけど。それだけじゃ理由になんないじゃない」

 

 そう、それだけでは理由にならない。

 

「そもそも、星野アクアとルビーとタイトは3つ子だっていうじゃない。3つ子というにはあいつらの容姿はかけ離れ過ぎてるでしょ?」

 

 双子のルビーちゃんやアクアくんに比べて、彼の容姿は星野アイに似過ぎている。それは星野アクアや星野ルビーの弟妹というよりも、星野アイのクローンだと言われた方が納得ができる。

 

「そこの説明はどーすんのよ。

 遺伝子鑑定でもすんの? 証拠もないのに『カミシロ』に黙ってそんなことをしたら、大企業様を相手に正面から裁判することになるじゃない。そんなの私は嫌よ」

 

 かなちゃんは大企業相手のリスクを話した。

 それも、今私が末堂マナトについて調べている時点で、かなり危ない橋を渡っている。

 でも、それを加味したとしても、私は知らなきゃいけないそんな気がしていた……、だからこそ、それは、

 

「わかってる。遺伝子鑑定でもできないのは知ってる……だから、これは一番わかりやすい確証ってだけ、まだまだ理由はたくさんあるの」

 

 まだまだ、話していない確証はたくさんある。

 かなちゃんに手伝ってもらうのは忍びないけど、私が調べていることを知る人物は、私がもし『いなくなった』時に、動いてくれる人が欲しかった。

 

「じゃあ、2つ目は?」

 

 嫌な顔をしながらでも、話を聞いてくれるかなちゃんには、私も頭が上がらない気がした。

 

「末堂マナトとルビーちゃんが幼馴染って話覚えてる?」

 

「……旅行中に言ってたアレ、ね?」

 

 かなちゃんの言葉に私は頷く。

 

「この間ね、アクアくんの家に行って、昔のアルバムを見せてもらったの」

 

 そして、核心につながる話を────、

 

 

「────ハアッ!? アンタ、いつのまにお家デートなんてやってたのっ!?」

 

 

(……を、しようとしたんだけどなぁ?)

 

 どうやらかなちゃんの琴線に触れてしまったらしい。それはそれと置いておいてもらいたいものだ。

 

「かなちゃん、それは今、関係ないことだよ」

 

「関係大アリですっ! ……というか、そんな惚気話を私に聞かせないでもらえますかぁっ!!!」

 

 机をバンバンと叩くかなちゃん。

 

「ここ、ここ、喫茶店だからっ!」

 

 閑散とした喫茶店とはいえ、喫茶店のマスターからは訝しげな目で見られてしまった。

 

(せっかく見つけた内緒話にはピッタリの喫茶店だったのに)

 

 場所を変えなくちゃいけないみたいだ。

 

「……ちっ!」

 

 騒ぎを起こした当の本人は反省の色なし……か。ちょっとだけ辛いなぁ。

 

「……で、その惚気話がなんだってっ?」

 

 いらだちたいのはこっちなんだけど……、と思いながらも、ちゃんと話は聞いてくれるみたいなので、さっきの話へと思考を切り替える。

 

「惚気じゃないって……、話を戻すよ。この間の旅行で彼は言ってたよね?」

 

 

『幼少期の頃に母の知り合いに連れられて、ミヤコさんに会ったのがきっかけかな? 俺の実の両親と共に死んだ人だが、両親がワーカーホリックだったせいで、何かと面倒を見てくれた人でさ。両親も知り合いの人も忙しい時に共通の知り合いであるミヤコさん預けられたんだよ。朧げな記憶だけどな』

 

『アイさんには優しくしてもらって、ルビーやアクアとも遊んでたかな? でも、ルビーと一緒にいることの方が多かったと思う。アイさんやアクアは仕事で忙しくしててさ、次第に遊べなくなっちゃったからなぁ』

 

 

「ルビー達とは幼馴染なんだっけ?」

 

 あの年末の夜、末堂マナトはそんな話をしていたのを横で聞いていた。かなちゃんもそれを覚えていたみたいで、すぐに気づいてくれた。

 

(なら、あとはアレを話すだけ)

 

 アクアくんの家で見たアルバムを思い出して、もう一度頭の中で確認しなおした。

 

 

「うん、そんな話をしてた……だけど、『星野タイト』の写真は見つかっても、『末堂マナト』の写真は見つかってないの」

 

 

 あの日、アクアくんの家で見た『アルバム』の中には星野タイトの写真は残ってても、末堂マナトらしき人物の写真は載ってなかった。

 

「────それってっ!?」

 

 かなちゃんも気づいてくれたみたいだ。

 

(でも、まだあるの)

 

 ここで私はかなちゃんが手伝ってくれるように、畳み掛けさせてもらう。かなちゃんに資料の次のページを見るように促した。

 

「3つ目、これはネットでもだいぶ噂になってたこと」

 

 そのページには末堂マナトの噂話が載せられている。

 

「ウワサ? そんなの信用できないじゃない」

 

 かなちゃんはペラペラと何枚もページを捲り、怪しげな噂ばかりが載る資料を訝しんだ。

 

「これはほぼ確実に信用できる。裏どりもとってある」

 

 ただ、私が見せたいページ……、自分が持つ資料の中の1番最後のページを開いてかなちゃんに見せる。

 

「……ん?」

 

 そのページにはここ10数年の中東での麻薬テロの鎮圧のデータが載せられていた。

 

「ここ10年の間に、麻薬テロの措置として、スラムの掃討は公的な記録では行われていないの」

 

 

 末堂マナトはとある質問にこう答えていた。 

 

 

 :イジメ殺した人達が痛い目に遭ってないのはずるいっ!!! 

 

『いや、2番目の国に行く前に、スラムで麻薬の売買が行われているって軍人の人にバレないように密告したら、俺がその国を出た頃にはミサイルで更地にされていたよ。たぶん、元凶達は死んでんじゃないかな?』

 

 

 やり返し方が後先を考えていないやり方に頭を痛めた記憶がある。しかし、スラムと言えど自国にミサイルを撃つ軍部があるだろうか? と、疑問に思っていた。

 そして、ネットの中の有識者達も、それには甚だ疑問を抱いていた様子で、海外にいる大学の友人達に声を掛け合って公的記録の資料をまとめた。

 

 そのときの答えが『中東、南米等、スラムに対しての圧力が強い地域でもミサイルでの掃討作戦は行われていない』という結果だった。

 

「……裏の隠蔽された記録ってのもあるんじゃないの?」

 

 かなちゃんはそのページを一通り見た後に、そんなことを言ってくる。だけど、そこには大きな誤りがあった。

 

「ううん、そもそも……、そんな危険な国で日本人が亡くなったり、行方不明になったら必ずニュースになるはず……だけど」

 

 

『両親がそういった系統の仕事だったからだよ。今の父さんに引き取られた理由も末堂アケミが俺の実の両親と友人だったから。両親は俺を連れてその国へ行ってすぐ……、3歳の頃に殺されて、俺は1番目の国のスラム行き、中学にあがるくらいの歳の頃に、2番目の国でたまたま父さんに……末堂さんに会わなければ、その国で暮らしていたかな』  

 

 

 彼の言った言葉を思い出しながら、彼女へと暗に伝える。

 

「そんなニュースはなかった……、てわけね。でも、その様子だと……嘘ってわけじゃあなさそうね」

 

「……うん」

 

 かなちゃんにも伝わったみたいで、……ちょっとだけホッとした。

 

(……でも)

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 

「ねえ、かなちゃん」

 

 手に汗が握る。

 

「これはもし、本当にもしもって話なんだけど」

 

 ここから話すのはどうしようもない妄想……、妄想だと信じたい内容。そして、誰にも話せなかった私の妄想だと信じたいこと。

 

「SFの話って信じられる?」

 

 だけど、ここからは『他の人』の意見が聞きたかった。

 

「…………どういうこと?」

 

 いつもとは違う私の様子に、本当に戸惑った様子でかなちゃんは私の話を聞いてくれる。

 

 

「かなちゃんは『デジタルモンスター』って何だと思う?」

 

 

 ただ、ただ私はかなちゃんの意見が聞きたかった。

 

「『デジタルモンスター』? 『カミシロ』が言ってた人間の精神が『EDEN』に入ったことで────」

 

 そうじゃない。

 私は思わず首を振った。

 

「なんで首を振るのよ」

 

 私の首を振る様子に嫌な顔をしながら、……それでも、かなちゃんに私は聞きたいことを話し始める。

 

 

「私は『デジモンは別の世界で生まれた生き物なんじゃないのかな』って、思うんだ」

 

 

 言葉に出した瞬間、本当に妄想のような話に付き合わせてはいけないって、そんなことを思ってしまった。

 

「……は? そんなお伽話みたいなことが現実にあるわけないじゃない? アクアとイチャコラし始めてから、頭までお花畑になったってわけ? 少しは私にもアクアをわけ────」

 

「分けないから」

 

 アクアくんは貴女には分けないから。私の彼氏だから……、

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「……で、どーしてそう思ったのよ」

 

 かなちゃんは私の突拍子もない話を聞いてくれるようだ。

 

「そう思うと辻褄が合うの」

 

 そう、辻褄が合ってしまったのだ。

 

「星野タイトがアクアくんやルビーちゃん、アイさん達から消えた理由」

 

 アクアくんは言った。

 

 

『俺の弟は3歳と少し経った頃に、俺達の目の前からいなくなった』

 

 

 マナトさんは言った。

 

 

『両親がそういった系統の仕事だったからだよ。今の父さんに引き取られた理由も末堂アケミが俺の実の両親と友人だったから。両親は俺を連れてその国へ行ってすぐ……、3歳の頃に殺されて、俺は1番目の国のスラム行き、中学にあがるくらいの歳の頃に、2番目の国でたまたま父さんに……末堂さんに会わなければ、その国で暮らしていたかな』

 

 

 全く同じ時期に、同じ年齢の少年が日本から行方不明になったのである。

 

(そして、私はその話を聞いたとき、なんとなくだけど2人に繋がりがあるかもしれないって思った)

 

 そして、どこに行ったのか……って、考えても、考えても、わからなかった。調べても調べてもわからなかった。

 

(そして、デジモンが『EDEN』が作られてから現れたことを知った)

 

 そこからだった。

 点と点が繋がるような気がしたのは……、気づいちゃいけないことに気がついたような気がしたのは、ここからだった。

 

「『デジモン達の世界に連れて行かれたから』……ってわけ? それは無理がすぎるんじゃない?」

 

 それだけじゃない。それだけじゃないんだよ、かなちゃん。

 

「それだけじゃないよ」

 

「デジモン達の世界……、仮名『デジモンワールド』。そこに連れて行かれたのであれば、星野タイトが行方不明になったタイミングと末堂マナトがスラムの生活に追い込まれたタイミングが一致する」

 

 私はさっき考えていたことを話す。

 明らかに偶然ではない。意図された物だと私は思っている。

 

「……偶然かもしれないわよ」

 

 かなちゃん……、冷や汗をかいてるのにそんなこと言っちゃダメだよ。

 

(でもね、それだけじゃないんだ)

 

「デジモンワールドに連れて行かれるのが、子供だけだったとして、子供とデジモンだけじゃまともな世界にはならないんじゃないかな?」

 

「────っ!?」

 

 追撃をするように、末堂マナトがあの年末に話していたことを疑問にあげる。

 

 

『1番目に出会った彼女の国で友人がスラムのガキにイジメ殺された。4歳ぐらいの時だったか……、自分より歳上の小学生から中学生ぐらいの複数人に囲まれて暴力を受け続けた』

 

『研究所の人間は理性的だったからな。躾のなってないガキより、知識と道徳の授業を受けたマッドサイエンティストの方がまだまともだったって話だ』

 

『俺がいたのはガキの教育機関もない発展途上国未満の碌でもない国だ。ガキがつけあがるような隙を見せて、殺される方が間抜けなだったってだけなんだ……、そう思わないとやってられない場所だったんだ』

 

『友人をイジメ殺した奴の主導者がハイビスカスに似たの花を髪飾りにしてつけていた。それ以来ハイビスカスが苦手なんだよ』

 

 

 末堂マナトがなぜ『躾をされていない子供が嫌い』なのか……、スラムの子供だというには、理由が足りていなかった。

 

(だってそうでしょ? スラムの子供が嫌なら、スラムの子供が嫌いって普通の人は言うはず)

 

 でも、彼は『躾をされていない子供が嫌い』と言った。それはあまりにも『彼』らしくない話し方であった。

 

(そして、繋がるのは星野タイトと末堂マナトの失踪のタイミング)

 

 それが合致してしまい、彼の言動を考察するのであれば、さっき挙げた1つの答えに辿り着いた……そして、

 

「もし、そんな世界に3歳の子供が落ちたのなら……」

 

 そう、そんな世界に小さな子供が入ってしまったのなら、どうなるだろう? 

 

 私の答えは1つだった。

 

 子供というのは、……ううん、人間というのはとても、とても残酷な生き物だ。

 

 私はデジヴァイスの中にいるルナモンのことを思い出す。

 

(あんなに素直なのに、私よりもすごい力を持っている存在)

 

 つまり、私の言うことを聞く兵器を手に入れた感覚に等しかった。

 

(もしも、もしもそんな力をただの子供が手に入れたのだとしたら、どうなるのだろう?)

 

 ふと、そんな考えに至ったときに、とても、とてつもなく残酷な考えに至ってしまった。

 

 子供は残酷な生き物で、デジモンはパートナーの言うことをなんでも聞いてしまうそんな存在だ。

 

 日夜ニュースでやるように子供の中……、特に小さな子供には衝動を抑えきれない子達もいる。他の子供より力が強かったり、わがままだったり、それで力や承認欲求を満たしてしまう子だっている。

 

(子供だけじゃない。大人になっても……同じ、だよね)

 

 かつて、アクアくんやMEM達と恋愛リアリティーショーをやった時のことを思い出した。

 

(人は大義名分を持ってしまうと、どこまでも残酷になれる)

 

 それが子供で自分よりも弱い存在を見つけたら、……きっと。

 

(そして、彼は3歳という年齢でその渦中にいた)

 

 しかも、それが国ぐるみとなれば、とっても不自由な目に遭うのは想像できた。想像できてしまった。

 

 マナトさんは言っていた。

 

 

『なんで戦わなきゃいけないんだろう?』

 

『僕は誰も傷つけたくないよ』

 

『ゲームじゃないなら止めたいんだよ』

 

 

 そして、その言葉(うた)の意味を、その言動をもう一度考察し……この推理(もうそう)が事実だと仮定すると、1つの答えが出てきた。

 

(末堂マナトはデジモンワールドに行って、仲間を……仲間になってくれた人かデジモンを目の前で殺された。暴力による快楽を得た子供によって殺され、激昂した彼とパートナーデジモン手によって、スラム……ううん、街、もしかしたら、国レベルの相手を殲滅した)

 

 それがあの話の顛末……だと、私は思ってる……そして、

 

「スラムレベルの苦しい生活を強いられるってわけ、ね」

 

 かなちゃんもその意味を理解してくれた。

 

「でも、気になることがあるわ。末堂マナトは『精神的な病気で特殊なメシしか食べられない』って言ってたじゃない。そこはどう説明するのよ?」

 

 この推理(もうそう)が現実なら、話は簡単に繋がってしまう。

 

「長期間、デジモンワールドでの生活を強いられたことによる代償だと考えれば? ……ううん、それなら、肉体の老化があれ程遅れているのも、第二次性徴がやってきてないことも話は通る」

 

 たぶん、人体実験の話も事実だろう。嘘と真実を混ぜて、大袈裟に言ってる……ふうを装ってキャラ付けしてる、と世間は認知してくれる。わかる人にだけわかる内容を話していた。

 

(あの人は……)

 

 ううん、そんな妄想はやめてしまおう。これ以上、もしかしてを重ねても意味をなさない……気がする。

 

「話は都合よく通っているわ。でも、そこまでよ……あくまで、アンタが話してるのは仮定の話。それ以上に証拠がないの……わかる?」

 

 そう、この話には『物的証拠』がない。

 物として残る証拠も、話の内容も、ただのキャラ付けと言われてしまえば、儚く消えてしまうような物。

 

「証拠は、ない……かもしれないけど」

 

 言葉がたどたどしくなる。

 

 思うように話せない。

 

 こんなの科学的じゃない。

 

 そんな言葉が頭の中を巡ってくる。

 

「……でも、このまま放っておいたら────」

 

 でも、それでも、私の勘は、

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 恋愛リアリティーショーのあのときよりも、ずっと、ずっと嫌な予感がしていたんだ。

 

 

『あかね、有馬……、あの件なんだが、もう調べなくてよくなった』

 

 私は『なぜ』……と聞いた。

 

『悪いが、調べないでほしい』

 

 アクアくんは強く、強くそう言った。

 

 

 だけど、私は調べた。

 

 好奇心もあった。

 

 アクアくんが心配だったというのも理由の1つではある。

 

 でも、それ以上にアクアくんが『強くて断った』という事実が本当に、本当に嫌な予感を感じさせていた。

 

「…………」

 

 信じてほしいなんて言わない。言えるはずがない。

 

「…………」

 

 でも、だけど……もし、本当に話を聞いてくれるなら────・

 

 

「…………はぁ」

 

 

 かなちゃんが大きくため息を吐いた。

 

(……えっ!?)

 

 かなちゃんは優しく笑って、

 

 

「……で、どーすんの? 首を突っ込むの? それとも逃げるの?」

 

 

 私に問いかけた。

 

「……かなちゃん?」

 

 私は思わず呆けてしまった。

 

「アンタの妄想に付き合ってあげるって言ってるの! これ以上言わせないでちょうだいっ!!!」

 

 かなちゃんのツンデレ……うん、うん……よかった。

 

「ありがとう」

 

 これで話を……進めることができる。私の踏み出せなかった一歩を始めることができる。

 

「……それで、まずは証拠探しってわけ? 目星はついてんの?」

 

 私はかなちゃんの言葉に首を振った。

 

「じゃあ、どーすんのよ!? 目星もないのに、当てもなく彷徨ってたら仕方ないでしょっ!? とりあえず、次の行き先だけでも決めなさいっ!!!」

 

 

「────、それは決まってる」

 

 

 行き先はもう既に決まっている。

 

「……どこに行くのよ?」

 

 かなちゃんが私にそう聞いた。

 

「私が昔お世話になった場所」

 

 私はとある場所を思い浮かべて、深く頷いた。

 

 

「『暮海探偵事務所』」

 

 

 8年前、私がお世話になった場所だ。

 





2017/4/29 PM04:25

『……と、言うことだ。わかったかね、助手くん』

『…………』

『わかってないようだから、簡単に説明するとしよう……、先程も言ったとおり、今の君の体は『EDEN症候群』の特殊事例と言わざる負えない』

『その体を取り戻すには、君が見た例の……』

『『銀色のバケモノ』』

『そう、銀色のバケモノと『EDEN症候群』との繋がりを調べるしかないわけだ』

『…………』

『力を貸してくれるね』

『はい』

『では、探偵助手としての最初の依頼だ』

『コーヒーを買ってきてくれ』


「……って、ことがあったんだ!」

私は杏子さんからの依頼で、杏子さんが探偵をやっている中野ブロードウェイの挨拶回りを終わらせたところだった。

(マナトくんからの電話、マナトくんからの電話っ!)

マナトくんから電話がかかってきたのだ。
杏子さんからは他の人には話しちゃいけないって言われていることを秘密にして、そんなこんなで探偵事務所で寝泊まりをしながらバイトすることになったという話になった。

「そっか、そっちも大変だ」

「うん、大変だったんだよ!」

ひさしぶりに聞いた電話越しのマナトくんの声は、どこか緊張しているようなそんな感じがする。

(何か言いたいことがあるのかな?)

そんなことを考えながら、デジヴァイスのストラップを弄っていると……、

「このあと、馴染みの喫茶店で会えないかな?」

マナトくんがない突然、そんなことを言ってきた。私はすぐに杏子さんにかく……、

『ちょっと客人が来ていてね。ついでに渋谷まで散策してくるといい……、君のことの聞き込み調査だ』

デジヴァイスにそのような内容のメッセージと、その内容の新たな依頼が送られてきていた。

(たしか、あのお店って渋谷……だったよね?)

そう思い、……私は少しの時間ぐらいなら問題なさそうだと思った。

「ありますけど、……なんですか?」

マナトくんに変な受け答えの仕方になってしまった。ちょっとだけ恥ずかしい。

「ちょっと大事な話があるんだ」

(……大事な話?)

マナトくんからの大事な話。しかも、すぐに話さなくちゃいけないほどの大事な話ってなんだ?


()()()()()()()()()()


大事な話の内容を聞こうとしたとき、耳の中に入ってきたのは衝撃的な言葉だった。

「ーーーーっ!?」

私は驚きのあまり上手く言葉に出せなかった。

「詳しくは喫茶店で話をしようか」

「ーーーーはいっ!?」

「待ってるよ」

そうして切られた電話のアプリ。だけど、必ず行かないといけないことは理解してしまっていた。
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