産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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世界を救う主人公になりたかった。


彼の横たわるベッドを見る。


彼が起きたら俺の世界を一緒に救いに行きたかった。


でも、神様は言った……『貴方の世界は既に救われた』と。


それを聞いてーーーー俺は何を考えていたんだろうと思った。


彼の体はまだ動かず、寝たきりで眠る彼を見る。


ーーーー俺のせいでこうなったのに……俺はいつまで夢を見ている。


彼の姿は変わっていく……俺を守る為に、俺から敵を遠ざける為にした行為で、次々と大事なモノを失っていく。


ーーーー未来も明日もなくなった彼に、俺は、俺は?


目覚めた時の為に、修行に明け暮れるテト殿。

そんなに気にする事じゃないっすと言ったシン殿。


……俺はあんなふうにかっこよくなれない。

……ああ、そうか。



ーーーー俺は主人公は向いてなかったんだ。





After story 夜空色の流れ星

 

 ────コン、コン、コン

 

 何か音が聞こえ、少しずつ夢が覚めて行く。

 

「…………ん、んうん?」

 

「────ここは?」

 

 目が覚めるとそこは、医務室だった。

 

「……なんか重い?」

 

 寝起きの体を起こそうとするが、少し重たく感じた。

 

「────それに、何か違和感がある」

 

 起きた時もそうだ……体の何かが変わった気がする。

 

「…………」

 

 寝起きで回らない頭を動かして、思い出そうとする。

 

 ……たしか、ダークナイトモンと戦って、テトとシンがカオスモンに進化して……そして、

 

 ────カチャン

 

 ああ、そうだ……俺は体がボロボロだったから、戻って来た安心感から気絶してしまったんだ。

 

 

「────ようやく、起きましたか」

 

 

 …………ん、部屋に誰かいる? 

 

「────っ!?」

 

 急いでドアの方を────

 

「────うぐっ!?」

 

 やっぱり思ったように動かない……そんなに長く寝ていたのか? 

 

「────無理に動かすからですよ」

 

 そう透き通った声で言ったノルン……ここでは様をつけたほうがいいか。

 

「────ノルン様」

 

 ノルンは俺の目の前の椅子に座る。

 

「無理に言わなくていいですよ……ここは、プライベートな場ですから」

 

 …………ん? 

 

「────もう貴方が、私を盲信していない事は知っています」

 

 ────は? 

 

「テトから聞きましたよ……『タイトはもうお前なんかに屈しない……なんでかって? お前の事を様付けしないからだっ!!!』って言ってましたよ」

 

 そう小さな子供を見て微笑む母親のように、そんな事を言ったノルン。

 

 

「……あのバカ……ノルンはこの世界の主人で、俺達を6年もの間面倒見てくれてる人になんて事を言うんだ。確かに盲信はしなくなったけど、尊敬してないわけじゃないからな。第一俺は────

 

 

「────()()()()()()()()()()

 

 

 俺の言葉を遮り、真剣な声音でノルンはそんな事を言った。

 

「……えっと、何が?」

 

 俺はそうノルンに聞く……だけど、

 

 

「…………」

 

 

 ノルンはじっと、こちらの顔を見て動かない。

 

「────はあ」

 

 そうため息を吐いた……何が? 

 

「貴方の事で話があります……ついて来てください」

 

 ……ん? 

 

 ノルンはそう言って医務室のドアの方へと向かう。その行動が理解できずにただ、ぼーっと眺めていると、

 

 

「────早く来なさいっ!!!」

 

 

 ノルンに怒鳴られてしまった。

 

「────ハイッ!!!」

 

 反射的に、反応してしまった……勉強や修行で怒られると、ノルンにいつも怒鳴られるので、ついつい返事をしてしまう。

 

「────んっと……?」

 

 重い体を無理矢理叩き起こすが……違和感がやはりある。

 

 ……なんか、目線が低い? 

 

「…………────っ、そんな事考えてる場合じゃなかった。早くついていかないと……」

 

 ノルンが部屋の外で待っているのを思い出し、早くドアに向かって走り出した。

 

 

 

 医務室から出て数分……違和感の正体が掴めないままノルンへとついていく。

 

 ……そういえば、テト達はどうなったんだろう? 

 

 俺はここに戻ってから数秒で気絶してしまった。けど、テト達は違うはずだ……テトもシンもムーチョモンも怪我はしてないし……なのに、ノルンはなんの反応もしない。

 

 そして、さっきのテトの発言……俺の今の待遇もそうだが、あの発言を聞いた他のデジモン達に何かやられてないだろうか? 

 

 先程から無言で歩くノルンの姿に、俺は一抹の不安を憶える。

 

 テト達の安否が心配になってきた。

 

「────あの……?」

 

 俺はついにノルンへとテト達の現状について、話を聞く事の覚悟を決めた。

 

「……なんでしょうか?」

 

 ノルンは静かに聞いてくれる。

 

「────今、テトやシン、ムーチョモンはどうなっていますか?」

 

 

 ────ピシリ

 

 

 そんな感じで、ノルンの体の動きが固まった……えっと、何かまずい事でも言ったのだろうか? 

 

「────は、ハイ……テトとシンは貴方の見舞いの時間以外は、修行に費やしています」

 

 テトとシンはまあだいたい予想通りの動きをしている……が、ノルンの挙動が何かおかしい。

 

 何か、別の話題にすり替えようとしているような……そんな感じがする。

 

「貴方の治療をしはじめてから、毎日顔を見せに来ています……というより、テトは修行の時間を毎日抜け出して、会いにきて、『タイトは早く治らないのかっ!?』ってうちの看護担当に怒鳴っていますね」

 

 ……うん、テトはそういう事をする。

 

 ご迷惑をおかけしてすみません。

 

「それをシンが捕まえに来て、『毎回うちの先輩がすみませんっす』って言って修行場まで連れて帰るんですよ」

 

 ……シン、フォローナイス!!! 

 

 後で、チーズケーキを奢ってやる。

 

「テトが毎回ご迷惑をおかけしてすみません」

 

 ノルンに軽く頭を下げながら言う……いちおう謝っておくが、まだ聞いてない事がある。

 

「はい、問題ありません……前のテトに比べたら、はるかに────」

 

 

「ムーチョモンはどうなりましたか?」

 

 

 ────ピシリ

 

 ノルンが動きを止めた。

 テトについて物凄く気になる事を言っていたが、それよりもノルンの様子からムーチョモンが心配になる。

 

「……ああ、えっと、その────」

 

 しどろもどろになるノルン……姿が美人だから映えるが、やってる事が何かおかしい。

 

 やっぱり、何かあったのだろう。

 

「それで、ムーチョモンはどうなりましたか?」

 

 俺はもう一度聞く。

 

「…………」

 

 ノルンは口を閉じる……そして、覚悟を決めるように一息ついた。

 

 

「────もうすぐ見えて来ますよ」

 

 

「…………はっ?」

 

 頭を抑えながら言ったノルンのその言葉に疑問を抱いたその時────

 

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 

 テトとシンと……ん? 誰だ今の? 

 

 聞き覚えのある声が今変な喋り方をして話していたような……あっ、先程の怒鳴り声が出ていた部屋の前に着く。

 

「……────えっと?」

 

「────うふふふ……理解できませんよね」

 

 今度は俺が状況を理解できず固まり、そんな固まった俺をノルンが笑う。

 

 

「タイト氏は拙者に対してそんな事は言いませぬぞっ!!!」

 

 変な口調のムーチョモン。

 

「いーや、タイトはお前を捕まえて怒るに決まってる」

 

 ポテチの袋を取り上げるテト。

 

「ポテチ食い過ぎっす────後、そこの2人っ!!! こいつを甘やかすのも大概にするっす!!!」

 

「────まあまあ、いいじゃないか」

 

「僕らだってこの続きが見たいんだし……」

 

 ムーチョモンを叱るシン……と、ムーチョモンを庇うツルギさんとユウさん。

 

 

「────いったいどうなってるんだ?」

 

 

「────っ!? タイト氏ぃ────っ!!!」

 

 そう言ってポテチまみれのクチバシで突撃してくるムーチョモン。

 

「おい、やめろっ!!!」

 

 その口で病衣を汚すな。

 

「……タイト、起きたの? ────タイトォ────っ!!!」

 

「タイトっち────っ!!!」

 

 遅れて2体もこちらへとやってくる。

 

「タイト氏、先輩方が酷いのですぞっ、拙者が歴代の英雄方のご活躍を見ていたというのに……こちらの先輩方が止めてきたのですぞっ!!!」

 

 泣きながらそう言ったムーチョモン……テトとシンが何かやったのか? 

 

「……あ゛あ゛っ? 生言ってんじゃねえよ……タイト、こいつは修行ほっぽりだして、テレビをずっと見てたんだっ!!!」

 

「オイラも納得いかないっす……先輩の修行をサボるのはまあ仕方ないとしても……その体はなんだっす、その体は……そんなにデブって、頭おかしいんじゃないっすかっ!!!」

 

 テトとシンがムーチョモンの言葉にぶちギレた。

 

 ……話の内容から察するに、俺が寝ている間にムーチョモンに何かあって、こんな変な引きこもりのオタクみたいになった。

 

 テトとシンは俺の仲間になったムーチョモンに修行をつけようとするが、ムーチョモンは逃げ出した……後、ムーチョモンがこうなったのには、ツルギさんとユウさんが関わっている……と、

 

 とりあえずは────

 

「ムーチョモン」

 

 笑顔でムーチョを呼んでみる。

 

「────タイト氏ッ!!!」

 

 首に親指を当て、横に切る。

 

「────タイト氏ッ!?」

 

 ガビーンって音が鳴ったように、驚愕の顔を見せるムーチョモン。

 

「テト、シン、こいつをザンバモンのところに連れてけ」

 

 テトとシンに一番修行がキツイところへと連れてくように命令する。

 

「────わかったよ、タイト」

 

「了解っす、タイトっち!!!」

 

 先程までは比較的優しく対応してた2体……俺の命令で容赦なく首根っこを掴み、廊下へと出ていく。

 

 

「────タイト氏ぃ────、拙者は嫌ですぞぉ────助けてくだされ────、拙者ば────」

 

 

 そんな声が聞こえて来るが無視をする……本当に危険なところだった。ばーぷモンに進化したら、ここに災害が起こるところだぞ。

 

 

 ……そして、問題の2人は────

 

 

「────おい」

 

 

 部屋からこっそり出て行こうとする2人の肩を掴む。

 

「────っ!?」

 

「────っ!?」

 

 2人は驚いて肩を揺らすが……絶対に逃さないと腕に力を込める。

 

 

「────それで、ああなった説明をしてもらおうか?」

 

 

 俺は『やさしい笑顔』で2人へと言った。

 

 

 

「────それで?」

 

 ツルギさんとユウさんを正座させて話を聞いた。

 

「……えっと、以上です」

 

 だいたいの話の流れはわかる。

 

 俺が倒れた後、ムーチョモンは人質に取られた事を気にし始めた。

 

 その後、テトやシンの言動を見ているうちに絶望し、気後れしてしまう。

 

 トドメとばかりに、ノルンに自身の世界は救われた事を告げられ、部屋に引きこもるようになる。

 

 そんな様子のムーチョモンをを見かねて、ツルギさん達が歴代の英雄……つまり、『デジモンアドベンチャー』や『デジモンテイマーズ』などのアニメを一緒に見るようになった。

 

 登場人物の感情移入がうまくできなかったムーチョの為に、ツルギさん達は自分の世界へ手当たり次第、アニメやらドラマを借りてきてしまった。

 

 

 ────そうして、

 

 

「あのオタク系ムーチョモンができたってわけか」

 

 

 だから、テトもシンも俺が言わなければ、修行へと無理矢理連れていく事はしなかったのか……と思ってしまう。

 

 シンはともかくテトなら無理にでも連れて行きそうなんだけど……あいつもこの戦いで何か変わったのか。

 

 ────納得ができたので、目の前の2人を見る。

 

「「…………はい」」

 

 …………ふう、とため息をつく。

 

「……別にいいですよ」

 

 2人は正座しながら頭を下げて謝ってくれるが、別にこの2人が悪いわけではないのだ……本当に悪いのは────

 

 

「────タイミングが悪いんだよな」

 

 

 俺が斉藤さんを脅した時も、テトがシンにキレた時も、テトとシンが本気で喧嘩した時も、だいたい俺達はタイミングが合わない。

 

 人間関係……というか、仲間との関わるタイミングが悪い……というか。

 

「結局、振り出しに戻ったような気がする」

 

 テトとシンの関係が落ち着いたら、今度はムーチョモンかよ……と思った。

 

「────タイト、話が終わったのなら、ついてきなさい」

 

 ノルンはそう言って、この部屋から俺を連れ出した……ムーチョモンが変わった原因は、あんたも関わってるんだって言えれば楽なんだけどな。

 

 促されるまま、俺は城の謁見の間まで連れて来られる。

 

 今日のノルンは何かおかしい。

 

 俺が今まで関わってきたノルンとは違い、緊張しているというか……俺に対して厳しいというか……言葉にうまく言い換える事ができないけど、そんな感じがする。

 

「────タイト」

 

 ノルンが玉座に座り、俺が跪いてこうべを垂れる。

 

 今ここにいるのは神と人……神前であれば礼儀を正さなければならない。

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ノルンは唐突にそう言った。

 

「────は?」

 

 俺は理解ができずに困惑する。

 

 

「まずはこちらで『顔』をを見てください」

 

 

 しかし、そんな中でもノルンは俺の顔へと鏡のように反射する、手鏡サイズの水晶を飛ばしてくる。

 

 イグドラシルの力の一端である水晶操作をこんな形で使用してもいいのか、と疑問に思う…………が、俺は言われ、た通り、顔、を……? 

 

 

「────っ!?」

 

 

 ……()()()()()()()()()()()っ!? 

 

 俺が気絶する前の髪は母親譲りの夜空色で目は星のように煌めいていたのに、今では髪も目もどこかで見たことのある明るい茶色へと変化している。

 

「…………どうやら気づいていなかったみたいですね」

 

「────これはいったい?」

 

 ノルンは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 

「貴方がこうなったのは、全て私に原因があります」

 

 

「…………」

 

 ……いや、本当に何があったのか理解できない。少なくとも、人間の体であれば髪を染めたり、目にカラコンを仕込む……ぐらいなんて、現実逃避している場合じゃないみたいだな。

 

 ノルンから感じてた緊張感や焦燥感は、この説明をする為だったんだ────パンっと、両手で頰を叩き、気合を入れ直す。

 

 ……聞く準備ができた。

 

「いったい、俺はどうなったんですか?」

 

 ……俺が覚悟を決めると同時に、ノルンも覚悟を決めたようだ。

 

 

「最初に結論を言いましょう」

 

 

「────貴方は『星野アイ』の息子ではない事がわかりました」

 

 

「…………は?」

 

『貴方は『星野アイ』の息子ではない事がわかりました』

 

『貴方は『星野アイ』の息子ではない事がわかりました』

 

『貴方は『星野アイ』の息子ではない事がわかりました』

 

 何度もノルンの言った事を繰り返す。

 

 正直に言って、それでも理解ができなかった。

 

 赤ん坊の頃の家族写真は見てるし、生まれた時の記憶はないけど、3人が生まれた日の写真は家族のアルバムになっていたはずだ……それなのに、俺が家族じゃないってどういう事だ? 

 

「────正確に言いましょう」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』……()()()()()()()()

 

 

 …………ん、チェンジリング? 

 

「いやいやいや……ちょっと待って、頭の整理が追いつかない。

 まずはイグドラシルに造られたって何? チェンジリングって、妖精が赤子を交換するあれだよな……それをなんでイグドラシルが? わかんない、わかんないって!!!」

 

 俺の頭は今ものすっごく混乱してる。

 

 自身の出生の秘密とかわかってないけど、なんでノルンがそんな事を知ってるんだ……わけがわかんねえ!? 

 

「────ほんっとうに、わかんないんだけど!!!」

 

「…………」

 

 ノルンは驚いた様子でこちらを見て、その後ふふふと笑ってみせる。

 

 

 ────いや、わかんねえよ。

 

 

「ふふふ……説明しましょう」

 

 

 ────貴方がボロボロになって帰ってきた後、貴方の体を治す為に、貴方のデジヴァイス……いえ、クロスローダーの中に入っていた内部データの一つである『八神太一の遺伝子(データ)』を貴方へと注入しました

 

 貴方は新たに入れられた八神太一の遺伝子(データ)に『うまく』適合し、肉体が再生しました……その影響で貴方の髪と目は茶色に変わったのです

 

 ……しかし、私はなぜ『うまく』適合したのかを調べました

 

 貴方が寝ている1ヶ月の間、貴方の体とクロスローダーを再び調べ直して、わかった事があります。

 

 一つ目は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 二つ目は『『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この二つです。

 

 一つ目の発見で私は更なる疑念を抱き、二つ目で確信に至りました。

 

 私達、イグドラシルは自身の暴走を予期して、幾つもの対策を生み出しています。

 

 例えば、神に使えるロイヤルナイツでありながら、神に反旗を翻す事を赦された騎士『アルファモン』

 

 例えば、『ホメオスタシス』の様な私達イグドラシルに敵対する神の存在を許す事で、暴走を防ぐ事。

 

 ────そして、全てのイグドラシルの暴走への最終手段として、

 

 

『対神器・デジモンツイン』の存在があります。

 

 

 私達『デジモンNEXT』の世界で使われたならあるはずの『デジモンツイン』のデータが貴方のクロスローダーの中から発見できなかった事から、

 

 

『神へと反旗を翻す事を認められていない』

 

 

 ……という意思が感じられました。

 

 ……また、星野アイの遺伝子のデータが破壊されていない事から、『星野アイ』の息子である事が重要なのだと私は判断しました。

 

 ────そして、貴方から伝えられた二つの滅亡…………

 

 一つ目の『デジモンサヴァイブ』の物語

 

 二つ目の『サイバースルゥース』のの物語

 

 この二つの物語が混じり合った事から、『星野ターフェアイト』がイグドラシルによって、貴方の産まれた世界へと呼ばれたのだと私は推測しました。

 

 つまり、貴方は星野アイの息子として産まれたのではなく、『イグドラシルが、星野アイの遺伝子を受け継いだ人間に都合のいい魂を持ってきた存在』……だと私は考えています。

 

 

「…………まだ、推測の域を出ませんが、こんなところですね」

 

 

「…………」

 

 俺がイグドラシルによって造り出された? 

 

 俺に『八神太一』の遺伝子を注入? 

 

 クロスローダーの中に『デジモンツイン』のデータが入っていない? 

 

 

 ────そして、俺は『星野アイの息子ではない』。

 

 

「────くっそ、頭が痛い」

 

 信じていた(げんじつ)と、実際に聞かされた(じじつ)……二つの情報が頭の中をぐるぐる回っている。

 

 ────何が本当で、何が夢なのかわからない。

 

 考えが纏まらず、狂った様に現状に対しての怒りや憎しみ、俺の今までの行為はなんだったのかという過去への苛立ちが頭を巡ってくる。

 

 ……それでも、

 

『タイト』

 

『タイトっち』

 

『タイト殿!!!』

 

 俺を慕ってついてきてくれる奴らがいるから、今更どうだって良くなった。

 

 ────それに、

 

『でもね、タイト…………私の嘘は貴方を守る為にあるの。貴方が大きくなるまで、私の元から離れるまで…………ずっと、守り続ける為にあるの』

 

『……ママは強いんだ。たとえタイトが怖がってても、どんなに怖いモノが来たって、ちゃんと守ってあげる』

 

『そうだね、ないかもしれない……でもね、ママはきっとあなたを守るよ。だってこんなにも怖がってるタイトを見捨てることなんてできないし、タイトの為だったら無限に力が湧いてくるんだから』

 

 ……そう言ってくれたあの人を今更、裏切るなんて事はできないからな。

 

 

「────ノルン様」

 

 

 俺は意を決して、『あれから』ずっと考えていた事を話し出す。

 

「────なんですか?」

 

 なんと言われようと構わない。

 俺はあの時から、こうするって決めたのだから……もう迷いはしたくなかったから、もう一度やり直す事を決めたんだ。

 

 

「────みんなをここへと集めてください」

 

 

 目の前の玉座に座るノルン。

 

 その横に控えるザンバモンとホーリーエンジェモン。

 

 玉座の間に集まった多くのデジモン達と、ツルギさんとユウさん。

 

 ノルンの玉座の前にひざまずく俺とテトとシン……そして、あのときいなかったムーチョモン。

 

 あの時とは違うことも多いけど……

 

 

 

 ────これは、あの夜の再現だ。

 

 

 

 この部屋を包み込む緊張感……懐かしいとさえ思ってしまう。

 

 多くのデジモン達に睨まれ、この世界を揺るがした存在として警戒されていた三年前のあの夜。

 

 

「────表をあげなさい」

 

「────はい」

 

 そう言って俺とシンとムーチョモンが顔を上げる……テトはいつも通り、ノルンの話を無視しているな。適当な方向に睨みを効かせてる。

 

「────では、タイト……貴方がここに全員を呼び、話したい事があると言いました……それはなんですか?」

 

 ノルンがそんなテトを無視して俺の方へと聞いてくる……いつもの光景だったけど、俺としては1月ぶりぐらいの時間が経っているので懐かしく感じてしまう。

 

 ────それでも、聞かれたのなら答える必要があった。

 

「それは俺の間違いを正す為です」

 

 俺の3年前の答えを正す為だ。

 

「────えっ!?」

 

「────はあっ!?」

 

 テトとシンが驚いた顔をする……無理もない。俺はこいつらに話す前に、気絶してしまったから。

 

「────間違い、ですか」

 

 ノルンが厳しい目線でこちらを見る……俺の事を見定めるような顔つきに変わる。その様子の変化に少し驚くが……だけど、もう後戻りはできない。

 

 ────いや、するつもりはない。

 

「俺はこの3年間、ずっと考えてきました」

 

 そう考えてきた。

 

 

「────家族以外の全てを見捨て、テトの力を使い、デジタルワールドへと逃げるのが最善ではないかと」

 

 

「────っ!?」

 

「……おい、どういう事だ?」

 

「3年前のあの言葉は嘘だったと?」

 

「────いや、あのタイトがそのような事を言うはずが……」

 

「結局は逃げ腰だったって話だろ?」

 

「俺はあいつを信じるぞ」

 

 俺の発言の後、周囲が騒めきだす……あの時、ノルンへと啖呵を切った俺を信じる者、嘘だと疑う者、発言に驚く者、俺の事をはなから信じない者……いろいろな声が聞こえてくる。

 

 

「────静かにっ!!!」

 

 

「「「…………」」」

 

 しかし、ノルンの一言でそれらの会話が一切無くなった……さすが、神様だな。

 

 俺はテト1体で精一杯なんだけどさ。

 

「────それで、間違っていたとは……いったい?」

 

 ノルンが訝しげな表情でそう言った。

 

 その顔には、信じられないと言った感情も見えるが……今の俺には関係ない。

 

 言葉を続ける。

 

「俺はかつて貴方に『戦う』と誓った」

 

「仲間や家族を守る為に……世界を救う事を決意した」

 

 

「────()()()()()()()()()()()()

 

 

 その瞬間、ここにいる者の中から失望と怒りのこもった視線を向けられる……まあ当然だけどさ。

 

 それでも俺は言葉を続ける。

 

「俺はこの世界を旅だってから、さまざまな出会いがあった」

 

 はじめはタイキさんとシャウトモン、ドルルモンが大切な事を教えてくれた。

 

「迷って、悩んで、反吐が出て……どうしようもなくて逃げ出したくても、逃げられなくて」

 

 戦争(クロスウォーズ)に参加した。

 

 大切な事は忘れてたけど、それでもキリハやネネに出会えた事で大事な事を学べた。

 

「みんな必死に戦って、守って、苦しんで……それでも前を向いていた」

 

 ブラックテイルモンは俺達の事を真っ先に味方になってくれて、バーガモンは美味しいハンバーガーを作ってくれた。リリモンはちょっと変な味だけど、ジュースを持ってきてくれたし……みんな、みんなあの戦場で前を向いて暮らしていた。

 

「その姿を見て、聞いて、感じて……そして気づいた」

 

 ピョコモン……いいや、ムーチョモンはそんななかでも、大切な事を気づかせてくれた。

 

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ……そう、俺はあの世界が大好きだった。

 

 戦争があっても、殆どが侵略されてどうしようもなくなっても、自分たちより強いデジモン達が軍勢でやってきても、決して諦めなかったあの世界が大好きになっていた。

 

 

「────そして、俺はもう一つ大事な事に気がついた」

 

 

 俺はあの世界が大好きだって事に気がついてから、今まで考えないようにしていた事を、ここで初めて話す決意をする。

 

「……その大事な事……とは?」

 

 俺の決意を固める為の数秒の間に、ノルンが話を聞いてくれた……正直言ってありがたかった。

 

 ────これで決意が完了した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────っ!?」

 

 ノルンが驚いた顔をする……それでも話を続ける。

 

「俺は幼少期から、家族以外の人間と関わる機会がありませんでした」

 

「赤子の頃はアイの息子ってバレないように、アイと斉藤さん、ミヤコさんの3人に面倒を見られていた」

 

「1歳を過ぎる頃になると、すでにテトがうちにいて、そのうえで斉藤さんを騙して利用しようとした事から、さらに監視を強化されてしまう」

 

「2歳から3歳はアイの身の回りやデジモンの世界であるかどうか調べる為に、テトと一緒に必死になって探し続けた」

 

「ようやく見つけたストーカーと殺人鬼……本当に大切だけど、嫌な事ばっか調べてた気がする」

 

 

 ────果たしてそんな生活では、産まれた世界を好きになる事はあるのだろうか? 

 

 答えは否だ。

 

「あの頃の俺は産まれてから、テト以外の友人というモノができた事がありませんでした」

 

「監視され、母を守る為に調べ物をし、そして見つかったら対策を打つ……────そんな俺に世界を好きになる事はあったのだろうか?」

 

「答えは違います」

 

「俺にとって、あの世界は母や家族のいる場所以外、世界ではありません……未知の世界といっても違いありませんでした」

 

「そして、いつのまにかそんな世界を『家族がいるから』……という理由で、知らないものまで救いたいという異常な考えを持つようになりました」

 

 

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「何のために生き、何のために戦う……全てに理由が必要でした」

 

 

 

「────だから俺は、あの世界へと戻った時には『見て』、『聞いて』、『学び』……それから────

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「俺には逃げる力がある」

 

 そう言ってテトを見る。

 

 ミレニアモンに進化すれば、別世界へと逃げる事ができるから。

 

「俺には戦う力がある」

 

 そう言ってシンを見る。

 

 カオスモンに進化できれば、どんな敵だって倒す事ができるから。

 

「俺には目指す目標がある」

 

 そう言ってムーチョモンを見る。

 

 俺はムーチョモンの夢を聞いて思い出した……俺もデジモンの主人公のような人間になりたいという夢を。

 

 ────せめて、あの人達に恥じない生き方をする為に、

 

 

「────だから俺はあの日の宣誓をやり直します」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()!!!」

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 俺の宣誓の後、その場は静まり返った。

 

(流石に、神の前で宣誓した事を、宣誓し直すのは不味かったかな?)

 

 ……そう小声で言った時、

 

 

 ────パチパチ、パチパチと、ノルンが拍手をしはじめる。

 

 

「────変わりましたね」

 

 

 ノルンはこちらを見つめて、微笑んだ。

 

「────正直に言うと、かつての貴方の答えでは信用できませんでしたが……」

 

 そう言いながら俺の目の前まで、階段を歩いて降りてくる。

 

 ────そして俺の目の前に立った時、一つの小さな箱を取り出した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 箱を開けると中には────っ!? 

 

 

 

「────『()()()()()()()』っ!?」

 

 

 

 驚きの余り声をあげる。

 

 かつて、ツルギさんとユウさんが、バルバモンとNEOと戦う為に使った『対神器』……それが目の前にあった。

 

「きっとこの先、神と戦う事があるでしょう。その時はこれを掲げて戦いなさい────これは『神から神殺しを認められた存在であると』証明するモノです」

 

 ノルンは俺へとそう言いながら、『デジモンツイン』を俺のてのひらにのせる。

 

 

「────()()()()()()()()()()?」

 

 

 そう微笑まれた時、俺は……俺は────

 

 

 

「────ありがとう、ございます」

 

 

 

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 2013年 8月1日

 

 

 

「────準備は大丈夫ですか?」

 

 

 ゲートの目の前に立った俺を、ノルンが最終確認する。

 

「はい、大丈夫です」

 

 俺は今日、この世界を旅立ち元の世界へと戻る。

 

「テト、シン、ムー……ユイ、お前達はどうだ?」

 

 テト、シン、ムーチョモン……じゃなかったユイに声をかける。

 

「────大丈夫だよタイト」

 

「タイトっち、心配いらないっす!!!」

 

「拙者はもう少し……」

 

「────お前は荷物持ちすぎだっ!!!」

 

「────あいてっ!?」

 

 そんなふうに、テトに殴られるユイ……バカな事をしすぎだ。

 

 

「────おい、タイト……これ持ってけっ!!!」

 

 

「────えっ、はいっ!?」

 

 

 そう言われて、とうとう大学生になったツルギさんから何かを渡される……ってこれ、は…………!? 

 

「ゴーグル……勇気の証だろ? 持ってけ、こーはい」

 

 ツルギさんがつけていたゴーグルを渡される。ちょっと照れくさそうに……それでも、俺の行く末の応援のためかゴーグル渡してくれた。

 

「えっ、あっはい、ありがとうございます!!!」

 

 ちょっと戸惑ったけど……俺はそのゴーグルを渡されて嬉しかった。

 

 確かに、主人公を引き継ぐような気持ちになる……期待は重いけど、今の俺なら答えられないわけがない。

 

 

「────タイト、行くよ」

 

 

 そうテトに声をかけられる……いつの間にかユイ達との話し合いは終わったようだ。

 

「……わかった」

 

 ズィートミレニアモンに進化していたテトに乗り込む。

 

 少し寂しい気持ちになるが、6年間過ごしたこの世界を離れる時が来たのだ。

 

「────タイトっ!!!」

 

 ノルンに声をかけられる────振り返るとそこには、

 

 

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 涙ぐみながらも、そう微笑んだノルンがいた。

 

 

 

「────行ってきます!!!」

 

 

 

 

 ────その日、とある世界の昼間に夜空色の流星が流れるのが見える。

 

 

 

「────あれはいったい?」

 

「綺麗だね、アクア」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 

「アイとは連絡取れないの!?」

 

「こっちだってやってる!!!」

 

 

 

「ゴクウモンをやるぞっ、アイっ!!! 

 

「────ぐーちゃん、トドメだね!!!」

 

 

「「『グラントレース』」」

 

 

 夜空は落ちた。

 

 

 この世界のどこかへと降り注いだのだ。

 

 

 次なる物語の為に。

 

 





とあるマンションの屋上

「ーーーーふう、いい加減にして欲しいものですね」

「あら、アケミちゃんがそんな事を言うなんて珍しい」

2人の男女が……いや、片方は女の皮を被った化け物が屋上で話している。

「こちらは葬式が終わってすぐなのですが……そんなことに付き合うと思いますか、リエさん」

白髪が混じった灰色の髪の男は、心底うんざりした顔で化け物を見る。

「『パラダイスロスト計画』……貴方も気になってはいるのでしょう」

「ええ、そうですねえ……気になりはします……でも、」

「ーーーー今の貴方にできるとは思えない」

嘲るように化け物を見る男。
その目には確かな怒りが混じっている。

「ふーん、ではこの話はなかったことにす・る・の?」

化け物も化け物で男を嘲るように見つめた。

「……まあ、一晩考えさせてください」

男は少し諦めたように、そう答えた

ーーーーその時、


「なあ、俺達もその計画を混ぜてくれよ」


「ーーーーなっ!?」

「ーーーー貴様等はっ!?」

彼らの目の前に大きな化け物に乗った、茶髪の少年が現れる。


「ーーーーなあ、いいだろ?」


今後の『あとがき』について(前回忘れていた為)

  • デジモンコーナーを続ける
  • 第1章〜第3章までのに戻す
  • 第四章が終わるまで様子見
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