「────ハアっ、ヤアっ!!!」
庭に大きな声が鳴り響く。
ピョコモンがサンドバッグにぶつかっていた。
「動きが遅いっすっ!!! もっと力強く突撃するっす!!!」
シンがそれを見て指導をしている。
「ハイっ!!! ヤアっ……ハアっ────」
ピョコモンがそれに従って、より強く突撃するのを繰り返している。
「……ねえタイト、これで本当に強くなるの?」
訝しむ様に俺を見るテト……リアルでやるのは初めてやるんだから、俺だってわかんねえよ。
「わざわざノルン様に会う前に買いだめしていた特別な肉を食わせて、無理矢理才能を上げて、才能であげられるステータスを特殊なサンドバッグで上昇させる……一応、攻撃力は上がってる筈だ。昨日よりも突撃の威力が上がっている」
……はず、な気がする。
昨日よりも5センチぐらい多く、サンドバッグが動いた気がする。
「……ふうん」
サイスルには才能を上げるアイテムが存在する。
『ミラクル肉』と呼ばれるマンガ肉だ。
ミラクル肉を食べれば才能が絶対に10上がり、稀に20上昇する。
俺はノルン様に隠れてミラクル肉を隠し持っていた。テトやシンが勝てない相手に急に出会した時用の秘策に3つデジヴァイスicに隠し持っていた。
才能を上げれば自分よりも強い相手に勝てる様になる。
「前みたいに
テトのそんな言葉が聞こえた……ああ、やりたいよ……やりたいに決まってるだろっ!!!
…………でも、
「無理だよ、それじゃあバグラ軍と同じになってしまう」
バグラ軍が侵略しているこの世界で、野良のデジモンを理由もなしに無差別に攻撃すれば、このゾーンでの信用を失いかねない。
「前にいた世界とは常識が違うんだ……できないことがたくさんある」
……そう、依頼でデジモンを倒せる世界じゃないんだ。
「……えいっ、やあっ!!!」
ピョコモンがサンドバッグに突撃してるのが見える。
元気よく突撃していく姿を見て……いや、もっと気合い入れろよ。わざわざ隠し持っていたミラクル肉を全部食わせたんだ。強くなってもらわなければ困んだよ。
「わざわざ隠し札一つ開帳したんだぞ。
そんな様子でどうする……俺はもっと強くなると思って渡したのに……くそっ、くそっ、くそっ…………きひっ」
……きひっ、きひひひひという変な笑い声が出そうになった。
「……ヒェッ!?」
テトがなんかドン引きした様な顔でこちらを見ている……そんなに酷い顔をしていたのか?
「おーい、マナト殿────おらんかー?」
玄関の方から、聞いたことのある年老いた声が聞こえて来る……モニタモンの長老か?
……何かあったのか!?
バグラ軍が襲ってきたのか!?
「ハイ、すぐに向かいます!!!」
庭から玄関まで急いで向かう。
────そこには、
「おお、よかった……おったのじゃな」
手提げ袋を持ったモニタモンの長老がそこにいた。
────ズテン……と転びかけた……なんだよ、近所のジジイのただのお裾分けかよ。
「マナト────だいじょーぶぅ?」
「ああ、大丈夫……」
テトの呑気そうな声が聞こえる……あいつ気づいてやがったな!!! 敵襲でもなんでも無く、焦って来た意味がなかったなあ。
「実はな、マナト殿にこれをこれを持ってきたのじゃ」
長老が袋の中から物を取り出す。
「……これは?」
某コアラのチョコレートの様な形の、黄色いパッケージのおやつを取り出した。
「差し入れの『デジノア』でございます」
……デジノア? なんだそれ?
こちらに来てから、食事はデジヴァイスから取り出した物ばかり食べてたから、こちらの食べ物は見たことなかった。
「デジノアってなんですか?」
「ふむ、知らないのですか? こちらは、デジタルワールドのご馳走の一種でございます。中にお菓子が入っており、こうやって食べるのですじゃ」
デジノアから輪っかのお菓子を取り出して食べるモニタモン……ここ、本当に俺の知らない世界か? アニメ化に伴ってスポンサーが売り出した子供用のオヤツにしか見えないんだけど……まあ、いいか。
「とりあえず、こちらへどうぞ」
そう言って、庭まで連れて来る。
「えいっ、ヤアッ────!!!」
「────おおっ、ピョコモン……本当に居たのじゃな」
……本当にに居た?
ピョコモンを見た長老の言葉が気になった。
「────本当に居たとは?」
「いやはや、先日儂らがマナト殿のご活躍を話している最中に、どうやら村のデジモンに聞かれていたらしくて……つい先程、ピョコモンがこの屋敷に突撃したという報告を受けましてな」
……それで、差し入れ……か。昨日のことを思い出した。
『俺を弟子にしてください!!!』
大きな声でそう言ったピョコモン。
『……あ゛、今取り込み中だ。帰れ』
若干、苛立たしく感じる声で対応するテト……まあ、俺の話を聞いて、色々と思う所があった直後に、こんな騒ぎを起こすやつに本気でムカついてるんだろう。
……多分、まだ小さなデジモンだから手を出していないだけだな、これ。
『俺を弟子にしてください!!!』
それでも、大きな声でピョコモンは俺たちに向かってそう言った。
『……だからぁ、僕達は今────』
テトが苛立ちを隠していないのに、もう一度『弟子になりたい』と頼むその姿勢に、ちょっと興味を抱いた。
『テト、ちょっと話を聞きたい』
『えっ、タイト!?』
俺は玄関の前に立つピョコモンに視線が合う様に、しゃがんだ。
『……君は何で弟子になりたいんだい?』
『俺は今のこの状況を変えたいんです』
ピョコモンは少しずつ話をしはじめる。
『俺は物語の主人公が好きでした』
『どんな悪でもやっつけれる強くてカッコいい主人公が』
『でも、俺の生まれた時には『バグラ軍』がいました』
『主人公はいませんでした』
『苦しいことや悲しいことがいっぱいで、たくさんの友達や家族同然に育ったデジモン達が死んでいきました』
『バグラ軍にはどうやっても敵いませんでした』
『ジェネラルが現れたって、たくさんのゾーンがバグラ軍の手に落ちました』
『ジェネラルすら簡単に倒せない三元士を、簡単に倒せるデジモンとジェネラルが現れたって聞きました』
『その人達に師事を受ければ、みんなを守れる主人公になれるって思いました』
『みんなを守りたいです』
『このゾーンを守りたいです』
『力を貸してください、お願いします』
少しずつ、ゆっくりと話したピョコモン。その間ずっと頭を下げ続けていた……その姿勢に、少し誰かと姿が被って見えた。
『……そんなの関係ない……行こう、タイト』
テトは一瞬迷った気がする。だけど、力を貸さないことを決めた様だ。
────ビクッと、ピョコモンの体が揺れる。
『お願いします』
テトはその言葉を聞いて、声が震えていた……それでも、ピョコモンは頭を避け続ける。
『……オイラはタイトっちに任せるっす』
シンは俺の判断に任せた……なら、
『……うんいいよ』
ピョコモンを抱き抱える。
『……えっ!?』
『────タイトっ!!!』
ピョコモンが驚き、テトが叫ぶ。
『いつバグラ軍が襲って来るかわからない以上、戦力になりたいと願う者は育てるべきだ。俺達がたとえいなくなったとしても、タイキさん達の手助けにもなる』
テトを見て、俺は適当に今思いついた言葉を言う。本当は助けてやりたいと思っていた。
『タイトは今大変だって言うのにっ、何でそんなことを……』
そう言いつつ、少し苦虫を噛んだ様な表情をした後、
『僕は、そいつの件は手伝わないから』
そう言って、部屋の中へと戻っていった。
『わかってる────シン、手伝ってくれるよな』
テトに聞こえる様に大きな声でそう言い、隣に立つシンに同意を求める。
『いいっすよ、シャウトモンを修行してたのは先輩っすから……今度はオイラの番っす!!!』
シンは笑顔で同意をした。
その後が大変で、
「迷惑をかけて申し訳ありませぬな」
こうやって、ちゃんと挨拶に来てくれる味方がいてピョコモンはよかったなと思った。
「いやいいよ……そうだ俺も、何か渡そう」
「……むっ!? 何か貰えるのですかな?」
デジヴァイスの機能を使い、デジモンのエサから検索をかける……長老はジジイだし『おはぎ』でいいか。
デジヴァイスicの裏のセンサーから、プラスチックの容器に入ったおはぎの絵が投射され、次に立体的に形を変えて、最後に実体が現れる。
「これは『おはぎ』というお菓子です。こちらを食べてみてください」
そう言って、長老に現れたおはぎを渡す。
「……な、な────」
……ん? 何か長老固まってない?
「────なんですとおおおっ!?」
長老が突然叫んだ……いったい何でだっ!?
「タイト何かあったっ!?」
「モニタモンのじいちゃんの声っ、まさか敵襲っ!?」
「タイトっち、今行く!!!」
側から修行を見ていたテト、修行していたピョコモン、指導していたシンが集まって来る────ああ、もうめちゃくちゃだよ。
「すみませんな、突然大声をあげてしまって」
あの後、みんなに説明して、長老にも何で突然大声を叫んだのか質問をした……理由は納得したのだが……修行は途中で止まってしまったな。
「まさか、
そんなデジタルワールドがあるのか……と、驚いてしまった。今まで行った世界では、肉とか魚とかパチモンっぽい物がたくさん存在したからだ。酒とかは似た様な物があるらしい。
「……もう少し考えればよかった」
この世界の植物が、リアルワールドとは別種の物が多いことにすら思いつかなかった……今後は別世界に行ったら気をつけよう。
「……もぐもぐ、ゴクン────まあ、だいぶ安易な行動だったけどね。別に誰も死んでないんだし」
骨付き肉を食べながら、テトにそんなことを言われる……笑ってるけど、肉が食えて嬉しいだけだろ。
「オイラはもう少し気をつけるべきだったと思うっすよ。特殊な能力なんすから……特にバグラ軍に知られたらマズイと思うっす」
そう言って、手元のチーズケーキを切り分けるシン……耳が痛い。
「────むむッ、こんな美味しい食べ物があったとは……世界は広いっす!!!」
驚きながら、むしゃむしゃと唐揚げとドーナツを食べ続けるピョコモン……植物なのに油物が好きなのか?
……いかんいかん、こんな無駄なことを考えてる暇はなかった。ピョコモンが修行してないのなら、別に考えることがあったはずだ。
そう思い、手元の『タイキさんから貰った手紙』を見る。
「……おや、マナト殿……それは?」
長老が手紙について聞いて来た。長老に話すべきか? ……別に書いてあることは特に聞かれても問題のないことしか書かれてないから話してもいいか。
「────タイキさんから貰った手紙です。俺に……俺達に足りない物が書かれてるらしいんですが……」
声が尻すぼみになっていく。正直言って、俺には話しづらいことなのだ。
「それの意味がわからない……ということですかな?」
でも、長老は俺の意図に気づき、言葉を補填した……そう、手紙の内容の意味がわからないのだ。
「……少し見せてくだされ」
長老にそう言われ、封のあいた手紙を渡す……そこに書かれていたのは、
『自由な心』
『大事な理由』
この二つの言葉が書かれていた。
「……ふむ、タイキ殿はこれが足りないとおっしゃったのじゃな」
モニタモンは首を捻りながら、俺に質問して来る。
「はい……俺達は、俺の故郷を守る為、旅を始めました。最初はテトと自分だけの旅でしたが、シンが……仲間が増え、味方が増え、力も身につきました。それでもこの二つの言葉が足りない……とタイキさんは手紙を渡したんです」
『自由な心』はまだわかる……病気や今までの経験によって、俺は自分の意思を無視した行動をとることが多くなった。
だが、『大事な理由』って何だ?
『家族を守りたい』、『世界を救いたい』という意思だけではダメなのか?
そもそも、理由なんかよりも結果のほうが大事だ。俺はより良い結果の為に、戦うって決めたはずなのに……タイキさんは『大事な理由』を求めた。
わからない、わからない……と頭を悩ませ、夜に封を開けた手紙はを見ていた時間は、気づけば朝になっていた
「……そうか、そういうことであったか」
……あれ? 俺が一晩中頭を悩ませた手紙を、一瞬でこのジジイは答えを見つけたのか?
「何かわかったのですか?」
「────いや、何……これは儂の言うことではありませぬよ。マナトが答えを出すべきじゃよ」
そう言って、手紙を返してくれる長老。
「えっ、それってどういう────
突然、世界が歪み出した。
……えっ!?
……見える世界が変わる。長老が消え、屋敷は消え、森が消える。
あたり一面、草原の世界がそこに存在した。
「────テト、シン、すぐに警戒しろっ!!!」
近くにいたテトとシンに警戒を促す。
「……────っ、わかった、タイトっ!!!」
「わかってるっすよ、タイトっちっ!!!」
テトとシンは手元の皿を投げ捨て、警戒態勢に移る。
「……えっ、ここどこ? タイト、マナト殿じゃないの、えっ!?」
「……────っ!?」
長老がいなくなったのに、ピョコモンが近くにいた。俺達だけと思っていたのにっ!?
「「「────ギャァっ!!!」」」
ダークティラノモンが3体……恐竜型デジモンが3体っ!?
「『メガフレイム』っ!!!」
「『獣王拳』っ!!!」
テトが2体、シンが1体敵を倒す……だが、
「────ギャァアアアッ!!!」
「────グルルルルゥ!!!」
「────アギャッ、アギャッ!!!」
「────ギャァオ!!!」
「────グギャァ!!!」
……草原の下……土の中から敵がたくさん溢れ出て来る!?
「タイトッ、倒せないこともないけど敵が多いよ!!!」
「タイトっち、逃げるべきっす!!!」
テトとシンのそんな声が聞こえる。だが、一面敵だらけで逃げる隙がない。
「わかってるっ、だけど……くそっ!!!」
「────あわわわわ!?」
ピョコモンを抱き抱えて、テトの側へと前転する様に避ける……さっきまでいた場所には黒い右腕が存在した。
……くそっ、進化をすれば脱出できるけど、進化できるほど隙はない。
そんな時、視界の端で黄色い何かが飛んできた。
「────
その声に導かれて、手を掴む。
気づいた時には俺の体は黄色い何かの上に乗っていた。目の前には見覚えのある白い背中が存在した。
「……マナトくん、大丈夫?」
その姿に、数日前の後ろ姿を思い出した。
「大丈夫ですよ、ネネさん────テト、進化だっ!!!」
「────わかったっ!!!」
俺という足手纏いが抜けたことにより、テトに進化を促す。デジソウルがテトに向かって集まっていく。
[グレイモン進化]
「『メタルグレイモン』っ!!!」
銀の頭を持つ、青のドラゴンがそこに降り立った。
「────あれは?」
「テト、シンを抱えて空を飛べ!!!」
上から見れば竜、竜、竜……地を歩く竜ばかり……でも、空へと追って来る敵は存在せず、このまま逃げる様に指示。
「わかった、タイト」
テトはシンを抱えて空を飛ぶ。
「────アギャアアアアアアア!!!」
竜どもは追って来れず、地の上で蠢くばかり……これって、いったい?
「────ネネさん、話してくれますね」
「────ええ、わかってるわ」
ネネさんは少し迷い、でも意を決した様に声を出した。
「────────」
「……えっ!?」
俺はその言葉が信じがたかった……なぜなら、
その言葉が、聞こえたからだ。
『デジモンの食べ物』
デジモンの食べ物は多彩だ。
アニメでは、『デジモンアドベンチャー』では魚や目玉焼きなどを食べる描写や続編である『02』ではチョコレートを好んで食べていたりとさまざまな物を食べている。
ゲームでは、肉の木で肉を販売してたり、釣りをしたり、キノコを採取するなど、さまざまな描写が存在する。
アニメ『デジモンクロスウォーズ』では、戦時中ということもあり、ほとんどのまともな食べ物はデジタルワールドには存在せず、味も美味しくなかったりする……だが、デジノアはデジモン達のご馳走であり、味にうるさい現代人でも、まともな食べ物として表現されている。
『4-0.5章』後の設定開示、また一章〜三章までの設定について
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IF√(没案)のある程度の設定開示
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第三章後半のオメガモンとの関連性
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クロスウォーズのその後