2017/6/9 PM12:00
『ザクソンの、クーロンの、……『EDEN』にいる全てのハッカーに問う。君達は自由か?』
「……は?」
デジヴァイスが乗っ取られた。
『何者にも侵されず、何者にも干渉されず、何者にも監視されないそんな自由が、今の『EDEN』に存在するか?』
デジヴァイスだけじゃない。
ネットに繋がるテレビや古いスマホの機種、車……果ては、ビルドボードの広告まで、見知った顔の少年が『EDEN』と『カミシロ』に向けて宣誓する。
『我々の聖地を取り戻す為に、『アンダーゼロ』を取り戻す為に、我々『ザクソン』は『アンダーゼロ』の奪還を宣言する!!!』
我々は『EDEN』の中枢サーバ『アヴァロン・サーバ』に攻め入る……と。
「……は?」
私はただその画面を見て戸惑っていた。
「ねぇ、これ……いったいどーなってんのっ!?」
私達は次の『EDEN』のイベントに向けて準備をしていた。
『カミシロ』の上層部から『EDEN』の広告塔として、『とあるイベント』に出演し、チケットに当たった希望者達にプレゼントしてほしいとお願いされているからだった。
(ブイモン達が公式の舞台で一般の人達の前に出るまたとない機会……頑張らないといけなかったんだけどなぁ)
このイベントのせいで修行すらまともにできてないのは少し不安だったけど、それもしょうがないと割り切っていた。こんな事態になるまでは……、
「すぐにかなちゃんとあかねに連絡……って、どうして繋がんないのよっ!?」
MEMちょが先輩やあかねちゃんに連絡してるみたいだけど、連絡がつかないみたいだ。
「……アクアさんはどう思う?」
「把握していると思うがシキさんへ報告。上層部からの連絡を待とう。ハッカー達の動向次第で、こっちの動きも変わってくると思う。そんなことより次のイベントの件なんだが……」
アクアも不知火ちゃんも話をしてるみたいだけど……、シキさんに報告することに決まったらしい。
「今日はいったん解散にしよう」
午後の1時にシキからそう告げられた。理由は私達の精神を考慮して今日の仕事は会社都合の休暇になるって言われた。
そんな時だった。
仕事用の連絡網として使われていたデジラインに通知が入った。この場にいない2人からだ。
『
『
2人からの連絡はたったそれだけ……、アクアに聞いても首を振っていたから、彼氏への連絡もないらしい。
(…………)
デジヴァイスの画面へと視線を落とす。
(……それにしても)
2ヶ月ぐらい前からだった。
かな先輩とあかねちゃんの2人がコソコソと何かやり始めたのは……、シキさんや上の人に休みの都合をつけてもらって、2人でいろいろと何かやってるらしい。
(先輩達はいったい何やっているんだろう?)
何も映らないデジヴァイスの画面に疑いの目を向けながら、急遽暇になった午後の
2017/5/29
立ち塞がるデジモン達。
『チクチクバンバン』
走って、走って、走り続けて……、
『カクタステイル』
デジモン達の攻撃を避けて、避けて、避け続けながら、彼らを追って進み続け────、
「……ねぇ、黒川あかねっ!」
こんな忙しい時に、隣の
「何、かなちゃんっ!?」
努めて冷静に、……かなちゃんに受け答えをする。
「あいつら、バケモンじゃないっ!?」
「────ごめん、あかねっ!」
「────ッ、カナ、……オレ達、全力で頑張ってるけど、……あいつらに追いつけないっ!?」
そう、私達は『
『完全体を2体』連れた私達が、目の前を歩く『成熟期を3体』連れた2人組に走って追いつけていない。
「
かなちゃんのその言葉に頷くように、目の前の2人組を睨む。
『クリサリモン*1、そこだっ!』
『『データクラッシャー』ッ!』
少年の方はゆっくりと歩きながら的確な判断でデジモンに指示、クリサリモンと呼ばれたデジモンは指示に従って襲ってくるデジモン達の急所を一撃で狙い撃っている。
(これだけでもかなりの実力者。だけど、問題は────)
……しかし、問題は、少女の方だ。
『…………そこ』
『了解しました、アミさんッ……『エレクトリカルフィスト』ッ!!!』
『『ヴァンシオン』ッ!!!』
少女が一瞥しただけで反射的に『
(かなちゃんの言ったとおり)
『バケモノ』
その4文字をどうしようもないほど理解させられて……、どうしようもなく彼女と私達には実力の差を痛感させられる。
「……うーん、どうやってるんだろう?」
ふと、クレシェモン*2の言葉が耳に聞こえてくる。
「ここのデジモン達は完全体のクレシェモンやフレアモン*3でもなんとか対応できるレベルの強さなのに……、あのデジモン達は────」
『『データクラッシャー』ッ!』
『アミっ……、お前のデジモン、なんかこの間とは姿が違うみたいだが……、前よりかなり強くなったんじゃないかっ!?』
『『サンダードレッド』ッ!』
『アラタの方こそ……、私達について来れるなんて思ってなかったっ!!!』
たった一瞬、たった一度のミスが命取りになるような戦場で、彼女達……、ううん、『彼女』とそのデジモン達の判断と能力で、少年とその仲間のデジモンを前へ前へと進ませ続けている。
「強さが桁違いね」
かなちゃんの言うとおりだった。
桁違いのデジモンの強さと戦場での判断能力、それらが彼女の無類の強さの根源だろう。
(あの姿はまさしく────)
前に見た『白い背中』を思い出す。
白いコートを着た少年とそのデジモン。ルビーちゃんのみが唯一足下に追い縋れた今のハッカー達の頂点。
「ああ、もううっとうしいっ!!!」
かなちゃんが視線を外した瞬間、左斜め前から緑色の巨体が近づいてくる。
「────『チクチクバンバン』ッ!!!」
「『
トゲモン*4の必殺技『チクチクバンバン』。針の雨を周囲の敵に飛ばす強力な技を、フレアモンの必殺技による強烈な炎によって、トゲモンごと針1つなく消し飛ばされる。
「フレアモン、ナイスッ!!!」
かなちゃんの方を向いていたそのとき、視界の端に花のような恐竜のようなデジモンがフレアモンに近づいているのが見えてしまった。
(フレアモンはまだ気づいてない。────クレシェモンッ!」
「危ないっ、『ルナティックダンス』ッ!!!」
「『スマイリービンタ』ッ!!!」
花のような恐竜のようなデジモン……、『サンフラウモン』*5の強烈な一撃をクレシェモンは鎌で止め、替え刃で右のようなその体ごと切り倒した。
「クレシェモンもサンキューッ!!!」
「……こっちは必殺技でなんとか倒せていってるっていうのに」
『────っ、つぎぃっ!!!』
『アラタ、遅いよ』
『『ヴァンシオン』』
『……たっく、こっちはついてくのがやっとだってのによぉ』
『……、もっとペース上げられるよ?』
『限界だっつってんだろっ!!!』
『アミさん、『────』……、ペースを上げてもいいかい?』
『OK、バルクモン*6ッ!』
『上げんなつってん────、ああ、もう待てっ!!!』
「なんで、あいつらはただの攻撃で倒してってるのよぉぉおおお────っっ!?」
かなちゃんは叫び声を上げながら、敵の攻撃を転ぶように躱した。
「……あはは」
歩いていた少女とそのパートナーらしきデジモン達が、敵をペースを上げて走り出し、少年が追い縋るように走り出す。少年のペースに合わせて走っていたということを私達はまざまざと見せつけられたのだ。
「……あいつら速い、早すぎるわよっ!? もうあのでかい提灯みたいなギミック突破してるわよっ!? どんだけ、敵を倒すのが早いのよっ!?」
目の先にある明らかに倒れなさそうなギミックと門番らしきデジモン達が、バッタバッタと倒されていく。まるで物語に出てくる英雄のように、少女のデジモンの勢いがグングングングン上がっていく。
「……困る困る、困ってるっ!? カナの言うとおりだっ!!! どうやったら、あんな数の成熟期を相手に大立ち回りできるんだよっ!?」
「フレアモン無駄口叩かないでっ!? まだまだ奴らは残ってるんだからぁ────っ!?」
フレアモンとクレシェモンがとうとう悲鳴を上げてしまった。
(……マズイッ!?)
敵のデジモンがドンドン増えているのにも関わらず、元々保っていた『距離』が更に広がっていく。
(クレシェモン達が対応できる許容量を超えてしまうかもしれないっ!?)
額に伝った汗は冷や汗だった。
クレシェモン達が対応しきれなくなれば、野良のデジモン達に襲い掛かられる予感と、逃げきれない恐怖……そして、真実を突き止められない焦燥感で頭が真っ白に近づいていく。
「……黒川あかね」
そんなことを考えている私に対して、かなちゃんからかけられた声は不吉な気配を感じさせる。
「何かな、かなちゃん?」
「どーして、あいつらとこんなに離れてるのよ?」
……勘づかれた、かな。
「そんなの決まってるよ」
このまま黙っておくつもりだったのに、本当に面倒だねかなちゃんは。
「
わざわざこんなことを話させるなんて、ね。
「なんでバレない必要があるのよ? この……『デジタルシフト』だっけ? それを解決しようとしてるのは私達もおんなじじゃない? あいつらと合流した方が、私達も安全に進めんじゃないのっ!?」
当然の疑問だけど、こうも忙しいのに甲高い声で聞かれるのは少し……、ううん、かなり頭にくる。
「安全には進めるだろうけど大した情報は得られないんじゃないかな? 私は彼女達をこのまま泳がせた方が口を滑らしてくれる可能性と思ってるっ!?」
「どーしてそう思うのよっ!?」
たぶん、状況があんまり進展してないことにかなちゃんもいらだってるんだと思う。
「まずは、私達の持ってる情報は他の一般の人達には情報提供しにくいってことっ!」
互いが互いに口調が荒くなっていくのを感じてるけど、止まらない……止められない。
「次に私達はテレビで顔が割れてるから、ここにいるデジタルシフトに巻き込まれてしまった人達に見つかった場合悪目立ちするっ!」
「最後に、彼女達は私達に都合のいい情報を持ってるかどうかわからないってことっ!」
「かなちゃん、そもそも私達はこの場所を調べるために来たのであって、この問題を解決しに来たわけじゃないっ!」
「何度も事件を解決してきたであろう2人に接触するような、……言ったら悪いけど余計なことをして、被害を広げる可能性があることをしない方がいいと思うよっ!!!」
私は彼らを追う時に思ったことを、そのまま話してしまっている。話さなくていいことまで話してしまった。少しだけ……、
「わかってるわよっ!!! ……というか」
ううん、これは、
「
これは流石に私が悪いのだろうか?
「流石にこれ以上あいつらのペースが速くなるようなら、ついていけてないわよ、私はっ!」
「『
かなちゃんとフレアモンの息のあったコンビで、目の前のサンフラウモンを倒していく。
「でも、戦闘しながら進んでくる集団がこれ以上近づいていったら、あの人達にバレる可能性があるからしょうがないん……、クレシェモン!」
「……っ、『アイスアーチェリー』っ!」
私とクレシェモンが取りこぼしを倒して……でも、
(早いっ、あいつら早すぎるっ!?)
(進んではいる、進んではいけてるけど……)
走っていく彼らの背がどんどん小さくなっていって、
((このままだと追いつけない/見失うっっ!?))
追い縋ることすらできずに、足止めを喰らってしまった。
「……なんとか、ここらへんにいる、……すぅ、デジモン達は倒せたみたいね」
「なんとか……、ね」
なんとか周囲のデジモンを倒し切り、少しだけ余裕ができた頃……、私達はゆっくりと地面に座り込んだ。
「……にしても、なんなのよこの世界はいったい」
帽子越しに頭をガシガシとかくかなちゃん。アイドルの髪型が崩れてるなぁ〜、と自身の呑気さに呆れつつ、ボーッとする頭のままその声に返事をしてしまう。
「完全体で戦ってなんとか倒せるようなレベルのデジモン達が……、ちょっと私達には早かったかもしれない」
レベルが足りない……、その言葉が1番しっくりきてしまった。
RPGで1番最初のボスを倒せないレベルなのに、DLCで追加された隠しダンジョンに突入してしまった時ぐらいの絶望を感じてしまった。
(……ははは、こんなに弱かったんだ)
私達は思ったよりも弱かったのかもしれない。
並いるハッカー達やデジモンカイザー、最近はあまり参加できてないけどシキさんの修行も頑張ってきた。頑張ってきたのにあの子達に追い縋れないほど私達が弱いのを実感させられてしまった。
「そーだわ、……絶対にレベルが足りてないって……」
苦笑しながら地面に座り込んだかなちゃんが、立ち上がって私のことを見下ろす。
「…………でも」
……でも?
「
…………、
「うん」
そう言われてしまったら、頷くしかないよね?
「さっさと追いかけるわよ」
「……うん」
休憩は終わり……、あの2人を追いかけようと前を見た。
「……カナ」
「どーしたのよ、フレアモン?」
「……あかね、おかしいよ」
「……クレシェモン?」
周囲の警戒をしていたフレアモンとクレシェモンの様子がおかしい。明らかに何かを警戒してる時の顔つきだ。
(嫌な予感が……、ううん、これは)
かなちゃんに感じた嫌な予感じゃない。これは、なんか……、さっきと違うような……そんな、
「「
2人の声が重なった時、
「「────ッッ!?」」
ようやく私達はそれぞれのパートナーの言葉の意味を理解することができた。
「今思えばデジモン達の様子もおかしかった気がするの」
そう思えばおかしかった。
「カナやオレ達を狙ってはいたけど、手当たり次第に人間に襲い掛かってるって、そんな感じじゃなかったよーな?」
私達や前を進んでいた2人組を除いて、巻き込まれた人達は狙われていなかった。
「そうそう、ただ訳もわからず巻き込まれた人達は無視して、自分達の動く先にいる通せんぼしてくるデジモンをどかしてるみたいな……なんか、こう……」
いや、ありえない……そんな、────まさかっ!?
「「
────ッ!!!
「よーな、そんな感じだったよな?」
「うん、そうそ────、あかねっ!?」
マズイ、本当にマズイッ!!!
「かなちゃんっ!!!」
早く、本当に早くっ、急がないとっ!!!
「どーしたのよ、黒川あかね?」
「急いで奥へ走るよっ!!!」
私はチンタラ動いてるかなちゃんを置いて、全速力で走り出した。
「────ッ、いったいなんなのよっ!?」
走り始めて数分、私の予想は的中していた。
(……やっぱりそうだっ!?)
走っているのにも関わらず、『デジモンが出てこない』っ!!!
「黒川あかねっ!!!」
「アカネッ!!!」
「あかねっ!?」
かなちゃんはすぐに私の横へと追いついてきた。息が苦しいけど、何かを聞きたそうに食らいついてくるかなちゃんに、かなちゃんにもわかりやすいように説明する。
「さっきの子達が奥に向かっていって、そこから逃げるように……ううん、『人間達が多くいる方』にデジモン達が走り出した」
……そうだ。この世界はかなちゃんが最初に言ってたとおり『おかしかった』のだ。
『人間がいる方にデジモンが走り出した』
これだけで『EDEN』とは大違いなことだって、なんで私は気づかなかったっ!!!
「あいつらがこの世界を作り出してる奴を倒してくれるんでしょ? だったら、そのまま隠れて着いてった方がいいじゃないっ!!!」
かなちゃんのわからずやっ、なんでこんなことがわかんないのっ!?
「周りをよく見てっ!!!」
そう、周りをよく見るんだよ。有馬かなっ!!!
「
ようやく、ようやく気づいてくれたっ!!!
「そう、『人がいない』んだよっ!!!」
そう、『デジモンも人もいない』んだよ!!!
「いや、でも、入ってきた時は、周りに巻き込まれた人がたくさん……、いた、はずよね?」
そう……、周囲には巻き込まれた人達が確かに存在した。
「巻き込まれて迷っていた人達がいた……いたはずなんだよ。でも、今は道に迷ってる人すら見えないそれはなぜかっ!」
人々は巻き込まれて、このデジタルシフトをわけもわからず歩き回っていた。人を襲ってくるような危険なデジモンというモンスターが闊歩するこの雷門の中を、浅草寺の境内を歩き回っていたんだ。
でも、もうそんな『迷子』達はどこにもいなくなってしまった。つまり、迷子じゃなくなったということ……それは、どうして?
「なぜって、そりゃあ……、出口や『出口に心当たりがある人物が見つかった』……から、────まさかっ!?」
「その『まさか』だよっ!!!」
「ちょっと待って、あかね……、それは安直すぎない? 私達みたいな
そんな悠長なこと考えてる場合じゃないっ!?
「隠れてる人がいるのもあってる……だけど、いきなり見たこともない風景に巻き込まれた何も知らない人達が、迷いなく奥へ奥へと進んでいる『何か知ってそうな人』を見つけたらどう思う?」
「『
「そのとおり……、間抜けな話だよね、ほんっとうにっっ!!!」
かなちゃんはようやく理解ができたのか、顔を真っ青にして立ち止まって……、その後、全力で走り始める。
「それなら、早くあいつらと合流して周りの人達を助けなきゃいけないじゃないっ!!!」
「だから、私は奥へと走るって言ったっ!!! ────待ってっ!?」
デジモン達との戦闘がない最奥まで辿り着いた時、私達は『異様な光景』が目に入ってきた。
「
視界の先には、『白い少年』がボンヤリと立っていて、
「みんな逃げろっ!?」
「早く走るんだっ!?」
「きゃぁぁああああああ────ッッ!?」
「フレアモンッ!!!」
「『
咄嗟の行動だった。
「────ッ、『ダークアーチェリー』、……あかね、こっちもダメっ!!!」
「クレシェモンとフレアモンは連携を取りつつ、あの化け物から周りの……」
襲われてる人達と化け物の間に無理矢理デジモン達を捩じ込んで対処させたけど……、だめだ、……これ!?
(倒れた人達が動いてないっ!?)
銀色の化け物に触れた瞬間、襲われた人達が死んだように倒れていく。まるで、電池がなくなったロボットのようだ……と、思ってしまうぐらい、『生きている』って思えない挙動だ。
(……あれ、これどこかで……っ!?)
「あかねっ!!!」
クレシェモンの声を聞いて、深い思考の奥底からハッと目が覚めた。
「あかね、これっ、……どーすればいいっ!!!」
「カナッ、俺はどう戦えばいいんだっ!?」
戦ってる2人の声が聞こえてくる。だけど、襲ってくる化け物の数がさっき襲ってきたデジモン達とは比にならないぐらいドンドン、ドンドン増えていってる。
(周りの人をどうやって守れる?)
これでどうやったら、私達は倒れた人も含めてみんなを守れる?
(完全体2体の全力の必殺技でダメージが入ってる様子は……ない)
クレシェモン達は私達を必死に守ってくれてるけど、化け物は少しだけふらつくだけでダメージが目に見える形で減っている様子はなかった。
(『D-3』での特別な進化を信じる? そんな低い可能性を信じられるほど、私は能天気じゃない)
ルビーちゃんやアクアくんじゃあるまいし、都合よくそんなことは起きない。起きないと思ってしまっている。なら、仲間に連絡するのはどうだ?
(『カミシロ』にいるアクアくん達に連絡? 今更間に合わないっ!!!)
そんなことは言わなくてもわかってる。わかってるからこそ、どうすればいい? ……私達よりも強いあの2人に全部任せるのは……どうだ?
(あっちの2人は……、だめっ、……他の化け物達を倒すのに手一杯で、こっちの助けを呼べるだけの余裕はないっ!!!)
あの2人の方が私達よりも遥かにたくさんの化け物達に襲われている。こんな状況で、こんな状況で助けてくれるわけなんて────、なら、私はどうすれば、どうすればいい────、
(────ッ)
「フレアモン、クレシェモン」
「どうした、あかね?」/「あかね、これからどうするの?」
これから私は『最悪』なことをする。
「
「「────ッ、わかったっ!?」」
…………させて、しまった。
「────黒川あかね、いったいどういうことよっ!?」
かなちゃん。
「かなちゃん、私達の力じゃあの化け物達に……ううん、化け物1匹倒すことはできないっ! だから、巻き込まれた人達を見捨てて彼らが倒し切るまで逃げるんだよっ!!!」
ごめん。
「黒川あかねっ、……子供が、子供が襲われてるのよっ!? 私達よりも歳下の……小学生にもなってないような子供がっ!!!」
ごめん、なさい。
「────ッ、今は逃げて態勢を立て直すのっ! シキさんに伝えて『カミシロ』にも連絡して……、かなちゃん、駄々をこねるのはやめてっ!!!」
ごめん、ごめん……それだけはできないよ。
「フレアモン、戦いなさいっ! 戦えっ、戦えって言ってんのよっ!!! 何逃げてんのよっ!!!」
「カナ、ごめん……、オレはあの子より……、カナの命の方が大事なんだッ!!!」
今は、今は逃げておかないと、本当に『終わってしまう』。
「……あかね」
ごめんね。
「クレシェモン……、ごめんね。こんな辛いことをさせちゃって」
ごめんなさい。
「ううん、あかねは正しいことをしたの。だから、間違ってないの」
肯定してほしいわけじゃないの。
許されたいわけじゃないの。
「かなちゃん」
────パンッ!
「私はあんたが今日やったこと許さないから」
痛い、痛いな……、苦しい。こんなに苦しいのは初めてだ。
「許さなくていいよ。私達は今すぐここから逃げ回って、解決するのを────
解決しないと、
────『ニュルンッ』!
「────ッ、黒川あかねぇぇっっ!!!」
────ドンッ!
……かなちゃん?
蛹のような姿をした成熟期デジモン。成長期のケラモンが、より強いデジモンに進化するために一旦蛹のような状態になり、エネルギーを温存している。そのため、いっさいの移動はできなくなるが、硬い外皮に守られ、背部から伸びる触手で敵を攻撃できる。場合によっては成熟期にならずに完全体へ進化できるが、クリサリモンに進化したほうがより強い完全体へ進化することができる。必殺技は背部から伸びる触手で相手の構成データを破壊する『データクラッシャー』。
体が柔軟で、しなやかな動きで敵を討つ魔人型デジモン。流麗な戦闘を得意とし、月の光を受けるとその力は倍増すると言われている。必殺技は、舞うようなステップで敵を幻惑し、間合いを詰め、両手に持った武器“ノワ・ルーナ(羅:新月)”を使った斬撃『ルナティックダンス』。また、“ノワ・ルーナ”は1つに組み合わせることでボウガンのような形態に変化する。この状態から氷の矢を放つ『アイスアーチェリー』と、闇エネルギーの矢を放つ『ダークアーチェリー』の2つの技を繰り出すことができる。
威風堂々としたたてがみとその存在感により一見怖そうだが、仲間の為にはどんな困難にも立ち向かう心の強さを持った獣人型デジモン。必殺技は、拳に獅子の闘気と火炎を集中させて、獅子を象ったエネルギー波を放つ『紅蓮獣王波(ぐれんじゅうおうは)』と、炎をまとわせた拳と蹴りを、高速連続で敵に叩き込む格闘乱舞『紅・獅子之舞(くれない・ししのまい)』。また、全てを燃やす火炎によって浄化力を込めた衝撃波を、咆哮と共に口部から放ち、敵をデータ分解させる『清々之咆哮(せいせいのほうこう)』。
巨大なサボテンの姿をした植物型デジモン。体内に栄養素データを保存することができ、何も無い砂漠地帯でもしばらくは生きていくことができる。その表情からも見てとれるように、普段は何を考えているか全く分からず、1日中ボーッとしていることがほとんど。しかし、ひとたびトゲモンを怒らせるとその形相が一変し、暴れ出して手が付けられなくなる。必殺技は腕先のトゲを更に硬質化させてバンバン殴る『チクチクバンバン』。
筋肉量を調べる体組成計のデータで進化したデジモン。好戦的な性格で、異常に発達した上半身の筋肉から生み出されるパワーは成熟期デジモンの中でもトップクラスだ。そして巨体ながら瞬発力も非常に高く、豪快なパワーとスピードで敵を圧倒する。食事と睡眠の時以外は常にトレーニングを続ける努力家。
必殺技は電気を纏った拳で敵を吹き飛ばす『エレクトリカルフィスト』。近づいてこない相手にはツノに溜め込んだ電気エネルギーを放出する雷撃『サンダードレッド』で対応する。
2017/5/27 PM18:19
電脳世界から飛び出し、出口になった暗くなったパソコンの画面を鏡代わりに自分の顔を確認する。
(髪は崩れてないか、服に埃はついてないか、表情は笑顔で……よしっ!)
長い長い階段を登り、カランカランとドアを開ける。
そこにはルーズリーフの束を片手に、喫茶店の椅子に座っているマナトくん。
(まだ、1週間ぐらいしか会ってなかったけど、ひさしぶりに会ったようなそんなーーーー)
「……時間よりだいぶ早いけど、今の居候先は大丈夫かな?」
時間は18時30分、指定された時間より30分早く到着した私にマナトくんは心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫、コネクトジャンプでこっちに来たから、杏子さん達にはバレてないよ」
嬉しくて思わず食い気味にそう話してしまい、少しだけ顔が赤くなった。だけど、
「……そっか」
マナトくんは安心したような顔をして、ルーズリーフを机に置いて、椅子の後ろにあるバッグから長い長い布みたいなものを……『布』?
「じゃあ、まずは目隠しをしてくれ。デジヴァイスもポーチ中にしまって……ああ、一応この布でぐるぐる巻きにして、デジモン達にも外の様子を見せないようにしてくれ」
私の目隠し用のものとデジヴァイス型のゴーグル用の2枚の布を渡される。色は両方とも黒でどうしても情報を知られたくないのか、私の視覚用の布はともかく、デジヴァイスの方には触れただけで特殊な糸で作られてる……感じがした。
「……なんで、そんなことをするの?」
「『カミシロ』……いや、正直に言おう。『カミシロ』にすら話していない『私』個人の秘密の場所に行こうと思っている」
(『私』……って言った。)
彼は普段は『俺』と話すのに対して、彼なりの特殊な話をしなくちゃいけなくなった時、『私』という一人称を使う。
(たぶん、踏み込んで聞いちゃ駄目なことだ)
杏子さんから教わった。
知りたいことがある場合、もし目の前に親しい相手がいて、相手が秘密にしてることを知りたいときは、相手から話してくれるのを待つのが『最善』だと……、特に無闇に聞いて回るよりも、相手の信頼を勝ち取った方が有利に働く場合が多いってことも……、
「……秘密の場所?」
だから、『
「俺の部下を含めて片手で足りる人数しか教えていない……厳重に秘密にしてある『特殊』な空間だ」
「……そこで何をするの?」
「修行に最適なんだよ。特にお前みたいな『特別』な相手には……」
「……これでいい?」
マナトくんの話を話半分に聞いているふりをしながら、言う通りデジヴァイスを完全に布で覆い隠して、自分の目に目隠しを装着した。
「じゃあ、いこうか」
「……わかった」
言われるままに手を引かれてーーーー、
「……っ、ここは?」
(嘘でしょ、まだ歩き始めてから10歩も歩いてないっ!?)
喫茶店の中にいたはずが、目の前にあったのは木々が生い茂る山の中で、私が立っているのは広場というか、キャンプ場みたいな場所……、特に、私の背後には何人も泊まれるようなコテージが佇んでいる。
(ーーーーマナトはいったいこれをどうや、)
「
マナトくんに突然そう言われる。
「……えっ、でもっ!?」
ここは『EDEN』でも、マヨヒーーーー、デジタルシフト内でもないそんな場所のように感じた。だからデジモンなんて当然出せないとーーーー、
「いいから」
そう言われた途端、布が巻いてある
「ーーーーアミッ!?」
「……ここは?」
「アミ……、大丈夫ですかっ!?」
「……うそ?」
ヘルガルモン、ヒシャリュウモン、ライジルドモン……間違いなく、私達のデジモン達だ。
(でも、ここはデジタルシフトみたいな変な空間じゃない)
突然デジヴァイスから私の反応を感じ取れなくなって思わず出てきてしまったような雰囲気の3体だけど、周りの景色の異様さに気がついたのか困惑している。
「ここは……、アミは父さんに会ったことはあるかな?」
そんな中、マナトくんが何かを取り出しながら私に声をかけてきた……って、……父さん?
お父さん?
マナトくんの……、苗字ってたしか……、そう、『末堂』……、『末堂マナト』って名前だったはずだ。
そして、その人物の名前を思い浮かべると……、
「……あっ!?」
「会ったことがあるみたいだね」
『末堂アケミ』。
似ても似つかない痩せ気味の科学者の名前を思い出した。
(えっ、うそ……あの人と家族だったのっ!?)
あの変なおじさんがマナトくんの父親? ……まじかーっ!?
「ここは……、随分と様相が違うが、君達で言うところの『デジタルシフト』に近い空間だ」
ーーーーッ、ってことは、デジタルシフト内に私達はいるってことだと思っていい。
「……だから、オレ達が実体化できたというわけなのだな」
「……アミが言ってた修行してくれる人? 本当にこいつは強いのかよ?」
「我らの修行相手になるとは思えーーーー、」
ーーーーそのときだった。
「「「ーーーーッッ!?」」」
「……っ、すごい気配っ!?」
背後からうっすら……ううん、違う。
「……
『圧倒的な強さを持つデジモン』が立っていることに気がついた。
「……お前はっ!?」
ヘルガルモンがそのデジモンに向けてーーーー、いや、彼らが『思いっきり後ろへと飛んだ』。
(……まさかっ!?)
ヘルガルモンが森の中へ、ヒシャリュウモンが遥か上空に、ライジルドモンは私の目の前に……、それぞれがそれぞれ、自分の戦い方を貫き通せる場所へと移動したんだと思う。
(……それぐらい、目の前のデジモンは強いっ!?)
獣……、ううん、ライオンが人間になったようなその姿から、『レオモン』というデジモンを思い出した。しかし、服装が……古き良き不良のようなボロボロの学ランを着ている。
(そして、ヘルガルモンの様子から見て、間違いなくーーーー)
『究極体』
ユーゴのムゲンドラモンやフェイのタイガーヴェスパモン、ジミィKENのボルトモンと同等の力を持つデジモン。
「俺のデジモンの中で『2番目』に強いデジモン……、バンチョーレオモンの『シン』だ。アミのデジモン達を鍛えるつもりで連れてきた」
「どーぞ、よろしくっす」
私達がまだ辿り着いていない強さを持ったデジモンが目の前にいる。
(マナトくん、すごい)
彼は今、『2番目』と言った。
ユーゴのムゲンドラモンにも引けを取らない強さを持っている目の前デジモンより強いデジモンが存在してるのだ。
(ここに来てよかった)
私達はまだ強くなれる……、そう確信したそのときだった。
「……シン、そいつらを連れて行け。軽く手解きしてやれ」
マナトくんの『低い』声が聞こえてきた。
「りょーかいっすっ! ほら、着いてこい」
「「ーーーーはなッ、……せえ?」」
ーーーーは?
「ーーーーッ!?」
「お前もだ」
「オレはっ、アミの護衛がぁぁああああああーーーーっっ!?」
いつのまにか、森の中にいたヘルガルモンと遥か上空にへと消えていたヒシャリュウモンが捕まって、ライジルドモンが連れていかれた。
「……ヘルガルモン達があんな簡単に引っ張られてる」
なんか、すごい……ただ、その言葉しか出なかった。
「……あれはたぶん成長期からやり直しだな。明らかにレベルが足りてない」
ヘルガルモン達も強くーーーー、
「ーーーーッ!?」
(マナトくん、今なんて言ったっ!?)
『あれはたぶん成長期からやり直しだな。明らかにレベルが足りてない』
(……しかも、成長期からやり直しって? いったいどんな修行をすれば、デジモンを退化させることができるの?)
思わず背筋が凍った。
ヘルガルモンとヒシャリュウモン、ライジルドモンの修行が気になってついて行こうと一歩踏み出した瞬間に、
「……じゃあ、こっちもやろうか」
「マナトくーーーー、ーーーーうわっぷっ!?」
マナトくんから『変な機械』を投げ渡される。
(……これは?)
頭部を覆い隠せるようなヘッドギア……、ううん、違う。これはヘッドギア型のデジヴァイスだ。
「とりあえず『それ』被って」
「……マナトくん、これって」
灰色のヘッドギア型デジヴァイスのコードの先には、コテージに横付けされたトラックが駐車されていた。そして、その荷台には巨大なパソコンの本体のようなものにコードが繋がってるように見える。
「デジモン達は
「……最低限……って、3日っ!?」
その機械を弄りながら、マナトくんは私のデジモン達の修行について話してーーーー、3日? 3日ぁっ!?
(3日って、あの3日だよね?)
時間は夜の7時で、1日1時間ぐらい手ほどきを受けるだけのつもりだったのに、3日も拘束されるのっ!?
「アミ……、君にはその間にデジモンの知識と状況判断……、それと戦闘時の咄嗟の指揮能力の基礎を……って、どうかしたのかな? そんな顔をして」
「『そんな顔をして』……じゃないっ!? 1日どころか3日なんて……、杏子さんに怪しまれるどころか、事件になっちゃうよっ!?」
事件になる。
絶対に事件になるって……、ううん、むしろ、杏子さんよりも、毎晩お母さんに連絡してるから、そっちの方から警察に連絡が行くっ!?
ヤバイ、何がヤバイってーーーー、
「……あ゛ぁ……そっか、ここの説明してなかったっけ、……とりあえずデジヴァイスを見てくれ」
「……デジヴァイスを?」
マナトくんは私のデジヴァイスを指さして、画面を見るように言った。私はマナトくんの言うとおりデジヴァイスを開いーーーー、
「ーーーーッッ!?」
時計の機能の針……、それも、1番細い針が見たこともないぐらいゆっくり動いてる。
「
その言葉にマナトくんの方を私は向いた。
「現実では1時間経つ間に、ここは10日から2週間ほど時間が流れる。それなら問題はないはずだ」
「1時間が10日から2週間?」
「衣食住はこちらで揃える。修行に必要なものや君のほしいものは言ってくれ。こちらで可能な限り準備をしよう」
ただ、ただボーッとその言葉を聞く。聞くしかない。
(もしかしたら、……私はとんでもない人に頼んでしまったのかもしれない)
そう思うことしかできなかった。
「さぁ、始めようか?」
マナトくんの瞳には、ヘルガルモン達と同じ運命を辿る私の姿が映っていた。