「……ねえ、ここでいいのよね?」
「……うん」
中野ブロードウェイの1階……、のその奥に、小さな探偵事務所がの扉があった。
「懐かしいなぁ、おじさん元気かなぁ?」
中野ブロードウェイに1階に掲げられた『暮海探偵事務所』と書かれた看板を見るのは私にとってもひさしぶりのことであった。子役の頃、8年前に舞台で少年漫画のヒロインの某少女探偵を演じる為に取材に来て以来のことだ。
「そりゃ、懐かしいでしょうね。ヒロイン役に抜擢できて!」
その役は世間で超人気漫画で、有名な俳優さんがこぞってやりたがるような特別な舞台……、当然ヒロインの少女探偵の役を擦るには、普段の10倍近い倍率のオーディションを乗り越えないと演じられないそんな役。
(かなちゃんも当然オーディションを受けてたんだよね)
かなちゃんも、他の有名な子役達も、全員倒して私はヒロイン役を勝ち取った。
「そりゃあ、新進気鋭の子役と落ち目の誰かさんとは違うのです」
「……けっ!」
軽口を叩きつつも、ドアのインターホンの前に立つ。
「やさぐれてないで入るよ」
ピン、ポーン!
『どうぞ』
返ってくるのは女性の声。
当時の暮海さんの年齢からしても、まだ、代替わりをしてないはず……なのに、どうして女性の声が返ってーーーー、
「どうしたのよ、入るわよ?」
「うっ、うん」
かなちゃんに背中を押され、ドアに手をかける。
「……失礼します」
ガチャリとドアを開ける。そこには……、
「おや、ひさしく見ない顔だね。珍しいと、そこに座りたまえ」
おじさんではなく、娘の暮海杏子さんがそこにいた。
2017/4/29/PM03:30
8年ぶりにやってきた事務所は、昔よりも資料が乱雑に置かれていた。数年前にとある事件に関わったことにより、おじさんは亡くなっていて、今は杏子さんが後を継いだそうだ。
「……ふむ、そういうこと、か」
杏子さんにかなちゃんに話したように事情を説明した。
杏子さんは黙って話を聞きながらコーヒーを……、コーヒーを? あれはなんだ?
(……うわぁっ!?)
(かなちゃん、失礼だよっ!?)
かなちゃんの顔が歪んでいる。私も内心思っていることだけど、顔に出すのはやりすぎだと思う。コーヒーにまさか……、ううん・人の好みはそれぞれとも言えるのだし……、そこは突っ込んだらいけない時────、
「……ん、有馬くんはこのコーヒーのことが気になるのかい?」
「ひっ!?」
かなちゃんの表情を見て、杏子さんがコップを準備しはじめる。悲鳴や怯えた表情は見えてないようだ。
「飲みたいのなら私が作ろう。これは────」
「いえ、いいですっ!」
「遠慮しないで、初めは酸味にウッ、とくるが、慣れれば次第においしさも理解できるはずだ。特にこの────」
「それで杏子さん。私達が聞きに来た件なのですが……」
昔はこんな人じゃなかったはず……、と思いながらも、おじさんが亡くなったことで、味覚に異常をきたしたのかもしれないと思い、話を無理やり進める。
「証拠だね。物的証拠がない」
空のコーヒーのカップを置いて、杏子さんは嗜虐的な笑みから真剣な表情へと変わった。
「それを探す手伝いをしたいのだが……、残念だが、他に重要な依頼が入ってきていてね。しばらくは、ここから離れることができない」
杏子さんは非常に残念そうにそう話す。
(おじさんとは言えないけど、少しでも知恵を借りられないかな?)
この話を真剣に聞いてくれる人物は少ない。
おじさんならこの話を一蹴したかもしれないが、目の前にいる杏子さんは話を聞いてくれた。今の行き詰まってしまった私の考えとは違う視点の話を私は求めていた。
「何か気づいたことだけでも教えていただけませんか?」
「……ふむ」
杏子さんは少し考えて、すぐにペンとメモを取り出した
「君達の推理が現実だとして、1つだけ問題の穴がある」
かなちゃんがガタッ、と立ちあがろうとしたのを無理矢座らせて、予想ができていた答えを話す。
「『デジモンワールド』の実在の証拠、ですね」
「そう、……君達の推理の根底は『デジモン達の世界がある』という仮定の元に成り立っている話だ。真実を知る為には『そこ』に物的証拠がないと非常に困るのは……、理解してるかな?」
「……わかっています。荒唐無稽な話、だということは」
自分達が暮らす世界とは別の世界の証明。
それは、今までどんな科学者が研究しても答えが出せなかった難問でもある。しかし、末堂マナトの言動だけで、星野タイトの行動だけでそれを肯定してしまうのは、暴論と言っても差し支えのないものであった。
「それじゃあ、ヒントをあげよう……、とその前に、君達は大きな見落としがある」
杏子さんはトントンとペンでメモを叩き、私達の見落としがあると言った。
(見落とし……なんのこと?)
(わかんない。少なくとも、『今』持っている情報で見落としたことなんてなかったと思うけど……?)
アクアくんから声をかけられた後で、私は手元に何も情報もないまま探し始めた。そこに情報の見落としなんてなかったはず……?
「見落とし……なんですか?」
私は我慢ができずに、杏子さんに『見落とし』について話を聞いた。
「『
(────あっ!?)
アクアくんから初めて話を聞いた時、星野タイトが失踪する前に残した資料を見せてもらう予定だった。
「ああ……あのとき、アクアから見せてもらう予定だったアレ、ね。結局見せてもらえなかったけど……、それがどうかしたの?」
かなちゃんも思い出したようだ。
私もかなちゃんも断られたときに、アクアくんから見せてもらえなかった資料の存在を認知していた。杏子さんにもその話をしていた。しかし、『カミシロ』になる前の彼の資料にいったいなんの価値があるのだろうか?
「私の予想だが、その資料には『星野アクアが動かざるおえなかった理由』が記されているはずだ」
杏子さんはズバリというように、ペンを私達に向ける。
「アクアくんが?」
「動かなないといけなかった?」
3歳児の言葉でアクアくんが動かないといけなかった理由があった?
「3歳の子供が書いた資料。オモチャの代わりに書いた妄想……と、世間では理解できるような代物。しかし、星野アクアが君達に相談しないと、相談していないと困ってしまうほどの重要機密が書かれているのだとしたら……?」
「それは」
「……証拠にもなり得ますね」
それは、確かに私達の『見落とし』だ。
「じゃあ、すぐにアクアに聞いて────」
「無駄だよ。彼は君達への助けを拒んだ時点で、既に処分しているはずだからね」
すぐにデジヴァイスを取り出そうとしたが、杏子さんに止められる。
「そんなの聞いてみないとわかんないでしょ?」
杏子さんは黙って首を振った。まるで、本当に資料がないことがわかっているかのように、首を振っている。
「次の話だ」
そう言われたが、私達は手を止めることはない。早くアクアくんから話を聞かないといけない。
「
「「────っ!?」」
私達は手を止める。
「別の、証拠って!?」
「それはいったいどういうことなんでしょうかっ!?」
デジヴァイスへの連絡を止め、杏子さんへ話を聞く姿勢へと変わった。
「具体的にはそのヒント……だがね」
「……ヒント、ですか?」
杏子さんの言動は怪しい。
昔はこんなもったいぶって話す人ではなかった。しかし、杏子さんは昔の小説に出てくるような探偵のように、ゆっくりもったいぶって話している。
「それじゃ早く、そのヒントってヤツを教えなさいよっ!!!」
「ちょっと、かなちゃんっ!? その言葉遣いは失礼でしょっ!?」
「うっさいわねっ!? アンタもヒントを知りたがってるでしょ? だったら、こうやって聞いた方が1番いいじゃないっ!」
「かなちゃんっ!!!」
かなちゃんもその言動に痺れを切らし始めた。正直なところ、かなちゃんの気持ちもわかってしまう。わかってしまうからこそ、大きな声で止めるしかない自分に腹が立った。
「そうだね、ヒントの話へうつろう」
杏子さんはコーヒー? を一口飲んで、さっきまで動かしていたペンを止めて、メモを一枚破って私に渡してきた。
「君達が主として調べるべきは『星野タイトの行方』ではなく、『末堂マナトの動向』だ」
そこに書かれていたのは、『末堂マナトの動向』と大きく書かれている。
「星野タイトじゃなくて?」
「末堂マナト?」
確かにこれから調べる予定のものではある。しかし、それは星野タイトが実在する過程を証明する手立てでしかない。だけど、杏子さんは『末堂マナト』のことを調べろと言った。
(それはいったいどういうこと?)
わからないことがまだあった。その『問題』がまだ残っていることに少しだけ頬が釣り上がるのを感じる。
「仮に、『星野タイト=末堂マナト』だったとしていくつかおかしな点がある。その1つを君達に教えよう」
おかしな点……、それは確かにたくさんある。でも、それは────、
「『
「「…………」」
それは、おかしな点なのか?
「あの、杏子さん。それのどこがおかしな点、なのでしょうか?」
「ふつう、子供は学校に通うものよね? それのどこがヒントなのよ?」
日本の子供は『義務教育』といって学校に当たり前に通うものだ。しかしながら、杏子さんは末堂マナトのその行動に疑念を抱いている。
「ふむ、そうだね。結論から話すと、こうもわかりにくいとは思っていなかった。では、順序立てて話すとしよう」
杏子さんは立ち上がり、棚の中に収まったファイルを1つ取り出した。その背表紙には『『神城悟』』と書かれている。
(神城、悟?)
『カミシロ』の前社長の名前がそんな名前だったような……?
「まず、『カミシロ』のお嬢様。『神城悠子』は『カミシロ』の仕事を手伝う為、学校に通っていない。もちろん卒業資格は手にしているが、ね」
ページを開くと、『神城悠子』というどこかでみたことのあるような少女の写真が載っている。
「……えっ!?」
「……はい?」
杏子さん……今、おかしなことを言わなかった?
いくら、『カミシロ』とはいっても、子供を学校に通わせないなんてそんなことがあるのだろうかと、つい、そんなことを考えてしまった。
「……その情報、本当ですか?」
「事実だ。お嬢様の方は通ってはいない」
資料のページをめくると『末堂マナト』のページ。東京駅の前で、友人と一緒にボランティアで掃除をしている様子が写真に収められていた。
「私が彼を調べていく中で、末堂アケミの息子……、『カミシロ』の幹部の息子として、中学を休みがちになりながらも、関連企業のパーティーの参加、顔合わせ、許婚等、お金持ちにありきたりな活動に非積極的でありながらも参加をしており、学業と家業の兼業をしていたらしい」
杏子さんは彼の来歴を話し始める。すると、少しだけ、その話に疑問を抱く場所があった。
「それのどこがおかしいのよ? ただ、お嬢様と違って通いたかっただけかもしれないじゃない。第一、仕事と学生の2足の草鞋を履いているのは私達だって同じでしょ。私達の業界からして、そんな珍しいことじゃないじゃない」
「かなちゃん、それは違うよ」
私達みたいに子供の頃から芸能界にいる人間には気づかない。普通の子供とは違う点がそこにあった。
「わかったのかい?」
「はい」
私は杏子さんの言っている意味がわかった。
「黒川あかね、どういうこと?」
かなちゃんはまだわかってないみたいだ。
「普通の子供じゃないのに、なんで末堂マナトは学校に通っているの?」
「……あっ!?」
芸能界と学校の二足の草鞋を履くことは難しいことだ。しかし、かなちゃんや私みたいにできないことはない。
しかし、末堂マナトが本当に星野タイトだったとして、なんで末堂マナトは学校に通わなければならなかったんだろう? 私の推理には、その疑問に答えがまだ出ていない。
「もし、私の直感が正しいのなら、末堂マナトとして生きるのであれば、星野タイトは学校なんかに通ってる暇なんてなかったはず……、それなのに、どうして学校なんかに通ってたんだろう?」
国を動かすほどの大企業が、その幹部の息子が忙しくないはずなかった。しかし、彼は学校に通っていた。それはなぜか?
「『
「「────ッ!?」」
そう、そこには理由があったはずだ。
「彼が中学校に通っている途中、彼が中心となった1つの事件があったはずだ。思い出してごらん?」
「事件?」
その言葉に私は記憶の奥底にあったとある事件を思い出す。
「……『50年前の行方不明者』が見つかった件、ですか?」
名前は報道されなかったけど、間違いなく2年前の夏に末堂マナトが通っていた学校が関わっていたはずだ。
「黒川あかね? それって、不知火フリルの親族が見つかって、……って、それが星野タイトと何が関係があるっていうのよ?」
「違うな、関係大アリだ」
かなちゃんの意見を杏子さんは否定した。
「50年前、とある市町村で行方不明になったという少女」
次は『オカルト/奇妙奇天烈』と背表紙に書かれたファイル。そのオレンジ色の付箋が貼られたページを開くと、そこにあったのは────、
「
「「────ッ!?」」
短い黒髪の少女であった。
白黒の写真とカラーの写真の両方に、彼女と瓜二つな少女が写っている。その横では、白黒の写真では幼い男の子、カラー写真では壮年の男性が赤ペンで弟、同一人物と双方向に矢印が記されている。
「そんなオカルト、あるわけない……」
「君達の話もオカルトだとは思わないかい?」
かなちゃんがこぼした言葉は杏子さんのオカルトが事実だと理解させられる。
「末堂マナトが探し、末堂マナトが見つけ、末堂マナトが助けたという人物……関係ないと言えるかな?」
「……言えないわね」
私はかなちゃんの言葉に頷いた。
「さらに、君達がやっている番組……なんだったかな?」
「『『僕らの』『私達の』『『EDEN探索記』』』……ですね」
「なぜ、この番組が始まったと思う?」
「……それが、何か関係があると思いますか?」
関係がないと思いたい話であった。
「じゃあ、もう1つ質問だ。『寿みなみはなぜ末堂マナトの秘書をやっている?』」
本当に関係ない話であってほしかった。
「……、まさかっ!?」
「……黒川あかね、わかったのっ!?」
私は気づいてしまった。
「ルビーちゃんと寿みなみは中学生だった末堂マナトの同級生で、同じクラスだった。そして、その学校の林間学校は行方不明になった少女の故郷である『水無瀬村』」
「────ッ!?
私が調べ、関係ないと切り捨てた情報の中にあったはずだ。
「彼は最初から目的があって『私立 水無瀬中学』に入学した。その目的は林間学校で『水無瀬村』に行くこと。そこに星野タイトの姉であった星野ルビーが入り込んで、彼女達と林間学校で同じグループに所属していた寿みなみが巻き込まれた……となると、辻褄が合うと思わないかい?」
その中の情報から辻褄が合い始める。
「巻き込まれた人物への報酬として、寿みなみは中学生でありながら末堂マナトの秘書になり、アイドルを目指していた星野ルビーはデビュー後のサポートを依頼した。うん、筋道は合ってきた」
だから、ただの中学生ながらに寿みなみは『カミシロ』の幹部の息子末堂マナトの秘書をすることができた。
「……そこに、デジモン達が関わってくるのなら、ブイモンとあれだけ仲がいいのも理解できるし、究極体になったこともあるって言ってたのも理解できる。なんなのよ、これ?」
かなちゃんが頭をかいて、ルビーちゃんが『デジモンカイザー』との闘いの時に話していた内容を思い出していた。
(そうだ、確かにあのときルビーちゃんは言っていた)
『どうして……なんでそんなことが言えるのっ!!!』
『仲間がやられたんだよっ! 仲間が奪われたんだよっ! だったら取り戻さないといけないでしょっ!!!』
『力がいる。力がいるんだ。デュナスモンに、デュナスモンにさえ進化できればあんな奴、あんな奴には負けなかったんだっ!!!』
『究極体に進化させてよっ!
そうすれば、そうすることができれば……、あんなふうに、あんなふうにはならなかったんだから……』
あのときは悔しさと悲しさでどうしようもなくて考えに及ばなかったけど、それは確かにおかしな話だ。
(こんなに『見落とし』があるなんて思ってなかった)
ただ、こんなにもヒントがあるのなら、私達が次に調べる目標は決まった。
「ふふふ、……そこまでわかってるのなら、話はわかるかな?」
杏子さんのその言葉に私とかなちゃんは頷く。
「「目指すは『水無瀬村』。そこに末堂マナトの足取りがある」」
そこで私達は末堂マナトの情報を集めるんだ。
スゥー、ハァー、と深呼吸。
「よしっ!」
私が『休業日』と書かれた看板がかけられたドアを開けると、カランカラン、カランと、ドアベルが鳴り響いた。
「……時間通りだね」
彼は出入り口付近のレジカウンターに座って私を待っていた。
「ーーーー、うっ、うん」
ひさしぶりにに会った彼の姿に少し緊張する。そんなことを思っていると、彼は立ち上がって、
「ついてきてくれ」
そう一言だけ言って、お店の『お客様厳禁』と書かれたドアを開けて、ついてくるように私に促す。
「…………」
コツン、コツンと足音が鳴る。
歩き始めてから10分ぐらい経った。地下へと降りる階段はどこまでもどこまでも長い……そんな気がする。
(喫茶店の地下……だよね?)
彼が、マナトくんが地下へと降りる階段を誘導してから、本当に、本当に長い間歩いている気がした。
(なんで、なんでこんなに長いんだろう? 私の体の話だよね。そもそもどうしーーーー)
ーーーードンッ!
……と、急にマナトくんが足を止めた。
「あいたっ!?」
思わずそう声が出たが、本当はそんなに痛くはない。ただ、急に立ち止まったマナトくんに驚いただけだ。
(……どうして立ち止まったんだろう?)
マナトくんの背中の先を見ると、
「着いたよ」
「ーーーーっ!?」
『
「驚いたかい? 君の体だ」
私の体の周りには見たことのない機械がたくさん、たくさん並べられていて、その横には病院で見たことのあるような点滴が置いてあった。
「えっ、なん……で?」
思わず、……これは本当に思わず声が出てしまった。
「今はここで治療させてもらってる。『リエさん』に気づかれるのは厄介だからね」
彼は私の隣にある機械を触りながら、私に向かってとある人物の名前を話している。
「リエ、さん?」
女性の名前だ。
彼の口から出たのは、『カミシロ』の社長代理として働いている人物……、そして、彼が結婚したい女性に挙げていた人物だ。
「岸辺リエ。現在の『カミシロエンタープライズ』代表を取り締まってる人物だよ」
「……『カミシロ』の?」
知ってはいる。
あの後、あの年末の動画を見た後に、名前が挙げられた人は調べたから分かる。だけど、その人の名前がなんで出てくるのか、……そして、それ以上に、
(胸がモヤモヤする)
彼の口から女性の、……しかも、結婚したい相手とさえ言われるほどの人物の名前が出たことで私はつい嫉妬をしてしまった。なんと、呑気なことだろうと自分でも笑ってしまった。
「公には君は『EDEN症候群』になっている人間だ。しかし、今、俺の目の前にいる」
彼は私の方を見ずに、パソコンを通してプロジェクターのデータを見続けている。私はただ、その言葉に頷くことしかできなかった。
「『EDEN症候群』の症例者でありながら、君は俺と話していることができている……、これを何も知らない『EDEN症候群』の患者の家族が見たらどう思うかな?」
「ーーーーッ!?」
その言葉とともに彼は振り返った。その表情は私をただ心配してるようにしか見えなかった。
「人体実験でもされたら困るだろう?」
私はブンブンと頭を縦に振った。
「安心してほしい。俺は君の体を実験なんかしないよ」
マナトくんは私に微笑み、そして、ゆっくりと近づいてくる。
「……ほんとう?」
それはただの確認だった。
彼の本心は私にわかるほど、マナトくんは私のことを心配している。その表情が、その声が私に安心を与えてくれている。
「嘘だったら、君が来た時点で『カミシロ』に連絡してるって……、『君の体を保護したよ』って、アミに伝えるのが目的さ」
「……うん」
「この件は君と俺だけの秘密……、まだ、誰にも話しちゃいけない。書類の偽造もしてるからね。安心はできないが……」
「秘密にできるかな?」
差し出された小指。
「……はっ、はいっ!」
その指に私は指を絡めて、手が触れたことに少しだけ胸を高鳴らせながら、2人で『指切り』をした。
「指切った……よし、それじゃ……健康診断といこうか!」
彼は指切りを終えた途端、私の手首を引っ張って、私のベッドの隣にあるSFに出てきそうな巨大なカプセルに私の体を入れる。
「ーーーーえっ!?」
中からも開けられるように取っ手があり、私でもすぐに出られるのはわかる。わかるのだけれど、唐突なその行動に頭が動かなくなってしまった。
「私服を着たままでいい。その機器に入っていてくれ。今から君の体を調べ上げる」
急にパソコンを動かし出した彼を見て、先ほどの話がウソだったのではないのかと心配になった。
「人体実験はしないんじゃなかったんですかっ!?」
「しないさ、しない。だけど、君の体を調べることの重要性も理解してくれ……、俺は君が突然街の真ん中で死んだら困る。本当に困る……、だから、調べさせてくれ」
「……わかり、ましたっ!」
彼の言動は筋が通っている。
機械から光を当てられるだけで、注射とか、変な機械とかは一切出てきていない。だからこそ、信用はできるのだが……、
「そのいき、だよ」
笑顔で微笑んだマナトくんのことに、プロジェクターから映し出された私の心音は大きく揺れるのが見えてしまった。
(私、これからどうなっちゃうのーーーーっ!?)
そう思いながら、検査を受ける。真剣なマナトくんの表情に、