まあいいです、それでは本編スタート!!!
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俺の名前は『明石タギル』。
ここは『デジクォーツ』。俺達人間が住む世界のすぐ近くにあるデジモン達が住む不思議な世界。そんな世界で俺はデジモンハンターとして毎日デジモンと戦う日々『だった』。
そう、『だった』……今の俺は、ハンターでもスーパースターでもない普通の中学生だ。
そんな不思議な毎日は突然終わりを告げた。
今思えば、『彼』と出会ったのが、不思議な毎日の終わりの始まりだったのだろう。
光のように突然現れて、嵐のように消えていったあいつ。
これは、その『不思議な毎日を終わらす少年』と初めて出会った時の話である。
茹だるような暑い夏の日。
『金色のクワガタムシ』……メタリフェルクワガーモンを追って、俺達は奇妙な化け物と戦い俺は……俺達は勝利した。
(……あれは、なんだったんだろう?)
新たな進化? を手に入れはしたが、疑問は尽きない。
メタリフェルクワガーモンのデータを食い尽くした化け物と彼を化け物に捧げたハンター。
突然助けてくれた謎の少年達。
新しく手に入れた『アレスタードラモン:スペリオルモード』への進化方法。
謎が謎を呼び、俺の頭を悩ませている。
(こんなんじゃダメだっ!!!)
「行くぞ、ガムドラモン!!!」
迷いを振り切るように俺は走り出す。
「待てよ、タギルッ!!!」
その背後をついてくる相棒のガムドラモン。
「なんだよ、ガムドラモン。早くデジモンを見つけて、この間進化した『アレスタードラモン:スペリオルモード』を試すんだろ!!!」
「……ぇ、うえ、上を見ろっ!!!」
……上?
「うわぁああああ────っ!!!」
「……へ?」
空から、女の子が……っ!?
────ズドンッ!!!
そんな大きな音が鳴った。そして、目の前が真っ暗になった。
「……で?」
俺の頭には大きなたんこぶができている。
「あはは……申し訳ない。まさか、『二回』もこんなことが起こるとは思ってなかったんだ」
少女は地面に正座して、謝っている。
「…………」
反省の色が見えない……というか、
(大丈夫か、タギル?)
(……テて、ガムドラモン…………こいつ『二回も』って言わなかったか?)
(前にもやらかしてるみたいだな)
前にやらかして、俺にもやるなんて……反省してないんじゃないか?
「そんな顔するなよ。悪かったって……俺も落ちたくて落ちたわけじゃない」
……怪しい。
真面目そうにそう言っているが、デジクォーツで『あんなふう』に空から落ちてくる人物を見たことがない。
「なんでわかってくれないのかな」
そう言いながら少女は足のポーチを開いて、変な形のクロスローダーを…………ん?
「なんだ、それ?」
「クロスローダーじゃないのか?」
「……ああ、これ? 『アプリドライブ』って言うんだよ」
少女は『アプリドライブ』? を顔の近くへと持ってきて、可愛らしく笑って見せる。
(クロスローダーじゃないのか?)
……つか、表情が可愛いなっ!?
「アプリドライブだぁ? なに訳のわかんねえこと言ってやがる! それはどう見たって、クロスローダーじゃねぇのかよっ!?」
ガムドラモンが
(その通りだ、ガムドラモン!!!)
形は違うが、デジモンに関係する変な道具は間違いなくクロスローダーだっ! 時計屋の爺さんからもらったんだろ!!!
そう、思いながら少女のことを見ていると、
「……クロスローダー?」
驚いたようにこちらを見つめて、固まった。
「……ん?」
……そして、
「ん」
なにかに気がついたように、俺の顔に……って!?
「ん、ん!」
「────っ!?」
(顔が、少女の顔が近いっ!? ……てかっ、初対面の相手の顔を両手でいきなり掴むなよっ!?)
俺の顔に少女の息が当たる。胸が……顔が熱くなるっ!?
「んん、んっ!!!」
「タギルから手を離せっ!!!」
その言葉とともに、大きな音が鳴って少女の手が俺の顔から離れる。
「…………」
「大丈夫か、タギル?」
どうやらガムドラモンが俺と少女の間に尻尾を振り下ろし、俺と少女に距離を空けさせたみたいだ。
(うん、助かったのはいいんだけど……なんだろう、この胸のモヤモヤは?)
もったいないような、ありがたいような変な気持ちでガムドラモンと少女を見てしまった。
「……ありがとう、ガムドラモン」
そんな思いがあるからか、俺の感謝の言葉はどこかそっけなかった。
「おまえ、本当に大丈夫か?」
これはいつもの『頭が大丈夫か?』という意味の大丈夫かのほうだな。
「…………」
それは、俺もそう思う。
「……ここは、そうか。そう言うことか!?」
なにかに気がついたように叫ぶ少女。
「さっきからなんなんだよ、おまえっ!?」
繰り返される奇行から、上擦ったような、恐怖するような声でガムドラモンは少女を睨みつける。
「嫌な縁で繋がった……ううん、そんなことはない。繋がったのは悪い縁だけど、もう二度と会えないと思っていた『あいつら』にまた会えるんだから、これは良縁なのかもしれないな」
それでも少女の視界には俺達の姿は……いや、ガムドラモンの姿は映ってすらいなかった。
「……なにか、わかったのか?」
だから、あえて少女の考えに沿うように質問をしてみることにした。
(……頼む、こっちに反応してくれっ!?)
「なんでもない……あっ、自己紹介がまだだったよな」
少女には似合わない中性的な低めのソプラノボイスで、こちらに反応する少女。
(よかったっ、反応してくれたっ!?)
どうやら自己紹介もしてくれるらしい。
(このわけわかんねえ状況がなんとかなるならどうでもいい。俺たちにもわかりやすく────
「俺の名前は『末堂マナト』。別の世界からやってきたハンターだ」
(……は?)
少女の口から出た言葉は衝撃的なものだった。
「末堂?」
ガムドラモンが苗字を言うがそこじゃない。
「マナトぉ?」
俺は問題である名前を繰り返して言う。
「「……?」」
そして、俺とガムドラモンは少女お互いの顔を見合わせて、
「「お前、男だったのかよっ!?」」
「────そこからっ!?」
俺達の驚愕の叫び声と少年の声が重なり合った瞬間だった。
「なんで末堂は空から落ちてきたんだ?」
ああ、なんで男に胸を高ならせてたんだろう……そう思いながら、自身の怪我の原因について聞く。
「話せば長いんだけどさ」
案外話せる奴で、奇行も周囲の状況判断ができていなかったから、焦って情報収集をしてしまい、そんなことを行なってしまったらしい……だけど、そんな奴がなんで空から落ちてきたんだ?
「悪い奴と戦って」
「「うん」」
悪い奴がいたんだよな。
「勝ったはいいんだけど」
「「……勝ったはいいんだけど?」」
だいぶ省いたな。
「俺の相棒が必殺技でこじ開けた時空の穴に道連れにされたんだ」
「道連れにされた!?」/「時空の穴!?」
ものすっごいパワーワードが出たんだけど大丈夫なのか!?
「こじ開けたのはよかったんだけど、『俺』が引き摺り込まれた時は焦ったよなぁ。なんとか相棒が助けてくれたんだけどさ。本当に死にかけたよ」
簡単に言ってるけどよぉ?
「どうやって生き残ったんだよっ!?」
そんな無茶苦茶な話信じられるわけねぇだろうがっ!!!
「……ん? 俺の相棒は時空間移動に特化してる奴だからさ。時空の狭間の中に入って、ひょいって捕まえて終わりだ……でも、その手からすっぽ抜けるとは思ってなくてさ。落ちた先が……」
「タギルの上だったってわけか」
ガムドラモンが言った言葉にマナトが頷く。
(……ハァ)
心の中で大きなため息をついた。
(俺はそんなことで怪我をしたのかよ)
時空の穴……だとか、敵に引き摺り込まれた……だとか、かっこいい戦闘の末、この世界に落ちてきたのだと思っていたら……そんな、手から滑り落ちた結果、怪我したなんて……
(……はぁ)
もう一度、大きなため息が出た。
「……というか、相棒はどこにいんだよ?」
「相棒は今は元の世界の帰り道を探してるところさ……代わりに……」
そう言いながらマナトはアプリドライブを弄り始めると……、
「アプリドライブが光った!?」
アプリドライブが光り輝き、
「────ご主人様っ!!!」
中から白い蛇のような狐のデジモンが現れた………… てか、
「「ご主人様ぁっ!?」」
「これは、前にも見た気がする」
「……で、俺達はその化け物を倒したってわけさ!」
今度は俺達の番、と言うことで、今日の目的とその経緯について、話を聞かれている。
「…………」
マナトは静かに聞いていて、
「……すごいですね、ご主人様っ!!!」
クダモンは俺達の行動を称賛し、
「んなもん、俺とタギルだからなっ、とうっぜんだろっ!!!」
ガムドラモンは胸を張って自慢する。それを見て、俺はこの前の戦いのことを思い出していた。
(いつでもあの姿に慣れれば、タイキさん達にもっと近づくことができるのに)
タイキさんとキリハさん、ネネさん……あの三人の背中は未だ遠く果てしない。その背を追う為に俺は、俺達はデジクォーツにやってきたのだ。
「……タギル」
「……なんだ?」
さっきまで黙って聞いていたマナトが俺に声をかけてきた。
「それで、その『アレスタードラモン:スペリオルモード』ってのには、進化できるのか?」
(────っ!?)
俺の心情を読み取るように聞かれたその言葉に、さっきとは別の意味で胸が大きく鳴り響いた。
「……それが」
「進化方法がさっぱりわからねぇんだよ」
俺とガムドラモンは顔を見合わせて、『わからない』……と、そう言った。
「……わからない」
「毎日頑張ってんのによぉ……どう進化すればいいのか、さっぱりわかんねぇんだよ」
ここ最近、毎日のように、俺達はデジクォーツに来て、あの『進化』に至る為の修行に取り組んでいる。しかし、全然進化の糸口すら掴めていなかった。
「当時の状況は?」
マナトにそう聞かれ、……当時のことを少し思い出す。
「とにかく強い化け物……そいつのビームに俺が当たりそうになって、アレスタードラモンが庇ってくれて……それで……」
岩の化け物からのビームから、アレスタードラモンが守ってくれた時……
「変な奴らがこう言ったんだ」
『跳ね除けろっ、お前達の力はそんなモンじゃない!!!』
『パートナーとの絆を思い出せっ!!!』
「それで、俺はガムドラモンとの絆を」/「タギルとの絆を思い出して、力を込めたら」
「……進化してた、と」
そう、マナトが言った。
「そう、そんな感じだ」
マナトの言葉に同意すると同時に、あの時の光景が瞼の裏に浮かんでくる。
「いやあ、あのときはよかったよなぁ。アレスタードラモンと思いが一致して、さらに強くなって、俺達最強になったって思ったんだ!!!」
「そうだぜ、タギル! あれが、あれこそが本当の俺の力なんだっ! タギルとの絆で辿り着いた本当の進化。早くモノにしたいぜっ!!!」
ガムドラモンと意見が完全に一致する。
(そうだよ、そうやってあの時進化したんだ)
「ガムドラモン、おまえもそう思うのか!?」
「あったりまえだろう!!!」
ガシッと、二人で肩を組み合った。
「「やっぱり俺達は最高のパートナーだぜ!!!」」
そうやっていると、
「…………」
「……ご主人様?」
マナトの無言の視線を感じる。
「あっ、えっと……わりぃっ!!!」
ガムドラモンとバカやってて、マナトのことを完全に意識の外においやってた。
「タギル、仲間にはどうやって進化するのか聞かなかったのか?」
マナトはそんなことを気にしていないように、俺に質問をしてくる。
(俺の謝罪はっ!? ……って、そうじゃない)
マナトの言葉から、『アレイスタードラモン:スペリオルモード』に進化できなくて困っていた時に、ユウやタイキさんに話を聞いた時のことを思い出した。
「ユウはわからねぇって言ってたし、タイキさんは……」
……たしか、
「女二人にケツ追いかけ回されて、逃げ回ってるな」
(そうだ思い出したっ!?)
そのときの話を聞いて、アカリさんやネネさんがやってきたんだった。
「女二人に?」
状況が呑み込めてないマナト。
(思い出したら、腹立ってきた!!!)
「そうなんだよっ、可愛い幼馴染にアイドルで美人なユウの姉に追い回されて、困った顔しやがって……いくら尊敬してる先輩だからって、やっていいことと悪いことがあるだろっ!!!」
嫉妬でメラメラと炎が燃える。
タイキさんほどのスーパースターであれば、モテモテなのは明白……むしろ、そうじゃないと納得できないって、俺だったら怒る。そして、現実はタイキさんは女の子からモテモテで、とっても憧れてるのは間違い無いのだが……、
「いいなぁっ、あんなふうにモテてぇなぁっ!!!」
嫉妬しないかと言えば嘘になるので、その場でどうしようもない思いを叫んでしまった。
(なんなら、今、モテ期が来たのかと思ったんだよ!!!)
目の前にいるのは男だったけどな!!!
「…………」
「…………」
「…………」
三人の視線が冷たいことに気がついた。
「……まっ、スーパースターになればモテるようになるだろ……そんなことより、進化だ、進化っ……別の世界では、どうやって進化するんだ?」
(話を逸らした)
(逸らしましたわ)
(タギルぅ)
うるせいやいっ!!!
「どうだ、クダモン?」
「慣れ、……としか言えないですね。ご主人様はどう思いますか?」
「俺もそう思う……ガムドラモン、進化した時の感覚を覚えているか?」
「うーん」
「…………」
なんか、話についていけてない気がする。
(これってもしかして、蚊帳の外にされてる?)
危機感を感じているが、バカだからなにも言えねぇ。
「……必死だったから、思い出せねぇ。たしか『
「……きんこじ?」
クダモンが首を捻った……うん、ここだな。
「尻尾にあるこれだよ」
ガムドラモンの尻尾の先にあるハンマーの付け根についている金色の輪を指をさす。
「……金色の輪────これって!?」
「クダモン」
「にっくき、あのクソアマの輪ではない────
「────クダモン!!!」
「────ハイッ!?」
クダモンが突然大声を出したと思ったら、マナトがクダモンに向けて怒鳴った。
「駄目だよ。ここは、あそことは違う……彼にこれをつけたのも違う個体だから、勝手に怒らない」
「……ごめんない」
(……違う個体?)
(別の世界にもサンゾモンがいるのか?)
「わかったならいいさ……で、どうやって光らすかが問題だってことだよね」
「……とりあえず」
アプリドライブが起動し、クダモンが光り輝いた。
『クダモン:超進化』
光が集まるにつれて、超進化したクダモンの姿が現れていく。
紅い角。
黒く染まった蹄。
金色の尻尾に、一対の白い羽。
全身が緑の鱗と金の装飾で煌めき、神聖な双眼がこちらを睨みつける。
「『
そこに現れたのは1体の伝説上の生き物であった。
「さあ、ここで
チィリンモンはマナトに寄り添い、この空き地を白く照らしていた。
「はぁ、だめだぁ!!!」/「くそっ、負けたっ!!!」
チィリンモンの強力な一撃によって、アレスタードラモンはガムドラモンに退化し、俺達は地面に倒れ伏した。
「……当時の再現をしてもだめ、か」
マナトのほうは残念そうにこちらを見ていた。
「チィリンモン、どうやったらそんなに強くなれんだよっ!?」
「命を賭けた戦闘経験の差……ですわね。咄嗟の判断にもっと『残虐性』を持たせた方が強く慣れますわよ」
ガムドラモンとチィリンモンはさっきの試合の反省会をしてるみたいだ。
「……残虐性、か。悪い奴の真似ってのは、やりたくないんだけどなぁ」
その話を聞いてると、ふとそんなことが口から出てしまった。
「外道な戦い方ができれば戦闘における手段が一つ増えることになります。強くなりたいのならば、選べる手段が増えることは一歩成長できるということ……それに」
……それに?
「
……は?
「────っ!?」/「なんだとぉっ!?」
チィリンモンが言った言葉が、俺の体に再び立ち上がらせる。
「俺達が強くないって言うのかよっ!!!」
納得できない。
俺達は今までどんな強い敵にだって立ち向かってきたんだ。
メタルティラノモンをはじめ、スーパースターモンにグランドロコモン、ピノッキモンが操る
そんな俺達が弱いわけがない。
「実力は正直言って『そこそこ』、ですわね」
「そこそこだと!?」
「自身の最強にすら辿り着けてない時点で、二流にしか成れませんわ」
ただ、チィリンモンの評価は厳しかった。
「────くっそぉ、……タギルッ、もう一回だっ!!!」
「……そこまで言われちゃ俺も黙っておけねぇ。もう一度やってやるっ!!!」
ガムドラモンを超進化させて、アレスタードラモンに進化させる。
「…………また、たたかうのか?」
マナトのそんな声が聞こえてくるが、俺達は今度こそ『アレスタードラモン:スペリオルモード』をモノにする為、再びチィリンモンに立ち向かうのだった。
「くっそぉっ!!!」/「負けたっ!!!」
今度は5分も持たなかった。
「…………」
あんなことを言われて、見返そうとしたのに、なにもできずに負けた。
(本当に俺達って、まだまだなんだな)
明確な実力差を見せつけられて、心が折れた。
「なんで負けるっ!?」
ガムドラモンは元気でいいな。俺はまだ立てねえよ。
「昨日の今日どころか、体力が回復する前にもう一度戦って……根性だけでは勝てないよ」
────グサッ!!!
マナトの言葉が大きく胸に刺さった。
「……くくく、弱いのは当然ですわね」
「────なんだとぉっ!!!」
「チィリンモンも煽らない」
「────しゅん」
ほんと、チィリンモンの言う通りだ。俺は……俺達はまだ弱い。
「…………」
本当に心が折れた。
(このままで、本当に辿り着けるのか?)
目指していた『アレスタードラモン:スペリオルモード』……そこに辿り着くのは、まだまだ遠い世界のような気がしてきた。
(……ん?)
「どうかしたのか?」
倒れている俺をマナトが覗き込んできた。心配してくれてんのか……はぁ、
「さすがに、強くなったって思ってたんだけどなぁ」
「負けたのが、そんなにこたえたのか?」
うん、そうだなぁ。
「タイキさんやシャウトモンならともかく、今日会ったばかりのマナト達に負けるなんて思ってもみなかった……たっく、世界は広いぜ」
世界の広さを叩き込まれました。
「ちなみに、クダモンはまだもう一段階進化を残しています」
「……、────っ!?」
衝撃の言葉が耳に入ってくる。
「…………ほんっと、世界は広いぜ」
世界は本当に広かった。
「もう一回だ!!!」/「なんどやってもおんなじですよ」
ガムドラモンはそう言って、チィリンモンにもう一度立ち向かっていく。
「まだ、あの二人戦ってるよ」
さすがに俺はもう疲れたので、こっちで座っているつもりだ。
「…………」
マナトがこちらを見ていた。
「どうかしたのか?」
なにか聞きたいことでもあるんだろうか?
「いや、チィリンモン達が戦ってる間に、タギルの話でも聞かせてくれないか……と思ってな」
「…………」
「だめか?」
マナトは女顔でこちらに上目遣いで聞いてくる。顔が真っ赤に染まるのを────
(いや、だからその顔で……って、そうじゃない)
俺は頭の熱を振り切り、マナトの顔を真正面で見て、
「いいぜっ、俺のスーパースターを目指すハッカー人生の道中を最初から聞かせてやるよ!!!」
俺の目標を宣言するのだった。
「……と、言うわけで俺達は、ストーカーからアイドル『ネネ』を助け出したんだっ!!!」
俺はいつのまにかネネさんとの出会いの話まで話していた。
「……、そっか」
少し、間があった気がする。なにか思うところでもあるのか?
「…………どうかしたのか?」
「なんでもないよ、続きは?」
続きはって……いや、気にしないほうがいいか。マナトは出会った時から変なやつだったし。
「その後にネネさんがタイキさんのストーカーになってたのは、別の話なんだけどさ」
「えっ、ストーカーになったの!?」
「なんでも、『離れ離れになった仲間に頼まれたから』、『ユウが悪いことをしてた時の罪滅ぼしみたいなもの』……って言ってたんだよっ! タイキさんを追いかけてるときはどう考えても、頬を真っ赤に染めてらから惚れてるのが丸わかりだし、言い訳にしか聞こえねぇんだけどさ!!!」
「…………」
「タイキさんもタイキさんだよっ!!!」
「…………」
「あんな美人に惚れられてるくせに、逃げちゃってさ……いつものどっしりと構えた姿勢からは考えられないぐらい逃げ腰なんだよ。しっかりしてほしいよ、まったく!!!」
「……悪いこと、しちゃったかな?」
今まで聞いてるだけだったマナトが小さくポツリとそんなことを言った。
「……なにが?」
「なんでも、……あっ!?」
なんでも……って、なにか見つけたのか俺の後ろにいるなにかを見ている。後ろを振り返ってもなにないのだが……
「どうかしたのか?」
俺はマナトに聞くことにした……すると、
「
「……迎え?」
マナトのその言葉とともに、大きな『骨』の腕が突然現れる。
「────っ!?」
ガムドラモンも気づいたのかこっちにやってきて、俺と骨の腕の間に立って、俺を守るように立ちはだかった。
「クダモン、迎えが来たぞ!!!」
「遅いんですよ!!!」
そう言いながらも、どこか嬉しそうな二人。ああ、そうかこの二人はもう帰るのか。
「ほら、悪口を言わない。『 』、ありがとう。すぐにそっちに……」
「そっか、もう帰るのか」
さっきは口に出さなかった言葉が、つい口から出てしまった。そんな時だった。
「……ちょっと待っててくれ」
「…………?」
マナトが持っていた手提げバッグの中から、一つの色紙を取り出した。
「どうかしたのかよ」
俺に差し出された
「『サイン』、もらっていいかな?」
マナトは笑ってそう言った。
「……サインだぁ、なんだよそれ?」
サインを求められた。やっぱりわけが分からない。
「『未来のスーパースター』達の『一番最初のファン』になっておこうかな……と、思ってさ」
「「────っ!?」」
『未来のスーパースター』
マナトが、俺の!?
『一番最初のファン』
俺よりも強いハンターが、一番のファンに!?
(……でも)
「……こんな俺でいいのか?」
俺は少しだけ……ううん、俺は本当に俺でいいのかと迷っていた。
(俺にはタイキさんみたいな『スーパースター』に見合うだけの実力がない)
マナトとクダモンを相手にして思った。
今の俺達じゃ、圧倒的に実力が足りてないということに……
「なるんだろ、タイキさんみたいなスーパースターに?」
でも、マナトは笑ってそう言ってくれた。
「…………」
ああ、そうだ。
「そうだなっ!!!」
俺はマナトから色紙とサインペンをひったくり、急いでサインを思い浮かべる。
「ああでもない!!! こうでもない!!!」
色々考えていたことがあった。
スーパースターになったらこんなふうなサインをファンに書いてやるんだって、考えていたものがあった……でも、
(思ったように、うまくいかない)
マナトの色紙は一枚だけだ。
素人の書いた変なサインを渡すことなんて、絶対にできない。
(こんなことならちゃんとサインの練習をしていればよかった!!!)
そんなことを思いながら必死になってペンを走らせる……そして、
「────できたっ!!!」
サインが完成した。
『明石タギル』
楷書体で書かれたその文字は、結局教科書やテストに名前を書くようなサインっぽくないこざっぱりしたのになってしまった。
(本当にアレでよかったのか!?)
そんなことを思いながら無言でサインを見つめるマナトを、不安に駆られながらも、逃げたい衝動に駆られながらも、必死になって見つめ続ける。
「…………」
マナトはサインを黙って見続ける。
その姿を見て、恥ずかしい気持ちが込み上げてくる……でも、
「…………」
マナトはこっちを見て微笑んで、
「うん、ありがとう!!!」
サインを喜んでくれた。
「────はぁ!!!」
止まっていた息が吹き返す。
「よかったじゃねえか、タギルッ!!!」
「────ああっ!!!」
バンって叩かれる……振り返るとそこにはガムドラモンがいた。
「ガムドラモンも、いいかな?」
ガムドラモンに色紙を渡すマナト……って、予備があったのかよ!?
「わかったぜ!!!」
そう言ってガムドラモンは……、
────ガン!!!
「────ご主人様っ!?」
「お、おい!?」
色紙に尻尾のハンマーを振り下ろすのだった。
「うん、いいサインだ」
「あったりめぇだろっ!!!」
マナトは喜んでくれてるみたいだけど……、
「喜ばないでくださいっ!? ご主人様、大丈夫ですか!!!」
「────ぐへっ!?」
(そりゃ、怒るよな)
ガムドラモンはクダモンに尻尾で思いっきり頭を叩かれていたのだった。
「大丈夫だよ……それじゃあ」
マナトはそんなふうに笑っていたけど、
「『またな』」
「────ああ、もうっ!? ご主人様っ!!!」
骨の腕に掴まれて、いつのまにかデジクォーツから消えてなくなっていた。
「……嵐のような人だったな」
「でも、楽しかっただろ?」
「────ああっ!!!」
「おーい、タギルっ!」
「タイキさん!?」
「今ここに誰かいたのか?」
「…………」
「…………」
「秘密、です(だぜ)っ!!!」
デジタルワールド創生の頃に誕生した古代デジモンであると言われており、完全体にして究極体と互角の強さを誇ると伝承されている聖獣型デジモン。強大な力を持つデジモンであるが、争いを極端に嫌い、殺生は決して行わないと伝えられている。デジタルワールドに生きるすべてのものを慈しむ慈悲深い性格を持つが、それ故に無益な殺生を行う存在に対しては、手加減なしの制裁を加えることもあるという。必殺技は、上空から一気に急降下し、頭部の角で敵を貫く『疾風天翔剣(しっぷうてんしょうけん)』と、素早い動きで分身を繰り出し相手を撹乱する『迅速の心得(じんそくのこころえ)』。また、チィリンモンがオーラを放ち、ひとたび翼を羽ばたく時、敵をも聖なる道へと導く『改心の波動』が放たれる。
「テト、それでどうだった?」
「あんまりよくない……もうこんなに時間が経ってる」
「時間が経ってる?」
「タイトの世界に比べて6倍も時間が遅い」
「ここで1日過ごせば、あっちでは6日も時間が過ぎてる……ここには長くいられないよ」
「クロスウォーズではそんなことなかっただろ?」
「この世界のおかしいところは、この世界のデジタルワールドはもっと時間が早く過ぎてるんだ」
「デジタルワールドが?」
「だいたいタイトの世界の8倍かな?」
「……じゃあ、この世界は」
「デジタルワールドとは48倍の時差があるみたい」
「最初に行ったデジタルワールドやノルンの世界がタイトの世界と同じ時間が流れていたから気が付かなかったけど、この世界に居続けると浦島太郎みたいになる」
「……」
「タイト?」
「五日だ、五日待とう」
「なにか考えがあるの?」
「もうすぐ異変が起きる」
「タイト……わかったよ」
「お前らもそれでいいか?」
「はいっす」
「了解ですぞ」
「わかりましたわ!!!」
「テト、迷惑をかける」
「タイトだから別にいいよ」