白の玉座に座る白ゴスの少女……イグドラシルは静かにこちらを見つめる。
「『不穏分子』の皆様、私の世界へようこそ……と言いたいところですが、もう一体こちらへと呼びましょう」
(……不穏分子?)
彼女はそう意味深なことを言うとパンと手を鳴らした。そうすると、シールズドラモン達がピンク色の何かをこちらへと投げてきた。
「……ふべっ!?」
投げられたのはチューモンだった。チューモンは俺達の目の前の床に叩きつけられる。
「「チューモン……ッ!?」」
チューモンに近づこうとすると、ザンバモンは刀で道を塞いだ。
「……何するん────ぐえっ!!!」
「────クロアグモンッ!?」
ザンバモンにくってかかろうとしたクロアグモンが、鞘で思いっきり殴られる。クロアグモンに近づこうとしたとき刀で道を塞がれてしまう。
「イグドラシル様の御前だ、静かにしろ、そして動くな」
奴はクロアグモンとチューモンへと近づこうとする俺の首へと刀を向けて、そう脅す。俺は静かに頷き、頭をもう一度下げた。
「いいのです、ザンバモン。刀を鞘に戻しなさい」
「────ハッ」
イグドラシルの一言で俺の首へと、向けられる刀が鞘の中に収まる。俺はイグドラシルへの視線を向けて、動くことはしない。そもそも、神に許可されていないことを行ってはいけない。
「少年……貴方にパートナーへと近づくことを許しましょう」
そうイグドラシルは微笑みながら言う。
「────わかりました」
すぐに倒れている二体へと近づき、助け起こす。
「……ごめん、タイト。チューモンに近づくことすら出来なかった」
「タイトっち、すまねえ。オイラも何も出来なくて…………」
ザンバモンの攻撃を受けたクロアグモンも、連れてこられたチューモンも、体の至る所に擦り傷があった。たぶん、前の戦いの傷が癒えていないんだろう。
「────いや、いい…………それよりも、その体を────っ!?」
そう言って、ポケットの中に入れてあるはずのデジヴァイスを探す…………が、見つからなかった。デジヴァイスを盗られていたことを思い出した。
「…………悪い、今の俺じゃその怪我を治すことさえできない」
その瞬間、俺の視界の端に白色の何かが飛んでくるのが見えた。それは俺の目の前に、クルクル回って転がってくる。
「────それを使いなさい」
白をベースとして、浅葱色の線が入ったデジヴァイスicだった。イグドラシルは、俺にデジヴァイスicを渡して使えと言った。
「……わかりました」
俺はイグドラシルの言うことを静かに聞いた。何を考えているのかわからないが、俺にとってはそれが今『必要』だと思ったからだ。
「ありがとう、タイト」
「すまねえ、タイトっち」
怪我はそこまで症状は重くないので、すぐに怪我を治すことができた……ただ、
(……彼女が、本当に『彼女』なのか?)
記憶にある少女とは違いすぎて、違和感を感じている。
「ねえ、タイト……彼女のこと何か知ってるの?」
クロアグモンは俺に静かにそう聞いた。俺は静かに頷く。記憶通りかわからないけど、漫画は学生時代に何度も読み返したからなんとなくだけど内容は覚えている。
「────っ!? タイトっち、マジで何か知ってるのか!?」
そう大声でチューモンが言ったとき、イグドラシルがこちらへと視線を向けた。
「そうですか。貴方は私の姿を見て驚きましたが、それが理由ですか…………いいでしょう、私のことを仲間へ説明することを許しましょう。私も興味があります、別の世界から来た貴方達が私のことをどれだけ知っているのかを…………」
そう厳しそうに言う彼女はやはり、記憶の中の少女とは印象が違った。
「…………わかりました」
どのみち今の俺達じゃ、ここにいる全員を倒すことが出来ない。たとえ、今手に持っているデジヴァイスが進化するのに使えたとしてもだ。
……静かに、ゆっくりと前世で読んだ漫画の内容を思い出す。
「貴女様の名前は『美樹原ノルン』。イグドラシルの良心だった存在であり、現在のこの世界のイグドラシル……つまり、デジタルワールドの神です」
イグドラシルに視線を合わせ、静かに返す言葉を待つ。
「どうしたのかしら、さあ話を続けなさい。貴方の知識はそれだけではありませんよね」
これだけで十分だろ……と思いつつも、古い記憶を呼び起こして、最終話を思い出す。
「龍野ツルギと乾ユウにデジモンツインを与え、『調停者』という役割を与えて、イグドラシルと合体した魔王バルバモンと、デジモンを超越したNEOという存在からこの世界を救いました。その後、ビクトリーグレイモンとズィートガルルモンは死亡、龍野ツルギと乾ユウはリアルワールドに戻したと……俺の記憶にあるのはそれだけです」
彼女は少し、顎に手を当てる。
「
そう自己完結したように言うイグドラシル…………少し違う部分ってなんだ? 俺みたいな転生者がいることで何か変化があったのか?
「────ザンバモン、我々の経緯を話してやりなさい」
「────ハッ、イグドラシル様」
イグドラシルが命じ、跪いたザンバモンがそれに応える。少女と武者だが、そこにいるのは物語に出てくる王と騎士のように見えた。
「此奴が話したように、イグドラシル様が世界をお救いして三年……我々の世界は安定していた。デジモン同士の小競り合いはあれど、かつてバルバモンが支配していたような戦乱に満ちたデジタルワールドではなかった」
ザンバモンはイグドラシルの命により、俺の話した後のことが語られはじめる。
「────今から半年程前、デジタルワールドに強い次元の揺れを観測した。それは別世界からやって来た大きな悪意によるものだとイグドラシル様がおっしゃった」
今から半年ほど前……俺達が初めてズィートミレニアモンに進化したときと一致してるな。何か関係があるのか?
「イグドラシル様は急ぎ、龍野ツルギと乾ユウをデジタルワールドに呼び戻した……ただ、かつてのようにこの世界にずっと留まれるというわけでもなく、空いた時間があれば見に来る程度の認識であったが…………半年後に、貴様等がこの世界にやって来た」
……だから、ビクトリーグレイモンとズィートガルルモンがいたのか? だけど、無言で襲ってくるのは漫画で読んだ彼等の様子とかけ離れている。
「かつて世界を揺るがした強烈な悪意の源である貴様等が、この世界入ったことを確認した我々は、龍野ツルギ達の手によって貴様等を捕まえることに成功した……そして、今イグドラシル様の御前に連れてこられた理由はわかるな」
…………そこまで言われれば、流石に犯人の予想はつくさ。少し、溜息が出そうになるが、やってしまったものはしょうがないと思い、正直に話す覚悟を決める。
「────タイト」
心配そうに俺の手を掴むクロアグモン。そんな顔されたら、覚悟が揺らぐだろうが…………
「大丈夫、俺は大丈夫だから」
そう自分に言い聞かせて、俺は前に出る。神なんて碌なモンじゃない。クロアグモンに意識を向けられたら困るんだよ。
「全て俺がやったことです」
「────タイトッ!?」
「────タイトっち!?」
俺は2体に気を取られてしまい、そちらへと目を向ける。
「貴殿等は静かにしろ」
そうザンバモン達に口止めをされて、捕まってしまった。悪いな、これはお前等に目を向けさせないために必要なんだよ。
「────へえ、続けなさい」
少し冷酷な光が彼女の目に宿る。正直に言えば、圧は以前戦ったどんな敵よりも強いし、怖い……だけど、
「俺がここにくる前にいた世界で、デジモンの軍団に仲間を一体殺されました。それに怒り、憎悪し、クロアグモンを暗黒進化させてミレニアモンにして時空を圧縮して相手を閉じ込める技『タイムアンリミテッド』使って攻撃しろと命令しました」
踏み出さないといけないんだ。
「そして、ほとんどのデジモンは死に絶えたのですが、俺達を襲った奴等にトラウマを与え、2度と立ちあがろうと思えなくするためにミレニアモンをさらにズィートミレニアモンに進化させて、一体一体トドメを刺していきました」
わざと、俺が命じたと……そういうことでクロアグモンがやったことの印象をこっちへと向ける。
「許せなかった」
やってやる。
「どうしても許せなかったんだ」
たとえ神であろうと騙してみせる……俺は星野アイの息子だ。
「あいつらは俺達をクランに入れなかっただけじゃない。安心して寝食が取れる環境に雨風がきても凌げる場所があって、デジモン達がゆっくり暮らせる居場所だって持っていたのに……クロアグモンにわけてくれなかったのに……」
憎しみと怒りを声に出せ……俺自身があのときに思った全てを言葉に乗せろ。
「俺達からゴールドヌメモンの命まで奪いやがった!!!」
俺の心の黒い星をもっともっと光らせるんだ!!!
「あいつらは自分のデジモンの命をちり紙のように扱ったように、俺の仲間のデジモンの命を簡単に吹き飛ばしたんだ!!!」
本音に怒りの感情を乗せて、奴等の目がこちらに向くようにしろ。
「許せない、許してなるものか!!!」
アイはやったぞ。息子の俺でもやれるはずだ。
「奴等がチリ同然に扱ったように、今度は俺が奴等の存在ごと消してやったんだ」
アイが人々の目に輝く一番星なら、
「爽快だったよっ! 雑魚同然の扱いをしていた俺達を集団で襲って来た奴らが」
俺は他者を引き摺り下ろす闇にでもなってやる。
「死体のようにうずくまって絶望している姿は!!!」
ここで最大の笑顔だ……本気で言っているように感じさせろ!!!
「楽しかった、楽しかったよあの日々は」
本当は大さん達と一緒にいたから会ってはいない……だけど、前世の経験でそれを補うんだ。
「俺が奴等の目の前に現れるたびに怯えたあの目が!!!」
踏み躙られた記憶なんて、もはやどうでもいい。そんなことより、前に進める今の方がずっと大事だ。
「……だから」
そう言葉を続けようとしたとき、
「だから、なんですか?」
少女の声が聞こえた。イグドラシルの顔を見ると、先程と変わらぬままの事務的なまでに感情が見えない。
「熱が入っているところ申し訳ありませんが」
「
────ッ!?
バレた? なんで? 騙せているはず、俺はアイの演技を真似ていたはずなのに? 嘘だ?
「私も初めから貴方の話を聞いていれば気づきませんでしたよ」
……誰かから話を聞いた? 誰だ? 俺の寝ている間にクロアグモンが喋ったのか? いや、あいつはそんなことしない。チューモンはザンバモンが俺をここまで連れて来る道の途中で捕まったからありえない…………なら誰から?
イグドラシルは、ザンバモンのほうへとニコリと笑った。
「
チューモン?
「…………チューモン?」
振り向くとザンバモンの隣へと立ち上がるチューモンの姿があった。その姿を見て、俺はチューモンがイグドラシルの側に立っていたのを感じてしまった。
「…………チューモン、なんで話したんだよ?」
「タイトっちやクロアグモンは、絶対にこうするってわかってたからっすかね」
チューモンが震えながらそう言った。こうするってなんだよ?
「チューモン、なんでタイトを裏切った!? お前の命を救ってくれたのはタイトだったよねっ! なんでなんで、イグドラシルなんかに話しちゃったんだよ!!!」
足に力が入らない。ゆっくりと体が崩れ落ちるのを感じる。
「そういうところが気に入らないっていってるんすよ!!!」
クロアグモンとチューモンがお互いがお互いに向かって怒号をあげる。
「ふざけんなぁ!!!」
「『ベビーフレイム』」
「ふざけてるのは、タイトっちっすよっ!!!」
「『チーズ
小さな火球とチーズの爆弾がぶつかり合う。
「────くっ!!!」
しかし、火球が爆風を飲み込みながらより強力な火炎となってチューモンへと近づいていく。
「『チーズ
「『チーズ
「『チーズ
3回投げつけられるチーズの爆弾によって、ようやく火球がかき消える……が、
「『ベビーフレイム』」
「────ぐえっ!!!」
2度目のベビーフレイムによって、チューモンは火だるまになって吹き飛ばされてしまった。
「もう一回だっ! 『ベビーィ」
クロアグモンが3度目のベビーフレイムをチューモンへと放とうとした時、
────カツン、と大きな音が鳴った。
「そこまで」
イグドラシルは杖を使い大きな音を鳴らした。それによって、クロアグモンの動きが止まった。
「ここは神聖な場所です。戦うなら外でやって来なさい」
「うるさいっ! タイトじゃないやつが僕に命令するなっ!!!」
「『ベビーフレイム』」
その言葉にクロアグモンが激昂し、イグドラシルへと向かって攻撃を仕掛けようとしたとき、
「ザンバモン」
「────ごぇ」
ザンバモンの鞘でクロアグモンが殴られて、強制的に倒れ伏した。
「…………チューモン、なんで?」
クロアグモンがチューモンと戦った理由はわかる。だけど、チューモンがあそこまで俺達に怒ったのはわからなかった。
「チューモンを怒らないであげてください」
透き通るような声が頭上から聞こえる…………イグドラシルだ。
「チューモンは私達に捕まったときに、すぐに貴方の事情を話しました」
かつての嫌悪感から睨みつけそうになる。しかし、イグドラシルはこちらへとしゃがんで俺へと視線を合わせる。
「チューモンは言いました。『助けてほしいっす。俺の仲間はただ家に帰りたかっただけなんす』……そう言って、貴方との関係、これまで何があったのか、これからどこに向かうのか、
俺は目線を逸らそうとした。しかし、顔を掴まれて無理矢理イグドラシルの目に目線を合わせられる。彼女の目は嘘をついているようには見えなかった。
「その後、イグドラシル様は俺へと遣いをよこし、お前たちをこの玉座の間まで連れて来させたんだ……仲間のために命を賭けるバカの話を聞いて期待してたんだがな、こんなバカやらかすやつだとは思っても見なかった」
視界の端にいるザンバモンがクロアグモンとチューモンの間に立っていることに気がついた。立ち上がって戦わないように警戒しているのだと気がついた。
「貴方に私達が何をやったのかはわかりません…………しかし、これ以上嘘をつかないでください。貴方が嘘をつくことで、私は貴方達のことを信用できなくなります。貴方が本当にしたいことがわからないと、私も貴方をどう助ければいいのかわかりません」
目を見て話す彼女は、あの女とは違って見える。
「私に貴方を助けさせてください。貴方のことを教えてください。そうすれば、貴方の助けになるかもしれませんから」
そうニコリと微笑んだ彼女は、俺の欲しかった本当の『神様』に見えた。
最初から話します。
俺には前世の記憶があります…………とは言っても、俺にとっての記憶に対する執着というのはもうほとんど消えかけています。
前世に何があったのか、前世の誰に会いたいだとか、そう言ったことはもうどうでもいいことです。嫌いだったことや生理的に無理だったことでさえ少ししか反応しなくなりました。
前世の記憶があって転生したってことに気がついた俺は、急いで俺の生まれた世界について調べました。
そして、デジモンに出会うことができたんです。
ただ、俺のいた世界で『デジモン』というアニメ・ゲームがコンテンツ化されていました…………そのなかにこの世界『デジモンNEXT』も存在しています。
そして、前世の記憶によって俺の生まれた世界は『デジモン』によって何度も危機が訪れる可能性がありました。
一つ目は、『デジモンサヴァイブ』……飛鳥文明より以前からデジモンと関わったことによって、『ケモノガミ』と呼ばれるデジモンと少年たちが世界を救う物語でした。その世界では登場人物の誰か……主人公以外が死ぬ可能性が高く、デジモンシリーズの中で主要人物が死ぬという珍しい作品でした。
俺が生まれた世界にケモノガミを祀る神社があったことを知りました。
二つ目は『デジモンストーリーサイバースルゥース』……近未来のSF的電脳世界から、デジモンがハッキングプログラムとしてハッカーと共に過ごす世界で、自身とデジモンの問題を解決するために少年たちが頑張る物語でした。こちらも、世界が滅びかけます。
また、ストーリーと名のついている通り、シリーズ物でたくさんの危機が訪れる可能性がありました。
そんな世界が滅ぶようなことがおこるかもしれないと気がついたときに、クロアグモン……その頃はボタモンだったんですが、クロアグモンと初めて出会いました。
それからは大変でした。
家族にボタモンがバレたり、コロモンに進化したり、俺はこの先に何が起こるのかわからなくて、手当たり次第に前世の記憶のキーワードを探し続けました。
そんなある日、会ったことのない今世の自身の父親を興味本位で調べてみようとふと考えました。
…………そして、今世の父が今世の母を殺そうとしていることを知ったのです。
俺は今までの計画を全て投げ出して、母を守るために父親のことを調べました。経歴、性格、出身地、これからどんなことをしようとしてるのか、過去にどんなことをしていたのか、調べました。
そして、父が母を殺す計画を阻止した日、俺は家族と離れ離れになりました。コロモンはクロアグモンに進化したときに、デジヴァイスが光ってデジタルワールドへと連れて行かれたんです。
コロモンが成長したら、俺は家族と一緒にはいられなくなることはなんとなくわかっていました。ただ、もっと今世の家族と一緒にいたかったのが唯一の思い残しでしたが、それでも家族と暮らすこの世界を守りたいと思って、クロアグモンと一緒にデジタルワールドで強くなろうと決意しました。
それからの半年間は苦痛でした。
デジモンストーリーの世界の仕様を知っていた為、ゲームと同じようにクロアグモンを育てていました。デジヴァイスicは俺達を補助してくれましたが、それでも、安全に寝る場所がなかったり、川を風呂代わりにすることは苦痛でした。
人間は子供しかいない世界なので、たとえ小さな子供である俺達を保護してくれる機関なんて存在しなかったので、俺の成長に合わせて服を買ったり身の回りの道具を買うことすら、見た目が小さな子供だった俺は舐められてしまい、ぼったくられたり、追い出されたりして苦労しました。
…………そして何よりも嫌だったのが、俺のエゴでクロアグモンをバカにされたことでした。
俺はクロアグモンをなかなか究極体には進化させず、半年間は幼年期と成長期の間を進化と退化を繰り返しました。それによってそこらの完全体よりは強くなることはできました。
ただ、成長期というだけで、俺達は周りからバカにされ続けました。
俺は別にバカにされてもよかった。
だけど、俺のエゴでクロアグモンを進化させていないのに、成熟期に進化できない弱いデジモンと言われ続けるのは本当に嫌でした。
それでも俺は家族を守らなきゃいけなかったから、クロアグモンに無理を言い続けました。それが何より嫌でした。
そんなとき、2体のデジモンに出会いました。
テイマーから捨てられたヌメモンとチューモンでした。その2体を助けたことで、自分の方針を変えてクロアグモンを成熟期以上に進化させる決意をしました。
それから2ヶ月は楽しかったです。
人間は子供しかいない世界で、舐めたデジモン達を力で押し退けて、でかい顔するテイマーをぶっ倒して、バカにした連中のメンツを潰して楽しかったです。
ヌメモンとチューモンも順当に強くすることができて、仲間も増えて嬉しかったし、何よりも嬉しかったのが、クロアグモンに無理をさせることがなくなったことです。
その時は、恨まれようが、憎まれようが、クロアグモンをムゲンドラモンに進化させたことでどんな相手だって倒せる自信がありましたよ。
だけど、幸せはいつまでも続きませんでした。
俺達を舐めていたカスどもが、徒党を組んで殺しにきました。
数百、数千を超える敵に俺達は手も足も出ませんでした。
そして、俺を庇ってゴールドヌメモンが死にました。
俺は自分を許せなかった。
ムゲンドラモンをもっと強くする方法はわかっていました。
それを実行するだけの力と時間があったはずなのに、何もしてこなかった自分が許せませんでした。
舐めてた相手を自分が舐めてたことに気がついて許せませんでした。
最初から全力を尽くしていれば、勝てたはずなのに全力を出せなかった自分を許せませんでした。
だから、俺はムゲンドラモンを進化させました。
憎しみでも、怒りでもなく、敵をこの世界に『不必要』な存在として認識して、処理しました。
ミレニアモンの力は思っていたよりも強大でした。
ただ敵にもっと恐怖を与えたいと、2度とまともに生活することができないようにしたいと、そう思いました。
それは怒りに身を任せた訳ではありません。単純にそれをしたらどうなるのかという興味からくる衝動でした。
そして俺はミレニアモンをさらに進化させました。
ズィートミレニアモンの力は計り知れないもので、その時はわかりませんでしたが、次元を越えるほどの威力を発揮しました。
デジモンは死に絶えました。
俺達と
俺はもう2度とこんなことが起きないようにと強く願いました。
半年間、俺達は修行をしはじめました。
修行を見てもらい、デジソウルの扱いを勉強し、自分の生まれた世界に戻る為に修行していた世界から離れ、そしてこの世界へとやってきたのです。
「…………というのが、ここまでの俺達の旅の流れです」
俺は少しずつ話していった。イグドラシル達は何も言わずに、話を聞いてくれた。
「…………そうですか。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
イグドラシルは座り込む俺にそう言った。俺は今更何を聞かれてもいいと思っていたので、静かに頷いた。
「貴方以外に転生者は会ったことはありますか?」
彼女の言葉に兄と姉のことを思い出す。言わなきゃいけないのかと思ったが、話さないといけないと思った。
「兄と姉が転生者だった。だけど、兄も姉も母と同じ世界から転生したらしい。前世は2人とも知り合いで、兄は医者、姉は患者の関係だったらしい。デジモンのことは何も知らない様子だった。ボタモンもコロモンのことも知らなかったし、進化直後はよく名前を間違えていたからそれはあってると思う」
彼女は少し悩んだ様子だったが、首を振った。
「次の質問です。貴方の世界にデジモンというコンテンツがあるのはわかりました。私達の世界ににもアニメであれば『デジモンアドベンチャー』シリーズと『デジモンテイマーズ』、『デジモンフロンティア』。漫画であれば『デジモンVテイマー』などがありましたが、貴方の世界にはどのような作品があったのですか?」
「それらに加えて、アニメは『デジモンセイバーズ』に『デジモンクロスウォーズ』、『デジモンユニバースアプリモンスターズ』、『デジモンゴーストゲーム』等、番外編の映画がありました。漫画はこの世界でもある『デジモンNEXT』やアニメ化ゲーム化された物の漫画・小説化に加えて、ゲームでは『デジモンワールド』シリーズと『デジモンストーリー』シリーズ、そして最新作である『デジモンサヴァイブ』等が存在しました。他にもストーリー性が無いゲームがいくつか作られていたと思います」
前世の記憶を呼び起こして、デジモンシリーズのゲームについて思い出す。ストーリー性があったのが、この辺だったと思う。『デジモンチャンピオンシップ』みたいなストーリーが存在しないゲームは言った方がいいんだろうか?
「『デジモンサヴァイブ』と『デジモンストーリー』シリーズは貴方の話に出てきていましたね…………では、どうしてその世界にいるのだと実感しましたか?」
どうして、実感したのかと聞かれても…………いや、一番最初に感じたのはあの時だった気がする。
「デジモン……クロアグモンが現れたからです。俺はその時に、この世界でデジモンのトラブルが起きることを実感しました。そして、俺が世界を救わなきゃいけないって、そう思いました」
イグドラシルは再び悩み出す。なぜ悩むんだろうか?
「
…………ドキリと心臓の音が鳴った。俺がもう戦いたくなんてなかったことを見透かされた。それだけは知られたくない奴らが近くにいるのに、そんなことを言われてしまった。
「戦います」
しかし、俺の決意は変わりはしない。
「本当にそう思ってますか? 私はあの『デジヴァイス』を捨てて戦わない誓うなら、貴方やクロアグモン達を連れて元の世界に帰してあげても構いませんよ」
少し悩むような様子で、俺に問いかけられる。結構きついことを言われるな…………あのデジヴァイスってことは何か関係があるんだろうか? その提案は、ちょっとだけ魅力的だけど今は言わないでほしかった。
「嫌です、戦います」
俺の決意を変えたくない。
「もう一度言います。あのデジヴァイスを捨てて、クロアグモン達と平和に生きなさい。後のことは私達がなんとかします」
語気を強めて彼女は言う。それが、彼女なりの計画だとはわかっていた…………だけど、
「嫌だっ! 俺はあの時誓ったんだ。ゴールドヌメモンが死んだ時、もう目の前で2度と失いたくないって、死なせないって、俺自身に誓ったんだ!!!」
俺はあの時のことを思い出す。
苦しくて、悲しくて、辛くて…………でもどうしようもない現実が迫ってきた時の絶望を知っている。逃げれば助かるかもしれない。だけど、俺はもう失いたくないんだ。
「それが、修羅の道でも構いませんか?」
彼女の問いかけへの返答はもう決まっている。
「構わない。必要ならいくらでも強くなってやる。クロアグモン達がついてこれなくても、たとえ俺1人でも前に進んでやる!!!」
その答えはあの時の平穏な生活に甘んじていた俺との訣別だ。あのままでいいって俺は思ってしまった。今度こそは絶対に守りきる為に、全力を尽くしていくんだ。
「ねえタイト、僕はタイトについていくよ。たとえどんな敵が待っていようと、どんな嵐がこの先に待ち続けるとしても、僕だけは君の味方だ」
「タイトっちのやりたいことが、ようやくわかった気がするっす。それでも、オイラの答えは変わらないっすよ。あんたの隣に立つことがオイラの目標っす。たとえあんたの隣に誰もいなくなっても、その先にどんな敵いたとしても、あんたの為に戦ってやるっす」
そうクロアグモンとチューモンの答えが後ろから聞こえた…………そっか、こいつらは俺のためにこんなにも戦ってくれるのか。
────パンっと大きな音が鳴った。イグドラシルが手を鳴らした音だった。
「わかりました。私も貴方達の手伝いをしましょう」
花が咲くような笑顔で、こちらに笑いかけるイグドラシル。
「…………イグドラシル、様」
その姿はまさしく『女神』に見えた。
「────イグドラシルじゃなくてもいいですよ。貴方は私の名前をご存知でしょう? 私はその名を気に入っているんです。今後はそのように呼んでください」
そう言って、彼女は玉座へと戻っていく。イグドラシルじゃない、彼女の名前は────
「美樹原ノルン」
戻ろうとしている彼女の後ろ姿に、そう声をかけてしまった。
「────ハイ、タイトなんでしょうか?」
「ありがとうございます」
俺に優しくしてくれた彼女に感謝を告げる。
「────いえ、それほどでもありません」
『性質』
デジタルワールド内における性質は8つに区分される。
『リュウ』『ケモノ』『ミズ』『セイ』『アンコク』『トリ』『キカイヘンイ』『ムシクサキ』……これらの性質はデジモンの種類によって区分され、『リュウ』であるならばクロアグモン、『ケモノ』ならレオモンと言ったふうにデジモンはわけられる。
……これらの8つの性質を、それぞれデータとして詰め込まれたアイテムがあるらしい。それらを全て集めると、デジタルワールド内のありとあらゆる願いを叶えることができると言われている