産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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第7話 日没! あなた達へと贈るもの

 

 2011年7月11日 午前9時

 

 青で染まった直方体で作られた世界……クーロンLv.1にピンクのネズミが1体、こそこそと動き回っていく。ネズミは携帯を取り出して、直方体の影をカシャリと写真に収めた。 

 

「────まず、ひとつ目……」

 

 ネズミ……チューモンは視線の先にいる緑のスライム状の存在に気づかれないように場所を離れる。

 

「あれはバブモン*1っすね……まさか、本当にリアルワールドにデジモンがいるとは思わなかったっす」

 

 タイトっちの言ったことは信じたかったが、この目で見るまでは半信半疑だったっす。そう考えながら、バブモンを撮った写真を見つめる。

 

「これだけじゃ足りないっすね」 

 

 そう言って、より深くクーロンへと潜っていく。Lv.2、Lv.3と進んでいくにつれ、より進化したデジモン達の写真を撮っていく。

 

「Lv.2ではゴブリモン*2、Lv.3ではブラックテイルモン*3……進めば進むほど、進化していくってことっすか」

 

 クーロンを深く潜ることで、強いデジモン達に出会う頻度が増えた。こちらは気配を消しながら進んでいるため、遠くで見つけることが多かったが、Lv.4まで来ると成熟期デジモン達が蠢く世界へと変わっていた。

 

「これで最後っすね!」

 

 2時間ほどクーロンを散策すると、証拠となる写真を10枚以上撮影できた。写真が充分集まったことを確認して、クーロンLv.4から出ることにした。

 

「……すごいっすね!?」

 

 クーロンが青色の直方体で、ところどころ汚い世界だとすれば、EDEN公式のエリアは白色の清潔な空間のように見える。

 

 その中でも人が集まっていそうな、コミュニティエリアを目指すことに決める。

 

『星野アクア&有馬かなコンビ ピーマン体操大ヒット!?』

 

 EDENのコミュニティエリアまで向かう途中、ふと広告が目に映る。

 

「星野って……タイトっちの苗字だったっすよね?」

 

 タイトっちに似た金髪の少年と赤茶色のショートカットの少女が、ピーマンをプロパガンダするCMがEDEN内に流れていた。

 

「先輩が聞いたら泣いてそうっすね」

 

 タイトっちによく似た少年が踊るその曲は、自身の先輩が嫌いな野菜類を勧める歌であった。この踊りを先輩本人が聞いたら、タイトっちによく似た人物に野菜を食えと言われ続けるので、すごく怖がりそうだと思った。

 

「……あっ、そうっす!」

 

 星野アクアがタイトっちの家族なら……と思い、コミュニティエリアへといくのをやめ、ピーマン体操のCMのリンク先へと侵入する。

 

「……人間には電脳空間ってこんなふうに思ってんすね────ちょっと、引くっすわ」

 

 侵入した先も青一色で統一されている。デジモンにとってはリアルワールド寄りの電脳空間(デジタルワールド)も、人間にとってはSFチックな奇妙な世界だと思われてるのがわかった。

 

「────そんなことより、調べ始めるっすか」

 

 このエリア内のアクセス権限の強いデータを洗い出す。エリア内を管理してる人間のデータを調べることで、タイトっちの身近な人間の端末へのアクセス方法を調べるのだ。

 

 

 

「……にしても、時間が経つのがはやいっすね」

 

 携帯の時間を見れば、午後の1時を過ぎていた。予想ならこの時間帯にはタイトっちのところへと戻っているつもりだった。

 

「初めてにしては、うまくいったほうっすかね」

 

 そう言って、視線を向けた先にはEDEN内の壱護プロのサーバへの侵入経路がある。

 

「にしても、時間かかったっす」

 

 デジモンとはいえ、初めてハッキングしてみるとわかるのだが、セキュリティウォールを壊すことなく開けるのには、今まで力技しか使ってこなかったチューモンには難しかったのだ。

 

「……あともうひと踏ん張りっすね────っ!?」

 

 

 白い服の少年が壱護プロサーバの中から現れる。

 

 

「────なんすか、アレ?」

 

 

 ……嫌な予感がした。

 背筋がゾクリとするようなものではない。自身を構成しているデータ全てが、警鐘を鳴らしている。かつて戦ったデジモン軍団やビクトリーグレイモン達とは違う、全く違う気配に警鐘が止まらない。

 

「……でも、ここで立ち止まったら」

 

 タイトっちが家族に会えなくなる……そう思って、嫌な気配を振り切り、この場に踏みとどまる。

 

 ……すると、

 

 

 ────ズゾゾゾゾ! 

 

 

「────っ!?」

 

 

 銀色の触手がサーバから少しずつ姿を見せていく。

 

『チーズ爆弾(ボム)

 

 チューモンは反射的に、出てくる途中の触手に向かって必殺技を放った。

 

「────ちっ!」

 

 しかし、触手は怯むことなくサーバ内から現れ始める。

 

「経験上、こっちは逃げたいんすけど」

 

『チーズ爆弾(ボム)』を銀色の触手の出現予測位置に転がしておく。

 

「────逃げられない理由があるんすよね」

 

 サーバの奥から、銀色のオウム貝を思わせるような触手が姿を現した瞬間、転がした必殺技が爆発する。

 

「こんなんじゃ、足りないっすよね!」

 

「『チーズ爆弾(ボム)』」

 

「『チーズ爆弾(ボム)』」

 

「『チーズ爆弾(ボム)』」

 

「『チーズ爆弾(ボム)』」

 

 爆発した煙へと一発発投げ込み、残り三発は自身の足元へと転がす。

 

 ────シュルン

 

 銀色の触手が煙の中から、オイラを狙ってやってくる。

 

「────くらうっす!!!」

 

『チーズ爆弾(ボム)

 

 バックステップでその場を避けて、3発の爆弾目掛けて『チーズ爆弾(ボム)』を投げつける。ドカンと大きな音が鳴り、投げ込んだ爆弾が爆発……その後、3発の爆弾が誘爆する。

 

「────ギチギチっ!?」

 

 オイラを捕まえようとしていた銀色の触手が千切れて飛んだ。

 

「────やったっす!!!」

 

『チーズ爆弾(ボム)』一発じゃダメージを与えられなかった触手相手に、目に見えるダメージを与えることができた。

 

「────ふべっ!?」

 

 サーバの周辺にいた本体が接近に気づかず、腹に体当たりが当たってしまう。

 

「────っ、なんすかこれ!?」

 

 直接当たった腹の部分がドットのようなバグを起こして、体が動きづらくなった。

 

 ────ギュルン

 

 それでも、触手はオイラのほうへと近づいてくる。

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 この体じゃ避けることは難しい……なら、正面から打ち破ってやるっす。

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 爆弾を触手目掛けて投げる……先輩なら、こんな相手、すぐにやっつけられたはずだと思い、悔しくなる。

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 さきほどと同じように、地面へ爆弾をばら撒きながら後ろへと走る……タイトっちは先輩の力を信じてる……それに比べオイラは肝心なところで、いつも負けることが悔しかった。

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 どうやら奴には知能がないらしい。オイラを狙ってくる触手は爆弾に注意を向けていない。そのおかげで爆弾をこの周辺一帯にばら撒き続けられる……なんで先輩ばっかり強くなっていくっす。なんでオイラはもっと強くしてくれないんすか!!! 

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 ────ギュルン

 

 触手をかろうじて横へと避ける────ズテン、と転んでしまった。次の攻撃は確実に当たってしまう……オイラはもっと強くなりたいっす! あんたみたいな強いデジモンになりたいっす! なのに、なんでオイラはこんなにも弱いままなんすか!!! 

 

「────これじゃ、もう逃げるのは無理っすね」

 

 転んだ時に右足に触手が当たったみたいで、足が動かない……オイラはもっと強くなってあんた達の力になりたかったっす! なんで、どうして、先輩ばっかり……

 

 触手はオイラに狙いを定めて、突撃してくる。

 

「────だけど、これで終わりっす」

 

 手に持った『チーズ爆弾(ボム)』を触手に向かって投げつける。

 

「『チーズ爆弾(ボム)』!」

 

 この部屋一帯にばら撒かれた『チーズ爆弾(ボム)』が誘爆……さきほどとは比べ物にならないぐらい強力な爆発が触手を飲み込んでいく……オイラはあんたみたいに強くなれるんすか? もっと、進化できるんすか? 

 

 

 

 誘爆する爆弾が次々と触手をちぎっていくのが見える。

 

「……にひひ、ようやく勝てたっす」

 

 爆風が消え、触手は跡形もなく消えてなくなった。

 

「……ようやく……ようやく、探しに行けるっす」

 

 体は瀕死……だけど、気合いでサーバへと侵入して壱護プロの重要人物のデータを奪う。

 

「────あとは、戻るだけ っすね」

 

 瀕死の体を動かして、タイトっちの携帯のサーバまで、歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「────はっ!? ってえ!!!」

 

 …………頭が痛い。外部から殴られて痛いと感じるのではなく、内部から破裂するような痛みを感じる。

 

(……タイトっ……タイトっ!!!)

 

(……ん? クロアグモン? ……というか、ここはどこだ?)

 

 布団から飛び起きた時に、デジヴァイスからクロアグモンの声が聞こえた。周りを見れば、和式の部屋に布団の上に横になっていた。

 

(タイト、ここは────)

 

 クロアグモンが答えようとした時に、襖が少し開いて教授がこの部屋に入ってきた。

 

「失礼する────マナトくん、ようやく起きたのか!!!」

 

 教授は俺の体を掴んで、どこか痛い場所はないかとか、体調がどうとか聞いてくるが、わけがわからない。

 

「……教授? ここは、いったい?」

 

「ここは私の家だ……君はコーラを飲んだ後、急に倒れてしまったんだ」

 

「……はあ!?」

 

 ……そういえば、記憶の最後にコーラを飲んだ気がする。

 

「これまでの経緯だがね────」

 

 コーラを飲んで突然倒れた俺を、教授が介抱してくれたそうだ。突然倒れたことから、かかりつけ医を呼んで調べてもらったみたいだが、何一つわからず、熱中症じゃないかと診断されたらしい。

 それから何時間も俺は寝たきりで、あと数時間眠っていたら、今度は救急車を呼ぼうとしていたところで、俺が起きたらしい。

 

「……それで、体調の悪いところはないかね?』

 

「いえ、特にありません」

 

 起きた当初は頭が痛かったが、()()()()()()()……それより、今は何時だ? 昼間だとは思うんだけど……

 

「……教授、今何時かわかりますか?」

 

「今かい……だいたい、16時過ぎぐらいだと思うが……いったいどうかしたのかい?」

 

 16時……16時!? ヤバイ、日暮まであと3時間しかない!!! 

 俺は急いで、身支度を整える。

 

「マナトくん、いったいどうしたんだ!?」

 

「すみません、教授……日没までに家に帰らないと親に叱られるんです!!!」

 

 教授に言った嘘に、嘘を重ねて答える。しょうがないけど、急いでいるし、正直に話すわけにはいかない。

 

 そして、自分の持っていた荷物を確認……ノルン様にいただいたアレにデジヴァイス、携帯、こっちで使うお金……その他もろもろ全部揃ってる! 

 

「それなら、私が家まで送って行こう。それにさきほどまで倒れていたんだ! 1人で行動なんて────」

 

「そんな時間はないんです────それではっ!!!」

 

 窓を開けて、外へと飛び出す────マナトくんっ!? って声が聞こえた気がするが、すぐに山の方へと向かい、教授を撒く。

 

「────クロアグモンっ! チューモンは戻ってきてるか」

 

 山道ではなく道なき道を走りながら、クロアグモンに携帯の中にチューモンが帰ってきているか聞く。

 

「まだ戻ってきてない……なにかトラブルが────」

 

 クロアグモンも焦っている様子……そのとき、

 

 

「……遅れた、っす!」

 

 

「「────っ!?」」

 

 ボロボロの体のチューモンが帰ってきた。腕や顔からはデータの破片が散っており、腹と右足はドットのような姿になっている……もしかして!? 

 

「────いったいなにがあった!!!」

 

 クロアグモンがすぐに携帯の中に入り、介抱をする。俺は急いで、デジヴァイスの機能『バンソウコウ』を使用する。

 

「……タイトっち、これ を……」

 

 チューモンが携帯の中に一つのファイルを取り出した。中に入っているのは、斉藤さん(おじさん)の今日1日のスケジュール……これを取る為にこんなにボロボロになったのか!? 

 

「────チューモンっ!」

 

「これ で、は やく 家族に────」

 

 そう言ってチューモンが気を失う。クロアグモンがただ気を失っただけで、デジタマにならないことを確認した。

 

「チューモン、ありがとう」

 

 意識が朦朧とするなか、チューモンは俺に家族へとつながる鍵をくれた……この思いを無駄にしない為にも!!! 

 

「────クロアグモンっ!!!」

 

 クロアグモンをデジヴァイスから出す。

 

「タイト、わかった!」

 

『デジソウル・チャージ』

 

 暗黒のデジソウルをデジヴァイスにチャージする。

 

「────クロアグモン進化!!!」

 

 [クロアグモン進化]

 

「『ミレニアモン』!!!」

 

 俺はすぐにミレニアモンに乗る。

 

「ミレニアモン、すぐに時空間移動だ! 東京まで、時空間を移動する!!!」

 

「────わかった!」

 

 時空間の中でこの世界の東京への移動を行うついでに、おじさんのスケジュールを確認する……なんだよ、これ!? 

 

『アイのスケジュール』

 

 朝3時30分 起床

 

 6時 星野アイとアクア、有馬かな

 CVC『おはよう! 日本列島』に出演 

 月9での新作ドラマOPのアイの新曲とアクア・かなの『ピーマン体操』の宣伝

 

 9時 アイ、アクア 

 秋からの月9ドラマのリハーサル・撮影

 

 12時 撮影終了 昼飯・アイのロケ地へと移動

 

 14時 神奈川でのロケ

 

 19時 ロケ終了

 

 20時 EDENにてCM撮影

 

 23時 帰宅

 

 ……東京にいないじゃないか! というか、仕事日に会いに行けるわけねえ!!! 

 

 ルビーに連絡接触……はあまり仲がよくなかったし、どうなるかわからない! 

 

 時間を見れば夕方6時……追っ手を巻く為に山の中を走りすぎた! どうする、詰んだか? 

 

「────タイト、東京駅に着いたよ」

 

「────もう、ついたのかっ!? わかった、とりあえずデジヴァイスの中に入っていてくれ」

 

 クロアグモンにデジヴァイスの中に入っていてもらい、もう一度スケジュールを開く。

 

 ────どうする!? どうすればいい!? 

 

 スケジュールの下記の欄になにか記載がないか探すと、『緊急時連絡先』として電話番号が記載されていた。

 

「────よし、これならっ!」

 

 誰につながるかわからないが、斉藤さんに連絡がつながる可能性ができた────あとは、やることをやるだけだ。

 

 

 

 

 

「────ふう、アイのロケは問題なく終了した。次のスケジュールは……」

 

 私は壱護からの連絡を受け、少し安心する。こういった連絡をするのは、うちの職場では壱護とアクアの2人しかしない。アイもルビーも、連絡なんてしないから、本当にこの連絡を受けて安心する。

 

 アイのアイドル卒業後から、数年間は怒涛としか言えなかった。

 

 アイドルを卒業後、アイはタイト捜索の為、自身の息子を探していることをテレビ出演している時に話した。それから、息子であるアクアと役者の仕事をしつつ、警察への連絡を待つ日々だ。

 

 唯一の手がかりは警察に見せられないものだけ……タイト(あのこ)はいったいなにをやっているのかしら? 

 

 私達自身も探してはいるが、タイト側からの連絡がない為、どうしてるのかわからなかった。

 

 そうしてるうちに8年近く経ってしまった。アクアもアイももう十分に芸能界で働けていける。

 

「……まあ、最近はアクアもアイも役者として安定してるし、文句はないけど……問題はルビーね」

 

 壱護からはアクアの妹として役者をやれって言われてるのに、ルビーはまだアイドルを目指すって言ってる。最近はなぜか雰囲気が暗いから、ちょっと気になっているのよね。

 

 ────ブルブル、ブルブル

 

「……ん? えっ、嘘っ!?」

 

 壱護に渡された、緊急時用の携帯電話が鳴っている。

 

「滅多にならないのに────って、ヒツウチ?」

 

 ヒツウチからの連絡……嘘っ!? この連絡先は身内だけしか知らないはずなのに……

 

「…………」

 

 正直に言って、出るかどうか迷ってしまう……でも、本当に緊急連絡だったら────

 

「はい、こちら壱護プロ────」

 

 意を決して、電話に出ることに決めた。だけど、数秒経っても壱護からの返答が来ない。

 

「────ちょっと、これは緊急連絡の為の物ってあんたが────っ!?」

 

「……よかった、知っている人が出てくれた」

 

 ……壱護じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────あなたはいったい?」

 

「ミヤコさん、久しぶりですね……タイトです、()()()()()()()()()

 

「────っ!?」

 

 数年間、家族以外で聞かない名前を電話の先から話される……最初こそ、赤の他人からの星野アイの息子として連絡を受けることは多かったが、3年ほど経つと連絡などこほとんどなくなり、5年経つ頃には一切情報が出てこなかった人間から連絡を受けた。

 

「────あなたはほんとうに」

 

()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()……今でも、そうなんですか?」

 

「────えっ、なんでそのことをっ!?」

 

 なんで、アクアとルビーしか知らないことを知っている!? 

 

「他にも、イケメンと結婚したいからアクアとルビーの言うことを聞いたり、当時の俳優の『□□』さんに熱を入れていましたよね……まだ、ファンだったりしますか?」

 

 アクア達が赤子の頃に見ていたドラマの、主演役者の名前が聞こえた……それを見ていた時って、アイがアイドルとして本当に忙しくなって、私がベビーシッターやってた頃じゃない!? 

 

「……あなた、まさか本当に……?」

 

「────時間がないので、話だけでも聞けますか?」

 

 そう真剣な声で言われる……『時間がない』ってどういうこと!? 

 

「待って、すぐにアイに連絡を────っ!?」

 

 

「東京駅、東側のコンビニ『ファミリアマート』の近くのコインロッカー『NO.042』に渡したいものが入っています。鍵は東京駅東側出口付近の店舗『みたらしや』の前の公衆電話の中のシティページの53ページに挟んであります」

 

 

 アイに連絡を入れようとしたときに、そんなことを言われる。

 

「……待って、もう一度言って」

 

「東京駅、東側のコンビニ『ファミリアマート』」

 

 ゆっくりとそう言われて、メモをとっていく。

 

「その近くのコインロッカー『NO.042』」

 

「鍵は東側出口付近店舗」

 

「『みたらしや』の前の公衆電話」

 

「シティページの53ページに入っています────これで大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 タイトが言ったことはメモが取れた……それより、

 

 ────ピ────! 

 

「それより、時間がないってどういう────」

 

 

 ────ツ────ツ────

 

 

「…………切れた」

 

 公衆電話から、タイトからの連絡が途切れた。

 

「切った、ってよりは、お金を追加できなかったってことよね」

 

 すぐに事務所から出発する準備をする。タイトが預けた物を回収しに行かなければいけない。

 

「……タイトの言ってた渡したいものって、なんなのよ」

 

 そう言って、東京駅まで車を走らせる。外はすでに陽が落ちて、月が昇っていた。

 

 

 

 

 

 2011年7月11日 午後7時 デジタルワールド

 

 

「……これでよかったの?」

 

「……いい、あとはミヤコさんに任せた」

 

 クロアグモンの言葉にそう答える……正直に言えば、母さん達と話したかったなあ。

 

「タイトっち、俺が遅かったばかりに……すまなかった」

 

 チューモンは傷だらけの体でそう言った。

 

「チューモンは頑張ってくれた。会えなかったのはしょうがない」

 

 時間がなかったのも、俺が倒れたのも、チューモンが遅かったのも……しょうがないじゃないか。突然起きたことなんだから……

 

「証拠は集まったしな…………それに────」

 

 ……言いづらいな。どうやって言えばいいのかわからない。

 

「……それに?」

 

「なんすか?」

 

 クロアグモンとチューモンが聞いてくる。言いたかったことがうまく言えない……ううん、言うしかないよな。

 

「……俺はお前達を『道具』としか思ってなかったのかもしれない」

 

 今日は初めて、自分の命が本当に危険だったことに気がついた……今まではなんやかんや、クロアグモンやチューモンが助けてくれたことでなんとかなってきた。それが、今回突然気絶したことで身の危険を感じてしまった……だから、言える時に言っておこうと思ったんだ。

 

「そうっすか」

 

「────別に僕は道具扱いでも構わなかったんだけとね」

 

 チューモンは淡白に、クロアグモンは知っていて、そのままの状態を受け入れていた。

 

「ノルン様やツルギさん達に出会って、なかなか言い出せないけど、変わりたいって思っていた」

 

 正直に言って、ツルギさんとアグモンとユウさんとガオモンの関係に憧れた……ああやって、なにもなく気兼ねなく話せるようになりたかった。

 

 

「────だから、お前達に聞きたいことがある」

 

 

「……聞きたいこと?」

 

 クロアグモンが首を傾げる。

 

「『お前達のやりたいこと、なしたいこと、ほしい物、やりたかったこと』を聞きたい……俺は世界を救いたいけど、お前達個人のことを今まで無視してきたから、お前達のことを知りたいんだ……それを手伝うことで、はじめて対等な関係への一歩が進める気がする」

 

 それはこの三年間言いたくても、言えなかったことだった。本当は俺ばかりがクロアグモン達のことを道具のように使っていることが、嫌になっていた。

 

 ……どうしても、変わりたかった。

 

「……そうっすか」

 

 チューモンは傷だらけのの手で俺の手を掴んだ。

 

「ならオイラの願いは変わらないっす────『強くなりたい。誰よりも強くなりたい』っす」

 

 チューモンは誰よりも強くなりたい……俺ができる限りの手を尽くして、強くしようと決意する。

 

「……わかった、クロアグモンは?」

 

 クロアグモンは少し戸惑ったようだ。

 

「────僕の欲しい物? うーん、困ったなあ」

 

 ちょっと恥ずかしそうにしている。なにかあるのだろうか? 

 

「……よし、決めたっ!」

 

 

「僕のほしい物は『名前』がほしい!!!」

 

 

「……名前?」

 

「────そう、『名前』!!!」

 

 嬉しそうにクロアグモンはそう言った。

 

「デジタルワールドに来てからずっと思ってた……タイトのデジモンなのに、他のデジモンとおんなじに呼ばれるのが嫌だった」

 

「────だから、僕だけの『名前』がほしい!!!」

 

 そういえば、昔デジタルワールドへと辿り着いたときに、同じ個体のデジモンにあったことがある。それが嫌だったのかもしれない。

 

「……それ、いいっすね。オイラもほしいっす」

 

「なんだとっ! お前はタイトにやりたいことをいってるよねっ! そんなのダメに決まってる!」

 

 チューモンがクロアグモンのように名前をほしがった……そうか、『俺のパートナーデジモン』なんだよな。

 

「……わかった、考えてみるよ」

 

 そう言った時に、クロアグモンとチューモンが光に包まれる。

 

 

「────えっ、あれ?」

 

 

「────ハァっ!?」

 

 

2()()()()()()()()()()()()()()()()()()……デジモンは戦闘、努力、経験、環境によって進化を変える……そっか、俺が変わらなきゃ進化しなかったのか。

 

「……なんで、進化したの?」

 

「お前達、2体が頑張ったからだよ」

 

 俺が変わることで、2体はようやく本当の進化をすることができた。これで、より強くなることができる。

 

 

「これからも、よろしく頼む」

 

 

「────いいよ、タイトの頼みだからね」

 

 

「オイラはつよくなれるならっす」

 

 

 そう言って、夜の城へと向かった

 

 

 

 ────あとは頼んだ。

 

*1
レベル:幼年期Ⅰ タイプ:スライム型 必殺技:粘着性の泡

 一見、ただの薄緑色の泡のようだが、自由に行動し豊かな表情を見せる泡型のデジモン。表面はまだ固まっていないため、防御力は無いに等しく戦闘には向いていない。口にくわえたおしゃぶりのように見える部分から、小型の泡を発生させ、無限に増殖していく。その増殖性は、かつてコンピュータウィルス開発に使用されかかったが、あまりに生命力が弱いため幸い実行されなかった。はかない命だが、懸命に生きる愛すべきデジモンベビー。体の中から発生させる粘着性の泡で外敵の動きを封じ、その間に逃げるのが得意。

*2
レベル:成長期 タイプ:鬼人型 属性ウィルス種 必殺技:ゴブリストライク

 悪さが大好きな困った小鬼の姿をしたデジモン。勇気がないズルがしこい性格で、1体で行動することがなく、いつも集団で森の中の木陰や、建物に隠れて攻撃してくる。しかし、一旦劣勢になると蜘蛛の子を散らしたように一目散で逃げ出してしまう。その分、知能だけは他の成長期デジモンよりは少し高い。必殺技はマッハのスピードで火の玉を相手に投げつける『ゴブリストライク』。

*3
レベル:成熟期 タイプ:魔獣型 属性:ウィルス種 必殺技:ネコパンチ

 真っ黒な毛なみが印象的な、ウィルス種のテイルモン。完全なる悪の申し子で、ブキミな闇を渡り歩いて生きている。テイルモンの変種であるブラックテイルモンが生まれるのは非常に稀で、その個体数は少ないと言われている。また、性格は意地悪でプライドが高く、弱いものいじめが大好きな困ったデジモンである。基本的には堕天使型のデジモンへ進化する暗黒系デジモン。必殺技は、テイルモンと同じく『ネコパンチ』。




『ドット化(液晶化)』

『デジモンストーリーサイバースルゥース』におけるバッドステータスのひとつ……全身がドットのようなデザインになり、必殺技を撃てなくなるというデメリットが存在する、正式名称は『液晶化』

『液晶化』というように、デジモンの携帯型ゲーム機内では、デジモンはドットのデザインで発売されており、それが元ネタだと思われる。
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