夢を見た。
『敵襲だ。火の海を出たら、敵の攻撃に備えろっ!!!』
あのときの夢だ。
『ムゲンドラモンッ!?』
『『♾️キャノン』ッ!!!』
『敵の状況は?』
『まだ、……っ、まだたくさんいるっす!?』
『しょうがないっ! ゴールドヌメモンとプラチナヌメモンは俺の周囲を警戒! ムゲンドラモンは殿をっ!!!』
逃げることに必死で、冷静な判断ができなかった。
敵の戦力を見ようともしなかった。
敵が逃げた先にいることすら考慮していなかった。
……だから、
『…………っ、あっ』
仲間が死んだ。
『ゴールドヌメモンッ!?』
『くそっ、『♾️キャノン』ッ!!!』
消えていく手の中で、ゴールドヌメモンは塵1つ残さない。
『……っ、うっぷ……っ』
駄目だ、考えるな……逃げて態勢を整えるんだ。
『タイト、大丈夫?』
『大丈夫だ、早く逃げるぞ』
甘かった。もっと、もっと容赦しなければーーーー、
『
死んだ。
しんだ、?
誰の? だれの、だれのせい?
ーーーー、俺のせいか?
『ーーーータイトッッ!!!』
ああ、もう嫌だ。
何が世界だ。
何が救うだ。
返せ、返せ、返せよ。
俺の初めての友達を。
嗤い声が聞こえる。
嘲笑う声が聞こえる。
ああ、そうだ。
ようやく思い出した。
この世界は、
デジヴァイスが
黒く、黑く、昏く、
重く、酷く、鋭く、
暗く、……そして、
『
デジモンは悪くない。
俺も悪くない。
全て、スベテ、すべて……、
『あは』
『あはは』
『あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』
『しにたい』
そう思えたのだ。
『……ねえ、』
体が誰かに揺らされる。
『ねえってば』
うっとうしくて、気持ち悪くて、……それ以上に、
『お〜〜き〜〜ろ〜〜』
温かみのあるその手のひらに、体を揺らされる。
『起きたっ!』
目を開くとそこには……、
『……虫じゃない?』
『ーーーー人間っ!?』
俺は驚いて、飛び上がる。
『アタシは人間だよ?』
彼女は不思議そうに首を傾げた。
2011/8/1/AM10:17
「あ゛づっぅーーーーぃ」
真夏の喫茶店。
テラス席しか空いてなく、俺とルビーはそこでかき氷を待っていた。
「あ゛づいよ、アクアぁ」
「ルビー、うるさい」
「だってぇえええーーーーっ、暑いんだもんっ!!!」
「人の目のあるところで叫ばない」
「ちぇえ〜〜〜」
ルビーに『バズってる店だからついてきて!』って、頼まれたのはいいものの、この席で待っているだけで暑苦しい。その上、ルビーがこうも暑い暑いと言うもんだから、さらに暑い気がしてくる……ん?
(……あれは?)
道路を挟んだ道の反対側、黒いパーカーとホットパンツの少女がアパレルショップの前で髪の毛を整えている。
(……にしても、服装が派手だな。東京でも滅多に見ないぞ。あんな痴女)
鏡に映ったその姿はまさしく痴女。
黒のパーカーに上半身は、ビキニといっても差し支えないような服装に、白と黒のホットパンツ。
緑色の髪と赤い目は対照的で、本人の美少女然とした顔つきに、服装が……いや、見目麗しい少女だからこそ似合う服装……だと、ーーーー、
(ーーーーッ、気づかれたっ!?)
急いで視線を外す。しかし、どうやら本当に気づかれたようだ。
(ねえ、アクア……あの人?)
少女は俺達に向かって笑顔で歩いてくる。
(さあ、俺の顔を見て目を輝かせた。俺やアイのファン……、だったら、嫌だな)
蛇に睨まれたカエルとはこのことだろうと思ってしまった
。俺達にとって少女はまさしく蛇であり、その少女の標的となった俺達はまさしくカエル……そんなことを上の空で考えていると、
「ねぇねぇ、君達っ!」
少女に声をかけられる。
その勝気な瞳はかき氷を食べにきた俺達にとって、『最悪な日』を予感させる。
「……何か、ようですか?」
「君達だよねっ! 星野アクアと星野ルビーって?」
…………、ルビー?
俺はともかく芸能界に出てすらいないルビーのことを彼女はなぜ知っている?
(何この人?)
ルビーもそのことが気がかりで、少し警戒しているようだ。
「ああ、そうだけど……、君はいったい」
訝しみながらも、その答えに頷くと……、
「やっぱりぃっ! アタシの頭は天才的っ! ここに来てから1時間、すーぐに見つけられちゃうんだからっ!!!」
『駄目だよ、リナ。僕達がなんでここに来たのかを説明してないから、彼ら混乱しちゃってる。ちゃんと説明してあげて』
((ーーーーッ!?))
少女が喜んだ途端、どこからともなく少年のような声が聞こえてくる。
「まったく、うるさいなぁ、ブイブイは……、しょーがないっ、リナちゃんの華麗なじこしょーかいっ! 決めちゃいましょうかっ!!!」
くるっと体を翻し、少女はこちらへと近づいて、
「アタシの名前は『四ノ宮リナ』!」
「
(ほしの、ターフェアイトの?)
(……コイビト?)
「「え゛ぇえええええーーーーッ!?」」
今世紀最大の爆弾を、喫茶店に投げ落とした……、ちなみに、喫茶店からは出禁になった。
「本当に来るのかよ?」
「住所は渡した」
時間は午後の2時。
あの後、俺は少女に『タイト連れてくるねーーーー!』とダッシュで走り去られる直前、家の住所と午後2時に来てほしい旨を書いてメモを渡すことができた……できたのだが、
(なんで全員ここにいるんだっ!?)
アイは今日は休みで、ルビーも夏休み……それはわかる。だけど、
「詐欺とかじゃないわよね?」
なんでミヤコさんと壱護さん、斎藤夫婦が揃ってるんだよっ!?
「詐欺だったら、彼女なんて言わないんじゃない? ……それに、」
詐欺を疑うミヤコさんにルビーがあのときのことを説明する。
「
そう、彼女は知っていたのだ……『星野家の子供が全員転生者』であることを、
「…………秘密?」
そう言って、アイが首を傾げ、
「秘密ってなんのーーーー、」
俺達に聞こうとした……そのときだった。
『ぴーん、ぽーん!』
玄関の外からそんな大きな女児みたいに話す少女の声が聞こえてくる。
『あれー、おかしいなぁ? こうすれば、だいたいの人は玄関に来てくれるのに?』
ふざけているのか、はたまた天然でやっているのかはわからないが、以前会った黒いパーカーの薄着で出歩ていた少女の声だと確信する。
『リナ、口で言わずに普通は『インターホン』を押すんだよ』
子供のようにはしゃいでいるその少女に対し、子供を諭すように話す少年の声。その声を聞いて2人がもう家の前に来ているのだと実感した。
『ああ、そーいえばそーだった!』
『いや絶対にわざとでしょ』
外ではあの『漫才』をやっているであろう2人とは裏腹に、玄関で話をしていた『彼女』が動き出した。
『じゃあ、もーいっかいやるね!』
『そぉーれ!』
ーーーーガチャリ、とドアを開けた。
「あれ、出てきちゃったね?」
『きっとさっきの話が聞こえてたんだよ! リナが大きな声で話すから、部屋の中まで聞こえてちゃったんだ!!!』
「そーいうブイブイも、アタシと同じぐらい声でかいじゃんっ!!!」
『これぐらい声を大きくしないと、リナは話を聞かないでしょっ!!!』
「なーにぃ、それはアタシが話を聞かないって言いたいわけっ!?」
「ねえ」
「タイトはどこ?」
「『ーーーーッ!』」
ーーーーにやり、と少女は……リナは笑った。
「
その声が聞こえた途端、リナの背後が光り始める。光はやがて扉の形へと変わって、人間サイズの……、いや、少年程の大きさの影がゆっくりと家の前に降り立った。
ーーーーたんっ!
全体的に青色で白色の線が入ったパーカー。『D-SHOCK』と胸に書かれた黒いロゴに白のTシャツ、灰色のズボンを履いている。
夜空色の髪に、背丈は……ちょうど俺ぐらいだろうか? 11歳にしては少しだけ身長が高い。
『目隠し』の少年が現れる。
「……リナ?」
少年は『目隠し』をしている為か視界が見えないようで、目の前の少女の手を探している。少女は期待したようにアイに視線を向けた。
「……たい、と?」
「ーーーーッ!?」
少年は声をした方に反応して肩を震わせ、ゆっくりとこちらへと視線を向けて……、
「
少年……、いや、『星野タイト』は口元だけが吊り上がった笑顔で笑ってみせた。
2011/8/1/PM2:30
「……どうぞ」
アタシとタイトの目の前にケーキが置かれる。
「わぁ〜、ありがとう!」/「お構いなく」
とても華やかなケーキだ。
みずみずしいレモンのすっぱい香りと甘ったるいハチミツの独特の匂いがとてもおいしそうで、
「…………」
タイト……の家族が見てるけど、タイトより先にパクリと食べてしまった。
「うーん、おいしぃ!」/「…………」
でも、これはしょーがないのである。
(お前に食わせる為に買ってきたんじゃねえよっ!)
だって、タイトは────
「ふぁい、はいと」
「……ん」
私の口にタイトの口が重なる。
(((────えっ!?)))
「「
「「「────ッ!?」」」
ちゅる、べろ、もぐ……ごっくん!
(あわっ、あわわわわわわ!?)
(えっ、今何が起こった?)
(くちうつし、……口移ししたっ!?)
(親の、……いや、親兄妹、血の繋がってないとはいえ、俺達3年間育てたきたやつだよなっ!?)
(…………え)
(((アイ/ママ/おいっ、大丈夫かっ!?)))
外野が何か騒いでる……けど、
「うーん、デリシャス……、タイトはどう? 『味はした』?」
「うん、おいしかったよ……、ありがとう、母さ……あれ?」
タイトが喜んで『食べれた』ことが大事なのである……、なにか気になるのかな?
「「「「…………っ」」」」
あれ、ケーキを持ってきてくれた人含め、私とタイト以外の全員がボーゼンとしてる?
『あのさ2人とも、……なんども言うようで悪いんだけどさ』
ブイブイの声、どこか呆れてるけど、まさかっ、何かやらかしたのではっ! ら
『
「「……あっ!」」
なんだ、そっちか。
『『……あっ!』じゃない! なんども言ってるよね? 『いくら事情があるから』って、人前で口移しで物を食べさせるのは駄目って、毎回言ってるでしょっ! 汚いじゃん!!!』
ブイブイに怒られた……ぴえん。
((……いや、そういう問題じゃない))
金髪のおじさんとタイトのおにーさんが、なんかとってもイヤな表情をしてるけど、まあいいかっ!
「タイトが……、あのタイトが……、口移し? してた。あは……あはははは……」
…………あっ!
「アイッ、アイ────ッ!?」
「戻ってきてよ、ママ────ッ!?」
タイトのママが卒倒した。
「……で、お前達はいったいなんなんだ?」
タイトのママをなんとかソファーに座らせた後、おじさんに声をかけられる。……んーと・この人はたしか斎藤壱護さん……で、
「…………リナ、自己紹介は?」
「あっ、そーだった!」
タイトにそう言われて、自分がタイトの
「アタシの名前は『四ノ宮リナ』! しがない、デジモンテイマーだよ!」
そう、私はしがないデジモンテイマーッ!
世界を救い、ヒゲの魔王バルバルを倒した。伝説的、
「デジモンテイマー?」
……って、あれ?
もしかして、そこまで有名じゃない? ……たっく、しょーがないなー。
「デジモンっていうのは……、出てきてブイブイ!」
────ブォン!
『まったく、リナにも呆れるよ。ねえ、カイナ』
『…………ちっ』
アタシのデジヴァイスからブイモンの『ブイブイ』、タイトのデジヴァイスからはクロアグモンの『カイナ』。やっぱ、この4人が揃うとしっくりくるよね〜〜っ!
(……あれ?)
あっちがなんか戸惑ってる。どしたの?
『僕の名前はブイブイ! リナのパートナーデジモンだよ!!!』
『カイナ。昔、タイトとこの家に暮らしてたデジモン……知ってると思うけど』
ブイブイは元気に、カイナはいつもどーりやさぐれ気質で自己紹介する。
(((めっちゃ、やさぐれてる────っ!?)))
あれ、そんなおかしなことしたかな?
「……あの、コロちゃんだよね?」
『…………ちっ』
(舌打ちされたっ!?)
タイトのお姉ちゃんであるルビーちゃんが声をかけたとき、カイナはルビーちゃんに向かって思いっきり聞こえるように舌打ちをした。うん、いつもどーりだ。アタシも舌打ちされるし、問題ナッシング!
『カイナ、駄目だよ! いくら家族でも、そんな扱いをしてたら嫌われるよっ!!!』
『知らない。知りたくもない。タイトが辛かった時にのうのうと生きていた奴らなんか『家族じゃない』』
ブイブイもそんな気にしなくていいのに……、
「「「────っ!?」」」
『それこそ失礼じゃん! 彼らだって神様じゃないんだ! そばにいれなかっただけだし、そばにいたかったはずだよ!』
『うるさい。知らない。興味ない。僕にとっては『そこ』にいたか。『そこ』にいなかったか……それだけだ』
アタシはケーキを食べると……、タイト?
「カイナ」
『なに、タイト?』
「ごめん」
タイトはカイナに謝る。また、これだ。
『謝まんないで、僕は……『僕達』だけは君の味方だ」
「ありがとう」
いつもこんなちょーし、……他人なんかに下手に関わるなんてろくでもない。だから、この世界には来たくなかったんだ。
『僕は寝るから』
タイトの感謝の言葉を聞いて、カイナは不貞寝し始める。
「いつも頼りにしてるから」
『僕もだよ。タイトだけが……ううん、タイトとあいつらだけが僕の光だ』
そこの絆にアタシは入れないから、この話は嫌いだ。
「……ねえ」
目の前の卒倒した女性。……星野アイ……だっけ? タイトのママが私に話しかける。
「……んーと、タイトのママだっけ?」
『タイトのお母さんっ!? めちゃくちゃ若いじゃないかっ!? リナ、早くそれを言ってよ!!!』
ブイブイ、うるさい。
「若いって……」
頬を染め上げるママさん……、うーん。げいのーかいで働いてるから、そういうのは言われ慣れてると思ったんだけどなぁ。
『あっちの茶髪のおねーさんだと思ってたじゃないかっ!?』
────ちょっ、それは禁句っ!?
(悪かったわね、『若くなくて』っ!!!)
(((……ミヤコ(さん))))
(女性に対して年齢の話は言っちゃダメだから!)
(……ごめんよ、リナ)
あっちの女性も怒らせちゃったし……ん?
「────そうじゃなくてっ!!!」
おっ、おう! 急に立ち上がると驚くよママさん。
「
「「『…………』」」
その質問にアタシもブイブイもタイトも上手く言葉にできない。でも誰かが話さなくちゃいけないから────、
「それはね……、タイト?」
私が話し出そうとしたとき、タイトが私の服を引っ張った。
「俺から話す、……話すよ」
「…………できる?」
「がんばる」
「……俺は」
家から、この世界から離れ、デジヴァイスにデジタルワールドに連れて行かれたこと。
子供とデジモンしかいない世界だったこと。
その世界で迫害されて、『安全』を常に警戒しないといけなかったこと。
自分とカイナ……、タイトの家族が言うところのコロちゃん? ボタちゃんって呼ばれてるクロアグモンが、強くなる為にがんばったこと。
仲間ができて、少しずつ、少しずつ力を手にして、……ついに、イジメをしてくる奴らを倒せるようになったこと。
仲間と楽しく暮らしたこと…………そして、
…………そして、
「
たくさんの軍勢に襲われて、仲間が殺されて、怒って、殺して、奪って、倒して……それで、
「それでどうなったの?」
ママさんが聞く。
「俺は世界を滅ぼした」
…………。
「カイナの力で世界を吹っ飛ばして……、吹っ飛ばした先で」
「
「……その子に?」
…………、もう、そろそろだ。
「それで、それで…………うっぷ」
タイトの限界が始まった。
「タイ、ト?」
急に吐き気を抑えるように口を塞いだタイトに驚いて、ママさんが心配そうにこっちを見る。うん、でもね。
「だいじょーぶだよ」
私がここにいるんだ。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。アタシはここにいる、ここにいるから。アタシはここにいるよ。だいじょーぶ。死なない、死なせない。誰も、誰1人」
「リ、ナ……」
アタシはタイトを思いっきり抱きしめてあげる。いっつも、こうしたらいっつも落ち着くんだから……だから、落ち着いていいんだよ。
ぽんぽん、ぽんぽん……はい、落ち着いてきた。
ゆーっくり、深呼吸して、……はいて────、もーいっかいいくよ────、ゆーっくり、深呼吸して、……はいて────。
どう、落ち着いた?
「ごめん」
その言葉を最後にタイトが倒れる。うん、今日はがんばったね。自分で言えて偉いね……そう、声をかけてから膝枕をする。
「「「…………」」」
みんな黙ってそんな光景を見ていた。うん、今度はアタシの番だ。
「ここからはアタシが話すね」
アタシは何から話そうかと悩み始める。
病気のことから?
キスしたことは?
タイトがなんで気持ち悪くなったか?
ここにくる前の段取りを思い出しながら、自分の行動を思い出し始める。
「……タイトは、タイトはどうしてそうなったの?」
唐突にそう聞かれて、アタシは少しだけ、ほんの少しだけ悩んだ後に……、
「タイトはね」
「
「…………」
アタシは話すことを決めた。
「ホントなら、『この世界を救うんだ────』って、がんばってたんだけどね。タイトはもうがんばれない……ううん、がんばらなくていいんだ」
「……『この世界を救う』って、どういうことだ?」
「……あれ、知らないの?」
なんで知らないの?
タイトがあんなにがんばってたのに、タイトがあんなに苦労したのに、なんで、なんで知らないの?
「
(((…………は?)))
驚いてる。
やっぱ、この人達はタイトからなんにも教えてもらってないみたいだ。タイトがどれだけ苦しんで……、いや、そうじゃない?
「タイトは知ってて話さなかった? うーん、だめだ。わかんねぇええええ────っ! でも、いいや。アタシ達にはカンケーないし!」
この人達と『アタシ達』は関係ないんだ……、それでいいんだ。だって────、
(こいつ意味深なことを言って、自己完結しやがったっ!?)
最悪、タイトを連れてデジラボに戻ればいいもんね?
『リ〜ナ〜、関係ないわけないでしょ! 話さないと駄目だよ! この世界の人達の問題なんだから!』
「えぇ〜、だってぇ〜〜!」
ブイブイ、……話終わったのに、また話を戻さないでよ。
『だっても何もない! リナが話さないなら、僕が話すよ!』
うっわ、またメンドーなこと言ってる。アタシの喉がからっからになったらどーすんのよ。あっ、でも、……うん!
「……まっ、そんなことはどーでもいいんだ」
「『────どうでもよくない(よ)っ!?』」
「でも、知りたいのは、タイトのことでしょ?」
「「「「「…………」」」」」
…………黙っちゃったよ。そこで黙られると帰りたくなるじゃん。
(壱護……どうする?)
(タイトのことか? ……そりゃあ、知りたいけどよ。世界が滅ぶって時に、目の前にいる人間の話を優先していいのかよ? 世界が滅ぶって言われてんだぞ!?)
(嘘かもしれないじゃない!)
(あんなトンチキ見せられて、嘘だって思えるわけねーだろうがっ!?)
(その話を聞いた後でも、タイトの話は聞けるしな……、気絶したタイトの意識が戻ってからでもいいんじゃないか?)
(でも、タイトのこと、私達知らないよ?)
(どーする、アイ?)
(…………)
(
こそこそ話終わった。よし、
「なら、決まりだね!」
早く話して、マンガを読もう!
「────っ、話聞いてたのかよ」
「とーぜん! 大事だもんねー、世界のことは……でも」
「
「「「────ッ!?」」」
アタシにとってタイトは、ブイブイとおんなじぐらい大切な存在だ。
「タイトはがんばったんだよ」
がんばったんだ。
「アタシと一緒に世界救ってさ。バルバル倒してくれたんだ」
「バルバル?」
「世界を滅ぼす大魔王! って感じのヒゲデジモーン!」
ヒゲモジャの仮面つけた変態デジモン。そいつ倒すのにはくろーしたんだけどさ。
「もーいいんだよ。タイトががんばんなくったって」
がんばらなくったっていい。
「タイトはいっぱい傷ついたんだから、いっぱい休まないと……、そーしないと、苦しいだけだからさ。アタシはずっと、ずーっとそばにいるんだ」
「タイトが大好きだから」
アタシはそー思うんだ。
(なんか、目のハイライトが……)
(やっぱり、ハイライトがないよね?)
…………ちょっと、ヤンデレちっくだったかな?
「
あれ、もう起きたんだ。
「俺はがんばらないと、がんばらないといけないんだ。あいつらの為にも、あいつらを犠牲に生き残った俺ができることなんだ」
…………。
…………。
…………。
「……そっか」
ずるいなぁ、うらやましいなぁ。なんで、アタシが知らないタイトのことで、タイトはずっと苦しんでるのが、ずっとずっと悔しいんだ。
「リナ、頼む」
タイトはそう言って、目隠しを外すように私にお願いする。
「…………、わかったよ」
「……えっ!?」
誰かの驚く声が聞こえた。それでもアタシはゆっくりとタイトの目隠しを外していく。外れていく……、しゅるしゅると念入りに閉じられた目隠しが包帯のように外れていき、1メートルぐらいの束になって床に落ちる。
「────、っう」
大きく息を吸いながら現れる『金色の瞳』……そして、
「…………っ、ぅえっ!?」
「タイトッ、────おじさんっ、トイレはっ!?」
「この部屋を出て左の角を曲がった先に────」
「わかったっ!」
タイトの腕を引っ張って、急いでトイレへと走る。
「うっぷっ!」
吐きそうになる前に、トイレのドアを開けて、タイトの顔を突っ込む。
「お゛ぅ、う゛ぅぇええええええ────ッ!!!」
セぇぇえええ──ーフッ!
「ぅえ、あっ……げぇえええっ!!!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、落ち着いて」
背中をさすりながら声をかける。
「…………っ、虫がっ、虫が目の前にっ!!!」
「なにが見えた?」
「対面のソファー、真ん中は人に見えたけど、左は赤いカブトムシ、右は青いクワガタ、後ろの椅子に前足をかけていたのは黄色のカナブン、椅子に座ってるのは茶色のコガネムシ……うっぷ!?」
思い出して、もう一度吐き気が戻ってきたみたいなので、なんどもなんども優しく背中をさする。
「お゛う゛ぇええええ────ッ!!!」
吐いた吐瀉物にはレモンの破片やハチミツが混ざった匂い、昼食に食べたサラダやコーヒー……、全部トイレの中に戻していく。
「……っあ、はぁ、はぁ、はぁ……ぅえっぷ」
「だいじょーぶ、無理しないで。もういいから、ゆっくり吐いて、ゆっくり……そう、ゆっくり、うんっ! 落ち着いてきた、落ち着いてきたでしょ?」
なんどもなんども同じことを繰り返す。
「……すぅ、ぅはぁ」
「はい、これ飲んで」
吐き気がおさまったみたいなので、ペットボトルを取り出して水を飲ませる。金色の瞳に虚な様子がなくなって、完全に焦点がこちらにあった。
「……リナ?」
目の前にいるのがアタシだとよーやく気づいたみたいだ。
「そーだよ、君のリナだよ」
「……リナっ、……リナァッ!!!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶだよ。君のそばにいるから、君から離れないから……だいじょーぶ、だいじょーぶ」
タイト勢いよく抱きついてくる。ただ、その腕には力が入ってなくて、少しずつ、少しずつ力が抜けていった。
「……り、な」
アタシはそんなタイトを見ながら、ゆっくり、ゆっくりと背中を叩く。
「落ち着いて、落ち着いて」
「…………」
タイトの意識は消えて、今度こそ完全に気絶したみたいだ。
「はい、もう落ち着いた……、口元も拭いて……これで、よしっ!」
アタシはタイトの口元と、抱きつかれたところに当たった汚れをウェットティッシュで拭き取り、タイトをトイレに寝かせる。
「……ね?」
「「「…………」」」
「これでわかったでしょ? タイトが目隠しをしてる理由」
誰もタイトのことを助けなかった。そうだ、誰1人動けてないんだった。
「さっきの虫って」
金髪のおじさんに話を聞かれる。
「タイトは最初の世界を滅ぼしてから、ほとんどの人が虫に見えるんだよね〜〜。今回は当たりだから、別にいいんだ!」
そう、どーでもいいのだ。
「当たりって……、虫なのに当たり」
タイトの虫には意味がある。
「カブトムシやクワガタムシみたいなかっちょいい虫は、人としてしんよーができる人で、カナブンやコガネムシみたいな奴らはそこそこ信頼してるって奴だからね〜〜」
『逆に嫌われてるような虫は、すごく嫌いな奴存在って認識だよね。ゴキブリなら犯罪者だったり、シロアリは性関連で汚い人、カマドウマやバッタは卑怯者でナメクジは汚いことで金を稼ぐ人』
ここにいる人は安全だと、タイトがわかってるから、それだけで良かったと心から思えた。
「驚いたのはカマキリだよね────、……って、理由はなんだっけ?」
『性欲の対象に見られてるかつ、利用できるけど関わりたくない気持ち悪い相手』
「そーそー、……かなりひどいよね。相手も酷いけど、タイトの考えもだいぶひどい……でも」
「放って置けないくらい、好きなんだよね」
そう、アタシは好きなんだ。
これ以上ないぐらい、目の前で嘔吐するようなひどいやつでも、メンドーな奴でもアタシはこいつが好きになったんだ。
気持ち悪い。/ムカつく。
愛したい。/いらない。
治したい。/このままでいい。
大切な……はずだ。/タイトを助けなかったくせに。
この世界を……、/そんな重いもの気にしなくていい。
家族を、/大事な時にいなかったよ。そばにいたのは自分と……、あいつら以外いらない。必要ない。
虫は嫌いだ。影も嫌いだ。/人間もデジモンも嫌いだ。
病気を治さないと。/タイトを早く『デジラボ』に連れてくんだ。
リナ、いつも迷惑かけてる。/女狐どもの手を借りないといけないのは皮肉だけど……、我慢、我慢できてる。
ごめん、カイナ。/謝らないで、弱かった僕が悪いんだ。
俺が、俺がもっとーーーー、/僕が、僕がもっと手段を選ばなければ、
…………。/…………。
「「もっと、もっと、もっと強くなりたい」」
「「もう、失いたくない」」
「「だから」」
「「