『では、クーロンにいるハッカー達に聞いてみましょう!』
『白い少年を見たことはありますか?』
『ないですね』
『ありません』
『そんなことより、デジモンバトルだっ!!!』
『…………』
『…………』
『…………』
『現場からは以上ですっ!』
ガタンゴトンッ! ガタンゴトン!
田舎へと向けて電車が揺れる中、イヤホンから公式のチャンネルでアップロードされた前回の動画の切り抜きを見ていた。
「……MEM、がんばってるなぁ」
私とかなちゃんが出演してない回だ。
画面にはMEMとルビーちゃんが愛想を振り撒きながら、『クーロン』でインタビューをしている。
「何、他人事みたいなツラしてんのよ。アンタもおんなじ仕事やってるのよ」
それはそうだけどとは思うものの、新しい番組の企画に少しだけ『思うところ』を考えつつ、電車の走る窓辺を見る。
「…………」
2時間ほど揺られた先、富士の山が通り過ぎた頃……、目的地の場所の名を告げる駅員のアナウンスが聞こえ始めるのだった。
2017/5/3 AM11:00
「ん、ンン────ッ!」
「ようやく、着いたわね」
『水無瀬村前停留所』記された看板を見て、太陽に向かって大きく背伸びをする。長時間にわたって、電車とバスを乗り換え、乗り継ぎ、長い間椅子に座っていたことで体は固まって、全身に血が回っていないんじゃないかと錯覚してしまうような気がする。
(……だけど)
そのおかげでスタート地点に辿り着けた。
末堂マナトとルビーちゃんと寿みなみが一昨年の夏に林間学校に行っていた『水無瀬村』に到着できたのだ。
「長かったわねぇ」
かなちゃんも体が固まっているのか、ゴキゴキと肩を鳴らして手に持っていたスーツケースをゴロゴロと引っ張ってくる。
「……にしても、ゴールデンウィークを理由に仕事を休めるとは思ってなかった」
その言葉に私も頷く。
『カミシロ』にいったん私事で仕事を休みたいと連絡したところ、『ゴールデンウィーク』なのだから、他のメンバーと交代で休んでいいと連絡を受けた。しかも、『カミシロ』からの特別休暇でいいとのことだ。
(子供の頃……、ううん、まともにゴールデンウィークの休みを取ったのはいつ以来だったっけ?)
小さな頃から子役として働いていたから、こうして正式に休みをいただくのはひさしぶりのことだ。
「福利厚生がしっかりしてるよね」
「さすが大企業」
一般の社会人よりも多く給料や休みをいただいている自覚はある。ただ、それ以上に────、
『ねえねえっ!』
開いているデジヴァイスからルナモンの声が聞こえてきた。
「何かな、ルナモン?」
『ここで何を調べるの?』
デジヴァイスのホーム画面に現れたルナモンは、周りの光景を見ながら今日調べることについて聞いてくる。
「ここでは2年前に起こった行方不明事件について調べるの」
『行方不明事件?』
「50年前に起こった神隠し……、いわゆる人がいきなりいなくなっちゃう事件が発生したの。その事件が2年前、ついに解決したみたいだから、それについて調べにきたんだよ」
そう、私達は遊びで来たわけじゃないのだ。
(2年前にあった行方不明事件、その全貌を調べる為にやってき────)
『へぇー、そうなんだ。あかねがかなと一緒に旅行したかだけなのかと思った』
「ぶっふぅっ!?」
ルナモンの衝撃発言にびっくりしてしまい、思わず吹き出してしまった。
「────ッ、どーしたのよ、黒川あかねっ!?」
『大丈夫かっ!?』
マズイ、かなちゃんとコロナモンの注目がこっちに集まってしまった。
「────っ、なんでもないよ〜〜っ!?」
「なんでもないって、あんたねぇ?」
かなちゃんが呆れた様子でデジヴァイスへと視線が移った。それに少し安心して、もう一度深くため息をつく……問題は、
(それはかなちゃんにだけは知られたくない。お墓まで黙ってるつもりの秘密、これ以上ルナモンにしゃべらせるわけにはいかないっ!?)
危機感と焦り、両方の面から自分のデジヴァイスを睨みつける。
「何かな、ルナモン?」
思わず低い声が出てしまうが、かなちゃんは気付いた様子はない。
『えっと、だからね。あかねがかなと────』
「何かな、……ルナモン?」
もう一度ソレを言うのかな?
『……なんでもないです』
うん、わかってくれたのなら、よかったよ。
『ひぇえ、こぇええ』
2017/5/3 PM0:17
「……で、とりあえず来てみたけど、この後どうするわけ?」
停留所があった山道を登りきって、村々がようやく見えてきた頃、かなちゃんはこちらを向いてそう言った。
「聞き込み調査かな? 『捜査の基本は足から』……って、言うでしょ? まずは周りの人に話を聞いてみようよ!」
かなちゃんにそう聞かれ、思わずテレビの刑事ドラマからそんな言葉を引用してしまう。
「なら、二手に分かれて聞き込みにいきますかっ!」
「……2年前の行方不明事件? 僕らは知らないかな? ……知ってるヤツいる?」
「「「知らな────いっ!!!」」」
公園にいる子供達はそう言った。
「水無瀬さんとこの話だろ? 儂らよりも年寄りの筈なのに、あれだけはだが綺麗だとはうらやましいねぇ。じいさん」
「ばあさんはいつまでもきれいだよ」
「やだもう、じいさんったらっ!!!」
散歩をしている老夫婦はそう答えた。
「ミユキお姉ちゃんの話でしょっ!? よく遊んでくれるんだよ!」
「いつも
「お姉ちゃんと一緒にいるおじいちゃんがお菓子を買ってくれるんだっ!」
駄菓子屋のお婆さんと買い物に来ていた少年はそう答えた。
「余所者に教えることなんざねえよ。さっさと地元に帰んな」
「パパラッチってヤツかのう。けえれ」
「どけ、農業の、仕事の邪魔をすんじゃねえっ!」
2017/5/3 PM02:41
────だんッ!
「何よ、ここっ! 陰険ジジイばっかじゃないっ!!!」
村の郊外にある廃校の前で、かなちゃんは鬱憤を晴らすように桜の木を蹴り飛ばしていた。
『……あはは、カナ、落ち着いて、ね』
「落ち着けるわけないでしょっ!?」
コロナモンがかなちゃんを宥めているが、かなちゃんの怒りは収まる様子がない。
(ああ、かなちゃんもたぶんあったんだろうなぁ)
2年前の話を快く話してくれる人もいれば、睨んできたり、怒鳴られたりと聞かれるのも嫌だと言う人には何人もであった。私の方では少しは聞くことはできたけど、かなちゃんの方は上手く聞き込みができなかったみたいだ。
「こっちはねえ、2年前の話を聞いただけで怒鳴られたのよっ! しかも、1人や2人どころか10人や20人にっ! ……
『でも、ちゃんと話してくれた人もいたよっ!』
「話してくれた人はここ半年の越してきたばかりの人だったじゃないっ!?」
……やっぱり、かな?
『カナ、……もしかしたら、あかねが詳しく聞いてくれたもしれないよ? そっちの方を確認してからでも遅くないんじゃないかな?』
────ちょっとっ、コロナモンっ!?
「それも一理あるわね、……で、黒川あかね? そっちは上手く聞けたんでしょうね?」
コロナモンが私に聞いてと言ったことで、かなちゃんの怒りの矛先がこちらに向いてしまった。できるだけ言葉を選ばないと大変なことになるから……、どうしようかな?
「残念だけどこっちも収穫はなかったよ」
とりあえず首を振りながら、私も上手くいかなかったと告げる。
「……そ、……ねえ、黒川あかね。もうここに詳しく知ってる人なんていないんじゃない? こんなところで話してるだけ、時間のむだむだ。絶対に直接、水無瀬ミユキって女の子に聞きに行った方がいいって」
飽き性のかなちゃんは何日もここで聞き込みをしてないのにも関わらず、聞き込みをするのは諦めると言った。だけど、私は今の聞き込みで少し違和感を感じていた。
「かなちゃん、逆に考えて考えてみてよ……、怒った人達は、2年前の話を聞い途端に表情を変えていたよね?」
「まあ、そんな感じだったわね?」
やっぱり……と頭の中でそう思った。
「たぶん、2年前の事件の状況を詳しく知ってる人ほど、話したくないんじゃないかな?」
あの事件の後すぐに『カミシロ』は『EDEN』の大規模アップデートを行なって、『EDEN』にあるいろいろな区画のイノベーションをした。
たとえば、『EDEN』にある某有名キャラクターの遊園地のアトラクションを追加した。
たとえば、某有名事務所や某有名企業、……果ては議員や皇室が使うような、防諜設備の整った機密性の高いサーバを追加した。
たとえば、事故によって動けなくなったスポーツ選手用に、『EDEN』内でも『筋肉を動かしている実感』を得られるような、広大なスポーツ専用の特殊サーバを追加した。
たとえば、たとえば、たとえば、たとえば……、と挙げればキリがないほど、……まるで、同時期に知られてはいけないような秘密があるかのように、見られてはならないことがあるかのように、多くの人が目につくようなアップデートを行なったのだ。
(まるで、2年前にあった50年前の行方不明者『水無瀬ミユキ』が見つかったことを隠蔽するかのように)
『カミシロ』は確実に何かを起こしていた。
『別に考えすぎだと思うけどな?』
『……私もそうだと思う。あかねの考えすぎなんじゃないかな?』
デジヴァイスの中からコロナモンとルナモンのそんなぼやきが聞こえてくる。
「そーね、コロナモン達の言うとおり、アンタの考えすぎよ。ちったぁ、手伝ってあげてるこっちの身にもなってよね!」
早々に切り上げたいというようにかなちゃんはそう言った。しかし、私はどうしてもコロナモン達がそう言った理由が気になってしまった。
「コロナモンとルナモンはどうしてそう思ったのかな?」
ルナモンとコロナモンが私のデジヴァイスから、2年前に上がっているとあるSNSのつぶやきを見せてきた。
『マスコミとかが聞きに来て辟易してるんじゃないかと思ったんだ』
『『カミシロ』がいろいろと動いた後にも一部のマスコミの人達が調べまわってたみたいだよ! そのときのSNSで、水無瀬村の住人の人がトラブルになったって呟いているのを見つけたのっ!』
むむっ、そう言われたら、納得せざるを得ないような……、でも、それでも、『カミシロ』のアップデートには何かがあるような気がして……うーん、ちょっと、気になるんだけど……、
(SNSもマスコミもそういうことをやりそうなんだよね)
かつて、そういったネットの闇を見せつけられて自殺をしようとしてしまったことを思い出した。
(それなら……納得できるのかな?)
喉の奥で引っ掛かるような気になった点があった。
「……で、まだ聞き込みを続けるの?」
『俺はカナの言うことに賛成だぜっ! 直接聞いてみないとわからないしなっ!』
『私は……あかねに同意したいけど……』
みんなはもう『水無瀬神社』に向かうつもりでいる。
(うーん……)
無理矢理納得することはできる。
できる……が、どうしても、どうしても気になってしまう。ここで調べないと、後戻りができなくなる。そんな気がした。
「どうすんの、黒川あかね?」
『あかね?』
『あかねっ!』
3人が私に意見を求めてきてる。
(時間は……午後の3時前、……、もう決めないと、予約した宿のチェックイン時間までに間に合わない)
午後6時のチェックインまでにある程度情報を集めたかった。確定した情報がほしかったけど、今日はまだ何も手に入れられてない。
私達が使える時間も少ない。
ゴールデンウィークの特別休暇が終わったら、私達も他のみんなと交代で番組に出ないといけない。
(……しょうがない、か)
ただの学生だったらどんなによかっただろう。そんなことを考えながら、3人に顔を向ける。
「やっぱり、かなちゃん達が言うように、実際に『水無瀬神社』まで行って────、
シャン、シャン、シャン、シャンッ!
後ろから錫杖が揺れるような音が聞こえてくる。
「かなちゃん」/「……なによ、この音?」
『あかね、気をつけてっ!』/『カナッ、後ろだっ!?』
現実世界ではあり得ない。デジモンカイザーが現れたときの『EDEN』のような異質な気配に私は戸惑ってしまう。
シャン、シャン、シャン、シャンッ!
大きな錫杖の音の中、小さな足音が、一歩、また一歩と聞こえてきて、こちらへと近づいてくるのがわかってしまった。
(……どうする?)
ここは現実世界。
『EDEN』じゃないからこそ、デジモン達はここには出てこれない。
(私の推理がもし、もしも────)
「
背後から突然そんな声が聞こえてきた。
「「────ッ!?」」
(だれっ、気配に気づかなかったっ!?)
(うそっ、前から歩いてたんじゃないのっ!?)
私は、私達は急いで後ろを振り返る。そこにいたのは……、
「初めまして」
背格好は150cmよりも少し大きいぐらいで、花のあしらった空色の浴衣を着ている少女。背中まで伸びる長い黒のロングヘアには年季の入ったカチューシャをつけている。
見た目は、芸能界でもやっていけるような『和風』が似合う美少女。
(……まさかっ!?)
この子が私達の探していた。
「水無瀬ミユキと申します」
「「────っ!?」」
その発言に私達は息を飲み込んだ。私達が今から会いに行こうとしていた人物が目の前にいるのだ。
『水無瀬ミユキってっ!?』
『カナ、この人、カナが行方不明だって言ってた人だよっ!?』
デジヴァイスから2人の声が聞こえてくる。しかし、────、
『
彼女の手元の巾着袋から、私達のデジヴァイスと同じように、冷たそうな印象の声が聞こえてきた。
「レナモン、私に会いにきてくれた人達に失礼ですよ」
『…………』
水無瀬ミユキが巾着袋からデジヴァイスをとりだ……、ううん、違う。デジヴァイスと一緒に空色のデジヴァイスのような何かを取り出していた。
(……ケモノ?)
(あれ……、『D-3』、よね?)
ただ、私には彼女のデジモンが言った言葉が気になってしかたがなかった。
(ルナモン達を『ケモノ』って呼んだの?)
なぜ、レナモンと呼ばれた彼女のデジモンが、私達のデジモンであるコロナモンとルナモンに向かって『ケモノ』と呼んだのは理解できない。しかし、その言葉が気になってしかたがない。
「…………」
「…………」
ただ、その場で話を切り出すには、何を言っていいのかわからない。
(上手く、『ケモノ』について話を聞けたらいいんだけど……)
そんなことを考えていると、突然────、
「さあ、着いてきてください」
「……えっ!?」
彼女は私達に背を向けて山の方を向いてしまう。
「私を探していたんですよね? 着いてきてください。話をしましょうか」
私達は彼女の背を追いながら、神社へと向かう鳥居をくぐった。その行為が後戻りできないことだと私が気がついたのは、『────』と出会った後のことであった。
「ふん、ふふーん!」
笑顔で事務所の掃除に努める。
(ふふーんっ!)
一昨日のことを思い出したら、頬が自然と緩んでしまった。
『君の体の解析データは後でデジヴァイスに送らせてもらう』
そう言われて、デジラインの方にマナトくんからメッセージが送られてきた。その内容はここのサーバのアドレスだった。
『あと、デジモンに対して困ったことがあればここに連絡してくれ。こっちで集めたデータを送る』
そう言われて、『対野良デジモン戦』/『対ハッカー戦/『対多数戦』と書かれたデータがデジヴァイスに送られてきた。
『あと、本当に困ったことがあれば、ここに連絡してくれ』
私とのデジラインのトーク画面をマナトくん自身のデジヴァイスから見せられた。さっき送られてきたサーバのアドレスに指を差しながら、マナトくんは言った。
『ここの秘匿サーバのアドレスだ。緊急事に俺への直通で連絡できる機器がある。もし、君のことがバレたとしても、身を隠す場所として食べ物の備蓄やベッドや風呂などの最低限人間が生活できる準備もできている。それにここに入ってきた時点で、俺に連絡がくるから……』
『……くるから?』
『俺もできるかぎり早くここに来るから安心してほしい』
「ーーーーんぅんっ!」
思わず顔がにやけてしまう。
照れくさそうにそう言った彼の、マナトくんの顔が恥ずかしそうで、かわいらしくて、それでも私を心配してくれてることがわかって、……とっても、とーっても、うれしかった。
「……おい」
「はいっ、杏子さんっ!!!」
突然声をかけられて、つい、ピーンと背筋を伸ばしてしまった。
「にやけてないで顔を引き締めろ。依頼人が来るぞ」
「……はいっ、わかりましたっ!」
それからしばらくして、
「……失礼致します」
ガチャリとドアが開く。
(……あれ?)
依頼人の女性がどこかでみたことのあるような……、ううん、長い黒髪と物静かそうな美人の少女は、私は絶対に見たことがある。
「山科悠子と申します」
……ある?
「父を、『山科誠』を探してほしいんです」
……あるよね?
(この人って、『神城悠子』じゃないの?)
私は目の前の少女を見て首を傾げるのだった。